No side
「急にどうしたんだ鬼道?こんなところで話し合いたいなんて。」
鬼道がメンバー全員に話し合いをしたいと言われたためついて行ってみればいつものミーティングルームではなく廊下で立ち止まったことに源田は疑問の声を出す。
「…どこに監視の目がついているか分からないからな。みんな聞いてくれ、俺は総帥のやり方を否定する。」
「な、何を言ってるんだ鬼道!そんなことをしてみろ!お前は今まで見てきただろ!総帥に逆らった結果消えていった奴らを!」
総帥のやり方を否定する。それは影山と敵対するも同然の言葉である。確かに鬼道は影山から特に目をかけられ一番弟子と言ってもいい立ち位置にある。だが影山は自分に刃向かった者に容赦はしない。それが手塩にかけて育てた弟子であってもだ。
「お前達は悔しくはないのか?今まで必死に努力して得たと思っていた『最強』の称号が実力と関係無い謀略によるものであっても。俺はそれがどうしても許せない!」
右手から血が流れるほど強い力で拳を握る鬼道。今の帝国1軍には土門のようにスパイ上がりの選手もいるため影山が裏で何か手を引いていたことを薄々感じ取っていた者もいる。しかし誰も総帥に口答えすることは許されない、それほどまでに影山を恐れているのだ。
「お前達はしたくはないのか?本当のサッカーを…!総帥の謀略による『勝利』ではなく。俺達の実力で掴む『勝利』を手にしたくはないのか⁉︎だから頼む!俺に力を貸してくれ!」
今まで見たことの無い鬼道の必死の頼みに困惑するメンバー一同。沈黙の中で真っ先に口を開いたのは参謀の佐久間だった。
「正直お前がそんなことを言うなんて驚きだよ。だが参謀としての意見を言わせてもらうとお前の頼みはあまりにリスクが大きすぎる。失敗した場合は良くて選手生命の終了、最悪命を奪われる危険だってある。影山がいる以上帝国に本当のサッカーなんてものは存在しないんだ。」
参謀として冷静に現実を見た発言をする佐久間。鬼道も反対されることを予想していたため覚悟はしていた。
「…だが佐久間次郎としての意見は俺も本当のサッカーがしたい。自身の手で勝利を掴み取って『最強』は帝国学園であることを証明したい!」
「佐久間…!」
「水臭いことを言うなよ鬼道、俺も佐久間と同じ意見だ。稲魂にリベンジするために今まで特訓を重ねてきたんだ。番外戦術で勝利をしちゃK・O
・Gの名が廃る。」
佐久間と源田の2名が鬼道の提案に賛成すると次に寺門が次に五条がと次々に賛成の声を上げる。
帝国は雷門と本当のサッカーをするために影山と戦う覚悟を決めた。
〜試合当日〜
「すっげぇーー!こんなスタジアムで試合をやれるのか!テンションが上がるなぁ!」
「もはやスタジアムっていうよりは要塞だな…。」
遂に試合会場の帝国学園に辿り着く雷門一向。そこには新監督に就任した響木正剛もいる。
「お前達!バスに細工をしてきた奴らだ!落とし穴があるかもしれない、壁が迫ってくるかもしれない!十分に注意しろ!」
本人は真面目なのかふざけているのか分からないが、そうならない可能性がないと否定しきれない時点でいかに影山が危険な存在かが嫌でも分かる。
一年が罠がないか探して回るのを尻目に音無は普段の明るさが噓のように暗い顔をしていた。理由はただ1つ兄の鬼道の存在である。今までは偶然遭遇しただけであったが今回は違う、帝国と戦う以上嫌でも会わなければならない。だがもう記憶の中にあった優しい兄の姿はいない、その事実だけが音無の心を痛めていた。
「どうしたんだ音無?そんな暗い顔してちゃ幸せが逃げるぜぇ〜?」
「稲魂先輩…ありがとうございます。ちょっと考えごとをしてて…。」
暗い顔をしていることに気づいた雷牙が元気づけようと茶化すもあまり効果がないようだ。
結局通路に罠の類がないことを確認した後指定された控え室に入ろうとすると中からなぜか鬼道が現れた。
「…無事に着いたみたいだな。」
「何だと!まるで事故でもあったほうがいいような言い方じゃねぇか!」
「落ち着けって染岡。」
雷門の控え室に鬼道が入っていたことに突っかかる染岡だが本人は特に気にせずに去って行く。
円堂 side
万が一に備えて控え室の中を散策したけど結局怪しいところは何も無かった。鬼道がそんなことするわけがないって俺は信じているけど一部のメンバー、主に染岡は鬼道いや帝国を信頼していないみたいだ。
とりあえずユニフォームの着替えが終わったからトイレに行ってこよっと。
…あれは鬼道か?何でメンバーと一緒じゃなくてこんな所に1人でいるんだろう?気になってついて行ってみると帝国の監督の影山と鉢合わせた。
「雷門中キャプテン円堂守君だったね?」
響木監督からあまりいい話を聞いていなかったから少し身構えるけど何かしてくる気配はない。
「落ち着きたまえ…別に何かしようというわけじゃない。君に話したいことがあって来たんだ。…鬼道のことだ。」
鬼道のこと?何で帝国の監督が俺に鬼道のことを話そうとするんだ?
「君達雷門中のマネージャー音無春奈と鬼道有人は実の兄妹であることは知っているかね?幼くして両親を亡くした鬼道兄妹は施設に預けられその後それぞれ異なる家に引き取られた。」
初耳だ。さっきから音無の反応がどことなく暗い気がしたけどまさかそのせいだったのか…?
「鬼道は妹を鬼道家の養子にするために養父との条件を交わした。中学3年間FFで優勝し続けること。…言いたいことは分かるな?雷門が勝てば鬼道の望みが絶たれる。最悪地区予選レベルで負けたとなれば家から追い出される可能性もあるな…。」
俺たちが勝ったら鬼道は家から追い出される…?そんなこと嘘に決まっている…でももし本当だったら俺が鬼道と音無を破滅させることになる…?
「おーい守ー!どこだー?緊張してトイレから出られないのかー?」
雷牙の声だ。トイレにしては遅いと思って俺を探しに来たんだ。
「…今の言葉を忘れるなよ円堂守。」
そう言い残して影山は去って行った。俺は…俺はどうすれば…!
雷牙 side
守の様子がおかしい。トイレにしては長すぎると思って探しに行って見つかったのは良かったが明らかに試合のモチベーションが下がっている。まさか…帝国の連中に何かされたのか⁉︎
「おい守オマエもしかして帝国の連中になにかされたのか⁉︎」
「い、いや別に。さっき帝国の監督が来ていい試合にしようって言われただけさ。」
嘘だな。守は嘘が絶望的に下手だ、良くも悪くも顔に出る性格だからな。その監督に何か吹き込まれたに違いない。
「下手なを嘘をつくな。影山に何を吹き込まれたんだ?」
「やっぱり雷牙には全部お見通しか…正直に話すよ。」
円堂が言うには鬼道と音無は実の兄妹で鬼道が音無と一緒に暮らすための条件として3年間FFで優勝し続けるのが約束らしいが地区予選レベルで負けようものなら鬼道は養父から捨てられる可能性があるとのこと。
…なんというかまぁ守らしいな。鬼道と音無云々は本当だろうが地区予選で負けたら捨てられるのはおそらく嘘だ。俺にはよく分かる、少なくとも鬼道は養父に愛されて育てられている。勝負に負けただけで捨てるような親なら鬼道は影山の謀略に心を痛める人間にはならない筈だ。
「はっ、守オマエは本当に素直でお人好しだなぁ。負けたら捨てられるって部分は嘘に決まってんだろ。」
「ほ、本当か⁉︎よ、良かったぁ〜…でも俺たちが勝ったら音無と一緒に暮らす約束が…」
「おい守。もしもオマエがこの試合手を抜いてみろ、多分鬼道はすぐに影山の策略だって気づくぞ。そうやって試合に勝ったらどうだ?多分鬼道はずっと悩み続けるだろうな。自分のせいで守が本気を出せなかったって。アイツが拘っているのは自分たちの実力で掴んだ勝利なんだ。それを踏まえた上でFF3連覇を狙っているんだぜ、そうじゃなきゃこの前の河川敷であんなことは言わねぇよ。」
正直言ってこれは俺がそうであってほしいっていうエゴなのかもしれない。…確かに俺は最初は帝国のことが嫌いだった、だがこの前の河川敷の会話で鬼道だけは自身のサッカーを見失っていないことに気がついた。だから俺は信じてやる、鬼道がどの答えを選ぶかを。
No side
試合前最後の調整を行なっている途中、宍戸と壁山がふざけ合ってボールが天井にぶつかった後、空からボルトが落ちてくるというアクシデントが発生するとその様子を見ていた鬼道は影山がやろうとしている恐ろしい事故をようやく確信する。
「…円堂、試合が始まったらすぐに選手をゴール側に移動させろ。」
いきなり耳打ちしてきた鬼道の言葉に驚く円堂だが、何か事情があることを信じメンバーに伝える。当然罠かもしれないと反発するものも現れたが、そうなったら俺がフォローすると雷牙が言いくるめ渋々了承される。試合開始のホイッスルが鳴った瞬間上空から大量の鉄骨が落ちてくる。こんなものをまともに喰らえば確実に死が訪れるだろう。だが雷門は鬼道の進言のおかげで誰一人怪我をせずにすんだ。
「ここまでするのかよ…!影山って野郎は…!」
鬼道はすぐさま試合を中断させ帝国メンバー全員と一部の雷門メンバーを連れて総帥室に行く。
「総帥!これが貴方のやり方ですか!」
ゴーグルに越しに映る鬼道の瞳には明確に怒りの感情が浮かんでいる。
「“天に唾すれば自分にかかる”アレがヒントになったのです。貴方にしては軽率でしたね。」
これまでの所業を考えれば影山が雷門を潰すために仕組んだことは明らかであるが、相変わらず影山は顔色を変えることなく否定する。
「言ってる意味が分からんな?私が細工したという証拠はあるのかね?」
影山のことだ証拠など残しているわけがない。状況証拠だけでは影山を失脚させるには不十分であろう。決定的な証拠…それが今必要だ。
「証拠ならあるぜぇ!抜き取られたボルト…それが証拠だ!」
突如現れた鬼瓦警部が袋に入れられたボルトを影山の目の前まで投げつける。さらに後ろには小太りの中年を連れた鬼瓦の部下が影山の命令でボルトを抜いたことを証言させる。
「俺は、俺達はもうあなたの指示では戦いません。」
鬼道は明確に影山を見限る言葉を送るが、影山は狼狽えるどころかまるで愚か者を見るような目で帝国メンバーを一瞥する
「勝手にするがいい。私にはもうお前達など必要ない。」
鬼瓦に連行されるが不気味なほどに冷静な影山。鉄骨に細工した証拠があれだけでているにも関わらず僅かな笑みを浮かべながら歩く後ろ姿を見た鬼道は理由の分からない不安を感じると共に影山がワザとヒントを与えていたことを確信する。
「…響木監督、円堂、本当にすみませんでした。帝国の元監督があのようなことをした以上を俺達に試合をする権利はありません、俺達の負けです。」
鉄骨を落としたのは影山であり、帝国メンバーではないのにも関わらず責任を取って試合を辞退しようとする鬼道達に驚く円堂だったが響木は特に驚くことなく全ての判断をキャプテンである円堂に任せる。
「顔を上げろよ鬼道!負けを認めるなんて言うなよ、俺達はサッカーをしに来たんだ!お前たち帝国学園とな!」
「…!感謝する。」
鉄骨の除去が終了すると大きな穴が空いたグラウンドが移動し新しいグラウンドと交換される。帝国はコーチの安西を臨時監督に据え今度こそ本当の試合が始まるのだ。
「お前達!見せるぞ本当の帝国のサッカーを!」
「俺たちの熱い雷門魂を全力でぶつけるぞ!」
試合開始を告げるホイッスルが帝国のスタジアムに鳴り響く。勝利の女神が微笑むのは
前編と書きながら結局試合をしていない…次回から帝国戦に入ります。