イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

176 / 181
そういやアニメとゲームじゃ決勝リーグの試合順が違うんですけど、今作はアニメ準拠にしてます。


闇の陰謀

ヒロト「よし…。解析完了だ」

 

 ガルシルドの屋敷から盗み出したデータを解析し終えたヒロトは、専用のアダプタにUSBメモリを差し込むと、ミーティングルームのスクリーンに夥しい量のデータが映し出される。

 

雷牙「…何コレェ?辛うじて読めはすっけど、専門用語が多すぎて肝心の内容が分かんねェ…」

 

 スクリーンに映し出されたのは、全て英語で書かれたガルシルドが必死に隠し通そうとした重要機密の数々…。

 英語で書かれている以外は特に暗号らしい対策は施されていないが、中学生のIQには難しすぎる難解な専門用語の数々に、この場に居る大半の人間は頭に疑問符を浮かべている。

 

久遠「響木さん、このデータは…」

 

響木「うむ…。どうやらお前らはとんでもないデータを獲ってきてしまったようだな…」

 

 データの内容を理解した響木と久遠は僅かに顔を顰めてしまう。それだけこのデータは、FFIという夢の舞台を根底から覆す情報だった。

 

雷牙「せんせー!!頭良い組だけ納得しないで、バカにも分かるように優しく説明してくださーい!!置いてけぼりは普通に辛いでーす!!」

 

響木「そう焦るな。まず…このデータは一言で言えばガルシルドが所有する油田のデータだ。…流石に油田の意味は分かるな?」

 

 響木の懸念通り、雷牙は油田がどのような物なのか具体的なイメージはない。しかし語感から石油に関係する何かという認識はあるようで、小さく首を縦に振る。…一部、断片的なイメージすら怪しい者もちょくちょく居るが…。

 

目金「グラフを見るに、ある時期を境に石油の産出量が著しく減少しているように見えますが…」

 

響木「その通りだ。ガルシルド財団が所有する全ての油田を合わせても、現在取れる石油の量はピークの25%以下…つまりは4分の1にまで減少している」

 

 ガルシルドが経営するオイルカンパニーは財団の中核を担う事業であり、世界一の油田保有数から今や世界の石油事業を牛耳っていると言っても過言ではない。

 にも関わらず総産出量が全盛期の4分の1にまで減少しているという事は……

 

響木「このままいけば…あと数年以内に油田から取れる石油は底を尽き、ガルシルドは石油産業から撤退せざるを得なくなるだろうな…」

 

ヒロト「ガルシルドのオイルカンパニーは彼の財団を構成する大部分と言っても過言ではない…。石油産業から撤退するという事は、財団の衰退と同義…って訳ですね?」

 

響木「その通りだ」

 

雷牙「…だが、やっぱり腑に落ちねェ…。ガルシルドの会社が潰れかねねェ状況って事は何となく分かったが、それがアイツの悪事とどう関係あんだよ?」

 

 これまでの説明から何とかガルシルドの会社経営がピンチという事は分かるが、それとザ・キングダムがどう繋がって来るのかが未だに見えてこない。

 

響木「問題大有りだ。これを見てみろ」

 

 雷牙の疑問に答える為に、響木は石油の産出量とはまた異なるこれまた情報量の多いデータをスクリーン前面に押し出す。

 そこには英語の文法は当然として、映画でしか見た事がないような数々の兵器の図面が映し出されていた。

 

響木「これは先日奴が買収した軍事関連会社の兵器に関する製造データだ。どの兵器の製造数も買収前の5倍に引き上げられている…」

 

染岡「なんだよそれ…!ガルシルドってヤローは戦争でもおっ始めるつもりかよ…!」

 

響木「その通りだ」

 

『なっ…!』

 

 響木の肯定に皆は衝撃を受ける。武力による戦争を引き起こそうとしたのはエイリア騒動の首謀者である吉良星次郎も同じだ。

 だが、彼はあくまでも“ジェネシス計画”によって生み出した超兵士(ハイソルジャー)を用いて他国へ侵攻する事で息子を奪った世界へ復讐する事が目的だった。

 ガチガチの無機質な兵器を駆使して世界を混乱に陥れようとするガルシルドと比べれば、まだ人間味を感じられるというものだ。

 

響木「戦争をするのには石油が欠かせない…。もし今戦争が勃発すれば、どの国も限られた量の油田を奪い合い、その価格は一挙に高騰…。ガルシルドの枯れ掛けた油田も莫大な利益を産む事が出来る…」

 

鬼道「それに加えて兵器を自ら供給すれば世界を征服したの同然…という訳か…」

 

壁山「なんか…計画が壮大すぎて逆に現実味が湧かないっス…」

 

 まさか漫画やゲームでしか聞かない『世界征服』なる四文字を本気で実現しようとする人間がこの世に存在していた事に、皆は唖然として簡単に現実を飲み込めない様子だ。

 

響木「恐らく奴がこのタイミングでFFIを開催したのも、この計画の為だろう。世界初のU-15の世界一を決める大会…これにより各国の首脳陣との間で緊張が起こっているとも聞く…」

 

円堂「なんだよそれ…!俺たちの夢の舞台すらも、あいつにとっては自分の野望の為の踏み台だったっていうことかよ…!」

 

響木「極端な話…国家同士に緊張を走らせられれば手段は何でも良かったんだろうな…」

 

 思い返せば、ガルシルドはザ・キングダムの監督に就任していながらも、これまでの試合では一度も監督らしい行いはしていなかった。酷い時には、試合中によそ見をしていた写真も撮られている。

 あれだけ盛りに“愛している”と言っていたサッカーには、これっぽっちも愛などなかったのだろう。

 

円堂「許せない…!サッカーを…!戦争(そんなこと)に利用するなんて…!」

 

 自分が心の底から愛するサッカーを、利益の為だけに利用するガルシルドに対して怒りを隠し切れない円堂は、拳を強く握り締め憤慨する。

 

目金「…ですが、良かったじゃありませんか。ガルシルドが戦争を引き起こそうとする証拠は我々の手にあるんです。これを警察に渡せば間違いなく彼はお縄ですよ!」

 

鬼道「…いや、それは無理だ。ラガルートの話によれば、ガルシルドは既に現地の警察にも手を回しているらしい…。警察の手に頼った所で、揉み消されるのがオチだろうな」

 

立向居「そんな…!」

 

鬼道「…だが、国際警察となれば話は別だ。都合の良い事に、現在ライオコット島では鬼瓦刑事が総帥の一件で国際警察の捜査一班の指揮を取っている。あの人ならば、必ずガルシルドを逮捕してくれる筈だ」

 

 現地の警察にすら手を回していると聞かされた際は絶望すらしたが、鬼瓦という頼もしい味方の存在を思い出し、ザ・キングダムと正々堂々と勝負が出来る希望が現実的になった事で、イナズマジャパンは一層湧き上がる。

 

響木「そういう事だ。俺が鬼瓦さんに連絡して事情を話す。早ければ、明日にでも証拠を渡せるだろう」

 

久遠「ガルシルドの一件は響木さんに任せてもらうとする。お前達は数日後のブラジル戦に集中しろ。分かったな!」

 

『はい!!!』

 

 自分達に降りかかった不安を全て取り除いたイナズマジャパンは、強敵ザ・キングダムに勝ち、世界一を決める大舞台に立つ為に今日はここで解散し明日からの練習に備える。

 

 すると……

 

久遠「…それと稲魂。お前は少し残ってくれ」

 

雷牙「俺っすか?…まぁ少しくらいならいいっすけど…」

 

 何故か雷牙だけ残るように指示する久遠。仲間達は久遠を不審に思うが、どうせ雷牙を対ブラジルの秘密兵器にするつもりだろうと結論付け、先に自室に戻って行く。

 

雷牙「それで?何すか俺を残して?…まさか次のブラジル戦のキーパーに任命する…とは言わないですよね?」

 

 韓国戦でのトラウマが蘇ったのか、やや顔を青くしながら恐る恐る久遠に尋ねるが、彼は首を横に振る。

 

久遠「いや…今の所はそんな予定はない。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の試合、お前をスタメンから外す」

 

雷牙「・・・はい?」

 

♢♢♢

「いらっしゃーーい!!…Oh!!ライガ・イナタマじゃないか!!嬉しいネ!まさかこんな有名人がウチに来てくれるなんて!!さァさァ!!席に座って!ご注文は?」

 

雷牙「…マルゲリータピザ1つ」

 

「マルゲリータピザ!イッチョー!!!」

 

 んだよその掛け声…。ラーメン屋かっての…。

 

 ハァ〜…。久々にイタリア地区に来たが、陽気は健在だな。寧ろやかましくなってるくれェだ。

 やっぱアレか?祖国の代表が決勝リーグまで勝ち上がったから、テンションが上がってんのかァ?

 

「はいよ!マルゲリータピザイッチョー!!」

 

 お、来た来た。普段日本で食うのは生地が厚くてボリュームのあるアメリカンだが、本場の職人が作るってならやっぱ薄手のクリスピーだな。

 素材と生地の味がダイレクトに出るから、職人の技量がよく出る。

 

 …うん、美味ェ。

 

「いい食べっぷりだね〜!豪快に平らげてくれると料理人の冥利に尽きるってモンだヨ〜!」

 

雷牙「まっ…やけ食いってヤツっすよ、や・け・食・い。それ以上でもそれ以下でもないっす」

 

 俺の脳裏に浮かぶのは、昨日の久遠監督との会話……。

 

……………

…………

………

……

雷牙『俺をスタメンから外す?…もしかして俺がこの間の守みてェに自分を見失ってるって言うんすか?』

 

 1人残された俺に告げられたのは、次のブラジル戦のスタメン脱落宣言。

 確かにここ最近、決勝戦までに“兆”を極める為に少し焦ってる感はあったが、流石に韓国戦前の守程酷くはなかった…と思ってる。

 

 だけど、監督からの返答は俺の予想の斜め上を行くモノだった。

 

久遠『…答えはシンプルだ。お前はまだ完全にはイタリア戦でのダメージが治っていない…そうだろう?』

 

雷牙『グッ…!』

 

 「グッ…!」とは言ってみたが、別に俺自身は身体に不調があるとは思ってもいなかった。…ただちょ〜と身体が上手く動かないな〜って最近感じ始めたくれェだし。

 

久遠『少し見ていれば分かる。退院して以降のお前は明らかにパフォーマンスが僅かに落ちている。まだ致命的な低下ではないが、明確に不調の兆しが見られる以上、私はお前をスタメンに入れる事は出来ん』

 

 …分かってる。別に監督は俺の能力を認めてねェワケじゃない、俺の身体を気遣った上でのスタメン脱落だって事は。

 

久遠『お前をスタメンから外す…それは既に決定事項だ。どんなに説得されようが覆すつもりは無い。…だが、お前がブラジル戦に出られないとは言っていない』

 

 そう言うと監督は俺に四つ折りに畳まれた一枚の紙を差し出す。何事かと思い紙を開くと、そこに書かれていたのはトレーニングメニューだった。

 

雷牙『コレは…?』

 

久遠『私が考えてトレーニングメニューだ。お前には明日からの数日間、この紙に書かれた練習を単独で行ってもらう』

 

 ん〜…。パッと見ただけだからまだ細かい事は言えねェが、監督が考えたにしてはヤケにソフトな特訓だな…。練習時間よりも休憩時間の方が長いくらいだぜ?

 

久遠『これはお前の完全回復を目的とした特訓だ。指示を無視して無茶な特訓をしない限り、試合前日にはお前の不調も治るだろう。…指示を無視しなければな』

 

 …コレは謂わば現状維持を目的とした成長性の無いトレーニングだ。普段の俺ならこんなクソ特訓はゴメン被る…ってとこだが、今は贅沢言っちゃいられねェ。ココは大人しく従うとすっか…。

 

久遠『試合前日の最終調整だけ合同練習に参加する事を許可する。その様子を見て、途中からお前を出場させるかを判断する』

 

 …コレさァ…。何がめんどくさいかって、合格のボーダーラインがマジで曖昧な事なんだよな〜…。

 ぶっちゃけ、ただ不調を治すだけなら自室のベットの上で大人しくしていりゃあいいじゃん?けど、そんな事をしようもんなら100%合格は貰えねェんだよな〜…。

 言ってしまえば?指示された以上に頑張っても不合格!回復を焦って指示以下の事をしても不合格!求められるのは頑張り過ぎずダラけ過ぎずの中庸を達成した時だけ!…な〜んてクソゲーなんでしょう!!!

 

……

………

…………

……………

 

 …んで、今は長い長い休憩時間だからこうしてイタリア地区にまで赴いてピザを貪り食ってるってワケ。

 え?監督の意図に一定の理解を示してはいただろって?…いや理解はしてるんだけどさァ…。やっぱ、スタメンから外されたショックは別なのよ。

 

雷牙「ごっそーさん。美味かったわ、今度は仲間を連れてまた来るよ」

 

「まいど〜!今後もおひきいきに〜!」

 

 …ヤケに日本語に慣れてる店主だったな…。ピザも美味かったし、注文もスムーズだし気に入った。

 

雷牙「フワ〜…。次の練習までまだ時間あるし何しよっかな〜?…いっその事オルフェウスの冷やかしでも行くか?いや〜…でも流石に今は決勝リーグ真っ只中だし、ピリついてるだろうしな〜…」

 

 そういや、オルフェウスの対戦チームってどこだったっけ?確かザ・キングダムと同じ南米系の国だった気が…。

 

雷牙「フムフム…。オルフェウスの相手はコトアール代表の“リトルギガント”…。直訳で“小さな巨人”…か」

 

 ネットで調べた即席情報によれば、コトアールは南米にある小さな国…。発展途上国であるが故に文化水準は低いが、南米の国では珍しくそこまで頻繁の格差が大きくないのが特徴…。

 

雷牙「はへー、地味にザ・キングダムと引き分けてんのか…。守曰く、ロニージョのシュートはノーマルでも強烈だったらしいが、そんなヤツでも点を奪えなかったってよっぽどじゃね?」

 

 ちょいと気になって調べてみると、リトルギガントの勝ち点は俺らと同じ9点。ザ・キングダムと引き分けた以外は、全部1-0の僅差で勝ってる。

 

雷牙「うっわ…何コレ?ネットでボロクソに叩かれてんじゃん…」

 

 歴とした決勝進出チームだが、ネット上での評価は賛否両論の一言。なんなら否が多いくれェだ。

 アンチの大半は『サッカーに派手さがない』に収束してるがな。

 

 …けど、コイツら普通にヤバくねェか?だって、コレまで一度も必殺技を使わずに代表チームから1点を奪って、無失点記録を更新してるんだろ?

 守やライトでさえ、どっかの試合で記録を破られてたってのにコイツらは未だに保持し続けてる…。試合の地味さで隠れていたが、やっぱり異常だ。

 

雷牙「…もしかしたらとんでもねェダークホースなのかもな…」

 

 う〜ん…昔の雷門(俺ら)を見てるみてェで親近感っつーモンが湧くぜ。なんか染岡とか壁山に似てるヤツも居るし。

 

雷牙「…ん?アレは…?」

 

 リトルギガントの情報収集も終えて、地中海の雰囲気を味わっていた俺だったが、ふと何かを感じてそこへ目をやると見慣れに見慣れたすぎたヤローの姿が映る。

 

???「ココにも居ない…。本当にどこに行ったんだろ…」

 

 染髪剤で染めている俺とは違う、正真正銘の天然物の金髪…。

 

 よく銭湯に行けば、店員から男湯行きを止められるくれェには性別詐欺の顔立ち…。

 

 そしてイタリア代表しか着る事を許されねェ代表ジャージ…。

 

 アイツは間違いなく……。

 

ライト「あ…。雷牙…」

 

雷牙「おい〜すライト〜。お久〜、この間の試合以来かァ?」

 

 俺の魂の兄弟・稲魂ライトだ。

 

♢♢♢

雷牙「鬼乃子が居なくなったァ〜〜!?」

 

ライト「シーっ!!!声が大きいって!!まだ公式に公表してないんだからバレちゃマズイの!!!」

 

 雷牙の驚愕の声が模倣されたイタリア市内に鳴り響く。幸いな事に周囲に居るのは日本語にそこまで馴染みのない外国人ばかり、ライトが危惧した機密情報の漏洩は何とか阻止される。

 

雷牙「いや…そりゃあ、ぶったまげんだろ…!だって鬼乃子がだぜ…!?アソコまで強ェヤツがどうして急に…!?」

 

ライト「…コレを見て」

 

 ライトは口頭での説明は簡単ではないと悟り、カバンに丁寧に保管されてあった、彼女が最後に残した手紙を弟に見せる。そこに書かれていたのは……

 

『探さないでください。フリじゃないよ?ホントだよ?……マジでホントだからね?』

 

 その一文だけが、やけに達筆な文字で書かれていた。主語がなく宛名も不明なその手紙は、ご丁寧に本人の口調を再現された文面から辛うじて鬼乃子本人が書いた可能性が高い事だけは分かる。

 

ライト「イナズマジャパンとの試合が終わった後…。控え室に戻ったら、この手紙だけが残されて…鬼乃子ちゃんは行方を眩ましちゃったんだ…。ボクたちが帰った時には既に宿舎の荷物を引き払われてた…」

 

雷牙「ライト…」

 

 ライトは涙ぐみながら拳を強く握る。雷牙には、何故彼がそこまで強い責任を感じているかは分からない。

 それでも、初めは敵同士だった2人の間には確かに“絆”と呼べる物が芽生えていた事だけは分かる。

 

雷牙「…よし分かった!!俺も鬼乃子を探すのを手伝ってやる!!」

 

ライト「え…!?け、けど雷牙はもうすぐブラジル戦でしょ!?コレはイタリアの問題なんだし雷牙に迷惑をかけるのは…」

 

雷牙「遠慮すんなって!他ならぬオマエさんが困ってんだ!そ・れ・に!今の俺は調整中だからそこまでハードな練習は禁止されてるしな〜。今日だって、残りの練習はちょっと走り込みをするだけだったし、島中を歩き回れば同じくらいの練習量になんだろ」

 

ライト「そ、そう…?なら…手伝ってもらおうかな…」

 

 調整中とは思えない程ピンピンしている弟を見て、気を使わせてしまったと思う込んだライトは肩を落としてしょんぼりするが、雷牙は彼を励ますように背中をドンと強く叩く。

 

 こうして、稲魂兄弟による明星鬼乃子捜索隊が結成されたのだ…!

 

<数時間後>

 

雷牙「ダ〜メだ…。全っ然見つかる気配が見えねェ…」

 

ライト「もう…ライオコット島に居ないのかな…?」

 

 この数時間の間に2人は船での移動が必須なスタジアムを除いた全てのエリアに足を運んだ。

 だが、どれだけ聞き込みを行っても成果は0。そもそも超が付く程の有名人である鬼乃子の目撃証言が一切ネット上に転がっていない辺り、もうこの島には居ないのではないかという思考さえ過ってしまう。

 

ライト「…まだだよ…!まだ探していない所はあるんだ…!もう少し頑張ろう…!」

 

 それでもライトは諦めない。彼女がこの島に居るという確証が無くともその足を止める事はなかった。

 

雷牙「……プッ!アーハッハッハッハッ!!!」

 

 その瞬間、何故か雷牙は吹き出し笑い始める。その笑いは、無我夢中に少女を探し続ける兄への嘲笑ではない。何か懐かしい物を見た時の愉快な笑いだ。

 

ライト「ど、どうしたの雷牙…!?急に笑い出して…!?」

 

雷牙「ひ〜っ!!あ〜お腹痛ぇ…!!…いや何、ちょっと昔を思い出してよォ…」

 

ライト「昔…?・・・あ!!」

 

 刹那、ライトの脳裏に浮かぶのはまだ両親が生きていた頃に家族で行ったピクニックでの出来事……。 

 

雷牙「懐かしいよな〜。あの時、お袋からアレだけ遠くに行くなって言われてたのに、初めてのピクニックで興奮したライトは聞かなくてよ〜。案の定に迷子になっちまったよな〜」

 

ライト「アハハ…。めんぼくないです…」

 

 あの日、ライトは視界一面に広がる緑の草原に興奮し、いつも共に居る雷牙すらも置いてけぼりにする程、走り回った。

 走って、走って、走り回って。無尽蔵にも思える幼児の体力もようやく底を突いたその時に…初めて自分がひとりぼっちになっている事に気づいた。

 

 周囲は幼子には判別の付かない森林の牢獄…。心細くなったライトは大声で泣き喚くが父も、母も、弟も、誰も助けに来てくれない。

 

ライト「あの時は…本当に怖かったな…」

 

 遂には日も暮れ、泣き疲れたライトは偶然発見した大木に開いた大きな穴の中で休息を取ったが、初めて遭遇する1人での夜とこの世のものとは思えない正体不明の騒音を前に、ただただ怯え眠りにつく事すらままならなかった。

 

ガサガサッ!!!

 

 どれくらい時間が経ったか分からない。それでもまだ夜は明けていない。

 そんな時間帯に突如鳴り響く茂みから何かが這い出て来る雑音…。まだ幼く物事を深くは知らないライトでも、ただでさえ極限まで高まった恐怖心を増幅させるには十分過ぎた。

 

ライト『クマさん…?オオカミさん…?それともライオンさん…?だれかはわからないけど…ボクはおいしくないよぉ…!』

 

 猛獣の出現を予感するライトだが、彼が迷子になった一体に土地にはそのどちらの動物も生息していない。だが、そんな事を知る由もないライトはただ震えて怯える事しか出来なかった。

 

バンッ!!!

 

 “何か”が強く穴の蓋を掴み大木内が軽く揺れる。

 

ライト『アワワ…!』

 

 自身を喰らおうとしている“何か”はもうすぐそこまで来ている。それでもライトには抵抗する勇気すらもない。 

 

 “死”を覚悟したライト…。そして月光に照らされた見せた“何か”の正体は……。

 

雷牙『やっと見つけたぜライト!!!』

 

ライト『らい…が……?』

 

 いつもならばこの時間帯には涎で枕を濡らしながら寝ている筈の弟であった。

 

雷牙『パピー!!!マミー!!!ライトを見つけたぜーー!!!』

 

 ホテルに帰っていろと言う両親の命令すらも無視し、眠い目を擦りながら遂に行方不明の兄を発見した雷牙は、獣の唸り声すら掻き消す大声で近くで捜索隊と共に息子を探していた両親に告げる。

 

ライト「今でも覚えてるよ…。あの後、ママからスッゴい怒られたよね…」

 

雷牙「ケッ、それは泣き虫弱虫の癖に変な所で調子にノるオメーが悪いっての。バカに塗る薬にはアレくらいでやっと及第点だろ」

 

 あの時の母は確かに怖かった。だが、そこにはちゃんと息子の無事を喜ぶ“愛”があった。

 

ライト「…で?どうして急にあの時のことを話したの?」

 

雷牙「…いんや。ただ似てただけさ、必死に鬼乃子を探すオメーがあの時の俺によ…」

 

 その言葉通り、この数時間の捜索の中で雷牙はずっとライトに、あの時の自分の面影を感じ取っていた。

 あの時の自分が兄を心配していたように、今の兄もまた鬼乃子を心の底から心配しているのだ。……()()()()()()()()()()

 

ライト「えっと…!それは…!」

 

 ライトは言葉に詰まってしまう。雷牙は勘が鋭い。下手に誤魔化してしまえば、僅かな違和感からなんやかんやあり自身と鬼乃子に関係を問い詰められてしまうかもしれない。

 

 弟を愛する兄として、弟の心の平穏を守る為に絶対に両者の間に血の繋がりがある事を悟られてはいけない。

 

ライト(けどどうやって誤魔化す…!?)

 

 思わぬ所で人生でも5本指に入る危機を自分から勝手に作り出してしまったライトは、尋常じゃない冷や汗を流しながら必死に打開の一手を考える。

 

 すると……

 

ブー!!ブー!!

 

雷牙「あん…?着信…?相手は…守?急にどうしたんだ…?」

 

 タイミングを見計らったかのように雷牙のスマホで連絡が入り、意識がそっちに集中する。

 これによりライトは僅かに考える時間が齎されるが、この連絡は思わぬ事態を引き起こす事となる。

 

雷牙「んだと…!?響木監督が病院に運ばれたって…!?」

 

ライト「え…?」

 

 イナズマジャパンの一員ではないライトでも、響木が特別顧問として同行している事は知っている。

 そんな彼が倒れたという事は、イナズマジャパン内に少なくない衝撃が走っている事は容易に察せる。

 

雷牙「…悪ィライト…。ちょっち病院に行かなくちゃなんねェ…鬼乃子の捜索はまた今度な!!」

 

ライト「う、うん!!気にしないで!!響木さんは雷牙の大切な監督だからね!無事を祈ってるよ!!」

 

 内心では話題を逸らす事が出来た響木の不幸に安堵している自分に罪悪感を感じるライトだが、弟に変な心配をさせない為に笑顔を取り繕って雷牙の後ろ姿を見送る。

 

雷牙「クソッタレが…!まさかガルシルドの部下にやられたってのか…!?理由は分かんねェけど死ぬなよ…!監督…!」

 

 “イナズマイレブン”の栄光を築き上げた偉大なる先人であり、自分達を日本一に導いた影の功労者である恩師の無事を祈りながら、雷牙は総合病院に向かって走る。

 

<数十分後>

 

雷牙「悪ィ!!遅れた!!」

 

 特にガルシルド一派の妨害もなく無事に病院に到着し、指定された待ち合わせ場所に辿り着いた雷牙だが、仲間達の表情は暗い。

 その理由は薄暗い廊下を淡く照らす、橙色のランプが示している。

 

雷牙「それで…響木監督に何があったんだよ…!?」

 

秋「それが…。鬼瓦刑事との待ち合わせ場所に向かう途中に、ガルシルドの部下に襲われたらしいの…」

 

雷牙「やっぱりか…!」

 

 ここに来るまで幾度となく脳裏を過った仮説が正しかったと判明した雷牙は、老人にすら手を掛けるガルシルドの非道さに怒りを露わにする。

 

秋「けど違うの…!ガルシルドの部下は何とか撒く事に成功したらしいんだけど…。急に心臓が苦しくなったらしくて…」

 

雷牙「心臓が…?」

 

 確信したと思っていた元凶がこの騒動とは無関係だった事に唖然とする一方で、突然現れた“心臓”の不調に今度は困惑する。

 少なくとも自分は響木が心臓が悪いとは今まで聞いた事はなかったし、そんな素ぶりも一切見た事がなかった。

 

秋「響木監督…。少し前から心臓に病気があったそうなの…。お医者さんからは何度も手術を勧められていたそうだけど…FFIが終わってからって、断ってたらしいの…」

 

雷牙「それが今日限界を迎えたってワケかよ…!」

 

 真相を知った雷牙は、再度形容し難い怒りに襲われる。タチが悪いのは響木が倒れた原因はガルシルドは関係なく、強いて言うなら響木自身の我儘(エゴ)にあるという点だ。

 誰にぶつければいいか分からない怒りは、雷牙の身体中を悶々と巡り情緒をメチャクチャに乱す。

 

飛鷹「くそ…!響木さん…!!!」

 

 それは他の仲間達も同じ思いだ。特に響木を深く慕っていた飛鷹は、恩師に降り掛かった不幸を悔やみ、酷く取り乱している。

 

久遠「…前を向けお前達」

 

円堂「監督…!ですけど…!」

 

久遠「今、お前達がやらなければならない事はなんだ?響木さんが倒れた事を悲しむ事か?断言する、それは違う。この悲しみを振り切り、ブラジルとの試合に集中する事…違うか?」

 

『ッ…!!』

 

 仮に響木が意識を取り戻し、悲しみに暮れる教え子達を見れば彼はどんな表情をするだろう?

 少なくとも満面の笑みで大笑いする事など天地がひっくり返ってもあり得ない筈だ。

 彼とて我儘を押し通した時点で、いつかこうなる事は覚悟していただろう。だからこそ、久遠に代表の監督の座を託したのだ。

 

久遠「既に件の証拠品は鬼瓦刑事に渡してある!!これでザ・キングダムの選手達はガルシルドの呪縛から逃れ、思う存分プレー出来る筈だ!!響木さんの想いを無駄にしない為にも…お前達は前を向き続けるしかないんだ!!」

 

『はい!!!』

 

 数々の受難こそあったが、響木の選択は決して間違いではなかった事がここに来て証明される。

 久遠の発破により、悲しみを振り切ったイナズマ魂を継ぐ者達は、世界一を決める大舞台に立つべく試合へのモチベーションを更に高める。

 

 そして……

 

マクスター『お待たせしました皆さまーーッ!!!世界一のサッカーチームを決めるFFI…!その準決勝第一試合がまもなく始まろうとしていますッ!!!』

 

 複雑な樹林に囲まれた迷宮の先にある、海亀の名を冠した戦場(スタジアム)にて…。

 世界一の切符を賭けた決戦の火蓋が…今ここに切られる。




正直ガルシルドの野望って、あんまりにも火の玉どストレートすぎて初見の時は子供心ながらに鼻で笑った記憶。
だってそうじゃん。影山はゲームはまだしもアニメじゃ日本サッカー界の掌握と復讐で完結してたし、星次郎も理由を知ればちゃんとサッカーに拘る意味はあったけど、ガルシルドはいや…なんでそうなる?って感想しか出ないし。
良くも悪くもこれまでの黒幕とは一線を画す悪役なんすよねガルシルドって。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。