イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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忘却の記憶

 影山と鬼乃子が加入した新生オルフェウスによるナイツオブクイーンの大敗から早翌日。

 試合から一夜明けたにも関わらず、現在のネットニュースは神出鬼没の如く現れた正体不明のストライカー・明星鬼乃子の話題で持ちきりになっていた。

 

 その圧倒的な実力を以て、世界トップランカーであるエドガーを捩じ伏せた無名の少女は、一躍スター選手にまで駆け上がり、今やヒデナカタにも匹敵する世界最強のサッカー選手(プレイヤー)ではないかとの声も少なくない。

 

 そして新たな好敵手(ライバル)の誕生は、世界の強豪達に刺激を与えていた。

 

円堂「もう一度だ!ばっちこい!雷牙ッ!!!」

 

雷牙「OK!!手は抜かねェぞッ!!!」

 

風丸「流石にこれ以上近づくのはやめておけって…。もう2人の距離は1mもないだろ…」

 

 強敵、鬼乃子の存在に触発された雷牙と円堂は、彼女に勝つ為にこれまで以上に厳しい特訓に傾倒し…

 

不動「やるねぇ!いつになく気合いが入ってるじゃねぇか!!佐久間ァ!!!」

 

佐久間「お前もなッ!!」

 

鬼道「ハァッ!!!」

 

壁山「アワワ!!鬼道さ〜ん!ちょっとプレーが荒いっスよ〜!!」

 

 影山と因縁の深い帝国の選手達は、今度こそ怨敵との因縁に決着をつけるべく、練習中にも関わらずプレーが荒くなってしまう。

 

久遠「円堂!稲魂!鬼道!佐久間!不動!何だそのプレーは!練習中にサッカー以外の事を考えるんじゃない!!お前達は練習中止だ!少し頭を冷やしてこい!!」

 

円堂「は、はい!」

 

雷牙「うい〜す…」

 

 円堂達の雑念を見抜いた久遠は、彼らの頭を冷やさせるべく練習中止を言い渡し、グラウンドから退出させる。

 

雷牙「クッソ〜!確かに鬼乃子を意識しすぎてちと肩に力が入りすぎちまったけどよォ、あそこまで怒る必要あんのかねェ?」

 

円堂「俺たちが少し焦っていたのは事実だし仕方ないさ。韓国戦前の俺みたいになるよりかはずっとマシだろ?」

 

 宿舎に戻った雷牙と円堂はやる事もなくなった為、ラウンジで駄弁るが、サッカーバカの彼らが駄弁るだけで時間を潰せる筈がない。すぐに手持ち無沙汰に陥り、暇という名の虚無感に襲われてしまう。

 

雷牙「暇だ…。なァ〜守ゥ〜…?監督にバレねェようにこっそり練習しねェか〜…?」

 

円堂「練習中止=今日1日はサッカーから離れろって意味だから、バレたらスタメンから外されかねないって…。それに…言葉は厳しいけど監督なりに俺たちを気づかってくれてるんだから、今日1日は大人しくしていようぜ?」

 

 基本的に寡黙かつ口を開けば厳しい物言いをする久遠だが、円堂は韓国戦を経て、久遠の厳しさの裏には選手を気遣う“優しさ”がある事を実感していた。

 

 そこに……

 

冬花「守くん、稲魂くん。ちょっといい?」

 

……………

…………

………

……

 

冬花「ありがとう。買い出しに付き合ってくれて」

 

円堂「いや、俺たちも部屋にジッとしていられなかったし、良い気分転換になったよ!」

 

雷牙「美味いモンも(モグ!)食えたし(モグ!)!俺ちゃんも大満足!」

 

 冬花から買い出しの応援を頼まれた雷牙と円堂は、日本地区の市街地に赴き、各地の雑貨店を巡っていた。

 

円堂「それにしても久遠監督はスゴいよな〜!あの練習中止に一言で目が覚めた!影山の陰謀なんて関係ない、俺たちは俺たちのサッカーをするだけだって思い出させてくれたんだからさ!」

 

冬花「お父さんはサッカーにはいつも真剣だから、簡単にどうすればいいか分かるかも」

 

雷牙「……」

 

円堂「あれ?どうしたんだ雷牙?」

 

 円堂は改めて久遠の凄さを実感し感嘆の声を漏らす一方で、何故か雷牙は冬花の顔を見るなり顎に手を当てて黙り込む。

 

雷牙「…ふゆっぺってさ…あんま監督に似てねェよな?」

 

冬花「…え?」

 

雷牙「ああいや、別に悪口のつもりじゃねェんだけどよ、なんつーか…親子の割には父親の面影が見られねェっつーか…関連性がねェっていーか…。…悪ィ、流石にセンシティブな話題すぎたわ今のは忘れてくれ」

 

冬花「う、うん…」

 

 ノンデリで有名な雷牙も、センシティブな話題に触れてしまった事を後悔したようで、珍しく自分から謝罪し会話を打ち切る。

 だが、これにより3人の間に気まずい空気が流れてしまい無言の時間へ突入してしまう。

 

円堂「そ、そうだ!久遠監督ってさ!全っ然笑わないよな〜!もしかして家でもあんな感じなのか?」

 

冬花「流石に笑ったことくらいあ……あれ?どうだっけ…?」

 

円堂「フユッペ…嘘だよな…?」

 

雷牙「…まさかな」

 

 父親の笑った姿を見た事がないという、普通ならばあり得ない娘の様子を見た雷牙は、身に覚えのある違和感を感じ取ってしまう。

 

 その時だった……

 

キキーッ!!!

 

 突如、街中を走っていたトラックのタイヤがパンクし走行不能状態となってしまい、雷牙達に襲い掛かったのだ。

 

円堂「危ないっ!フユッペ!!!」

 

 幸いにも円堂がいち早くトラックの襲撃に気づいた事で、冬花も雷牙も事故に遭う事はなかった。

 

雷牙「あ、危ねェ…!流石の雷牙さんでもトラックに轢かれた即お陀仏だぜ…!こんなところで死んじまったら成仏出来ずに地縛霊になっちまうぜ…!」

 

円堂「どうやら運転手も無事みたいだな…!怪我人が出なくてよかった〜…!フユッペも大丈夫か?…フユッペ?」

 

冬花「あ…ああ…!」

 

 突然冬花は狼狽始める。円堂の活躍により彼女には擦り傷一つ負っていない筈だ。だが前方が大破したトラックを見てしまった彼女は、瞳が激しく泳ぎ、身体は小さく震え、呼吸も荒くなる。

 

冬花「お母さん…!お父さん…!」

 

 小さな声で母と父の名を呼んだ冬花は、まるで魂が抜けたかのように力無くその場に倒れ、気を失ってしまった。

 

円堂「フユッペ…?おいフユッペ!!」

 

 円堂は必死に冬花に声を掛けるが返答はない。

 

雷牙「守!俺は救急車を呼ぶからオマエはふゆっぺの看病をしてろ!いいなッ!!」

 

円堂「あ、ああ…!」

 

 これ以上は自分達の手に負えないと確信した雷牙は、円堂に冬花の看病を命じ自身はスマホで救急車を呼ぶ。

 

雷牙「チッ!嫌〜な予感が点と点で繋がりやがった…!」

 

 幼馴染である筈の円堂の忘却、父親の面影がない顔立ち、事故を見ただけで失われた意識…。

 前々から彼女に感じていた形容し難い違和感が、点と点で繋がった事によりその正体に気づいた雷牙は、彼女の身に起こってしまった悲劇に対し悪態を付く事しか出来なかった…。

 

……………

…………

………

……

 

円堂「…何とか容態は安定したけど、ずっとうなされてるな…」

 

 幸運な事に冬花の身体に異常は何一つなかった。だが、気絶してから数時間が経っても目を覚ます気配はなく、それどころか悪夢でも見ているのか苦悶の表情でうなされている。

 

雷牙「…十中八九、原因はさっきの交通事故だろうな。偶然目撃しちまった交通事故で過去のトラウマが再発して気絶した…ってとこか」

 

円堂「過去のトラウマって…!もしかして雷牙は何か知ってるのか!?」

 

雷牙「いんや?けど大方の推測は出来る。…もしかしたら俺とふゆっぺは似たりよったりな境遇だったのかもな」

 

円堂「それって…!」

 

ガラガラッ!!!

 

円堂「か、監督…!」

 

久遠「……」

 

 雷牙の言動から円堂が何かを察した瞬間、病室の扉が開き久遠が現れる。

 しかしその表情は彼らが知っている厳格な監督としての顔ではなく、意識を失った娘を心の底から心配する父親の顔だ。

 

久遠「…やはり、お前を連れて来るべきではなかった…!」

 

 父の口から送られた第一声は娘をこの場所まで連れて来てしまった事への後悔の念だった…。

 

雷牙「…監督、俺らに話してくれないっすか?アンタとふゆっぺの本当の関係ってヤツを」

 

久遠「……」

 

 雷牙に問い詰められた久遠は、言い淀む事なく自身と娘との本当の関係を話し始める…。

 

 雷牙の予想通り、冬花と久遠は本当の親子ではなく養父と養子の関係であった。 

 久遠冬花の本名は小野冬花。数年前、影山の陰謀により桜咲木中の監督を辞めさせられた久遠は小学校の教師に就任し、当時担当していた教え子の1人が冬花だった。

 

久遠「…だがある日、悲劇が起こった…」

 

円堂「悲劇って…まさか…!」

 

久遠「そうだ。冬花の目の前で、実の両親が交通事故に遭い亡くなってしまった…」

 

 まだ幼い少女にとって目の前で両親を失ってしまえば、どうなるかは想像に難くない。案の定、冬花はショックのあまり食事すらも取れず、日に日に衰弱していった…。

 

久遠「…そこで医者から提案されたのが“催眠療法”だ…」

 

雷牙「何すか、その如何にもいかがわしそうな名前の療法は…」

 

久遠「簡単に言えば、特殊な薬とカウンセラーを使用してこれまでの記憶を消去し、新しい記憶を植え付ける療法だ」

 

円堂「やっと分かった…!フユッペが俺のことを忘れていたのは…!」

 

久遠「…私は冬花の命を救う為に、彼女の養父となり“催眠療法”を実行した…」

 

 薄々分かっていた事とはいえ、父親が娘の記憶を消していた事実に2人は衝撃を受ける。それでも雷牙達は彼を責める事は出来ない。 

 確かに久遠のやり方は強引であったが、当時の彼からすれば幼い命を見捨てるか、過去の記憶を代償にその命を繋ぐかの二択しかなかったのだから。

 

久遠「…正直、今でもあの時の選択が正しかったのか悩む時がある。冬花からすらば、私は小野冬花としての人生を奪ってしまったも同然だからな…」

 

円堂「監督…」

 

雷牙「…別に悩む必要なんてないじゃないっすか。過去に色々あっても、今のふゆっぺはアンタを父親として慕ってる…それが答えなんじゃないっすか?」

 

久遠「…どうだろうな」

 

 冬花の真相を話し終わった久遠は、娘の看病の為に今夜は病室に残ると伝え2人を帰らせる。

 宿舎までの帰路に着いた雷牙と円堂だが、冬花の身に起こった壮絶な過去を聞いた事で無言の時間が続いていた。

 

円堂「…俺たちがフユッペにしてあげれることって何なんだろうな…?」

 

雷牙「さァな、俺ちゃんにはレディーの心ってモンを理解出来ねーから、詳しい事は分かんねェよ。…ただ、ふゆっぺは俺らが立ち止まる事を望んでねェってのだけは分かるッ!」

 

 もしも自分が原因で円堂達が試合に負けてしまった場合、それこそ目を覚ました彼女は深い悲しみに包まれるだろう。なら、彼らに出来る事はただ1つ…。

 

円堂「そうだな!よーーし!!いつフユッペが目を覚ますか分かんないけど、次のアメリカ戦もバッチリ勝ってフユッペを喜ばせるぞーーっ!!!」

 

雷牙「ハッ!その心意気や良し(ベネェ)!!ならどっちが先に宿舎に着くか競走だ!お先に失礼〜!!」

 

円堂「あー!!!それはズルいぞ雷牙ーーっ!!!」

 

 過去のトラウマにより蕾に籠ってしまった一輪の花…。その眠りを覚ますべく、2人のサッカーバカは彼女へ勝利を届ける事を胸に誓う。その“想い”がいつの日か、蕾を開花させる光へと変わる事を願って。

 

 そして……

 

マクスター『お待たせしました皆さんッ!ココ、クジャクスタジアムにて!日本対アメリカの試合が始まろうとしていますッ!!!』

 

一之瀬「ずっとこの時を待ってた…!今日こそ決着を付けようか!円堂!!」

 

円堂「ああ!俺だってこの日の為に特訓してきたんだっ!!負けないぞ!一之瀬っ!!!」

 

 孔雀の名を冠した戦場にて、かつての戦友達との決戦が始まる…!




ちと展開が早いですが次回からアメリカ戦です。本当は一之瀬周りの描写も書きたかったけど、いい展開が思いつかなかったんで仕方なくカットしました。
一之瀬の告白とか、秋と土門の苦悩とかはしっかり裏で起こってるんでそこらへんは脳内で補完しといてください。

イナMONに引き続き、ちょっとした作者の好奇心なんですけどオリキャラの中で誰が1番好感度が高いのかな〜って気になったんでアンケート取ってみまーす。別に結果によってこの後の展開が変わるとかはないので気楽に投票してください。

  • 稲魂雷牙
  • 稲魂雷斗
  • 明星鬼乃子
  • “雷帝”
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