イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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う〜ん…イタリア戦はやりたいイベントがいっぱいありすぎて、オリジナル展開と原作の展開との擦り合わせが大変…。大変すぎて(てか鬼乃子が強すぎるせいで)ヒデナカタ出さなくてもよくね?って思考が一瞬だけよぎっちゃったくらいだし。


覚醒の“ (キザシ)

鬼乃子「アンタのゼンリョクはその程度!?もっと私に出させてよッ!!本気ってヤツをさァ!!!」

 

雷牙「チッ…!野郎…!!」

 

 努力を重ねた努力の末にようやく手に入れた“怪物”の最高到達地点(ゼンリョク)を以てしても、その瞳に狂気を宿す“鬼”には通用しなかった。

 

染岡「って事は…!稲魂は既に“切り札(ゾーン)”を使ってるってのに、鬼乃子の野郎に圧倒されてるって事ですか…!?」

 

響木「ああ…。しかも…明星まだ本気を出していない様子だ…」

 

立向居「そんな…!」

 

 響木によって現実を知らされた仲間達は、予想を遥かに超える“鬼”の実力に絶句する事しか出来ない。

 

響木「燻っていた40年間でも、燻ってたなりに色んな選手を見てきたつもりだが…。ここまで強さの底が知れん選手()を見るのは初めてだ…」

 

 響木は鬼乃子の底知れぬ強さに対し、怨敵である影山に似た“闇深さ”を感じとっていた。

 

響木(明星の強さはハッキリ言って異常だ…。それこそ、生まれてから今日までの日常生活を全て鍛錬に費やす事で初めて到達出来る境地…。まだ12歳程度の少女がそんな人生を送っているというのか…?)

 

 響木の数十年に渡る経験則から、自ら望んでそんな苦行染みた人生を送る子供は存在しない。となると、少女の背後に“地獄”を強制する大人の存在を察するのはごく自然な事だった。

 

響木(恐らく日常が地獄だった筈…。にも関わらず何故、お前はそこまで笑えるんだ…?稲魂の何がそこまでお前を駆り立てる…?)

 

 いくら心の中で少女に問いかけても、その答えは返って来ない。代わりに響木の目に映るのは毎秒ごとに衰弱していく“怪物”だけだ。

 

雷牙「ハァ…!ハァ…!」

 

 未だに“鬼”を突破出来ない“怪物”は息を乱す。その息の乱れは“最強”を使用した事による疲労によるものか、自身の“最強”が通用しない現実への焦りか、それともそのどちらかか。

 

鬼乃子「アッレェ?もう終わり〜?まさかと思うけどさァ〜…アンタがこの程度で限界なワケがな・い・よ・ね?」

 

 自身の生きる意味であり、父が狂気ともいえる執着を持つ存在が、4割以下のパワーで苦戦する程度の強さでしかない事に信じられない“鬼”は、更に“怪物”の実力を引き出すべく、嫌らしい笑みとワザとらしい口調で挑発する。

 

 その煽りの風は、“怪物”の中で中途半端に燃え盛っていた炎を再度燃え上がらせるには十分すぎた。

 

雷牙「なワケ…!んなら見せてやんぜ…!雷牙サマが限界の壁を突破する為に開発した“()()()()()”をなァ…!!」

 

 “鬼”の煽りを受けた“怪物”は、体内より膨大なオーラを発し形を形成させると、その背に黄金の大斧を携えた“覇王”を顕現させる。

 

鬼乃子「ココに来て化身…?もしかしてだけどさ…それが最後の切り札とは言わないよね?」

 

 この期に及んで使い古された遺物に頼ろうとする“怪物”に対し、それまで無邪気な笑みを保っていた“鬼”は、初めて表情を変え溜め息混じりの失望の表情を見せる。

 だが、“怪物”は失望の溜め息すらも鼻息で一喝し、不敵(ニヒル)に笑う。

 

雷牙「オマケにも一つ…!!!ハァァァァァ!!!」

 

 完全に“覇王”を顕現させてもなお、“怪物”は気の高まりを止めない。すると、あれだけ強い存在感を放っていた“覇王”は徐々にその形が不安定となり始める。

 

雷牙「この試合が終わった後で身体がぶっ壊れるかもしんねェけどよォ!!!俺にゃあ今、この瞬間にパワーが必要なんだァァァ!!!」

 

 遂に完全に形を失った“覇王”は、金と紫の二色で構成されたオーラとなって“怪物”の身体を包み込む。

 

円堂/ライト「「アレって…!まさか…!」」

 

 両チームのゴールを守る守護神達は、“怪物”が乗り越えようとしている200年の壁の正体を察する。

 

雷牙「アームドォォォ!!!」

 

 “アームド”なる謎の呪文を叫んだ“怪物”は純白の光に包まれ、一時的にその姿を皆の前から消す。

 光が晴れた先に居たのは皆がよく知る“怪物”その人だった。唯一の彼らの記憶と異なるのは、その両脚()()に“覇王”の面影を見せる黄金の鎧が装着されている事くらいだろうか?

 

雷牙「クハハハ…!なんという未完成!!クソ不恰好もいいとこだ…!だけどよォ…!今だけはその不恰好(コレ)が一番良い…!!」

 

マクスター『な、なんとーーッ!!!ライガ・イナタマが両脚に化身を思わせる鎧を纏ったぞーーッ!?!?!?まさか化身にはもう一つ上のステージがあったと言うのかーー!?』

 

 この土壇場にて辛うじて発動させた“とっておき”こと、今から約200年後の未来に存在する超技術“化身アームド”。三度に渡る“時空の共鳴現象”は、不完全ながらも“怪物”に200年の壁を乗り越えさせる事に成功させた。

 

染岡「ベンチからでも分かるぜ…!稲魂のパワーがさっきとは比べ物になんねぇくらい膨れ上がりやがった…!あの野郎〜!いつの間にあんなスゲェ技術を…!」

 

響木「原理その物は“獅風迅雷”と同じだな。フィジカルの強化に化身を用いる事で、身体へのダメージを考えずに一時的に戦闘力を底上げしているんだろう…」

 

立向居「いける…!このパワーなら鬼乃子さんに勝てますよっ!!!」

 

 数m以上離れた地点(ベンチ)からでも感じ取れる、新たな技術によって増幅された“怪物”のパワーを前に仲間達は“鬼”の討伐を確信する。

 

響木「…どうだかな」

 

 だが、またしても響木そして今度は久遠までも、“怪物”の選択に怪しい雲行きを感じていた。

 

鬼乃子「……」

 

雷牙「勝負だッ!!!鬼乃子ォォォ!!!」

 

 脚部に黄金の鎧を纏った“怪物”は地面を力強く一歩踏み込むと、一瞬でその姿を消失させる。

 光速を超えた速さを発揮した“怪物”が居るのは、“鬼”の直線上。彼はあくまでも真剣勝負における花形たる正面突破に拘り、フェイントによる小細工は一切要せず、純粋なパワーのみで突破を試みる。

 

 不完全とはいえ、“怪物”に発現した技術は化身の完成系たる“化身アームド”…。不完全に習得した完成系なる矛盾したワードを現実に体現する“怪物”は数分にも満たない時間で繰り広げられた“鬼”との決戦に決着をつけるべく、黄金の右脚を大きく振り上げる。

 

 常人ならばその風圧だけで吹き飛ばされかねない突風が襲っても“鬼”の足元は1mmたりとも動く事はない。その代わり…突風よりも遥かに軽い小さな風が“鬼”の口より放たれる。

 

鬼乃子「()()()…」

 

 その風の正式名称は“()()()”。その風が表すのは主に“呆れ”、“失望”、“不満”を意味する。今回吹いた風がどちらを意味するかは、“鬼”の表情を見れば明らかだった。

 

鬼乃子「んな付け焼き刃で私に勝とうとするなんてさァ…。マジでガッカリ」

 

 付け焼き刃の技で自身に挑もうとする“怪物()”に“呆れ”、想像を遥かに下回る強さに“失望”し、この瞬間の為だけに生きてきた自身の人生に“不満”を露わにした“鬼”は、霞の如く姿を消失させ“怪物”が待ち構える空中にて姿を表す。

 

雷牙「しゃおらァ!!!」

鬼乃子「ハイヨー」

 

 ボール越しに激突する“怪物”と“鬼”…どちらが真の“怪物(サッカーモンスター)”に相応しいかを決める決戦。

 その決着が終わるのに要した時間は、僅か1秒にも満たなかった。

 

雷牙「バカ…な…!?」

 

鬼乃子「う〜ん…なんたるクソッタレエンド!まるで期待されてた映画の続編がバッドエンドだった時みたいな煩わしさだね♪」

 

 両者の右脚が衝突した瞬間、“怪物”の右脚を包んでいた黄金の鎧は鈍色の金棒を宿す“鬼”に右脚に粉砕され鈍い音を立てて崩れ去った。

 当然、化身によるパワーアップをなくした“怪物”が“鬼”に太刀打ち出来る筈がなく、完膚なきまで叩きのめされるだけだった。

 

円堂「雷牙が…負けた…?」

 

 “怪物”の完敗は日本の侍達に強い衝撃を与えるには十分だった。その衝撃はフィールドのみならず、ベンチに居る者達にも伝わってしまう。

 

立向居「ど、どうして…!?稲魂さんは化身をまとってパワーアップした筈じゃ…!」

 

 人が持つ強い想いが“英雄”の姿となって外部に出力された存在である化身は、顕現するだけで使用者に絶大なパワーを与える。化身(それ)の力を外部ではなく内部に宿す事が出来れば、化身を超えるパワーを得られる事は素人目に見ても明らかだ。

 

 にも関わらず“怪物”は“鬼”に負けた。それもあまりに呆気なく。

 

久遠「まったくの見当違いだ。身体に無理して増幅させたパワーをそう簡単に使いこなせる訳がない。あれでは自らの壁を破る事など夢のまた夢だろうな」

 

響木「稲魂が超えなければいけない壁は、まだまだ高かったかもしれんな…」

 

 “怪物”を討ち取った“鬼”は静かに天を仰ぐ。その顔に“喜び”はなく、あまりに呆気なく()()()()()()()事により生じてしまった虚無感を表すように、ただただ無表情だ。

 

鬼道「クッ…!ディフェンスッ!オルフェウスのカウンターを警戒しろッ!!ヒロトはフィディオを!それ以外の選手は鬼乃子に最大限のマークを付けろッ!!」

 

 オルフェウスの攻撃の芽を徹底的に摘む為の指示を送る鬼道だが、その瞬間、晴れ渡る青空に出現した“紅の太陽”が(いろ)を亡くす。

 

鬼乃子「“百鬼夜行”」

 

 対策すらも練る暇を与えず、“鬼”の影を媒介に誕生した不定形な漆黒の妖達が侍達を拘束する。

 

風丸「なんだこの技は…!う、動けない…!」

 

綱海「こんな効果範囲の広い技だなんてありかよ…!」

 

 “鬼”の影より生み出されし妖達の活動範囲はDFにまで到達していた。侍達の身体に絡みつく妖の力は尋常ではなく、どれだけ力を入れても妖達の呪縛から逃れる事が出来ない。

 

マクスター『歩いているーーッ!!!イギリス、アルゼンチンに続き、またもやキノコは歩いているぞーーッ!!!もしや彼女は試合中に一度は歩かなければ死に至る病気にかかっているのかーーッ!?』

 

 全ての侍を無力化した“鬼”は悠々自適の徒歩によるドリブルで円堂が守るゴールまで向かう。その様は、神話に登場する海を真っ二つに割ったという聖人の行進だ。

 

鬼乃子「喜びなよ円堂パイセン。今度は私直々に相手したげる」

 

円堂「来いっ!!!三度目の正直だっ!!!」

 

鬼乃子「張り切ってるとこ悪いね〜円堂パイセ〜ン。ちょっとあんまりにもムカっ腹が立っちゃったからさ〜…。多分手加減できそうにないわ」

 

 “怪物”の弱さに苛立った“鬼”は、その小柄な体躯と自他共に認めるそれなり以上に整った顔立ちからは想像もつかないドスの効いた低い声と共に膨大な灰色のオーラを放出する。

 

 灰色のオーラは徐々に多数の猛獣の形を形成すると、謎の力により1つに纏められフィールドに歪に混ざり合った異形の“怪物(キマイラ)”が降臨する。

 

鬼乃子「(あまつ)に亡けッ!!!“イーヴィルキマイラッ”!!!」

 

 灰色の“ 怪物(キマイラ)”による咆哮は、ボールに同色のオーラと無色の稲光を纏わせゴールへ向かう。

 “鬼”の最強にして最大の必殺技と対峙した円堂だが、その身体から感じるシュートに威力は、自身の最強たる“ゴッドハンドV”では勝負にすらならないと本能で理解させられる。

 

円堂「“魔神 グレイトッ”…!?」

 

 気つけば無意識のうちに化身を発動していた自分自身に驚く円堂だが、今の彼には自問自答する時間すらも与えられない。

 守護神としての責務を果たすべく、右手に黄金の稲妻を纏わせ、力強く一歩を踏み込む。

 

円堂「“グレイト・ザ・ハンドォォォォ”!!!」

 

 偉大なる伝説を築き上げた“魔神の右腕”が、“怪物(キマイラ)の咆哮”を捉え、その屈強な右腕で受け止めんとする。

 

 だが……

 

円堂「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 

 望まずしてこの世の生を受けてしまった“ 怪物(キマイラ)”の怒りの前には、偉大なる伝説すらも無力であった。

 一瞬どころか、ボールに触れた瞬間に“魔神”の右腕は粉砕され遂には心臓をも噛み砕き、ゴールネットに激しく突き刺さる。

 

マクスター『ゴーールッ!!!エンドウの化身すらも“(オーガ)”の一撃には惜しくも敵わずーーッ!!!この少女には不文律すらも通用しないのかーーッ!?』

 

「お、おい…!化身は化身でしか破れないって話じゃなかったのかよ…!」

 

「知らねぇよ…!エンドウとキノコの実力差がそれだけ開いてたって事じゃねぇか…?」

 

「なんて強さだ…!化け物…いや…!“怪物”だ…!」

 

 まだ発見されてから日が浅いとはいえ、この時代においても既に『化身は化身でしか破れない』という不文律は浸透していた。

 “鬼”がその不文律を覆したという事実は、化身ではその差を埋められない程に隔絶した実力差がある事を意味していた。

 

鬼乃子「…アレ?おっかしいな〜?こーんな美少女が先制点を獲ったってのに、美少女への美少女だけに対する美少女を讃える為の大歓声もなし〜?」

 

 かつて雷を統べし帝は、“神の力を齎す聖水”の取り憑かれた美の女神にこう説いた事がある。

 

『常人の“理解”を超えた存在を目にした時、人々はそれを“神”と呼ぶ』と…

 

 祝福する事すらも憚れる観衆達の反応はまさに“神”の降臨を目にした時と瓜二つ…。ただ一つ違うとすれば、降臨した存在は“神”ではなく“鬼”であった事だろう。

 

雷牙「クソッタレがッ!!!」

 

 “鬼”の降臨すらも気にも止めず、“怪物”は力いっぱい地面を殴りつける。

 

雷牙(俺の…全てが…!鬼乃子(アイツ)には何一つ通用しねェ…!俺とヤツじゃ、そこまで“差”があるっていうのかよ…!)

 

 “怪物”は、この日の為に習得した“切り札(ゾーン)”も、土壇場で成功させた“とっておき(化身アームド)”すらも通用しない現実に打ちのめされていた。

 

豪炎寺「何を不貞腐れている雷牙ッ!!まだ試合は始まったばかりだぞ!地面に八つ当たりするパワーがあるのなら、それを試合に使えッ!!」

 

 敗北を悔しがる“怪物”へ相棒である豪炎寺の叱責が飛ぶ。中学生とは思えない刀のような鋭さを持つ叱責は常人なら怖気付いてしまいそうなものだが、“ファイアトルネード”が飛んで来ないだけ今回はまだ温情がある方だ。

 

雷牙「分かってる…!分かってんだけどよォ…!どうしてもこの現実を割り切れねェんだよ…!」

 

 一度の敗北に囚われる“怪物”を叱責した豪炎寺だが、彼とてその挫折が気持ちが分からない訳ではない。何せ自身もアルゼンチンとの試合で同じ挫折を味わった。

 だからこそ、豪炎寺は友を慰める訳にはいかない。挫折こそが最大の成長のチャンスなのだから。

 

豪炎寺「ならば問おう。お前にとっての“強さ”とはなんだ?」

 

雷牙「“強さ”…?んなモン決まってらァ…“強さ”とは目の前の敵をぶっ倒す力だろーが…。アイツに俺のパワーをどんだけ上げても太刀打ち出来ねェ以上、俺にはもっともっと大きな力が必要なんだよ…!」

 

 誰よりも本当の“強さ”を知っているだろうに、目の前の“鬼”に惑わされ誤った認識を持つ“怪物”に対し豪炎寺は溜め息を吐く。

 

豪炎寺「…それがお前の答えなら、今すぐ“ゾーン”の道を諦めろ。そんな浅い考えで極められる程“至高の領域”は甘くはない!!」

 

雷牙「んな…!」

 

豪炎寺「教えてやる雷牙ッ!本当の“強さ”とは他者に向ける物じゃない!自分自身に向ける物だッ!!俺達は昨日の自分に勝つ為に日々特訓に励んでいるんだ!目の前の相手の力だけに囚われているようじゃ、いつまで経っても未熟者のままだぞッ!!」

 

雷牙「…あ」

 

豪炎寺「フッ、ようやく理解したようだな。…なら、俺がその答えを見せてやる!」

 

ピーッ!!!

 

 友への説教を終えた豪炎寺は、キックオフでボールを受け取ると自身が辿り着いた“強さ”の答えを証明するべく、その身より紅蓮の炎を発する。

 

豪炎寺「ハァァァァァ…!!」

 

 “怪物”と同様に、肉体に多大な負荷をかける事で限界のリミッターを外すが、100%のその先の領域へ達しても豪炎寺は気を高め続ける。

 すると、彼の身体を包み込んでいた炎はより濃い真紅に染まり、陽炎の如き穏やかな流動性を帯び始める。

 

豪炎寺「“バーニングフェーズ…3”!!」

 

 これぞ豪炎寺が沖縄での特訓の果てに到達した“至高の領域”…“バーニングフェーズ3”だ。

 

雷牙「んヤロー…!人様が苦労して完成させた領域にポンポン入りやがって…!」

 

 コツを教えたのは自分とはいえ、こうもアッサリと“至高の領域”に辿り着いた友に対して悪態をつく“怪物”だが、その表情はどこか嬉しそうだ。

 

豪炎寺「行くぞッ!!」

 

フィディオ「皆ッ!彼は日本最強のストライカーだ!確実にボールを奪う為にも“カテナチオ・カウンター”を使うんだッ!」

 

ラファエレ「何度も言ってるだろフィディオ!俺達に“カテナチオ・カウンター”は必要ないって!!」

 

 “ゾーン”へ突入した豪炎寺に最大限の警戒を以て“カテナチオ・カウンター”を命じるフィディオだが、“鬼”にプライドを差し出してもなお、ミスターKの命令を聞くつもりはない他の選手達は、キャプテンの命令を無視して単独でのブロックに入る。

 

 だが…

 

ラファエレ「消えた…!?」

 

豪炎寺「何処を見ている?俺はこっちだぞ?」

 

ラファエレ「なっ…!」

 

 豪炎寺は必殺技ですらない超スピードを以てラファエレのスライディングを躱し、フィディオが合流する暇すら与えずに中盤まで到達する。

 

フィディオ「は、速い…!まさか俺が追いつけないなんて…!」

 

アンジェロ「フィディオ!ディフェンスはもういい!ゴウエンジは僕たちが絶対に止めるから、君は前線に居て!!」

 

フィディオ「でも…!」

 

アンジェロ「いいからっ!!」

 

フィディオ「クッ…!分かった…!」

 

 “カテナチオ・カウンター”を使わない限り豪炎寺を止める事はできないと分かっていながらも、アンジェロの強い視線を拒否できなかったフィディオは、仲間を信じて前線へ上がる。彼らの狙いはただ一つ、カウンターによる必殺の“オーディンソード”だ。

 

アンジェロ「“エンジェルレイ”!」

ダンテ「“バーバリアンの盾”!!」

 

 豪炎寺の前に立ちはだかったアンジェロとダンテは、天使の光で豪炎寺の目を眩まし、野蛮な意匠が施された大楯で進路を塞ごうとする。

 

 しかし…

 

豪炎寺「フンッ!!」

 

 なんと豪炎寺は、触れるまでもなく目力のみで光を掻き消し、大楯を溶解させた。

 

ダンテ「触れるまでもなく必殺技を解除させるって…!そんなのありかよ…!?」

 

豪炎寺「悪いな。今の俺には立ち止まっている時間はないんだ。手加減をするつもりはないッ!!」

 

 中盤を突破した豪炎寺に残された障害は、5人のDFのみ。だが、肝心のDF達はこれまた規格外の実力を見せつけた豪炎寺に対して戦意が揺らいでおり、勝負の前から気持ちが負けている。

 

影山「何を怖気付いているッ!敵は1人、こちら5人だ!オットリーノ、ガッツ!貴様らは左右にプレスを掛けろッ!ベント!貴様は基山にマークを付け!」

 

フィディオ「ッ…!?ミスターKが初めて自分から指示を出した…!?」

 

 プライドだけは高い癖して、いざ強敵が現れると腑抜ける選手達に我慢ができなかったのだろう。

 これまで傍観に徹していた筈の影山は、初めて自分から具体的な指示を送り豪炎寺を無力化しようと試みる。

 

 流石のオルフェウスの選手達も自分達だけの力で豪炎寺を止められないと分かったのだろう。仕方なくあれだけ反発していた筈のミスターKの指示を受け入れるが、まだ反発心が残っているのか完全には従っていない。

 そんな中途半端なプレーで“至高の領域”に到達した豪炎寺を止められる筈もなく、オルフェウスのディフェンスは完全に崩壊し豪炎寺とライト…謂わば、新旧“怪物”の相方を務める者同士が対峙する。

 

鬼乃子「Great!!10年に1人の天才とは聞いてたけど、まさかココまでやるとはねェ!!誇りなよ!私がおに…稲魂雷牙以外に興味を示すなんて、滅多にないからさァ!!!」

 

 だが、その間に人生の目標を達成し、影山と同様に傍観者に徹していた“鬼”が豪炎寺の前に立ち塞がる。

 予想外の実力者の登場にテンションが上がった“鬼”は、虚無から一転し再び無邪気な笑みを浮かべながら豪炎寺へ攻撃を仕掛ける。

 しかし、豪炎寺は巧みなテクニックで“鬼”の攻撃を紙一重でいなし、“怪物”でさえ手も足も出なかった“鬼”を相手に互角…いや、互角以上の立ち回りを見せる。

 

鬼乃子「やるじゃんアンタ!まさか私とココまで戦える選手が稲魂雷牙以外にいるなんて思わなかったよ!!」

 

 兄以外にここまで自分を楽しませてくれる選手がいる事に歓喜した“鬼”は更に豪炎寺の実力を引き出すべく、その瞳から凄まじいプレッシャーを放つ。

 

 常人ならばそれを受けただけで口から泡を出し卒倒してしまう程に、凄まじい気迫…それを一身に受けてもなお、豪炎寺の表情が崩れる事はなかった。

 

豪炎寺「…それがどうした?」

 

鬼乃子「アッレェ?おっかしいなー…。大抵の人は、私のプレッシャーにビビって死に物狂いでプレーしてくれるのになー。…もしかして、何も感じてないの?」

 

豪炎寺「ああ。今の俺の心は…風一つ吹いていない水面(みなも)ように(なび)かない」

 

 “怪物”よりも遥かに深く“至高の領域”の本質を掴んだ豪炎寺は、一切の感情を乱す事なく“ゾーン”の精度を更に高める。

 どんなに強大なパワーを以て金棒を振り回しても、実態なき霞の前では全てが無力。強者故の経験の少なさが、その勝負の明暗を分けた。

 

豪炎寺「そこだッ!!」

 

鬼乃子「うっそーん…!?」

 

 不慣れから生じた僅か隙を突き、“怪物”でさえも成し遂げられなかった“鬼”の突破を、彼の相棒が代わりに成し遂げた。

 

マクスター『抜いたッ!遂にゴウエンジがキノコを抜いたぞーーッ!!!コレにてゴウエンジの前に居るのはライトただ1人ーーッ!!!日本最強のストライカーは彼j…彼の無失点記録を破る事は出来るのかーーッ!?』

 

豪炎寺「来いッ!!“炎魔皇 ガザード・レクイエムゥゥゥ”!!!」

 

 豪炎寺から生じた紅蓮の炎は、“炎魔”を皇へと押し上げる紅の鎧となり、炎魔を超えた炎魔…“炎魔皇”がフィールドに顕現する。

 

 “炎魔皇”へと就任した化身はその右手に灼熱の槍を創造すると、本体の動きと共鳴し、本体は爆熱の炎を纏った右脚を、“炎魔皇”は右手に携し灼熱を槍による一撃をボールに炸裂させ…

 

豪炎寺「“ファイア・オブ・レクイエムッ”!!!」

 

 楽団無き鎮魂歌(レクイエム)が奏でられる。

 

ライト(スゴい…!化身のパワーもシュートの威力も、前よりずっとパワーアップしてる…!けど…!ボクだって負けちゃいないよっ!!)

 

 豪炎寺の成長を肌で感じ取ったもう1人の“怪物”は、仲間達より任されたゴールを絶対に死守するべく、外部へ気を放出するとゴール前に自身と弟、そして亡き父母を模したマジンの一家(ファミリア)が集結する。

 

ライト「“ビースト・ザ・ファミリア”!!!」

 

 怪物一家(ファミリア)による4本の腕がシュートを捉え、凄まじい衝撃波を発しながら宙にて拮抗し合う。

 

ライト「グギギ…!」

 

 “ビースト・ザ・ファミリア”はライトが誇る最強の必殺技だ。最も化身パワーに満ち溢れていたグランのシュートを止めて見せる程に。

 されども両手に収まる“炎の鎮魂歌”は一向に消える気配がないどころか、より一層炎を強めて、一家(ファミリア)の束縛から逃れようとする。

 

ライト「くそ…!それなら…!」

 

 このままでは点を許すと悟ったライトは、左脚に翡翠色のオーラを纏わせるとボールに向かって躊躇なくシュートを叩き込む。

 

ライト「“スターダストレオーネV4”!!!」

 

 “獅子座の一等星”の一撃は、鎮魂歌の炎を絶やす事は出来なかったものの、シュートコースをネットからポストに逸らす事には成功した。

 ポストに衝突したシュートは、ポストに大きな凹みと漆黒の焦げ跡を残すと、その役目を終えたと勘違いした炎は消失してしまい、ライトにより即座に確保される。

 

ライト「あ、危なかった…!」

 

マクスター『止めたーーッ!!!アルゼンチン戦に引き続き、またしてもレクイエムは決まらずーーッ!!!』

 

雷牙「アレが…豪炎寺の“ゾーン”か…!スゲェ…!俺のとは全然動きの精度が違う…!」

 

 友の“至高の領域”を見た“怪物”は無意識のうちに頬の強張りを緩め、口角を僅かに上に上げる。

 たった今彼が見せた“ゾーン”は、それは素晴らしい物だった。それこそあの精度に到達できていれば“鬼”にも負ける事はなかっただろうと思う程に。

 

雷牙(“本当の強さ”か…。確かに俺は鬼乃子に負けて、また自分を見失ってたかもしんねェ…。俺が強さを求めるのはただ勝つだけじゃない…勝ってもっと“上”を目指す為だろ…?)

 

フィディオ「カウンターだライトッ!俺にボールを回してくれッ!!」

 

ライト「分かってるっ!!任せたよフィディオっ!!!」

 

 “怪物”が猛省している間も試合の展開は激しく進む。当初の予定とは大幅に異なっているが、絶交のカウンターチャンスを得たライトは、前線に居るフィディオにボールを回すべくボールを大きく蹴り上げる。

 

 だが、そのボールがフィディオに回る事はなかった。何故なら…

 

鬼乃子「豪炎寺パイセーン!私ももう一回勝負だよー!!」

 

 味方である筈の“鬼”の横槍が入ったからだ。

 

豪炎寺「ハァァァ…!“バーニングフェーズ3”!!!」

 

 “鬼”の行動こそ予想外ではあったものの、絶好のカウンターチャンスを自身の手で潰したのみならず、ここでボールを奪い返されてしまえばまたもや失点の危機となる状況の中で、豪炎寺に勝負から逃げるという選択肢はない。

 

 再度、“至高の領域”へと到達した天才は、その身に紅蓮の炎を宿し“鬼”へ立ち向かう。

 

鬼乃子「Excellent!!やっぱり勝負ってのはこうでなくっちゃ!だ〜か〜ら〜!アンタの為に私も()()()()()()()()()()♪」

 

豪炎寺「何…?」

 

 今から本気を出すという事はこれまでのプレーは本気ではなかったという事に他ならない。

 “怪物”を下し、大将を粉砕してもなお、本気のプレーとは程遠かったという事実に、心の中に水面に僅か突風が吹いてしまう。

 

 豪炎寺の僅か感情の昂りを見逃さなかった“鬼”は、右手で手印を結び天に“紅の太陽”を出現させ、不定形の妖達を呼び出す。

 

鬼乃子「“百鬼夜行”!!!」

 

豪炎寺「ぐ…!しまった…!」

 

 行動されると厄介なのならば、最初から動きを封じてしまえばいい。それが“鬼”が見出した“至高の領域”への対策法であった。

 

鬼乃子「…悪いけどさァ…そこを退いてくんない?」

 

雷牙「……」

 

 豪炎寺が突破される事を既に見越していたのだろうか?百鬼夜行を終えた“鬼”の前に現れたのは、先程完敗を喫した“怪物”だった。

 

鬼乃子「もうね〜私はアンタに興味はないんだよね〜。例えるなら、『アレだけ欲しかったおもちゃをいざ買ってもらうと、思ったよりも面白くなくて結局古いおもちゃに目移りしちゃう』…的な?」

 

 要するに“怪物”は彼女にお眼鏡には適わなかったのだ。自身の4割以下の実力しか持たない“怪物”に対して、“鬼”は既に興味をなくしていた。

 

雷牙「…俺はよォ…やっっっと分かったんだ…」

 

 それでも“怪物”は構わずに自身の見解を述べ始める。それは友によってようやく気付かされた“強さ”に対する彼なりの答えだった。

 

雷牙「“強さ”ってのは極める為にあるんじゃねェ…。超える為にあるんだってな…!」

 

鬼乃子「あっそ。私からすれば、アンタのその言葉って“完成”することを諦めた負け犬の戯言にしか聞こえませんけど〜」

 

雷牙「それで良い…!俺は“完成”なんかしたかねェ…!完成なんかしたら、そこで成長は止まっちまうかんなァ…!」

 

 “鬼”の『負け犬』という言葉すらも肯定した“怪物”だが、不思議な事にその表情に“屈辱”や“悔しさ”といった感情はなく、不敵に微笑んでいた。

 

雷牙「だから…!俺はもっともっと上を目指すッ!!オマエも…!ライトも…!そして…“怪物”すらも…!全部乗り越えて俺は更なる高みに行ってやらァァァァ!!!」

 

 刹那、“怪物”…否、稲魂雷牙の身体より、黄金の気の柱が立ち昇る。当初こそ炎のようの激しい揺めきを有していた柱の動きは徐々に緩やかとなると、その上に流水のように穏やかに流れる白銀のオーラが重ね掛けされる。

 

円堂「雷牙の雰囲気が…!変わった…!」

 

風丸「あれも…“ゾーン”なのか…?」

 

鬼道「似ている…。だが…明らかにこれまでのものとは“何か”が違う…!」

 

 これまでの彼には見られなかった、神秘的な神々しさすら感じさせる謎の変化に選手・観客問わず会場内は騒めつく。

 

 そして、新たな境地への到達をその身で実感した“怪物”は静かに呟く。

 

雷牙「やっと見えたぜ…!“限界”を超えた先にあるっつー…“地平線(ホライゾン)”がなァ…!」

 

 その“地平線(ホライゾン)”を捉えた澄んだ瞳には“魔王”と同じ輝きが放たれていた。




DFまで効果範囲が広がった“百鬼夜行”なんですけど、アレは雷牙に対する怒りのせいで一時的に効果範囲が広がってただけで、普段の範囲は精々4〜5人の動きを止めるのが関の山です(それでも多いけど)。

イナMONに引き続き、ちょっとした作者の好奇心なんですけどオリキャラの中で誰が1番好感度が高いのかな〜って気になったんでアンケート取ってみまーす。別に結果によってこの後の展開が変わるとかはないので気楽に投票してください。

  • 稲魂雷牙
  • 稲魂雷斗
  • 明星鬼乃子
  • “雷帝”
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