イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

171 / 181
イタリア戦の話数はレグルス戦を超えるかもって思ってたけど、エピローグ含めて丁度同じくらいでしたね。


さらば影の帝王よ。遥かな未来でまた会おう。

マクスター『試合終了ーーッ!!!両チームの得点は3-3!!3-3ですッ!!どちらのチームも一歩も引かない激戦は、引き分けという結果で終わりましたーーッ!!!』

 

 歴史的な激戦の終わりを目の当たりにしたマクスターは、興奮気味に実況するが、スタジアムは静まり返っている。

 観客達の視線の先に居るのは、左手にボールを収め立ったままピクリとも動かないイタリアの“怪物”だ。

 

ライト「・・・アレ?ボク…雷牙のシュートを止めようとしてそれから…。…ん!?ボクの左手にボールがある…!?もしかして…ボクが止めたの…?」

 

 数秒遅れて我に帰ったライトだが、どうやら事態が飲み込めていない様子だ。

 慌ててスコアボードに目をやるが、オルフェウスの枠に刻まれた数字は最後に見た記憶と同じ『3』。つまり自分は失点していない。

 だが、自分には弟のシュートを止めた記憶が一切ない。その事実が余計に彼を困惑させてしまう。

 

 それでもだ。本人に記憶がなくともここに居る全ての人々はしっかりと記憶している。

 彼が仲間達の想いに応えシュートを止めた瞬間を。そして、もう1人の“怪物”が誕生する瞬間を。

 

フィディオ「ああ…!!止めたんだよ…!君が…!君自身の実力で…!!」

 

ライト「ボクが…?雷牙のシュートを…? 〜〜!!!いやったぁぁぁぁ!!!」

 

 友の肯定によりようやく実感が追いついたライトは、満面の笑みと共に無邪気に喜ぶ。

 それがキッカケとなったのだろう。彼が誰よりも早く勝利の喜びを噛み締めた事で、観客達にも理解が追いつき、たちまちスタジアムは大喝采に包まれる。

 

『ニッポン!!ニッポン!!ニッポン!!』

 

『オルフェウス!!オルフェウス!!オルフェウス!!』

 

『イーナタマ!!イーナタマ!!イーナタマ!!』

 

 惜しみなく激戦を終えた選手達に送られる観客達の大歓声。そこに人種は関係ない。

 観客が送る歓声の雨霰は、スタジアムの空気を大きく揺らし軽い地均しを起こす。

 

雷牙「チッキショー…。あんニャロー…。最後の最後のスゲェ隠し玉を見せつけやがって…」

 

 全ての力を使い果たし動けなくなった雷牙は、膝から崩れ落ちた状態から喜び分かち合う兄を見ていた。

 言葉の節々からは最後の最後で自身を遥かに上回る潜在能力を爆発させた兄に対しての悔しさが隠し切れていないが、同時にその表情からは全てを出し切った事への満足感が現れている。

 

鬼乃子「……負けちゃったか…」

 

 2人の兄に遅れて鬼乃子もまた目を覚ます。雷牙とは異なり、自力で立てる余力を残してはいるが、それでも自分の“最強”が兄の“最強”に負けた事実は変わらない。

 

鬼乃子「…どーせ、パパはこうなることを予想してたんだろうな…。あの人の掌の上で踊らされるなんてマジで最悪なんですけど…」

 

 鬼乃子は悟る。スポンサーの横槍があったとはいえ当初の計画を変更し自身をイタリア代表に潜り込ませ、予定よりも早く自分と兄をぶつけさせた理由を。

 

 この激戦により“鬼”は更なる成長を果たし、2人の“怪物”は眠っていた潜在能力を爆発させた。

 どこまでが父が思い描いていた脚本通りだったのかは分からないが、少なくとも最も得をしたのは父である事は確実だろう。

 

ザッ…ザッ…

 

 敗北による悔しさを噛み締めている途中、後ろから芝生を踏み歩く軽い音が聞こえる。

 だが、その足音はやや変則的だ。音の数は3つありその内の1つはおぼつかない足取りでしか鳴らない音だ。そう…まるで2人の肩を借りて何とか歩けているように。

 

 何千人も居るこの会場内で、ピッチの上に立てる人間でそのような不規則な足音を出さざるを得ない人間は1人しか居ない。

 彼がどのような意図を以て敗者となった自分に近づいているかは分からないが、取り敢えず表面上の笑顔だけを無理矢理作って視線を向ける。

 

鬼乃子「おっとォ!コレは驚き!桃の木!三種の神器!まさかアンタが直々にやって来るとはね!負け犬になった私に何のご用かな〜?おに…ゲフン!ゲフン! 稲魂雷牙♪」

 

雷牙「……」

 

 そこに居たのは円堂と豪炎寺の肩を借りて何とか彼女の元までやって来た、生き別れた兄にして最強のライバルである稲魂雷牙だった。

 

雷牙「ケッ…。んな器の小せェ真似をする程捻くちゃいねェーっての。…ただ、どうしてもオマエさんに伝えてェ事があるだけだ」

 

鬼乃子「伝えたいことォ?もしかして〜!愛の告白とか〜?」

 

雷牙「ハッ…なワケ。…俺はよ、心のどっかで世界の水準(レベル)に失望してたんだ。俺が本気を出せば勝てねェ相手は世界には居ねェ…強くなる度にそう思ってた…」

 

 それは“怪物”の懺悔だった。

 確かに世界には自身と互角に戦える強豪は居る。だが、どの選手も常識の範囲内に収まる程度のスケールでしかなかった。

 故に雷牙はいつしか、心のどこかであれだけ期待していた世界のレベルに失望するようになり、世界ではなく未来に目を向けるようになっていった。

 

鬼乃子「フ〜ン。スッゴイ傲慢じゃん。…けど、別にいいんじゃない?アンタには傲慢になる資格があるんだし」

 

 父同様、“傲慢”こそが強者に与えられた特権であると考える鬼乃子は、雷牙の懺悔を肯定する。

 だが、雷牙は首を横に振りせっかくの肯定を自分自身で否定する。

 

雷牙「…けどよ。オメーさんは違った。俺がこれまで培った“全部”が何一つ通用しなかった。ハッキリ言って…らしくもねェ“絶望”だってしたさ」

 

 苦労の末にようやく習得した“ゾーン”すらも通用しない現実に焦りに焦った雷牙は、ぶっつけ本番の挑戦であり例え成功したとしてもロクに使いこなせないと分かっていた化身アームドに頼らざるを得ない程追い詰めらていた。

 

雷牙「豪炎寺の発破で何とか自分を取り戻して“兆”に入れたけどよォ…。ぶっちゃけはアレは運が良かっただけだ。自分の力でオメーに勝ったとは思ってねェさ」

 

 運良く未来から来た自分の子孫が“ゾーン”のその先の領域を披露し、運良く自分よりも“ゾーン”に適正のある仲間がヒントを与え、運良く三度もそのきっかけを掴む事が出来た。

 運も実力の内とはよく言うが、今この瞬間においては雷牙はその結果に納得出来なかった。

 

雷牙「…だから、ありがとよ」

 

鬼乃子「・・・え?」

 

 懺悔し始めたと思えば、急に感謝の念を述べる兄に対して鬼乃子は作り笑いが解除され、唖然とした表情を浮かべてしまう。

 

雷牙「オマエさんのお陰で俺は初心に帰る事が出来た!んで新しい目標だって見つけた!オメーには感謝してきれねェよ!」

 

 皮肉も嘘偽りも籠っていない純粋な感謝の念の前に鬼乃子は、固まってしまう。

 この世に生を受けてから“紛い物”ばかりを与えられた人生…。謂わば“暗闇”の中を生きてきた鬼乃子にとって、その純粋な“光”はあまりにも眩しく、今にも目を逸らしたい衝動に駆られてしまう。

 

鬼乃子「そっか…そうだったんだ…。ダメなんだね…私は…絶対にこの人にはなれないんだね…」

 

 鬼乃子は悟ってしまう。“怪物”の紛い物として造られた自分は、彼に勝てば本物に成り代われると本気で思っていた。

 だが…現実は違った。自分にはそんな“光”は絶対に出せない。だって自分はその対局に位置する“闇”の中から産まれたのだから。

 

雷牙「あん?何か言ったか?」

 

鬼乃子「…ううん。なーんでも」

 

雷牙「そっか!んじゃ!!俺が言いたい事はそんだけだ!アデュー!!」

 

円堂「じゃあな鬼乃子!次の試合までに俺ももっとパワーアップして絶対にお前のシュートを止めてやるからな!!決勝リーグでまた会おうぜ!!」

 

鬼乃子「うん。バイバーイ」

 

 伝えたい事を伝え終えた日本の侍達は仲間達の待つ場所へ帰る。再びひとりぼっちになってしまった鬼乃子は、少し離れた場所でライトの成長を喜び合うオルフェウスの選手達を見る。

 

鬼乃子「やっぱり…アッチも眩しいね…」

 

 だが鬼乃子が喜びの分かち合いに合流する事はなかった。彼女はそっと彼らから視線を逸らすと、静かにピッチの上から立ち去ろうとする。

 

???「何処に行くというのかね?…鬼乃子よ」

 

 しかし、彼女の行動を予測していた人物が1人だけ居た。鬼乃子の進路を塞ぐように出口の前に立っていたのは、レンズの奥が見えない程に黒く曇ったサングラスをかけ、正体を隠す為に地毛を金色に染めた長身の男性だ。

 

鬼乃子「…別に私がどこに行こうがアンタには知ったこっちゃないでしょ?…影山のおじさん」

 

 彼女の歩みを止めたのは、スポンサーの野望の為に今日まで行動を共にした名目上の上司だった。

 

影山「フン、別に貴様を心配している訳ではない。ただ、貴様が迷子にでもなれば後で奴が五月蝿いからな。リスクは事前に潰しておくに限る」

 

鬼乃子「…嘘ばっかり、自分に明日は来ないことくらい分かってる癖に」

 

 この試合で影山零治は過去の呪縛から脱し、真の意味で改心した。恐らく彼は、これまで犯した罪を償う為に既に警察を呼んでいるだろう。

 

 それこそが彼の背後に潜む黒幕に最後の決断を後押しする行動だと承知の上で。

 

影山「私は自分の選択に後悔はない。私の命1つでこれまで犯した罪が消えるとは思わないが、この汚れた命が“奴”を追い詰める為の兆しとなるのならば安い物だ」

 

鬼乃子「…やっぱり分かんない」

 

影山「では問おう。貴様は死ぬのが怖いか?」

 

鬼乃子「…別に死ぬのは怖くない。私は元々死んでるようなモンだし、会場を出てすぐに鉄骨の下敷きになって死んじゃったとしても呪われた人生から解放されるだけでラッキーって感じ。…けど」

 

 これから死にゆく老兵に初めて本当の“自分”を見せた鬼乃子は、皆が知る明星鬼乃子とはまるで別人だった。

 年相応のあどけなさを残す顔立ちには感情が入っておらず、声色も抑揚がなく機械のように淡々とした声だ。

 

鬼乃子「人生の目的を果たせずに死ぬのはまっぴらごめん」

 

 少女の答えは矛盾していた。数秒前に例えこの会場を出た後に死を迎えたとしても後悔はないと断言したにも関わらず、続けさまに数秒前の自分を否定するような答えを出したのだ。これを矛盾と言わず何と言おう。

 

 だが、影山は満足に頷く。

 

影山「それでいい。人とは“矛盾”を抱えながら生きる生命体だ。それこそ昨日までの私のようにな。貴様が矛盾を抱えているという事は、貴様とて“人間”である事への証明に他ならない」

 

鬼乃子「…あっそ。一応褒め言葉として受け取っとく。一応ね?い・ち・お・う」

 

 自分もまた“人間”だと定義づけられた事が不愉快だったのだろう。無感情から一転して僅かに声色に感情が戻った鬼乃子は、影の静止を踏み切り目的の地へ歩みを進める。

 

影山「…最後に私からの教えだ。“生きて死ね” この世には死ななければ辿り着けない領域もある、そして貴様は既にその一端を掴んでいる」

 

鬼乃子「それって警告?それとも善意100%からの忠告かな?…まっ、どっちでもいっか!バイバーイ影山のおじさん♪」

 

 老兵より最初にして最後の教えを受け取った“鬼”は更に歩みを進め闇の世界へ帰り、少女を見送った“影”は教え子達と最後の対話を交わすべく光の世界へ戻って行く。

 

 それが鬼乃子と影山の今生の別れだった。

 

♢♢♢

鬼乃子「…ん?なにコレ?」

 

 事前に呼んでおいた黒塗りの高級車の後部座席に搭乗した鬼乃子は、スマホを取り出す為にバックの中を漁ると、不可思議な小包を発見する。

 

鬼乃子「スマホにはパパからメールはきてない…。ってことはパパ案件じゃないってことか…。ちょうどいいや☆ 目的地に着くまでまだ時間があるし開けちゃえ♪」

 

 暇でたまらない鬼乃子は小包の梱包用紙をビリビリと雑に引き裂くと、中からは同サイズの小箱が姿を現す。当然、そこで満足する彼女ではない。

 今度は先程とは真逆の細心の注意を払った丁寧な手つきで小箱の蓋を開けるとそこに入っていたのは……

 

鬼乃子「コレって…。オルゴール?」

 

 箱の中に入っていたのは、赤のかかったピンクを基調とし豪華な金色の装飾が施されたオルゴールだった。

 鬼乃子に物の価値は分からない。けれど、このオルゴールは安価な物ではなく、腕の良い職人の手によって1から作られた高価な一品である事だけは直感で分かる。

 

鬼乃子「それと…手紙?イマドキ珍しいねー」

 

 オルゴールと共に封入されたいたのは、封筒に入れられた一通の手紙。

 

鬼乃子「う〜ん…中身が気になるな〜…。けど、なんか大切な手紙っぽいし流石の鬼乃子ちゃんも読むのははばかられるっていうか…。まっいいや♪めっちゃ暇だし読んじゃおっと!!」

 

 結局、好奇心に負けた鬼乃子は後で糊付け出来るように、丁寧に封筒の口を開け中の手紙を取り出す。

 そこに書かれていたのは、『ルシェ』なる謎の人物へ当てられたメッセージ。そしてその筆跡は間違いなく影山零治のものだ。

 

 その手紙の中には、彼女の知る厳格で傲慢で冷酷な影山零治の姿はない。インクの乾き具合からしてこの手紙が書かれたのは少なくとも今日ではない。

 つまりは、フィディオによって本当の自分を取り戻す前にこの手紙は書かれたのだ。

 

鬼乃子「なーんだ。おじさんにも人の心ってモンがあったんじゃん。その良心を1%でも鬼乃子ちゃんに分けてくれれば嬉しかったのにナ〜」

 

 人の心が残っていたにも関わらず、あんなに自分をぞんざいに扱っていた事実を知った鬼乃子はブーたれるが、彼女の不満を遇らう男はもう居ない。文字通りこの世界には何処にも。

 

 何故なら……

 

『緊急速報です。先程、オルフェウスの監督を務めていたミスターK氏が、制御を失ったトラックに追突され、死亡したとの知らせが入りました』

 

鬼乃子「…バイバーイ 影山のおじさん。アンタと過ごしたこの数ヶ月…。なかなか悪くなかったよ」

 

 車に備え付けられたテレビから流れたニュースにより、影山零治(グラサンのおじさん)の死を知った鬼乃子は、そっと天を見る。

 最後の最後で呪縛を振り切った魂が、無事に天へ昇る事を祈りながら。

 

……………

…………

………

……

 ここは日本のどこかにある地下研究所。最深部にあるモニターに映るのはミスターKの訃報のニュース。

 ライオコット島から遥か遠く離れた日本の地でも、ミスターKの事故死は大々的に取り上げられていた。

 

 その画面の前に居座るのは、この研究所の主である“雷帝”。その右手にはワインが注がれた安物のグラスが握られている。

 

ラボス「…そのワイン。生産数の少ない希少なビンテージ物だから、計画を達成するまで飲まないんじゃなかったんですか?」

 

“雷帝”「気が変わったんだよ。別に私が気まぐれなのは今に始まった事じゃあないだろう?」

 

ラボス「ハァ…」

 

 自身の部下であり養子でありお世話係も務める少年を追っ払った“雷帝”は更にワインを煽りながら食い入るように影山の訃報が書かれた新聞記事を見る。

 

 彼とは決して良好な関係とは言えなかった。元の経歴(かこ)からして父から愛されなかった影山と、最終的に袖を分ったものの父からの愛はキチンと受けていた“雷帝”とでは馬が合う筈もない。

 しかし、馬が合わないなりに彼らは互いの能力は認め合っていた。なんなら“雷帝”は影山の事を数少ない友人だとさえ思っていた。

 

“雷帝”「貴方がこんな道半ばで死ぬのは残念だが、なーに悲しむ必要はないさ。()()()()()()()()()()()()()()()()。地獄で再会した暁には、心ゆくまでサッカーについて語り合おうじゃないか。影山さん?」

 

 “雷帝”はグラスを天に差し出す。きっとその先に彼は居るのだから。

 

“雷帝”「今はただ。現役の生者として、死にゆく魂に献杯を」




チラっと触れられた当初の計画なんですけど、元々の計画ではオリオン財団を潰した後、ロシア代表を乗っ取ってFFIに殴り込む予定だったんですよ。
けどスポンサーである黒幕がブラジル代表の乗っ取りに成功したんで没になった訳です。
ちなみにそのロシア代表のキャプテンは鬼乃子であり、韓国戦前に円堂に八つ当たりをしたのはそれが原因になってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。