雷牙 side
『試合終了!雷門対秋葉名戸試合は雷門はエースの豪炎寺が不在という状況をものともしないプレーで圧勝!15対0で幕を下ろしましたぁあ!』
おーす画面の前のみんな、突然試合終了のホイッスルが鳴ってビックリしているだろう。
え?この展開前にもやっただろって?今回に関しては秋葉名戸が悪いと言わざるを得ねぇな。
だってアイツら御影専農以上にサッカーしてなかったんだぜ?土煙を起こしてゴールをずらすっていう反則してここまで勝ち進んだだけで素の実力は目金以下ってそんなんボコボコにしてくださいって言ってるようなもんだろ?
まぁそのからくり見抜けなくて負けた尾刈斗含めた他校には同情するが、尾刈斗に関してはアイツらも似たようなことしてたし自業自得なんじゃね?
珍しくやる気を出していた目金と秋葉名戸メンバーと変な友情が芽生えてたから結果オーライってことで!はい終了〜。
No side
「はい、もしもし?鬼道さん土門です。え?イナビカリ修練場のデータですか⁉︎わかりましたすぐに送ります!」
土門はイナビカリ修練場の選手データを帝国に送るために雷門中に戻る途中ショーケースに飾られているサッカーボールが目に入る。
知っての通り土門は帝国から送られてきたスパイである。元々土門は帝国の2軍メンバーに所属していたがアメリカで培ったサッカーセンスに鬼道が目をつけ任務を終了させた後1軍に昇格させることを条件にスパイとして潜り込んだ。
しかし、今彼の心は揺れ動いていた。帝国には無い熱い何かを持った雷門メンバー、今は亡き
僅かに芽生えた仲間意識を裏切ることに土門は心を苦しめていた。
「はぁ…憧れの帝国1軍になるためのチャンスとはいえ今の俺を
そう言いながら横断歩道を渡ろうとすると幼馴染の声が響く。
「土門君危ない!」
気がつくと大型トラックがギリギリのところで停車していた。土門は考えこむあまり赤信号であることに気づかず横断歩道を渡っていたのだ。
「どうしたの土門君?赤信号にも気づかないなんて…。」
「あ、あぁごめん秋ちょっと考え事してて…」
たまたま近くにいた木野が声をかけてくれなければ自分も死んでいたかもしれないことに冷や汗をかく。
「元気出して!そんなんじゃ
一之瀬…彼こそが自分の憧れで唯一無二の親友だった男の名だ。昔木野と共にアメリカにいた頃にアイツは交通事故にあった。すぐに救急車を呼んだが病院で知らされた結果は死んだとのことだった。
親友が死んだこともショックだったがそれ以上に大きかったのはあれほどの才能を持っていた選手がいともたやすく命を失われたことのショックだった。
数年くらい前にもイタリアの有名なプロサッカー選手が飛行機の墜落事故で若くして亡くなったというニュースを聞いたことがあるが、まさかそれが自分達の身の回りで起きるとは考えたこともなかった。
その後中学に上がった土門は日本に帰国し帝国学園に入学。アメリカでサッカーをしていたのもあって1年時から2軍に所属できていたが、同期にも関わらず自分よりも遥かに才能のある選手がいた。
それが現キャプテンの鬼道有人だった。鬼道は瞬く間に1軍へと昇格し上級生顔負けのテクニックとゲームメイクを発揮し絶対王者である帝国をより盤石なものにした。
それに対し自分は2軍で燻っていたが、帝国と雷門との試合の後鬼道に声をかけられ任務終了の暁には1軍の昇格を約束すると言われスパイの仕事を引き受けた。
「…俺は一体どうしたいんだ?」
だがその後ろ姿を遠くから見つめる金色の影がいたことに気づかなかった。
〜次の日〜
「おはよう土門君。ってどこに行くの?そっちは部室の方向よ?」
「あー昨日部室に忘れ物しちゃってさ…ちょっくら取りに行ってくるわ。」
結局昨日は鍵を借りることができなかったため仕方なく朝一でデータを取りに行こうとしたところ運悪く木野と鉢合わせてしまう。
適当な理由をつけてまいたものの幼馴染にすら嘘をつかなくてはならない自分に心が痛む。
「えーと…あったこれだ。…やっぱやめだ。」
何を思ったかせっかく見つかったデータが入ったファイルをしまい部室を後にする土門、授業を受ける気にもなれず早退しようと裏門を通ると遠征用のバスが止めてあるガレージが開いておりそこから物音が聞こえる。そこにいたのはサッカー部の顧問であるはずの冬海だった。
「先生、こんなところで何をやってたんですか?」
冬海に問い詰める土門だがとうの本人は特に気にすることなく立ち去ろうとする。
「さぁなんでしょうね…ああ1つだけ忠告しておいてあげますよ。このバスには乗らないことですね。じゃあ」
土門は確信する、冬海は既に影山の手に落ちていることを。そして雷門を決勝に行かせないためにバスに細工をしていることも。
「これも総帥の命令だってのかよ…!くそ!どうしたら…!」
「まだ悩んでんのか?オマエはもう答えを出してるはずだろ?」
「い、稲魂…!なんでここに⁉︎」
いつの間にガレージに入っていた雷牙が土門に問いかける。
「オマエの後をついてったらここに来た。オマエ帝国のスパイだったんだな。」
「…ははは、やっぱ気づいていたんだな…俺がスパイだって」
薄々雷牙が自分を疑っていることに気づいて土門は半ば自暴自棄気味に笑う。
「いつから気づいてたんだ?やっぱ御影専農戦の前からか?」
「そうだオマエが鬼道と電話しているのを聞いた。」
「だったらなんでずっと黙ってたんだよ!オマエは知ってたってことだよな!俺が御影専農に雷門のデータを渡したって!俺が裏切り者なんだって!」
雷牙がスパイと知りながら黙っていたことに怒りをぶつける土門。いや、彼自身も分かっている。本当に怒っているのは雷牙にではなく雷門メンバーを裏切り続けていた自分自身にだ。
「…鬼道に電話していた時のオマエの目は帝国の連中とは違った。鬼道以外のメンバーは総帥ってヤツに従うだけだったがオマエだけは違った。オマエは自分のサッカーを見失っていない、心の底からサッカーを楽しむ目をしていた。だから様子を見ていた、それだけだ。」
「…分かんねぇ、分かんねぇよ!」
雷牙の言葉を理解よりも先に拒絶する土門は逃げるようにガレージを後にする。
〜放課後〜
「ファイト!ファイト!ファイト!ってあれ?雷牙なんか元気なくないか?」
「ああわりぃ、昨日読んでた小説で意外なヤツが裏切り者だったんでなちょっとそのショックを引きずってるだけだ。」
「ふーん…まあいいや!よーしもう一本行くぞー!ファイトー!」
走り込みを続ける雷門イレブンだがそこに土門の姿は無い。
「あれ?土門君今日は休み?朝は会ったけど…。」
「1時間目に早退したそうよ。木野さん土門君のことを気にかけるのね?」
「しばらく会ってなかったけど幼馴染だもん当然よ。」
「それで?イナビカリ修練場のデータはどうした土門?」
「…まだ手に入っていません。」
「ほう?なら何故俺を呼び出した?」
土門から連絡を受けた鬼道は直接雷門中まで足を運んでいたが、データが手に入っていないと聞き疑問を口にする。
「鬼道さん本当なんですか?移動用のバスに細工をするなんていくらなんでもやりすぎですよ!」
「なんだって?」
移動用のバスに細工をした?鬼道ですらも初耳の情報が土門の口から飛び出す。
「やっぱり鬼道さんも知らなかったんですね。これが帝国のやり方と言っても限度があります!総帥は一体何を考えているんですか!」
移動用バスに細工を行う。下手をすれば死人が出る可能性のある行動に土門は鬼道を問い詰める。
「なんか俺もう総帥のやり方についていけません!あの人はあまりにも強引すぎる!そこまでして試合に勝ちたいんですか!」
「それ以上言うな土門。総帥の命令は絶対だ。俺達を批判することは許さ「お兄ちゃん!」…春奈!」
またしても会ってはならない妹と鉢合わせてしまった鬼道は静かに場を離れようと立ち去るが当然止められる。
「雷門中の偵察にでも来たの?待って!今日こそは質問に答えてもらうわよ!」
「…離せ。俺とお前は会っちゃいけないんだよ。」
冷たい言葉を言い残しその場を後にする鬼道。
帝国へ向かう鬼道の脳内に浮かぶのは養父との会話。春奈を鬼道家に引き取るための条件である“FF3年連続優勝”。そこまではいい、自分の実力ならば3年連続でFFを優勝し続けることなど造作もないことだ。だが養父は自分の実力を信じているのではない。総帥…影山零治の力を信じているのだ。影山零治には常に黒い噂が絶えない、サッカーに負けた学校を潰した、逆らった人間は原因不明の事故に巻き込まれる、実際に噂の殆どが事実であるが影山本人は無関係であると言い張っている。これから自分はそんな男に抗議をするのだ。さすがの鬼道でも少しばかり恐怖の感情が芽生えるが、もしバスの細工が事実ならば今までの自分達の勝利は偽りのものになってしまう、それだけは自分にとっても許せないことだ。そう決意し総帥室の扉を開ける。
「…珍しいな鬼道。お前が連絡も無しに私の下にやってくるとは。」
「総帥、突然の訪問は謝罪します。しかしどうしても確かめたいことがあります。」
「…なんだね?」
「雷門中の移動用バスに細工をさせたというのは本当なのですか!」
思わず声を荒げてしまう鬼道。だが影山は特に気にすることなく寧ろ予想通りの反応と言わんばかりの笑みを浮かべながら返答する。
「お前も偉くなったものだな鬼道。この私に意見するようになるとは?」
「…俺はただ細工が事実なのか確認したいだけです。もしそれが本当ならば帝国の勝利は虚構の勝利であることになってしまいます!俺はそれだけは我慢できません!」
「…そうだな。安心したまえ、私は
「そんなことをしなくても俺達は勝てま「絶対に勝てるとでも言うのか!100%、絶対に勝てるとでも言い切れるのか!」…ッ!」
「鬼道、まだ半人前のお前に一つ教えてやろう。優れた司令塔のいるチームは試合をする前に既に勝っているということだ。お前は私の言う通りに動いていればいい。何も考えずにな。」
そう言うと影山これ以上鬼道の言葉に耳を貸すことは無かった。鬼道は仕方なく総帥室を退出する。
「鬼道があのようなことを言うとはな…もうそろそろ
〜数日後〜
「冬海先生少しいいかしら?」
珍しくサッカー部の練習を見に来ていた冬海だったが突然夏未に声をかけられる。
「なんでしょうか夏未お嬢様、貴方の願いを断る理由はありませんよ。」
冬海は作り笑いをしながらわざとらしく機嫌を取ろうとするが夏美の目は全く笑っていない。
「あらよかった。では今度使うバスの調子が見たいので動かしていただけません?」
「ば、バスを⁉︎い、いや私は大型免許を持っておりませんし…」
「それは問題ありません。校内は私有地ですから免許などいりませんわ。それにちょっと動かすだけていいですし。」
ただバスを少し動かすだけ普通ならその程度のことは断る理由もない。『何らかのやましい事情』でも無い限りは。
あまりにしぶる冬海に痺れを切らしたのか夏未は強い口調で少し問い詰めると冬海は観念したようにバスを動かしに行く。その様子を見ていた雷牙は部員全員に呼びかけ冬海について行くことにした。
「あ、あれおかしいなぁ…エンジンがかからない「ふざけないでください!」は、はい!」
エンジンがかからないなどと白々しい演技をするが夏未の目を欺けるはずがなくエンジンをかけざるを得なくなる。
「やっとエンジンがかかりましたね。さぁ?発進しなさい。」
「で、出来ません…!今発進したら私は…!」
尋常ではない冬海の怯えように部員達は騒然となるが夏未は軽い溜め息をつくと一通の手紙を冬海に見せる。
「この手紙はこれから起こったであろう恐ろしい犯罪を告発した内容です!あなたはバスに細工をしたそうではありませんか!」
遂に冬海は観念し自身が既に帝国に寝返っていたこと、影山の命令でバスに細工をしたことを洗いざらい話す。
「あなたのような最低な教師はこの学校には必要ありません!これは理事長の言葉だと思ってもらって結構です!」
「ふふふ…クビですか、そりゃあいい。いい加減こんな所で教師をやっているのも飽きてきた所です。しかし、雷門中に入り込んだスパイは私だけだと思わないことですね。ねぇ、土門君?」
最後の最後で特大の爆弾を投げて行った冬海。もはやその姿に最低限あった教師としての面影も見当たらない。
「ど、土門さんが帝国のスパイ…⁉︎」
「確かに帝国の技を使っていたっス…!」
「俺たちを今まで騙していたのかよ…!」
今まで仲間だと思っていた土門がスパイだと分かったとたん部員達からは当然非難の声が上がる。
「やめろ!オマエら!」
突然雷牙の怒声が非難の声を掻き消す。
「い、稲魂…!だが土門は俺たちのことを裏切ってたんだぞ!お前は何とも思わないのかよ!」
「…知っていたさ土門がスパイだって。御影専農戦の時から。」
「な!だったら何で黙っていたんだよ!俺たちのことを信頼してなかったのかよ!」
「まさか、俺はオマエ達を信頼している。だから土門も信じた。なぁお嬢?その手紙差出人の名前は書いてあるかい?」
「いや書いてないわ。…!まさか土門君あなたが!」
もう自分の過ちに耐えきれなくなった土門は泣きながら今まで隠していた秘密を話す。自分が帝国から派遣されたスパイだったこと、初めは情報だけ流して雷門が敗北したら帝国に戻るつもりだったが次第に雷門のサッカーが楽しくなりスパイとしての活動に疑問を抱き始めたこと、自分も影山があそこまでのことをさせるとは思わず告発文を夏未に匿名で送ったこと。
「本当に…本当にすまねぇ!だけどみんなと一緒にやってきたサッカーは楽しかった!許してくれなんて思わないけどこの気持ちだけは嘘偽りのない本音だ…!」
「顔を上げろよ土門。」
「え、円堂…。」
「聞いただろみんな、確かに土門は悪いことをした。だけど冬海を止めるために帝国学園の総帥に立ち向かったんだ。俺は土門を許す、だからみんなも土門を許してやってくれないか?」
土門が裏切ったのは事実だが、その土門のおかげで事故に遭わずにすんだのも事実である。目立った悪事がデータの横流ししかない以上土門を許さない理由もないためわだかまりも消え、土門を正式に雷門イレブンのメンバーに迎え入れる。
「みんな…ありがとう!こんな俺を…裏切り者を受け入れてくれて…!」
確かに帝国の1軍になるという土門の夢は消えた。しかし心から信じ合える仲間達と共にサッカーをするという理想を叶えることができた土門。雷門は決勝の帝国戦に必ず勝つために練習を再開する。…1つだけ予想外の問題にぶち当たることを知らずに…
土門の2軍設定とかは全部捏造です。でも、いくら帝国とはいえ1軍メンバーをスパイに送るとは思えないので多分土門は2軍以下の選手だったんじゃないかなと思ってます。あと何で雷牙はバスに細工されたことを知ってたのに夏美あたりに言わなかった理由は土門に動きを見るためでした。帝国戦が近づいてきても動きがなかったたら普通に報告していたためどっちみ冬海のクビはまぬがれません。