イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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なんか…執筆中ずーっと、脳内映像に暗めのフィルターかかってたんだけど…マジでなんで?


Who are you?

 時は、イナズマジャパン対ジ・エンパイアとの試合が始まる少し前に遡る。

 

 影山の策略によって急遽予定が前倒しになって開催された両国の試合…。

 ジ・エンパイアは万全の状態で会場に降り立った一方で、イナズマジャパンは最悪のコンディションと言っても過言ではない。

 

 何せ、チームを率いる監督が協会から呼び出しを受けて以降、戻って来ないまま試合当日を迎えたのだから。

 つまり、イナズマジャパンはチームの柱である円堂達と監督が不在の状態でジ・エンパイアとの試合に挑まなければならないのだ。

 

 あまりに偶然で片付けるには、悪意を持った何者かによる介入を感じずにはいられないアクシデントの数々…。

 まだ試合が始まってすらいないのに、チームの士気はドン底にまで下がっていた。

 

 あの男が現れるまでは……

 

壁山「本当に良かったス〜!キャプテン達が間に合わないって聞いた時は焦ったっスけど、稲魂さんだけでも間に合ってくれて!」

 

染岡「まさかとは思うが…海を泳いで来たってわけじゃないよな…?…いや、流石の稲魂でもそれはないか…」

 

 最悪の空気中、ウミネコスタジアムに到着したイナズマジャパンの前に現れたのは、イタリア地区で試合をしている最中だった筈の雷牙だった。

 

 監督が不在の今、出来れば鬼道か不動が来てくれる方が望ましかったが、救援が来ないよりはよっぽどマシだ。

 円堂に匹敵するムードメーカーの登場に、イナズマジャパンに僅かに希望の炎が灯される。

 

雷牙「…まっ、色々あったんだよ…おっと、あったんだぜ〜♪さて!役者も揃った事だし、みんなー!え〜と…サッカーしちゃおうぜ…だっけ?…なんか違うな…まっ!どうでもいっか♪」

 

 絶妙にニュアンスの異なる円堂の名言を筆頭に、どこなくぎこちない話し方をする…言い換えると無理に雷牙の口調を真似ているように思える目の前の男に対し、一部の選手は何とも言えない違和感を抱く。

 

風丸「…気のせいか?稲魂の様子が少しおかしい気がするが…」

 

熱也「そうか?稲魂がイカれてんのはいつもの事だろーが。大方、日程変更を聞いて飛んで来たから、頭が冴えていつもより冷静にでもなってんだろ」

 

風丸「…だといいが」

 

 形容し難い違和感を覚えるとはいえ、その対象はあの雷牙だ。

 皆は、しょっちゅう変な薬でもやってるとしか思えない行動を連発する狂人ならば、急にキャラが変わってもおかしくないと結論付け、数分後に開始される試合に集中する。

 

 その中、今日の試合の正GKを務める立向居は雷牙の元へ駆け寄る。

 

立向居「稲魂さん!俺、この試合中に“魔王・ザ・ハンド”を完成させてみせますっ!だから…!ゴールは俺に任せて、稲魂さんは攻撃に集中してくださいっ!!」

 

 気弱な彼らしくない円堂を思わせる強気な発言は、恐らく立向居なりの決意表明だったのだろう。

 それを裏付けるように、彼に瞳に宿る光はやる気に満ち溢れている。

 

 しかし、目の前に男に立向居の覚悟は心に響かない。それどころか何故か訝しむような表情で立向居を見つめている。

 

立向居「あの…俺の顔に何か付いてます…?」

 

雷牙「いやさ…

 

 

 

 

 

 

……誰だっけ?キミ?」

 

立向居「……え?」

 

 「誰?」なるあまりに短く、あまりに残酷な言葉を耳にしてしまった立向居は、突然魂が抜かれたかのように固まってしまう。

 

綱海「おい稲魂!流石にそのジョークは笑えねぇーぞ!!お前を慕ってくれている後輩に向かって誰とはなんだ!!」

 

 いくら自分を慕う後輩に対してとはいえ、タチが悪いにも程がある雷牙のブラックジョークに対し、動かなくなった立向居の気持ちを代弁するかのように綱海は激昂する。

 

立向居「だ、大丈夫ですよ綱海さん…!俺は全然気にしてませんから…!きっと、稲魂さんも俺たちの緊張をほぐそうとしてくれているんですよ……多分…」

 

綱海「でもよ…!」

 

 綱海の抗議を受けて、なんとか立ち直る事が出来た立向居は雷牙を庇うが、言葉の節々からは内心では強いショックを受けている事を隠せていない。

 

雷牙「タチムカイ…タチムカイ……あっ、思い出した。うん、そうだ確かにキミはタチムカイだ。ココに来る前に読んだアーカイブの隅っこの方に載ってたね、確か

 

 あの温厚な綱海を激昂させた雷牙は、思い出したかのように立向居の名を呟くと、謝罪もせずに彼の肩を軽く叩きグラウンドへ向かう。

 最後の最後で誰にも聞こえない小さな声量で呟かれたその言葉は、まるで実際に会った事はなくとも、古い伝記か何かで情報を仕入れたかのような実に曖昧な反応だった。

 

豪炎寺「……」 

 

 立向居に対して行った雷牙の返答に、仲間達は大なり小なり彼に対して不信感を抱く中…。

 豪炎寺は強烈な猜疑の目で、男を睨みつけていた……

 

……

………

…………

……………

 こうして、多少のトラブルはありつつも試合を行う為の最低条件を満たしたイナズマジャパンは、大勢の観客が見守る中フィールドの中央に整列し、ジ・エンパイアと目を合わせる。

 

 その右端に居るのは、当然両チームのキャプテンであるテレスと臨時のキャプテンを務める雷牙だ。

 

テレス「久しぶりだなイナタマッ!今日の試合でこの間の決着を付けるぞッ!!」

 

雷牙「……」

 

 意気揚々と宣戦布告を行うテレスだが、当の雷牙は彼には興味がないと言わんばかりに、視線を一切合わせずに無視を決め込む。

 

テレス「テメ…!無視はねェだろ!礼儀ってモンを知らねェのか!?」

 

雷牙「うるっさ…別にそんなデカい声出さなくても聞こえてるっての〜。聞こえた上で無視してるワケだし♪」

 

テレス「んだと…!」

 

 正直、テレスも人の事を言えた立場ではないものの、世界最強のDFたる自分に無礼な態度を取り続ける雷牙に対し、強い怒りを露わにする。

 だが、本人は特に気にする事はなく、寧ろさぞ愉快そうにケラケラ笑いながら背中を向け、自陣へ帰って行く。

 

審判「待ちなさい!コイントスはまだ終わっていないぞ!先行権はいらないのか!?」

 

雷牙「う〜ん…なら、()()()()()()()()に1票♪とゆー事でアデュー♪」

 

 審判に引き留められるも、雷牙は一歩も立ち止まる事なく意味不明な返答だけを残し、指定のポジションに着き終わると同時に動かなくなってしまった。

 これ以上、彼に何を言っても無駄であると察した審判は、仕方なく雷牙が不在の中でコイントスを行う。

 

 すると……

 

審判「なっ…!?」

 

テレス「嘘だろ…!?」

 

マクスター『コレは何という珍事だーーッ!?コインがウミネコによって食べられてしまったぞーーッ!!!長年サッカーを実況してきた私でも見た事がありませーん!!まさにサッカー史に残る大珍事です!!!』

 

 突如、スタジアムの上空を自由気ままに飛んでいたウミネコが、コインが放つ光に魅了でもされたのか勢いよく急降下し、コインを咥えて飛び去ってしまったのだ。

 つまりコイントスの結果は“未確定”…。言い換えると裏でもなければ表でもない。

 

雷牙「ねっ?言っただろ?裏でも表でもないって。それじゃ、先行(キックオフ)をいただきまーす♪」

 

 前代未聞の珍事に周囲の観客達は大爆笑の渦に巻き込まれる中、まるで未来を見通していたかのように、正確にコイントスの結果を予言した雷牙に対し、審判は根源的な恐怖を感じずにはいられなかった。

 これ以上、彼と関わり続けると自分は破滅する…そのような悪感に感情を支配された審判は、逃げるように目を逸らし規定通りに試合を進行させる。

 

 今回のイナズマジャパンのスタメンは以下の通り。

 

FW:豪炎寺、熱也、染岡

MF:風丸、雷牙(キャプテン)、ヒロト

DF:綱海、壁山、木暮、吹雪

GK:立向居

 

 監督と司令塔の不足を埋めるべく、この場に居る選手の中で最も指揮能力が高いヒロトが臨時の司令塔としてMFに入っているが、鬼道や不動の能力と比較すれば焼石に水でしかない。

 

 それでも、イナズマジャパンには棄権するという選択肢はない。圧倒的に不利な状況でも、今の自分達に出来る事を最大限考え実行する…。

 皮肉な事に、選手達が口を揃えて不満を口にする、久遠の口数の少なさが今、この瞬間においては彼らの危機を救っていた。

 

ピーッ!!!

 

 試合前から不穏な空気が漂うスタジアム内に、審判のホイッスルが鳴り響き試合が始まる。

 

ヒロト「皆ッ!ジ・エンパイアの体幹の強さはAブロック屈指だッ!体格の劣る俺達では直線の動きでは絶対に勝てない!連携を意識した点と点の動きで攻めるんだッ!!」

 

 鬼道に比べると大雑把ではあるものの、的確かつ簡潔にジ・エンパイアの特徴と対処法を記したヒロトの指示がフィールド中に響き渡る。

 

 だが……

 

雷牙「そんなへっぴり腰な命令はつまらないなァ!!心優しいオレが、本当の“直線の動き(力押し)”ってヤツを見せてあげるよォ!!」

 

染岡「ヌォ!?い、稲魂…!テメェ…!?」

 

 なんと突如、雷牙が味方である筈の染岡から無理矢理ボールを奪うという蛮行に走り、ヒロトの指示を無視して単身での攻撃を始めてしまったのだ。

 

マクスター『おおーーっとッ!?イナタマが味方からボールを奪って飛び出したぞーーッ!?コレもヒロト・キヤマの作戦かーッ!?』

 

ヒロト「なッ…!何をしているんだ雷牙君!?そんな力押しでは突破出来ないぞッ!!」

 

雷牙「ハァ〜…1人が自由意志に基づく突発的な行動をした瞬間の反応がコレだよ…。だから頭の硬い()()()は嫌いなんだ。特に日本人(ジャパニーズ)はねッ!!」

 

 今度は仲間達を“旧人類”と呼び捨てた雷牙は、誰とも視線を交わさず、誰の話も聞かず、自分だけの世界へ閉じこもり目の前の敵に向かって一目散に走る。

 

レオーネ「ヘッ!知ってるぜ!オマエの得意技には“レオーネ”が入っているんだってな!だったら俺とオマエのどちらが真の“獅子(レオーネ)”に相応しいが決めようかッ!!」

 

 すると、雷牙と同じく “獅子(レオーネ)”の名を冠したジ・エンパイアのエースストライカー、レオーネ・バディゴが前に立ち塞がり、どちらが真の“ 獅子(レオーネ)”かを決めるべく勝負を仕掛ける。

 

雷牙「知らないなァ…興味もないなァ…いらないしなァ…。そんなつまらない戦いは……勝手にやっててくれないかなァ!!!」

 

レオーネ「グアァァァァ!!!?」

 

 だが、雷牙はまるで “獅子(レオーネ)”という単語その物に非常に強い嫌悪感を抱いているかのような反応と共に、レオーネを一瞬で吹き飛ばし真の“獅子(レオーネ)”の座を勝ち取る。

 

 以降の雷牙のプレーは圧巻の一言だった。

 

 パワーで止めに来る敵には、パワーで粉砕し、

 

 テクニックで妨害する敵には、スピードで翻弄し、

 

 数による差で押されれば、その両方を駆使して真正面から突破する。

 

 日本、アルゼンチン両国の選手とは、明らかに次元が違うプレーで、ジ・エンパイアのディフェンスを物ともしない。

 

マクスター『ライガ・イナタマ、なんという素晴らしいプレイングだーーッ!!!荒々しくも洗練された動きで、ジ・エンパイアの選手達を次々と翻弄していくーーッ!!!』

 

 全ての障壁を悉く退けた雷牙は、遂に因縁のあるテレスと対峙し、数日前には叶わなかった、世界で1番強いDFとMFを決める戦いが幕を開ける。

 

テレス「ココまで突破して来た事は褒めてやるッ!だが、俺には敵わねェよ!!喰らえッ!“アイアンウォール”!!!」

 

 雷牙の圧巻のプレーを前にしてもテレスは余裕を崩さずに、その背に分厚い鋼鉄の城壁を出現させ、雷牙の行手を完璧に阻む。

 

 それに対して、雷牙は恒例の不敵な笑みで立ち向かう……事はなかった。

 その代わりに彼の顔に浮かぶのは、見る者全てに恐怖を抱かせる冷酷さと狂気を宿した冷たい微笑みだった。

 

雷牙「へェ〜?それが()()()()()()()()()()()()()()()()()?思ってたよりさァ〜……

 

 

 

 

 

ずっと見掛け倒しだね〜」

 

 刹那、雷牙の脚から一つの真球状の弾丸が発射される。

 

 発射に至るまでの動作は、あまりに普遍的な動作だった。

 

 回転を伴った飛翔も無ければ、ペンギンも居なければ、獅子も居ない…。

 

 ただ足を振り上げ振り下ろす……それだけの動作…。強いて言うなら、その枕詞に“誰も認識出来ない速さ(スピード)”で付くが。

 

 だが、射出されたボールは世界の終焉を齎す破滅の光の如き輝きを纏い、目の前に立ちはだかる鋼鉄の防壁へ衝突した。

 

テレス「グ…!こ、こんなもの…!こんなものォ…!!!」

 

 世界の最強のDF・テレス。彼が率いるジ・エンパイアが誇る地区予選全試合無失点記録の9割は、彼の“アイアンウォール”によって達成されたと言っても過言ではない。

 日本最強のDFである、壁山と土方を超える体格と覇気から繰り出される水平線を覆い隠す“鋼鉄の防壁”は、数多の必殺シュートを無力化してきた。

 

 …しかし

 

雷牙「脆いなァ。その程度の硬度で鋼鉄(アイアン)は名前負けがすぎるでしょ?」

 

 目の前の“怪物”によって放たれたただのノーマルシュートによって、最高にして最硬の防壁に亀裂が入り始める。

 

レオーネ「な…!アレはただのシュートだろ…!?それなのに…テレスが押されているだと…!?」

 

 ジ・エンパイアの選手達は、自他共に認める世界最強のDFであり、絶対の信頼を置く大将の苦戦に驚きを隠せない。

 

雷牙「あっ!そうだ♪イッソの事さァ………ブリキの(ウォール)にでも改名したらどうだい?」

 

 目の前の男から放たれた、前半の幼子のように無邪気で明るい声と反比例するように低く冷たい声がトドメとなり、遂に最硬の防壁は決壊してしまった。

 

テレス「グオォォォォッ!!!?」

 

 弱者には興味がないと言わんばかりに、無力となったテレスを吹き飛ばしたシュートは、一切の威力を落とす事なくゴールへ到達する。

 最後に残るのは、キーパーたるオルテガだ。オルテガは両手に気を集中させ、目にも止まらない速さで宙に向かって張り手を繰り出すと、紅に染まった両手の残穢が結界の如く、彼の周囲を包み込む。

 

オルテガ「“ミリオンハンズッ”!!!」

 

 アルゼンチンの守護神、ホルヘ・オルテガから繰り出された“千手の防壁”……

 その威力は凄まじく、やっとの思いでテレスを突破した数多のシュートを正面から叩き潰し、幾度となく相手を絶望の淵に沈めてきた。

 

 だが……

 

オルテガ「も、持たない…!?」

 

 数多の必殺シュートを止めてきた必殺技も、目の前の男によって放たれたただのシュートを止めるには、その手はあまりにも少なく…あまりにも心許なさすぎた……。

 

オルテガ「アガァァァァァ!!!」

 

 試合開始から僅か1分。ジ・エンパイアの無失点記録伝説、ここに崩壊。

 

ピーッ!!!

 

マクスター『ゴーールッ!!!遂に…!遂に…!ジ・エンパイア無失点記録が破られてしまったぞーーッ!!!…おや?何やら審判が試合を止めています!……こ、コレはーーッ!!!?』

 

 実況に促され、観客達はフィールドに介入する審判にその視線を移す。そこには……

 

 

 

 

 

 

 地面に倒れ伏すテレスの姿があった。

 

レオーネ「おいテレス!!大丈夫か!?オイ!!」

 

テレス「大…丈夫だ…!カハッ!も、問題ねェ…!!」

 

レオーネ「何が問題ないだ!!どう考えても重症だろうがッ!!!」

 

 レオーネの肩を借り、何とか立ち上がったテレスだが、辛うじて意識は保てているものの、先程のシュートで甚大なダメージを負ってしまっているのは、誰の目から見ても明らかだ。

 

マクスター『今のイナタマのプレーに何一つ反則はありません…!ですが…今し方、彼が見せた蹂躙とも言うべき圧倒的なプレーの前に…!アレだけヒートアップしていた会場内が静まり返っております…!』

 

 圧巻のプレーを以てジ・エンパイアの選手達を翻弄してみせた雷牙に歓声を送る者は居ない。

 

 沸けない、反応ができない、手に汗握る……が精一杯。声を出そうとしても本能が拒絶し、喉の奥にしまい込んでしまうのだ。

 

 謂わば、会場内を包み込む静寂こそが、本来その男に送られる筈だった“称賛”の代用品だった。

 

雷牙「アッハハ♪ドン引きして静まり返ってら。愉快〜♪痛快〜♪新世界〜♪」

 

 男はその“静寂”すらも喜んで受け入れ仲間達の元へ帰る。それでも彼に待つ結果は同じ、硬い絆で結ばれたチームメイトから送られるのも“静寂”だけだ…。

 

雷牙「おや〜?黙ってるなんてひっどいなァ、せっかくオレが点を取ってやったんだよ〜?褒めの言葉を1つや2つくらい送ってくれてもいいんじゃないかなァ?ナイス雷牙!凄いぞ雷牙!ってさ〜♪」

 

 観客はよくてもチームメイトに“静寂”を送られる事は不快だったのだろう。態度を一転させて目の前の男は、仲間達に自身の称賛を要求する。

 

 それでも仲間達は口を開く事が出来なかった。

 何も雷牙の命令違反は今に始まった事ではない。必要あらば司令塔、監督の命令を無視する事は多々ある。それが状況を打破する変数となるか、チームに危機を齎す爆弾となるかは時によるが、もう慣れた事だ。

 

 だが、目の前の男に抱く感情は“それ”とは全く異なるモノだった。

 その胸に抱くのは、命令違反による“怒り”でもなく、ハイリスクハイリターンの大博打を打った“呆れ”でもない……あまりにも形容し難い“困惑” だった。

 

 “困惑”は徐々にその性質を変化させ、目の前の少年を“仲間”…いや、“人”と見る事すら憚られるようになってしまう…。

 それどころか、そもそも目の前の少年は()()()()()()()()()()()()?という疑惑さえ生まれてしまう。

 

 そのような複雑に入り混じった“困惑”がチームを包む中…。1人の少年が前に立つ……いや、()()()()()()()

 

雷牙「おお〜!信じていたよ〜!流石はオレのマイフレンド♪さァさァ!バッチコーイ!」

 

豪炎寺「……」

 

 現れたのはフィールドにおける稲魂雷牙の相棒・豪炎寺修也。だが、彼から放たれた一言は、これまで苦楽を共にした相棒への“感謝”でも“称賛”でも…ましてや“叱責”でもなかった。

 

 

 

 

豪炎寺「…お前は誰だ?」

 

 その口から発せられたのは純粋なる“疑問”。それだけが豪炎寺修也が目の前の稲魂雷牙……いや、相棒の皮を被った“何か”にかける言葉だった。

 

♢♢♢

佐久間「テレスの必殺技をただのシュート1発で破るなんて…!一体何処にあんなパワーを隠していたんだ…!?」

 

不動「チッ!クソライオンが!あんなシュートを撃てるなら、さっきの試合で使いやがれっての!そうすりゃ、もっと楽に勝てただろーが!」

 

 雷牙と別れた円堂達は、数分後に出航するフェリーに最後の望みを掛け港に向かったものの、それすらも見越して影山の策略により港への道が大渋滞を起こしてしまい、彼らの希望は呆気なく砕かれてしまった。

 

 最後の望みすら絶たれてしまった円堂達は途方に暮れるも、せめて試合後に会場から出てきた仲間達を出迎えようと、次のフェリーを待つついでに、待合室にて試合を観戦していた所だった。

 

 そこで待っていたのは、数分前に別れたばかりの雷牙がウミネコスタジアムに姿を現し、圧倒的なプレーでジ・エンパイアの選手達を蹂躙する姿……。

 数十分前に一試合を終えたばかりにも関わらず、疲労とは無縁の存在のようにエネルギッシュにプレーするその姿に、不動と佐久間は唖然としている。

 

 だが……

 

円堂「…う!」

 

 一連の親友のプレーを見た円堂は、突如徐に俯くと両手を強く握り締め、身体を小さく震わせる。

 彼の心に様々な感情が入り混じり、お世辞にも高性能とは言えない脳内コンピュータが処理落ちを起こしそうになるも、何とかその言葉を捻り出す。

 

円堂「……違う…!あいつは…()()()()()()()()()…!」

 

 必死の思いで吐き出されたり言葉は、まさかのテレビに映る親友の存在否定だった。

 

不動「あ〜ん?キャプテンの目は節穴かぁ?テレビに映ってんのは誰がどう見ても、クソライオンだろーが」

 

円堂「違うんだ!テレビの中の雷牙は…見た目こそ一緒だけど、絶対に中身が違う…!雷牙はあんな強引なサッカーはしない…!!」

 

不動「かといって、綺麗なサッカーをするような奴でもねぇーだろーが」

 

 本人が思考よりも感情で動く人間という理由もあるのだろうが、要領の得ない曖昧な理由だけで、テレビの雷牙は雷牙ではないと言い張る円堂に、不動と佐久間は困惑する事しか出来ない。

 

 するとそこに……

 

鬼道「…いや、俺も円堂と同意見だ。俺もあの選手が稲魂だとは思えん」

 

 鬼道も円堂の意見に賛同し、困惑者と賛同者の数は丁度2:2の半々となる。

 

鬼道「そもそも…俺達が稲魂と別れてからまだ30分も経っていないんだぞ?例えあいつが俺達とは異なるルートで会場に向かったとしても、試合に間に合うには最低でもチームKとの試合中にはウミヘビスタジアムに到着しなければならない。だが、あいつはずっと俺達と一緒に居た…つまり、会場に居るのは稲魂の偽者の可能性が高い」

 

佐久間「偽者…!?」

 

 「偽者」なる突拍子もない言葉が鬼道の口から放たれた事で、佐久間に強い衝撃が走る。

 だが、鬼道の論理的な説明と、彼らの中にある常識を照らし合わせてみると、“偽者”以外に説明のしようがない事に気づく。

 

不動「だとしたら影山が用意した影武者かぁ?…いや、だとしたらますます訳が分からねぇ…。イナズマジャパンを敗北させる為に工作したってのに、やたらと強い影武者を使う意味はあいつにはねぇ筈…」

 

佐久間「つまり会場に居る稲魂の偽者は、影山の想定外という事か…?」

 

鬼道「恐らくな。きっと今頃、奴も慌てふためいている筈だ」

 

 脳裏によぎった慌てふためく影山の姿が余程滑稽だったのだろう。雷牙の偽者が現れるというシリアスな場面にも関わらず、鬼道の顔には性格の悪い笑みが浮かんでいる。

 

円堂「こうしちゃいられない…!雷牙を探しに行かなくちゃ…!」

 

 親友の安否を心配した円堂は港を出ようとするが、そこに彼らと同行してフィディオが円堂を静止する。

 

フィディオ「待てマモル!下手に外に出ると危険だ!イタリア地区にカゲヤマの手下が待ち構えている可能性があるんだぞ!!」

 

円堂「でも…!」

 

フィディオ「ココは先に連絡を入れてライガ達の安否を確認するべきだ。彼らを探しに行くのはそれからでも遅くはない」

 

円堂「そ、そうだな…!ちょっと待っててくれ…!え〜と…雷牙の電話番号は…」

 

 フィディオの言葉により、なんとか冷静さを取り戻した円堂は急いでバックからスマホを取り出し雷牙に電話を掛ける。

 

円堂「頼む頼む頼む…!電話に出てくれよ…!!雷牙…!」

 

 番号を入力し終わった円堂は、恐らくイタリア地区の何処かに居るであろう親友とその兄に、謎の勢力からの魔の手が及んでいない事を何度も祈る。

 

 だが……

 

ツー…ツー…ツー…

 

 待合室に鳴り響くのは無機質な電子音だけだった。




ヒロトが言った「直線の動き」ってのはアルゼンチン相手に単独で攻めるな・力押しで勝とうとするなって意味で、「点と点の動き」ってのはパス回しとかワンツーを駆使した小回りの効いた動きで敵を翻弄しろって意味です。
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