なんちゅーか、ある意味雷牙以上のトラブルメーカーだから話に絡ませ難いんですよね。木暮自体は割と好きなんだけど。
現在の日付時刻は、イギリスとの激戦を終えた日の夜。
イナズマジャパンの面々は既に眠りに付いており、代表宿舎には1室だけしか明かりが付いていない状態だ。
その中で、グラウンドで月明かりに照らされながら特訓を続ける少年が居た。
立向居「ハァ…ハァ…!こんなんじゃダメだ…!もっと…!もっと…強くならないと…!」
少年の名前は立向居勇気。イナズマジャパンのサブキーパーを務める選手であり、日本最強のGKたる円堂をも超える才能の持ち主と噂される期待のルーキーだ。
…だが、今の彼を見るとお世辞にもその内に円堂を超える才能を秘める者とは思えない。
まるで、何かに追われるかのように表情に焦燥感を浮かべながらガムシャラに特訓を続ける姿は、実に頼りないのだ。
一体彼は何を焦っているのだろう?
その答えを知るには、数時間前に遡らなければならない。
……………
…………
………
……
…
雷牙「だからよ〜俺ちゃんは思うんだ。ハシゴと脚立で論争が起こるのなら、いっその事“キャシゴ”に統合すりゃあ、もっと世界は平和になるんじゃねェかって」
円堂「…名前を統合しても、元の本質が違うから論争は続くんじゃないか?もっと本質を見ようぜ?」
一進一退の激戦を制し、見事ナイツオブクイーンに勝利したイナズマジャパンは、ある者は今日の試合で得た学びを仲間と共に共有し、またある者は何気ない世間話を交わしながら控え室へ戻っていた。
そこに…
立向居「お疲れ様です!円堂さんっ!!稲魂さんっ!!」
円堂「おっ!立向居もお疲れさん!」
イナズマジャパン1の後輩キャラこと立向居が、円堂と雷牙を出迎える。元々、円堂と話している最中はテンションの高い彼だが、今の立向居はいつも以上に興奮している様子だ。
雷牙「なんだなんだ〜?いつも以上に元気が良いじゃねェ〜か〜?もしかしなくても守の新技に触発されたか〜?」
立向居「“イジゲン・ザ・ハンド”を初めて見た瞬間…俺、感動しましたっ!!!だってあんな凄い必殺技、見たことありませんから!!!」
円堂「えへへ〜///照れるな〜///…けど、まだまだこれからだ!こっから更にパワーアップして、もっともっと強くなるんだ!」
立向居「はいっ!!俺も円堂さんに追いつけるように頑張りますっ!!」
雷牙「ハッ!その意気だッ!」
円堂に触発された立向居は、少しでも早く円堂に追いつく為に、更なる特訓に力を入れる事を心に決め、尊敬する先人達を見送る。
その時だった…
???「そういえば…」
立向居「ん…?」
視界の外から、幼少期のトラウマにより生涯かけても治る事のない捻くれた声が聞こえる。
だが、周囲を見渡して誰も居ない。それでも声は聞こえるし、人の気配も存在する。
恐らく、声の主は余程小柄なのだろう。立向居も薄々その正体を察しているものの、最後の確認として下を見る、すると扉の影に隠れていたのは案の定…
立向居「木暮くん?」
木暮「立向居って自分の技じゃなくて、キャプテンの技の真似ばっかだよね〜!」
立向居「え…」
木暮「ウッシッシ〜!」
あの雷牙すらも超える日本代表トップクラスの問題児こと木暮は、独特な笑い声でその場から逃走する。
立向居「円堂さんの…真似…」
恐らく今の発言は木暮にとって、挨拶代わりのような物でありそこまで大きな悪意は込められていなかったのだろう。
しかし、その余計な一言が生真面目な立向居を大いに苦しめる事になるとは、本人ですらも予測していなかった。
…
……
………
…………
……………
立向居「悔しいけど…木暮くんの言う通りだ…。俺には自分だけの必殺技がない…。自慢の“ムゲン・ザ・ハンド”も世界相手には通用しなくなってる…」
イナズマジャパンの正GKは円堂だ。故にサブキーパーである立向居は、予選を含めてまだ一度も世界のレベルを経験していない。
だが、彼は直感的に“ムゲン・ザ・ハンド”は既に世界に通用する必殺技ではなくなっている事を理解していた。
何せ、何度想像しても、世界のストライカー達のシュートを“ムゲン・ザ・ハンド”で止めれるビジョンが浮かばないのだ。
立向居「このままじゃダメだ…!俺も…!俺だけの必殺技を編み出さないと…円堂さんはおろか…
立向居の脳裏に浮かぶのは、少女と見間違う可憐な容姿とは裏腹に、円堂に匹敵する実力を見せつけたもう1人の“怪物”の顔だった。
立向居「ライトさん…」
“怪物”の息子・稲魂雷斗。
立向居の師である雷牙の義兄にして、現在はイタリア代表のゴールを守る者だ。
立向居「俺が世界で1番尊敬するキーパーが円堂さんなら…!ライトさんは世界で1番勝ちたいと思うキーパーだ…いや、
エイリア学園最強のチーム、ザ・ジェネシスの決戦前に立向居は腕を負傷し、ライトにゴールを託して戦線離脱した。
あの選択自体に後悔は無い。寧ろ、あの決断があったからこそ自分は世界舞台に立てているとさえ思っている。
だがそれは、自分では彼に勝てないと認めているのと同義なのだ。
例え自分が怪我をせず、あのまま雷門のゴールを守っていたとしても彼のようにグランからゴールを守る事が可能だったのか?
答えは…
立向居「無理だ…。あの時の俺の実力じゃ…グランどころか、ウルビダたちの“スーパーノヴァ”を止めれたかすら怪しい…」
世界の“未来”を懸けたあの一戦…。
文字通り運命の歯車が1つでも噛み合わなければ、最悪の結末を辿っていたであろう。
…だが、その運命の歯車の輪には、最初から立向居は存在していないのだ。
その日から、立向居はライトを強く意識するようになった。
常に尊敬して止まない円堂の背中を追いかける事だけを考えるが故に、闘争本能がやや弱い彼にとって、心の底から誰かに勝ちたいと思うのは初めて経験だった。
立向居「もっと強くなりたい…!円堂さんみたいに…胸を張ってゴールを守れるキーパーになりたい…!」
“強さ”への欲求が高まる度に、“あの言葉”が脳内を木霊する。
“雷帝”『もっと欲張れ傲慢になれ。傲慢とは強者だけの特権だ、君にはその“権利”がある』
嵐のように現れ、そよ風のように去っていった謎の監督こと“雷帝”は、“傲慢”こそが強者の特権だと言った。
見るからに胡散臭く、経歴も一切不明であり、ロクに監督業務を行わなかった者の言葉は、何故か立向居の頭に強く残り離れない。
立向居「…やっぱり……俺には無理だ…。傲慢になんてなれる訳がない…」
“雷帝”の言葉に一定の理解と正当性は感じるものの、立向居の人間性的に彼が“傲慢”になる事は、机上の空論すらも成立しない程、不可能だ。
結局、何者にもなれない立向居は、
すると…
久遠「消灯時間はとっくに過ぎている筈だが?」
立向居「監督…!」
監督室で業務を行っている筈の久遠が、グラウンドに現れた。
次戦のアルゼンチン戦まで時間が無い中、監督の業務を邪魔してしまった事に対して、負目を感じてしまった立向居は、叱責を受ける覚悟を決める。
だが、目の前の久遠の顔には怒りも無ければ、呆れも無い。ただただポーカーフェイスを貫いている。
立向居「…監督、どうしてあなたは日本代表のサブキーパーに俺を選んだんですか…?」
沈黙に耐えきれなかった立向居は、心の奥底に秘めていた不安を口に出してしまう。
それに対しての久遠の返答は、実にシンプルな物だった。
久遠「お前が必要だからだ」
立向居「ッ…!」
選手の実力を“ゴミ”と評する辛口評価が
だが、今の立向居には素直に受け止められない。心に余裕が無いあまり、もしもライトがイタリア代表ではなく、日本代表を選んでいれば自分はこの島には居ないとさえ思ってしまうのだ。
立向居「…でも。俺の力じゃ、まだまだ円堂さんのように日本ゴールは守れない…」
久遠「お前がそう思っている以上は、守れないだろうな」
立向居「…そうですよね…。気持ちで負けてちゃ…勝てる試合も勝てないってことは分かっているんです…。…迷惑おかけしてすみません、今日はもう帰ります…」
久遠の淡々とした助言を受けても、吹っ切れない様子の立向居は顔いっぱいに申し訳なさを浮かべながら頭を下げ、その場から立ち去ろうとする。
久遠「…立向居、私から言える事は1つだけだ。『とにかく悩め』、悩む事が出来ない選手に成長は無い」
立向居「…はい。その言葉…心に刻んでおきます…」
選手への助言を一言で済ます久遠にしては、非常に珍しい二言目の助言。
しかし、立向居はそれに対し、弱々しい返事を返す事しか出来なかった。
<2日後>
立向居「でりゃあ!!!」
1日の休息を挟んだイナズマジャパンは、次戦にアルゼンチン戦に向けて激しい特訓に励む中、立向居は練習が終わった後も自主練に励んでいた。
立向居「よ、よし…!だいぶ反応が速くなったぞ…!けど…」
特訓内容自体は、日本から持って来たガトリング砲から射出されるシュートを止める…ただそれだけ。
シンプルながらもこの特訓を繰り返す事で、円堂は大きく成長した。その特訓方法は立向居にも受け継がれているというわけだ。
その効果は絶大であり、僅か1日の特訓でも着実に成果が現れている。立向居自身もその成果を噛み締めているが、表情にはどこか暗い影がある。
立向居「まだ円堂さんには遠く及ばない…。…踏ん張れ立向居勇気!円堂さんだって、たくさん努力して今の強さを得たんだ!こんな所で立ち止まってる場合じゃないだろ!」
それでも、自分で自身を鼓舞する事でなんとか暗い影を打ち消した立向居は、手に持っているリモコンでガトリング砲を操作し特訓を再開しようとする。
すると…
ガシャ!!
立向居「ん…?」
突如、何かがフェンスとぶつかった音が耳に届き立向居の身体を止めてしまう。
しかし、少しおかしい。このグラウンドは宿舎から少し離れた所にあり、それに加えて今日の自主練は誰にも伝えていない筈である。
にも関わらず、 疑問を覚えてしまう。
謎の来客の正体が気になった立向居は視線を音の鳴った方向へ移す。そこに居たのは…
立向居「音無さん…!?」
音無「ご、ごめんなさい!別に覗き見するつもりしゃ…」
何故か、ここに音無が訪れている事に驚く立向居。
…だが、立向居は忘れていた。今は特訓の途中、そしてガトリング砲は既に
ドカーン!!!
立向居「ぐへぇ!?」
音無「立向居くーーん!!!?」
機械に感情はなく、ただ与えられた命令を淡々と実行するだけ。
最高レベルに設定されたガトリング砲の弾丸は、無慈悲にも鳩尾に直撃し立向居を盛大の吹き飛ばすのだった。
……………
…………
………
……
…
音無「…つまり、円堂さんに由来しない必殺技を完成させる為に誰にも言わずに自主練をしてたってこと?」
立向居「…まぁ、大体そんな感じ…」
治療の為に練習を中断した立向居は、音無に促されここまでの経緯を掻い摘んで話す。
音無「そんなことないわよ!今までの技だって、全部の立向居君の特訓の成果でしょ!!そもそも今まで誰も真似だって言ったことはないじゃない!」
同じ1年生として、誰よりも立向居の頑張りを見て来た音無は、彼の悩みを強く否定するも、それでも立向居の表情は晴れない。
音無「…もしかして、誰かに言われたとか?」
立向居「ーー!!! い、いや〜…」
音無「言・わ・れ・た・の・ね?」
立向居「うう…」
自身の悩みの発端となった者の名を言ってしまえば、彼がどんな目に遭うのか容易に想像が付く故に、立向居は口籠ってしまう。
だが、とことん押しに弱い立向居が、目の前の兄の面影を見せるの力強い目で問い詰める少女に勝てる筈もなく、遂にその名を言ってしまう。
立向居「こ、木暮くんに…」
音無「やっぱりあの子ね!まったく後でお説教しないと…。ーーあっ!そうだ!ちょっと待っててね立向居君!すぐに戻って来るから!」
立向居をここまで追い詰めた木暮に対して怒りを燃やしつつも、何かを良い案を思いついた音無は、勢いよくグラウンドから飛び出し宿舎へ向かう。
果たして彼女の秘策とは……?
<数分後…>
音無「とゆーわけです!さぁさぁ稲魂さん!立向居君にご教授お願いします!」
雷牙「オーケー!大体の事は分かった!この稲魂雷牙…もとい!自縛猫鈴にぃ〜!あっ、お任せあれェ〜〜!!!」
木暮「ぼ、暴力…反対…。ガクシ…」
音無によって連れて来られたのは、何故か自縛猫鈴の恰好をした雷牙と頭に大きなタンコブを作って首根っこを掴まれている木暮だった。
音無が思いついた秘策とはズバリ、円堂で駄目なら雷牙に頼む事。
めんどくさがり屋かつ気分屋である雷牙も、弟子の悩みとあってはジーっとしてはいられなかったようで、音無の頼みを快く了承しこの場に参上したというわけだ。
立向居「で、でも…!俺なんかのために稲魂さんの時間を使うわけには…!」
雷牙「い〜んだよ、俺ちゃんはオマエちゃんのお師匠さまだかんな〜!弟子が困ってたら助けんのが師匠ってモンだろ〜?」
立向居「稲魂さん…!」
先日の食い倒れ度の際におかしなモノでも食べたのか、やたらと人が良い反応をする雷牙に対し、立向居は感激のあまり目尻に涙を浮かべてしまう。
音無「ホラ木暮君!伸びてないで立向居君に謝りなさいよ!」
木暮「だって本当のことじゃ〜ん!それに俺のおかげで特訓のキッカケになったんだし、別にい〜だろ〜!」
音無「こ〜ぐ〜れ〜く〜ん〜!!」
立向居「いやいや!もういいんだって!木暮くんの言う通り、あの言葉のお陰で特訓のキッカケが生まれたんだから!」
木暮「…まぁ、俺もちょっとは悪かったよ。…ごめんな」
雷牙「コレで、めんどくせェイザコザは終わりってこったな。うっし!そんじゃ特訓を始めよーぜ!」
木暮の謝罪を見届けた雷牙は、恒例の稲魂ステップを開始しこれから始まる立向居の特訓に備える。
すると……
???「その特訓、俺らも混ぜてもらおうか!!」
???「同じ1年なのに、俺たちだけ仲間外れは水臭いっスよ!」
非常に聞き覚えのある2つの声が、特訓の開始を妨げフェンスの外から現れる。その正体は……
立向居「壁山くん…!熱也くんも…!」
グラウンドに現れたのは、同じ1年である壁山と熱也だった。本人曰く、音無が凄い勢いで木暮を連れて行くから気になって付いて来たそうだ。
壁山「今の話全部聞いたっス!それで思ったっス!立向居くんの必殺技をみんなで作るんスよ!」
熱也「なんか面白そうだからよ!この熱也様も手伝ってやるぜ!!」
立向居「みんなで…?」
雷牙「いいんじゃねェか?そもそも立向居は1人で必殺技を完成させる事に拘りすぎてたみたいだしな〜」
立向居「確かにそうだ…!俺、円堂さんと違う必殺技を編み出すことを意識しすぎて大切なことを忘れてた…!」
彼が尊敬する円堂も、1人の力で数々の必殺技を習得したわけじゃない。そこに居る雷牙を筆頭に仲間達の力を借りながら、険しい道のりの果てに必殺技を完成させていたのだ。
木暮「いいね〜!スゴいね〜!頑張ってね〜!持つべきモノは友ってことだよね〜!よかったな立向居!あとは頑張ってn…ウギャ!?」
音無「どこに行くのかな〜?木・暮・ク・ン?」
どさくさに紛れて練習から逃げようとした木暮だったが、音無の腕によりまたしても首根っこを掴まれた事で、呆気なく阻止される。
木暮「いや〜…俺はDFだし〜…あまりお役には立てないかな〜って…」
音無「これ以上駄々をこねるなら、或葉さんに報告するわよ」
木暮「うわー!急にやる気が出てきたなー!よーし!立向居!頑張ろうぜー!」
或葉の名前が出された途端。目にハイライトが消え、感情が一切こもっていない棒読みと共に偽りのやる気を引き出した木暮も、立向居の特訓に参加する事となる。
雷牙「よっしゃァ!!只今より!立向居の新必殺技を完成させて、ついでにイナズマジャパンの戦力増強を図っちゃおう大作戦!開始ーーッ!!!」
「「「「おおーーっ!!!」」」」
立向居「皆さん…!ありがとうございます!!!」
こうして、1年+αによる立向居強化計画が幕が開けた…!
雷牙「とりま最初にする事は、その必殺技に対する具体的なイメージだな!」
立向居「イメージですか…」
雷牙「なんでもいいぜ〜?守から離れたいんなら、武器とか動物とかをメインにするといいかもな〜。あっ!なんなら、奇を狙ってダイアモンドとk「あっ、そっち方面は無しで」そっか…」
“ファイアトルネード”しかり“キングレオーネ”しかり、具体的なイメージが頭に中に無ければ必殺技は完成しない。
それ故に、立向居の脳内に朧げに浮かんでいる新必殺技のイメージを定着させる事が急務なのだ。
立向居「…具体的なイメージってわけではないんですけど、やっぱり俺が目指すべきは沖縄で発動出来た“あの必殺技”だと思うんです…」
雷牙「沖縄…?なんかあったっけ?」
熱也「ああ〜!アレかー!ホラ!暴走した砂木沼のシュートを止めた時の必殺技だろ?」
立向居「そう!それ!!」
皆の脳裏に浮かぶのは、沖縄にて行われたイプシロン・改との試合で、立向居が見せた謎の必殺技。
未完成故にその全貌を見る事は叶わなかったものの、未完成の段階でもその威力は凄まじく、エイリア石の中に潜んでいた“亡霊”により大幅にパワーアップしたデザームのシュートを止めてみせた程だ。
壁山「…けど、アレはなんで言えばいいんスかねぇ…?どことなく“マジン・ザ・ハンド”に似ている気もするっスけど、決定的に何かが違う気もするっス…」
木暮「ウッシシ!あの時の立向居、超怖かったからな〜!『雷門のみんなをバカにするな〜!』って言ってさ〜!」
立向居「そ、そうだっけ…?あんまり覚えてないや…」
雷牙「うっし!とりま方向性は決まったな!それじゃ練習開s(グウゥゥゥ~!!!」
ようやく第一歩を踏み出し、ここからが本番という所で雷牙の腹部から怪物の唸り声の如し腹の音が鳴り響く。
雷牙「…と思ったけど、練習は明日からにすっか。腹が減っては何とやらって言うしな」
雷牙の鶴の一声により、今日は解散する事となり練習は明日へ持ち越されてしまう。
こうして、立向居勇気の新たな挑戦の1日目は幕を閉じたのだ。
<翌日>
熱也「“エターナルブリザードA”!!!」
立向居「グワァァァ!!!くっ…!もう一度…!」
早朝から集合し、音無特製のおにぎりを食べた一行は、ひたすら立向居と1対1のPKを続ける。
朧げながらも僅かに固まったイメージを元に、必殺技を繰り出そうとする立向居だが、何度やっても一向に新必殺技の『し』の字も見えてこず、ゴールネットに叩きつけられるだけだ。
立向居「今更なんですけど…。雷牙さんと熱也くんは新しい必殺技を作る際に何を意識しているんですか?」
練習の合間の休憩時間中、立向居は雷牙と熱也に新必殺技を生み出す際のコツを尋ねる。
雷牙「あ〜ん?そりゃあアレよ。ズッバーンとして、ドーンよ」
熱也「雪崩のように激しく駆けて、狼のように激しく喰らいつく!…くらいしか言えねぇな」
木暮「なんだよそれ…全っ然意味分かんねー」
立向居「アハハ…」
期待していた物とは遥かに程遠い答えを渡された立向居は、乾いた笑いしか上げる事が出来ない。
そもそも、この2人は物事を理性で把握する事が苦手な分、感覚で物事を覚える事に長けているタイプなのだ。
一方で立向居はその逆の理性で把握するタイプ…。要するに教えをこうにはミスマッチがすぎるのだ。
雷牙「クッソ〜…誰か居ねェかな〜…?FWに匹敵するキック力を持ってて、俺らよりも柔軟な思考を持つようなヤツ…」
熱也「いっその事、兄貴も誘った方が良かったか…?…いや、ダメだな。兄貴が来たらもっとややこしくなる」
この惑星には“三人寄れば文殊の知恵”という諺があるも、どうやらここに居る6人はその例外のようだ。
どんなに唸りながら考えても、ロクな案が出てこずにただ時間だけが過ぎていくだけだ。
その時だった…
???「ヒャッホーー!!!」
雷牙「…ん?」
木々を揺らす風と共に、聞き馴染みのある声が周囲に木霊する。
音無「稲魂さん…!見てください…!あの人は…!」
雷牙「アイツだーーッ!!!おーーい!!!綱海ーーッ!!!ちょいとカモーーンッ!!!」
グラウンド近くの海には、早朝からノリノリでサーフィンに興じる綱海の姿があった。
……………
…………
………
……
…
綱海「よしッ!!!立向居達の気持ちはよーーく分かったッ!!!俺の必殺シュートをドーンと受けて強くなれッ!!!」
立向居「ありがとうございます!!!綱海の胸…お借りしますっ!!!」
こうして綱海の助力を得た雷牙達は、改めて現状の課題を説明し、彼に助言を求める。
綱海「よし!だったら俺が決めてやる!“無限”を超えた先にあるのは…!」
「「「「「ゴクリ…!」」」」」
綱海「ズバリッ!!“魔王”だッ!!」
立向居「ま、魔王…!つまり…“魔王・ザ・ハンド”ってことですね…!」
熱也「おお〜!中々強そうな技名じゃねぇか!」
木暮「けど“無限”の次は“魔王”か…?」
“無限”の次は“魔王”という、綱海の超次元的な発想により遂に新必殺技のイメージが完全に決まった。
…だが、雷牙・壁山・音無の3人は“魔王”という言葉を聞いた瞬間から何故か首を傾げている。
雷牙「“魔王”…。ん?な〜んか強烈なデジャブを感じるような…ないような…?」
壁山「稲魂さんもっスか?俺もなんかデジャブがあるんスよね〜…。FFの頃に会ったことがあるような…?」
音無「なんかこう…綺麗な青髪で…やたら稲魂さんにそっくりだったような…?」
突如脳内に浮かび上がった、存在しているようでしていない記憶の数々に対し困惑している3人だが、すぐに単なる偶然という事で済ませ早速特訓に移る。
<数日後>
雷牙「いくぜッ!!立向居ッ!!」
立向居「はいっ!!!お願いしますっ!!!」
新必殺技のイメージが完成してもそう上手くはいかない。あれから数日が経過し、アルゼンチン戦もすぐそこまで来ているものの、未だに立向居の必殺技は完成していない。だが、間違いなく前進している。
雷牙「“プラチナギャラクシーV3リャァァァ”!!!」
立向居「ウォオオオオ!!!“魔王・ザ・ハンドォォォ”!!!」
白金の魔神から放たれる一撃を受け止めんと、立向居はその身体から紫のオーラの発生させ魔王を降臨させようとする。
綱海「いいぞ立向居!その調子だッ!!!」
立向居「ウォォォォォ!!!」
徐々にコツを掴み始めてきた立向居は、今度こそ特訓に付き合ってくれる仲間達の期待に応える為に、魔王の完全なる降臨を目指す。
だが、当の魔王は立向居の想いに応える事なく、一瞬でその身を飛散させる。
立向居「グァァァァァ!!!」
雷牙「おっと…コイツはちょいヤベェかも…鳩尾入ったし」
無防備の状態で、最強クラスのシュート技をモロに受けてしまった立向居はダメージの余り、簡単には立ち上がれずその場にうずくまる。
雷牙「オイ立向居ッ!大丈夫か!?」
立向居「だ、大丈夫です…!…けど、後一歩で完成しそうなのに…何が足りないんだろう…?」
ダメージよりも、後一歩の所で答えを見いだせない現状に対して不満を抱いている様子だ。
雷牙「…俺思ったんだけどよ〜。立向居に足りねェのは“怒り”なんじゃねェーか?」
立向居「怒り…?」
雷牙「ホラ!思い出してみろよ!“魔王・ザ・ハンド”を始めて発動させた時はさ、オメーめっちゃくちゃ怒ってただろ?木暮だって、メッチャ怖い顔をしてたって言ってたくらいだし」
立向居「つまり…俺が本気で怒れば“魔王・ザ・ハンド”は完成するってことですか!?」
雷牙「まっ、希望的観測ではあるがな」
立向居「…だったら!皆さんにお願いがありますっ!!シュートを撃つ時、俺を怒らせてください!」
『…は?』
突然、おかしな事を言い出す立向居に対し皆は唖然としてしまう。まぁ、ここまでの話の文脈から必殺技完成の為である事は分かるが、そうじゃなかったら、そういう趣味を持っているとしか思えないから当然っちゃ当然だろう。
綱海「ハァ〜…あんま気が向かねぇけど…。ドジッ!!」
立向居「うぐっ!?」
熱也「ノロマ!」
立向居「うぐぐっ!?」
木暮「感情無し!!」
立向居「うぐぐぐっ!?」
壁山「おたんこなす!」
立向居「ぐはぁ!?」
立向居本人が望んだ事とはいえ、割と容赦のない辛辣な言葉の数々が、鋭い刃となって立向居のメンタルに突き刺さる。
雷牙「※※※〜(モノすっごい品のない言葉)!!!」
音無「稲魂さん…。流石にそれはライン越えですよ…」
雷牙の文字では表せないライン越えの煽りがキッカケとなったのか、立向居の身体からはこれまでとは比較にならない大量のオーラが発せられ、魔神とはまた異なる巨人を形作る。
綱海「おおっ!!それだよそれ!!沖縄で見たスッゲーの!」
雷牙「感情を爆発させろ立向居ッ!!レッツ※※※〜!!!」
木暮「最悪だ…。目の前に最悪の口悪モンスターが居るよ…」
立向居「ウォオオオオオ!!!」
追加の雷牙の悪口に呼応し、今度こそハッキリと魔王が降臨する……といった所で、突如魔王の姿はまたしても消失してしまった。
立向居「何も…そんなに言わなくてても…」
すると、今度は立向居が体操座りで背を向けてイジけている。どうやら火に油を注ぎすぎた結果、逆に鎮火してしまったようだ。
壁山「本気で落ち込んでしまったス…。木暮が言いすぎたから…」
木暮「ハァ〜!?稲魂さんの方が俺よりヤバいこと言ってただろ〜!?」
雷牙「おいおい?俺ちゃんのは謂わば愛の鞭ってヤツだぜ〜?」
熱也「愛は愛でも、偏屈愛だろ…」
立向居「…けど、本当の本当に後一歩の所までは来ました…!皆さん!もう一度お願いします!!!」
綱海「しゃあ!その意気だ!いくぜぇ!立向居ッ!!!」
数字に直せば、進捗率99.9%まで到達していると確信した立向居は、今度こそ“魔王・ザ・ハンド”を完璧にマスターする為に、仲間達と共に特訓に励む。
それから数時間が経過した……
雷牙「“ゴッド…!レグルスゥゥゥG2ッ”!!!」
立向居「止める…!“魔王…!ザ!ハンドォォォ”!!!」
本日幾度目かになる、不完全な魔王が降臨しその闇色の両手で、神聖なる獅子王の受け止める。
だが、これまた本日幾度目かになる魔王の消失が発生し、立向居は吹き飛ばされてしまった。
立向居「グッ…!もう一度お願いしますっ!!!」
雷牙「ハッ!!その心意気や
もう一度“ゴッドレグルス”を発動しようとした直前、何やら焦った様子の音無が割り込んで来た。
雷牙「どったの音無?そんなに慌てて」
音無「それが…日本宿舎に雷牙さんに連絡を繋いで欲しいという電話が届いたみたいで…!」
雷牙「俺に?こりゃア珍しいねェ、それで?電話主は誰だい?」
音無「電話主は…どうやらライトさんみたいです…!」
雷牙「んだと…?」
音無から兄の名前を聞いた雷牙は、顔色を変えグラウンドから立ち去る。
雷牙とライトはそれぞれ別の国の代表チームに所属している。故に、無用な疑惑を避ける為に、予めFFI中は連絡を取り合わないように決めていたのだ。
だが、兄がその約束を破ってでも自身に連絡を寄越してきた…それはつまり、余程の事が起こったに違いない。
壁山「…そういえば、今日の練習も鬼道さんが途中で抜けてたっスよね?」
熱也「あと円堂と佐久間もだな。不動に至っちゃ最初から練習に来てねーし」
今日1日だけで、立て続けに練習から離脱する者が続出している事に対して、何か嫌な予感を感じずにはいられない一同。
そして数分後、戻って来た雷牙によってその嫌な予感を確信してしまう事になる。
雷牙「…悪ィ、立向居。ちょっち、今からイタリア地区に行かなくちゃなんねェからよ。練習はまた今度だ、じゃあなッ!」
立向居「は、はい!」
何やら焦った様子でグラウンドから立ち去る雷牙を、立向居達はただ見送る事しか出来なかった。
雷牙「チッ!何だってこんな所でクソみてェなトラブルが起こるんだよ!?…無事でいろよ…!ライト!フィディオ!」
兄からSOSを受けイタリア地区へ向かう金色の“怪物”…。
今、イタリアの名を背負う戦士達は…闇よりも暗い“影”による魔の手に脅かされていた…。
実はライトをイタリア代表にさせたのは、コイツをイナズマジャパンに入れるといよいよ立向居の立場が無くなるっていうメタ的な事情があったり。下手すりゃ円堂の存在すらも食いかねんし。
色んな意味で強すぎるんです…!強すぎるんですよ…!パツキンのブラコンお姉ちゃん(♂)は…!
【オマケ】
雷牙「と〜こ〜ろ〜で〜?何で“無限”の次は、“魔王”なんですか〜?綱海パイセ〜ン?」
綱海「んなもん簡単だ!だって“マジン”って、悪魔の『魔』に『人』って書いて“魔人”だろ?“無限”で駄目なら初心に帰れだ!だから“魔人”の次の“魔王”を目指す!」
雷牙「え?」
綱海「え?」