イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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個人的に鬼乃子のcvは初期は上田麗奈さんの声で再生してたんですけど、なんか最近は東山奈央さんの声で再生するようになっちゃった…。やっぱアレかな?プリキュアの影響かな?


終極(クライマックス)は止まらない

円堂「入った…!“ゾーン”の更にその先へ…!」

 

豪炎寺「これが…正真正銘最後の決戦か…!」

 

 “鬼”の封印が解かれた事に呼応し、身体に無茶をさせてまでも“(ビフォアー)”へと覚醒した“怪物”は、朝日の光のように暖かく輝く穏やかな目で“鬼”の顔をじっと見る。

 

鬼乃子「アッレレ〜?そんなに鬼乃子ちゃんの美少女フェイスをジロジロ見ちゃってどうしたのカナー?もしかして〜!私に恋しちゃったとか?」

 

 “怪物”から向けられる視線の意味を理解はしている。されども、もう1人の兄との約束により彼女の口からはその答えを言う事は出来ない。

 だからこそか。せめてもの抵抗と言わんばかりにニヤニヤと笑いながら軽いジョークを飛ばす。

 

雷牙「…イタリア地区で初めて会った時からずっと気になってた。オメーさんとはビックリする程初対面の気がしねェ…。ある意味、ライトと一緒に居る時と似たような感覚がすんぜ…。…なァ、俺が抱くオマエさんへの感情…その正体は何だと思う?」

 

鬼乃子「さァ?純粋でピュアで箱入り娘な鬼乃子ちゃんには分からないな〜☆ 強いて言うなら性欲かな?」

 

雷牙「ハッ…。そりゃ間違いだろ。生憎、ぺったんこのガキンチョに発情する程、性癖は捻じ曲がってねェんでな」

 

鬼乃子「アッハハ♪…全力でぶっ潰す」

 

 “怪物”の哲学的な問いから始まり、品のない問答へと着地した会話を早々に切り上げた両者は、互いのポジションに着き終わりその時をジッと待つ。

 

フィディオ「……(コク)」

 

影山「……(コク)」

 

 キックオフ直前に、フィディオは影山に軽いアイコンタクトを送り彼からの指示を仰ぐ。

 両者の間に言葉こそ交わされなかったが、影山の頷きが意味するのは一つだけだ。

 

フィディオ「……キノコ!!」

 

 影山からの意図を受け取ったフィディオは、キックオフ早々バックパスを送る。ボールの行き先は当然…

 

鬼乃子「サーンキュ☆ フィディオ先輩!認めてあげるよ!!やっぱりアンタは世界で最高のキャプテンだって!!!」

 

 黄緑の気の柱を昂らせる“鬼”だ。

 

 ボールを受け取った“鬼”は一歩を踏み出す。人工的に“怪物”を造り出す特訓(プログラム)により齎された人智を超えた脚力を有する“鬼”からすれば、その一歩だけでトップスピードへ至るには十分だった。

 

ヒロト「なっ…!速い…!前半よりも更にスピードが上がっている…!」

 

 トップスピードへと至った“鬼”のスピードは、既にイナズマジャパンのFW達の反射速度を超えており、唯一彼女に反応してみせた豪炎寺すらも体力を大きく削られた状態では為す術もなく突破される。

 

 僅か1秒で前線を突破した“鬼”は、他の選手に目もくれず本命(メインディッシュ)とも言える“怪物”に向かって一目散に駆け出す。

 

雷牙「スー…。ハァァァ…!!!」

 

 “鬼”を視界に捉えた“怪物”は、表情を一切歪ませる事なく大きく一呼吸を置くと、その身に宿した白銀のオーラを静かに同時に力強く立ち昇らせる。

 そして彼もまた、“鬼”と同様に一歩踏み出すと音もなく姿を消す。

 

ガンッ!!!

 

 そのコンマ1秒後、フィールドに金属と猛獣の牙そして柔らかい皮が同時に衝突したかのような鈍い音が鳴り響く。

 

鬼乃子「にひっ!」

雷牙「フッ……」

 

 その音源となったのは当然、“怪物”と“鬼”だ。観客達の目に映るのは両者の右脚と右脚がボール越しに衝突するという実にシンプルな攻防のワンシーン…。

 だが、たったこれだけの攻防だけで観客達は理解する。残り5分、秒に直すと300秒。その間だけはこのピッチの上の主役はただ2人…“怪物”と“鬼”なのだと。

 

鬼乃子「…不思議だね。今のアンタには私に匹敵するパワーはこれっぽっちも感じないってのに、今のアンタと私のパワーは完全に互角…。一体アンタは何を掴んだっていうの?」

 

雷牙「さァてね…。ぶっちゃけた話、俺自身も自分に何かが起こってんのかは分かんねェんだ…。…けど、そんなのは関係ねェ。今の俺ちゃんはただ……俺自身の“ワクワク”が赴く儘に闘うだけだ」

 

鬼乃子「…そっか」

 

 まるで晴れ渡る青空の中心に居るような充実感と爽快感により微笑を浮かべる“怪物”に対し、“鬼”は僅かに表情を歪ませる。しかし、その表情を他人…特に他でもない目の前の男には見られたくなかったのだろう。

 彼女はすぐに表情を戻すと、自身の感情を偽るように引き攣った笑みを浮かべ右手で印を結び、空を亡くす。

 

鬼乃子「“百鬼夜行…V2”!!!」

 

 紅の太陽による“鬼”の影から生み出された異形の妖達は、主人の命に従い、不安定な動きで“怪物”へと襲い掛かる。

 これまで幾度となく日本の侍達の自由を奪ってきた妖達の行進…。単独での必殺技ながらもその強固さは“カテナチオ・カウンター”にも匹敵する。

 恐らく、この技を1人で破れる人間はこの世界に存在しないだろう。…そう、()()()…。

 

雷牙「ハァァァ…!だぁりゃぁぁぁ!!!」

 

 “怪物”は白銀のオーラを一層煌めかせると、強力無比な拘束力を持つ妖達を一瞬で昇天させ自由を得る。そして視線を“鬼”へ合わせると我先に襲い掛かる第二陣の妖達の攻撃を次々と紙一重で躱わしながら、一歩また一歩とゆっくりだが確実に“鬼”へ近づく。

 

鬼乃子「“百鬼夜行”が効かない…!?嘘でしょ…!?」

 

 絶対の自信を持つ自慢のドリブル技をこうもアッサリと破られてしまった事実に、大きな痛手を伴ったスイッチング・ウィンバックにより回復した“鬼”のメンタルが再度揺らぎ始める。

 

雷牙「どうした鬼乃子!!まさかちょっと負けたくれェで泣きそうになるとは言わねェよなァ!!?だとしたら……メガトンガッカリだぜッ!!!

 

鬼乃子「…は?なワケないじゃん…!!アンタがやたらと砂煙を起こすから目に入っただけだってのッ!!!」

 

 偶然か?はたまた意図的か?“怪物”の煽りによりすんでの所で二度目のメンタルブレイクを回避した“鬼”は、気を昂らせると共に更に速度を上げて“怪物”へ攻撃を仕掛ける。

 

 “鬼”が速度を上げれば“怪物”もまた速度を上げ、“怪物”に触発された“鬼”も更に速度を上げる…。まるで終わりのないイタチごっこのように際限なく速度を上げていく両者の攻防は別次元としか言いようのない凄まじいものであり、誰も救援に入る事は出来ない。

 

 現に彼らの姿を正確に追える者は、この会場内においても2人しか居ない。それも観客席に居る“世界最強”と80年後の未来から来た“魔王”だけだ。

 

雷牙「そこだッ!!でぇりゃぁぁぁ!!!」

 

鬼乃子「ーー!!! ヤッバ…!しゃおらァ!!!」

 

 遂に“鬼”の成長速度を僅かに上回った“怪物”が、一瞬の隙を突きボールを奪おうとするも、ギリギリの所で間に合った“鬼”の左脚が“怪物”の攻撃を防ぐ。

 

ワンダバード「あ〜!!惜しい!あと少しで雷牙様の勝ちだったのに…!」

 

雷冥「……」

 

 ほぼ祖先の勝利を確信している魔王の眷属(ペット)の八咫烏だが、彼とは対照的にこの場に居る誰よりも“地平線”について理解している主人は、やや浮かない顔をしている。

 

雷冥「…残念ながら、そう簡単にはいきそうにありませんね」

 

ワンダバード「え…?」

 

雷冥「やはり明星鬼乃子の底力は計り知れません。彼女もまた、ひいお祖父様のスピードに対抗する為に、身体に無理に負荷を掛けてスピードを更に上げてきました」

 

 “魔王”の推察通り、“鬼”は自身の肉体に負荷を掛ける事で限界のリミッターを強制的に外していた。…つまる所、彼女は今“獅風迅雷”と同じ原理の技を使っているのだ。

 

雷冥「“究極極限界突破(ビヨンド・ザ・ホライゾン)”とは謂わば、意識と肉体を切り離す事で、自身の肉体を高性能ロボットに変えるようなモノです。本来の自分では絶対に出来ない行動を強制しているとも言えます。つまり…」

 

ワンダキャット「…ワンアクションでも使い手に掛かる負荷は計り知れない」

 

雷冥「That's right。加えてひいお祖父様は“超限界突破(ゾーン)”の乱発と未完成の化身アームドにより、とうの昔に肉体は限界を迎えている筈です。…恐らく、“兆”を維持出来るのも後30秒やそこら…と言ったところでしょう」

 

ワンダキャット「けど、マッシュルームの方も息苦しそう」

 

ワンダバード「つまりはどちらの体力が尽きるか先の持久戦ですね…」

 

 “怪物”の技が解除されるのが先か、“鬼”の体力が尽きるのが先か…。先に膝を突いた方が敗者となる激闘の行方を80年後の未来から来た未来人達は静かに見守る。

 

雷牙「ギグ…!まだだ…!あともうだけ少し持ってくれ…!俺の身体ァ…!!」

 

 脳から全身に駆け巡るアドレナリンにより何とか誤魔化していた痛みを徐々に感じ始めた事で、“怪物”は己の肉体の限界を悟る。

 “兆”は持ってあと数十秒。何としてでもその間に決着を付けるべく、短期決戦にまで持ち込まなければならない。

 

鬼乃子「アハハハッ!!!いいねェいいねェ!!この痛みッ!苦しさッ!緊迫感ッ!今の私は最っ高に“生きてる”って感じだよォ!!!」

 

 けれど、“鬼”はこんなに早く“怪物”との勝負を終える事を絶対に許さないだろう。

 何せ彼女は、今この瞬間の為だけに地獄のような12年間を生き延びてきたのだから。

 

雷牙「んな事ァ…!知ったこっちゃねェだろォォォォ!!!」

 

 何故、“鬼”が自分に強い執着を向けているのかは分からない。自分の何がそこまで彼女を駆り立てる動機となっているのかも分からない。

 けれど、“怪物”は既に体力の限界を迎えようとしている。理由はそれだけで十分だ。

 

 全ての力を出し切る覚悟を決めた“怪物”は、その内に秘めた生命力とも言える金色と白銀のオーラが、最後の灯火の如く激しく立ち昇る。

 

鬼乃子「ハァ!?ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!!何やっちゃんてんのさ!?そんなに気を解放したらもう体力が持たないじゃん!!!」

 

雷牙「そのまさかだァ!!!ハッキリ言うぜ…!俺にはもう時間がねェ…!!だからァ…!この一撃に全てを賭けんだよ…!!」

 

鬼乃子「意味分かんない…!私はもっとも〜〜っと!アンタと(バト)ってたいの!!!ホラ見てよ!まだ時間はあるんだよ!?それなのに…こんな中途半端なところでケリをつけるってそんなの…もったいないじゃん!!!」

 

 予想通り、早々に決着をつけようとする“怪物”に対し“鬼”は幼子のように駄々をこね、必死に勝負を引き延ばそうとする。

 

雷牙「…だったら一つ質問だ。オメーは真剣勝負(ガチンコ)においてどの瞬間が1番面白ェか知ってっか?」

 

鬼乃子「…知らない。知りたくもない。だって私にとってアンタは…!」

 

 『私のお兄ちゃんだから』…そう言い掛けた瞬間に、約束を思い出した“鬼”は口籠る。

 今も続く白兵戦において致命的とも言える隙を晒してしまった“鬼”だが、早々にケリを付けたい筈の“怪物”はあえてその隙を見逃す。その代わりに不敵な笑みを浮かべると、彼にとっての真剣勝負(ガチンコ)の“答え”を高らかに宣言する。

 

雷牙「ハッ…!んなら教えてやる…!真剣勝負(ガチンコ)で1番面白ェ瞬間ってのはなァ…!!“終極(クライマックス)”だッ…!!!」

 

鬼乃子「クライ…マックス…?」

 

雷牙「ああそうさァ!!!どんな物事にも終極(クライマックス)が…“終わり”があるから…!俺達はその“終わり(ゴール)”に向かって走り続けられるんだ…!終極(クライマックス)が無ェ戦いなんざ…!血反吐を吐き続けるマラソンと何ら変わんねェだよッ!!!」

 

 人が人である以上、何事にも必ず“終わり”は訪れる。だが、“終わり(ゴール)”へと到達したとしてもそれで全てが終わる訳じゃない。

 “終わり(ゴール)”と“始まり(スタート)”は表裏一体。一つの“ 終わり(ゴール)”は新たな目標への“ 始まり(スタート)”でもあるのだ。

 

雷牙「俺に限界なんてモンはねェ!!!“兆”も…“極”も…!俺に立ち塞がる壁は…!全部真正面からぶっ壊して乗り越えてやらァァァ!!!」

 

 刹那、“回場合”から発せられた熱気が“鬼”へ直撃する。その熱気は身を焦がすような熱さを持ちながらも、不思議と痛みを感じない。寧ろ、心地よさすら感じてしまう。

 “鬼”は悟る。この“熱さ”こそが“怪物”が…兄がサッカーに懸ける“想い”そのものなのだと。

 

鬼乃子「…そっか。それがアンタの強さの秘密なんだね」

 

 “鬼”は“怪物”を直視する事が出来なかった。光すら通さない“闇”の中で産まれ、今もそこに住まう彼女にとって太陽すらも掻き消す輝きを放つ兄はあまりに眩しすぎた。

 同時に理解する。何故、父が亡き妻から託された筈の子供を捨ててまで、“怪物”を造るという狂気に取り憑かれた理由の一端を。

 

鬼乃子「…OK!!なら思う存分付き合ってあげるよ!!アンタの言う“ 終極(クライマックス)”ってヤツにさァ!!!」

 

 兄の覚悟を受け取った“鬼”は人生で初めて全ての体力を振り絞り、フィールドに“百鬼王”が住まう世界の城門を顕現させる。

 

鬼乃子「“百鬼王…!モノセロス”…!!!」

 

雷牙「…ヘヘッ!あんがとよ…!!礼として…!全部の力を振り絞って…!テメェをぶっ倒す!!!」

 

 自身の我儘を聞き入れてくれた“鬼”に最大限の礼を贈る為に、“怪物”は全ての力を使って“鬼”に打ち勝つべく、脳が生命の危険を感じる寸前まで気を高める。

 

雷牙「コレで…!全てが決まる…!!!」

 

鬼乃子「アンタと私…!どちらが真の“怪物(サッカーモンスター)”に相応しいかが…!!!」

 

 遂に終極(クライマックス)を迎えた、決戦を超えた決戦…超最終決戦。その決着を付けるべく、“怪物”と“鬼”は互いに目線を合わせると、“怪物”はその身に“獅子王(レグルス)”を宿し、“鬼”は城門の封印を解き地獄に住まう妖どもを解放させる。

 

雷牙「“ゴォォォドレグルスッ!!!GB(ゴー・ビヨンド)ォォォ”!!!」

鬼乃子「“真黒…!!曇怒淪ッ”!!!」

 

 互いの“最強”を込めた右脚が激突し合う。現世に蘇った地獄の妖達は前に立ち塞がる黄金の獅子王(レグルス)へと襲い掛かるが、誇り高き獅子王はその強靭な牙を以て妖達を悉く食い尽くす。

 

 両者の力は全くの互角…と思われたが、徐々に“鬼”の右脚が“怪物”を押し始める。

 産まれつき強者として誕生させられた彼女にとって、苦戦というものは縁もゆかりもない存在だった。

 だが、今日ここに“怪物”という“鬼”にとっての目標であり、最強の強敵の存在が、彼女を更なる高みへと押し上げたのだ。

 

鬼乃子「アハハハッ!!!嬉しい!!嬉しいよッ!!!アンタの存在は私にとっての存在意義ッ!!私が全力のアンタを叩きのめすことで私は初めて本当の“人生”を歩めるッ!!!そして…私を造った“父親(アイツ)”への最高の復讐にもなるッ!!!」

 

 それは“呪詛”であると同時に“魂の叫び”でもある。人の心をなくした父から人生を強制され、顔も知らぬ兄を超える事だけを生きる意味とし12年を生きてきた“鬼”の。

 

豪炎寺「雷牙ッ!!」

 

鬼道「稲魂ッ!」

 

ヒロト「雷牙君!!」

 

風丸「稲魂!!!」

 

不動「クソライオンッ!!」

 

佐久間「稲魂ッ!!」

 

飛鷹「稲魂ァ!!」

 

壁山「稲魂さんッ!!!」

 

吹雪「稲魂君!!」

 

円堂「頑張れェェェ!!雷牙ァァァ!!!」

 

 全てを賭けてもなお“鬼”に苦戦する“怪物”に、仲間達は次々と彼の名を呼ぶ。

 

 それは…確かに“怪物”の心に届いた。

 

雷牙「…にひっ!」

 

鬼乃子「・・・は?」

 

 “鬼”は一瞬だけ思考がフリーズしてしまう。何故なら目の前の男は()()()()()()()()()

 その笑みはこれまで幾度となく見せてきた不敵の笑みではない。かといって“鬼”のように狂気に満ちた醜悪な笑みでもない…。

 

鬼乃子「頭でもイカれたの…?なんでアンタはこんな状況で笑ってられんの…?」

 

 その笑みは…感謝の笑みだ。

 

 自分を信じてくれる仲間達への感謝…。

 

 “鬼”という最強の好敵手へ出会えた運命への感謝…。

 

 そして……

 

雷牙「ばっきゃろー…!()()()()()()…!!俺は…何度もてっぺんに辿り着いたって思ってた…!けどよォ…!世界は広い…!!オメーさんのような想像もつかねェ強ェヤツはまだまだ居る…!だからこそ…!!!」

 

 何度限界を迎えても果ての見えない自身の可能性への感謝だ。

 

雷牙「もっと上を目指せるからなァ!!!」

 

 刹那、“怪物”の感謝に呼応するように、人工的に染められた金色の髪の一部が銀色に染まる。

 それと同時に体表に流れる二色のオーラは更に洗練され、より透明感を増し、より淀みのない流動性を見せる。

 

鬼乃子「嘘…!アンタ…まだ上があったっていうの…!?」

 

雷牙「遂に到達したぜ…!!“限界”の…!もっとその先(ゴー・オーバー・ビヨンド)へッ!!!」

 

 怪物の御業ここに“極”まる。

 

雷牙「“ゴッドレグルス……!GoB(ゴー・オーバー・ビヨンド)ォォォ”!!!」

 

 “極”の領域へと到達した“怪物”から発せられた光は、瞬く間に全ての妖達を消滅させていき、残るは総大将たる“鬼”ただ1人となる。

 

鬼乃子「まだた…!まだ私は“負けて”ないッ!!!私は…私は……!」

 

 自身の“最強”を破られてもなお、“鬼”は右脚に“混成獣(キマイラ)”を宿し最後の抵抗を試みる。

 

鬼乃子「“イーヴィル…!キマイラァァァ”!!!」

 

雷牙「そうだ…!そうこなくっちゃなァァァ!!!」

 

 “獅子王(レグルス)”VS“ 混成獣(キマイラ)”。各々が宿す“野獣”は、その刃のように鋭利な牙で互いに喰らい付き、最後の雌雄を決する。

 

雷牙/鬼乃子「「グ…!ウオォォォォォォ!!!」」

 

 “怪物”と“鬼”の雷鳴の如し雄叫びが会場内に木霊する。それは勝利への執念が齎す“魂の叫び”だ。

 

 互いに一歩も引かぬ矛と矛に激突の末に、先に牙が折れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼乃子「最…っ……悪………!!」

 

 その身に宿した“ 混成獣(キマイラ)”も。その背に顕現させた百鬼王の城門も。自身が持つ“最強”の全てを粉砕された“鬼”だった。

 

雷牙「鬼乃子…。オメーは…本当にスゲェよ…!たった1人で…よく頑張った…!けど…俺には仲間が居た…!それが俺とオマエさんとの“差”だ…!!」

 

 遂に“鬼”を超えた“怪物”は、最大級の賞賛の言葉を贈りながら歩みを進める。

 

 だが……

 

雷牙「ガッ…!ヤベェ…!!遂に限界が来やがった…!!」

 

 時間にして約1時間。このたった1時間の間で身体に掛けられた負担はとうとう限界を超えたしまい、“怪物”の全身に肉体を引き裂かれるような悍ましい痛みが走る。

 

鬼道「稲魂の動きが止まった!?」

 

豪炎寺「マズい…!遂に肉体に限界が来たんだ…!!」

 

フィディオ「皆ッ!“カテナチオ・カウンター”だッ!!まだ時間はあるッ!追加点を取って、この試合に勝つんだッ!!!」

 

 イナズマジャパンとオルフェウスのボールの距離…ひいては“怪物”との距離は圧倒的にオルフェウスの方が近い。それも当然だろう、だって数秒前まで“怪物”が攻め上がっていたのだから。

 

 イナズマジャパンの選手達は、“怪物”からパスを受け取る為に駆け出すが、どう頑張っても閂が“身動きの取れない“怪物”を包囲する方が先だ。

 

雷牙(クソッタレが…。いよいよ…意識も薄れて…きやがった……。ハハハ…もう流石に…無理だわ…。鼻ほじる力すらも残ってねェ……)

 

 薄れゆく意識の中、“怪物”は最後の1秒まで試合を走り切れなかった事を悔しく思う。だが、試合そのものに悔いはない。

 自分の全てを出し尽くし、何度も限界を超え“鬼”に勝った。そこに後悔などある筈もない。

 

???『本当にそうか?』

 

ーーこの…声は…?

 

 意識が深遠に沈む直前、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。

 

???『まだオマエにはやらなきゃいけない事が1つだけ残ってるだろ?』

 

ーー俺に…やるべき事…?

 

???『オイオイ?もしかしてもう忘れちまったのかァ?まだ居るだろ?オマエの…稲魂雷牙の最強にして最高の(ライバル)が』

 

 そう言うと懐かしい声は正面に向かって指を指す。…いや、厳密には違う。声には実態がなく、“怪物”には視界が機能していない。

 それでも、不思議な事に声の主は正面を指差している事だけは感覚で理解出来た。

 

 そこに居たのは……

 

ーーライ…ト…。

 

 言葉通り、“怪物”にとって最高にして最強の兄であり、豪炎寺以上に魂で繋がり合った相棒とも言える稲魂雷斗だ。

 

???『ホラ立てよ雷牙。どっちが本当の“怪物(サッカーモンスター)”に相応しいか、今日の試合で決めるんだろ?それを帝g…ゲフン!ゲフン! 可愛い鬼ちゃんとの戦いだけで満足するなんてもったいないじゃねェか?』

 

ーークハハハ…。そうか…そうだよな…。俺はこんな所で終われねェ…!終わっちゃいけねェんだ…!!

 

 胸の奥からメラメラと闘志の炎が湧き上がって行くと、既に限界を迎えていた筈の肉体が動き出し、その手を掴み立ち上がる。

 

???『にひっ!なら()()に見せてくれよ!!オマエと雷斗が織りなす“ 怪物(サッカーモンスター)”に至る為の叙事詩(クロニクル)ってヤツを!!』

 

 視界が戻って周囲を見渡すと、そこに声の主は居なかった。そこにあるのは“怪物”の深層心理が作り出した晴れ渡る青空の四方に広がった空間だけ。

 

雷牙「ああ…!見せてやっさ…!!だから…!アッチでお袋と仲良く観戦してな…。……親父ッ!!!」

 

 亡き父からの激励により立ち上がった“怪物”は、果てしない青空に向かって飛び上がり、現実世界へ戻る。

 

雷牙「まだだ…!俺はこんな所で終わんねェぞォォォォ!!!」

 

フィディオ「ッ!?な、何ッ!?」

 

 誰がどう見ても、死に体だった“怪物”は再び立ち上がり、先程と同等…いや、それ以上の二色の気の柱が吹き荒れる。

 

雷牙「“獅風迅雷…!究極兆限界突破(ビフォアー・ホライゾン)ッ”!!!」

 

 再度“兆”を発動した“怪物”は、オルフェウスの攻撃を一瞬で躱し、絶対の閂を容易く崩壊させる。

 

フィディオ「まだこんな力を残していたのか…!!」

 

 旧友の驚愕の呟きも今の“怪物”の耳には届かない。今の彼の全ての五感が向いているのは、ただ1人…。

 

雷牙「コレが…!正真正銘…!!俺とオメーの最後の勝負だ…!ライトォォォ!!!」

 

ライト「ああ…!手加減したらゼッコーだからね!!雷牙っ!!!」

 

 “怪物”の目に映るのは魂で繋がった兄ただ1人。“雷撃”と“星迅”、どちらが父の名を継ぐに相応しいかを決めるべく、“怪物”はその身を“獅子王”へと変貌させる。

 

雷牙「天まで轟けェェェ!!!“ゴォォォド!!レグルスゥゥゥ!!!GB(ゴー・ビヨンド)ォォォ”!!!」

 

 今の“怪物”が出せる最強にして最大の一撃が、ボールに黄金のオーラと稲妻を纏わせ、兄へ向かう。

 

『ライト!!!』

 

 イタリアで出会った仲間達がライトの名を呼ぶ。だが、彼らの目に心配や不安といった感情はない。

 彼らもまた信じているのだ。自分達の守護神は必ず限界を破り、“怪物”と同等の次元へ至る事を。だって、彼は…

 

ライト「ボクだって…!“怪物”の血を引く者なんだから…!!」

 

 今にも逃げ出したい欲求を、勇気で押さえつけたもう1人の“怪物”は、左手に全ての気を集中させ、翡翠色の“獅子王”を降臨させる。

 

ライト「“ゴッドハンド…!レグルスッ!!!GO”!!!」

 

 仲間達の期待に応え、この土壇場で急成長を遂げたライト。だが…

 

ライト「グギギ…!!まだ…届かないの…!!」

 

 如何にこの成長が“究極(GX)”を“超えた先(GO)”の進化だとしても、目の前の弟が辿り着いたのはそれよりも“遥か先(GB)”の領域なのだ。

 

ライト(挫けるな稲魂雷斗…!分かっているだろ…!?いつまでも雷牙の後ろを追いかけているだけじゃボクはダメダメのままだって…!もっと頼れるお兄ちゃんになる為に…!雷牙に追いつく為に…!ボクは…!)

 

 あの日…未来から来た襲撃者を退けたあの日、ライトは硬く誓った。弟に憧れるだけでは本当の強さを得る事は出来ない、弟に頼られるお兄ちゃんになる為に、別の道を模索しなくてはならないと。

 

 未だにその道がどんな物なのかは分かっていない。だが、その答えの一端は既に掴んでいる。

 

ライト「ボクは…!雷牙のお兄ちゃんなんだァァァ!!!」

 

 その瞬間、ライトの中の“何か”が切れた。

 

 その“何か”をある者は人の本質を押し込める“心の蓋”と言う。またある者は人を人である為の境界線として機能する“最後の砦”とも言う。

 

 実際の所、その“何か”がどんな形で、どんな役割を持ち、そもそも実在しているのかすら誰にも分からない。

 

 ただ1つ確実なのは…。稲魂雷斗は“怪物”の血をキッチリ引いているという事だけだ。

 

雷牙(ハハハ…。やっぱ…オメーは…“怪物”の息子だわ…)

 

 何かを悟った“怪物”は糸が切れたように膝から崩れ落ち、顔に満足の笑みを浮かべながら、心の中で兄を賞賛する。

 

 兄の咆哮が“怪物”の耳に届いた瞬間、彼は確かに見たのだ。

 

 自身とは対極に位置する激しく立ち昇る金色のオーラと稲妻をその身に纏わせ、天然物の金色の髪が怒髪天を衝いた兄の姿を…。

 

 時間にしてコンマ1秒にも満たない時間しか保持されず、最新式のカメラを以てしても捉え切れなかった謎の変化だが、彼の左手には獅子王のオーラが消失したボールがしっかり握られている。

 

ピッ!ピッ!ピッー!!!

 

 観客達が状況を飲み込む暇もなく、審判ホイッスルが三度鳴らされる。その笛が示す意味は試合の終了。スコアボードに表示されている両チームの得点は3-3。

 

 長きに渡った真の“怪物(サッカーモンスター)”を決める聖戦…。その結果は空座という形で幕を閉じた。




雷牙が円堂に提案した“イーヴィルキマイラ”を止められるであろう秘策なんですけど、ちょっとテンポの都合でカットせざるを得ませんでした…。
流石に存在をなかった事にするのはアレなので、多分どっかで使うと思います。
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