イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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いつか番外編かどっかで鬼乃子との共闘を書いてみたいな〜。

「オイ妹…。今だけは力を貸しやがれ…!」
「ハァ〜…ホンっト素直じゃないな〜私のクソお兄ちゃんは。まっ、アンタを倒すのは私だし、今だけは特別に力を貸してあ〜げる☆」

的な感じで。作者は好きなんだ、そーゆー因縁を超えた共闘ってヤツが。
あとシレっとチームG戦のタイトル変更してます(唐突)。


御業を“極”めし雷の牙

雷牙『俺の父親は…一体どんなヤツだ…?』

 

 お兄ちゃんからそう質問された時、ぶっちゃけ私は返答に困った。

 だってそうじゃん、よくよく考えてみれば()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

“雷帝”『ハッピーバースデー。今日は記念すべき日だよ。君がこの世に生を受けた日であり、私の計画が小さな一歩を踏み締めた日なのだから。それもただの一歩じゃない、小さくとも偉大なる栄光への道(グレートロード)への第一歩だ』

 

 私の最古の記憶は氷のように冷たい培養液の檻の中で微笑みかける“雷帝(パパ)”の姿。

 まるで、長い旅の末に自分の願いを叶えてくれる龍だとか壺だとかを前にしたように、あの人は目を輝かせてた。

 

 あんな目をしたパパの姿を見たのは、アレが最初で最後だったけど。

 

 そっから先は〜…シンプルに地獄だったね☆

 試作品段階だったRHプログラム(純正品)を受けさせられたり〜、認証実験と称して猛獣がうじゃうじゃいるサバンナでサバイバルさせられたり〜。

 ハァ……もうヤメよ、この話は…。喋ってるウチにますます怒りが湧いてきた。

 

 なにがムカつくってさァ、私目線じゃ親子の情なんて最初からありやしないってのに、あの人は頑なに父親を演じ続けてる所なんだよね。

 

 笑っちゃうよね〜!仮にも血の繋がった実の娘を実験台(モルモット)にするようなヤツが父親であろうとしてるんだよ?ココまで支離滅裂な行動をされちゃあ、怒りを通りこして呆れるしかないっての。

 

ーー“その時”が来たら、後は己の心に従いたまえ。それは間違いなく、君が仮初の人生で初めて手に入れる“本物”なのだから。

 

 最っ悪…。色々考えちゃったせいで、()()()()()を思い出しちゃったじゃん…。

 

 ねェ、教えてよパパ…。アンタにとって私は一体なんなの…?

 

 そもそも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンタは何者なの?

 

♢♢♢

王将『ゴオォォォォルッ!!!遂に…!遂に…!イナズマジャパンの得点だァァァ!!!目にも止まらぬ電光石火の速さで、チームGからゴールを奪ったのは、この男ッ!!稲魂雷牙だァァァ!!!』

 

『よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 遂に同点にまで追い付いたイナズマジャパンは、腹の底から大声を上げ“怪物”の得点を大喜びする。

 

雷牙「……」

 

 “兆”へと覚醒した雷牙は、その瞳に金剛石の如き輝きを浴びた眼で妹を見つめる。

 

鬼乃子「いい…!いいよ…!!流石はお兄ちゃん…!前よりもずっと速くなってる…!」

 

雷牙「…たり()ェだ。俺に限界なんぞ存在しねェ、常に“最高到達地点(ゼンリョク)”を更新し続ける…!それが俺の“兆”だ…!!」

 

鬼乃子「そっか…。けど、()()()()()()()()()()()?」

 

雷牙「……」

 

 妹の“傲慢”に対して、兄は沈黙という形で肯定する。

 決して勝てないとは思っていない。ただ……()()()()()()()()()()()()()。敗北を経て新たな“百鬼狂乱(かなぼう)”を手に入れた明星鬼乃子には。

 

雷牙「……にひっ!」

 

 それでも雷牙は笑う。残酷な現実を前に自暴自棄になった訳ではない。

 “怪物”は喜んでいるのだ、自分はもっと強くなれるのだ……と。

 

雷牙「なら、先に言っといてやんぜ…!今の俺は……オマエさんにゃあ、負ける気がさらさらしねェ…!!!」

 

 宣戦布告を終えた両者は、同色の輝きを放つ藍眼を以てバタバタに睨み合う。

 

 彼ら風に言うならば……第二ラウンドはここからだ。

 

ピーッ!!!

 

王将『さぁッ!チームGのキックオフから試合が再開ですッ!!イナズマジャパンに同点を許した彼らは一体どんな立ち回りを見せるのでしょうかッ!?』

 

 チームGのキックオフから試合が再開する…が、どうも黒衣を包んだ兵士達の顔は浮かない。

 それもそうだ、兵士達の生殺与奪の権を握っているのはそこの玉座(ベンチ)でふんぞり返っている悪の帝王だ。

 

ヘンクタッカー「お前達ッ!強化人間としてコレ以上の失態は許されませんッ!!徹底的にエンドウ・ダイスケの後継者達を潰し、勝利をもぎ取るの出すッ!!!」

 

『ラジャー!!!』

 

 スコーピオの軽いパスがコヨーテに渡り、点を取り返すべく黒衣の兵士達による猛攻が始まる……

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もがそう思っていた…。だが……

 

鬼乃子「邪魔」

 

コヨーテ「ヌオォォォ!?」

 

 なんと、キックオフ早々、味方である筈の鬼乃子が殺意の籠ったスライディングでコヨーテから強引にボールを奪ったのだ。

 

王将『な、なんとォォォォ!!?明星鬼乃子が味方から強引にボールを奪ったぞォォォォッ!!?これはチームGの作戦なのかァ!?それとも彼女個人の判断なのかァァァァッ!!?』

 

不動「ケッ…。あんな脳筋野郎が深い事考えてる訳がないっての…」

 

 凄まじいスピードでフィールドを駆ける“鬼”の藍眼に映るのは、歪な形で血を分けた兄のみ。

 敵陣には他に10人もの侍達が“鬼”に対して敵意の眼差しを向けているが、彼女からしてみれば兄以外の選手など存在しないも同然だ。

 

雷牙「スゥー…。フンッ!!!」

 

 妹の敵意を察知した“怪物”は軽く一呼吸を行うと、肺から空気が放出されると同時に陽炎のように朧げに揺らめく気の柱が天に向かって穏やかに立ち昇る。

 

シュンッ!!!

 

 その瞬間、風切り音が木霊したと思うと“怪物”は姿を消す。

 

鬼乃子「アハハハハッ!!!!速い早いッ!!!もうノーマルの私じゃ、目で追えないよォ!!!だ〜か〜ら〜……“百鬼狂乱ッ”!!!!」

 

 超次元へ到達した兄を超えるべく、“鬼”もまた身体から黄緑に輝く膨大なオーラを放出し、兄と同等の領域へと到達する。

 

鬼乃子「視えたッ!!!そこォッ!!!」

 

雷牙「ハッ…!大当たりィ…!!」

 

 まるで分厚い鋼鉄の刀が衝突し合ったような轟音が鳴り響く。当然、その音源は“怪物”と“鬼”の右脚だ。

 真円状である筈のボールを楕円形に大きく歪ませているあたり、両者の力は完全に互角である事がよく分かる。

 

鬼乃子「ねェ、お兄ちゃん?日本には“鬼に金棒”…“猫に小判”ってことわざがあるよねェ…?なら…今の鬼乃子ちゃんはなんて言うべきかなァ…?」

 

雷牙「ハッ…!生憎、諺なんぞに興味は無いんで知らねェなァ…!!ただ……“鬼に金棒”と“猫に小判”の意味は全っ然違うぜッ!!!」

 

 刹那、ボールを起点に強烈な衝撃波が発生し“怪物”と“鬼”を振り払うも、即座に彼らは体制を立て直し、再度ボールと共に姿を消す。

 

風丸「まだ消えたッ!」

 

鬼道「違うッ!速すぎるあまり、俺達の動体視力では追いつけないんだッ!!」

 

ヘンクタッカー「馬鹿な…!?イナズマジャパンはまだしも、超兵士である我々ですらも目で追いきれないだと…!?」

 

 もう誰にもサッカーという形式で繰り広げられる史上最大の兄妹喧嘩を見る事は叶わない。

 しかし、地上…そして時たま空中にて聞こえてくる轟音は、彼らがどれだけ激しい戦闘を繰り広げているかを簡単に夢想させてくれる。

 

雷牙「しゃおらァッ!!!!」

鬼乃子「しょうらッ!!!!」

 

 ようやく仲間達が“怪物”と“鬼”の姿をハッキリと目で捉えられた時、彼らは空中にて渾身のシュートを全く同じタイミングでボールに叩き込んでいた。

 

不動「また互角か!?」

 

熱也「いや…!稲魂が僅かに押してやがるッ!!」

 

 “鬼”の金棒と比較すると、遥かに薄く小さい筈の“怪物”の刀はその切れ味だけで不利な筈の前提条件を見事に覆した。

 

鬼乃子「アッハハハハハッ!!!なにその力ッ!!!戦えば戦う程、強くなっていくじゃんッ!!!まるで、人間発電所にさァ!!!」

 

雷牙「その通りだよォ…!!!ライトから教えられたんでなァ…!“本能”のみに突き動かされる力には…上限が無いって事をなァ…!!!」

 

 未完成といえど意識と肉体を切り離す事で、無駄な思考を徹底的に排除し“本能”だけで身体を動かす、未来から授けられた究極の極意“究極兆限界突破(ビフォアー・ホライゾン)”。

 その真価は、戦えば戦う程まるで敵を砥石代わりにしているかのように動きが洗練されていき、攻撃に鋭さが増す事にある。

 

 今の“怪物”は、オルフェウスとの試合の“怪物”よりも遥かに強く、“百鬼狂乱”を発動した“鬼”と完全に互角…いや、それすらも上回る領域へと至っていた。

 

鬼乃子「…その力には上限はない…か。本当にスゴいよアンタは。認めてあげる、アンタの発想力は間違いなく世界で1番だよ。凡人じゃ、“ゾーン”を極めて終わるところを、アンタは更にその先を目指した…。その発想力と努力は私にその顕現があったら、金メダルをくれてやりたいくらいだよ」

 

雷牙「ヘェ〜?光栄だねェ、まさか反抗期真っ盛りの妹からココまで称賛されるなんてなァ…」

 

 “怪物”が物珍しそうに“鬼”を見るように、彼女自身も内心では自分自身に驚いていた。

 “強者”として()()()()明星鬼乃子という人間は、あまりにも傲慢である。しかし、それに見当たった強さを持ち、常に自身に仇なす敵を完膚なきまでに粉砕してきた。

 それ故に、誰かを認めるという発想すら存在せずに12年もの歳月を死んだように生き続けてきた。

 

 ……だからこそ、生き返る為の手段でしかなかった兄を心の底から認めたからこそ、彼女は言葉を続ける。

 

鬼乃子「だけどさ〜……本気を出していないのがアンタだけだと思った?」

 

 凍るように冷たい声で。

 

鬼乃子「ハァァァァァ……!!!グルル…!!!!!ウワァァァァァアアアァァァァァァーーーーーッ!!!!!!」

 

 少女の狂気的ともいえる叫びが、フィールドを超え、屋敷を超え、数十kmにも及ぶ森林一帯へ響き渡る。

 

ーーそれが“アナタ()”の本当の望みなの?

 

 一瞬飛びかけた意識の中、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。

 

鬼乃子「“百鬼狂乱ッ!!限界突破(オーバー・ハンドレッド)ォォォッ”!!!」

 

 “鬼”にはまだ上の次元があった。別に手を抜いていた訳ではない、この次元はまだ未完成…特に強すぎる力の扱いが不安定であるが故に、下手すれば相手を()()()()()()形態だ。

 

 いざとなれば非情な決断を厭わない少女であっても、文字通りの意味で兄の命を奪いたくはない。

 それでも少女はこれを解禁した。その意味は……彼女なりの礼儀なのだろう。

 

目金「も、もうダメです…!い…意識…が…」

 

バタンッ!

 

音無「わた…し…も…」

 

 “鬼”から発せられる絶大な殺気(プレッシャー)に耐え切れなかった者は、まるで現実から逃げるように意識を失っていく。

 非戦闘員であるマネージャーは元より、完成品のRHプログラムを受けていながらも力の劣るベンチウォーマー達、そしてガルシルドの身を守っていたボディガードも強制的に気絶させられる。

 

 辛うじて意識を保っていられる者達ですらも、保つだけで精一杯でありその場から動く事すら出来なかった。

 

 最早、サッカーという枠組みすらも超え一体の生物超兵器が生み出した殺気の大嵐…。

 では、その渦中の中心にて誰よりも強い影響を一身に受けている筈の“怪物”はどうなっているのだろう?

 

雷牙「……」

 

 “怪物”は言葉を発しない。瞬きもしない。動きもしない。

 

 彼はただその場で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷牙「やっぱり…面白ェよなァ…!サッカーってのは…!」

 

 微笑んでいた。それもただ微笑んでいるだけじゃない。

 

 目の前に広がる光景がまるで地平線いっぱいを埋め尽くす草原であるかのように。

 

 目の前に居る“鬼”がまるで兄に遊んでと駄々をこねるお転婆な妹を見ているかのように。

 

 なんて事はない、ごく普通の風景だと言っているかのように“穏やか”に微笑んでいた。

 

鬼乃子「コレを使ってもまだ余裕を見せてられる胆力だけは褒めたげるッ!!!けど……!コレはどうかなァ!!!?」

 

 いつまで経っても自分を見下したように、心が靡かない兄に剛を煮やしたのだろう。

 本来ならば限界を超えた()()で済ませる筈だったこの勝負に、最後を締めくくるに相応しいスペシャルゲストを呼び出す。

 

鬼乃子「レディースアーンドジェントルメーン!!!さァさァ、お立ち合いッ!!!コレより降臨するのは、数多の魑魅魍魎を束ねし“百鬼王”……が住まう世界の城門ッ!たかが城門、されど城門!!扉越しから伝わるその怖さ……ヤバすぎMAXッ!!少々前置きが長くなりましたが、それではお越しいただきましょうッ!」

 

 人をおちょくるように長い文言を終えた“鬼”は、これから自分の肉体にどんな負荷が掛かるか分からない“未知”に恐怖ではなく興奮を覚えながらも、スペシャルゲストの名前を呼ぶ。

 

鬼乃子「“百鬼ヶ王…!モノセロスッ”!!!」

 

 フィールド上に、百体もの鬼の石像で構成された形容し難い形状の物体が顕現する。

 “それ”に口は無く、目も無く、そもそも頭部に該当する部位は初めから存在しない。あまりに無機質な岩石の巨兵…それが彼女の化身の評価だ。

 

 にも関わらず、中央に取り付けられた巨大な扉…厳密にはその奥に居る“何か”から発せられる威圧感を前に、吹き飛びかねない意識に凍るように冷たい寒気が追加されてしまう。

 

雷牙「ハッ…。たださえ負担の大きい形態に、化身までも重ね掛けするたァ…随分と追い詰められちゃってるみてーだなァ…?」

 

 しかし、己に降り掛かる悪魔のような現実を前にしても“怪物”の水面は揺らぐ事は終ぞ無かった。

 

鬼乃子「……もういいわ。ココまでビビらないのは褒めてあげるけど、しょせんはそれだけだし。そもそも私の目的はアンタに勝つこ「…()()()()()()?」……は?」

 

 “怪物”は妹の言葉を遮り逆に問い掛ける。

 

雷牙「ずっと疑問だったんだ…。どうしてオマエさんはそこまで俺に固執する…?単に兄貴である俺ちゃんに勝ちてェだけだったら、仲間と協力するなり幾らでも方法はあった筈だ。俺には分かる、オマエさんは我儘少女(エゴイスト)ではあるが、連携が出来ない程エゴっちゃいねェ。けど…オメーはあくまで俺との1対1での決着を望んでる…」

 

鬼乃子「ッ…!そ、それは…!」

 

 これまで“無邪気”という名のポーカーフェイスで本心を隠していた“鬼”の口が初めて震える。

 …いや、『父親の執着対象である兄に勝って、父親すらも否定し本当の“人生”を得る』…それ自体は間違いなく彼女の本心だ。

 だが…少女は兄の言葉をその小さな胸を張って否定する事は出来なかった。どうして否定出来ないのか…?その理由は彼女自身も分からない。

 

雷牙「…もしかして、オマエは()()()()()()()()()()()()?端から俺に勝つなんざどうだっていい…。ただ……血の繋がった兄貴である俺と本気のサッカーをしたかっただけなんじゃねェか?」

 

 “空虚感”

 

 それがイタリアエリアにて初めて妹と会った時に“怪物”が感じた第一印象だ。

 

 初めはその感情が、強すぎるあまりの孤独感から来ているのだろうと思っていた。

 

 だが、臨死体験を経て心から妹と向き合うと決めた今の“怪物”は、自身の考えは大きく間違っていたと痛感している。

 

 自分はあの日からずっと“鬼”の後ろ姿を追いかけていたと思い込んでいた。自身の栄光への道(グレートロード)の遥か前方には“鬼”が猛スピードで走っているのだと。

 

 しかし、()()()()()()()

 

 “鬼”は……妹は……明星鬼乃子は…… ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 じゃなきゃ説明が付かない。

 

 “百鬼狂乱”が“獅風迅雷”と酷使している理由が。

 

 血の繋がりのないステラの得意技を使っていた理由が。

 

 そして……

 

 己よりも強くとも、頑なに“兄”と呼び続ける理由が。

 

鬼乃子「違う…!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッ!!!私はただ否定したいだけなのッ!!!アンタの……お兄ちゃんの……!()()()()()()()()()()()()()()ッ!!!」

 

 衝撃のカミングアウトが妹の口から飛び出す。幸か不幸か、彼女の発言は殺気の乱気流により目の前の兄を除いた外部に漏れる事はなかった。

 

 “模造品”…。その意味が文字通りなのか、比喩なのかは“怪物”には分からない。

 

 ただ…ほんの一瞬だけ心の水面が揺らぎそうな程の衝撃すらも、抑え込んだ“怪物”はゆっくりと一歩を踏み出す。

 

雷牙「悪ィが今は何が正しくて間違っているかなんざ、道端に転がってる小石みてーにどうだっていい…。ただ……俺は()()()()()()。舐めプだとかの意味じゃねェ。互いの“最強”を余す事なく出し尽くし、決められた規則(ルール)の範疇で魂をぶつけ合う最高の“遊び”…!それが俺のサッカーだ…!!!」

 

 『サッカーとは誰かを悲しませる物ではなく、笑顔にさせる為の物』

 

 これは雷牙の思想ではなく、自身が背中を任せ100%の信頼を置く、宇宙一のサッカーバカの格言(ことば)だ。

 自身の心を救ってくれた恩人の格言(ことば)を誰よりも信じる“怪物”からすれば、今行っている試合が、世界の平和を賭けた運命の一戦であっても、生き別れた妹との因縁の対決であっても……

 

 “怪物”が信じている限り、『遊び』でしかないのだ。

 

鬼乃子「バっカじゃないの…?そんな軽い気持ちで私に勝てると本気で思ってんの…?」

 

雷牙「さァてねェ?勝てるかもしんねェし、勝てねェかもしんねェ…。だけんど、肝はそこじゃねェのさ。『遊び』だからこそ、俺は全身全霊を以て戦えるのさ。だってそうだろ?勝負の度にイチイチ“生きる”か“死ぬ”かなんて考えてたら、出せる全力も出せねェじゃねェか?少なくとも俺ちゃんは、そんな息苦しそうな思想(イズム)に囚われるのは、死んでもゴメンだね」

 

 金剛石のように輝く“怪物”の瞳には一切の曇りは無い。

 寧ろ、“遊び”の何が悪い?と言わんばかりの呆れ顔で、妹を見つめてさえいる。

 

雷牙「さてと…。少し話が長くなっちまったなァ…!そろそろ始めようぜ…!俺とオマエ……史上最大の兄妹喧嘩の続きをよォ…!!!」

 

鬼乃子「もう……なにがなんだか分かんないや……」

 

 “怪物”はその身に宿したオーラを更に煌めかせながら戦闘体制に入る。“鬼”もまたその胸に『迷い』を抱きながらも、父親に続き兄すらも否定するべく構えを取る。

 

 あまりに長い前置きを経て遂に対峙する兄妹…。それでも勝負が付くのは一瞬だ。

 

雷牙「デェリャァァァァァッ!!!!」

 

 先に仕掛けたのは、足元にボールを持つ“怪物”だった。

 純粋な脚力だけで、文字通りの音すらも置き去りにする速度へ達した“怪物”は直線的ながらも複雑な軌跡を描きながら、“百鬼王”を顕現させた“鬼”へ向かう。

 

鬼乃子「もう考えるのはやめたッ!!!私はアンタを真正面から粉砕して、パパを否定するッ!!!そして……私自身の人生を取り戻すんだッ!!!」

 

 少女な悲痛な叫びに呼応するように、百鬼王が住まう世界に通じる扉が開かれる。

 中から這い出て来るのは、地獄の業火で焼き尽くされたかのように灰色に燃え尽きた不定形の妖の大群。

 形無き、色無き、妖達はまるで“何か”に命令されたかのように一目散に“怪物”へ襲い掛かる。

 

雷牙「ゲハハ……クハハハ……!ハーハッハッハッハッ!!!!!楽しいィ!!!楽しいぜェ!!!こんな絶対絶命の大ピンチだってのに、笑いが止まんねェよォ!!!」

 

 しかし、“怪物”は高笑いをしながら妖達の攻撃を全て紙一重で避けていく。

 ただ避けるだけじゃない。時には踏み付け、時には的確に急所を狙いカウンターまで決める。

 そこに思考の類は一切存在せず、ただ“本能”が赴くがままに勝手に身体が動いているだけだ。

 

豪炎寺「何だ…!?一体、竜巻の中で何が起こっている…!?」

 

鬼道「戦っているんだ…!稲魂が…たった1人で明星鬼乃子と…!」

 

 “鬼”の殺気が形となった乱気流の壁に阻まれ仲間達は中の様子を見る事は叶わない。

 だが、姿見えずとも彼らは祈る。最高にして最強のチームメイトの勝利を。

 

鬼乃子「ただ躱わすだけでいいのかなァ?お兄ちゃん!!!例え、“モノセロス”の攻撃を全部避けれたとしても、まだ私が居るよォ!!!私との勝負するくらいの体力は残しといてよねェ!!!」

 

 化身による激しい攻撃を受けても、まだこれは第一陣でしかない。

 運良く全ての攻撃を避けて前進出来たとしても、一歩でも“鬼”の射程範囲に足を踏み入れれば、右脚に宿した金棒での一撃を喰らうだろう。

 

 そんな事は彼とて理解している。おかまない無しに1m…2m…3m…と“怪物”はドンドン“鬼”の縄張りに近付いて行く。

 

 だが……

 

雷牙「見えたぜェ…!雷牙サマのヴィクトリーロードがなァァァァッ!!!!」

 

 意味不明な台詞を吐いた“怪物”は、地面を力強く蹴り上げ飛翔する。

 その姿は天馬(ペガサス)のように美しく、不死鳥(フェニックス)のように優雅だった。

 

鬼乃子「飛んだ……?」

 

 突然の兄の行動に“鬼”はつい呆気に取られてしまう。何せ、空中では動きは大きく制限されてしまう。

 それは兄が“怪物”だろうが関係無い。この世界が物理法則によって支配されている限り、逃れる事は出来ない世界の理なのだ。

 

鬼乃子「最後の最後で判断ミス!?やっぱりアンタは大バカじゃんッ!!!」

 

雷牙「違うなァ!!!この超天才である雷牙サマに判断ミスだとか計算ミスは無ェんだよォ!!!俺の思想は世界の真理ィ!!俺の判断は勝利への方程式の答えなんぜェェェェェ!!!!!!」

 

 音速のスピードを維持したまま飛翔した“怪物”は、更に加速されその身全体を金銀の弾丸へと変える。

 

 まるで太陽かと見間違うような輝きを放つ弾丸……。その行き先はまさかの……。

 

雷牙「アポ無しですまねェが、用があるんでなァ!!!お邪魔させてもらうぜェ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“百鬼王”サマのご自宅になァ!!!」

 

 “モノセロス”の内部だった。

 

雷牙「突入ーーーッ!!!!」

 

 金銀の弾丸が妖達を除霊しながら、扉の中へ入る。すると、忌まわしき“怪物”を封印するかのように城門が閉じられ強固な鍵が掛けられる。

 

鬼乃子「うっそ…!化身の中に入っちゃった…!?」

 

 流石の“鬼”も兄のイカれているとしか言えない行動に唖然としてしまう。本体である少女とて化身の内部がどうなっているのかは知る由も無い。

 そもそも、本当に“百鬼王”が支配する世界に繋がっているのかすら不明なのだ。彼女が混乱するのも無理はない。

 

 思わぬ形で幕を閉じてしまった因縁の対決…。勝利を収めながらも、兄にただ翻弄されるだけだった現実を前に、“鬼”の中にある闘争心の炎が弱まり、周囲を包み込んでいた乱気流も消えて行く。

 

鬼道「嵐が収まっただと…!?一体、どうなったんだ…!?」

 

豪炎寺「ーー!!! お、おいッ!!見ろッ!雷牙が居ないぞ…!?」

 

 誰も“怪物”が殺気の乱気流を突破してゴールまで辿り着いた光景を見ていない。かといって、まだどちらのゴールにもボールは入っていない。

 事情を知らない彼ら視点からすれば、稲魂雷牙が消えたも同然なのだ。

 

鬼乃子「バっカじゃないの…?あんなことをしでかすなんて…」

 

豪炎寺「おい!!雷牙はどうした!?あいつを何処へやった!!!」

 

鬼乃子「……信じてもらえないかもしれないけどさァ…。お兄ちゃんはーームグゥ!?」

 

 “お兄ちゃんは化身の中に飛び込んで行った”ーー荒唐無稽にも程がある事実を伝えようとした瞬間……

 

鬼乃子「なに……コレ……!?身体の中……で…!“何か”…が…暴れてる……!?」

 

 “鬼”の体内にて小人か何かが暴れ回るような苦痛に襲われる。

 本体の苦痛に呼応するように、“怪物”を喰らったばかりの異空間への扉も苦しみ始め、徐々に膨張していく。

 

鬼乃子「まさか……!」

 

 苦痛の正体を察した少女は急いで扉を開こうとするも、“彼”には出口など不要であった。

 

???「チェストォォォォォォーーーッ!!!!」

 

 “百鬼王”が住まう異空間への扉は、侵入者により内部から破られ爆散する。

 数トンものTNTを起爆したかのような大爆発から飛び出したのは……

 

豪炎寺「なんだ……!?()()姿()は……!?」

 

 ある戦友は彼を“神”に見間違えたという……

 

ヒロト「まだ彼にこんな力が……!」

 

 ある戦友は彼を宇宙からの“来訪者”に見間違えたという……

 

 そして…。ある親友は彼を……

 

円堂「へへっ…!信じてたぜ…!

 

 

 

 

 

雷牙っ!!!」

 

 “稲魂雷牙”その人であると確信したという。

 

雷牙「ハァァァァァッ!!!!」

 

 爆風の中より飛び出した“怪物”…。だが、その姿は皆の記憶にある姿とはやや異なる。

 

 亡き父と兄の面影を見出す為に人工的に染めた金色の髪には、まるで調和するように一部が白銀に染められ……。

 

 金剛石の如き輝きを放っていた瞳は、更に輝きを増し……。

 

 流水の如き流動性を持っていた気の鎧は、より一層洗練されまるで蛍のように“怪物”の周囲を漂う。

 

 “怪物”は自身の身に起こった変化をしかと実感し、未来の壁を飛び越してくれた肉体に感謝するようにその名を呼ぶ。

 

雷牙「“獅風迅雷……!究極極限界突破(ビヨンド・ザ・ホライゾン)”……!!!」

 

円堂「遂に…!完成させたんだな…!雷牙…!!!」

 

 “兆”を超え、完成系たる“極”の領域へ辿り着いた“怪物”は、天より下を見下ろす。

 その目に映るのは、目標の到達を祝福する仲間達と、“怪物”の覚醒を前に冷や汗を流しながら焦る外道達。

 

 そして……

 

 苦痛に悶え苦しみながらも、何故か()()()()()()()()()()

 

雷牙「……」

 

 “地平線(ホライゾン)”に辿り着いた“怪物”は、まるで世界が自分中心に回っているような高揚感を噛み締めつつも、力を持つ者としての役割を果たすべく、その身に獅子王(レグルス)を宿す。

 

雷牙「“ゴッドレグルス……。GoB(ゴー・オーバー・ビヨンド)ォォォォォォーーッ…!!!」

 

 一切の無駄の無い洗練されたシュートフォームから放たれた稲魂雷牙最強最高の一撃は、これまでの次元を超えていた。

 

ズガァァァァン!!!

 

 “怪物”の脚からシュートが放たれたと()()()凄まじい轟音が轟く。

 それが示すのは、どういう事なのかは…もう言うまでもないだろう。

 

ピーッ!!!

 

 チームGのゴールネットにボールが収まっている……それだけを確認した古株は笛を鳴らしイナズマジャパンの得点を確定させる。

 

王将『ゴ、ゴオォォォォル!!!新たな境地へと覚醒した稲魂がァ!!!再びゴールを破ったぞォォォォォォッ!!!!これでイナズマジャパンは2点目ェ!!!まさかのリードだァァァァ!!!』

 

ガルシルド「馬鹿…な…!?」

 

 またしても自慢の強化人間が手も足も出なかった事実を前に、それまで“余裕”を支え続けていた土台が音を立てて崩れ始めたガルシルドは、強烈な目眩に襲われる。

 

 友の覚醒を喜ぶイナズマジャパン。

 

 目の前の現実を受け止められないチームG。

 

ピッ!ピッー!!!

 

 そんな彼らを尻目に二度ホイッスルが鳴らされ、前半戦の終了が告げられる。

 

 その中で……

 

鬼乃子「やっと…!見つけたァ…!」

 

 “鬼”は心の内に潜んでいた“何か”を見つけていた。




なんか最終回1話前みたいな雰囲気を出していながらも、まだ前半戦が終わったばっかです。
なんとか雷牙が鬼乃子に匹敵する力を得たから、これでようやく後半戦から他のメンバーにまともな出番を与えられる…。特に円堂。
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