雷牙「ココ……は……?」
灰色の閃光が晴れた先…。雷牙の目に入ったのは見知らぬ空間。
雷牙「子供……部屋……?俺は…ガルシルドの屋敷で鬼乃子達と試合をしてた筈じゃ…?」
雷牙は混乱してしまう。自分は先程までチームGと世界の命運を賭けた最終決戦に挑んでいた筈である。その証拠に今の雷牙が着ているのはイナズマジャパンのユニフォームだ。
にも関わらず、彼が居るのは見覚えの無い点を除けば、ごく普通の子供部屋。これで混乱するなと言う方が無理がある。
雷牙「…なんでだ…?なんで、俺は知らねェ筈の子供部屋に
しかし、どうしてだろう?見覚えの無い筈の子供部屋の全てが無性に懐かしく感じてしまう。一口に“懐かしい”と言っても、その懐かしさは記憶による物ではなく、本能で感じる懐かしさだ。
雷牙「まさか…!!コレもガルシルドの策略かッ!!?あり得るぜ…!ヤツなら他人に幻を見せる兵器の一つや二つ持っててもおかしくねェからなァ…!!出て来やがれッ!ガルシルドォ!!!」
この空間の元凶をガルシルドだと確信した雷牙は、腹の底から大声を出し自身をここから出すように訴える。
…しかし、ガルシルドが返事をする事は終ぞ無かった。
雷牙「チッ…!考えてみりゃあそりゃそうか…!!せっかく猛獣が罠に掛かってんのにミスミス逃す程、ヤツはバカじゃねェかんな…!となれば…俺の手で脱出するしかねェってこった…」
己の力でこの空間から脱出してみせると決意した雷牙は、早速部屋中を物色し始める。
雷牙「なんつーか…部屋自体は割と立派だが、家具の年齢は全体的に幼いな…。部屋の主人は2〜3歳くらいの年齢か?…そんな年齢から1人部屋をもらえるなんて羨ましい限りだぜ…」
両親が存命中は、小学3年生になっても
だからこそ、ライトが帰って来てからも木枯らし荘での生活を続けているのだ。
雷牙「……ん?この雑誌は…?」
本棚を物色中、ある
本棚に収納された本の大半は、幼児向けの絵本や図鑑ばかりだが、たった一冊だけ明らかに幼児向けでない
雷牙「この雑誌……本自体は新しいが、発行された年は少し昔だな…。大体俺が2歳くらいの時か…」
雷牙は12年前に発行された雑誌のページを開く。
雷牙「…? 何だコレ…?全部のページに注釈の付箋が貼られてらァ…」
付箋の存在に驚いた雷牙は、書かれている内容を読むと再度驚かされる。
恐らく、この雑誌の持ち主の年齢に合わせて、幼児でも分かりやすいようにかなり噛み砕いた説明にはなっているが、要点はしっかりと抑えられている為、非常に分かりやすい内容となっている。
雷牙「スゲェな…。俺は超感覚派の天才だから小難しい話は苦手だが、そんな俺でもスグに理解出来るぜ…!!ったく…全世界のサッカー雑誌もコレを見習えってんだ」
あの色んな意味でめんどくさい性格している雷牙が、素直に他者を褒めるという事は珍しい。ましてや、会った事すらない人間をここまで褒めるのは彼自身にとっても初めての経験だった。
“怪物”が認めた未知なる書き手の人間性は、ご丁寧に幼児には興味すら無いであろう新型スパイクの広告にまで注釈が付けられている点から察せられる。
こうして不思議な雑誌に夢中になった雷牙は、パラパラとページを巡っているとある選手の特集がされたページを目にした瞬間、手を止め瞳孔を収縮させた。
雷牙「この選手って……!!」
特集されていた選手は、20代後半のイタリア人選手…。しかし、雷牙はその選手を知っている。
自身の記憶よりもやや若いが、その体格が、その瞳が、その金髪が、彼を彼たらしめる全ての要素に見覚えがあった。
雷牙「親父……!?」
何故ならその特集は亡き父“稲魂ステラ”を主題とした物だったのだから。
何も父が雑誌に載っている事はそう珍しくはない。何せ“
ならば、雷牙が目を見開き瞳孔を収縮させる程に驚いている理由は別にあるのが道理だろう。
その答えは、またしてもページに貼り付けられた付箋にあった。
雷牙「・・・何コレ?怪文書か?」
付箋に書かれていたのは、怪文書としか言えない文面の数々…。筆跡を見るに書いた人物はこれまでそしてこれ以降の者と同一人物であるだろうが、その文面は、先程の分かりやすさは微塵も無く、どれだけ読み込んでも『彼は最強!!!』以外の内容が浮かばない。
本当に同一人物かと疑いたくなるような、個人の感情ダダ漏れの走り書きだ。
雷牙「怖っわ…。さっきまで、言葉の裏に知性を感じられる文面だったのに、何で親父が登場した瞬間、急激に知能指数が下がるんだよ…?しかも、親父の特集が終わってからは元に戻ってるし…。コレもう下手なホラーよりホラーだろ…」
見知らぬ才人にあまり触れてはいけないような闇を感じた雷牙は、雑誌を閉じようとするが、ここである事に気づく。
雷牙「よく見ると…親父のページだけ、他のと比べてかなり読み込んだ
この子供部屋は清掃も隅々までしっかりと行き届いており、幼児に好まれそうなデザインのインテリアで同一されているが、この怪文書だけは別の意味で教育によろしくない。
流石に憧れであろう選手のページを見る度に嫌でも怪文書を目にするこの部屋の主を不憫に思った雷牙は、一瞬で思考を放棄し今度こそ雑誌を閉じて元の場所に戻す。
ガチャリ!
雷牙「あっ!ドアの鍵が開いたッ!!」
まるで雑誌を読んで戻す事が条件だったのか、“怪物”を閉じ込めていた檻の鍵が開かれる。
雷牙「もしかしたら罠かもしんねェが…。もう前に進むしかねェよなァ…!」
ドアノブに手を置き、恐る恐るゆっくりと扉を開く。頭一つ出るくらい隙間が出来るまで扉を開け、雷牙は外に顔を出し周囲を確認する。
雷牙「上下左右確認OK…!パッと見、廊下に異常無し…。雷牙さん行きまーす!」
罠の類が無い事を確認した雷牙は、子供部屋から脱出し廊下へ出る。不思議な事に初めて目にする筈の廊下ですらも、無性に懐かしい懐古感に襲われる。
???「ふざけるなよッ!!!」
懐古感に襲われたのも束の間、まるでタイミングを見計らったかのように男性の怒声が下層から木霊する。
雷牙「今の声は…!まさか…!!」
謎の怒声に強烈な既視感を覚えた雷牙は、罠の警戒すらも忘れ無我夢中で階段を駆け降り、下の階へ向かう。
雷牙「なんで…!なんでなんだよ…!?どうして…俺が知らねェ家から、
まるで二次元の平面から飛び出したかのように、それとも“何者”かの意思が父をこの場所に呼び寄せたかのように、そこに父は居た。
???「……」
ステラ「何、黙ってるんだよ…!?いつもみたいに何とか言えよ…!!!」
父の元へ向かう途中も絶え間なく父は目の前にいるであろう“誰か”を問い詰める。
雷牙はこんな父の声は聞いた事がなかった。常に強者特有の余裕を持ちつつも、ショッピングモールに行った暁には秒で迷子になるような愛嬌を持っていた憧れの父…。
だが、どんなに記憶を遡っても声を荒げた父の姿は無い。
雷牙「ココだ…!」
声に導かれるがままに歩き回った雷牙は遂にある扉の前に立つ。扉の中央に走った曇りガラスのような箇所からは、ステラの物であろう金色が透けて見える。
雷牙「……」
“考えるよりも先に動く”がモットーな筈の雷牙は、何故か扉を開ける事を躊躇してしまう。
…いや、躊躇という表現は正しくない。厳密には扉は
しかし……雷牙は扉を開く度に嫌な予感が止まらなかった。
見知らぬ筈なのに懐かしさを覚える謎の家…。
自身の趣味趣向と僅かに共通点のある子供部屋…。
そして…温厚な父をあそこまで激怒させた“何者か”…。
“嫌な予感”を構成する全ての要素を前にして、“怪物”としての本能が自身に告げる。
雷牙「……何ビビってんだよ稲魂雷牙ァ…!!世界一になるんだろ…!?鬼乃子に勝つんだろ…!?“怪物”を継ぐんだろ…!?こんな所で立ち止まってちゃあ…!!何一つ夢を叶える事なんざ出来やしねェんだよ…!!!」
自身に降り掛かった恐怖を虚栄心で振り払った雷牙は、振り切るように勢いよく扉を開き、自ら修羅場へと飛び込む。
……だが、稲魂雷牙は人生で初めて自身の判断を心の奥底から後悔する事となる。
ステラ「オマエは本気で言ってるのか…!?
帝牙……ッ!!!!」
『帝牙』と呼ばれた男性を前に雷牙は思考が
男性はステラと比べるとこれといって特徴的な要素は無い。敢えて評するなら“普通”の二文字が相応しい。
髪色は何の変哲も無い茶髪であり
身長こそは父よりも高いが、お世辞にも筋肉質とは言えず
自身と同じ群青の輝きを放つ瞳を持っている。
一部を除き没個性とさえ言っても過言ではない男性…。だが、雷牙はその男を知っていた。いや……正しくは
それでも、雷牙は呟かずにはいられなかった。かつて数週間だけ行動を共にした男の名を。
雷牙「雷……帝……?」
ステラの問い詰められた『帝牙』なる人物……それは、“雷帝”その人だった。
雷牙「何で……?親父が……“雷帝”と……?」
背後の見知らぬ少年が乱入してきた挙句、呆然していてもなお、目の前の父と帝牙は口論を続ける。まるで、雷牙の存在を認識出来ないように…。
帝牙「…言葉通りだ。私は息子を……
雷牙「オイ……!!!今なんつったオイッ!!!」
気付けば、雷牙もまた声を荒げて帝牙に飛び掛かっていた。未だに洪水のように流し込まれた情報を処理しきれておらずとも、彼の口から放たれた『雷牙』の二文字が強制的に彼の身体を動かしたのだ。
雷牙「アンタ今言ったよなァ!!!俺がオマエの息子だって……ッ!!!」
“怒り”により理性を捨て去った雷牙は右手に拳を作り大きく振り上げる。いつもならば、彼には最後の一線を遠ざけてくれる仲間達が居る。
だが……今ここに居るのは、稲魂雷牙ただ1人だ。
雷牙「俺は……!!ずっっっっと待ってたんだぞ……!!!アンタが俺との“約束”を守ってくれる日を……!!!!」
雷牙の魂の言葉すらも帝牙には伝わらない。それだけじゃない、彼が拳を振り上げてから、まるでリモコンの停止ボタンを押されたかのように雷牙以外の全てが静止している。
雷牙「黙りかよ……!!んならァ……!!!息子にブン殴られても文句は言えねェよなァァァァァァッ!!!!!!」
堪忍袋の緒が切れた雷牙は遂に最後の一線を超え、拳に深い“殺意”を込めて帝牙へ向かって殴り掛かる。
だが……
雷牙「ヌオォォォオオォォォ!!?」
殺意の拳は帝牙の肉体をすり抜け、全身のバランスを崩した雷牙もまた帝牙の肉体をすり抜けて盛大にすっ転ぶ。
雷牙「痛ェ……!!!一体、どうなってんだよコレェ…!!?」
???「どんなに攻撃を加えたって無理よ。だってここは、あんたの“走馬灯”なんだから」
雷牙「ッ…!? この声は…!」
刹那、何処からともなく声が聞こえる。しかし、その声はステラとも帝牙とも違う。暖かく芯の通ったハリのある女性の声だった。
雷牙は何とか帝牙への興味を捨て去り、声の方向へ視線を移す。
そこに居たのは……
雷牙「お袋…!」
雷夏「ヤッホー雷牙♪お・ひ・さ〜♪…いや、
雷牙の義理の母・稲魂
現れた雷夏は、そこに居るステラや帝牙と異なり雷牙の存在を認識し、キチンと受け答えをしてくれる。彼女が明らかに異質な存在である事は明らかだった。
雷牙「…色々言いてェ事はたっくさんあるけどよォ…。ココが俺の“走馬灯”ってどういうこったよ…!」
雷夏「言葉通りの意味よ。あんた、自分に何が起こったか覚えてないの?」
雷牙「俺の身に…?俺は確か、豪炎寺と一緒に鬼乃子と戦って…それからーー…グッ!!!アガァァァァ!!!!」
ここに来るまで起こった事を回想した瞬間、頭が砕けるように強烈な頭痛が雷牙を襲う。
雷牙「ハァ…ハァ…!お、思い出した…!俺は……鬼乃子のシュートを撃ち返そうとした瞬間…急に意識が途切れて…!!」
雷牙は無意識のうちに忘れさせられてた記憶を取り戻すが、何故か母は溜め息を吐き、呆れた顔をしている。
雷夏「んな生優しいモンじゃないっての。
雷牙「……は?」
突然の母からカミングアウトに雷牙は腑抜けた返事をしてしまう。それもそうだ、雷牙がしていたのはサッカーだ。相手は人間兵器として生み出された存在であるが、それでもサッカーはサッカーだ。
少なくとも雷牙は、事故以外でサッカーの試合中に死んだ人間など聞いた事はない。常に常識を超える発想をする雷牙ですらも、にわかには母の言葉を信じられないでいた。
雷夏「嘘じゃないわよ。あんた、まだ前半の半分も経ってないってのに、身体に負担をかけ過ぎたでしょ?それだけじゃない、これまでも身体への負担を顧みないようなプレーを続けたせいで、そのツケが今になって回ってきたのよ」
雷牙「んな事…信じられるかよ…!!」
雷牙は母の言葉を必死に否定するが、彼女の目に嘘はない。そもそも、母はこんなつまらないジョークを言うような人ではない。
雷夏「…厳密にはまだ、あんたの心臓が止まってから現実世界では0.1秒すらも経っていないわ。丁度、鬼乃子ちゃんが撃ち返したシュートに蹴りを入れた直後ね」
雷牙「キノコ……鬼乃子……“雷帝”……ッ!!!」
生き別れた妹の名前がトリガーとなり、再度帝牙への憎しみが再発した雷牙は、母から物理攻撃が効かないと聞いたばかりにも関わらず殴り掛かろうとする。
雷夏「ちょっと落ち着きなさいって!!!ここはあんたの“走馬灯”!!今、目の前に居るステラくんと帝牙くんは過去の虚像でしかないのっ!!!」
雷牙「離せよお袋ォ!!!俺はコイツをブン殴らなきゃ気が済まねェ!!!コイツは俺を捨てやがったんだぞッ!!!」
不思議な事に暴走して力加減が出来なくなっている筈の雷牙は、どんなに力を入れても雷夏の手を振り切る事が出来ない。簡単に息子を押さえつけられるあたり、怪物兄弟の母は伊達ではないという事だろうか?
雷夏「いい加減に…!しなさいッ!!!」
雷牙「ブヘェ!!!?」
話を聞かない息子に剛を煮やした雷夏は、非常に美しい背負い投げで息子を投げ飛ばし、物理的に頭を冷やさせる。
雷牙「稲魂家秘伝の……“雷落とし”……ひ…久々に喰ら…った…!ガクシ…」
雷夏「聞きなさい雷牙ッ!!あんたが今、やらなきゃいけないのは自分を捨てた帝牙くんに復讐すること!?」
雷牙「ああ…!そうだよ…!アンタだって知ってるだろッ!?俺がどんだけ、親父の事を引きずってたのかくらいは…!!」
雷夏「ヘェ〜?だったら、あんたはもう“夢”なんてどうでもいいんだ?」
雷牙「夢……?」
『夢』 その一文字を聞いた雷牙は、ハッとなる。
雷牙「俺の……“夢”……」
雷夏「初心を思い出しなさいよ雷牙。あんたは、今まで“何”を目指して努力を重ねたの?まさか……私たちの為とか言わないわよね?」
雷牙「俺は……俺は……!!」
少年は過去を振り返る。
確かに自分の運命は呪われた
実の父からは自発的に捨てられ。
大切な人は悉くこの世から去っていき。
いつも自分はひとりぼっちだ。
雷牙「いや……!違う……ッ!!!俺はひとりぼっちなんかじゃねェ……!!いつも俺の側には……サッカーが居た……!!!仲間が居てくれた……!!!」
偶然出会った円堂から始まり、フィディオ…雷門のみんな…そしてライト…。
悲しい事も、辛い事もあったが、サッカーはいつも自分に寄り添い仲間達との“絆”を紡いでくれた。
雷牙「そうだ……!!!俺の“夢”は父親に復讐する事なんかじゃねェ…!!仲間達と一緒に…!“世界一”になる事…!!そして…!“
息子の魂の叫びを見た雷夏は、満足そうに微笑むと目尻に涙を浮かべながら力強く首を縦に振る。
雷牙「…ありがとよお袋。アンタのお陰で…本当に大切なモンを取り返せた…」
雷夏「うん…!それでこそ、あんたは“稲魂”を継ぐ者だよ…!!」
遂に復讐心を振り払い、己を取り戻した“怪物”は、最後の見納めと言わんばかりに若かりし実の父の顔を見る。
知らぬ間にステラと帝牙は話を終えていたようで、ステラは殺気の籠った目で帝牙を睨み付け、帝牙は光の灯っていない目で
雷牙「…なァ、お袋。アンタの知る俺の親父ってどんなヤツだったんだ?」
雷夏「…私がステラくんと帝牙くんと初めて出会ったのは高校生の頃…。既にステラくんの強さは日本にも知れ渡ってたからね〜。転校初日はそれはそれは大騒ぎになったっけ…」
昔を思い出した雷夏は懐かしむような目で、今ここに永遠の別れをせんとする夫と親友を見る。
雷夏「あの頃は本当に楽しかったな…」
雷牙「楽しかった…?」
母の口から出たのは『楽しかった』の一言。その言葉には、もう二度と戻ってこない黄金のように輝いていた青春への強い想いが込められていた。
雷夏「監督である帝牙くんが作戦を立てて、ステラくんはそれを実行する…。そしてコーチの私はステラくんに付いて行けるように他の選手を鍛える…。良い思い出ばかりじゃないけど、確かに私たちの“
雷牙「お袋…」
雷夏「…ちょっと話がそれたわね。私が知る帝牙くんは…すっっっごく真面目で努力家だったわよ。けど、少し気が弱くてね〜!いつも、自由奔放なステラくんに振り回されてたし、選手が指示を聞いてくれないこともあった」
雷牙「…それマジ?」
母の知る“雷帝”の人物像を聞いた息子は目を見開きギョッとしている。何せ、彼が知る“雷帝”という男は胡散臭さの権化のような男だったからだ。
雷夏「正直、私たちもなんで優しかった帝牙くんがあんな風になっちゃったのかは分からない…。ただ…せめて相談くらいはしてほしかった」
雷牙「……」
一通り父親の人物像を聞いた雷牙は帝牙へ視線を移す。またしても場面は変わっており、いつの間にか自分達の後ろへ移動していた帝牙は誰かを抱き抱えている。
雷牙「アレは…俺か…?」
雷夏「うっわ〜!懐かしい〜!!!そういや、あんたにもあんな可愛い時期があったわね〜!!」
雷牙「…うっせ」
窓の外を見ると、既に日は沈んでおり夜空に星々の輝きが彩られている。まだ2歳やそこらの幼児は寝る時間だろう。
帝牙「…さァ、雷牙。良い子はもうお休みの時間だ。パパが部屋まで運んであげよう」
過去の雷牙「やだ…まだねむくないもん…。もっと…ぱぴーとあそびたい…」
帝牙「……。ならば、
過去の雷牙「ほんとう?なら……ぱぴーのわがままをきいてあげる…」
父親との“約束”が余程嬉しかったのだろう。幼い頃から頑固だった雷牙は満面の笑みを浮かべ、素直に自室へ運ばれて行く。
雷牙「コレが……“約束”の正体か……」
走馬灯を通じて長い間記憶の奥底で眠っていた“約束”の正体を知った現代の雷牙は、想像よりもあまりに純粋で悪意の無い“約束”を前に言葉を失っていた。
雷夏「どう?雷牙?帝牙くんとの“約束”を思い出しても、まだ“夢”を追いかけられる?」
雷牙「……悪ィなお袋…。やっぱ、父親が憎いって感情は完全には捨てれそうにねェわ…。けど…!
忘却の過去を思い出しても己の“夢”を見失わなかった雷牙。すると、彼の身体が光の粒子なって消え始める。
雷牙「おわっ!?コレ…どっちだ!?戻れんのか!?あの世に逝くのか!?」
雷夏「さァ〜てね?私はただ迎えを任されただけだから分かんないわよ。…けど、エンマ様はあんたが来るのを拒んでるみたいね〜♪」
雷牙「だァァァーーッ!!もうッ!!!なんだその返答ッ!?結局、どっち何だよッ!?ってヤベェ!!もう半分くらい消え掛かってる!?」
魔が刺した母による悪質なジョークに翻弄される雷牙は、久方ぶりの母との話せる時間が残り僅かな事を悟る。
雷牙「なら…!コレが最後だお袋ォ!!俺は雷門のみんなと、んでライトと一緒に楽しくやってるからよォ!!!変に心配して妖怪なんぞに転生すんじゃねェぞッ!!!」
そう言い終わった瞬間、雷牙の身体は完全に光の粒子となって消滅し、走馬灯として現れた過去の虚像も崩壊する。
雷夏「グス…本当に…歳は取りたくないものね…。昔はここまで涙もろくなかったのに…」
息子との最後の別れを終えた雷夏は、血は繋がっておらずとも魂で繋がっていた息子へ母親としての
雷夏「雷牙っ!!私たちはちゃんとあっちであんたたちの活躍を見ているからねっ!!!これから先も辛いことや悲しいことはたくさんあるだろうけど…!!お母さんはあんたなら絶対に乗り換えられるって信じてるからっ!!!」
その
ただ……
母の想いは、“
……………
…………
………
……
…
雷牙「違うッ!!!」
鬼乃子「ッ…!?何この
“鬼”が撃ち返した灰色の魔弾が“怪物”を貫く直前…。フィールド全域に“怪物”の鼓動が響き渡る。
雷牙「確かに俺は…!実の父親に捨てられたかもしれねェ…!!だけどよォ…!!!」
心臓の鼓動が早まっていく度に、“怪物”が纏っていた気の鎧は鋼鉄の感触から清流の如き流動性へと変わり、白銀のオーラが金色の上に重なり合う。
雷牙「俺は稲魂雷牙だッ!!!お袋と…親父の血を継いでなかろうが…!!今も…昔も…!そして…コレからもッ!!!俺は…!“稲魂”の名を背負って生きていくッ!!!」
刹那、灰色の魔弾と“怪物”は、金銀と閃光に包まれる。その輝きの前では人智を超えた“鬼”ですらも視界を奪われなければならなかった。
雷牙「“ゴッドレグルス…!
閃光から生み出されし獣は、“限界”を超えた
鬼乃子「私のシュートを…!撃ち返した…!?」
“怪物”の脚により、三度撃ち返された必殺の一撃…。その速度は強化された筈の“鬼”の動体視力ですらも捉える事が出来なかった。
フォクス「……は?」
“鬼”の眼を以てしても見る事すら叶わなかったのだ。借り物の力を自身の力と勘違いする模造品如きが認識出来る筈がない。
円堂「変わった…!」
大介「遂に到達しおったか…!“限界”を超えた者だけが見る事の出来る“
“
雷牙「掛かってこいよクソ妹ッ!!俺とオマエ…どちらが真の“怪物”に相応しいか決めようぜッ!!!」
鬼乃子「・・・ハッ!!上等ッ!!!心ゆくまで思う存分果たし合おうよッ!!クソお兄ちゃんッ!!!」
己の過去を受け入れ覚醒を果たした“怪物”…。本当の戦いはここからだ。
死後もちょくちょく精神世界で息子達を助けてるステラと比べて、今の今までロクな出番が無かった雷夏なんですけど、その理由は黄名子との差別化の為なんですよね。
というのも、作者の中でイナイレの母親キャラってかなり頑張らないと黄名子の劣化にしかならないっていう謎の偏見があるせいで、今まで息子達を助ける役割をステラに集中させてたって訳です。
今回彼女を登場させたのは、味変…っていうか、作者が雷夏を書いてみたいって思ったからですね。今回の反響次第では雷夏の掘り下げもいつかするかも?
〜オリキャラ紹介〜
♦︎稲魂雷夏
ライトの実の母親であり、雷牙の義理の母。
彼女の実家も大のサッカー一家であり、“雷夏”という名前も雷牙の祖父・雷晴の大ファンであった父から名付けられた。
中学時代は全国でも有名なGKであったが、彼女の存在を邪魔に思った影山により大怪我を負わされ選手生命を絶たれる。しかし、サッカーの道を諦めきれず高校ではマネージャー兼コーチとしてサッカーに関わり続けた。
選手としてだけでなくコーチとしても非常に優秀であり、稲魂一家がイタリアに移住しようとしたのも、彼女がセイバーズのコーチとしてスカウトを受けた為。
性格は陽気ながらも気は強く、幼い頃から唯我独尊な性格だった雷牙すらも彼女には頭が上がらなかった。
雷牙を叱る事は多かったが、血の繋がっていない雷牙も実子と変わらない愛情を注いでおり、今も雷牙の根底には彼女の教えがある。