音無「良かったですね冬花さん!アメリカ戦が始まるまでに退院できて!」
冬花「うん。迷惑かけちゃってごめんね木野さん、音無さん」
秋「……」
原因不明の体調不良により、ここ数日マネージャー業務に参加出来なかった事を謝罪する冬花だが、秋はどこか上の空の様子で返事をする事はなかった。
何も、彼女は冬花の不在に怒っているわけではない。ただ今の彼女の思考のベクトルが冬花に向いていないだけなのだ。
冬花「…木野さん?」
秋「う、うん!?ど、どうしたの冬花ちゃん!?」
直接声を掛けられてようやく我に返った秋だが、普段の彼女からは想像も付かないような挙動不審極まりない反応からは、ベンチの面々に形容し難い不安を抱かせる。
冬花「…もしかして体調でも悪いのですか?だとしたら今日は休んでいてください。木野さんの業務は私が担当するので…」
秋「だ、大丈夫よ!え〜とその…あっ!そうだ!き、昨日は一之瀬君と円堂君の対決が楽しみで眠れなくて、寝不足なだけだから!」
音無「な〜んだ!それならそうと言ってくださいよ〜!無遅刻無欠勤の木野さんが急に調子が悪そうになったから、心配しちゃったじゃないですか〜!」
秋「アハハ…。ごめんね…」
音無の反応により何とか誤魔化せたと確信した秋は、ダメ押しの作り笑いを浮かべ何とかその場の空気を濁す。
秋(言えるわけないよね…。この試合が…一之瀬君の最後の試合になるかもしれないなんて…)
秋の脳裏に浮かぶのは数日前の一之瀬との会話…。
……………
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………
……
…
一之瀬『秋…。アメリカに一緒に来てくれないかな…?』
一之瀬からアメリカ地区に呼び出された秋は、彼からプロリーグのユースチームへスカウトを受け、FFI卒業後は日本には戻らずにアメリカでサッカーを続ける事を伝えられた。
秋は幼馴染として一之瀬を祝福し、彼の実力がプロに認められた事を喜ぶも、一之瀬の表情はどこか暗かった。まるで何かの感情を押し殺しているかのように…。
その表情の中で辛うじて発せられた言葉が、自分と共にアメリカに渡ってはくれないかとの提案だった。
ある種のラブコールとも言える発言に戸惑う秋だったが、すぐに一之瀬は言葉足らずであった事を謝罪し、自分のプロとしての初試合を見に来て欲しいと言いたかったと訂正し、日本に居る戦友達によろしくを伝えその場を後にした。
だが話はここで終わらなかった。一之瀬の呼び出しから数日後の今日、ここクジャクスタジアム内の通路にて偶然、チームメイトである筈の一之瀬と土門が口論をしている場面に遭遇してしまったのだ。
土門「…一之瀬、お前の決意は分かった。お前がそう決めたのなら、俺は最後まで付き合う。…ただ1つだけ約束してくれ、万が一試合中にプレーが出来なくなるような事があったら…」
一之瀬「…分かってる。その時は潔くグラウンドから去るさ…。ありがとう土門、お前は俺の最高の親友だよ」
…否、口論という表現は正しくない。それは親友同士の決意表明であった。
秋「どういう…こと…?」
一之瀬「秋…!?どうして君がここに…!?」
それでも彼らの会話は日に日に増幅していた秋の嫌な予感を的中させるには十分すぎた。
秋「どういうことなの一之瀬君…!今の会話…まるで今日が最後の試合みたいじゃない…!」
一之瀬「それは…!」
土門「…もういいだろ一之瀬。遅かれ早かれ知られてたんだ…。いっその事、ここで秋に全部話しちまえ…」
一之瀬「…ああ」
一之瀬は秋に自身が抱えていた秘密を全て話す。ユースチームのスカウトは本当である事、だが数年前の怪我が再発してしまい再び手術が必要となってしまった事、そして…手術の成功率は時間が空けば空くほど下がってしまう事…。
秋「再手術って…!一之瀬君の怪我はもう治ったんじゃなかったの…?」
土門「…エイリア学園との戦いのせいだ。エイリア学園との壮絶な戦いは…一之瀬本人ですらも知らない間に眠っていた筈の爆弾に火を着けちまった…」
秋「そんな…!」
一之瀬「…だからって永世のみんなを恨まないでほしい…。俺は自分自身の選択であの戦いに参加し、サッカーを通して彼らと分かり合えた事を誇りに思ってる」
秋「…分かった。…けど今の手術の成功率はどれくらいなの…?」
土門「50%ってところらしい…。しかも例え成功したとしても、サッカーが出来るレベルまで回復する確率は10%を下回っているそうだ…」
秋「なんで…!どうして誰よりもサッカーを愛してる一之瀬君がこんな目に合わなくちゃならないの…!」
彼にサッカーへの天賦の才を与えながらも、同時に過酷な運命も押し付けた“神”に対して秋は涙を流して訴える。
一之瀬「…顔を上げてくれ秋。俺は…君にだけは笑っていてもらいたいんだ」
秋「無理よ…!一之瀬君が二度とサッカーができなくなるかもしれない状況で…!笑えるはずがないじゃない…!」
一之瀬「それでも君には笑っていて欲しいんだ。俺にとって…君は“勝利の女神”なんだから」
秋「…え?」
一之瀬「この言葉の意味を深くは語らない…。けれど、俺は君に見届けて欲しいんだ。君に…木野秋に!一之瀬一哉が生きていた証をッ!」
その瞬間、秋は確かに見た。例えこの試合でこの身が朽ち果てようとも、一片の悔いすらも残さない…そう感じさせるまでの覚悟の炎が彼の瞳に宿っている様を。
秋「…もう乙女の祈りじゃ、
一之瀬「ああ。悪いけど…これだけは絶対に譲れない」
秋「…分かったわ。もう私はからは何も言わないし、みんなにも一之瀬君の怪我のことは言わない…。…けど、これだけは約束して。絶対に…絶対にまたみんなと一緒にサッカーをしようね…!」
一之瀬「秋…。…ああ!約束だ!」
幼馴染との再会を約束した一之瀬は、親友と共に最後の戦いとなるかもしれない
…
……
………
…………
……………
秋(ごめんね一之瀬君…。あなたに辛いことを言わせちゃって…。だから…私はもう目を逸らさない!あなたの幼馴染として…イナズマジャパンのマネージャーとして、一之瀬君の勇姿を見届けるわ…!)
幼馴染の最後の勇姿を見届ける覚悟を決めた秋は、力強い目で戦場へ視線を移す。
雷牙「へいへ〜い?何俺ちゃんのイケメン面をジロジロ見つめてんだよ〜?そんなに見つめられちゃ流石の雷牙さんも照れるぜ?」
一之瀬「悪いね。ただ昔を懐かしんだだけさ、思い返せば…あの日の俺の目的の1つは君だったね」
雷牙「???」
偶然、雷牙の正面に並んだ一之瀬は、まるで同窓会に参加しているかのように雷牙を通して昔を懐かしむが、その意図を察せなかった雷牙は頭に大量の『?』マークを浮かべる事しか出来なかった。
コイントスによりユニコーンのキックオフが決定し、各チームの選手達は指定のポジションへ着く。
今回のイナズマジャパンのスタメンは以下の通り。
FW:豪炎寺、熱也、染岡
MF:風丸、雷牙、鬼道、吹雪
DF:綱海、壁山、飛鷹
GK:円堂
偶然か否か、今回のイナズマジャパンのスタメンには、かつて一之瀬が所属していた雷門中出身の選手が全員スタメン入りしている。
一之瀬(俺がよく知っている筈の雷門の選手を多く起用するなんて…。久遠監督は随分と思い切った戦術を取るな…。…正直、このスタメンにどんな意図があるかは分からない。だけど、今はただ“神様”が起こしてくれた奇跡に感謝するだけだ…!)
一之瀬は、強気な姿勢の久遠の戦術に違和感を覚えながらも、思考を打ち切り、今はただ再び日本の戦友達と巡り合わせてくれた運命に感謝述べ、試合へのモチベーションを更に高める。
ピーッ!!!
ディラン「見せてやれ!カズヤ!」
開始早々、ユニコーンのエースストライカーであるディランは、自ら攻める事はなく、即座にバックパスを送り一之瀬にボールを回す。
熱也「いくぜぇ!染岡ァ!!!」
染岡「おうよッ!!チームメイトだからって手加減はしねぇぞ一之瀬ッ!!」
一之瀬「ああ!!全力でこいッ!!!」
互いに深い絆で結ばれた日本の銀狼と蒼龍は、息の合った動きで一之瀬に攻撃を仕掛けるも、この日の為に極限まで磨き上げられた彼のスピードとテクニックを駆使する事でアッサリと抜き去られてしまう。
熱也「この俺がスピードで負けただと…!?」
染岡「スピードだけじゃねぇ…!テクニックも昔とは段違いだ…!」
一之瀬「パワーアップしてるのは君達だけじゃないって事さッ!!」
最強コンビを下した一之瀬は、更に加速のギアを上げ敵陣へ入り込む。
豪炎寺「だったら俺が!」
ディラン「おっと!カズヤの邪魔はさせないヨッ!」
FWの突破をみた豪炎寺は一之瀬を止めようとするも、マークに入ったディランの妨害を振り切る事が出来ずに一之瀬を取り逃してしまう。
雷牙「べらぼうに強くなったじゃねェか!一之瀬クンよォ!!今度は俺が相手だッ!!」
一之瀬「待っていたよ!“
銀狼と蒼龍を突破し中盤へ突入した一之瀬…。彼を止めるべく先陣を切ったのは、金色の髪を靡かせ目の前の好敵手に向けて闘志の炎を燃え上がらせる“怪物”だ。
雷牙「最初に言っとくぜッ!!今日の俺ちゃんは一味も二味…いや!三味も違ェ!!!」
一之瀬「なら俺はその上をいくだけさッ!!」
先程の熱也と染岡との攻防が良い例だが、柔を以て剛を制す一之瀬にとってフィジカル重視の選手ほど捌き易い存在はない。
特に目の前の“怪物”は圧倒的なフィジカルを振り翳して敵を粉砕するフィジカル重視の極致とも言える存在だ。
アメリカの
筈だった……
一之瀬「これは驚きだよ!まさか大雑把な君がこんな繊細なプレーが出来たとはねッ!!」
雷牙「だから言っただろうがッ!今日の俺は四味も五味も違うってなァ!!!」
側から見れば“怪物”のプレーその物に大きな変化はない。人並み外れた身体能力と反射神経を駆使して、いつか訪れるであろう“0.1秒の隙”を狩るだけだ。
だが、実際に彼と対峙している一之瀬は、あまりに大雑把な“怪物”のプレーの内側にこれまでの彼とは真逆とも言える“繊細さ”を感じ取っていた。
一之瀬(この動き…。稲魂や豪炎寺が“ゾーン”に入った時の感触と似ている…。だが、今の稲魂に“獅風迅雷”特有の黄金のオーラは見られない…。もしかして何らかの手段で“ゾーン”に入った時の感覚を再現しているのか…?)
雷牙「どうした一之瀬ェ!!オメーの力はんな程度かよォ!?」
一之瀬(ペースを乱されるな一之瀬一哉!最初から手加減して稲魂を突破出来るとは思っちゃいない!全ての力と運を総動員しろ!!)
予想外の方向にパワーアップを遂げていた“怪物”を前に、早くも本気を出す決意を決めた一之瀬は、先程よりも鋭い足捌きと小回りの効いた動きで“怪物”を翻弄する。
一方、“怪物”は持ち前の反射神経と未完成ながらも洗練されたフィジカルを駆使して一之瀬に喰らい付いてゆく。
一之瀬(ここだ!!)
最高のタイミングを掴んだ一之瀬は、意図的に0.1秒の隙を作り出す事で、この30秒間の攻防で“怪物”が待ちに待ち望んでいた特大の“餌”を撒く。
雷牙「もらったァ!!!…と見せかけて本命はコッチだよッ!!」
案の定、撒き餌に喰らい付いた……と思わせて一之瀬の策を読んでいた“怪物”は、身体全体を使って側転を行う事で逆サイドに飛翔していた一之瀬に追いつく。
一之瀬「凄いな…!これすらも読んでいたのか!!…けど!!」
さりとて策を読んでいたのは“怪物”だけじゃない。真の一流とは二重三重に策を張り巡らすモノ…。この瞬間においては、一之瀬が僅かに“怪物”よりも一流であった。
一之瀬は、“スカイウォーク”の技術を応用する事で空中での移動を可能にし、“怪物”を翻弄する。
一之瀬「その“熱さ”が弱点だッ!!」
ぶっつけ本番で未完成の技術を使った事がここに来て裏目となってしまう。未完成の技術故に、想定外の状況に弱いという弱点を突かれてしまった“怪物”は僅か1秒ながらも思考が停止してしまう。
たかが1秒、さりとて1秒。一瞬の油断が敗北を招くこの白兵戦においては、その1秒が致命的となる。
マクスター『抜いたーーッ!!!カズヤ・イチノセ!巧みなテクニックでイナタマを突破したぞーーッ!!!』
雷牙「チッ!やっぱしまだ完成には程遠いかッ!!」
“怪物”を突破しても一之瀬の勢いは減るどころかドンドン増す。風丸、鬼道、吹雪、綱海…日本屈指の名選手達が一之瀬1人相手に次々と翻弄されていき、遂には中盤を抜け後衛へ到達してしまう。
壁山「勝負っス!一之瀬さん!だったぁ!!!“ザ・マウンテンV2”!!!」
飛鷹「あんたとは何の因縁もないが、日本代表のDFとして絶対に止めてやるッ!!喰らえッ!“真空魔V2”!!」
一之瀬の侵攻を食い止めるべく、フィールド上に雄大なる山脈と、誇り高き鷹による真空の裂け目が発生する。
一之瀬「それは既に読んでいるさッ!“真 スカイウォーク”!!」
如何に強力なブロック技であっても、空中まで影響を及ぼす必殺技は少数派だ。
元チームメイトである壁山はまだしも、新参者である飛鷹の必殺技すらも“地”のみならず“天”までもフィールドの一部として扱う事でいとも容易く無力化する、その柔軟な発想力はまさに“フィールドの魔術師”の真骨頂だ。
マクスター『なんという事だーーッ!!!イナズマジャパンの精鋭達がイチノセ1人に悉く翻弄されていくーーッ!!!気付けば残るはキーパー、エンドウ1人だーーッ!!!』
一之瀬「勝負だッ!円堂ッ!!!」
円堂「こいッ!!!一之瀬ッ!!!」
自身が認めた最強にして最高の
オーラは徐々に四足歩行の獣を形作ると、その背に雄々しくも美しき翼を持った
一之瀬「これが俺の…!“ペガサスショット”だァァァ!!!」
円堂「感じるぜ一之瀬…!それがお前のこの試合に懸ける想いなんだな…!なら…!俺も全力でその想いに応える…!!」
詳細まで理解出来なくとも一之瀬が円堂との勝負に懸ける想いを受け取った円堂は、全ての気を右手に集中させ天高く飛翔する。
するとその背に屈強な肉体を持つ黄金の魔神が降臨し、円堂に更なるパワーを与える。
円堂「“怒りのぉ…!!鉄鎚V4ッ”!!!」
進化した黄金の魔神による鉄鎚が蒼白の弾丸と激突する。だが魔神の鉄鎚を以てしても天馬の羽ばたきは止まる気配を見せず、徐々に魔神の拳が押し返されていく。
円堂「グギギギ…!な、なんだこのシュート…!?これまで受けてきたシュートとは何かが違う…!」
これまで“怒りの鉄鎚”を打ち破ってきたストライカー達のシュートとは決定的に“何か”が異なる“ペガサスショット”は、突如ボールを起点に強力な突風を発すると、その風圧により魔神の姿が跡形もなく消失する。
円堂「どわぁぁぁぁぁ!!!」
魔神の加護を失った円堂では
ピーッ!!!
マクスター『ゴーールッ!!!先制点を奪ったのはアメリカが誇る“フィールドの魔術師”カズヤ・イチノセだーーッ!!!』
一之瀬「どうだ円堂!!俺の“ペガサスショット”は!!」
円堂「スゲェ…!スゲェよ一之瀬…!今の一撃でこれまでお前がどんな努力を重ねていたかがよく分かったぜ…!」
身体全体をゴールネットに叩きつけられた事により、全身に電流のような痛みが走るも、一之瀬という好敵手の存在に円堂は思わず笑みを溢してしまう。
試合はまだまだ始まったばかり。勝敗の行方は分からない。
地味にイナヒロの一之瀬は、ユニコーン戦での超強化がしっくりくるように、アニメよりも強めに描写してたりします。
FFでの白恋戦とか、ダイアモンドダスト戦とジェネシス戦みたいに重要な試合でスタメンを張ったり、要所要所で活躍させてました。
〜オリ技紹介〜
♦︎未完成の“ゾーン”(仮)
≪概要≫
デストラクチャーズ戦での経験と雷冥の“究極極限界突破”に触発された雷牙が、アメリカ戦までの猛特訓の末に習得した技術。
未完成ながらも歴とした“ゾーン”である為、雷牙のパワフルなプレーに繊細さが加わり、これまで苦手としていたテクニック重視の選手にも互角以上に戦えるようになった。
だが、まだ“ゾーン”の力を完全には使いこなせておらず、思わぬ所で隙を晒す場合もある(本編で見せた一之瀬の破り方も普段の雷牙ならば完封出来ていた)。
イナMONに引き続き、ちょっとした作者の好奇心なんですけどオリキャラの中で誰が1番好感度が高いのかな〜って気になったんでアンケート取ってみまーす。別に結果によってこの後の展開が変わるとかはないので気楽に投票してください。
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稲魂雷牙
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稲魂雷斗
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明星鬼乃子
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“雷帝”