円堂「行けるか雷牙?」
雷牙「ハッ!!誰にもの言ってんだッ!!こちとら医者から数日もサッカー禁止令が出されてたんでなッ!!右脚が疼いてたまらねェよ!!!」
まだ午前の練習中にも関わらず、代表用のグラウンドには雷牙と円堂の2人の人影しか見えない。
残りの仲間達は皆、グラウンドの外で彼らの勝敗の行方を固唾を飲んで見守っている。
雷牙「スー…。んじゃあ!先ずはコッから!!“獅風迅雷”ッ!!!」
心臓を経由して何十倍にも増幅させた気を一気に放出すると、雷牙の身体から黄金の気の柱がガスバーナーの如く立ち昇る。
立向居「スゴい!見ただけで分かります…!ただの“獅風迅雷”でも以前より遥かにパワーアップしてますよ!!!」
その肌から感じる圧力から雷牙の成長を感じ取る仲間達だが、本人はこの程度では満足しない。
雷牙は限界を超える為に更に気を高め続ける。
雷牙「“獅風迅雷・
雷牙「まだまだァ!!!“獅風迅雷・
100%を超えてもなお満足しない雷牙は、河童達との遭遇を経て完全習得した“
雷牙「そしてコイツがァ…!!!」
まだまだ止まらない。苦労の末に習得した“至高の領域”すらも、“怪物”にとっては通過点でしかない。
雷牙「“獅風迅雷・
『おおーっ!!!・・・お?』
金と調和するように白銀のオーラが雷牙の身体を包み込んだ瞬間、仲間達は感嘆の声を上げるが、不思議な事に徐々に興奮のトーンが下がる。
なぜなら…
綱海「なんだぁ?オルフェウスの試合の時と違って、超なんちゃらかんちゃらって時となんも変わってねぇじゃねぇーか」
雷牙は限界を超えた“
雷牙「・・・。“ブラックゲイルReB”!」
円堂「“真ゴッドハンドV”!!!」
まさか“兆”のきの字すらも習得出来ていないとは思っていなかったのか、ほぼ投げやり気味にシュートを放つが、そのような一撃が円堂には通用する筈もなく、あっさりと右手で受け止められてしまう。
雷牙「おっかしいな〜…?オルフェウスとの試合でコツを掴んだと思ったのに…」
このPK戦の目的は復帰した雷牙がどれだけ“兆”を極められているかを確かめる事だったが、結果は一切のコツすら掴めていないという結果で終わってしまう。
鬼道「まだ“兆”とやらを習得出来ていない証拠だ。恐らく、この間の試合で発動出来たのも、心身共に極限まで追い詰められた事で偶発的に発揮出来たに過ぎないのだろう」
雷牙「チッ…!まだまだ俺も修行不足ってワケか…」
久遠「…だが、これでハッキリしたな。そんな不安定な技術に頼る訳にはいかん。習得の為に努力するのは良いが、その技前提で試合をするのは禁止する」
雷牙「へいへーい…」
合理の化身である久遠らしい、ダメ出しをされた雷牙はぶっきらぼうに返事をしそっぽを向く。
すると…
秋「みんなーっ!!そろそろ試合が始まるわよー!!」
秋から知らせを受けた皆は、午前中の練習を切り上げ宿舎のミーティングルームへ移動する。
その目的はただ1つ、これから行われるBブロック最終戦を観戦する為だ。
雷牙「そういや今日の試合ってどことどこの試合だったっけ?」
豪炎寺「ブラジル代表の“ザ・キングダム”と、フランス代表“ローズグリフォン”だ。だが、“ザ・キングダム”はここまで全試合全勝だからほぼ決勝リーグ進出は決まっているがな」
雷牙「はへ〜」
ミーティングルームに備え付けられたTVに映し出されたブラジルVSフランスとの試合…皆はザ・キングダムのプレーに釘付けになる。
氾濫する大河のように荒々しい攻めを見せたかと思えば、サンバのように激しくも洗練されたチームプレーは、強豪であるローズグリフォンの選手達を一切寄せ付けない。
マクスター『試合終了ーーッ!!!3-0でザ・キングダムの勝利ですッ!!!』
ライバル 1人だけ頭に疑問符を浮かべる者が居る。
雷牙「あん?もうキングダムとの試合が確定してんのか?こういう決勝リーグってくじ引きとかして対戦相手を決めるんじゃねェのか?」
鬼道「決勝リーグは、各ブロックの1位と2位のチームに振り分けられる仕組みだ。日本とイタリアは最終スコアこそ同じだが、それまでの試合での得点差により1位通したのはイタリアになっている」
鬼乃子が加入して以降のオルフェウスは、イナズマジャパン戦を除いて大差で勝ち上がっているのに対し、イナズマジャパンは基本的に僅差でしか勝利していない。
勝ち点が同じだった場合は、それまでの得点差による加点が行われる為、イナズマジャパンは引き分けた時点で2位通過は確定だったという訳だ。
雷牙「まっ…決勝戦でライトと鬼乃子にリベンジマッチするってのは1番燃える
鬼道「気を抜くなよ。ザ・キングダムを率いるマック・ロニージョの世界ランクは第3位…。明星鬼乃子に抜かれるまでは1位のヒデナカタに次ぐ世界最高峰の実力者として評価されていた選手だ。油断していると足元を掬われるぞ」
こうして次の対戦相手が決まったイナズマジャパンは、数日後の準決勝に向けて更にモチベーションを高める。
♢♢♢
雷牙「でぇりゃぁぁぁぁ!!!だだだだだッ!!!」
おーっす!!!画面の前にみんなーっ!雷牙さんだぜ〜!!
え?こんな朝っぱらから宿舎から離れた森の中で何をしてるかだって?
ただの朝練だっての。数日も病室でこもりっぱなしでロクに練習も出来なかったかんな。遅れた分を取り戻す為に眠い目を擦って朝練に励んでるってワケよ。
見ろよこの約10kgの大型タイヤ×2!!5kgの鉄板が入った特製シューズ×2!!通販でポチった漫画とかでしか見た事ねェ実用的かも怪しい強制ギプス!!
俺の身体に乗せられた総重量は体重+30kgちょい!!正直言ってクッッッッソ重い!!!
多分、この場に風丸とかが居れば『お前は一体何の世界一を目指してるんだ…』的なツッコミが来るんだろうな〜。
…けど、まともな練習をしてるだけじゃ、アイツに…鬼乃子に勝つだなんて夢のまた夢だかんな。
雷牙「…監督はああ言ったが、やっぱし世界一になるんなら“
この数日間の入院で発動の為のコツは失ったが、使用中の感覚は覚えてる。
“兆”と“極”…アレは言ってしまえば“超限界突破”の究極進化系だ(名前に究極って付いてるし)。
その技術が使い手に齎すのは“力の最適化”…。肉体と意識を切り離す事で身体が勝手に動くから、最小の力で最高の力を発揮出来るし、初見のタクティクスも初めから答えが分かってるみてーに最適解を導き出せる…。
雷牙「…取り敢えず俺が決勝までに達成しなくちゃなんねェのは、“兆”に比較的簡単に入れるようにする事と、負担の軽減だな…」
不完全な“兆”の段階でも鬼乃子と互角に戦えるくらいには強ェが、その分身体に掛かる負担はコレまでの比じゃねェ。だいたい一度使っただけで1試合分相当の体力を持ってかれる…っていうか持ってかれた。
負担軽減は使い続ければ克服出来るだろーが、その度にこの間みてェな筋肉痛に襲われんのは流石の雷牙も嫌だな…。
グゥ~!!!
…腹減った。腹が減っては何とやらって言うし、朝練はコレくらいで切り上げて帰るとすっか。
雷牙「…ん?アレは守と土方…?コレまた珍しい組み合わせだな?」
宿舎に帰る途中、俺の目に入ったのは円堂と土方がやたらとシリアスそうな顔で話し合ってるワンシーンだった。
…マジでこの2人が一緒に居るの珍しいな…。守は基本的に俺か風丸あたりとつるむ事が多いが、土方は綱海とつるむ事が多いかんな、守の沖縄でのトラウマが再発しねェと良いけど…。
雷牙「や〜や〜!お2人さん方!珍しい組み合わせだね〜!」
円堂「あ…雷牙…」
あ〜ん?何か元気ねェじゃねェか?…いや、FFIが始まってから守が元気を無くすのはそう珍しい事じゃねェか、主に鬼乃子のせいだけど。
土方「…おい円堂、ここは稲魂にも相談した方がいいんじゃねぇか?行動力の塊の稲魂なら良い案が浮かぶかもしんねぇぞ?」
円堂「う〜ん…確かにそうかも…」
俺に相談?何だァ?遂にふゆっぺに告白でもすんのかァ?
円堂「…雷牙!頼む!!俺に力を貸してくれ!!!」
……………
…………
………
……
…
雷牙「なるへそ…。ロニージョから八百長を頼まれた…か」
俺のクールキャラを保つ為に表面上は平静を保っているが、内心では割とぶったまげてる。
守によると、俺と同じく朝練をしていたら土方がロニージョを連れて現れたらしい。
あんまり代表チームが他国の代表と接触するのは褒められたモンじゃねェが、ココまでベタベタ触りまくった俺達にとっちゃあ大した問題じゃねェ。問題はこの後だ。
ロニージョ『次の試合…。負けてくれ…!!』
ロニージョから頼まれたのはまさかの八百長の申し出。コレには流石の守もぶったまげたらしく真意を問い詰めたが、適当にはぐらかされて立ち去られたらしい。
円堂「帰り際のロニージョのシュートを受けて分かったんだ…。あいつは何か理由があって俺に八百長を申し込んだんだ…!」
雷牙「…それで問題を解決する為に俺の力が必要ってかァ?」
円堂「ああ…!!そういうことだ…!!」
雷牙「…甘ェな」
円堂「え…?」
ああ、甘い。オマエさんはあんまりにも甘すぎるんだよ。
雷牙「考えてもみろよ?今は準決勝に向けて大切な時期なんだぜ?そんな貴重な時間を今さっき初めて会ったヤツの為に使おうってのかァ?クハハハ!甘ちゃんもココまで来たら糖尿病末期患者だなァ!!」
土方「おい稲魂!そんな言い方はねぇだろ!!!円堂は本気でロニージョを心配してるんだぞ!!」
雷牙「黙ってな土方。今は俺と守のターンだ、オマエさんとのレスバは後で好きなだけ付き合ってやんよ」
さて…。サッカーの守クンはどう出るかな?
円堂「…確かに雷牙が言ってることは正しいよ。俺とロニージョはさっき会ったばっかだし、世界一を目指すライバルだ…。けど…!世界一を目指すライバルに“敵”も“味方”も関係ない!!お互いに全力でぶつかり合う為に…!俺はロニージョを助けたいんだ!!!」
…それがオマエさんの答えかよ…。
雷牙「ククク…!クハハハッ!!!甘ェ!本当に甘ェよオマエさんは!!……だが!!それでこそ円堂守だッ!!!」
円堂「ってことは…!」
雷牙「オマエの想い、魂で受け取った!!俺も協力するぜ!!!」
土方「あー…もしかして円堂がどれだけ本気が試してたってのか…?」
さ〜てね。ただ…俺は守全肯定botってワケじゃないんでね。意外と本気かもよ?
雷牙「うっし!それじゃあ、ヒロトの所に行くか!!」
円堂「ヒロト?なんでだ?」
雷牙「ヒロトならこういう事に慣れてんだろ」
土方「なら鬼道の手も借りれたら嬉しいな。あいつとヒロトが居れば、大分楽になりそうだし」
う〜ん…それにしてもコレは監督に言うべきなのかねェ…?響木監督ならギリ許してくれそうだけど、超合理主義者の監督なら『駄目だ。時間の無駄だ』とか言いそうだしな〜…。まっ、あとで考えればいっか!!
♢♢♢
ヒロト「これがザ・キングダムの選手データだ」
運良くヒロトと鬼道の力を借りる事が出来た雷牙一向は、食堂にて目金が収集したザ・キングダムの選手データを閲覧していた。
円堂「スゴイな…!パス成功率93%…ボール保持率は72%もあるのか…!!」
雷牙「逆にコトアール代表のリトルギガントは弱過ぎやしねェか?よくこんなヤツらが決勝まで勝ち上がれもんだぜ」
同ブロックの決勝進出チームであるリトルギガントとは比較にもならない圧倒的な数値の数々を前に、ザ・キングダムは世界屈指の実力者である事を実感する。
土方「やっぱりおかしいぜ!こんなスゲェ奴らが八百長を申し込むなんて必要なんかねぇのによ!!」
鬼道「落ち着け土方。叫んでも答えは見えてこないぞ」
ヒロト「…でも確かに不可解だ。いくら負けたくないと言っても、無敗で勝ち上がったチームのキャプテンが、八百長を持ちかける理由が見当たらない…」
如何にイナズマジャパンが多数の化身使いを有していると言っても、平均的なフィジカルで勝るザ・キングダムには苦戦は必至だろう。
それに円堂によれば、ロニージョはすぐに八百長から棄権の進めと言い直したらしいが、どう考えて本心ではない事は明らかだ。
雷牙「…んなら、直接確かめに行くしかねェってこった」
円堂「だな!考えても埒が開かないなら、ロニージョ本人に聞くまでだ!!」
……………
…………
………
……
…
雷牙「ココがブラジルエリアか…。思ったより色んな国の観光客が居るんだな〜」
ヒロト「ブラジルはサッカー強豪国だからサッカーファンの注目度も高いんだろうね。この島で現地の雰囲気を味わおうとする人達も多いんじゃないかな?」
数十分掛けてブラジルエリアに到着した一向は、予想を超える人種の豊富さに圧倒される。
円堂「あっ!見てみろよ!ザ・キングダムの監督がスクリーンに映ってるぞ!!」
街中で一際目立つ巨大モニター。そこに映し出されていたのは先日のフランスとの試合後に行われた現監督のインタビューだった。
雷牙「何だあのおっさん!?人相悪っる!!影山といい勝負じゃねェーか!!」
鬼道「彼の名はガルシルド・ベイハン…。現ザ・キングダムの監督であり、FFIを主催するガルシルド財団のトップだ」
雷牙「って事はアイツがこの大会のトップってワケでもあんのか…」
鬼道「ああ…」
鬼道から彼こそがこの大会の主催者であると告げられた雷牙は、何かを察したのか顔色を変える。
ガルシルド『このFFI世界大会は、私の愛するサッカーを通じ世界平和を目指して開いたもの…』
モニターの中のガルシルドは、サッカーを心から愛し、世界平和を願っていると言っているが、その目は明らかに笑っていない。
ヒロト「世界平和を目指して…か」
土方「ますます分からねぇな…。そんなチームのキャプテンが八百長なんか持ちかけちゃ駄目だろ…」
ロニージョの真意を確かめる為にブラジルエリアまで足を運んだが、監督の理想と、キャプテンの行動のチグハグさは、余計に雷牙達を混乱させるだけだ。
雷牙「こーゆー時ってのは、大体金持ちのおっさんが全ての黒幕ってパターンが多い気がすんだけどな〜…」
ヒロト「否定出来ないのが辛い所だね…」
鬼道「…だが、その考えはあながち間違っていないかもしれんぞ」
ロクな情報を得られない事へのボヤきに近い雷牙の呟きだったが、不思議と鬼道はその言葉を肯定する。
円堂「どういうことだ鬼道?」
鬼道「お前も覚えているだろう?俺達が足止めを喰らったアルゼンチン戦…。だが、一監督でしかない総帥が試合の日程をズラすような権力を持っていると思うか?」
影山が日本であそこまでの横暴が許されていたのは、彼が日本有数の名門校帝国学園の総帥であり、サッカー協会副会長という社会的にそれなり以上の権力者であったからだ。
だが、ミスターKとして再度姿を現した影山は、既に財産は差し押さえられており、ロクな権力は持っていなかった。
そんな男が試合の日程をズラすという大それた事が可能なのだろうか?
ヒロト「ーー!! まさか…!ガルシルドが影山と手を組んでいたって事かい…!?」
鬼道「…さぁな。だが、どちらにせよ改心する前の総帥以外に、俺達に強烈な悪意を向ける人物が運営の中心部に潜んでいる事は間違いないだろうな」
円堂「…なぁ、雷牙。もしかして夏未が言ってた影山を裏で操っていた黒幕って…」(ヒソッ)
雷牙「…十中八九そうだろうが、今は黙ってろ。鬼道が知れば、影山を殺された怒りが爆発して、暴走しかねねェかんな」(ヒソッ)
先日、夏未から知らされた影山を裏で操っていた黒幕がガルシルドその人であるという確信が強まるが、今はまだ証拠が足りなさすぎる。
これ以上、鬼道に余計な負担を掛けない為に雷牙と円堂はあえて話す事はせず、ロニージョの捜索に注力する。
すると……
「とっとと出て行け!!!お前のようなグズは必要ない!!!」
まるで人目から隠すように大通りからやや離れた位置に建てられた塀に囲まれた巨大な施設…。その塀の中から男の怒声が聞こえてくる。
雷牙「おっと…何かロクでもねェトラブルが発生中のようだな…!!」
円堂「声の方向はあの建物からか…!こうしちゃいられない!行こう!!!」
怒り狂った成人男性の怒声に何か嫌な予感を感じ取った円堂は、我先に飛び出し声の方向へ向かい、雷牙達も遅れて付いて行く。
そこで男に叱責を受けていたのは、ザ・キングダムの代表ジャージを着た白髪のドレッドヘアーの青年と、青年と似たヘアースタイルの少年だった。
???「待ってください…!俺が代表から外されれば俺達家族は生きていけない…!!」
「知った事か、ガルシルド様の期待に応えられなかった貴様が悪いんだ」
青年の必死の懇願すらも黒服の男は鼻で笑い、少年の持つボールを奪う。
???「あっ!なにすんだよ!?これはオレのボールだ!!」
「違うな、コレはガルシルド様が与えた物だ。貴様のような貧乏人が手にしていいボールではない!!!」
ボールを奪った男は、自らの怒りをボールにぶつけ向かいの公園にボールを蹴る。
ボール取られただけでなく、自分自身すらも否定されてしまった少年は、悲しみに耐えきれなくなり泣き喚く。
???「お願いしますッ!!次の試合は…絶対に期待に応えてみせます…!!だから…!もう一度俺にチャンスをください…!!」
まだ幼い弟への非情な仕打ちを見て、このまま一家は明日を迎えられなくなると悟った青年は、地面に額を擦り付けて傲慢な黒服達に最後のチャンスを懇願する。
「チッ!貧乏人が!!いいか?今日の所はこれだけで済ませてやるが、次はないぞ!!貴様らの成果は常に我々が監視しているのだからな!!分かったか!!」
???「はい…!」
この世の悪意を一点に集中させたかのように傲慢な黒服の男達は、最後の忠告を青年に宣告し、その場から立ち去る。
雷牙「オイ…!今のバッチリ撮れたか…?」(ヒソッ)
円堂「ああ…!バッチリだ…!それに黒服はちゃんと言ったよな…!“ガルシルド様”って…!」(ヒソッ)
あまりの黒服の横暴さに我慢の限界を迎え割って入ろうとした円堂だったが、雷牙はあえて彼を止めこっそりとスマホで一部始終を録画する事で、ガルシルドが選手を苦しめている証拠を入手する事に成功した。
雷牙「助けてやれなかったのは心が痛むが、コレでガルシルドがクソ野郎って証拠はバッチリゲットだ!!コレをケーサツに提出すりゃあ、ヤツは終わりだぜ!!」
鬼道「上手くいくといいがな…」
ヒロト「…あれ?そういえば土方君は?」
この中で最も存在感を放つ筈の土方が、忽然と姿を消していた事に気づいたヒロトは周囲を見渡すが、大人と見間違う体躯を持つ彼の姿はない。
だが数秒経ち、なんと彼は向かいの公園の出口から姿を現し、その両手には先程持っていなかったサッカーボールを携え、悲観に暮れる少年の元へ向かう。
土方「ほらよ!お前のボールだろ?」
???「あっ!オレのボール!!」
奪われたボールを再度受け取った少年は、たちまち泣き止み満面の笑みで土方に礼を言う。
???「オマエは…確か、イナズマジャパンのヒジカタ…」
土方「おっ!嬉しいねぇ!!ザ・キングダムの選手に名前を覚えてもらえるなんて!!」
???「弟のボールを探してくれて感謝する…。オレの名前はラガルート、オマエと同じDFだ」
土方「ラガルートか!いい名前だな!!俺は土方雷電!!…ってもう知ってるか…」
見ず知らずの他人の弟のボールを探すという漢気によりラガルートと打ち明けた土方は、雷牙達と合流し向かいの公園にてロニージョの行方について尋ねる。
ラガルート「ロニージョがそんな事を…!?アイツ…そこまで思い詰めていたのか…!?」
どうやらチームメイトにも八百長の件は寝耳に水だったようで、驚きを隠せない様子だ。
「兄ちゃんたちがこんな苦しいおもいをしているのはガルシルドのせいなんだ!!!みんな…アイツにだまされたんだよ…!!!」
これ以上、兄が苦しむ姿に耐えきれなくなったラガルートの弟は、苦悶の表情で全ての元凶はガルシルドであると雷牙達に告げる。
円堂「どういうことだ…?ガルシルドのせいって…?」
ラガルート「……ガルシルドは、貧しくて困っていた俺達を助けてくれた…」
ラガルートはこれまでの経緯を話し始める。
ガルシルドは貧しい自分達にはサッカーを、親には仕事を与えてくれた事…。
だが、監督の命令に逆らったり、試合でミスをすれば自分達に厳しい罰を与え、時には家族にも危害を及ばせるようになった事…。
雷牙「資本主義の老害ココに極まれりって感じだな…。歳食ってもそんなクソ野郎にはなりたかねェーや…」
鬼道「…だが、同時に奴によってザ・キングダムの家族が救われたのも事実だ…。…だからこそ、余計に強くやるせなさを感じてしまう…」
ヒロト「父さんだって狂ってはいたけど、その根底にはお日さま園の子供達への愛情はあった…。それなのにガルシルドは選手を道具として扱うなんて…!」
実の親を失うという悲劇を見舞われつつも、里親に恵まれ貧しさとは無縁の生活を送る3人は、ロニージョ達の境遇に同情しつつも、どんな顔をすればいいか分からずに複雑な表情をしている。
円堂「け、けど!俺たちはさっきの光景を録画してたんだ!これを警察に見せれば、お前たちは…「無理だ…」…え?」
ラガルート「その程度の動画じゃ、証拠にはならない…。警察に提出してもガルシルドの権力で揉み消されて終わり…運が良くてもさっきの2人の解雇が精一杯だ…」
鬼道「やはりな…」
雷牙「んじゃあ、イナチューブにアップするってのはどうだ?流石の大金持ちでもネットを掌握は出来ねーだろ?」
ラガルート「そんな事してみろ。ヤツは必ず君達を特定して報復しに来るぞ、下手すればニホンに居る家族にも危害が及ぶ…」
土方「なんだよそれ…!八方塞がりじゃねぇか…!」
恐らく最も効果的なのはネットのこの動画をアップロードし、少なくともガルシルドの部下は選手を苦しめているという事実を世間に公表する事なのだろう。
だが、ガルシルドの絶大な権力を前には、日本に居る家族を人質に取られているようなものなのだ。
大したダメージを与えられない証拠にそこまでのリスクを負う事は出来ない。
ラガルート「…見ず知らずの君達が、俺達を救おうとしてくれた事は嬉しく思うよ…。けど、もういいんだ…ガルシルドに刃向かわなければ、家族が苦しむ事はない…。俺が我慢さえすれば…」
イナズマジャパンの助けを丁重に断ったラガルートは、精一杯の感謝の念を彼らに伝え、弟と共に宿舎へと帰る。
同じ中学生とは思えない哀愁に満ちたその背中を、雷牙達はただ見ているだけしか出来なかった。
……………
…………
………
……
…
円堂「やっぱりダメだ!!!このままじゃ、準決勝を戦うなんてできない!!!」
土方「ああ!!あの兄弟の辛そうな姿を見たらほっとけないぜ!!!」
影山が優しく思えてくるガルシルドの非情な仕打ちに、怒りを隠せない円堂と土方。
せめて自分達に何か出来ないか考えるが、鬼道財閥や吉良財閥すらも超える絶大な権力の持ち主であるガルシルド相手では、何も良い策が思い浮かばない。
雷牙「けど、真の意味でアイツらを助け出すには、ガルシルドを何とかしねェーと話にすらなんねェぜ?」
ヒロト「1番現実的なのは彼を失脚させる事だろうけど…」
鬼道「そう簡単にはいかないだろうな。奴は影山と同じタイプと見た。自分が不利になる証拠は徹底的に消し去っている筈だ」
円堂「くそ…!どうすればいいんだ…!」
相手は世界屈指の大金持ち、対して自分達に唯一あるのは先程録画した部下の横暴のみ…。唯一の武器すらも下手に使えば、家族達に被爆するリスクの大きすぎる代物だ。
鬼道「…やはり奴を失脚させるには警察とネットの力を使うしかないな…」
雷牙「だ〜か〜ら〜!オメーも分かってんだろーが!あの動画を警察に渡そうとモンなら揉み消されて終わり!ネットにアップすれば最悪俺らの知人全員があの世逝きになる可能性のある爆弾だって!」
鬼道「…確かにあれはリスクが高すぎる…。この島の警察だって信用は出来ない…。だが、俺達には居るじゃないか、信頼出来る警察が」
円堂「ーー!!! そうか…!鬼瓦刑事か…!」
ヒロト「確か…あの人は今、影山の調査で国際警察の指揮官を務めている筈だ…。流石のガルシルドでも国際警察には手が回っていない筈…」
鬼道「それでもこの動画では奴を失脚させるには不十分だろう。ラガルートの言った通り、表面上の謝罪だけして部下を解雇させて罪から逃れようとするだろう…」
鬼道「奴の手下がキングダムの選手データは随時チェックしていると言っていただろう。…なら、キングダムの選手達に限界以上のプレーをさせていたデータが必ず保存されている筈だ」
雷牙「って事は〜?」
鬼道「決まってる。ガルシルドの屋敷に忍び込むぞ」
下手すれば命を失いかねないハイリスクハイリターンな潜入捜査…。
果たして彼らの“覚悟”は王国を包み込む“闇”を晴らす一手となり得るのか…?
円堂との問答の際の雷牙は性格がクッソ悪かったけど、あれはシンプルに円堂を試していただけなので本心じゃないです(“兆”を習得する為に時間が惜しいのは事実だけど)。
あのシーンを挟んだのは、(主にライトが原因で)ブラージが妙に物分かりが良くなったんでカットされた、円堂屈指の名言を言わせたかっただけです。