ちなみにワンダバードは掌に収まるサイズのデフォルメされた八咫烏、ワンダキャットはバードよりも少し大きい程度の2本の尻尾を持つ白い子猫みたいなイメージです。
ワンダバード「ミ゛キ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛〜〜!!」
『警告!警告!コレ以上ノ抵抗ハ止メナサイ!繰リ返ス!コレ以上ノ抵抗ハ止メナサイ!』
愛嬌のあるデザインからは想像も付かないバードの汚い高音と、お世辞にも実用的とは言えないドレッドヘアーを一つに纏めたような頭部を持つロボットの軍団による私達への警告が周囲に響き渡る。
ワンダバード「もうダメだ〜!僕たちの人生はココで終わりなんだ〜!捕まったあとはバラバラにされて焼き鳥にされちゃうんだ〜!僕は食べても美味しくないのに〜!」
ワンダキャット「お兄うっさい!弱音を吐く暇があるなら手を動かす!」
普段は怠けるキャットをバードが叱るのがデフォルトの展開ですが、今回に関しては完全に立場が逆転してますね。
こんな切羽詰まった状況でこんな事を言うのもアレですが、キャットにも緊迫した状況だと普段のキャラが崩れるくらいには人間味がある事は、創造主兼主人として嬉しく思いますよ。
『警告!警k(パンッ!!!)ピー…』
雷冥「フゥ、コレで一体撃破ですね。残るは…」
『『『警告!警告!』』』
雷冥「…30体くらいですか」
さて…。画面の前に皆様には、何故私達が大量のロボット兵士達と大立ち回りを演じているのかを説明しなければなりませんね。
そう…アレは数時間前の事です……
<数時間前>
雷冥「取り敢えずは現状の確認からです。バード、本部に緊急応援用の信号は送れましたか?」
ワンダバード「は、はい!秘匿性の高い電波で送ったので犯人に傍受はされていないと思います!多分!恐らく!きっと!」
恐らくこの世界の何処かに居るであろう謎の人物からの妨害により、本部に帰る手段を失ってしまった私達は、私の身分証に搭載されたGPSと、緊急事態専用の信号に全てを賭けた後、調査の一環として市街地を散策していました。
エージェントとしての活動歴がそれなり以上に長い私は、独裁者によって支配された並行世界を見慣れている自負はあります。
…それでも、この世界の秩序は端的に言って“終わっている”としか言いようがありませんね。
「よっしゃァァァァ!!!俺達が勝者だァァァァ!!!」
「あ、ああ…!負けた…もう何もかも終わりだ…!」
この世界の絶対的な秩序である“サッカー”…。使用される道具も、適用される
ただ一つ…私の認識と異なるモノがあるとすれば…。
『敗北ヲ確認。コレヨリ敗者ヲ下層部ニ放逐シマス』
「や、やめてくれ…!下層部は…!あの地獄に行くのだけは嫌だ…!」
この世界に足を踏み入れてからまだ数時間も経っていない私には、“下層部”とやらがどのような場所であるかは知りませんが、連行者の足掻き様と彼らの口から発せられた“地獄”の二文字から察するに、ロクでもない場所である事だけは確実でしょう。
ワンダバード「酷い…。たった一度負けただけで終わりだなんて、こんなのってあんまりだよ…!」
ワンダキャット「…見てて胸クソ悪い」
国家としては終わり散らかしているこの世界の“常識”に怒りを覚えたのでしょう。バードは怒りのあまり小さな身体を小さく震わせ、キャットは無表情を貫いているように見えて僅かに眉間に皺を寄せています。
少なくとも私の知る彼女のオリジナルならば、既にこの世界に適応してそうなモノですが…。
雷冥「…この場を離れますよ。今は少しでもこの世界の情報を集めるべきです。くれぐれも目立つような事だけはしないように」
ワンダバード「…はい」
…分かっていますよバード。私とて彼らが“地獄”に連れて行かれる様を見るのは不快です。ですが、今の私が最も避けなければならないのは、国家権力に身柄を拘束される事です。
あそこまで高度な自立式ロボットを実用化・量産出来ている世界です。恐らく、脳から記憶を抽出するくらいの技術力はあるでしょう。ハンドレッドNo.Sである私には多くの機密情報を持っています。下手に記憶を抜かれてしまえば、他の並行世界へ進出する足掛かりになりかねません。
故に今私が為さなければならないのは、本部より救援が来るまで目立った行為はせずに、淡々とこの世界の調査を進める事。それ以上でもそれ以下でもありません。
雷冥「先ずは図書館に該当する場所に赴き、この世界の歴史を調べましょう。如何にサッカーが全ての世界であっても、『図書館の中ではお静かに』は不文律でしょうからね」
こうして図書館へ向かう事を決めた我々は再び歩みを進めます。そのついでに周囲の建造物を見回しますが、やはりこの世界の科学力は非常に発展していますね。少なくとも科学力は私の時代よりも遥かに上でしょう。
雷冥(…しかし、ココまで発展した並行世界が急に現れるなどあり得るのでしょうか…?)
本来並行世界とは、AもBのパターンであってもゆっくりと時間を掛けて生成されるモノです。『世界創造5分前説』のようにポンと並行世界が発生するワケではありません。
雷冥(つまり何者かが意図的に時空管理局に見つからないように隠していた…?…いや、だとしたら何故このタイミングで観測されたという疑問が残る…)
…駄目ですね。黒幕の目的を考察するには情報が少なすぎます。やはり暫くは図書館あたりで情報収集を続けるのがいいでしょう。
???「フーマ!しっかりしろフーマ!今助けてやるからな!」
すると、私の視界の外から何やら切羽詰まった様子の少年の声が聞こえてきました。
気になった私達は声の方向を見ると、そこには見窄らしい恰好をした少年が機材置き場にある木材の間に挟まった子犬を助け出そうと奮闘していました。
ワンダバード「…酷いですね。あんな誰かが困っているのに誰1人手を貸さないなんて…」
元より興味がないのか、それとも弱者に手を貸す心の余裕さえないのか。
そこそこ居る市民達は誰1人例外なく、少年の存在を認識していないかのように無視を続け、光の灯っていない虚な目で淡々と歩いているだけです。
雷冥「ハァ…仕方ありませんね…。あまり好ましくないですが、手を貸すとしましょう」
本来エージェントは現地民と深く関わるのはタブーですが、777から多少の越権行為は許されるとの言質は取ってありますし、少し手を貸すくらいなら問題ないでしょう。
ワンダキャット「あ。ちょっとマズいかも」
雷冥「? 何がです?」
???「うわぁぁぁ!?」
少年が無理矢理子犬を引っ張り出そうとした事が悪手だったのでしょう。絶妙なバランスで立て掛けられていた木材の均衡が崩れ、重力に導かれるがままに少年に襲い掛かりました。
雷冥「…仕方ありませんね…。そこの貴方!少しボールを借りますよ!」
ほぼひったくり同然ですが緊急事態なので色々対話を交わす時間はありません。たまたま近くに居た子供からボールを借り入れた私は足元へ移動させ、右脚に闇色のオーラを宿します。
雷冥「“エンペラーディアボロス”!!!」
私の身体に宿された悪魔の中の悪魔の咆哮が周囲に響き渡り、強烈な速度と圧力を以て、対象へと接近します。
その気になればゴールポストすらも粉砕する私のシュートを木材程度の強度が耐え切れる筈がありません。ギリギリの所で対象物へ到達したシュートは木材を跡形もなく粉砕し、少年を命の危機から救い出しました。悪魔が他者の命を救うとは中々に皮肉なモノですね。
???「…あれ?おれたち…生きてる…?」
ココ最近サッカーには触れてなかったので、シュートのキレが錆びついていないか心配でしたが、まだまだ“フィールドの魔王”は健在ですね。懐かしい気分になりましたし、このミッションが終わったら久々に雷門中に顔を見せましょうか。
『違反ヲ確認。繰リ返シマス。違反ヲ検知シマシタ。即刻検挙ヲ行イマス』
…ん?先程と同型のロボットではありませんか?私の近くに犯罪者が居るとは穏やかではありませんね。…ですが、一体誰が…?
『警告シマス。ソコノ人相ノ悪イ青髪ノ青年。他者カラノ許諾ナシニボールヲ借リル事ハ立派ナ犯罪デス。抵抗セズニ大人シクオ縄ニツキナサイ』
なるほど星の容姿は青髪に人相の悪い青年ですか…。寒色の髪色だけでなく人相も悪いとは中々に犯罪者アピールの強い人物ですね。…ん?青髪?
雷冥「…私、何かやっちゃいました…?」
…
……
………
…………
……………
所々端折った部分はありますが、ざっとこんな
雷冥「…あまり“コレ”を荒事に使いたくありませんでしたが、やむを得ませんね…!ハァァァァァ!!!」
『ピピピ…!異常発生!異常発生!対象者ノ気ガ急激ニ増幅シテイキマス!』
雷冥「“獅風j…(ボンッ!!!)ーー!!! な、なんですか…!?この煙は…!?」
この状況を打開する為に“獅風迅雷”を発動した瞬間、どこからともなく小さな球体が爆発し、私達の周囲を純白の煙が包み込みました。
雷冥(催眠ガスか…!?…いや違う…!ただの目眩し…?)
???「こっちだよ!お兄ちゃん!」
アチラ側の攻撃を警戒したのも束の間、私の耳に聞き馴染みのない声が届きます。声の方向に居たのは先程私が助けたローブの少年でした。
???「ついてきて!おれがあいつらから流してあげるからっ!!」
ワンダバード『どうしますマスター…!?』
バードが私に問い掛けるますが、今の私には一つしか選択肢はありません。
雷冥「やむを得ません…。一か八か…!あの少年に賭けましょう…!」
恐らくあの少年が鎮圧部隊と繋がっている可能性は低いとは思いますが、かと言ってあの少年に付いて行った先が安全であるとも限りません。
それでも今の私達には贅沢を言っている暇はありません、例えそれが蜘蛛の糸のようにか細い希望であったとしても生き残る為には大博打を打つしかないのです。
さて…蜘蛛の糸を登り終えた先は天国か…それとも地獄か…。
『ピー。犯罪者ノ姿ガ消失。別ルートノ捜索ヲ開始シマス』
雷冥「“天国”…でしたね…」
どうやらココら一体は彼らにとってあまり足を踏み入れたくない場所なのでしょう。私達がココに足を踏み入れた瞬間、彼らのピット器官を模した視界は意味をなさなくなり、アレだけしつこかった捜索を打ち切り何処かへ行ってしまいました。
???「えへへ…不思議だよねー…。何でかはわからないけど、ここに隠れたらあいつらすぐに帰っていくんだー」
…周囲の建物の建設状況から察するに恐らく、ココら一帯は建設途中の地区なのでしょう。故にロボットの索敵範囲に該当しない為、認識できずに捜索を打ち切った…といったところでしょうか。…だとしたら相当なポンコツですね。
雷冥「ありがとうございます少年…。貴方のお陰で助かりました…」
???「いいって!さっき、おれを助けてくれたのはきみでしょ?そのお礼だよ!」
私が犯罪者となるきっかけとなり、私の危機を助けてくれた茶髪の少年は、草原に吹く“そよ風”を思わせる爽やかに微笑む。
先程は遠目かつフード付きのローブを着ていたので分かりませんでしたが、思った以上に歳を重ねているようですね…恐らく年齢は12〜13歳ほど…。…それにしてもこの顔立ち…何処かで見た事があるような…?
???「あっ!自己紹介が遅れたね!おれの名前はイダテン!そしてこの子はおれの相棒のフーマ!」
フーマ「ワン!」
雷冥「コレはご親切に。私の名前は稲魂雷冥と申します。以後お見知り置きを」
ワンダキャット「イダテンって名前…どこかで聞いたことがあるような…?」
ワンダバード「韋駄天は仏教の神様の名前だよ。その逸話から足を速い人のことを韋駄天って呼んだりするね」
イダテン「そうそう!おれ走るのがはやいからさー!いつの間にかまちのみんなから、イダテンって呼ばれるようになったんだー!」
雷冥「呼ばれるようになった…?するとイダテンは貴方の本名ではないのですか?」
イダテン「うん!だっておれ捨て子だからねー。イダテンって呼ばれるようになったのはわりと最近だし、物心ついた時はまだ名前がなかったよー」
…なるほど、つい最近までなかった名前…見窄らしいボロボロのローブ…年齢の割に幼い口調…。もしや彼が住んでいる場所は…。
イダテン「よーし!ならそろそろ移動しよっか!」
雷冥「移動?何処に?」
イダテン「もう君たちは上層部では生きていけないからね!だから、案内してあげるよっ!おれたちの家!下層部にっ!!」
……………
…………
………
……
…
ワンダバード「ココが…下層部…」
ワンダキャット「…マスター。あたしの鼻の機能をオフにして。臭すぎて気絶しそう…」
先程まで市街地…いやイダテン曰くアソコは上層部と呼ばれているようですね。上層部を信仰という名の狂気の元に秩序が保たれた
まるでこの世界から摘み出されたかのように、旧時代的な建造物が跋扈し、異臭を放つボロボロの衣服を身に纏う人々の目には上層部の人々同様、光が灯っておらずまるで生きているにも関わらず死んでいるようです。
その様はまさに“負け犬達の巣窟”…。先程の人達がアレだけ抵抗していたのも頷けます。
イダテン「下層部はねー、おれみたいに親に捨てられた子供たちとか、上層部でサッカーに負けた人たちが住んでるんだー!」
…つまりは弱者のゴミ溜めという所ですか…。トコトン強者に厳しく弱者には更に厳しい世界ですね。
イダテン「あっ!ついたよー!ここがおれたちが住んでいる孤児院だよっ!」
少年が指を指した方向にあったのは、コレまで見た建造物の中でも比較的マシな状態の木造の建物…。その姿は夕方に吹く木枯らしを思わせる、もの寂しい雰囲気を感じさせます。
???「イダテン!無事に帰ってきたのね!はぁ〜…本当によかったぁ…!」
恐らくずっと出口で彼の帰りを待っていたのでしょう。私達が到着した瞬間、イダテンと同じ年頃の藍色髪の少女が私達を出迎えました。
イダテン「心配させちゃってごめんアイ…。けどたくさん食料を奪ってきたから、しばらくはお腹を空かせる心配はないよ!」
少年は、アイと呼ぶ少女を安心させるようにローブを脱ぎ捨て、大量の缶詰を放出する。
お腹辺りにやたらと膨らみがあると思ったらそういう事でしたか…。
ワンダキャット「どうするマスター?恩人は普通に犯罪者だったけど。取り締まらなくていいの?」
雷冥「…今は拠点が必要ですし、今回は見逃しますよ。それに犯罪を増加させるような国造りをしている“GF”の方に問題が大アリですしね」
???「イダテンっ!帰って来たのかっ!!」
本日二度目となる我々のお出迎えをしてくれたのは、私の肉体年齢と同じくらいの長身の青年でした。側面を剃り込んだ小さめのアフロは、どことなくブロッコリーに似ていますね。…だから何だという話ですが。
イダテン「紹介するねライメイ!この人の名前はタイチ先輩!孤児院の中でいちばん年上でおれたちの世話をしてくれてるんだー!」
タイチ「…失礼だが君は?」
おっと、タイチ様はイダテン様やアイ様も異なり随分と警戒心が強いみたいですね。ココはあまり彼を刺激しないように…。
雷冥「お初にお目にかかりますタイチ様。私の名は稲魂雷冥。旅の途中、偶然この街に立ち寄ったところ、イダテン様が事故に遭う瞬間に立ち会いましてね…。すんでの所で救出には間に合いましたが、それが原因で少々厄介なトラブルに巻き込まれてしまいましてね…。彼の提案でほとぼりが冷めるまでココに匿ってもらう事となり、立ち寄った次第です」
やや早口になりましたが、この情報自体に嘘偽りはありませんし、端折った箇所もありません。どうにかこの話を信じてくれるといいのですが…。
タイチ「…その話は本当かイダテン…?」
イダテン「うんっ!フーマを助けようとしたら木材に押しつぶされそうになってさ!ライメイに助けてもらったんだ!スゴかったなぁ…!あのシュート…!」
私の“エンペラーディアボロス”を思い出し目を輝かせるイダテン様の姿は、何処となくカノンに似ていますね。年も近いですし彼と通ずるモノがあるのでしょう。
タイチ「…疑ってすまなかったライメイ。改めて自己紹介しよう。俺の名前はタイチ、今はこの孤児院の院長の代理を務めている」
雷冥「こちらこそ、よろしくお願いしますタイチ様」
私への疑いが晴れたタイチ様は謝罪の意味を込め、右手を差し出し私もそれに応える。
まだ15歳にも関わらず、院長代理を務めていると聞いた時は少し面を喰らいましたが、どうやら嘘ではないようですね。
彼の右手に触れただけで、彼が孤児達の親の代理の代理をキチンと全うしている様が頭に浮かびます。
タイチ「今は2階の部屋が空いているから、そこで寝泊まりしてくれ」
イダテン「おれが案内するね!こっちだよっ!」
アイ「こら!イダテン!急に走らないっ!転んで怪我しても知らないわよ!」
…何というか、この世界に来てから初めて本当の“人間”と出会えた気がしますね。
本当に今更ですけど、このスピンオフはスパイ映画を意識して書いてるので暴力表現が多めです。なんなら、本格的なサッカーは終盤くらいしかないと思います。
〜キャラ紹介〜
♦︎イダテン
性別:♂
年齢:13(推定)
≪概要≫
雷冥が出会った下層部にある孤児院に住む茶髪の少年。両親は居らず物心ついた時から名無しで生きてきたが、風のような俊足からいつしか『イダテン』と呼ばれるようになり、本人もそう名乗るようになっていった。
♦︎アイ
性別:♀
年齢:13
≪概要≫
イダテンの幼馴染。タイチに次ぐ孤児院の子供達のまとめ役でありお姉さん的存在。孤児院のみんなの為なら犯罪も厭わないイダテンを心配している。
♦︎タイチ
性別:♂
年齢:15
≪概要≫
孤児院の子供達のまとめ役であり、現在の院長代理。院長は彼の母親であり、数ヶ月前まで下層部に居たがある事情により姿を消した為、院長代理を勤めている(本人は母親は既に殺されたと思っている)。
そのせいで少し疑り深いが、根は優しく頼り甲斐のあるナイスガイ。