フィディオ「まさか…!左腕の骨が…折れたっていうのか…!?」
奮闘虚しく点を許してしまったオルフェウス…。だが現在、キックオフが始まる事なく試合が中断していた。
その理由は、仲間達に取り囲まれているライト…厳密には彼の左腕にある。
ライト「ち、違うよ…! 心配かけちゃってゴメン…!けど、本当に大丈夫だから…! ただ…リトルギガントのシュートが強力で左手が痺れちゃっただけだよ…!」
チームメイトに心配を掛けない為、そして必ずこの試合に勝つ為に、今も続く激痛に耐えながらライトは必死に誤魔化そうとする。
しかし、言葉と態度の節々からは左腕に走る激痛を隠し通せない。
コツンッ!
ライト「痛゛っ゛た゛ぁ゛〜〜〜゛い゛!!??」
無茶をしようとするライトを見かねたヒデナカタが、彼の左腕を軽く突くと、ライトは尋常ではない勢いで苦しみ悶える。
ヒデ「もう痩せ我慢はよせライト。君の左腕は既に折れている…それは火を見るよりも明らかだ」
ライト「ッ…!!」
ヒデナカタの指摘に何も言い返せなくなったライトは黙り込む。だが、今この瞬間においては
フィディオ「どのタイミングだ?最初の“ラストリゾート”か?それとも…」
ライト「……前半ラストのロココのシュートだよ…」
ロココが放った“Xブラスト”…。あの瞬間、不意を突かれたライトは必殺技を使わずにノーマルキャッチで受け止めようとしたが、今にして思えばあの選択は愚策であった。
如何に容姿からは想像も付かない頑強な肉体を持っているライトでも、世界トップクラスのシュートを素手で受け止められる程硬くはない。その結果が
フィディオ「どうして黙っていたんだ!!そんな大怪我を放っておいたら、下手すれば二度とサッカーが出来なくなるかもしれないんだぞッ!!」
ライト「でも…!ボクがゴールを護らないと…リトルギガントには勝てないじゃないかっ!!!」
アンジェロ「…確かに、彼ら相手にブラージはキツいね…」
ブラージには悪いが、彼の実力では本気を出したリトルギガントのシュートに、必殺技を使うどころか反応する事さえ難しいだろう。
得点こそ許しているが、裏を返せば世界でも5本指に入る上澄み中の上澄みであるライトだからこそ、3点まで失点を抑えられている言っても過言ではないのだ。
フィディオとてライトの言い分は分かっている。それでも、大切な仲間であり友人だからこそ、これ以上ライトの無茶を聞く訳にはいかない。
ヒデ「喧嘩はそこまでだ2人とも。どちらの言い分が正しいかを今ココで決める事は出来ない。けど、ライトが試合に
ヒデナカタの言葉にチームメイトは衝撃を受ける。それもそうだ、彼は肯定しているのだ、ライトの大怪我を負っていても試合に出場し続けたいという我儘を。
フィディオ「正気ですかキャプテン!?ライトは骨折をしているんですよ!? このままリトルギガントのシュートを受け続けたら、更に酷くなって最悪サッカーが出来なくなる程の後遺症が残るかもしれないんです!!いくら尊敬する貴方でも、俺は賛成出来ませんッ!!!」
ヒデ「そう。それがフィディオの…ひいては俺を除いたチーム全員の総意だ。…だが、ライト。君の意見は違うだろ?」
ライト「……はい。ボクは最後まで戦いたいんです…!初めてなんです…!!雷牙以外で心の底から勝ちたいって思えるような選手に会ったのは…!!」
自分の言っている事が仲間の心配を無碍にする
その瞳に映る未来すらも捨てる覚悟の光…そこに彼のこの試合に賭ける全ての“想い”が込められていた。
ライト「左腕が使えないのなら右腕で戦い抜きます…!右腕が使えなくなったら両脚で戦い抜きます…!コレがボクの我儘なのは十分に理解してます…!それでも諦めたくはないんですっ…!!」
ヒデ「…例えこの試合に勝ったとしても、君は絶対に決勝には上がれない。それでもいいのか?」
ライト「はい…!!ボクの“魂”を決勝戦に連れて行ってもらえれば…悔いはありません…!!」
あれだけ拘っていた、弟との決着のチャンスを不意にしてでもゴールに立ち続けようとするライト…。
その覚悟を前にしてしまえば、強く反対していた仲間達は何も言えなくなってしまう。
ヒデ「…分かった、試合の続行を認めよう。だが、『残りの時間は左腕を使わない事』『途中で俺が無理だと判断したら大人しく交代する事』…この2つの約束を守る。それが絶対条件だ」
ライト「はいっ!!!絶対に守りますっ!!!」
フィディオ「ライト…」
言い返せなくなっても、内心では未だに友を心配するフィディオは、不安そうに彼を見つめる。
ライト「本当にごめんねフィディオ…。キミがボクを心配してくれていることは嬉しいよ…。けど、コレだけ絶対に譲れない。この試合が終わったらいくらでも罵倒してくれて構わない、縁を切ったっていい。ただ…今、この瞬間だけはボクの我儘を聞いてくれないかな…?」
フィディオ「…誰が絶交なんてするもんか…!君がそこまで覚悟を決めているのなら、俺はもう何も言わない。絶対にこの試合に勝って…イナズマジャパンと戦うぞ…!」
友の覚悟を受け取ったフィディオは、それ以上彼の覚悟を否定する事なく後ろを振り向き、力強い歩みで元のポジションへ戻る。
その後ろ姿は…強い決意で満ちていた。
ピーッ!!!
長い中断期間も終わり、オルフェウスのキックオフから試合が再開する。リードを広げられた以上、狙いはただ一つ…ヒデナカタとの連携技だ。
ゴーシュ「させるかよォ!!!必殺技タクティクスッ!!“サークルプレードライブゥ”!!!」
オルフェウスの狙いを既に察していた巨人達は、これまでのお返しと言わんばかりにフィディオの周囲を8人の選手が円状に取り囲む。
オルフェウスの
フィディオを取り囲んだ選手達は緑色のオーラを纏うと、一定の間隔を保ちながらトップスピードで走り始める。やがて選手の姿は見えなくなり、同色の竜巻と化す。
フィディオ「なんだこのタクティクスは…?韓国の“パーフェクトゾーンプレス”に似ているが…?」
ヒデナカタの前に立ちはだかった嵐とは比較にもならない乱気流の監獄に囚われてしまったフィディオは、巨人達の攻撃に備えて身構えるがいくら待てども一向にボールを奪われる気配がない。
その代わりに、監獄は徐々に移動を初めフィディオは嫌でもラインを下げざるを得なくなってしまう。
ヒデ「まずいな…!このままいけば、一気に8人の選手がペナルティエリアに到達してしまう…!そうなれば弱体化したライトじゃ止められないぞ…!」
リトルギガントの必殺技タクティクス“サークルプレードライブ”。
乱気流の監獄に囚われた選手は、周囲の状況を把握する事もままならず、ただ導かれるままにボールをペナルティエリアまで運ぶ囚人となる。
ヒデ「フィディオッ!君の化身で内部からタクティクスを破れるか!?」
フィディオ「出来るかは分かりませんが…!やれるだけやってみます…!」
外部から要請を受け、監獄の中心に深緑の“軍神”が顕現する。“軍神”は左腕に携えた神槍を全力で監獄の壁に突き刺し脱出を試みるが、数滴の火花が散った末に“軍神”ごと吹き飛ばされる。
フィディオ「ガァッ!?だ、ダメですキャプテンッ!俺の化身のパワーじゃ内側から破れませんッ…!」
ヒデ「そうか!…なら!」
フィディオの“軍神”は雷牙や円堂のようなパワーに秀でたタイプではないとはいえ、化身が齎す強化を以てしても内側から破れない以上、外側から絶対に無理だ。
この一瞬でそう判断したヒデナカタは、仲間に指示を出すとディフェンスラインを大きく下げる。
マキシ「そこだよっ!!」
フィディオ「グゥ…!」
ペナルティエリアを知らせる白線を目にした巨人は、用済みと言わんばかりに囚人からボールを奪うと、乱気流の監獄を解除しシュートの体制へ移ろうとする。
だが……周囲の状況を把握した彼らは驚愕の表情を見せる。
ヒデ「この世に“無敵”のタクティクスは存在しない…!あるとしたら、それはエリアに到達するまでなのさ!!」
彼らの目に映ったのは、ゴール前に到達した8人の巨人を取り囲み“閂”を形作ったオルフェウスの選手達。
フィディオ「ミスター…K…!」
どんなに“無敵”と評されるタクティクスにも必ずどこかで終わりはくる。そうなればもはや“無敵”は無敵ではなくなってしまう。
奇しくもその光景は、今は亡きミスターKが魅せた戦術と瓜二つだった。
ヒデ「お返しだッ!!必殺タクティクス“カテナチオ・カウンターッ”!!!」
巨人達の周囲に設置された“閂”に鍵が掛けられ、逃げ場を無くす。
ゴーシュ「狼狽えるなオマエらッ!!このタクティクスが多人数に弱い事はイナズマジャパンが証明してらァ!!俺らの連携なら必ず破れる筈だッ!![
ヒデ「フッ、それはどうかな?」
ヒデナカタの指揮の元、オルフェウスの起死回生を賭けたディフェンスが始まる。
内部に閉じ込められたリトルギガントも、イナズマジャパン同様連携を意識して突破を試みるものの、前半戦とは比較にならない強固な守りを前に完全に攻めあぐねている。
ドラゴ「チィッ!!!なんだこのタクティクスは!?さっきとは完成度が比較になんねェ!!まるでループしてるみてェにオルフェウスのディフェンスが終わらねェ!?」
ミスターKから受け継いだ“完璧”である“カテナチオ・カウンター”は、“最強”たるヒデナカタが加わった事で、数十年の時を超え新たな境地へ達していた。
“完璧”と“最強”が合わさった存在を形容する言葉はこの世に無いが、ただ一つ確かなのは、巨人達の連携を以てしても突破するのはそう簡単な事ではない…ただそれだけだ。
夏未「随分とオルフェウスは粘りますわね。監督」
日本の仲間達に存在がバレないように顔をスカーフとサングラスで隠した状態で座っている夏未は、雷門を思い起こさずにはいられないオルフェウスの粘りに舌を巻いている。
大介「それだけ稲魂雷斗によろしくない事が起こった証拠じゃ。今のオルフェウスはある種の“背水の陣”に近い状況になっておるのかもな…」
詳細は分からなくとも、選手達の危機迫る表情から既にライトが怪我した事を確信している大介は、白髪の髭に手をやり深く考え込む。
大介(稲魂ステラの息子であるお前さんはアヤツの孫であるのも同然…。かつてのライバルとして…若者を導く指導者として…。本来ならば、儂は稲魂雷斗を止めるべきなのじゃろう…)
大介の脳裏に浮かぶのは、時には好敵手として勝敗を競い合い、時には仲間として世界の強豪と共に戦った
その関係を親友…と評するには、些か穏やかな間柄ではなかったが、両者の間には確かな“信頼”があった。
もう最後に会話を交わしてから何十年も経っているというのに、今になって古い友人を思い出してしまったのは、間違いなくイタリアのゴールを護る稲魂雷斗の存在だった。
大介(…見ておるか
彼がこの試合を観ているか、そもそも彼はまだ生きているかも分からない。それでも大介はかつてのライバル…獅天王寺雷晴に向かって“想い”を届ける。
ヒデ「“クイック…!ドロォォォ”!!!」
ゴーシュ「ガァッ!?し、しまったァ!!?」
エリア内での攻防を制したのは、“背水の陣”を構えたオルフェウスだった。
リトルギガントに残されたディフェンスは、キーパーを除けば2人のみ。だが、数少ない防御力もヒデナカタの前には意味を為さない。
マクスター『抜いたーーッ!!!またしてもオルフェウスが誇る三大ストライカーとロココが対峙するーーッ!!!ココまでヒデナカタに2失点を許してロココは、今度止められるのかーーッ!?』
ロココ「止める止めない問題じゃない!!僕がキーパーである以上、相手のシュートは絶対に止めなきゃいけないんだっ!!!」
ヒデ「その心意気や良しッ!!だが、俺達も負けられない理由があるんでねッ!!手加減は無しだッ!!!」
互いに並走するヒデナカタ・フィディオ・ラファエレの3人は、ヒデナカタを起点にボールが上空に上げられると、目にも止まらぬスピードで各々が蹴りを叩き込みボールに蒼のオーラを纏わせる。
最大まで気が貯められると、3人のストライカーは蒼色に輝く光の矢となり、渾身のシュートを叩き込んだ。
「「「“ソード・オブ・ダルタニアンッ”!!!」」」
放たれたシュートは同色の巨大な魔法陣を展開し、紅蓮の炎に燃える軍神の大剣と化しロココが護るゴールへ向かう。
ロココ「僕は負けないッ!!!この試合に勝って…!決勝に行くのは僕たちだァァァァ!!!」
仲間と師の夢を胸に抱いたロココは、もはや恒例となった紅の稲妻を轟かせ『X』の軌跡を描く。
ロココ「“爆ゴッドハンドXゥゥゥ”!!!」
使い手の覚悟に呼応するように、更なる進化を果たした“神の御手”。
“神の御手”は真正面から軍神の大剣を受け止めると、瞬く間にボールに纏わされていたオーラを掻き消し、ロココに右手にボールが収まる。
マクスター『止めたーーッ!!!ロココ・ウルパッ!この土壇場で十八番を進化させ、見事リベンジ達成ーーッ!!!』
ヒデ「ハハハッ!本当に凄いな君は!!こんなに容易く限界の壁を超えるなんてね!一体その身体にどれだけの潜在能力を秘めているんだい?」
ロココ「さーてね!僕の限界は自分でも知らないよ!!例え壁が立ち塞がったとしても、仲間たちと一緒に乗り越えてやるさっ!!」
ロココは右手に収まったボールを大きく投擲し、前線にて待つ仲間達に託す。
ダンテ「“バーバリアンの盾V2”!!」
ゴーシュ「“ヒートタックルッ”!!!」
アンジェロ「“エンジェルレイ”!」
マキシ「“エアライド”!!」
自分達が出せる最高の必殺技を発動し、何としてでも巨人達をライトの元へ辿り着かせないように死力を尽くすが、オルフェウスがこれまで何とかリトルギガントと渡り合えていたのは、隔絶した実力を持つヒデナカタが居たからこそ。
頼みの綱が未だに戻りきれていない以上、オルフェウスの奮闘虚しくゴールまでの道が開かれてしまう。
ドラゴ「テメェが怪我してようが関係無ェ!!コレで決めるぜェ!!“ダブル・ジョー”!!!」
紅の弾丸が龍の牙を思わせる軌跡を宙に描きながら一切の手加減なく、既に満身創痍であるライトを喰らわんと襲い掛かる。
フィディオ「ライトーーッ!!!」
ドラゴ「チェインしなくても俺のシュートはライオン程度なら簡単に食い尽くすぜェ?ましてやテメェは利き腕を使えねェ!!!追加点は貰ったァァァ!!!」
ヒデナカタ最強の一撃が止められている以上、ここで失点を許せば勝利への道は更に遠ざかってしまう。
だが、今のライトは利き腕が使用不可能であり、左腕から走る激痛によりまともに動く事だって出来ない。
それでも、彼には“逃げる”という選択肢は最初から存在しない。どんなに激痛が走り、泣き叫びたい衝動に駆られようが、自分にはエンドを護る者としての“責任”があるのだ。
ライト「止められないのなら…!いっそのこと
そう叫んだライトは、右手に気を一点集中させると渾身の力を以て地面を殴り付ける。
ズガァァァァン!!!
雷鳴を思わせる轟音がスタジアム全域に鳴り響く。すると……
マクスター『な、なんだコレはーーッ!!??し…沈んだ!?ゴールの周囲が…!
ライトが放った鉄拳は、ゴールを含めたペナルティエリア全域をまるで数m規模の隕石が落ちたかのように地面を沈降させた。
ライト「“スターダストォ!!クレータァァァ”!!!」
地面が沈降した事により、想定していた着地点を大きくずらされてしまったシュートは、目標物の消失すら認識出来ずにラインを割って、観客席付近の壁に深く突き刺さった。
マクスター『止めたーーッ!!!ライト・イナタマァ!!エンドウと同じ発想により、ゴールの位置を物理的に移動させる事で無理矢理失点を防いだぞーーッ!!!』
大介「全く…なんちゅー脳筋的思考じゃ…!…ヌフフ!!最終的に物理で何でも解決しようとするところとか、
極限まで追い詰められたライトの火事場の馬鹿力とも呼べる必殺技により沈降した地面は、気付いた時には謎の力によって元の姿へ戻っていた。
あまりに深くめり込んだボールは簡単に摘出する事が出来ず、すぐに新たなボールが用意されオルフェウスのゴールキックで試合が再開する。
ライト「キャプテーーン!!!あとは頼みますっ!!!」
ヒデ「任せろォ!!!」
ライトの“想い”を受け取ったヒデナカタ、そしてオルフェウス全員での攻撃が始まるが、ヒデナカタの動きに慣れたリトルギガントは更に強固な守りとなり簡単にはゴールに辿り着かせない。
ボールを奪ってはまた奪い返し、奪われれば即座に奪い返す…どちらも一進一退の攻防を繰り返す。
マクスター『完全に互角だーーッ!!!永遠に終わらないイタチごっこが繰り返されるーーッ!!コレは“世界最強”と互角に戦うリトルギガントを褒めるべきなのかーーッ!?それとも、遥か格上であるリトルギガントに食らいつくオルフェウスを褒めるべきなのかーーッ!?私には分からないッ!!!』
完全に拮抗状態に陥った戦況…。だが、変わり映えのしない展開に文句を口にする観客はこの場に誰1人として居ない。
彼らは魅せられていた。
“最強”の指揮の元、限界を超えた力を発揮に巨人に立ち向かうオルフェウスに。
彼らは惹かれていた。
常人を超えたフィジカルを遺憾なく発揮し、心の底からこの試合を楽しむリトルギガントに。
そして……
フィディオ「“超オーディンソードッ”!!!」
ロココ「“爆ゴッドハンドXッ”!!!」
ただ純粋に己の“夢”と“意地”をぶつけ合う彼らのサッカーに。
願わくばこの至福にずっと浸っていたいと思える程、素晴らしいサッカーを繰り広げる両チーム…。
だが、物事には必ず終わりが訪れるのが世の理だ。終わりの見えない激戦の末に先にチャンスを掴んだのは……
ゴーシュ「コレで終わりだァァァ!!!!」
その胸に“イナズマ魂”を秘めた巨人だった。
その一員である灼熱の巨人は長きに渡ったこの一戦に決着をつけんと、自身が出せる最高にして最大の必殺技を炸裂させる。
ゴーシュ「“真…!ラストリゾートォォォォ”!!!」
繰り出されたのは文字通りの“最後の切り札”。キャプテンに共鳴し進化を果たした土竜は、その身体を更に巨大化させ荒れ狂いながらライトへ襲い掛かる。
フィディオ「ライトッ!!!」
ヒデ「ライトッ!」
アンジェロ「ライト!!」
ラファエレ「ライトォ!!!」
「「「「ライトッ!!」」」」
既に全快の状態でも止められる威力ではない。そう判断した仲間達は、次々に『稲魂雷斗』の名を呼び、彼に逃げるように促す。
ライト「……」
しかし、ライトは逃げなかった。
ーー逃げなくていいのかい?内心では怖くてプルプル震えてる癖に。
かといって反撃する素振りすら見せなかった。
ーーなんだ。やっぱり諦めたのか。そりゃそうだよね、弱虫泣き虫のキミじゃあ“ヒーロー”になれっこないんだから。
彼は…
そして……彼はただ一言、そっと呟く。
ライト「
その瞬間、ライトの意識は深淵に沈んだ。
♦︎♦︎♦︎
???『やァ。やっとボクに会いに来てくれたんだね』
ライト「…うん。正直言って、願わくば一生会いたくなかったけど」
ライトが目を開けた先にあったのは、辺り一面に広がる“闇”の中だった。
そこには生物は愚か、一筋の光すら存在せず、唯一存在しているのは『稲魂雷斗』と暗闇の中から響く
???『いつからだい?ボクの存在を思い出したのは?』
ライト「ボクの左腕が折れた後…。骨折の痛みが、キミに忘れさせられた記憶を取り戻してくれたんだ」
抑揚の無い実に淡々した乾いた声で言葉を続けるライトは明らかに不機嫌だ。
その瞳に映る“憎しみ”に似た感情は強さは、最愛の弟を捨てた“雷帝”に対する物と遜色ない。
???『そう怖い顔で睨まないでよ。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?』
すると闇の中から白い線が現れ、闇を囲むように形状を変形させる。そこに誕生したのは虚空で構成された人型の“何か”。
実態を持たない虚空に物理的な境界線が引かれる事で形造られた、謂わばドーナツの穴だ。
ライト「…久しぶりだね。“
“かいぶつ”『ボクにとってはそんなことないさ。だってボクは、ずっとキミの近くに居るんだから』
“かいぶつ”と呼ばれた謎の存在は、輪郭線を消失させると即座にライトの背後へワープする。
奇しくも彼とライトの背丈は全く同じ…。声も瓜二つだが、彼の身振りだけは小心者のライトとは似ても似つかず、まるで雷牙のようだ。
“かいぶつ”『おっと、久々の再会がこんな場所じゃ味気ないね。もっといい舞台に移動しようか』
“かいぶつ”は指…に該当する輪郭線をパチンと鳴らすと、漆黒に染められていた景色に色が着く。
ライト「ココ……は…」
その景色を見たライトは言葉の歯切れが悪くなる。
周囲に広がるのは、地平線を埋め尽くさんばかりに燃え盛る炎。それに加えて数分前までは
ライトはこの光景を知っている。忘れる事など出来るものか。何故ならこの場所こそ……
“かいぶつ”『キミの運命の分岐点なんだから』
“かいぶつ”が再現した景色は、両親を喪い弟と離れ離れとなった忌まわしきトラウマ。ご丁寧に再現された死体の山から“かいぶつ”の悪意がヒシヒシと伝わってくる。
“かいぶつ”『キミはあの日…運が良いことに1人生き残った。大切なパパとママは犠牲にしてね』
ライト「……」
ストレートな悪意が込められた“かいぶつ”の言葉に対して、ライトは沈黙を貫く。しょうがないのだ。だってそれは覆しようのない事実なのだから。
“かいぶつ”『黙りかい?なら…次はココだね』
再度“かいぶつ”の指が鳴らされ、地獄絵図は消失しまたしても景色が変わる。
ライト「次は…吉良星次郎の屋敷…」
そこに現れたのは、記憶を失った自分が過ごした養父同然の存在…だった男の屋敷。
懐かしき我が家を目の当たりにしたライトは、無意識のうちに顔に触れてしまう。
“かいぶつ”『やっぱり治っても気になるよね?あの時のキミは本当に醜かったんだから』
ライト「…うん。毎日鏡を見るのが嫌だった…。全身に負った火傷を見る度に発作を起こすくらいにはね」
あの大惨事から奇跡的に生き残ったライト…。だが、その代償は大きく大切な家族と過ごした記憶を失い、全身に醜い火傷を負った。
“かいぶつ”『そうそう。よっぽど火傷がコンプレックスだったんだろうね。火傷が治った後も
そう言い終わった瞬間、“かいぶつ”の姿が白の輪郭線で縁取られたのっぺら坊から、獅子を模した鉄仮面を装着し独特なセンスのユニフォームを着た少年へ変わる。
その姿はまさに……
ライト「アケボシ…」
『アケボシ』 それこそがライトがエイリア学園時代に名乗っていたもう1人の自分の名であった。
“かいぶつ”『ああそうそう。そんな名前だったね。所詮は“雷帝”を誘き出す為に付けた名前だから、ボクも忘れてたよ』
エイリア皇帝から促され自身のコードネームを付けた際、彼自身も何故自分が“アケボシ”という名を選んだか分からなかった。
ただ…失った筈の記憶の中に確かに“アケボシ”の四文字があったのだ。そして、その意味を思い出すにはそう長い時間は掛からなかった。
ライト「“明星雷牙”…」
“かいぶつ”『ん?』
ライト「それすら忘れちゃったの?雷牙の旧姓だよ。“明星”…それが雷牙の本当の姓。…そして、ボクが倒すべき人間が持つ姓」
最愛の弟を捨てた狂気の科学者は、不思議な事に未だに亡き妻の姓に“怪物”と同じくらいに強い執着を見せている。
それを示すように、あれだけ慎重な男は自身の狙い通り表舞台に姿を現し、自身の娘にも同じ姓を名乗らせている。
ライトにとって“明星”とは憎むべき存在であり、かけがえのない言葉でもあるのだ。
“かいぶつ”『コレを見ても動揺しないとはね…。流石に計算外だな…』
普段の小心者っぷりはどこに行ったのか、今のライトは異常なまでに落ち着いている。
その事実にアケボシに扮した“かいぶつ”は驚きを隠せない様子だ。
思えばそうだ。“かいぶつ”は悪魔だけでなく現実世界でも彼の心に囁きかけてきた。
『諦めろ』『君には無理だ』『君はヒーローにはなれない』
稲魂雷斗の心を折る為に。何度も何度も。
だが、結果はどうだ?豆腐よりも柔らかい筈の精神にヒビを入れる事すら叶わず、挙句の果てにはライトの方から自身のテリトリーに入り込まれた。
一見すると余裕そうに見える“かいぶつ”だが、実際は大した余裕はないのだ。
ライト「なんでボクの心が折れない…って顔してるね。仮面被ってるから実際には見えないけど。オッケー、教えあげる。ボクの心は……もう
“かいぶつ”『何…?』
ここに来て“かいぶつ”は初めて動揺を見せる。
それもその筈。この世で誰よりも『稲魂雷斗』を知っている彼にとって、ライトはビビりで臆病で泣き虫なちっぽけな存在なのだ。
そんな彼がこんな大層な台詞を吐ける訳がない…そう考えるのが普通だった。
ライト「キミには聞こえていないの?
“かいぶつ”『仲間たちの…声…?』
ライトに促された“かいぶつ”はそっと耳を澄ませる。
フィディオ『諦めるなライトッ!!君なら絶対に止められるッ!!けど…俺がそう信じているのは君が“怪物”の息子だからじゃないッ!!君が…イナタマ・ライトだからだッ!!!』
フィディオ・アルデナ。イタリアで初めて出来た友人であり、今ではかけがえのない仲間の1人。
ヒデ『自分を過小評価するんじゃないライトッ!!俺は確信している!君の中に眠る潜在能力は誰よりも凄いとッ!!』
ヒデ・ナカタ。オルフェウスの真のキャプテンであり世界最強と名高いサッカープレイヤー。放浪癖のある自由人だが、“最強”の異名に相応しい実力とカリスマ性を持つ頼りになる人だ。
ブラージ『気張りやがれェライトォ!!!オマエは俺が人生で初めて認めたGKなんだぞッ!!!産まれや人種なんて関係無ェ!!オルフェウスのユニフォームを着ている以上、イタリアの誇りを見せやがれェ!!!』
ジジ・ブラージ。オルフェウスのサブGKであり、本来ならば正GKとして本戦で活躍する筈だった人間。彼とは地区予選中で色々あったが、今では良き関係を築けている。
ヒロト『永世学園での特訓を思い出せッ!!君はひとりぼっちなんかじゃないッ!!俺達お日さま園の皆も一緒だッ!!!』
吉良ヒロト。自身が所属する永世学園の親友でありライバルの1人。その絆の強さは家族同然と言っても過言ではない。
彼らだけじゃない。自身がこれまで紡いできた旅路で出会った全ての人々が腹の底から声を上げ、自分を励ましてくれる。
“かいぶつ”『こんなに…声が…』
ライト「ねっ?やっと聞こえたでしょ?けど…最後に1人だけ絶対に聞かなきゃいけない人が居るよ?」
一つ一つの声がライトに絶大な力を与えてくれるが、“彼”だけは別格だ。
だって彼こそは……ライトが憧れた永遠の“
雷牙『…いっぺんしか言わねェから耳の穴かっぽじって聞けよライト。…絶対に勝て!!!オマエなら……稲魂雷斗ならこんな所でつまずかねェ筈だからんなッ!!!』
“かいぶつ”『雷牙…!』
この世でただ1人の弟であり、最高にして最強の相棒・雷牙の声が“かいぶつ”の心に染み渡る。
ライト「…確かにパパとママが居ないのは寂しいよ。ボクの命と引き換えに2人を救えるのなら躊躇なく差し出すさ。…けど、2人はそんなことを望んじゃいない。パパとママが最後に伝えてくれた言葉…“生きろ”だから」
“かいぶつ”『“生きろ”…か』
ライト「“かいぶつ”…いや、
気がつけばライトは“かいぶつ”を抱きしめていた。その目尻に“哀れみ”の涙を浮かべながら。
“かいぶつ”『どうして…キミは…ボクを受け入れるんだい…?』
“かいぶつ”は声を震わせながらもう1人の自分に問う。初めて感じる得体の知れない感情が彼を支配しているのだ。
ライト「キミが…“もう1人のボク”だからだよ…!ボクの心の奥底にある…『パパとママを失ったトラウマ』…。『ヒーローへの願望』…。そして…『雷牙への憧れ』…!キミは“歪んだボク”であり、ある意味“もう1人のボク”でもあるんだ…!だから…ボクはキミを受け入れる…!!」
『“かいぶつ”を受け入れる』 そうライトが宣言したと同時に“かいぶつ”の顔を覆っていた鉄仮面に亀裂が入り、崩れ去る。
中から現れたのは……
???『そっか…。キミは…ボクが思っていた以上にずっと強いんだね…』
ライトと瓜二つの顔、背丈、声を持つ少年だった。
少年は目尻に涙を浮かべ、ライトを強く抱き締める。その様はまるで“感謝”しているようだ。
ライト「ありがとう…!ずっとボクを見守ってくれて…!!けど…もう大丈夫…!ボクにはお日さま園のみんなが…そして、雷牙がいる…!!」
ライトの言葉を聞いた“少年”は、微笑を浮かべながら満足そうに頷くと闇で構成されていた筈の肉体が光の粒子となりライトの身体に溶け込んでいく。
全ての光がライトに取り込まれると、そこには稲魂雷斗ただ1人が残された。
ライト「バイバイ…もう1人のボク…。もう二度とキミとは会えないだろうけど…。最後にキミと話せて良かったよ…!!」
自身の“
ーー正解だ。本当に強くなったな…ライト。
ーー雷牙によろしくね♪雷斗!
現実世界に戻る直前…。どこからか懐かしい声が聞こえた気がした。
♦︎♦︎♦︎
ライト「グウゥゥゥッ………!!!ウワァァァァァァァァァァッーーーーーー!!!!!!!!」
ゴーシュ「な、何だッ!!??」
この会場に集まった大半の人間がリトルギガントの勝利を確信した瞬間……“
フィディオ「か…変わった…!」
刹那、この世の生物から発せられるとは思えない強大なプレッシャーが会場内を包み込む。
雷牙「ヘヘッ…!ざまーみやがれリトルギガントども…!!とうとうオメーらは目覚めさせちまったんだよォ…!!眠れる“怪物”をなァ…!!!!」
その発生源は、右手にボールを収めた1匹の“怪物”……。
髪は怒髪天を衝き、その身からは膨大な量の気が天に向かって立ち昇る。
目を覚ました“怪物”は、周囲を一瞥すると凍るように低く冷たい声でこう呟く。
ライト「今度は…ボクの番だ…!!」
後半戦の残り時間は1分未満…。
先に断言しておこう。この試合が延長戦に到達する事は決してない。
どちらが大舞台への切符を掴めるかは…この後半戦で決まる事となる。
アレ…?もしかしてだけど…ライトの過去って普通に重い?
〜オリ技紹介〜
♦︎スターダストクレーター
属性:山
分類:キーパー
使用者:ライト
≪概要≫
利き腕を使えなくなったライトが円堂の“イジゲン・ザ・ハンド”の発想を元に土壇場で生み出した必殺技。
全ての気を集中させた右手で地面を殴ると、ゴールを含めた半径数mのエリアが沈降し、物理的にシュートがゴールに入らなくなる。その後沈降した地面は、超次元的な力により次のカットには元に戻る。(←???)
要するに名前が変わっただけの“デスクレーター”。
なお、この必殺技は種が割れれば対処は容易である為、多分二度と使わない。
余談だが、当初は素直に緑色の“イジゲン・ザ・ハンド”を使わせようとしたが、コッチの方がライトっぽいよね♪と感じた為、急遽変更した。