???「…る。」
う〜ん むにゃむにゃ…あと…5分…。
???「守…。起きろ…守…!」
ん〜…誰だ〜…?聞いたことない声だけど…なんか懐かしいような…そうでもないような…。…って!ヤバい!今何時だ!?
円堂「練習に遅刻す…ん…?どこだ…ここ…?」
白色が辺り一面に広がる謎の空間…マジでどこだ?俺は合宿所で寝た筈だけど…。ーー!!! 誰かが近づいて来る!…え?あの人って…。
円堂「じい…ちゃん…?」
大介「初めまして…じゃな 守。」
いやいやいや!!そんな筈はない!だって…じいちゃんは40年前に影山が仕組んだ事故で死んだ筈だろ…!?
…でも、目の前の人は俺が知ってるじいちゃんと一緒だ…。俺と似ているヘアースタイルに、オレンジ色のバンダナ…いつもは遺影の奥に居るじいちゃんが俺の前に居る。
大介「会って早々悪いがお前さんの実力を確かめてやろう!このシュートを止めてみろ!!」
円堂「ーーなっ!?くっ…!“ゴッドハンドッ”!!!」
グギギギ…!お、重い…!なんだこのシュートは…!?ただのシュートなのに雷牙よりも豪炎寺よりもヒロトよりも…俺が受けてきたどのシュートよりも重い…!けど…!!
円堂「負けてたまるかァァァァッ!!!」
大介「ほぉ…止めてみせたか…。」
あ…危なかった…。本当にギリギリのところで止めることができた…。これがじいちゃんのシュートか…!スゲェよ…!
円堂「はぁ…はぁ…!!ど、どうだ…!じいちゃん…!!」
大介「及第点…ってところじゃの。では次はどうかな?」
まるで雷牙みたいに不敵に笑うじいちゃんの横に現れたのは特徴的な髪型の褐色肌の少年だった。
う〜ん…どことなく俺と似ているような…。
???「手加減はしないよマモル。」
円堂「誰かは分からないけど、とりあえず分かった!!ばっちこい!!!」
俺が勝負を促すと男の子はトップスピードで地面を踏み込んで飛び上がると空中で一回転して両足で“X”の軌跡を描く。
???「“Xブラスト”!!!」
なんてシュートだ…!この距離からでもその威力がビリビリ伝わってくる…!ヘヘッ!面白ぇ!俺も負けないぞ!!
円堂「ウォォォォッッッ!!“怒りの鉄鎚ッ”!!!」
どうだじいちゃん!これがじいちゃんが残した最強のパンチング技“正義の鉄拳”を更にパワーアップさせた俺の最強技“怒りの鉄鎚”だ!!
マジンから放たれる鉄鎚はどんなシュートも粉々に打ち砕くぞ!!
???「いい技だね。けど…まだボクの方が強いかな。」
円堂「ぐあ!?な、なんだ…!?更にシュートが重くなった…!?」
ここから更に加速するってアリかよ!?くっ…!負けてたまるか…!!…ん?なんだ!?急にボールが光りだした…!?
円堂「なんだ!?ま、眩しい…!」
突然、眩い光で視界が眩み、俺の意識はあっという間に途切れていった…。
……………
…………
………
……
…
円堂「…夢か。」
薄々察してたけどやっぱり夢だったか…。それにしてもじいちゃんのシュートも凄かったけど…あいつのシュートはもっと凄かったな…。
…あれ?どんな顔だっけ?んー…ダメだ、全っ然顔が思い出せない…。
…まぁいっか!どうせ夢だし!よーーし!!今日も練習頑張るぞーーッ!!
♢♢♢
円堂「雷牙ってあんまり亡くなった親父さんのこと話さないよな。」
わ〜お、まだお朝食のお時間だというのに、朝っぱら早々センシティブな話題〜。んもう!守ったら!お母さんはアータをそんな子に育てた覚えはありませんっ!!!
円堂「あっ…!ごめんごめん!別に深い意味はないんだよ!ただ…今日、死んだじいちゃんの夢を見てさ…。」
あ何?遂にじいさんが枕元に出てきたん?だからいつも言ってんだろ〜?せめてバンダナのほつれ糸くらいは定期的に切っとけって、自分の遺品が絶妙に雑に扱われてるから化けて出たんだろ。
円堂「…何か今、ものすごく失礼なこと考えてなかったか?」
雷牙「それにしても死んだ親父の事を話さない理由かー(棒) 考えた事もなかったなー(棒)」
ぶっちゃけ深い意味はあんま無いんだよなー、別に親父の事を軽んじてるわけじゃねェし、1週間に一回は墓参りにも行ってるし。ん〜…まぁ強いて言うなら…
雷牙「“癖”…みてェなもんかな。」
円堂「癖?うーん…ちょっと分からないな…。」
雷牙「いやな?今はそうでもねェけど少し前まではライトたちの存在は地雷だったかんな、それがしばらく続いてたもんだから今も無意識に親父たちの言及は避けてんだよ。」
円堂「あ〜!なるほど〜!納得〜!」
フッ、決まったね。いや〜!流石は俺ちゃん!即興のスピーチでこの完成度!惚れ惚れするねェ〜!この話術を活かせば総理大臣も夢じゃねェなァ〜〜!!
冬花「守君?ちょっといい?」
円堂「ん?どうしたんだ?ふゆっぺ? …なんだよ雷牙?急にニヤついてどうしたんだ?」
雷牙「いんやぁ?別にぃ?グフフのフ〜。」
本人は気づいてねェと想うけど守はふゆっぺと話してる時は頬が緩んでるんだよなー。コレってもしかしなくてもアレだよね〜グフフ〜!
冬花「守君宛てに手紙が届いてたの。これなんだけど…。」
机の上に置かれたのは何も変哲もない実〜にシンプルな封筒。あまりにシンプルすぎて逆に異質さすら感じちゃうぜ〜!ホラ見ろよ!笑っちゃうよな〜!差出人の情報も一切書かれてないんだぜ!・・・ん?差出人の情報が一切書かれてない…?
雷牙「いやいや!!絶対ェ怪しいって!なんで差出人不明の手紙が宿舎内に届くんだよ!?もしかしたら影山絡みの可能性だってあるぞ!?」
円堂「いやいやいや!流石に警戒しすぎだって!流石の影山も手紙1枚で何か出来ないだろ。」
いや分かんないぜ?影山の事だし、もしかしたら毒針とか仕込んでる可能性だってあるだろーが。…いや影山ならそんな露骨に足がつきそうな事はしねェか?
円堂「とりあえず開けてみるか!話はそれからだ!」
雷牙「…オイ守!親友として1つ言っておく!この手紙を開けるならそれ相応の覚悟を決めとけ!差出人不明の手紙なんてロクなモンじゃねェかんな!!※※※とか※※※みたいなモンが入ってるかもしんねェかんな!!!」
円堂「やめてくれよ雷牙…変な想像しちゃったじゃん…。」
許せ守、コレもオマエを守る為だ。だって嫌だろ?コレからの人生で手紙を受け取る度に嫌なトラウマが蘇るだなんて。
数秒の熟考の末に遂に覚悟を決めた守は恐る恐る封筒の開け口を破って手紙を取り出す。
そうか守…それがオマエの覚悟か…。それなら俺ちゃんは何も言わねェ…。ジーと静かにドーって待機しておくッ!
円堂「え…!?これって…!!」
幸いな事に封筒の中には危惧していた※※※や※※※ようなモノは入っていなかった。中にあるのは封筒と同じく何の変哲もない一枚の紙だけだ。…枕詞に『手紙に書かれている文字を除く』が付いていたがな。
円堂「じいちゃんの字…!?」
そこに書かれていたのは、これまで俺たちの窮地を幾度となく助けてくれた、円堂一族だけが読む事が出来る未知の言語という名のくっそ汚ェ字の羅列だった。
♢♢♢
円堂「ウォォォォォッ!!特訓だァァァァッ!!!」
差出人不明の手紙が届いてから数日後、円堂は以前までとは比にならないハードな特訓に明け暮れていた。
あの日、手紙の真贋を確かめるべく祖父をよく知る響木を頼った結果、彼から口から出た答えは“本物”の二文字。
それだけでなく、以前から海外にて大介らしき人物の目撃証言があがっていた事を知らされた円堂はFFIを勝ち進み、憧れの祖父と再開する事に躍起になっていた。
木野「凄いやる気ね…あそこまで熱くなってる円堂君は見たことないわ…。」
音無「それだけ決勝に向けて燃えてるってことですよ!」
冬花「…本当にそうでしょうか?今の守君…少し怖いです。」
音無「円堂さんが怖い?私はそうは思いませんけど…。」
冬花「そうですか…。私の勘違いだったらいいんですけど…。」
別に円堂はトチ狂ったようにハードな特訓にのめり込む事自体は特段珍しい事ではない。FFの時はあのような無茶は日常茶飯事だったし、寧ろチームメイトも彼の頑張りに触発されて更なる特訓に励むなどプラスの影響を与えてくれる。
だからこそだろうか?イナズマジャパンの中で円堂との付き合いが浅い冬花だけは円堂の中に宿ったある種の狂気のような“何か”を感じられずにはいられなかった。
雷牙「止めれるモンなら止めてみなッ!!!“プラチナギャラクシーィィィィィ”!!!」
円堂「俺はもっともっと強くなるッ!!“正義の鉄拳GXゥゥゥゥ”!!!」
本日の練習の最後を飾るミニゲーム。選考試合の焼き直しといっても過言ではないマジンの拳から放たれる白金の銀河は黄金の拳によって呆気なく打ち砕くかれた。
雷牙「マジかよ…!?」
円堂「よっしゃァァァァ!!!」
ピッ!ピッ!ピッーー!!!
円堂がゴールを死守すると同時に久遠からのホイッスルが鳴り、ミニゲームの終了が知らされる。
長かった1日も終わり、日の本を背負う戦士達は夕飯の時間まで束の間の休息を取る事となる。
円堂「よーーし!!ちょっと鉄塔広場で自主練してくる!」
しかし円堂はだけは違った。ただでさえハードワークを終えた直後に、更なるハードワークに挑もうとしているのだ、もう数日もこんな調子である。確かに円堂がこんな無茶を続けるのは見慣れた光景ではあるが、流石に今回は度が過ぎている。
風丸「おい円堂!流石に今日は休め!ただでさえハードな特訓を続けているんだ、休息を取らないと身体が持たないぞ!」
円堂「大丈夫だって!世界の頂上への道は険しいんだ!このくらいなんともない!!」
壁山「なんか…キャプテンの目が怖いっス…。」
壁山が軽い恐怖を感じる程度にはガン決まった目をしている円堂は自身の身を案じる幼馴染の忠告にすら聞く耳を持たない。
円堂「それじゃあ行ってくる!ちゃんと夕飯までには帰って来るから!!」
幼馴染の静止を振り切った円堂は一分一秒すらも惜しいと言わんばかりのスピードで一目散に雷門中を離れる。
久遠「…
その様子を遠くから見ていた久遠はそう呟くと韓国戦の対策を練ると明日の練習メニューの調整の為にその場から立ち去る。去り際に見えたその瞳には少なくない円堂への失望が現れていた。
♢♢♢
円堂(選考試合では歯が立たなかった“プラチナギャラクシー”を“正義の鉄拳”で止めることが出来た…!いいぞ…!俺は確実にパワーアップしてる!これなら世界だって夢じゃない!そして…絶対にじいちゃんに会うんだ!!)
日々の成長を噛み締めながらお気に入りの鉄塔広場に到着する円堂。その目的は当然タイヤのサンドバッグを用いた自主練だ。
円堂「そういえばあのタイヤとも長い付き合いだよなぁ…。懐かしいなぁ、中々良さげなタイヤが見つからなかったから町中探し回ってさぁ…ようやく見つけたのがあのタイヤだったっけ…。」
円堂の能力に浮かぶのは物置から大介が残した特訓ノートを見つけたあの日。あのノートとの出会いは文字通り円堂の運命を変えた。
円堂「あれがきっかけでサッカーにハマって…ここで雷牙と出会って別れて…中学で再開してサッカー部を作って…本当に色々あったなぁ…。…ん?」
昔を懐かしみながら特訓場へ向かって円堂だったが、突如足が止まってしまう。
円堂「子供…?」
タイヤを吊るした大木の前にフードを深々と被った謎の子供が佇んでいたのだ。
鉄塔広場は稲妻町全ての市民に開かれた公共施設だ。そこに子供が居る事自体は何1つおかしい事ではない。
問題なのは今は良い子は家に帰っている時間帯である事だ。謎の子供の身長は150にも満たない。雷門中にも栗松や少林といった前例があるにはあるが、僅かに見える肌から伺える子供の実年齢はどう考えても中学生の年頃ではない。
円堂「おーーい!君ーー!悪いけど今からそのサンドバッグを使うからさーー!!遊ぶなら別の所で遊んでくれないかーー?」
円堂はとりあえず穏やかかつそこそこ大きい声量で子供に移動してもらうように頼む。だが謎の子供はその場から動く事はなかった。
『もしかして聞こえてないのか?』その思考が円堂の脳裏をよぎるが、円堂の声量は常人を遥かに超える、もしも世界大声選手権ーー通常“OFI”が開催されたならば円堂は間違いなく日本代表に選ばれるだろう。
となると初めから耳が聞こえてないのか、それとも聞こえた上でワザと無視しているかの2択しかない。
円堂「うーん…参ったな…あれ無しじゃ満足に特訓も出来ないしなぁ…。でも土方の時みたいになると嫌だし…どうしよう。…風丸からも注意されたし今日は帰って休もうかな。」
土方の一件で子供への対応がそこそこトラウマになっている円堂は大人しく引き下がり、鉄塔広場から立ち去ろうとする。
その時だった…
???「コレ…アンタの?」
フードの子供は背を向けたまま円堂に話しかける。その声は男の子にしては高く、女の子にしては低い謂わば非常に中性的な声だった。
その声色にはどこか怒りのような感情も漏れ出ている。
円堂「あ、ああ…!俺の手作りタイヤサンドバッグだ!これ作るのにめちゃくちゃ苦労したんだぜ!」
???「フーン…んじゃあ、最初に謝っとくね。ごめんね。」
円堂「…え?」
謎の謝罪を見せたフードの子供は軽く膝を曲げると即座に戻し、その反動を利用して飛翔する。その高さは丁度子供の脚がタイヤの対角線上にくるくらいの高さだ。
円堂「あんな軽いジャンプでこの高さ!?どんなテクニックを使ったんだ!?」
明らかにジャンプの強さと高さが比例していない状況に円堂は目を見開く。
何気なく視線を地面に移すと、フードの子供が立っていた地点に30cm程の深さの穴が空いていた。よく見ると僅かに白い煙が立ち込めている。
子供が使ったトリックを看破した円堂は再び空へ視線を移す、少し目を離した間に子供の右脚は既に狙いをタイヤに定めていた。
すると深々と被っていたフードが跳躍による突風により外れ、その素顔が明らかとなる。明らかとなった子供の素顔は年相応の顔立ちと鬼を思わせる2本の逆立った触覚を持つ緑髪の少女だった。
円堂「女の子…!?」
謎の子供の性別に驚く円堂を文字通り尻目に少女の右脚が黒光りするゴムの塊に炸裂する。
タイヤは高価な消耗品。使い続ければ摩耗し、数年も経てば新品に取り返なければならない。円堂がサンドバッグに使っているタイヤはまさにそんな彼と出会わなければ捨てられる運命にあった中古品だった。
それでも中古とはいえタイヤはタイヤ。特にサンドバッグに使われているタイヤは大型車両のモノ、その分厚いゴム由来の耐久性はダイアモンドすらも優に超える。
その高い耐久力を存分に活かし、古びたタイヤは円堂の特訓の友として長い時を過ごしてきた。
…そう 今日までは。
???「・・・ドーン!!」
少女はただ蹴っただけだった。
イヤイヤ病を発症した幼子が泣き喚くように。
納得のいかない事に直面した大人が無機物に怒りぶつけるように。
様々な要因が重なり自身の中に溜まりに溜まったフラストレーションの全てを右脚に込めて。
するとどうだろう。あれだけ立派だった黒光りするゴムの塊はみるみるうちに原型を維持出来なくなり、古傷を起点に引き裂かれ、数秒後には無惨なゴムの破片の山へと変わり果てた。
円堂「嘘だろ…!?タイヤが…一撃で…!?」
円堂にとってタイヤは人生初めてのライバルだった。祖父の特訓ノートに出会って以降、暇さえあれば鉄塔広場に赴き、タイヤと対面し日が暮れるまで殴り、受け止める日々…時には思わぬ角度から反撃され身体に大きな痣を刻まれた時もあった。
それでも円堂はタイヤに挑み続ける事を止めなかった。いつの日か自身のパワーでうち負かす事を夢見て。
…だがはライバルに引導を渡したのは見知らぬ少女だった。少女のパワーを目の当たりにした時の感覚はFF本戦にて帝国が敗北したと聞いた時の感情と瓜二つだった。
???「あっちゃー…やらかした…。吹き飛ばすだけで済ますつもりだったのにまさかタイヤの方が先に壊れるとはねー…これは流石に予想外。」
タイヤを破壊した少女は頭を抱えるもそこには他人の特訓器具を破壊した罪悪感は一切ない。
???「まぁいっか。そ・れ・よ・りも私が用があるのはアンタなんだよねー。」
円堂「俺?」
???「アンタ、円堂守でしょ?日本最強のキーパーで今や世界最強のキーパーって噂されてる。」
オーストラリア、カタールの二試合で無失点記録という驚異的なセーブ率を達成した円堂は今や世界最強キーパーの一角として見做されていた。
円堂「世界最強って…なんか照れるな…。でも、俺はまだまだだよ。きっと世界には俺以上に凄いキーパーがたくさんいる筈なんだ、だから少しでも早く世界に追いつく為に特訓をするんだ。」
???「ハァ…謙遜もここまでくると逆にムカつくね、もっと傲慢になったら?そうじゃなきゃ張り合いがないし。」
円堂「張り合い?」
???「私と勝負しようよ。ルールは簡単、私が蹴ってアンタが止める。シンプルなPK一本勝負だよ。」
……………
…………
………
……
…
円堂「よっしゃあ!!ばっちこい!!」
鉄塔広場の奥の小さなサッカーコート それが円堂と少女の決戦の場だった。
ゴール前に立った円堂は祖父の形見たるキーパーグローブを装着し、目の前の才能の原石に対して期待に胸を膨らませシュートを促す。
円堂(さっきのジャンプから分かる…。この子は多分今まで戦ってきたどの相手よりも強い…!下手すると豪炎寺に匹敵するパワーを持ってるかもしれない…!油断せずにいくぞ!!)
一瞬とはいえ、少女の実力の片鱗を見た円堂は軽く右手に気を溜め予想外のスピードでも確実に“怒りの鉄鎚”を放てる体制に入る。
一方、少女は軽いストレッチを行い身体のコンディションを整える。ストレッチ自体は何の変哲もないものだが、特筆すべきは少女の柔軟性。
少女がまだ幼い事を考慮してもその筋肉の柔らかさと関節の可動域の広さは常人の比ではない。
???「あー、気合い入ってるとこ悪いけどさー
今からやること、ぜーんぶ
円堂「え…?」
その瞬間、少女を起点に凄まじい殺気が溢れ出す。これにより和気藹々としていたPK戦は一瞬にして狩るか狩られるかの命を懸けた戦場へと変貌する。
円堂(これがまだ小学生そこらの子が出せる気迫か…!?それにこの感じ…どこかで感じた覚えが…)
ドリブルを始めた少女は獲物に狙い定めた獅子の如き走法でトップスピードへ至る。刹那、少女の背後に怒り狂う漆黒の獅子の気迫が実体化する。
円堂(ーーえ?これって…)
一連の少女の動作に強烈な既視感に襲われる円堂だが、既に少女はボールに二連撃を叩き込んだ後だった。
???「“キングレオーネ”。」
その技は親友の誇りと同じ名を冠していた。
動作も走法も全てが親友の物と瓜二つ。
ただ決定的に違うのはーー
円堂「“怒りの鉄鎚ッ”!!!ーーなっ!?」
漆黒の獅子の牙はマジンの鉄鎚すらも噛み砕くのだ。
円堂「そんな…嘘だろ…。俺の…俺の最強技が…。」
まさか自身の単体最強技が一切通用しないと思ってもいなかった円堂はショックのあまり受け身すら取れずに力無く地面に伏してしまった。
???「へぇー?中々いい技持ってんじゃん。私のシュートに数秒くらい耐えれたのは自慢に思っていいよー。」
勝者による弱者への賞賛ほど惨めな仕打ちはない。無邪気さ故か悪意由来か分からない言葉の数々は鈍色の刃となり円堂の心に深く突き刺さった。
円堂「君は…一体何者なんだ…?」
様々な思考の末に円堂が喉奥から捻り出した言葉は再戦の申し出でも負け惜しみでもなく少女の身元の確認だった。
何故このような結論に至ったのかは本人にすら分からない。ただ…今の一撃で自身と少女との生物としての壁をその身で感じ取ってしまったのだ。
???「おっ!それ聞いちゃうー?オッケー♪じゃあ簡単に説明するねー!私の名は鬼乃子!明星鬼乃子!“怪物”を継ぐ者…とだけ言っておこうかなー。以後お見知り置きをシーユー♪」
円堂との勝負に満足したのか鬼乃子と名乗った少女は満面の笑みを浮かべながらその場から立ち去る。
たた1人残された円堂は立ち上がれず地面に座り込む。その間、彼の中にあった世界への道はゆっくり、そして静かに崩壊していく光景をただ見ているしか出来なかった。
♢♢♢
???『で?どうだった?円堂大介の孫の実力は。』
円堂との勝負を終えてから数時間後、先ほどまで稲妻町に居た鬼乃子は空港の待合室で時間を潰していた。
フード付きのパーカーとスパイクを履いたサッカーガールスタイルだった数時間前とは異なり、今の鬼乃子はお洒落な衣服を着こなし、絶妙にサイズの合っていないサングラスを装着し目元を隠す小洒落た少女へ変貌していた。
だが彼女の側には保護者らしき大人の姿は見られない。それもその筈だ、彼女の保護者は現地ではなく電話の向こうに居るのだから。
鬼乃子「ん〜?強かったよ?少なくとも…え〜と…なんて名前だっけ…あっ!思い出した!邪道・オブ・オニオン?のキーパーとは比較にならないくらいには強いと思うよ〜。」
圧倒的な実力で捩じ伏せてもなお円堂を強いと評する鬼乃子。その瞳には嘘付き特有の濁った色は映されていない。
???『それにしても意外だねェ、稲魂君に会うと思ってたけどまさか円堂君を選ぶとはね。』
鬼乃子「ん〜…ぶっちゃけ迷ったけど少し気になってさー、グラサンのおじさんがアソコまで執着する円堂守がどんな選手なのかって。」
???『その感想は?』
鬼乃子「おじさんが嫌うのも当然だね、あの人って光の中じゃ生きていけない“影”みたいな人間じゃん?そんな“影”相手に太陽はキツいでしょ。」
???『ハッハッハ!!!いや〜〜!!!ぐうの音も出ない程の正論だねェ!!!現地に着いたら本人に言ったらどうだい?』
鬼乃子「…いややめとく。あの人のことだし正論をぶつけようもんなら『ほぅ?レギュラーの座はいらんとみた(声真似)』とか言いかねないし。…あっ時間だ、じゃあ切るねーバイバイパパー。」
目的の飛行機が到着した事を確認した鬼乃子は通話を切りスマホの画面を閉じる。
鬼乃子「うーん…やっぱ一回くらい会っとけばよかったかなー…。まっ、あの人なら100%勝ち進むだろうし大丈夫でしょ。それじゃバイバーイお兄ちゃん、本戦で会おうねー。」
アナウンスを合図に名残惜しそうに席を立つ鬼乃子。彼女の右手にはイタリア行きのチケットが握られていた。
♢♢♢
雷牙「もうよせ守!!これ以上は試合に響く!試合は明日なんだぞ!?」
円堂「ダメだッ!!!今のままじゃ世界には通用しないッ!!もっと強くならないといけないんだ!!!」
鬼乃子との勝負に負けた翌日、円堂は荒れに荒れていた。好物のカレーすらも喉を通らず、まぶたを閉じても眠りにつけない中、全ての思考費やした結果導き出した答えが今の暴走状態だった。
“努力はおにぎり”と平然と言い放つ円堂にとって努力は重ねた分だけ応えてくれる。その思想自体は決して間違ってはいないが今の円堂は狂信者の域に達していた。
青天井にキツくなる特訓を続ければ、身体が持たずに試合前に倒れるのは火を見るより明らかだ。
雷牙「100000歩譲ってその特訓を続ける事はまだいい、だがな?特訓ってのはそうすぐに成果が出るモンじゃねェーだろ!?休息だって立派な特訓だ!頼むから休め!!」
鬼道「俺も稲魂に同感だ。そもそも人の身体は無茶なトレーニングを想定していない。この調子で身体に負荷を掛け続けるだけでは強くなれないぞ!」
円堂「ダメだ…そんな生温い特訓じゃダメなんだ…。」
暴走機関車と化した円堂には親友達の言葉は届かない。まるで壊れたスピーカー如く同じ台詞を反復する円堂は控えめに言ってイカれている。
雷牙「オーケーオーケー!んじゃあもうギュッと絞ってギューンしかねェなァ!!!」
もう対話での説得は無理だと確信した雷牙は、最終手段として円堂を絞め落とす事で強制的に特訓を止める覚悟を決め、関節をポキポキ鳴らす。
まさに一触即発…互いに望んでいない親友同士の喧嘩が勃発する直前…救世主が現れる。
久遠「そこまでだ!!!」
円堂&雷牙「「監督…!」」
久遠の怒声がグラウンドに鳴り響き、皆の動きが止まってしまう。普段は寡黙な久遠がここまでの声量で叱る事は初めての事だった。
久遠「…円堂。次の韓国戦、お前にはスタメンを外れてもらう。」
円堂「え……?」
再びいつもの声量に戻った久遠の命令はイナズマジャパンに怒声に勝るとも劣らない衝撃を与える。
円堂をスタメンから外すーーそれ即ち…
久遠「今のお前にはチームを任せられん。お前はキャプテン失格だ。」
円堂「ど…どうしてですか監督!?もしかして俺が負けたからですか…!?ならこれからもっともっと凄い技を編み出してみせますッ!!俺は誰よりも世界に行きたいんです!!!」
納得がいかずに必死に抗議する円堂だが、彼の言葉が久遠に響く事はなかった。
久遠は一切の返答をしない。その代わりに鋭い眼差しで睨みつけるのだ、その瞳に大切なモノを見失っている円堂への失望を映して。
円堂「もう…何を言ってもダメ…なん…ですね…。」
久遠「…今日はもう上がれ。頭を冷やしてこい。」
円堂「…はい。キャプテンマークを…お返し…します…!」
これ以上の抗議は無駄だと理解した円堂は右腕に巻いていた紅のキャプテンマークを久遠に返却し、グラウンドから立ち去る。
風丸「くっ…!待て!円… (ガシッ! )ーー!?な…!どうして止めるんだ…!?稲魂…!!」
雷牙「俺も監督と同意見だからだ…!俺は今のアイツに背中を任せる気にはなれねェ…!」
皆の気持ちを代弁した雷牙の一言によりチームメイトは立ち去る円堂の後ろ姿を見守る事しか出来なかった。
久遠「…稲魂、お前にこれを渡しておく。」
雷牙「…何すか?コレ?」
久遠に渡されたのは円堂の1Pカラーにも立向居の2Pカラーのどちらにも属さない謂わば3Pカラーのユニフォームと新品の
久遠「次の韓国戦のキーパーはお前だ。」
雷牙「………は?はぁああ〜〜〜!?」
当然の出来事のあまり、先ほどまでのシリアスさはどこにいったのやら間抜けな声で返事を行う雷牙。
何故円堂はキャプテン失格なのか?何故雷牙をキーパーとして採用したのか?全ての意図が不明のまま、遂に試合当日を迎えてしまう。
果たしてイナズマジャパンは世界の舞台に行く事は出来るのか?
もうお察しだと思いますが、韓国戦はアニメ・ゲームじゃなくて漫画版をベースにしてます。そのせいで若干円堂の性格が悪くなってますけどそういう仕様なので飲み込んでください。
〜オリキャラ紹介〜
♦︎明星鬼乃子
性別:♀
属性:林
ポジション:??
年齢:12
≪概要≫
FF編の途中とエイリア編の最終回にちょこっとだけ登場したどことなく雷牙に似た雰囲気の少女。
理由は不明だが、習得難易度の高い“キングレオーネ”を非常に高い水準で習得しており、あの円堂すらも単独で破ってみせた実力者。
再び彼女が円堂…そして雷牙の前に姿を現すのもそう遠くないだろう。