「よっ、雷牙!お見舞いに来たぜ!」
「うーっす、守。」
ここは稲妻総合病院。稲妻町で最も大きい総合病院であり豪炎寺の父・勝也が院長を務めている。
先日の騒動で気を失っていた雷牙は幸いな事に重篤な怪我はなく当日には目を覚ましたが前回の怪我の件もある為、万が一に備えて検査入院していた。
「どうだ?調子は?」
「絶好調。ゆっくり寝れたおかげで久っ々に夢見たわ。」
「へ〜どんな夢だよ?」
「俺の双子の
「へぇ〜…、ってなんかやけに具体的な夢だな…。」
「ハハッ!俺もそう思う!いつか正夢になるんじゃね?」
「だといいけどなー。」
「あっ、そうだ。結局立向居の手どうだった?」
「あー…、やっぱり折れたみたい…。」
先日のレグルスとの試合、立向居はライトの強力なシュートを幾度となく喰らい極め付けに“ビックバン”まで喰らってしまった。
その一撃が決定打となり立向居の手は骨折。キャラバンからの離脱を余儀なくされた。
「くっそ…。俺がもって早く立ち直れてればこうならなかったかもしんねぇ…、退院したら立向居に謝んねぇと。」
「仕方ないさ、誰にだって怪我はある。それに雷門には
「ハッ、そうだな。だが…、せっかくリベロが板に付いてきたのにキーパーに逆戻りってのもなんか勿体ねぇな。」
「うーん…、でも立向居に匹敵するキーパーは日本にはいないしなー…。」
「…そだな。」
(あっ!やべ!)
キーパーという単語を聞いて何かを思い出したのか雷牙の瞳からハイライトが消える。
円堂はその理由を嫌というほど理解していた。
(でもそうだよな…。雷牙からしたらせっかくお兄さんと再開できたと思ったらヒロトに蹴られて気絶して…。気がついたらライトはエイリア学園から追放されて行方不明なんだから…。…本当は警察に保護されているけど。)
現在ライトは警察に保護されている。目的は当然エイリア学園の情報を聞き出す事だが肝心のライトはレグルスのメンバーが自分の身代わりになった事が相当ショックだったようで魂が抜けたかのように一言も話さないらしい。
「…大丈夫だよ雷牙。ライトは生きてる…そう信じようぜ?」
雷牙は円堂の顔をジッと見る。だがその視線は円堂の言葉に賛同したというよりかは何かを観察している目だ。
「…なあ守。」
「なんだ?…うわっ!?ど、どうしんだよ雷牙!?」
雷牙はベットから飛び起きると顔を近づける。その距離は鼻と鼻と隙間が1cmしか空いてないほどに近い。
「…今から俺の質問に答えろ。別に答えたくなかったら黙秘でも構わねぇ。」
「分かった!分かったから!顔が高すぎるって!」
円堂の同意を得た雷牙は早速1つ目の質問を始める。
「ファースト、“鬼道のゴーグルは絶妙にダサい。”」
「き、鬼道のゴーグルは絶妙にダサい…。」
じっと見つめる雷牙だが円堂の目は泳がない。
「ネクスト。“豪炎寺は妹大好きのシスコン。”」
「ご、豪炎寺は妹大好きのシスコン…。」
またしても円堂の目は泳がない。
「ラスト。“円堂守は俺に隠し事をしていない。”」
「お、俺は雷牙に隠しごとをしていない…。」
その時円堂の目は僅かに泳ぎ雷牙から視線を逸らす。その反応を見た雷牙は円堂が何かしらの嘘をついている事を確信する。
「…守、正直に答えてくれ。ライトは今どこにいる?」
「…駄目だ雷牙。俺の口からは言えない…。」
「…そっか。」
円堂の返答を聞いた雷牙は何らかの事情がある事を察しこれ以上の詮索を控える。
その代わりに入院用の服を脱ぎ捨てると有名スポーツブランド“フーマ”の限定ジャージに着替えストレッチを始めた。
「えーと…、急にストレッチを始めてどうしたんだ雷牙…?」
「…守。俺の代わりに豪炎寺の親父さんに謝っといてくれ。」
「え…?…ッ!?雷牙!そこは!」
雷牙は病室の窓を開けると躊躇せずに飛び降りる。
「おい雷牙!ここは3階だぞ!」
円堂は突然の友の自殺同然の行為に驚き急いで外を見ると雷牙は地面に激突する直前にローリングを行う事で衝撃を柔らげ何事もなかったかのように立ち上がると猛ダッシュで病院の敷地を出た。
「…前々から思ってたけどあいつの運動能力の高さ絶対異常だよなぁ…。もしかしてあいつ本当に宇宙人の子孫なんじゃないか…?」
ペンギンが空を舞い、火の玉が飛び交う超次元サッカー基準でも異常な雷牙のフィジカルに対して遂に円堂も疑問を感じ始める。
果たして彼は本当に宇宙人の子孫なのか…?それを知る者は誰もいない。
♢♢♢
「…どうだ?稲魂雷斗の様子は?」
鬼瓦は部下に現在監視下に置いているライトの様子を尋ねる。だが部下は申し訳なさそうに首を横に振る。
「駄目ですね…、何1つ情報を聞き出せません。昨日から食事も取っていないようですし、このままでは衰弱死してしまう可能性もありますよ…。」
「…そうか。」
ライトはグランとの騒動の後、試合中に見せた明るさが嘘のように暗くなっていた。
目にはハイライトが入っておらず、顔も血の気が引きただでさえ白い肌が更に白くなっている。
鬼瓦としてはせっかく捉えたエイリア学園の最高幹部であるためなんとしても情報を引き出したいところだが彼が変わり果てた理由も理解しているため子持ちの親として彼に強い態度を取れないでいた。
「…ん?何か外が騒がしいな?」
頭を悩ませている途中。取り調べ室にも響くほど大きな声が聞こえる。声の方向からして騒ぎが起こっているのは受付口辺りだろうが、そこからそこそこ離れた取り調べ室にも届く程声がデカい人間はそうそういないだろう。
「ったく…、警察にカチコミをかけて来る人間がこのご時世にいるなんて信じられねぇぜ。声の感じだと相手は1人のようだし他の警官は何してんだ?」
「少し確認してきましょうか?」
「…いや俺が行く。お前は稲魂雷斗を見張っててくれ。」
何かが気になった鬼瓦は部下にライトの見張りを任せ1人受付へ向かう。そこにいたのは…
「だ〜か〜ら〜!!!俺はただ鬼瓦のおっさんに会いたいだけだっつーの!!!」
受付に着いた途端まるで雷鳴の如き大声が80近くの老人の耳に響き渡る。
東京…いや稲妻町でこんな声を出せる人間は鬼瓦が知る中ではたった2人しか存在しない。
「…なんでお前さんがここにいるんだよ…!雷坊…!」
「あっ!鬼瓦のおっさん!やっと会えた!」
鬼瓦は警察署に雷牙がいる事に唖然とする。ライトの願い通り雷牙にはライトがここにいるとは伝えていないし雷門イレブンのメンバーにも口止めさせている。
それにも関わらず彼はここにいる。それは何処からか情報が漏れた事に他ならない。
「単刀直入に聞くぜおっさん。ライトはここにいるんだろ?」
「…誰から聞いた?」
「ハッ!“日本のフェニックス・ライト”の異名を持つ俺ちゃんを舐めんなよ?守の軽い尋問で嘘が分かれば後は簡単に想像が付く。それで?ライトは…今どこにいんだ?」
円堂と肩を並べる赤点組常連であり、未だにIQ100を平均値ではなく最大値と勘違いしている雷牙だが頭の回転だけは非常に早い。
円堂が自分に嘘をついていると分かれば限られた情報の中でもライトの居場所は簡単に想像がついた。
「…知らんな。稲魂雷斗はまだ捜索中だ。他のエイリア学園のメンバーと同じようにな…。」
「嘘だ…!どーせライトに口止めされてんだろ!?そうでなきゃ守が俺に嘘をつく筈がねぇ…!頼むよ鬼瓦のおっさん…!」
雷牙は必死に食い下がるが鬼瓦もライトとの約束を守るために引き下がるわけにはいかない。
「鬼瓦のおっさんも分かんだろ!大切な人を失う辛さを…!」
「ッ…!」
刹那鬼瓦の脳裏に親友であった円堂大介を失った時の記憶が蘇る。
記者だった自分を妻の反対を押し切ってでも刑事の道に進ませたあの忌まわしき事件が。
「…駄目だ。俺からは何も言える事はない。」
それでも鬼瓦はシラを切り続けるしかなかった。
「…あくまでシラを切るつもりかよ…!なら…!」
鬼瓦は覚悟していた。気性の荒い雷牙の事だ、シラを切り続ければ必ず手が出るだろう。
だが鬼瓦は殴られても彼を拘束する気はないし責める気もない。当然だ、魂で繋がった弟の安否が掛かっているのだ。まだ14歳の少年である雷牙の目には自分の事を頭の固い老耄に映っているだろう。
それでいい。拳1発で弟の怒りが収められるなら安いものだ。
…だが雷牙が出た行動は鬼瓦の想像の遥か斜め上をいくものだった。
雷牙は両膝を床に着き、両手も床に置き頭を地面に擦り付ける。
これぞ日本人が誇る最上級の礼・“土下座”であった。
「なっ…!?」
「頼む…!鬼瓦のおっさん…!ライトに会わせてくれ…!たった一度でいいんだ…!ライトと1対1で話がしてぇんだよ…!」
鬼瓦は雷牙を見誤っていた。破天荒・大胆不敵・唯我独尊の擬人化のような男がプライドを捨てて自身に頭を下げているのだ。
彼にとって兄弟はプライドを捨てるには十分すぎる理由になる存在なのだろう。
「顔を上げろ雷坊。俺の負けだ。」
鬼瓦は遂に屈した。
雷牙の兄を思う想いに。プライドすらも捨て去るその覚悟に。
「ついてきな。お兄ちゃんに会わせてやる。」
「…! あんがとう…!おっさん…!」
鬼瓦はライトのいる取り調べ室に雷牙を連れて行く。
しかしそこにライトの姿はなかった。
「なっ…!?」
取り調べ室には複数の鬼瓦の部下達が気を失って倒れている。室内には争った形跡は殆どなく一瞬で気絶させられた事が見て取れる。
「う…!」
「おい!どうした!?何が起こったんだ!稲魂雷斗はどこに行った!?」
「そ…それが…。ここから稲魂雷牙の声が聞こえると…、急に狼狽しだして…瞬く間に我々を制圧して…脱走しました…!」
「んだと…!?」
「も、申し訳ありません…鬼瓦刑事…。」
部下は鬼瓦に謝罪すると人形の糸が切れたように気を失う。
「くっ…!すまねぇな…坊主…!…坊主?」
鬼瓦が後ろを振り向くと既に雷牙の姿はなかった。
♢♢♢
「ハッ…!ハッ…!クソッタレが…!何処に行きやがった…!ライト…!」
警察署を後にした雷牙は稲妻町を走り回っていた。雷牙の中にはまだライトは稲妻町に潜伏している確信があるからだ。
「う〜ん…困ったわねぇ…。」
商店街を通りかかった時、服屋の店員が何やら困り顔をして悩んでいた。
本来今の雷牙にとっては1秒すらも惜しい状況だが、自身の中の直感がライトの行方に繋がっていると告げた。
「どうしたんすか。何やら困っているようですけど?」
「あら雷牙ちゃん!それがねー、万引きにあっちゃったのよー!」
「万引き…?」
「さっき
「…ソイツが置いてった服とかないすか?」
「あるわよー!もしかして雷牙ちゃんの知り合い?もしも会ったら伝えてくれるかしら、今日中に代金を払ってくれれば被害届は出さないって。」
服屋の店員は店の奥から万引き犯が置いていった服を持ってくるとその服は間違いなくライトが着ていたチームレグルスのユニフォームだった。
「…! 間違いねぇ…!おばさん!俺が代金払う!幾ら!?」
「え〜と1万2千ねぇ。」
「…細かいの無いんで2万からでお願いします。」
「は〜い!お買い上げー!」
ライトの服代を払い終わった雷牙はライトの捜索を再開する。
「ね〜見た〜!さっきの女の子めちゃくちゃ可愛くなかった〜!?」
「いやいや!あの子絶対男の子だって!でもめっちゃイケメンだったな〜!私もあんな彼氏欲しい〜!」
河川敷を通りかかったタイミングで下校中の女子高生が先ほど会ったという性別の分からない人間の話をしている。
「なあアンタら!その男の子って金髪のショートヘアーじゃなかったか!?」
「うわっ!?だ、誰君…って稲魂雷牙じゃん!?やばっ!本物!?」
「ウチらと写メ撮ってくれるなら教えてあげるよ〜!」
「オーケー、はいピース!」
雷牙は女子高生達と写真を撮りライトらしき人物が高級住宅街の方へ向かったとの情報を得た。
これにより雷牙はライトが向かっている場所を確信し、トップスピードで走りだす。
♢♢♢雷牙side
「ハァ…ハァ…、や、やっと着いた…!キッツ〜〜…!!!」
走り始めてから20分後、遂に俺は目的の場所に辿り着いた。
前々から思ってたけどなんで高級住宅街って坂が多いんだ?アレか?下々の民を下から見下ろすのが愉悦ってヤツか?
…まあいいや、多分…ここにライトはいる…。だってここは…
「しっかしびっくりする程変わんねぇなぁ…、アレから数年経ってるってのに。」
俺は立ち入り禁止の看板を無視して敷地内を跨ぐ。まあいいだろ、元々俺らの家だし、どのみち未来の俺の家になるんだし。
親父たちが死んだ後、俺は家を出ることを断固拒否したが親父の遺産以外支払い能力の無い俺は家を追い出され現在は売りに出されている状態だ。
だが数年経ってもこの家はまだ売り家だ。何故だか分かるか?
答えは単純、この家が“怪物”・稲魂ステラの家だからだ。まー、びっくりする程高ぇってものあるが、悲劇の天才・稲魂ステラが住んでいた家ってのもあってサッカーファンから聖地扱いされてるせいで買い手がつかないってのが理由らしい。
「おっ!昔書いた落書きまだ残ってる!なっつかしいなー!いやーあの時はお袋怖かったよなー!落書きを怒るんじゃなくて中途半端な落書きをした事を怒ってたっけ。」
そういやライトって天体観測の他に絵を描くのも好きだったな、なんかいつかスターライト仮面の“どーじんさっか”になってみたいって言ってた。
…なんだ“どーじんさっか”って?サッカーの仲間か?
「俺さ…、プロサッカー選手になってバリバリ稼いだらさ、この家を買い戻すのが夢なんだ。…でもこの家って広すぎるよなー、4人家族じゃ部屋はあまりすぎるしいっその事別荘にすんのもアリだな。んでたまに守たちを呼んでさ、みんなでバーベキューをするんだよ。…安心しろって〜!その時もちゃ〜んとオマエも呼んでやるからさ〜!
ライト。」
「……。」
黙りですかそーですか。あんだけペラペラ喋ってた癖に負けたショックで昔のコミュ障に戻ったか?
「…んで。」
「あん?聞こえませーん!もっと大きな声で喋ってくださーい!」
「なんで…、ボクを忘れてくれないんだよ…!こんな惨めなボクを…雷牙に見せたくなかったから…、会いたくなかったのに…!」
惨めねぇ…。確かに今のライトは惨めだ髪はボサボサだし、服は盗むし、警官相手に公務執行妨害はするし、まさに人生ドン底道中って感じだな。
…だから何だ?ライトはライト、それは変わらないだろ?
「誰かに会いに行くのに特別な理由が必要なのかい?まさかオメーは総理大臣にでもなったつもりかよ?」
「ハハハ…、本当に変わらないね…雷牙は…。」
「…ちょっと面貸せよ。薄暗い室内じゃ気が滅入る。」
俺は嫌がるライトを無理矢理引っ張って庭に出た。
♢♢♢
「よっ!ほっ!はっ!懐っかしいよなー!ライト!昔はここでよくPKしてたよなー!」
庭に出た雷牙は隠し持っていたサッカーボールを見事な足捌きでリフティングしている。
だが未だにライトの表情は暗いままだ。
「ハァ…、まるで死人だなせっかく生きてるってのに。そんなに禊が欲しいのなら1発ぶん殴ってやろうか?」
「…殴りたきゃ殴ってよ。ボクはやり返さないしやり返す理由もない…。」
「
「…お願い雷牙…、ボクを殴って…、もう今にも心が押し潰されそうなんだ…。サッカーを悪いことに使って…、雷牙も傷つけて…、友達の命を奪ったボクに…!生きてる価値なんか…「バカヤローーー!!!」ぐはっ!?」
自身の存在を否定仕掛けるライトに雷牙は思いっきり蹴りを入れる。ほんの1秒前に殴らないと言ったばかりなのに。
「えっ…?今もう殴らないって言ったじゃん…?」
「ハァ?今のは“蹴り”だろ?殴らないとは言ったが蹴らないとは言ってないぜ?その証拠に英語でも殴るは“パンチ”、蹴るは“キック”で区別されてるじゃん?ドーユーアンダスタン?」
「ずっる…。」
完全に雷牙に論破されライトは悔しがるがその瞳には僅かに光がともっていた。
「…オメーはそんなに俺の前から消えたいのか?」
「…うん。今すぐにでも。」
「…だったらこういう時、俺たちが取る手段は1つだけだな。」
「…そうみたいだね。」
ライトは立ち上がると懐からキーパーグローブを取り出し手に装着する。
雷牙は“稲魂ステップ”を行い気持ちを戦闘モードに切り替えるとライトを力強く見つめる。
「ルールは一本勝負!シンプル・イズ・ベスト!俺が負けたらオマエはもう何処にでも行きやがれッ!!!」
「こい…!雷牙…!」
雷牙はボールを軽く空へ上げると目にも止まらぬ速さでニ連撃を叩き込む。すると彼の背後に金色の獅子が出現し雷鳴の如き咆哮を天に捧げる。
「“超 キングレオーネ”!!!」
レグルスとの試合で“神”の領域まで到達した“キングレオーネ”だったがアレはどうやら一時的な進化だったようだ。
「スゥ… “ゴッドハンド・レオーネ”!!!」
ライトは“正義の鉄拳”に酷似したモーションで拳を突き出すと“ゴッドハンド”は翡翠色の獅子へと姿を変え一瞬にして黄金の獅子を喰い殺す。
「んな…!?」
「…またボクの勝ちだね雷牙。…バイバイ。」
勝負に勝ったライトは雷牙を尻目にその場から立ち去りもう二度と最愛の弟に会えない事実に涙を浮かべる。
だが…
「…だったらこういう時、俺たちが取る手段は1つだけだな。」
「……は?」
まるで時間が巻き戻ったの如く再びライトの前に立ちはだかり勝負前と一言一句同じ台詞を放つ雷牙に対し、ライトは唖然とし背後に宇宙が広がる。
「…もう勝負はボクの勝ちで終わったよね…?」
「ハ?まだだけど?」
「いやでも…、ボク雷牙のシュート止めたじゃん…。」
「んじゃあルールをもう一度言ってみ?」
「…雷牙が負ければボクの自由…アレ?」
ここにきてライトは雷牙が仕込んだ巧妙な叙述トリックに気づく。
そう。雷牙は自身の敗北条件を一切明示してないのだ。勝利条件があやふやなままPKを承諾したライトは既に雷牙の術中に嵌っていた。
「…それは反則でしょ?」
「だったらテキトーにはいはい返事しねぇ事だな。YESマンの人生はつまらないぜ?」
雷牙は再び戦闘体制に入りドリブルを始める。ライトは観念し雷牙が自ら負けを認めるまでこの勝負に付き合うしかなかった。
≪数時間後≫
「ゼェ…ゼェ…!」
「ハァ…ハァ…!」
勝負を始めてから早数時間後、まだ時間は日没前だが空は薄暗い。日食か?いや違う。空は分厚い雲に覆われて太陽を隠しているのだ。
しかも運の悪い事もポツポツと空から雫が落ち始め瞬く間に大量の水滴が雷牙達の身体を濡らした。
「…もういいだろ…!雷牙…!」
「まだだ…!俺はまだ負けてねぇ…!オマエの方こそ…俺が“諦める”ことを“諦めろ”…!」
「〜〜!!!いつもそうだ雷牙は!そうやってむちゃくちゃな理論を振り翳してみんなを振り回す!それがどれだけ迷惑かかってるか考えたこともないの!?」
あまりの雷牙のしつこさに遂に堪忍袋の緒が切れたライトは怒りを爆発させ日頃から感じていた雷牙の不満をぶちまける。
「むちゃくちゃだぁ?言っとくが俺の思想は世界の真理だぜ?0.1%でも勝機があんならそこに向かって突き進む…それが俺だッ!!!そもそもライトオメェもなぁ…」
そこからは最早ただの兄弟喧嘩だった。まるで心の蓋が壊れたかのように次々と本音を言い合う兄弟。
その度にライトは涙を流しながら雷牙のシュートを止め、雷牙はその衝撃により吹き飛ばされる。
「本当にもうやめて…!ボクが1番大切なのはキミなんだよ…!雷牙…!」
「…かった!」
「え…?」
「だったら何で戻って来なかったっ!?」
「それは…!」
「俺はずっと待ってた…!みんなの葬式の日…!オマエだけ遺体が見つかんなかって聞いた時…!俺はもしかしたらオマエが生きてるかもって思ったんだ…!でも来なかった…!待ってたのに…!信じてたのに…!」
雷牙はレグルス戦で見せた時以上に大粒の涙を流しながら語る。弟の涙を見たライトは辛そうに、そして申し訳なさそうに答える。
「帰りたかっさ…!でも…
記憶をなくしてたから…!」
「んだと…!?」
「事故に遭ったあの日…、ボクは奇跡的に助かった…。でもそのショックでボクはパパも…ママも…そして…雷牙の記憶も失った…!ずっと苦しかった…、ボクのココロに穴が空いているような空虚感が…!」
「ライト…。」
「でも…数ヶ月前…、覚えてるよね…?キミがFFで優勝したあの日…。」
「ああ…。」
「あの日…、なんでその試合を見たのか分からない…。でも何かに導かれるようにボクは試合を見てた…その時…。」
『『“ファイアトルネードDD”!!!』』
「あの時…全部の記憶が蘇ったんだ…、みんなの記憶が…。でも…気づいた時には全部遅すぎた…。優しかった
「……。」
「ボクは急いで瞳子姉さんに連絡して協力したんだ…。父さんを止めるために…そして雷牙…キミを守るために…。」
「俺を…?」
「ジェミニストームの襲撃によって…、キミが昏睡状態に陥ったって聞いた時…、目の前が真っ暗になった…。だから…キミを助けるために…エイリア石を持ち出して…なんとか治したんだ…。」
「…そうか。目を覚ました時…なんか懐かしい匂いがしたと思ったら…オマエだったんだな…、ライト。」
「でも…!ボクのせいでレグルスのみんなが殺されるっ!!!もうこうなったら方法は1つしかない…!」
「なんだよ…それ…?」
「…父さんを殺す。ボクの手で。」
力強く宣言するライトだがその目は父を殺害する不安と罪悪感に染まっている。
誰がどう見ても父を殺す事はライトの本心ではない事は明らかだ。
「…それが何を意味するか分かってんのか?」
「分かってるさ…!でも…やっぱり間違ってる…!サッカーを…!父さんが大好きだったサッカーをこんなことに使うのは…!」
雷牙は目を閉じる深く深呼吸する。自分が絶対に負けないという確固たる意志を持っているようにライトも父を殺して戦争を止めるという決意を固めている。
もうこうなれば言葉での説得は不可能だ。ならば雷牙がとる行動はただ1つ。
「…いやあと1つ道はある。」
「え…?」
「ジェネシスをぶっ倒してエイリア皇帝の目を覚まさせる…!」
「…雷牙、悪いけどそれは絶対に無理だよ…。ジェネシスは福岡でキミと戦った時とは比較にならないくらい強くなってる…。昨日のグランとの戦いでキミも分かってるはずだろ…?」
ライトの言う通り雷牙も理解していた。恐らく万全の状態でグランに挑んでも結果は同じであった事は。
それほどまでにグランの実力は雷牙よりも一歩も二歩も上を行っていた。
だがライトは忘れている。雷牙は常に格上相手にも力を合わせる事で打ち破ってきた。
それは…今回も例外ではない。
「最後の勝負だライト…!この勝負でオメーが俺のシュートを止めればオマエの勝ち…!父親を殺すなり好きにしやがれ…!だが…!俺が勝ったら…、オマエは
「ボクが…雷牙たちの仲間…に?無理だよ…、だってボクは敵なんだよ…?」
「関係無ェ!!!オメーは知らねぇかもしれねぇけどよぉ、何人かは元々雷門の敵だったんだぜ?特にアフロディなんてFF決勝の時はマジで殺意が湧いたしよぉ…。…でも今はみんなと一緒にサッカーできてる。きっと…雷門ならオマエを受け入れてくれるさ。」
雷牙はニカッと明るい笑みを見せる。その笑顔を見たライトは雷牙の言葉に嘘偽りがない事を確信する。
「…そんなにいいチームなんだね、雷門は。」
「ああ。最っ高のチームだ!」
「…じゃあ、最後の勝負にしようか雷牙…!」
「応ッ!ハァァァァァ!!!」
雷牙とライトは同時に気を最大まで高める体力のオーラを放出する。オーラは次第に形を作り各々が抱く英雄の姿を形成する。
「“雷鳴の覇王 レグルス・マキシマムゥゥゥゥゥ”!!!」
「ハァァァァァ…!!!“雷星拳牙 レグルスッ”!!!」
“レグルス”の名を2人の英雄が顕現する。だが各々が抱く英雄の像は綺麗なほどに対照的だ。
「…でもキミが1番分かってるでしょ…?キミの“レグルス”じゃ、ボクの“レグルス”を破れないって…。」
ライトの言う通り、最終的に勝負を制したのは雷門だが彼らは単体では一度も“レグルス”を破れていない。
豪炎寺と一か八かの化身合体を試みてようやく破る事に成功したのだ。ならばこの場に雷牙しかいない今、ライトの勝利は確実だ。
だがこの男は過去の事実さえも鼻で笑い飛ばす。
「ハッ。偉くなったよなぁライト。小学生の頃、クラブの上級にいじめられる度にやり返してやったのはどこの弟だぁ?」
「…それは昔の話でしょ…?今のボクはもう違うんだよ…。」
「分かってんじゃねぇか。そうだ、泣き虫だったライトも、ひとりぼっちだった俺も…全てはもう過去の事だ。今更掘り返したって何も意味もねぇ…、それを俺は昨日の試合で理解した…。」
「じゃあ…!」
「だがなぁ…!!!人ってのはなぁ!!!常に前に進んで行くんだよっ!!!それが例え牛歩でも前に進んだ時点で全てが過去になるんだ!!!」
化身を発動した雷牙は更に気を高める。
ライトは思う。まさか“獅風迅雷”でも使うつもりなのだろうか?と。だが化身との同時併用は身体の負担があまりに大きすぎる。ましてやまだ病み上がりの身体では尚更だ。
「やめて雷牙!それ以上無理をしたら身体が壊れちゃうんだよ…!?」
「やかましいッ!!!」
「!」
「よく見ておけライトォ…!今から俺は…!200年の壁すら超える…!!!」
「何を言ってるの雷牙…?」
雷牙の発言の意図が分からなかったライトだが、すぐに彼の異変を察知する。
先ほどまで筋骨隆々の英雄像を描いていた雷牙の化身は次第に形が崩れ出し紫のオーラへ戻っていく。
普通なら体力切れによる強制解除と思うところだがオーラは雷牙の身体に戻るのではなく雷牙の身体に
「ウォォォォォォォ!!!アームドォォォォォォ!!!!」
「うわっ…!?」
突如雷牙に稲妻が落ちたと思わせる程に眩い光が周囲を包むとライトは驚愕する。
先ほどまでいた英雄の姿は既になく、代わりに雷牙の身体は“覇王”の意匠が施された黄金の鎧を身に纏っていた。
だがまだこの技術は未完成のようで所々紫のオーラがこびりついているだけの箇所がある。
それでもだ。雷牙は宣言通り超えてみせたのだ、200年の壁を。
「なんでだよ…!なんでなんだよ…!なんで…なんでこんな
「……。」
「だってそうだろ!?原理は分からないけど…その技術は化身を身に纏ってるんだろ…!?そーゆーには普通ラスボス戦で覚醒するもんなんだよ…!なのに…、なんで…ボクなんかとのただのPKで到達しちゃうんだよぉ…。」
ライトの目から涙が溢れる。だがこの涙が何に対するものなのかは本人にも分からない。
軽々と限界超える弟に対する嫉妬か?
それとも存在価値のない自分に全力でぶつかってくれる弟への感謝か?
その答えを握っているのはライトではなく雷牙だ。
「オマエは太陽だライト。」
「…え?」
「んでもって俺は月。この意味が分かるか?月ってのは太陽の光がなけりゃ輝けない。俺も一緒だ、オマエが俺よりずっと強いから俺は何度でも自分の限界を超えられるんだ。」
「ボクが…いるから…。」
「…行くぞ!ライト!」
「…うん!こい!雷牙!」
化身アームドした雷牙は限界超えたスピードで地面を蹴りその肉体に王者の魂を宿らせる。
「“キングレオーネェェェェェ”!!!」
未知の技術により放たれたシュートを前にライトは怯えるのでも恐怖を感じるのでもなくただ笑っていた。
弟が自分の為に限界を超え全力でぶつかってくれている事に喜びを感じながら。
「“スターダストブレイカァァァァァァ”!!!」
黄金の拳が“獅子”を捉えるが完全に力関係は逆転していた。
「グギギギ…!」
黄金の拳は徐々に押し返され獅子の牙は“レグルス”の心臓を食い破った。
「グァァァァァァァ!!!」
ボールはゴールラインを割りゴールネットのないゴールを通り抜けて遥か遠くまで飛んで行く。
それを見た雷牙は化身アームドが解除されると力強く宣言する。
「俺の…勝ちだ…!ライト…!」
♢♢♢
「も、もうダメだ…!一歩も動けねぇ…!」
「ぼ、ボクも…。」
何百もの敗北の後に漸く1勝を掴み取った雷牙はまたしても体力を使い果たしライト共に仰向けで寝転んでいた。
既に雨雲は消え去り真っ暗な空には満点の星空が所狭しと輝いている。
「…星が綺麗だね。」
「ああ…同感。」
「「……。ぶっ!アッハッハッハ!!」」
泥だらけになった互いを見た2人は笑い合う。彼らの姿はどこからどう見ても仲の良い兄弟そのものだった。
「…ねぇ雷牙。」
「んだよ?」
「…ただいま。」
「…おかえり、ライト。」
ライトと雷牙は力強いハイタッチをし、星空に軽い音が響き渡る。
この瞬間、複雑に絡み合っていた兄弟の因果は再び交差し本当の意味での再開を果たしたのだ。
今回雷牙が使用した化身アームドですが、アレが成功したのは根性と時空共鳴現象によるものなのでジェネシス戦では使えません。
あと立向居はレグルス戦で離脱です。ジェネシス戦での彼の活躍を期待してくださった読者の皆様には申し訳ありません!彼の活躍は世界編にご期待ください!
【ちょっとした余談】
Q:なんでFF決勝戦でライトが三途の川にいたん?後付けか?
A:後付けじゃなくてイナヒロ構想時から決めてました。世宇子戦で雷牙が三途の川を渡りかけた時会ったのはライトであってライトじゃないです。というのもあの時点ではライトはまだ記憶喪失でした。作者の解釈としては魂は記憶と密接に結びついている存在であるため記憶喪失の時点でライトの魂は死んでるも同然でした。
しかし肉体は生きているためあの世にも行けずに三途の川で待機していたところに雷牙が訪れたんです。
Q:なんで“雷帝”の本名とアケボシの名前が同じなん?
A:ライトにとってアケボシという単語は記憶喪失になっても記憶の片隅に残る重要な単語です。次回を見ればなんとなく察せます。
Q:なんでアケボシは新入り扱いされとったん?
A:飛行機事故が起こった旅客機は吉良財閥が運営する航空会社であった為事故の立ち会いに星二郎が立ち会った際に奇跡的に生きていたライトを見つけました。
ですが事故の後遺症によりライトの身体中に大火傷が残り記憶も失ってしまいました。そんな彼を不憫に思った星二郎はお日さま園ではなく自宅でライトを育てていました。
その為エイリア学園のメンバーはある1人を除いてライトもといアケボシの存在を知らなかった為、アケボシの事をエイリア石で洗脳した稲魂雷牙だと勘違いしていました。
あと余談ですがアケボシがマスクを付けていたのは正体を隠す以外にも火傷がトラウマになり素肌を外に出せなかったという裏設定があります。(火傷跡自体は手術により完治しており、トラウマも雷牙に正体を明かす際にしれっと克服した。)