パープルとピンクの脇が脳を歪ませる。
親子百合が見られるかもしれない事実に夜しか寝られない。
cv東山奈緒のミステリアスなクールビューティーに癖しか沸かない。
ざわめく星に佇んで遠くを見る瞳。
敵か味方かわからない未知なる声が放つメッセージ。
アフロディ「どうだいキャプテン?イナズマジャパンの実力は。」
チャンスウ「素晴らしい…!恥ずかしながら久々の強敵との出会いに興奮による汗が止まりませんよ…!」
イナズマジャパンに先制点を取られリードを許してしまったこの状況においてもファイアードラゴンを率いるチェ・チャンスウは歓喜の笑みを浮かべていた。
“稀代の天才ゲームメイカー”、“韓国の至宝”、“フィールドの龍”…etc
恐らく世界広しと言えど、ここまで多くの一個人を称賛する異名を与えられた人物は後にも先にもチェ・チャンスウだけだろう。
同時にその称賛の数は彼がその異名に違わない実力を持つ証拠でもある。
アフロディ「遂に始めるのかい?“
チャンスウ「ええ…まさかアジア予選で
そう不敵に笑う希代の天才の瞳の奥深くには紅に染まりし火龍が地脈を泳いでいた。
鬼道「相手はアジア最強と名高いファイアードラゴンだ!必ず次のプレーから仕掛けて来る筈だ!気を引き締めて行くぞ!!」
一同『おおっ!!』
本来先制点を奪えた事を喜ぶべきなのだろう。だが鬼道は形容し難い異物感を抱かずにはいられなかった。
しかし相手の主将は韓国の至宝と謳われるアジア屈指の名将…ここで終わるような相手ではないと確信しているのだ。
そして鬼道…ひいてはイナズマジャパンはその異物感の正体をすぐに知る事となる。
ピッー!!
王将『さあ!ファイアードラゴンキックオフで試合再開!!イナズマジャパンの先制点という大番狂わせを経て、果たして韓国が誇る火龍はどのような唸りを見せてくれるのかーーッ!!!』
ファイアードラゴンはキックオフ早々、リードを埋めるべく突破力に優れる南雲にボールを回す。
その判断は正しく、南雲の烈火の如く荒々しいドリブルはイナズマジャパンの妨害を物ともしない。
南雲「おいおい!その程度かよイナズマジャパン!?今の俺は最っ高に燃えてんだ!!もっと俺を楽しませてみろォ!!!」
吹雪「うっわー、文字通り燃えるように熱い人だねー。たまには頭を冷やしてみるのがオススメだよ。こんな風にね!」
南雲の前に立ち塞がった吹雪は両脚に凄まじい冷気を纏わせ大地を蹴る。すると南雲の周囲に冷気が伝播し瞬く間に彼の肉体を氷雪の檻に閉じ込めた。
吹雪「“スノーエンジェル”!」
王将『おおっと!ここで吹雪の新必殺技“スノーエンジェル”が炸裂ーーッ!!!“アイスグラウンド”を超える冷気は炎のように南雲すらも凍らせたーーッ!!!』
鬼道「よくやった吹雪!皆上がれ!カウンターだ!更に点差を突き放すぞ!!」
吹雪の活躍により攻撃権を得たイナズマジャパンは更に点差を突き放すへぐ、一気に攻め上がる。
筈だった。
鬼道の名誉の為に言っておけば、彼が出した指示は実に戦況に合った物だ。監督の意図は不明だがキーパーを不得意とする雷牙がイナズマジャパンのゴールを守っている以上、失点のリスクはいつも以上に高い。
そのような状況で韓国に勝つには多少の失点に目を瞑ってでも速攻を仕掛け点差を開かせる…それが今のイナズマジャパンにとって最も合理的な戦略だった。
そう…あまりにも合理的すぎたのだ。
吹雪「何!?」
主将・チャンスウはその戦略を読んでいた。そしてその為の策を既に実行していたのだ。
チャンスウ「龍の雄叫びを聞け!!“パーフェクトゾーンプレス”!」
主将の号令に従い、火龍の眷属達は吹雪の周囲を囲む、そして大量の砂埃を撒き散らしながら走り回る事で完璧に退路も進路も塞いだのだ。
その様はもはや…
王将『“蟻地獄”です!!俯瞰視点で見ればその様は蟻地獄としか形容しようがありません!!辺り一面に舞う砂煙!一度引き釣り込まれれば為す術もなく痛めつけられる
“蟻地獄”の評価通り、囲まれてしまった吹雪には突破口を見出せずただ茫然と立ち止まるだけだった。その隙こそが致命的であったと気付かずに…
南雲「貰ったァ!!」
吹雪「おわっと!あ、危なかった…。なんと暴力的なタクティクスなんだ…。もしも今の攻撃が直撃してたと思うとゾッとするね…。」
吹雪が茫然と立ち尽くす隙を突き、“蟻地獄”の一員と化していた南雲がボールを奪い返した。
一瞬の隙を突かれたものの間一髪の所で直撃は避けた吹雪は、“パーフェクトゾーンプレス”の恐ろしさと攻撃性をその身を持って実感する。
目金「まさかあんな凄いタクティクスを温存していたなんて…!」
木野「本当に凄い…!ビッグウェイブスもデザートライオンも強かったけどファイアードラゴンはその比じゃない…!どのチームよりも一歩も二歩も先を行ってるわ…!」
“パーフェクトゾーンプレス”の恐ろしさはフィールドの外に居る者達にも伝わっていた。
主将の号令を起点に目にも止まらぬ速さで選手を囲み、思考の入る余地すら与えずに一気にボールを奪い取る…。
一見するとビッグウェイブスが使用した“ボックスロックディフェンス”に通ずる所のあるタクティクスだが、その完成度はあちらとは比較にならない。
南雲「しゃあ!こっから仕切り直しだ!俺様の炎に焼かれてぇ奴は前に出な!!盛大に燃やしてやっからよォ!!!」
涼野「フッ、なんだその台詞は?本体の知能の低さが滲み出てるぞ?」
南雲「んだとコラ!テメェの痛い台詞よりかは遥かにマシだろうが!」
涼野「なんだと!私のセンスにケチを付ける気か!」
紅蓮の炎をその身に宿す南雲晴矢と、凍てつく闇をその身に宿す涼野涼介。
まるでコインの表と裏の如く決して相寄る事の出来ない両者はこの場においても自分達のペースを崩さない。
南雲がプレーをすれば涼野はそのプレーにケチを付け、涼野がプレーすれば南雲はそのプレーにケチを付ける…。
側から見れば致命的なミスマッチとすら思えるこの2人…。だが奇妙な事にそのミスマッチこそが両者の仲を繋ぎ止める“接着剤”と化していた。
王将『これは前代未聞の展開だァァァ!!!この角馬王将ッ!長年年代問わずに実況者として活動しておりますが口喧嘩しながらプレーを続ける選手を見たのは初めてだァァァ!!!奇妙な事に仲間割れとさえ思えるプレーが見事な連携に昇華されているぞォォォ!!!これは一体どういう事だァァァ!?』
南雲と涼野の両者には自分達が連携を行っているという自覚は一切無い。
南雲のキラーパスには明確に涼野に対する殺意が籠っており、涼野のドリブルには南雲を置き去りにしようとする悪意が込められている。
エイリア時代から続く両者のライバル意識と単独では突破出来ないイナズマジャパンのディフェンスが合わさった結果、偶発的に連携が成り立っているに過ぎないのだ。
それでも偶然の産物とは言え連携は連携。単体でも十分すぎる突破力を持っていた両者が手を組んでしまえば、まさに“鬼に金棒”。
イナズマジャパンの脅威となるには十分すぎる代物だった。
風丸「ディフェンス!絶対に南雲と涼野からボールを奪うぞ!稲魂じゃ奴らのシュートは止められない!俺達が抜かれる事は失点と同義だと思え!!」
雷牙「わーお、見事なまでのド正論〜。まあ事実陳列罪だから執行猶予で許してやっか。」
イナズマジャパンには知らされていないが、今回の試合にて雷牙がキーパーとして採用された最大の理由はDFの意識改革。
その狙いは見事に的中し、DFのパフォーマンスはこれまでの試合と比較すると50%以上も向上していた。
だが、パワーアップしたDFを持ってしても南雲と涼野を止める事は簡単ではなかった。
その時…
雷牙「ーー!! ディフェンス!アフロディが来てる!」
風丸「ナイス指示だ!稲魂!」
アフロディ「おっと。バレちゃったか。」
チャンスウ「…ほぅ?あのキーパー…実力は今一つですが勘だけは一級品のようですねぇ…。」
南雲と涼野の連携にDFの意識が集中する中、雷牙はアフロディが息を潜めてゴール近くまで潜伏している事に気づき急ぎDFに指示を送る。
恐らくチャンスウの狙いは南雲と涼野に意識を集中させ、伏兵として忍ばせたアフロディに点を取らせる算段だったのだろう。
ギリギリの所で雷牙の勘により破綻するも、依然として南雲がボールを保持している事実は変わらない。
南雲「感謝するぜ!テメェを直接ぶちのめせる機会をくれたお前らの監督によォ!!“アトミックフレアA”!!!」
南雲のオーバーヘッドキックにより繰り出された原子の炎が隕石の如き様相で、天より燃え落ちる。
雷牙「あんま俺ちゃんを舐めんなよ!来やがれ!“雷鳴の覇王 レグルス・マキシマム”!!!」
“マジン・ザ・ハンド”では止めきれないと判断した雷牙は化身を発動し、覇王の大斧を振り下ろす。
黄金色の大斧は原子の炎を一瞬にして掻き消し本体の右手にボールを収めさせる。
雷牙「ハァ…ハァ…!チッ!骨にまで衝撃が来やがった…!全身がビリビリしやがる…!」
南雲「おいおい!化身を使ってもその程度かァ?まだ俺はこれっぽっちも本気を出していないんだぜェ?もっと俺を楽しませてくれよォ!!」
雷牙「ハッ!そういう皮肉は点を取ってから言いやがれってんだ!!」
……………
…………
………
……
…
なんとかギリギリの所で失点の危機は脱したイナズマジャパンであったが、ベンチにて彼らの動向を見守っていた響木は僅かに青い顔をする。
響木「むぅ…マズいな…。」
立向居「マズい?何がですか?」
響木「今の一連の攻撃でアフロディ、南雲、涼野ならば化身を使わずとも時間を掛けさえすれば稲魂を破れる事をチームに示してしまった…。つまり…」
冬花「ファイアードラゴンは攻撃に体力を温存できる…そういうことですね?」
韓国の守護神・ジョンスと日本の守護神代理・雷牙。
仮にジョンスのキーパーとしての実力を点数で可視化するとしたら、10点満点中9点…いや10点だって付けられる。それ程までに高い実力を持つ名キーパーだ。
それに対して雷牙はどうだ?純粋な実力は6〜7点、化身を使用して初めて8点代に到達出来るか否かのレベル…どう甘く見積もって世界の平均点には届かない。
ましてや雷牙が一試合に化身を使用出来る回数は精々4〜5回が限度なのだ。必殺タクティクスにより防戦一方の展開が続いている以上、体力レースで敗北するのは雷牙が先だろう。
このままではイナズマジャパンは必ず負ける…そう雷牙がキーパーのままでは。
円堂「久遠監督!お願いします!俺を試合に出してください!雷牙じゃアフロディたちのシュートを止めることは出来ません!このままじゃイナズマジャパンは負けます!世界に行くことは出来ないんですよ!」
円堂はまだキャプテンとしての答えを出せていない。しかし、どうしても祖父が待っているであろう世界の舞台に行きたい円堂はこの状況を見て見ぬフリをする事は出来なかった。
それに対しての久遠の答えは…
久遠「駄目だ。この期に及んでまだそのような事を言うお前を出す気は無い。大人しく試合を見ていろ。」
円堂「そんな…!」
立向居「ならせめて俺を出してください!円堂さんよりは役不足かもしれませんけど…稲魂さんがフィールドプレイヤーに戻れば必ずこの状況を打開してくれます!根拠は無いけどそんな気がするんです!」
久遠「…円堂よりかはマシな理由だがそれでも駄目だ。私は稲魂を交代させるつもりは無い。…
円堂と立向居の懇願すらも、含みを持たせた返答で一喝する久遠。果たして彼の真の目的は何なのか?
…
……
………
…………
……………
取り敢えず雷牙の活躍により、失点こそ抑えたものの試合の戦況は完全にファイアードラゴンに傾いていた。
DF陣が必死の思いでボールを奪取しても、即座にタクティクスにより奪い返される
辛うじて防衛戦こそは突破されていないものの、ただただ体力と時間だけが削られていく状況…。
既にフィールドは火龍の支配下に置かれていたのだ。
チャンスウ(強固なイナズマジャパンのディフェンス…。だが…既に“穴”は見つけてある…。…あとはそれが罠では無い事を祈るだけですね。)
ファイアードラゴンの3トップに厚いマークが付け始められた事を起点に、これまで観察とパスに徹していたチャンスウは自ら攻め始める。不思議な事に周囲にフォローを付けずに単独で…。
その瞳の奥に映っていたのは、焦燥の汗が額を流れる1匹の鷹だった。
飛鷹(来た…!他のメンバーには味方のマークが付いている以上、簡単にはフォローに入れない筈…。つまり今の動けるのは奴1人だけ…!いける…!絶好のチャンスだ…!タイマンなら俺は絶対に負けねぇ…!!!)
活躍する絶好の機会を得た飛鷹は、浅い経験だけを頼りにチャンスウ目掛けて走り出す。
雷牙「おい飛鷹!戻れ!それは罠だ!!オメーは
直前でチャンスウの狙いに気づいた雷牙は飛鷹に戻るように指示を飛ばすも、その言葉が今の飛鷹の耳に届く事はなかった。
飛鷹「俺は絶対に活躍しなくちゃいけないんだ!!俺を信じて犠牲になってくれた鈴目達の為にも!!」
顔に焦燥を浮かべながらチャンスウに襲い掛かる飛鷹。確かに飛鷹は喧嘩は無敗なのだろう。
身体の前方部のみに付けられた古傷の数々は“蹴りのトビー”が築き上げた無敗伝説を雄弁に物語っている。
だが無敗なのはチャンスウとて同じだった。彼は決して他人に拳を繰り出すような真似はしない。それでも彼がこの世に生を受けてから一度たりともありとあらゆる分野で遅れを取った事はない。
百戦錬磨の龍からしてみれば稲妻町最強の不良も哀れな道化師でしかなかった。
チャンスウ「フッ、なんですか?その無様なプレーは?まるでこの世に生を受けたばかり雛鳥みたいじゃないですか。その程度で龍に挑もうとするなど……100年早いわ!!」
開眼したチャンスウは右脚に炎を纏わせ、ボールを介して飛鷹の身体に幾度なく衝撃を叩き込む。
チャンスウ「“エンドレスサマー”!!」
飛鷹「ぐぁああああ!?」
雷牙「飛鷹ーーッ!!!」
あまりに強い上方向からの衝撃により、宙を舞う飛鷹。その圧倒的な脚力を持って、数多の不良を蹴り倒してきた“蹴りのトビー”にとって自身が宙を舞う事は初めての経験だった。
チャンスウ「おっと私とした事が少々攻撃的になってしまいましたね。アフロディ、後は任せます。」
飛鷹を突破したチャンスウはヒールリフトでボールを天高く上げる。その行き先には既にイナズマジャパンのマークを抜けた天使が黄金の翼をその背に宿し待ち構えていた。
アフロディ「問おう稲魂君。君は神々の福音を聞いた事があるかい?」
金色の天使はボールに膨大な量のオーラを纏わせ踵落としを叩き込む。そして静かに呼ぶのだ 新たな領域へ至った神の一撃…その新名を。
アフロディ「“ゴッドブレイク”。」
これまたなんという矛盾であろうか。“神”を自称する者が“神の崩壊”を意味する一撃を放った。これを矛盾と言わずに何と言おうか。
風丸「DF集まれ!俺達がシュートの威力を削いで、少しでも稲魂の負担を減らすんだ!!」
『了解!』
“ゴッドノウズ”とは比較にならない威力を肌で感じ取ったDF達はマークを解き、シュートの前に立ちはだかる。
全てはこの身を犠牲にしてでもゴールを守る為に。その想いはシュートの進路に障壁…いや自然災害を発生させる。
風丸「“スピニングフェンス”!」
壁山「“ザ・マウンテン”っス!!」
土方「“スーパー四股踏みV4”!!!」
次々と繰り出されるイナズマジャパン屈指のDF達の必殺技が炸裂し、神の一撃の前に立ちはだかる。
だが彼らが立ち向かおうとしている一撃は文字通り神すらも屠る。
その一撃の前には人の手で創り上げた災害すらも皆等しく無力でしかなかった。
「「「グァァァァ!?」」」
雷牙「オメーらの犠牲は無駄にしねェ…!!“マジン・ザ…!ハンドォォォォ”!!!」
犠牲となった仲間の想いを引き継いだ守護神代理は、その背に白金のマジンを顕現させ、神殺しの一撃を受け止める。
だがストライカー同士の実力は互角でも、ストライカーとキーパーとしての実力は隔絶した差があった。
神殺しの一撃の前には、神を超えた魔神すらも敵ではなかった。
雷牙「クソッ…!タレが…!」
ピッー!!
王将『ゴォォォル!!!これまで無失点記録を樹立していたイナズマジャパン!!だが遂に韓国の美神によって無失点記録が破られてしまったァァァァ!!!これで両者の得点は1-1!イナズマジャパンのリードも消滅だァァァ!!!』
圧倒的な実力を見せつけたアフロディに会場は静まり返る。
この静寂が“驚愕”による物なのか“恐怖”による物なのかは分からない。
ただその静寂の中で美の女神は静かに呟くのだ。
アフロディ「取り敢えず…FFでのリベンジは果たせたかな?」
金色の挑発を靡かせながら、自陣へ戻りし美の女神。その顔には麗しき微笑が浮かべられていた。