イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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宣戦布告

雷牙「……で。骨折したってのに無茶して試合に出続けた代償に全治1ヶ月だとよ、クソアホバカライト」

 

ライト「本っっっっっ当にごめんっ!!!」

 

 ライオコット島にある総合病院の一室にて、ライトのなっさけない謝罪が響き渡る。

 彼のすぐ側には、顔に青筋をピクピクと音を立ててながらジト目で兄を睨め付ける雷牙が座っている。

 

 弟の機嫌を直す為にひたすら謝り続けているライトの左腕は、ギプスで固定されており、見る者全員にこの病室の主は彼であると暗に告げる。

 

雷牙「あ〜あ!!最悪、選手生命に終わるかもしんねェ無茶をしたってのに、挙句の果てに()()()()()()。勝ったならまだしも、負けて二度とサッカー出来なくなりましたーってなったら親父とお袋が悲しむぞ!!」

 

ライト「……雷牙だって、ジェネシスとの試合でボクと同じくらいの無茶したじゃん」

 

雷牙「うっせ。ソレはソレ、コレはコレだっての」

 

 ちょっと待ってほしい。準決勝のラスト10秒…間違いなくライトが放った“最強”は、ロココの“最強”を打ち砕いた筈だ。にも関わらず雷牙は『オルフェウスは負けた』と言っている…。これ一体どういう事だろう?

 

 ……その答えは、既に病室に備え付けられたTV画面に映し出されている。

 

『……では次のニュースです。先日行われたFFI準決勝にて、ライト・イナタマの得点が()()()()()()()()が世間で大きな波紋を呼んでいます』

 

 結論から言おう。オルフェウスはリトルギガントに負けた。

 

ライト『“モンスター・ザ・ワンッ”!!!』

ロココ『“タマシイ・ザァ…!!ハンドォォォ”!!!』

 

 確かに…最後の最後でライトが放った“モンスター・ザ・ワン”は、ロココの“タマシイ・ザ・ハンド”を粉砕した。それも完膚なきまでに。

 

 だが……

 

『ピッ!ピッ!ピッー!!!』

 

 ボールがゴールラインを割る直前…。審判からの無慈悲な笛が三度鳴らされた事で試合は終着…つまり無効得点となってしまったのだ。

 

雷牙「ケッ!思い返しても胸クソ悪ィ…。真面目が悪いとは言わねェが、融通も効かない石頭は俺は大っ嫌いだね!」

 

ライト「そう言わないでよ雷牙…。審判さんだって、真面目に職務を全うしていただけなんだからさ…」

 

 当然ながら融通の効かない審判の判決に観客達は激怒。最終的にビデオ判定にまで持ち込まれたが、それは判決の正当性を高めるだけの結果となり、リトルギガントの決勝進出が確定した。

 

雷牙「…オメーは悔しくねェってのかよ、ライト…」

 

ライト「…悔しくないって言えばそれは嘘になっちゃう…。けど、後悔はしてないよ!あの1分間でボクは自分の“全て”を出し尽くせたんだ…。その結果が敗北(アレ)なら文句はない。それに…怪我も思ったより軽かったしね!」

 

 満面の笑みでそう答えるライトの言葉には嘘偽りはない。

 

 本人の言う通り、唯一の幸運は、ライトの骨折は予想よりも遥かに軽かった事だろう。幸いにも左腕の骨に小さなヒビが入った程度である為、治療に専念すれば1ヶ月程度で回復するとの事だ。

 

雷牙「ハァァァ〜〜…!!! 出たよ…お袋由来のクソポジティブ…。能天気っつーか、楽観的ってゆーかさァ…」

 

ライト「エヘヘ〜/// あんまり雷牙も人のこと言えないと思うけどね〜///」

 

 亡き母に似ていると言われ、だらしない笑顔で照れるライト。兄の反応を見た雷牙は、更に深い溜め息を吐きつつも、アレだけ昂っていた怒りが徐々に薄まっていく。

 

雷牙「…そんな顔出来るってんなら、()()()()()()を受けてもらわねェとなァ?」

 

ライト「ウグゥ!!!?」

 

 『例の罰ゲーム』 その言葉を聞いた瞬間、ライトのだらしない笑顔は凍り付き、たちまちこの世の終わりのような深い絶望に包まれる。

 

 彼はすっかり忘れていた…いや、忘れたフリをして誤魔化そうとしていた。

 “決勝に行けなかった時に、稲魂雷斗がこの世で最も嫌いなニンジンを山盛りで食べる”…その約束を…。

 

ライト「・・・引き分け一歩手前までいったんだし、超特例措置として免除じゃダメ…?」

 

 ライトは微かに残った自身の“理”を盾に、最後の命乞いを試みる。その結果は……

 

雷牙「・・・ハァ〜…。必殺技縛りの舐めプかまされて大敗すんならまだしも、ヤツらの出鼻をへし折った末に、試合で負けたが勝負じゃほぼ勝ってたんだ。超特例措置として罰ゲームは免除してやんよ」

 

 稲魂雷斗(14) 生存決定。

 

ライト「本当に!?ぃっ〜〜〜〜ヤッタ〜〜〜〜!!!!!」

 

 首の皮一枚で助かったライトは、自身が怪我人である事も忘れてガッツポーズをかます。その喜び様は、FFIで優勝した時に匹敵するだろう。

 

雷牙「どんだけニンジン食べたくなかったんだよ…。…もういいや、腹減ったから下のコンビニで何か買いに行っけど、何が欲しいモンあっか?」

 

ライト「・・・アレ?そういえば、雷牙は練習に参加しなくていいの?今は決勝戦に向けての練習で忙しいでしょ?」

 

雷牙「監督に頼んで休み貰ってっからいいんだよ。そもそも、オルフェウスは全員筋肉痛でまともに動けねーだろーが」

 

 雷牙の言う通り、現在オルフェウスの選手達は昨日の激戦により、凄まじい筋肉痛に襲われ誰一人例外なく宿舎内の自室から一歩たりとも出られない。

 試合から一夜経ってライトのお見舞いに来た人間が弟だけなのも、そもそもここまで来れる人間が彼以外に居ないのだ。

 

ライト「ボクに構わないで決勝に集中して…って言いたいけど、ココは弟の好意に甘えちゃおっかな〜♪ってことでプリン買ってきて!!」

 

雷牙「りょ〜」

 

 こうして久方ぶりとなる兄弟だけの時間を得た2人は、有り金をはたいて購入した大量のお菓子と共に穏やかな時間を過ごす。

 

雷牙「アム…。最後の1分でオメーが覚醒したあの姿なんだけどよ〜(モグモグ…)。アレって下手すりゃ鬼乃子より強くなったんじゃねェーの?(ムグムグ…)」

 

ライト「そうかな…?…そうかも…?」

 

 開口一番に始まったのは、ライトが覚醒した“あの姿”の事。

 実際に本気の“鬼”と対峙した雷牙にそこまで言わせるのだ。十中八九、弟の予想は当たっているだろうが、当のライトは半分は疑問、もう半分は確信という矛盾した感情を抱いてしまう。

 

 ライトにはあの時の記憶がある。自身の“(シャドウ)”を受け入れた瞬間に、力が溢れ出したあの瞬間の記憶が。

 今にして思えば、あの感覚は未来からの来訪者との試合…そして“鬼”とのPKにて発現した頭の“ゾワゾワ”と全く同じ感覚だった。

 恐らく、極限まで追い詰められた事で、あの力の片鱗が表に現れたのだろう。…そうライトは結論付けていた。

 

ライト「ぶっちゃけ言ってボク自身も分かんないや…。あの時は、今にも吹き飛びそうな理性を保つので手一杯だったからさ…。ほとんど“本能”だけで動いていた感じ?」

 

雷牙「ほ〜ん?何か俺の“ (ビフォアー)”と似てんなァ。アレも“本能”だけで身体を動かしてるようなモンだし。動きは180度正反対だけどな〜」

 

 雷牙が辿り着いた最高到達点である“ (ビフォアー)”及び“ (ビヨンド)”の性質を一言で表すと『静』。

 それに対して、ライトが辿り着いた最高到達点を一言で表すと『動』と評するのが相応しいだろう。

 

 根底を為す要素は同一の物でも、実際に出力される動きはコインの表と裏の如く対照的な兄弟の力…。その理由は少なくとも今の兄弟では解き明かせない。

 

雷牙「まっ!考えたって仕方ねェさ!!それで?もう、あの形態の名前とかもう決めてんのか?俺の“(ビフォアー)”や“(ビヨンド)”みてーによォ」

 

ライト「名前…か」

 

 どうやらライトはあの力の名前を決めていなかったようで、弟から聞かれた瞬間、顎に手を当てて名探偵のようなポーズで考え込む。

 

ライト「録画を見る限り、あの状態のボクはまるで怒り狂う野獣のような形態だから“ビーストモード”…いや、やっぱりココは…“モンスターモード”…とか?」

 

雷牙「うっわ、クッソシンプル。ライトらし〜。…だが、少なくとも俺ちゃんは割と気に入った」

 

ライト「そ、そう…?/// それじゃあ正式名称は“モンスターモード”に決定〜!!」

 

 弟の肯定を受け、あの姿の名を“モンスターモード”と決めたライトは

 

 その時だった……

 

ガラガラガラッ!!

 

 病室のドアがそこそこの勢いで開けられる。

 

雷牙「あン…?こんな中途半端な時期に、俺以外に見舞いだと?」

 

 突如開かれたドアに対し、雷牙は少なくない警戒の態度を露わにする。

 

 ライトが入院している病室は個室だ。個室である以上、ドアを開けるのは様子を見に来た看護師か、見舞いに来た関係者の二択だけだが、看護師があんな雑にドアを開けるとは考え辛い。

 

 かといって、交友関係の広くないライトの見舞いに来る可能性があるオルフェウスはほぼ全員が筋肉痛でダウンし、例えイナズマジャパンの誰かだったとしてもこんな忙しい時期にライトの見舞いに時間を費やすメリットは雷牙以外では0に等しい。

 

 この僅か0.1秒でこの結論に至った雷牙が、強く警戒するのも無理はないだろう。

 

ライト「き、キミは…!」

 

 最初から身体を扉側に向けていたライトは、雷牙よりも先に謎の訪問者の正体を知る事となる。

 雷牙もまた身体全体を後ろに向け、兄よりも数秒遅れてその正体を知る。

 

 そこに居たのは……

 

???「アポ無しの訪問で悪いね。けど、どうしても君に会いたくなったんだイナタマ・ライト。こういう時って、ニホンじゃ『コンニチハ』…って言うんだっけ?」

 

雷牙「オメーは…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロココ・ウルパ…!?」

 

 先日ライトと激戦を繰り広げた、リトルギガントのキャプテン兼GKであるロココ・ウルパだった。

 

……

………

…………

……………

 

ピッ!ピッ!ピッー!!!

 

 場面そして時系列は、オルフェウスとリトルギガントの準決勝が終えた直後に遡る…。

 

 審判の笛が三度鳴らされた瞬間、ロココは尻餅を付き放心していた。その視線の先に居るのは、怒髪天を衝いていたヘアースタイルが元のショートヘアーに戻り、気を失い地面に伏しているライトの姿。

 

ゴーシュ「俺達は…勝った…のか…?」

 

 リトルギガントの選手全員の心の中で渦巻く感情を、ゴーシュが代表して呟く。

 スコアボードに表示された得点は、オルフェウスが『2』リトルギガント(自分達)は『3』。

 誰の目から見ても、リトルギガントの勝利は明らかだと言うのに当の本人達は、自身の勝利を受け入れられない。

 

ライト『天上天下…唯我独尊…!!』

 

 確かに彼らは試合には勝った。オルフェウスの選手は一部を除き立ち上がれない程消耗しているのに対し、リトルギガントの選手は多少息が乱れている程度の消耗しかなく、未だに約20kgの重りを背負い続けている。

 

 だが……現実はどうだった?“世界最強(ヒデナカタ)”が加入して以降、瞬く間に追い付かれ始め、最後の1分間に至っては覚醒した稲魂雷斗に文字通り手も足も出なかった。

 

 いや…それどころか実質敗北していた…。スコア上で勝利を得たのは天が気まぐれで味方してくれただけだ。

 

 全力を出して勝利したのにも関わらず…“充実感”も“満足感”もない、“虚無感”だけを感じるのはリトルギガント達にとって初めて事だった。

 

大介「なんちゅー顔をしとるんじゃお前さんら。勝者ならば、もっと胸を張って誇らしくせんか」

 

ドラゴ「監督…」

 

 控え室に戻っても暗い顔を続ける弟子達に対して、師は眉間に皺を寄せながら軽く叱責する。

 

大介「お前さんらは何か卑怯な事でもしたか?相手の傷口を抉るようなサッカーをしたか?」

 

ゴーシュ「いや…してない…。俺達は…正々堂々戦った…!」

 

大介「ならばもっと胸を張れい。勝者が浮かない顔を見せるのは、敗者に対する最大の侮辱じゃぞ?」

 

 師の言葉により弟子達が抱いた正体不明の“しこり”はほんの少しだけだが小さくなり、明るい顔が戻る。

 

 たった1人を除いて……

 

ロココ「……」

 

 師の説教を受けても一番弟子であるロココの“しこり”は消えなかった。寧ろ更に肥大化し、遂には無言で控え室を退出してしまう。

 

大介「…そんなにショックか?ロココよ」

 

ロココ「師匠…」

 

 既に愛弟子の行動を予測していたのだろう。大した間も置かず師も控え室から退出し、弟子と対話を試みる。

 

大介「儂に言わせれば、既にヒデナカタとお前さんの力関係は逆転していた。例え同点に追い付かれアディショナルタイムに突入したとしても、あちらのサブキーパーではゴーシュのシュートに反応する事すら出来まいよ。どっちみち儂らの勝利は確定していた」

 

 常人が師の台詞を聞けば、やや不器用ながらも彼なりに弟子を励まそうとしていると判断するだろう。

 だが…弟子には分かっていた。師は不気味な程に稲魂雷斗に触れていない。それ即ち……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われているのも同義だ。

 

ロココ「そっか…!僕は…負けたんだね…!」

 

 覆しようのない現実を直視してしまったロココは、涙を流し悔しがる。人生初の挫折に直面する弟子を、師は言葉を交わす事なくただ穏やかな目で見つめていた。

 

大介「悔しいかロココよ?」

 

ロココ「あぁ…!とっても悔しいよ…!!誰かに負けるって…こんなに悔しいんだね…!!」

 

 ロココは過去を振り返る。

 

 かつての彼は、近所の悪ガキから泣き虫弱虫と馬鹿にされるだけの“弱者”だった。

 

 だが、師匠…そしてサッカーと出会って、彼の人生は変わった。

 

 血の滲むような特訓の末に、いつしか彼は“強者”となり泣き虫弱虫と馬鹿にするような人間は居なくなった。

 

 だからこそだろう。彼は忘れていたのだ、“負ける”という事がこんなに悔しく悲しい事だという事を…。

 

ロココ「ねぇ師匠…。彼は…イナタマ・ライトは何者なんだい…?」

 

大介「“怪物(モンスター)”の血を受け継ぐ者じゃよ…。儂からは、それだけしか言えん…」

 

 師と交わした会話はそこまで多くない。だが、いつの間にかロココの心に残った“しこり”は消え去っていた。

 その代わり……もう一度、“怪物”と会いたい…その欲求が際限なく湧いてきた。

 

……………

…………

………

……

雷牙「コイツは意外な来客サンだなァ…!まさかロコモコクンがワザワザこ〜んな所にまで足を運ぶたァ、思ってなかったぜ…!」

 

ロココ「そんなに身構えないでよイナタマ・ライガ。別に嫌味を言いに来た訳じゃない、ただ君の兄のお見舞いに来ただけだよ」

 

雷牙「ほ〜?のワリには俺ちゃんと話すオマエさんの目は笑ってねェけどなァ〜?」

 

 雷牙に何か恨みでもあるのか、彼と視線を合わせるロココの目と言葉はどことなくピリついている。

 

ロココ「…もうこの話題はよそう。イナタマ・ライト、今日僕は君に…()()()()()()()

 

ライト「ボクに…?」

 

 ロココの目的を聞いたライトはポカンとした表情を浮かべ、唖然としている。

 それもそうだ。ライトからしてみれば自分はロココに謝罪されるような事をされた覚えがない。

 

ロココ「本当にごめんっ!!!……君の左腕が折れたのは…僕のシュートが原因なんだよね…?」

 

ライト「わっ〜〜!!!?ちょ、ちょっとロココ君!?なんでキミが頭を下げるの!?キミはなにも悪くないじゃん!!」

 

雷牙「…素直に謝罪を受け入れなライト。こーゆータイプは自分に非がなくても思い詰めちまうタイプなんだよ。ケッ…。“ゴッドハンド”を使うといい、性格まで守クリソツだぜ…

 

 プレースタイル、使用する必殺技のみならず、性格までも親友の面影と瓜二つなロココに、雷牙は調子を狂わされつい捻くれた態度を取ってしまう。

 

ライト「…頭を上げてよロココ君。ボクは別にキミを恨んじゃいないよ。骨が折れたのはボクの判断ミスさ、あの時…不意を突かれて中途半端な判断をしちゃったから、こうなっちゃったんだよ。キミは何も悪くない」

 

ロココ「…そう言ってもらえると、いくらか心が救われるな…」

 

 ロココ本人はまだ納得がいっていないようだが、謝罪対象であるライトにああ言われた以上、ロココはこれ以上何も言えなくなる。

 

雷牙「はい!!!ごめんなさいタイムはコレでしゅ〜りょ〜!!!もう満足したよなァ?ロコモコくんよォ?」

 

ロココ「彼がそう言うなら僕から言うことは何もないよ」

 

雷牙「そっか!!それは良し(ベネェ)!!!んじゃあ、コレからはライトじゃなくて、イナズマジャパン(俺ら)との試合に集中出来るなァ!!!」

 

ロココ「…それは宣戦布告と受け取っていいのかい?」

 

雷牙「それを決めるのは俺じゃねェ。オマエさん自身だよッ!!!」

 

 過去最高レベルの好戦的な笑みで遠回しな宣戦布告を行った雷牙。彼の身体から発せられる雰囲気は、絶対にあり得ないという枕詞が付くものの、今ここで決着を付けてもいい…そんなプレッシャーを感じる。

 

コンコンッ!!!

 

???「お〜いロココよ〜!用事と済んだしそろそろ帰るぞ〜い!!」

 

 刹那、ドアの外から老人の声が聞こえると、弟子に勝るとも劣らない荒さでドアが開かれる。

 

ロココ「あっ!師匠っ!」

 

雷牙「あン?師匠…?その赤キャップに濃いサングラス…どっかで見た事があーーア〜〜〜ッ!!!守にタイヤをやった爺さんじゃねェか!?」

 

 ドアから現れたのは、以前円堂のタイヤ探しの際に出会った老人。そして…

 

夏未「うるさいわよ稲魂君。病室では静かにするって常識を知らないのかしら?」

 

雷牙「な、夏未〜〜〜ッ!!??な、なんでオメーが…!?」

 

ライト「あっ、やっぱり雷牙は気づいてなかったんだ…」

 

 老人の隣に居たのは、現在“ある事”について調査中の筈だった夏未だった。

 

雷牙「こんな爺さんと2人っきり…。も、もしかして…パp」

 

夏未「そんな訳ないでしょう!!!私はリトルギガントのマネージャーをしているの!!!この人は監督だから一緒に居るだけ!!!」

 

 相変わらず、常識的な発想よりも品のない想像が先に出る雷牙に顔を真っ赤にして怒る夏未。その光景は雷門では見慣れたものだ。

 

雷牙「あン…?マネージャー…?どこの?」

 

夏未「だから言ったじゃない!リトルギガントよ!!リ・ト・ル・ギ・ガ・ン・ト!!!」

 

雷牙「…んでこの爺さんがその監督ゥ?」

 

大介「ハハハ!!そういや自己紹介がまだだったな!!儂の名はアラヤだ。アー君と呼んでくれても構わんぞ?」

 

雷牙「ホヘー怪しい見た目に反して存外フレンドリー…。まっ、いっか!!よろしくなアー君監督ッ!!」

 

 早くもこの空気に適応した雷牙は、数秒前の驚きを忘れたように老人と握手を交わした。

 

ライト(この人が…!アラヤ…ダイスケ…!)

 

 ライトは弟と握手を交わす老人をジッと見つめる。夏未の存在により薄々察していた老人の正体が、実際に目にした事で数十年前に死んだ筈の“円堂大介”であると確信していた。

 

ライト(クッ…!昔の“憧れ”とボクの“最推し”が握手を交わしてる…!メッチャ写メを撮りたいけど、この左腕じゃまともにスマホを操作できそうにないや…)

 

 神妙な顔をしていた癖に、内心ではものすごくどうでもいい事を考えているあたり、ライトはどこまでいってもライトであるという事だろう。

 

リ~ヨリ~ヨリ~ヨ…

 

 その時、どこから独特な着信音が病室内に鳴り響く。そのスマホの主は……

 

雷牙「おっと悪ィ、俺のスマホからだ。電話主は……守?っかしいな…?ちゃんとアイツに今日の練習は休むって言っといたのに…」

 

 何故か掛かってきた円堂からの電話に疑問の声を上げつつも、雷牙は着信に出る。

 

円堂『あっ!やっと繋がった!!!』

 

雷牙「そんなに慌ててどうしたんだよ守?もしかして…また決勝戦の日程でもズラされたのか〜?」

 

円堂『違うんだよっ!!!今、ライトの病室に居るんだろ!?だったら、病室のテレビをつけてくれっ!!!』

 

雷牙「テレビ…?」

 

 円堂の焦りとテレビをつける事に合点がいかない雷牙だが、特段拒否する理由もない為、言われるがままリモンコンの電源ボタンを押す。

 

 そこに映し出されていた光景は……

 

『き、緊急速報ですッ!!!只今…コトアールエリアにて…!!謎の軍隊が破壊活動を行っているとの情報が入ってきましたッ!!!』

 

ロココ「な、何だって!!!?」

 

 テレビ画面に映し出されるのは、漆黒の戦闘服を身に包んだ総勢15人の男達が、リトルギガントの故郷・コトアールを模した居住区にて破壊活動を行っている光景…。

 罪もない人々が傷付けられ、建物が破壊される様は地獄としか言いようがない。

 

 そして、テロリストの指揮を取る小太りの男に、雷牙は見覚えがあった。

 

雷牙「アイツは…!ガルシルドと一緒に居た…!!」

 

円堂『ああ!!ヘンクタッカーって奴だっ!!あいつが居るってことは間違いなくこの裏に…!』

 

大介「ガルシルドが関わっておる…そうじゃろう?」

 

 円堂の言葉を遮るように老人が、この騒動の黒幕の名を呼ぶ。

 その顔には血管が浮き出て、僅かに見えるサングラスの奥の瞳は“怒り”の光が灯っている。

 

大介「あやつめ…!!とうとう儂を本気で怒らせおったな…!!!」

 

 模倣でしかないとはいえ、第二の故郷とも言えるコトアールの人々を傷付けられた老人は、マグマのように煮えたぎる怒りをその身に宿し、病室から出ようとする。

 

雷牙「おいジジイ!!!まさか1人でヤツらに立ち向かう気かよ!?アンタみてーなヨボヨボのジイさんが行ったところで、首の骨をへし折られるのがオチだッ!!!」

 

円堂『そっちの状況はよく分かんないけど、俺たちは今からキャラバンでコトアールエリアに向かうっ!!メールに待ち合わせの場所を送ったから、そこで合流しようぜっ!!!』

 

雷牙「だそうだぜ!!ヤツらの背後にクソ老害(ガルシルド)が居る以上、コレはコトアールだけの問題じゃねェ!!俺らも加勢するぜッ!!!」

 

ロココ「ライガの言う通りだよ師匠!僕たちだけの力じゃ、絶対に“アイツ”には勝てないっ!!ココは日本と力を合わせるべきだっ!!!」

 

大介「…そうじゃな。少し頭に血が昇りすぎてたようじゃわい…。よし!!稲魂の小僧よ!!合流地点まで案内してくれい!!!」

 

 危うく怒りに身を任せ、玉砕する寸前だった老人は、弟子の説得により何とか踏み留まり、合流地点へ向かう。

 

雷牙「悪ィなライトッ!!オメーの看病はキャンセルだッ!!ちょっち黒幕をぶっ飛ばしてくるぜッ!!!」

 

ライト「う、うん!!!雷牙も気をつけてね!!!」

 

 ライトはこれから大舞台で戦う好敵手を助ける為に病室を飛び出した弟の背中を見守る。

 

 だが……

 

ライト(なんだろう…この背中にへばりたくような()()()()は…?)

 

 弟の姿が遠くなっていく度に、強烈な悪寒に襲われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

???「……」

 

 ここはガルシルドの屋敷の地下に設立されたサッカーコート。

 普段は、“RHプログラム”を受けた実験体のテストの為に使われる場所であり、草一つ無い乾いた砂で覆われたグラウンドには、適応できなかった者達の血反吐が染み付いている。

 

 そこに1つの人影が佇んでいた。

 

 人影は影を思わせる濃い黒色のフードを着込んでおり、容姿・性別は不明だが、低い身長までは隠せずに、どう甘く見積もっても成人した大人ではない事だけは分かる。

 

???「あと少し…か」

 

 フードで隠された口から発せられる声は実に中性的であり、少女と断じるにはあまりに低く、少年と断じるにはあまりに高すぎる。

 

 目的の人物の到着が待ちきれない謎の人影は、昂る衝動を無理矢理抑え込むべく両手を強く握り締め、ただただ“その時”が来るまで耐え忍ぶ。

 

???「さァ…。決着を付けようよ()()()()()。この戦争(サッカー)で生き残れるのは…果たして“(アンタ)”?それとも“(わたし)”のどっちかな?」




若干、ロココの性格が悪くなってますがそういう仕様です。作者的にはロココは、王道熱血主人公を地で行く円堂よりもずっと人間臭いイメージなんですよ。
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