『時は来ました。』
雷門イレブンとジェネシスとの決戦が勃発すると思われたが、彼らの衝突を止めたのはまたしても老人の声だった。
「この声は…さっきの…。」
「お父さん…!」
現れたのは大仏を思わせる温厚な顔つきに和服を着た小柄な男性。彼こそが本騒動の黒幕であり瞳子の実の父である吉良星二郎その人である。
「なんだぁ?エイリア皇帝だっていうからどんだけゴツいヤツかと思ったらただのおっさんじゃねぇか。」
「気を抜くなよ稲魂。ああ見えて吉良星二郎は巧みな話術と取引で自身の会社を財閥まで成長させた傑物だ。その界隈では“怪物”の名で呼ばれている。」
「“怪物”ねぇ…。」
雷牙と鬼道の会話が聞こえていないのか、はたまたわざと無視しているのかは定かはではないが星二郎は言葉を続ける。
『日本国首脳陣の皆様、よくおいでくださいました。今日はあなた方にとあるプレゼンテーションをさせていただきます。』
「プレゼンテーション?てか日本国首脳陣って何だよ?そんなヤツらどこにもいねぇぞ?」
雷牙が疑問に思ったのも束の間。星二郎は指を軽く鳴らすとスタジアムの頭上に数十個のホログラムが出現する。
その画面の奥には財前総理をはじめとした日本政府の重鎮達の姿が映し出されている。
『さて…、まずはこの映像をご覧ください。』
星二郎が指示を出すと新たにホログラムが出現し、かつて行われたジェミニストームの蹂躙が映し出された。
『もう知っている方も多いでしょうがエイリア学園が抱えるセカンドランクチーム・ジェミニストームにて多くの学園が破壊・蹂躙されてきました。』
まるで他人事と言わんばかりの口調で淡々とプレゼンを進める星二郎の態度に雷門イレブン達は怒りを隠せない。
『ですが彼らは所詮セカンドランクチーム…つまりエイリア学園の中で最も身分の低い使い捨ての兵隊でしかないのです。…そんな彼らですらこの強さなら果たして最強チーム・ジェネシスが日本を制圧しようと思えば自衛隊は何時間持つのでしょうねぇ?』
星二郎は財前総理を暗に脅す。
最弱のジェミニストームでさえも雷門以外誰も歯が立たない強さを持ち警察ですらも手が出せないでいた。
幸いな事にエイリア学園はサッカーでの侵略に拘っていた為に雷門イレブンの活躍によってギリギリの所で戦争は免れていたがそんな彼らすらも超えるジェネシスが本気で日本制圧しにかかればどうなるかは火を見るより明らかだ。
『ハハハ!冗談ですよ今のはね。ですが…この力を諸外国に向けたらどうなるでしょう?1日経たずに日本を侵略出来る彼らなら世界を滅ぼす事も可能なのです!どうでしょう財前総理?吉良財閥の最新にして最高傑作の兵器、ザ・ジェネシスと手を組む…私はそんな未来を望んでいます。』
所々に甘い言葉を挟んいるが、つまりは星二郎は財前総理にこう言いたいのだ。
『世界征服の為に自分と手を組め。拒否すれば最初に滅びる国は日本である』と。
『クッ…!』
リーダーシップに優れる財前総理も眉間に皺を寄せて考え込む。彼の名誉の為に言うなら財前総理は別に世界征服がしたいわけではない。
だが事実上、彼は世界の命運か日本国民の命というあまりに重すぎる人質を取られている状態なのだ。
そのような状況の中で即座に答えを出せる人間は“過去”・“現在”・“未来”においても存在しないだろう。
『分かっていますよ総理、確かにこの提案はあまりにアンフェアです。だから貴方に時間をあげましょう。雷門イレブンとジェネシスの試合が終わるまでね。答えを出すのはそれからでも遅くありません。』
星二郎は分かっていたのだろう。財前総理は絶対に答えを出せない事を。
だからこそジェネシスが雷門に勝つ様を見せる事で日本にはジェネシスを止められる者は誰もいないと証明させるのだ。
それだけ自信があるのだ。チームジェネシスは誰にも勝つ事の出来ない最強のチームであると。
『…分かった。試合が終わるまでに結論を出すと約束しよう…。』
『ありがとうございます総理。では…』
そう言い終わると星二郎の姿が一瞬にして消える。どうやら今までプレゼンを行なっていた星二郎は本体ではなくホログラムによって映し出された幻影だったようだ。
「さてと…、それじゃ初めようか円堂君。俺達のサッカーを、そして…大切なものを守る為の戦いを。」
グランはサッカーボールを手に持ち円堂に試合を始めるように促す。だが円堂は何故か俯いたままだ。
「…かよ…!」
「…聞こえないな。」
「それがお前の本当の気持ちなのかよ…!父親に命令されただけでたくさんの人を傷つけて!サッカーを悪いことに使おうとしてる!そこにお前の気持ちはどこにあるんだ!?それがヒロトがやりたい本当のサッカーなのかよ!?」
円堂は父に命令されるがままに行動するグランに抗議の言葉を送る。だがグランは表情を一切変えずに円堂に問いかける。
「ねぇ円堂君。君には父さんと母さんがいるだろ?」
「いる…!俺の大切な母ちゃんと父ちゃんだ…!」
「俺にはね、そんな
「えっ…。」
「俺の本当の名前は“タツヤ”、実の両親が唯一俺に残してくれた名前だ。でもね俺は“タツヤ”って名前がどんな漢字なのかさえ知らない。当然さ、だって教えられる前に捨てられたんだからね。」
「くっ…!」
「でも父さんは違う!父さんは俺を心の底から愛してくれた!俺に“ヒロト”という名前もくれた!俺はその時心に誓ったんだ、父さんが望むならなんにでもなると!鬼にも、悪魔にも、そして…侵略者にでも!」
「そんな…!」
「円堂君。君に分かるかい?捨てられた者の辛さが。」
「……」
短い。だが端的に伝えられるグランの壮絶な境遇に円堂は言葉を失ってしまう。
円堂は悟る、グランと自分ではあまりに境遇が違いすぎるのだと。
自分には愛してくれる両親がいる。だがグランはどうだ?幼い頃に両親から捨てられ愛する者もいないまま育ってきた。
そんな彼にとって父さんと呼び慕う吉良星二郎はグランにとって命を差し出しても構わない程に特別な存在なのだと。
「改めて言おう!この世界は腐っている!自分の事しか考えない身勝手な大人に虐げられる弱者はごまんといる!だからこそ、この世界は変わらなくちゃいけないんだ!その為に父さんは僕達にこの名を授けてくれた!悪しき体制を滅ぼし新たな世界を作る神…“
俺は…勝てるのか?ヒロト…いやグランの
グランの演説を聞いた円堂の目の前は真っ暗になる。円堂のIQではグランの演説の意味の全てを理解する事は出来なかったがそれでも彼がこの試合に掛ける狂気とも言い換えられる想いは100%伝わった。
だからこそ考えてしまう。ただサッカーが大好きだから戦う自分と父の為に明日すら捨てる覚悟を持つグランとの想いの差を。
戦う前から気持ちで負けかける…そんな経験は円堂にとって初めての事だった。
「ったく。子は親に似るって言葉があるがまさにその通りだな。演説が無駄に長ェとこもそっくりだ。」
「雷牙…。」
「顔を上げろ守、俺はオマエの意見を支持する。あんなファザコン赤髪のクソみてぇな詭弁に騙されんな。」
「…俺の思想に異議があるのかい?稲魂雷牙。」
「大アリだ。だって俺も小っせぇ頃に親を亡くしてるんだからなぁ、しかも2回も。」
『雷牙も幼い頃に実の親を亡くしている。』その言葉を聞いた時、グランの眉が僅かに動く。
「前の姓の親は大して思い入れもねぇからどうでもいいが、二度目の時はそりゃあ絶望したさ。絶望しすぎて自殺だってしようとした。」
「雷牙…、本当にごめんね…。」
「だけどなぁ…、俺にはみんながいた!仲間がいて…、友達もいて…、サッカーがあった!だからこそ俺は何度でも立ち上がれてこれたんだ!それに対してテメェはなんだ?大仏のおっさんだけが俺を愛してくれた?だからおっさんの為なら殺人鬼にもなれる?ふざけんじゃねぇよ、俺からすりゃあテメェは絶望のあまり思考を放棄しただけだ。その理由づけに親父を利用してる負け犬でしかねぇんだよ!」
義父の操り人形となったグランの境遇が余程の力で雷牙の中の地雷を踏んだのだろう。
雷牙は怒りを爆発させグランに強く異議を唱える。
それに対してグランは…
「フフフ…ハハハ…アーハッハッハッハッ!!!」
笑い出した。ただ笑うだけじゃない。まるで喜劇を見ているかのように盛大に笑った。
「ハー…、本当に面白いなぁ雷牙君は。でも…おかげで
「あん?何にだ?」
「俺はさライト、君の事をずーっと親友だと思ってたんだ。父さんに会いたいがあまりに屋敷に忍び込んだ時にたまたま出会った君と仲良くなってさ…それから父さんの屋敷に行くのは俺にとって人生の楽しみの1つだった。君と話している時だけは心の底から生きてるって思えてたんだ。」
「違うよヒロト!ボクはまだキミのことは親友だって思っ「でもさ。」ーー!?」
「同時に違和感も感じてたんだ。記憶がなくても包帯の奥から僅かに見える瞳には光があった、親に捨てられた俺には一生得る事の出来ない光が。」
その時、初めてグランの顔が感情によって歪む。その表情が表しているのは『哀』の感情だった。
「雷牙君の言葉を聞いて確信した。ライト、俺はね本当は君の事が…
心の底から嫌いだったんだって。」
「え…?」
あまりに救いようのない言葉がライトの心を突き刺す。
「そりゃあ目に光があって当然だよね。だって君は魂で遠くにいる雷牙君と繋がっていたんだから。俺達は根本的な所が違っていたんだよ、親に愛された君と親に捨てられた俺とではね。」
「…あ…あ…。」
「…お別れだライト。俺と君は最初から出会うべきじゃなかったんだ。もうこれ以上俺の顔を見たくないのなら今のうちに円堂君と交代するといいさ、誰も責めやしない。」
そう言って立ち去ろうとするグランだったがその身体は微かに震えていた。
その時だった。
「ウォォォォォォォ!!!」
突如稲妻を思わせる大声がグラウンド中に響き渡る。
声の主は雷牙か?
そう結論づけた雷門イレブンは一斉に雷牙の方を向くが本人は『俺はまだやってない』と言わんはがりに手と顔を振り否定する。
ならばこんな声を出せるのは雷門…いや世界にあと1人しかいない。
『円堂!』
「もうあーだーこーだ考えるのはやめだ!俺がやるべきなのはただ1つ!サッカーだけだ!!!」
ようやく全てが吹っ切れた円堂は再び目の中にある闘志の炎を燃やしグランに宣戦布告を行う。
「ヒロト!俺は絶対にお前たちに勝つ!そして教えてやる!サッカーは憎しみをぶつけ合うスポーツじゃないってことをな!」
円堂の言葉を聞いたグランは一瞬だけ呆気に取られた顔をするとすぐに表情を元に戻す。
「フッ、楽しみにしてるよ。円堂君。」
グランは僅かに口角を上に上げ仲間の元へ戻る。時を同じくして雷牙は項垂れるライトを無理矢理立ち上がらせ前を向かせる。
「見たか?ライト?アレが円堂守だ。」
「円堂…守…君…。」
「確かに強い風に吹かれれば火は小さくなっちまう。でもアイツの火種は絶対に消える事はねぇ!何度消え掛かってもその度に火を大きくして立ち上がる!だからこそ、俺はアイツに背中を任せたんだ!」
「…何度でも立ち上がる…。」
「それにさ…昔親父も言ってただろ?『中途半端に喧嘩するんじゃなくて全力で喧嘩しろ、そうしなきゃ心に秘めた本心は出てこない』ってさ、…それが今なんじゃねぇか?」
「…雷牙。…分かった!やるよ!ヒロトと思いっきりの喧嘩を!そして仲直りするんだ!」
「ヘッ!その意気だぜライト!最強の兄弟コンビと言われた俺たち…そして雷門の底力をアイツらに見せてやろうぜ!!!」
「ああ!」
親友の過去と罪を受け入れた上で彼にサッカーの楽しさを教える決意を固めた円堂。
親友に拒絶されながらもサッカーを通して再び分かり合う為に戦う決意を固めたライト。
2人の決意は仲間達にも伝播し雷門イレブンの心を1つにする。
今ここに両者の未来を賭けた最終決戦が幕を開けたのだ。
本当は今回中にジェネシス戦に入る予定だったんですけど星二郎とヒロトの演説で文字数使いすぎちゃったんで次回に回します。