No side
「本当に野生って感じの学校なのね…」
「同じ地区なのに世界観そのものが違うって言うか…」
野生中に到着した雷門一向はあまりの大自然っぷりと個性的な野生中の面々に苦笑いを浮かべている。その主な原因は何故か来ている雷門夏未のリムジンに野生中のサッカー部全員が群がっているからだ。
「まぁリムジンなんて都市部でもめったに見るもんじゃないし興味津々なんだろ、お嬢にはいいきゲフン、キノドクダガ、キヲヒキシメテイコウゼ。」
夏未に対して失礼なことを言いかけた雷牙だが本人が睨んでいるのを察知した瞬間、下手くそなイタリア語で誤魔化す。
「そ、そうだな!みんないよいよFF1戦目だ!この日ために一生懸命努力してきたんだ、気合いを入れていこうぜ!」
円堂の音頭にメンバー全員が「おう!」と力強く返事をし、各自ポジションに着く。今回雷牙はトップ下に着き、積極的に攻撃に参加する姿勢をとる。すると、野生中しか観客がいないはずの応援席から雷門を応援する子供の声が聞こえる。
「にいちゃ〜ん頑張れ〜!「さ、サク⁉︎」野生中なんてボコボコにしちゃえ〜!」
「お、俺トイレに行ってくるっス…」
弟のサクが応援に来るという予想外の出来事に余計プレッシャーがかかったのか試合開始直前だというのにトイレに行こうとする壁山を円堂を含めた数名が止める。色々ありようやく野生中ボールで試合が開始する。
「監督がこの試合に勝ったらおやつ食べ放題だってさ!勝つぞお前たち!」
鶏のような顔をした野生中キャプテン鶏井亮太が雄叫びしか上げない監督の言葉を翻訳し、微妙にショボい内容の鼓舞をチームに送る。
「おやつ食べ放題だと…!あいつら俺たちを舐めてんのか!豪炎寺かましてやれ!」
染岡がボールを空中に蹴り上げて豪炎寺は“ファイアトルネード”の体勢をとるが、豪炎寺を超える跳躍力を見せた鶏井に押さえ込まれてしまう。ボールを奪った鶏井はFWの水前寺にパスを送りチーターの如きスピードで雷門のディフェンスを抜き去ってしまう。
「は、早い!これが全国のレベルかよ!」
「こい!」
水前寺のシュートに身構える円堂だが水前寺はシュートをせずに空中に向かってパスを送る。何事かと思いボールを見上げると既に飛翔していた大鷲が急加速しながらヘディングする。
「“コンドルダイブ”!」
ヘディングとは思えない威力を持つが円堂は怯むことなく体の方向を修正するが、直前に五利が三度シュートのコースを変える。
「“ターザンキック”!」
「またコースを変えた!でも負けないぞ!“熱血パンチ”!」
ゴッドハンドが間に合わないと悟った円堂は技を切り替え“熱血パンチ”で応戦し、なんとかシュートを防ぎ風丸の足元に転がる。
「俺たちもあんなに練習したのにまだ差があるなんて…」
以前助っ人で参加した深海中とは比較にならないレベルの高さに驚愕の声を出す風丸。
「風丸俺にボールをくれ!空中で駄目なら下から攻める!」
「…稲魂!分かった、みんな稲魂にボールを集めるんだ!」
MF陣のおかげでなんとか雷牙にボールが渡るが既に3人の選手に囲まれている。
「俺たちのディフェンスをそう易々突破できるとは思わないことだコケッ!」
「…どうかな?やってみなくちゃ分かんねぇぞ。」
「冗談も休み休み言e..何ィ⁉︎」
『ぬ、抜いたぁあ!雷門の稲魂!3人のディフェンスを軽々突破しましたぁぁあ!』
雷牙が野生中のディフェンスを突破する中、観客席で見ている2人の少年がいた。その2人は明らかに野生中の生徒では無く、帝国学園のメンバー鬼道と佐久間だった。
「実に不思議だ。稲魂雷牙のスピードはスパイからのデータによると雷門中3位、帝国では平均レベルだ。だが何故野生中の連中は奴を止めることができない?」
佐久間は前回の練習試合を思い出しながら疑問を浮かべる。実際帝国の選手は鬼道以外で雷牙を止めることができなかった。試合後のメンバーは口を揃えてこう言う『気がついた時には抜かれていた』と。
「…瞬発力だ。「瞬発力?」あぁ、俺の見立てでは稲魂雷牙の瞬発力は野生中の2倍はあるだろう。おそらく奴は瞬間的な加速力に関しては全国でもトップクラスであろう。」
「…なるほど、理解した。だがまだ疑問はあるそれほどの瞬発力を持つ選手なら何故その足の筋肉を長距離に活かしていないんだ?そこまでの筋力を持つ選手ならば普通は長距離に活かすと思うが。」
「そこに関してはまだ俺にも分からんが1つだけ言えることは稲魂雷牙にはまだ、秘密がある。それこそが奴の高いドリブルセンスの秘密を握っていると俺は確信している。」
主力の豪炎寺と染岡へのパスコースは既に塞がれているため雷牙1人でシュートを決めるしかない。…が雷牙の前に野生中最強のDFの獅子王吼が立ち塞がる。
「ふん!ここまで1人で来たことは褒めてやるガオ!だがこの獅子王吼には誰にも敵わないガオ!」
「…獅子王ね、あんまり思い出したくない言葉だ。」
「なにをごちゃごちゃ言ってるガオ!くらえ“スーパーアルマジロ”!」
本来はドリブル技である“スーパーアルマジロ”をディフェンス技に応用して雷牙を止めにかかろうとする獅子王だがその瞬間獅子王の前にイナズマが走る。
「“イナビカリステップ”!…どうした、獅子王の名が泣いてるぜ?俺が本当の獅子を見せてやるよ!」
獅子のオーラを呼び出しボールを蹴り込む雷牙、獅子の咆哮と共にシュートが放たれる。
「“キングレオーネ”!」
「止めるイノ!“ワイルドクロー”!」
GKの猪口が野獣の如き爪を持つ巨大な手のオーラを出現させシュートを止めようとするがその程度で獅子の咆哮を止めることができずに砕け散る。
『ゴーール!雷門先制点を獲得!さぁここから試合はどう動いていくのかぁぁあ⁉︎』
「や、やりましたね稲魂さん!これで俺が“イナズマ落とし”を撃つ必要がなくなったんスね…!」
「何言ってんだよ壁山、今の攻撃で俺のマークはさっきの比じゃないくらいに跳ね上がるだろ。3人程度ならまだ抜けるがこれ以上マークに着かれるとさすがに無理。確実に勝つためにはやっぱ“イナズマ落とし”を決めるしかねぇよ。」
「そ、そっスかね…?だったら俺たちDFが頑張って試合終了まで粘れば勝つこともできるっスよ…!」
「まぁできたらな。」
雷牙の予想通り3人だったマークが5人に増え、その分FWの守りが薄くなったものの、豪炎寺は空中から抑えつけられ、染岡に至っては獅子王の“スーパーアルマジロ”を受けて負傷してしまうという結果になってしまった。
「大丈夫か染岡?」
「少し足を捻っただけだ…!まだ俺はやれる!」
「無理だな。これ以上プレーしたら骨にヒビが入る可能性が高い。…聞いてくれ、俺に考えがある。」
豪炎寺の提案で染岡の代わりに土門を入れ、壁山をFWに上げる。当然本人は無理だと言うが円堂と雷牙の説得により渋々ポジションチェンジを受け入れた。…が昨日の調子はどこにいったのやら、“イナズマ落とし”を撃とうとするたびに野生中のプレッシャーに押されて土台の体勢を何度も崩してしまい一度も成功しなかった。失敗する度に野生中のカウンターが発動するが円堂達の頑張りで失点をしないまま1対0でリードしたまま前半戦が終了する。リードしている形にはなっているがこの調子ではいつ点を取られて逆転されてもおかしくはない状況である、自分の失敗に責任を感じている壁山はいつもよりも気弱な声で円堂に懇願する。
「…キャプテン俺をDFに戻してください…。それが駄目なら交代させてくださいっス…。俺には“イナズマ落とし”は出来ないっス。」
「駄目だ!お前をDFには戻さないし交代もさせない!俺がなんとしてもボールを壁山と豪炎寺に出し続ける!壁山!お前は高いところが怖いって言いながらもあんなに練習してきたじゃないか!精一杯やった努力は無駄にはならないよ!きっと実を結ぶさ!だから何度でもお前のところにボールを上げ続ける!いいな!」
「キャプテン…」
「なぁ守ちょっと提案がある」
「ん?なんだ雷牙?」
『さぁ後半戦開始です!…おやなんと雷門MFの稲魂をDFに下げました!このまま逃げ切る作戦でしょうか⁉︎」
野生中のキックオフから始まる試合だが、先ほどとは比べ物にならない速度で攻め上がる野生中。
「こっから先は行かせるかよ!“ハンティングセンス”!」
「豪炎寺!」
「けけけ!“スネークショット”!」
「“熱血パンチ”!くっ!痛くなんかない!壁山行けぇぇぇ!」
雷門がボールを取る度に豪炎寺と壁山にボールが回る。だが何度やっても失敗してしまう現実に壁山は膝をついてしまう。
「なんで何スか…?キャプテン…俺には無理だって分かっているのに…。なんで諦めずに俺にボールを渡してくれるんスか…?」
「目を逸らすな壁山!」
「ご、豪炎寺さん…。」
「あいつは…円堂はお前を信じているんだぞ!円堂だけじゃない!回りを見ろ!円堂の負担を少しでも減らそうと体力の負担の大きいゾーンプレスで対抗している!お前はこのままでいいのか⁈今目を閉じるということはあいつらの信頼を裏切ることなんだぞ!」
「絶対に止める!“ゴッドハンド”!」
「…キャプテン!みんなが、キャプテンが俺を信じて繋いでくれたボール!これだけは…みんなを裏切ることだけは絶対に裏切りたくないっスぅぅう!」
遂に野生中のプレッシャーに打ち勝ち体勢を崩さずに土台となることに成功する壁山。鶏井のジャンプ力を超える高さから繰り出した“イナズマ落とし”はGKが反応することができない速度でゴールに突き刺さった。それと同時に試合終了のホイッスルが鳴り雷門の勝利が確定する。
「や、やったっスぅぅぅう!俺たちが勝ったんスよ〜〜〜〜〜!」
「やったな壁山!って痛ってぇ!」
真っ赤に染まった右手でハイタッチをした円堂が痛がるがどこから氷嚢が差し出され、感謝を伝えるために顔を見るとそこにいたのは雷門夏未であった。
「な、なんでお前が?」
「たかがサッカーにあそこまで情熱をかけるなんて、やっぱり本当の馬鹿ね。」
「はっ!ようやくお嬢も理解したかい!ここに集まっているのはバカばっかだよ!ただし世界一のサッカーバカだけどな!」
褒めているのか貶しているのかよくわかない補足をする雷牙を特に気にかけないまま夏未は立ち去り、その日は解散となったが次の日…。
「私、サッカー部のマネージャーになりましたので宜しく。」
「えぇぇぇぇぇ!?」
あまりの急展開ぶりに驚く雷門イレブン…。その中でも雷牙は、まるで死んだ魚の目の如き、正気の感じられない目をしていた。
書いてる時もこれイナズマ落とし打たせる必要あるか?ってなったので、壁山の成長を中心に書くように心がけました。
あと雷牙が夏未をやたら嫌っているのは本当に嫌いなんじゃなくて、ある理由から苦手に思っているからです。