イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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作者の確認不足だったら申し訳ないんですけど、円堂が感極まる以外で涙を流したのって、今話に該当する回だけですよね?


記憶の芽吹き

円堂「フユッペ!!おいフユッペ!!しっかりしろ!!!」

 

 目に光を失った少女が眠る病室に、橙色のバンダナを巻いた彼女の幼馴染の声が響く。

 円堂とは対照的に、少女の父親は俯き、付き添っていた金髪のチームメイトは何かを祈るように天井を見上げている。

 

円堂「監督…! フユッペの治療は上手くいってたんですよね…?」

 

久遠「…ああ。私もちゃんとこの目で確認した…。昨日会った時も順調に回復していった筈だ…」

 

 久遠は父親として、娘の記憶を奪った罪人として、監督業務の傍に毎日娘のお見舞いに訪れていた。

 昨日だってそうだ、親子水入らずで交わした会話…そこに居たのは間違いなく、彼の知っている“久遠冬花”そのものだった。彼女の記憶が戻りかける兆しなど何一つ感じなかった。

 

 だからこそ不可解なのだ。娘の記憶が戻らないように自分に出来る限りの対策は立てていた筈…。にも関わらず、再び娘の記憶が蘇ってしまい地獄の苦しみを味わっている。

 これはつまり、彼が予想だにしなかった“変数”が娘を襲った事に他ならない。

 

 …そして、その“変数”はこの個室内に居る。

 

久遠「…稲魂」

 

雷牙「…はい」

 

久遠「冬花が倒れた時に一緒に居たのはお前だそうだな?」

 

雷牙「…はい」

 

久遠「…医者の話によれば、お前と冬花は中庭で何かを話していたそうだが、それは事実か?」

 

雷牙「…はい」

 

 久遠はなんとか理性で冷静を保ちながら、教え子に向けて何かを確認するように1つ1つ丁寧に質問を投げかける。

 監督の質問に対して雷牙は、一切の無駄を削ぎ落とした“はい”か“いいえ”でしか答えない。だが、彼の口から出る返答は全て“肯定(はい)”だ。

 

 雷牙が肯定を続ける度に、久遠の中にある“疑惑”はだんだんと確信に変わっていく。

 

久遠「…単刀直入に聞く。冬花に真実を話したのはお前か?……稲魂…」

 

雷牙「……」

 

 娘を地獄に叩き落とした“変数”が雷牙だと確信した久遠は、彼を睨みつけながら最後の質問を行う。

 

円堂「ちょっと待ってください監督!!!まさか…監督は雷牙を疑ってるっていうんですか!?フユッペは俺たちの仲間なんですよ!?雷牙がそんなことをする理由がありませんっ!!!」

 

久遠「…私も稲魂を疑いたくはない…。だが、冬花の事情を知る病院の関係者が真実を話すとは考えられない、唯一自然に記憶が戻る可能性がある円堂はずっと練習に参加していた…。となると、冬花の記憶が解ける要因となったのは稲魂、お前以外に考えられない」

 

 久遠とて教え子がそんな事をする筈がないと信じたい。しかし、彼の知り得る全ての情報と状況証拠が、目の前の稲魂雷牙こそが娘を命の危機に陥れさせた犯人であると指し示しているのだ。

 

 久遠は再度雷牙を睨みつける。その瞳に映る感情は、父親としての“怒り”と監督としての教え子を疑う事への“罪悪感”が同居している。

 

 監督の父親としての“怒り”を前にしても、雷牙の表情は不気味な程に靡かない。その表情に籠る感情はあるのはただ1つ……“覚悟”だけだ。

 

 数秒にも及ぶ沈黙の末に、雷牙が出した返答は……

 

雷牙「…はい。俺がふゆっぺに真実を話しました。これは否定しようのない事実っす」

 

 否定もしない、言い訳もしない、正当化だって持っての他、ただ自分が犯した罪を正直に認める純粋な肯定だった。

 

雷牙「…監督、俺は自分がしでかした事を正しいとはコレっぽっちも思ってません。殴って気が済むのなら思う存分殴ってください、俺は何一つ文句は言いません。代表から脱けろって言うなら抵抗せずに日本に帰ります。…それが俺に出来る唯一の罪滅ぼしだから…」

 

 自分がしでかした事が、何の根拠もない感情によるただの我儘(エゴ)である事は十分に理解している。

 だからこそ蒼色に輝く瞳には一切の曇りはない。この選択をした時点で、父親である久遠に裁かれる覚悟を決めていたのだから。

 

久遠「……」

 

 教え子の覚悟を目の当たりにした久遠は軽く一歩を踏み出す。

 

円堂「ーー!!! やめてください監督っ!!!雷牙だって悪意があって真実を話したわけじゃ「止めるな守ッ!!!」ッ…!?」

 

 嫌な予感が最高潮に達した円堂は幼馴染の側から離れ、これから起こりうる惨劇を防ごうとするが、友はあえてそれを拒絶する。

 

雷牙「コレは俺がやらかした事だッ!!!全ての責任は俺にあるッ!!!だから…!オメーさんは…ふゆっぺの側に居てやってくれ…!」

 

円堂「雷牙…」

 

 雷牙は悟っていた。小野冬花を地獄から救えるのは、父親でも、催眠療法でも、ましてや自分でもない。円堂守ただ1人なのだ……と。

 

 その為なら、自分は喜んで“悪役”になろう。ライトにとっての“英雄(ヒーロー)”が雷牙であるように、雷牙にとっての“ 英雄(ヒーロー)”は円堂なのだから。

 

久遠「……」

 

 遂に久遠は雷牙の正面に立つ。恐らく、彼の内情は様々な感情が混ざり合い、複雑化しているのだろう。

 だが、彼の顔は表情筋は理性によってガチガチに固められており、無表情を貫いている。そこから彼の思考を読み取る事は出来ない。

 

 雷牙はエスパーではない。だから表情で読み取れない以上、監督が何を考えているからいつも以上に分からない。

 それでも、数秒後に訪れる自分の未来を悟る事は出来る。桜咲木中での事件に引き続き、またしても彼に辛い選択をさせた事に対して申し訳なく思った雷牙は、せめて彼に罪悪感を埋めつけない為にそっと目を閉じ、全てを受け入れる姿勢を身体全体で示す。

 

 だが……

 

久遠「…顔を上げろ稲魂」

 

 久遠の拳が振るわれる事は終ぞなかった。

 

久遠「お前がなんの根拠も無しに人を傷つけるような人間じゃない事は分かっている…。聞かせてくれ…お前は冬花と何を話したんだ…?」

 

 確かに久遠は一時は強烈な殺意に心を支配されていた。監督として失格も同然の行いだが、否定はしない。

 それでも、僅か数ヶ月間だけであるとはいえイナズマジャパンを率いて来た監督なのだ。稲魂雷牙という人間の性格はキチンと把握している。

 全ての状況証拠が彼を犯人だと指し示したように、彼の中にある全ての経験は稲魂雷牙は悪意を以て他者を傷つけるような人間ではないと指し示したのだ。

 

雷牙「…分かりました。俺は…あの時、ふゆっぺからある相談を持ちかけられました…」

 

 雷牙はこれまでの経緯は一切の嘘偽りなく全てを話す。

 偶然出会った冬花に相談を持ちかけられた事、彼女の記憶が嘘と真実で混同していた事、そして…

 

冬花『… だけど、いつまでも過去に囚われてたら前には進めないと思うんだ…』

 

 彼女の中に、過去(トラウマ)を克服し前に進みたがっている“意志”を見た事も…。

 

久遠「冬花が…そんな事を…」

 

 事の経緯を聞いた久遠は深いショックを受ける。円堂との接触により前よりも記憶が蘇りやすくなっている事は分かっていた。だが、まさか催眠療法すらも効かなくなりつつある段階まで酷くなっていたとは夢にも思っていなかったのだ。

 

雷牙「…俺は自分がした事を正しいとはコレっぽっちも思ってません。…それでも前に進みたがっているアイツを放っておく事は出来なかった。ふゆっぺと同じ…親を亡くしている者として…」

 

円堂「雷牙…」

 

 雷牙もかつて両親を亡くした際に冬花と同じ地獄を味わった。だからこそ嫌という程知っているのだ。地獄から解放される為の出口は…地獄の旅路の終着点にしか存在しない事を…。

 

円堂「…監督!俺も雷牙と同じ気持ちです!!俺はフユッペをこの苦しみから救ってやりたい…!!過去と向き合うのは辛いかもしれない…!けど!そうしなきゃ前に進めないんだ…!!!」

 

 円堂は仲間として、幼馴染として、久遠にこれ以上冬花の記憶を操作しないように懇願する。だが、久遠もまた父として円堂の懇願に首を縦に振る事は出来ない。

 

久遠「分かっている…。だが、これは冬花自身の戦いなのだ…。その冬花がこれでは…」

 

 雷牙の話が真実ならば、心の奥底では本人は過去を乗り越えたいと強く願っているのだろう。

 しかし、現実はそう甘くない。現に冬花の心は過去に負け、意識を失っている。そんな状態で完全に記憶を取り戻してしまえば、彼女に待っているのは悲惨な未来だけだ。

 

久遠「円堂、稲魂。お前達の冬花を想う気持ちはよく分かる、お前達のような素晴らしい仲間に冬花が出会えた事を父として誇りに思う。…だが、それでも私は父として娘を守る為に…彼女から記憶を消す」

 

円堂「そんな…!」

 

雷牙「監督!!!アンタなら分かってる筈でしょう…!!もう記憶を操作したってそんなモン、時間稼ぎにしかならねェって…!今、ココで乗り越えなきゃ、ふゆっぺは一生苦しみ続けるだけだって…!」

 

 この期に及んでも娘から記憶を消そうとする久遠に対して、雷牙は激昂する。

 この事態を引き起こしたのが自分であり、この選択も苦渋の末の決断である事は理解している、それでも声を荒げずにはいられない。

 

円堂「嫌だ…!フユッペの記憶を消すなんて嫌だ!!俺は覚えていたい!!嬉しいことも!!辛いことも!!全部覚えていたい!!!フユッペ…!お前だってそうだろ!!!」

 

 円堂は冬花に向けて自身の想いを語る。だが、光を失った少女から返ってくるのは“沈黙”…ただそれのみ。

 

久遠「無駄だ…。冬花にお前の声は届かない…。冬花を救うにはもう…」

 

円堂「諦めるもんか…!お前の魂に響くまで何度だって語り続けてやる…!」

 

 久遠の静止を振り切った円堂は、いつも持ち歩いているサッカーボールをカバンから取り出し、冬花の手元に置く。

 サッカーボールこそが自身と冬花の心を繋ぐアイテムであり、縁を結んだきっかけでもあるのだから。

 

円堂「サッカーボールだぞフユッペ…!あんなにマネージャーの仕事を楽しくやってただろ…!俺がシュートを止めた時、誰よりも喜んでくれてただろ…!俺は知ってるぞ…!お前は誰よりもサッカーが好きなんだって…!だから…目を覚ましてくれよ…!」

 

 円堂の魂からの想いを以てしても、少女の魂には響かない。

 …いや、厳密には違う。確かに円堂の想いは彼女の魂に届いてはいる。しかし、少女の心を縛りつける闇が久遠冬花の全ての自由を奪っているのだ。

 

 …ならば、誰かが少女の心の闇を打ち砕く風穴を開けるしかない。

 

 その者は、おもむろに少女の側に立つと光を無くした瞳を見つめ、静かに口を開く。

 

雷牙「ふゆっぺ!!!さっきの質問に答えてやる…!」

 

 あの時伝える事が出来なかった“返答”…。それこそが闇を掻き消し、風穴を開ける唯一の風となる。

 

雷牙「俺達は足掻くしかねェんだよ…!!!どんなに苦しくても…!悲しくても…!足掻いて足掻いて足掻きまくって…!必死こいて生きるしかねェんだよ…!!!それが…残された(モン)が死者に出来るに唯一の弔いだッ…!!!」

 

 彼の思想をある者は“継承”と讃えるだろう。またある者は“呪い”と蔑むだろう。

 だが、雷牙からすれば他者からの意見などどうでもいい。今はただ、同じ地獄で苦しむ者として仲間を救う事が何よりも優先されるべき事なのだから。

 

円堂「フユッペ…!なあ…!フユッペ…!!!」

 

 円堂の目尻から涙が溢れだす。その涙はこれまで幾度となく彼が流して来た“感動”の涙ではない。

 今にも命の灯火が消え掛かっている仲間への“悲しみ”の涙だ。

 

円堂「フユッペ…。サッカーってさ…楽しいことばかりじゃない…。辛いこともたくさんある…。でも…それを一緒に頑張って乗り越えていくのが、“仲間”なんだ…!」

 

 “悲しみ”の涙は頬を伝ってこぼれ落ち、落下地点であるボールに数個の薄いシミを作る。 

 

円堂「言っただろ…。フユッペは…今もこれからも…俺たちの大切な…仲間だ…!」

 

 再び円堂の目尻から大粒の涙が溢れ落ちる。だが、今度の終着点はボールではない。

 円堂の“悲しみ”の感情が全て詰まった一粒の涙は、冬花の手にこぼれ落ちた。

 

 そして…“奇跡”は起こる。

 

冬花「仲……間…」

 

円堂「フユッ…ペ…?お前…意識が…!」

 

冬花「うん…!聞こえたよ…!守君の声…!」

 

円堂「よかった…!本当に…!!よかった…!!」

 

 “怪物”がこじ開けた風穴は、光を通す一筋の道となり円堂の光が遂に冬花の魂に響いた。

 

冬花「お父さん…。私、もう忘れたくなんかない…!守君や…大切な仲間たちのことを…!」

 

 意識を取り戻した冬花は、目尻に涙を浮かべながら父へ懇願する。

 

久遠「冬花…。私は…お前が心配なんだ…!」

 

冬花「大丈夫…!私には守君が…大切な仲間がいる…!もうひとりぼっちなんかじゃないの…!もう私は…足掻いて生きるしかないんだから…!」

 

久遠「冬花…!」

 

冬花「私…気づいてたよ…。お父さんはずっと私が過去を乗り越えられるように気にかけていてくれたこと…。確かに私とお父さんは、血は繋がってないかもしれない…。それでもお父さんは世界でただ1人の私のお父さんだよ…!」

 

 遂に過去(トラウマ)を乗り越え本当の自分を取り戻しても、冬花は“久遠”である事を受け入れ、本来赤の他人である筈の久遠道也を“父”と呼び、感謝の抱擁を交わす。

 

冬花「ずっと私を守ってくれて…ありがとう…!お父さん…!」

 

久遠「…感謝を言うのは私の方だ。ありがとう冬花、私を…“父親”にしてくれて…!」

 

 娘と抱擁を交わした久遠は僅かに微笑む。それは初めて誰かに見せる心の底からの“笑顔”だった。

 

円堂「…ありがとな雷牙」

 

雷牙「別に礼を言われる程の事をしてねェよ。そもそも宝くじの一等が当選するよりも確率の低い大博打を監督に相談せずに実行したんだ。寧ろ、罵倒してくれた方が気が楽だっての」

 

円堂「あはは…」

 

 自身が望む最高の結末(ハッピーエンド)を迎えてもなお、一時は冬花を危険に晒した事に強い罪悪感を覚えている雷牙は、いつも以上に捻くれた態度を取り、意地でも自身が功績者になる事を拒絶する。

 

円堂「そんなに自分を責めるなって!確かにお前がしたことは全部が正しいとは言えないけどさ、それ相応の覚悟を持って挑んだんだろ?ならフユッペだってきっと許してくれるさ!」

 

 普段の大胆不敵さが嘘のように繊細な一面を見せる友を励ます為に、円堂はこれまで幾度となく強豪選手のシュートを止めて来た右拳を差し出す。

 

雷牙「…まっ、もうこんな終わりちらかした大博打を打つのは二度とゴメンだがな」

 

 めんどくさい一面を発動中の雷牙も、友の励ましすらも否定する事は出来ず、僅かに微笑み左拳を差し出す。

 

コツンッ!

 

 仲間の心を救った2人は拳を軽く合わせ喜びを分かち合い、真の意味で親子となった2人の時間を作る為に病室を後にする。

 

<翌日>

 

円堂「フユッペの本当のお父さんが、じいちゃんのことを…?」

 

 冬花が記憶を取り戻した翌日、朝一でお見舞いに来た雷牙と円堂だったが、一夜明けて記憶を整理した冬花から告げられたのは、円堂の祖父・大介の名…。

 

冬花「うん…。パパから聞いたことがあるの、守君のおじいちゃんはどんな運命にも立ち向かっていく強い人だったって…」

 

円堂「そっか…フユッペのお父さんは、じいちゃんに会ったことがあるんだ…」

 

雷牙「…まさかな」

 

 祖父と幼馴染の父に意外な接点があった事に関心の声をあげる円堂だが、この中で唯一大介の生存を知る雷牙は嫌な予感が止まらない。

 

冬花「…ただ、その話をする時のパパは辛い顔をしてた…理由は分からないけど…」

 

???「そこから先は私が話すわ」

 

雷牙「…おっと、この声は…」

 

 冬花の言葉を遮り病室に入って来たのは、先日別れて以降行方が分からなかった夏未と鬼瓦刑事だった。

 

円堂「夏未…!それに鬼瓦刑事まで…!」

 

鬼瓦「ちょっと野暮用があってな…。…ん?どうした稲魂の坊主?そんなに俺の顔を見つめt…ムグゥ!?」

 

 鬼瓦の姿を目にしてから、ジト目で彼を見つめていた雷牙は、おもむろに鬼瓦の前に立つと、彼のロングコートのようにくたびれた頬を左右に引っ張り始める。

 

鬼瓦「痛たたたた!!急にどうした坊主!?」

 

雷牙「あっ、モノホンか。流石に雷冥(アイツ)が変装したワケじゃねェってか」

 

 触れた肌の感触から目の前の鬼瓦が本物であると確信した雷牙は、素早く手を離し、老人を苦痛から解放する。

 

鬼瓦「あ、“アイツ”…?もしかしてこの間の偽者の事か?あいつなら今頃留置所の中だぞ?」

 

雷牙「…まっ、いっす。すみませんね、急に手荒な真似をしちまって」

 

 絶妙に噛み合わない鬼瓦との会話に軽い違和感を覚えつつも、未来人ならば瞬時に偽の記憶を植え付ける技術を持っていてもおかしくはないと判断した雷牙は、軽い謝罪を済ませ本題に入らせる。

 

夏未「こ、コホン…!話を戻すけど、単刀直入に言うわ。円堂君、あなたのお爺様、円堂大介さんは生きているわ」

 

円堂「俺の…じいちゃんが…?」

 

 遂に本人に告げられた円堂大介生存のカミングアウト。その衝撃はあまりに大きくすぐには飲み込めない様子だが、夏未は立て続けにこれまでの調査が得た情報を告げる。

 

 40年前に事故に遭った大介は大怪我を負ったものの生きていた事、影山の魔の手から大介を助ける為に国外に逃亡させた者が居た事、その中心人物だったのが冬花の本当の父・小野昌孝であった事…。

 

雷牙「って事はなんすか?まさかふゆっぺの両親は影山の報復によって殺されたって事っすか?」

 

鬼瓦「…いや、奴は手を下していない。それでもただの事故死ではない」

 

円堂「まさか…!」

 

鬼瓦「ああそうだ。奴もまた操られていたんだ、奴よりももっと恐ろしい存在に…」

 

『なっ…!?』

 

 鬼瓦の言葉に皆は衝撃を受ける。あの影山零治ですらも平伏す権力を持つ存在がこの世に存在していた事に。

 

雷牙「…まさか!この間の影山の事故死も…!」

 

鬼瓦「恐らく奴の背後に居た存在が、影山の口を塞ぐ為の陰謀だろう。…歯肉な事に自分が散々やらかしたやり方で奴は殺されたんだ」

 

雷牙「…そっすか」

 

 鬼瓦の返答を聞いた雷牙は、神妙な顔をすると静かに病室から出る。

 

円堂「おい雷牙!?どこに行くんだよ!?」

 

雷牙「ちょっと胸糞悪ィ話を聞いちまったんで、外の空気を吸いに行って来る。帰る時連絡してくれ。じゃ!」

 

……………

…………

………

……

雷牙「影山すらも平伏す絶対的な黒幕(フィクサー)ねェ…」

 

 円堂達と別れた雷牙は、あの日冬花が倒れた中庭のベンチに太々しい姿勢で座っていた。

 その脳裏に浮かぶのは、影山を操っていた黒幕の想像(イメージ)図。現時点での情報では黒幕の性別すらも分からないが、あの影山を操っていた存在だ、100%ロクな人相じゃないだろう。

 

雷牙「…けど、影山が素直に他人に平伏すタマかねェ?意外と影山の方が黒幕を利用していたってオチもあるかもしんねェけどな」

 

 円堂や鬼道と比べて影山とはそこまで強い因縁はなかったとはいえ、彼の人となりはある程度把握している。

 雷牙の知る影山零治はこの世の誰よりもプライドが高く、利用できるモノは何でも利用するタイプだった筈だ。

 …となると、その終着点こそは本人が死んだ今となっては不明だが、意外と彼の推理も的を得ているのではなかろうか。

 

夏未「あら、意外とダメージを受けてると思ってたけど、普通に元気そうじゃない?」

 

雷牙「夏未か……」

 

 意味のない思考に飽き、雲の個数を数え始めた雷牙の前に、夏未が現れる。恐らく、顔色を悪くした彼を心配したのだろう。

 

夏未「…隣いいかしら?」

 

雷牙「へいへ〜い?質問する相手を間違っちゃいないかい?このベンチの所有者は俺じゃなくて病院、つまり許可を得るなら病院の受付にレッツらゴーだぜ?まっ!俺は当然無許可だけどな!ガッハッハッハ!!」

 

 やや感じの悪いジョークを炸裂させる雷牙だが、夏未は軽い溜め息を吐くと彼のジョークをガン無視し隣に座る。

 

雷牙「……」

夏未「……」

 

 2人の間に気まずい沈黙が流れる。かつては色々あった両者だが今となっては互いに仲間として認め合っている。

 少なくとも雷門時代はこんな会話に詰まる事などなかった筈だ。

 

 …いや、その理由は分かっている。互いに引きずっているのだ、数日前のあの事を…。

 

雷牙「いや!何よこの時間!?オメーさん、俺に何か話してェ事があったんじゃねェのかよ!?」

 

 沈黙に耐え切れなかったのは雷牙が先だった。

 

夏未「別に?私から話す事はさっきの話題で終わりよ。それとも…あなたは私に聞きたい事でもあるのかしら?」

 

雷牙「グヌヌヌ…!」

 

 雷牙はてっきり自分の前に現れたという事は、数日前の話しをする勇気がついたのだと思っていた。

 だが、してやったりの笑みでニヤニヤと笑っている以上、話す気がない事は明白だ。となれば雷牙に打てる手はもうない。

 

雷牙「もういいでーす!そんなに話したくないのなら俺は金輪際、一切合切その話題には触れませんし、聞きもしませーん!!墓の底の底にまで封印しといてくださーい!」

 

夏未「…悪いけど、言われなくてもそうするつもりよ」

 

 冗談半分で言った台詞をバカ正直にシリアスな表情で返す夏未を見て悟る。

 彼女は本気でこの話を墓にまで持って行くつもりであると…。それ程までに秘密にしたい内容とは一体何なのだろうか?

 

雷牙「…ハァ〜……。もういいわ、オメーさんがそこまで強固にお口チャックするって事はよっぽどの事なんだろうぜ…」

 

夏未「ええ…。残念ながら」

 

 どんなに頑張って空気を和らげようとしても、ピリついた空気を意地して秘密を守ろうとする生真面目なお嬢様に辟易とした瞬間、ポケットの入れていたスマホの着信が鳴る。

 

雷牙「おっと!守からの電話だ!もうそろそろ日本エリアに戻らなくちゃな!!って事であばよ〜夏未〜!!決勝リーグでもバリバリ活躍してやっから俺ちゃんの活躍をお見逃すなよ〜!!!」

 

夏未「…ええ。あなたの活躍、楽しみしてるわ。じゃあね稲魂君」

 

 約束の時間を迎え、仲間達が待つ居場所へ帰る稲魂雷牙を夏未は静かに見送る。

 

夏未「…言える訳がないじゃない…。稲魂君と明星鬼乃子が実の兄妹だなんて…」

 

 完全に雷牙の姿が消失し、その内に秘めたあまりに大きすぎる秘密を抑え切れなくなった夏未は、誰にも聞こえないような小さな声量で偶然()()()()()()()両者の間に隠された秘密を打ち明ける。

 

夏未「…私には祈る事しか出来ないわ。あなたの栄光の旅路が無事に終えられるように…」

 

 “怪物”に想いを寄せた少女は、静かに神に祈りを捧げる。その祈りがしかと神に届くのか…。それは誰にも分からない。




序盤で珍しく雷牙が敬語を使ってたけど、別にコイツ敬語が使えないんじゃなくて、使わないだけなんで、今回のようなシリアスな場面ではちゃんと空気を読んで敬語を使うタイプです。それはそれで人間としてどうなんだって話ですが。
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