イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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雷牙ってイマドキの創作には珍しいくらい恋愛要素もハーレム要素も無いけど、一応“Hなハーレム”要素自体はあるんだよね。『変人ばっか寄ってくる』のHだけど。


共鳴:『IF(もしも)の世界』があったなら

鬼乃子「ココ…は…?」

 

 瞼から漏れ出る優しい光と背中から伝わる不可思議な感触により鬼乃子は目を覚ます。

 

鬼乃子「ん…?コレって…雑草…?」

 

 起き上がった瞬間、手に触れたのは青々と生い茂る雑草。だが鬼乃子は雑草の存在に首を傾げる。

 だって、さっきまで自分がイナズマジャパンと試合をしてたのは、経費をケチった故に草一つ無い土のグラウンドだった筈だから。

 

鬼乃子「いや違う…。そもそもココは()()()()()()()()()()()()…?ココって…!」

 

 彼女は“この場所”に来た事は一度も無い。だが、情報として“この場所”は知っている。

 

鬼乃子「稲妻町の…河川敷…?」

 

 そう。鬼乃子が腰を下ろしていたのは、雷門イレブン縁の地である稲妻町の河川敷だった。

 

 正確な場所を理解したが故に鬼乃子は余計に混乱してしまう。

 それもそうだ。ブラジルエリア…もっと言えば、ライオコット島から日本までは数千kmも離れているのだから。

 

 すると……

 

???「おっ、いたいた。よかった〜、()()()()()()()()()。コレで来てくんなかったら泣いちゃってたね、ホントに」

 

 混乱している鬼乃子の耳に、他人の遅刻にはうるさい癖に、いざ自分が遅刻するとなれば1分も1時間も変わらないと平然と言い放つような太々しい声が届く。

 

 その声を鬼乃子はよーーく知っていた。今度は情報ではなく経験として。

 

 だって彼こそは……

 

鬼乃子「お兄……ちゃん……?」

 

雷牙「オッス!」

 

 先程まで死闘を繰り広げていた筈の兄・稲魂雷牙だったのだから。

 

………

……

 

雷牙「ほいっ!!!」

 

パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!

 

雷牙「しゃあッ!8連鎖ァ!!!どーよ鬼乃子ッ!お兄ちゃんの実力はよォ?」

 

鬼乃子「…ノーコメントで」

 

 気付けば雷牙は水切りに興じていた。

 厳選に厳選を重ねた摩擦抵抗が少なそうな平べったい石は、水上で八度のステップを刻んだ末に水中に沈み、その役目を終える。

 

鬼乃子「…ねェ」

 

雷牙「いや〜、やっぱ俺ちゃんって水切りでも天才か〜?こりゃ、“サッカーモンスター”に続いて“水切りモンスター”を名乗れるかもな〜!略して……水モン?」

 

鬼乃子「ねェってば!!!」

 

 いつまでも自身の問い掛けを無視し続ける兄に、遂に堪忍袋の緒が切れてしまった鬼乃子は声を荒げてしまう。

 

雷牙「ハァ〜…うるっさ…何?流石のお兄ちゃんも鼓膜までモンスター級じゃねェんだけど」

 

鬼乃子「つまんないジョークなんか言ってないで、私の質問に答えてよ。…ココはどこなの?」

 

 普段の飄々とした態度が嘘のように、警戒した態度を取り続ける鬼乃子だが、それも仕方ないだろう。

 地頭は良くとも細かい物事を考える事はそこまで好きではない鬼乃子も、少なくとも“この場所”は本当の稲妻町ではない事だけは察していた。

 

 だとすると目の前の兄は偽物の兄である可能性が高い。強い警戒を露わにするのは当然の摂理だ。

 

雷牙「つまんないって…。…ハァ〜…。俺だってよく分かんねェーよ。“極”の時間切れがきて気絶する直前によォ、“()()()”を強く祈ったら、いつの間にココに居た。それ以上でもそれ以下でもなし」

 

鬼乃子「あること…?」

 

雷牙「…まっ、ちょっと歩こーぜ。俺の目的はオイオイ話してやっから」

 

鬼乃子「…一応聞くけど、アンタは本物のお兄ちゃん?」

 

雷牙「当っ然!俺は世界に1人しかいねェーよ。完璧に俺ちゃんになりきれるヤツが居るってなら、お目にかかりてーモンだな」

 

鬼乃子「…それは確かに」

 

 その言葉には不思議と非常に強い説得力があった。

 本人の言う通り、癖が強いにも程がある雷牙を正確に演じられる人間などこの世にはいないだろう。

 

 特に否定する証拠も無い鬼乃子は、一旦目の前の兄を信用する事にし後ろを付いて行く。

 

………

……

鬼乃子「フ〜ン…。ココが稲妻町か〜」

 

 河川敷を出発した2人は、稲妻町の街中を散策していた。

 しかし…普段はそれなりに活気に溢れる街には、彼女達以外の()()()()()()

 

 異常としかいえない光景を前にしても、鬼乃子は持ち前の神経の図太さでそーゆー世界なのだと割り切っていた。

 

雷牙「あン?その口ぶりからして、来た事ねェのか?」

 

鬼乃子「…正確には一度だけ来たことがある。円堂パイセンに喧嘩を売った時にね」

 

雷牙「あ〜、あの時ネ。懐かしい〜、あの後の守マジで大変だっただぜ〜?」

 

鬼乃子「んなモン、私の知ったことじゃないっての。むしろ感謝してほしいくらいだけど?私のおかげで円堂パイセンはアソコまで強くなれたようなモンだし」

 

雷牙「ハハハッ!違いねェや!!」

 

 妹の返答がツボに入ったのだろう。雷牙は口を大きく開けて天に向かって笑う。

 その笑顔にはさっきまで苛烈な死闘を繰り広げていたにも関わらず、“怒り”や“敵意”といった感情は感じられない。

 

 目的なき旅路を続け、何気ない会話を交わすその姿は、まるで本当の“兄妹”のようだ。

 

雷牙「ストーーップ!!!」

 

 そして、商店街に入りある程度直線に歩いたところで、突然雷牙は歩みを止める。

 

雷牙「ジャジャンッ!!!ココが我らが監督、響木監督の居城であり、俺ちゃん御用達のラーメン屋!雷雷軒ですッ!!!」

 

 雷牙がハイテンションで紹介するのは、良く言えば味のある趣、悪く言えばボロっちいラーメン屋。

 だが、そんな店ですらも彼にとっては青春の1ページと言っても過言ではない存在だった。

 

鬼乃子「うわボッロ…」

 

雷牙「ノンノンノン!!こーゆー時は気を利かせて味のある店って言うモンだぜ〜?それじゃ、隠れた名店へレッツらゴ〜!!」

 

ガラガラガラッ!!!

 

鬼乃子「まァ…当然、人は居ないよね…」

 

 勢いよく扉を開け店内に入る兄妹だが、店内には常連客である鬼瓦はおろか、オーナー兼唯一の従業員である響木すらもいない。

 

鬼乃子「料理人が居ない店って飲食店って呼べるの?コレって新手の嫌がらせ?それともアンタがラーメンを作ってくれんの?」

 

雷牙「まぁ見てなって。ホレ!!」

 

パチンッ!!!

 

 雷牙が指パッチンをした瞬間、鬼乃子の目の前にホカホカのラーメンが一杯出現する。当然、隣で座る雷牙の前にもだ。

 

鬼乃子「…アンタ、いつから魔法使いになったの?」

 

雷牙「細けェ事はいーんだよ。早く食えよ、麺が伸びるぜ?」

 

鬼乃子「ハァ…」

 

 呼吸をするように使った魔法を“細かい事”の一言で片付けた兄に、まだ詳しい事を話す気はサラサラ無いと悟った鬼乃子は、大きく溜め息を吐くと割り箸を割り、ラーメンを啜る。

 

雷牙「うんめ〜!ど〜よ?お兄ちゃん御用達のメンラーの味は?」

 

鬼乃子「…普通。可もなし、不可もなし。ただそれだけ」

 

 少女のその一言に雷雷軒がそこまで繁盛していない理由の全てが詰まっていた。

 

雷牙「フーン…。あんだけ強かったから、食事なんかも色々決められてるって思ってたけど、意外とそうじゃねェのか?」

 

鬼乃子「…アンタ、私のことをなんだと思ってんの?」

 

雷牙「人工※※※で造られた俺の妹」

 

鬼乃子「もうちょっと言葉をオブラートに包み隠せっての。コレでも目の前の妹はれっきとした女の子なんだからさァ…」

 

 一応血は繋がっているとはいえ、デリカシー?何それ?と言わんばかりに包み隠そうともしない兄の下品な発言に妹は呆れる。

 十中八九、そこら辺の配慮の無さが人気が無い原因なのだろう。

 

雷牙「ナハハ。お兄ちゃん渾身の愉快なジョークだっての。それじゃ、腹も膨れたし行くとすっか!」

 

鬼乃子「……」

 

 下品な発言で場が凍ったが、とりあえず腹ごしらえを済ませた兄妹は店を出た。

 

鬼乃子「それで?まだ“あること”の正体を教えてくんないの?」

 

雷牙「ん〜、もうちょい。ちゃんと話してやっから待ってろって。……お!!見ろよ鬼乃子!!アッチの公園にバスケットコートがあるぜ!」

 

鬼乃子「いや、バスケって…」

 

雷牙「俺の一番乗り〜!」

 

 雷牙は子供のように大はしゃぎでバスケットコートに向かうが、逆に鬼乃子は面を喰らってしまいその場から動けなくなる。

 それもそうだ。サッカー一筋で生きてきたと思っていた兄が、サッカー以外の球技にも興味を示すなど、円堂やライトですらも想像できないだろう。

  

鬼乃子「…アンタ、バスケなんてできんの?」

 

雷牙「いんや?体育の授業でチラっとやっただけだが?」

 

鬼乃子「じゃあなんで…?」

 

雷牙「別に深い理由なんかねーよ。強いて言うなら、ただの味変?オマエさんとはしこたまサッカーで熾烈を争ったしな〜。タマにはこーゆーのもアリだろ?」

 

鬼乃子「意味分かんないし…」

 

雷牙「んで?やんの?やんねェの?やらないってなら、不戦勝って事で自動的に俺ちゃんの勝ちになるけど」

 

鬼乃子「…やる」

 

雷牙「Good!!」

 

 雷牙の魔法により無からバスケットボールが生成され、不完全燃焼で終わった史上最大の兄妹喧嘩は、形式を変えて再開される。

 

 ……が。

 

雷牙「そりゃ!!」

 

ガコンッ!

 

鬼乃子「でりゃ!!」

 

バンッ!!!

 

 サッカーでは超一流の実力を持つ兄妹だが、バスケに関してはズブ素人…いやそれ以下だ。

 

 基本的な技術を会得していないのは勿論の事、兄妹揃って脳筋思考なのも災いして、その恵まれたフィジカルをロクに活かす事も出来ずに凄まじい泥試合を繰り広げる。

 

雷牙「ナハハハ…!バスケって思ったよりもずっと難しいんだな〜…。正直舐めたぜ…」

 

鬼乃子「激しく同意…」

 

雷牙「もうコレ以上、バトっても体力と時間のムダだし…この勝負に限っては、引き分けって事で手を打たねェか…?」

 

鬼乃子「さんせー…」

 

 慣れない球技が彼らのペースを乱したのか、無尽蔵の体力を持っている筈の兄妹は何故か大きく息を荒くし、力なくコートに寝転がっている。

 

 兄妹が立ち上がったのは、それから1時間以上後の事だった。

 

鬼乃子「ねェ、水とか出せないの?ラーメンを食べたのもあって、ケッコー喉乾いてるんだけど…」

 

雷牙「おっQ〜。オマエさんの好きな水の種類はどっちだ?軟水?硬水?」

 

鬼乃子「喉の渇きを潤せるならどっちでもいい」

 

雷牙「あっそ。ホレ!」

 

 そんなこんなで怪物兄妹の稲妻町散策はまだまだ続く。

 

雷牙「クゥ〜!見ろよこの新型のスパイク!このデザイン…!めちゃんこカッコよくね!?」

 

鬼乃子「フ〜ン、私は興味無いかな〜。履ければそれでいいじゃん」

 

雷牙「んだよ〜。オマエさん、結構カッチョ良いデザインのスパイク使ってんじゃないかよ〜?」

 

鬼乃子「別に私が選んだ買ったワケじゃないし〜。私が使うスパイクは基本的にオーダーメイドですし〜」

 

 商店街に点在するスポーツショップをハシゴし…

 

鬼乃子「あっ、まだこの映画続編が出てたんだ。私『3』が超好きなんだよね〜」

 

雷牙「俺は『4』かな〜。あの荒唐無稽の極致みてーなシナリオが堪らん」

 

鬼乃子「ハッ?それ本当(マジ)で言ってんの?『4』とか『3』までの三部作を全否定した駄作中の駄作じゃん」

 

雷牙「あン?」

鬼乃子「は?」

 

 何気なく立ち寄った映画館の前で、映画の好みが合わずに喧嘩する…。

 

 そこに“敵意”や“悪意”といった感情が介入する暇は無い。

 

 ただただ血を分けた“家族”だけの空間がそこに広がっていた。

 

 そして……

 

雷牙「ハイとうちゃ〜く!!!ココが俺達の旅の終着点!!稲妻町のシンボルでもある鉄塔広場でーーす!!!」

 

 長く短かった旅路の果てに、兄妹は終着点(ゴール)へと辿り着く。

 

鬼乃子「…なんか意外。てっきりまだ引き伸ばすと思ってたけど」

 

雷牙「ハッ、本音を言うとその通りだが、もうやりてェ事はやったし、見せてェモンは見せた。コレ以上は蛇足にしかなんねェしな。とりあえず……そこのベンチに座ろーぜ?」

 

 既に何度も現実世界でここに訪れている雷牙は太々しい姿勢で座り、その隣に鬼乃子がチョコンと座る。

 

鬼乃子「うわぁ…!綺麗…!」

 

 そこに広がるのは夕映えによって彩られた稲妻町一帯。

 あの日…円堂と初めて出会った時も見る機会はあった。だが、その視界にすら入る事はなかった景色だ。

 

雷牙「…俺がオマエさんを“ココ”に呼び寄せた理由は実にシンプル…。ただ……()()()()()()()()

 

鬼乃子「どういうこと…?」

 

雷牙「そのままの意味さ。この大会中、何度もオマエさんとサッカーを通じて対話を交わしたが、言葉ではそう多くねェだろ?」

 

鬼乃子「いや…結構、交わしてたじゃん。私との一対一の時とか」

 

雷牙「ブップ〜!残念ながらサッカー中に起こった会話は全て“サッカーを通じて”として扱います〜!」

 

鬼乃子「……」(イラァ…)

 

 どちらかといえば我慢強いタイプの鬼乃子だが、ムカつく顔面と喋り方で後付けルールを加える兄に対して純粋な殺意がとまどめなく湧き上がる。

 

雷牙「ゲハハハハッ!!!……まっ、冗談は置いといて…だ。俺が話したかったのは“選手”としての明星鬼乃子じゃねェ…。“血を分けた妹”としての明星鬼乃子と話したかったんだ」

 

鬼乃子「…そろそろ、アンタが言いたいことが分かってきた気がする」

 

 思い返せばそうだ。

 兄はこの世界で出会ってから一度も“サッカー”について触れなかった。

 それこそ、近くにサッカーコートがあるにも関わらず、一目散にバスケットコートに向かうくらいに。

 

雷牙「もしも…違う物語でオマエさんと出会えてたらさ。俺達は争う事なんてなかったんだろうな…」

 

鬼乃子「それは……」

 

 鬼乃子は歯切れの悪い返答をしてしまう。昨日までの自分ならば少しも躊躇する事なく『NO』を叩き付けていただろう。

 

 だが、今の自分はどうだ?

 兄との対話を“()()()()()()()()”自分は何と答えればいい?

 

 昨日から一歩を進んでしまった自分だからこそ戸惑ってしまう。

 

 それでも……

 

 兄は優しく微笑み“戸惑い”すらも肯定する。

 

雷牙「答えはいらねェよ。そもそもコレに答えなんぞ初めからねェしな。なんなら……俺の人生はいつも“もしも”ばっかだ」

 

鬼乃子「……」

 

雷牙「もしも親父が死んでなければ、もしもお袋が死んでなければ、もしも……俺が親父に捨てられてなければ。一体、俺はこの14年間の人生で何度“もしも”を空想したんだろうな?」

 

 辛い事がある度に“ IF(もしも)”を空想した。

 

 悲しい事がある度に“ IF(もしも)”を夢想した。

 

 それでも“過去”は変わる事はなかった。

 

雷牙「…分かってるさ。結局、俺は“()()()()()”だけなんだって事は。何かの拍子で家族と幸せそうに日常を過ごしてる並行世界の“俺”を見た時に、『あー、救済(すく)いはあったんだー。良かったー』って思いてェだけなんだよ」

 

 雷牙は今日初めて出会った妹に、自身がこれまで心の中に押し留めていたを“運命”への持論を惜しみなく明かす。

 

鬼乃子「…っけんな…!」

 

 だが……

 

鬼乃子「ふざっっっけんなッッッ!!!!!」

 

 それは同時に妹の地雷を強く踏み付ける事となった。

 

ズガァァァァン!!!!!

 

雷牙「……!」

 

 鋼鉄の金棒の如き右脚が、雷牙の腹部にクリーンヒットし鉄塔付近まで吹き飛ばす。

 その蹴りの速さに脳の反応が大いに遅れたのか?それとも初めから()()()()()()()のか。とにかく雷牙は苦痛の声を上げる事はなかった。

 だが、一向に立ち上がれない様子からは決して負ったダメージは小さくない事だけは分かる。

 

鬼乃子「アンタが言いたいことは大体分かったッ!!!とどのつまり、アンタは私と和解したいんでしょッ!!?けどさァ…!それが私にとってどれだけ()()()()()()分からない人間じゃないでしょッ!!?」

 

 地雷を踏み付けられ激昂した鬼乃子は、無抵抗の兄の胸ぐらを掴み上げる。

 

鬼乃子「ハッキリ言ってあげるッ!!!アンタはただ()()()()()()()()ッ!!!もうどんなに頑張っても“過去”は変えられないから“未来”を変えることで妥協しようとしているだけッ!!!」

 

 鬼乃子は許せなかった。

 

鬼乃子「なんで!?どうしてなの!?どうしてみんな、私のことを誰かの“模造品(コピー)”としか見てくれないのッ!!?私は…!私なのに…!!!」

 

 唯一の理解者だと思ってくれた兄ですらも、自身を誰かの“代用品”としか見てくれない現実が。

 

鬼乃子「結局アンタも“アイツ”と同じなんだよッ!!!どこまで行っても自分のことしか考えられないクズ!!!屑ッ!!!クズクズクズクズクズクズクズクズクズクズッッッ!!!!!」

 

雷牙「ガッ…!」

 

 現実に絶望した少女は、せめてもの報いとして己の人生を全否定した兄を最大限苦しませて殺すべく、両手で彼の首を圧迫する。

 

鬼乃子「死んでッ!!!頼むからもう死んでよッ!!!アンタを殺したあとパパも殺すッ!!!そして私も死ぬッ!!!もう…!それで…呪われた私たちの因縁を終わりにしようよ…!!」

 

 産まれた時から父親に否定され、

 たった今、兄からも否定された。

 

 それだけの事で、少女の本心を包み隠していた“無邪気な少女の仮面”は呆気なく崩れ落ち、残ったのは本当の“明星鬼乃子”だけだ。

 

雷牙「…が……の……音か…!!!」

 

鬼乃子「え!!?なんてェ!!?辞世の句ならあの世で読んでてくれないかなァ!!!?」

 

雷牙「それが…!オマエの本音かよ…!!!!!」

 

ズガンッ!!!!!

 

鬼乃子「グギ…!?」

 

 突如として鳴り響くのは、頭蓋骨と頭蓋骨の衝突音。

 

 当然、先に仕掛けたのは雷牙の頭蓋骨だ。

 確実に近付く『死』の淵から生還するべく、全ての体重が乗せられた頭突きには、流石の鬼乃子も耐え切れずに思わず手を離してしまう。

 

雷牙「ハァ…!ハァ…!悪ィなァ…!騙すような真似…っつーか、普通に騙しちまって…!!」

 

鬼乃子「最っ悪…!!アンタの嘘に…まんまと乗せられたってワケ…?」

 

 立ち上がる気力すらも失ったのだろう。夕暮れと向き合った鬼乃子は右腕で目元を隠すと、そのまま動かなくなる。

 

雷牙「ハッキリ言うぜ…!俺はオメーの事は大っ嫌いだ…!!デモーニオを殺し掛けるわ、影山と繋がっていたわ、世界征服を企む厨二病以下のジジイに肩入れするわ…!チームGなんざ、オメーが居なければもっと楽に勝ててたっての…!!!」

 

鬼乃子「…なに?アンタは私を褒めてんの?貶してんの?」

 

雷牙「……けどよォ…!!!それでもオマエさんは俺の妹なんだよ…!!!血の繋がった妹が悪ィ事をしてるってなら…!兄貴である俺はオマエを止める義務があるんだよ…!!!だって…!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!!!」

 

鬼乃子「・・・は?」

 

 稲魂雷牙・魂の台詞の最中に、“稲魂雷斗”の名前が出てきた瞬間、鬼乃子は絶句する。

 

 自身のは嫌うのはまだいい…寧ろ、ドンドン嫌ってくれて構わない。

 “模造品”として見られる事が最大の地雷であったように、“敵”として見られる事こそが彼女にとって最高の幸福なのだから。

 

 だが、宿敵として関係の間に稲魂雷斗が挟まるとなると話は別だ。

 

鬼乃子「なに……それ……!結局、アンタの動くか否かの判断はライトお兄ちゃんに丸投げってこと…?それって…!ただの思考放棄じゃん…!!」

 

雷牙「…それは違うぜ。俺は俺で、ライトはライト。それは未来永劫変わる事の無い不変の摂理だ」

 

鬼乃子「じゃあ…!!!」

 

雷牙「それでも…。アイツは俺の“兄”なんだよ。ライトが身体を張って“兄”として俺の前を歩き続けてくれたから…。俺は道を踏み外さないで今日(ココ)まで来れたんだ」

 

 サッカーを諦めていた豪炎寺を叱責した時も。

 

 その身を挺して風丸を庇った時も。

 

 そして……

 

 今、この瞬間も。

 

 彼の心には“稲魂雷斗”が居た。

 

 ビビりで、泣き虫で、弱虫で

 彼の良いところなど、ちょっと顔が良くて、心優しくて、気分が落ち込んでいる時は励ましてくれるくらいしかない癖に、彼は稲魂雷牙の兄であろうとする。

 

 それにどれほど心が救われた事か。

 

雷牙「…鬼乃子、オマエは俺だ」

 

鬼乃子「違う……!」

 

雷牙「違くねェ。俺とオマエさんを分けたのはたった一つの差だ。……俺には(ライト)が側に居て、オマエはずっとひとりぼっちだった…」

 

鬼乃子「やめてッッッ!!!!!」

 

 兄の決意を察知した鬼乃子は酷く狼狽し、恥も外聞も捨てその場から逃げ出そうとするが……

 

雷牙「……本当にスゲェよ。ずっと…たった1人で…」

 

 その瞳に“慈悲”の光を宿した兄は逃がさなかった。

 

ギュ…!

 

雷牙「よく頑張った…!!!」

 

 兄は怯える妹を力いっぱい抱き留めた。

 彼女の肉体に刻まれた“憎しみ”も“哀しみ”も全て受け止めるように。

 

鬼乃子「お兄……ちゃん……?」

 

 気付けば…少女の眼からは涙が流れていた。

 

鬼乃子「私゛……は゛……!!!」

 

雷牙「……悪ィな鬼乃子…。()()()()()()()()…」

 

 少女が兄へ何かを伝えようとした瞬間…。兄は申し訳なさそうに妹に謝罪する。

 

鬼乃子「景色が……崩れていく……?」

 

 何の兆しも前触れも無く、偽物の稲妻町が崩壊していく。

 

雷牙「…この世界は神サマが俺達に与えてくれた“奇跡の時間”だ。それが崩れてきたって事は……現実世界の俺らが目を覚ます直前ってこったな」

 

 雷牙がそう言い終えた瞬間、完全に世界は消滅し兄妹の精神は、現実世界へ繋がる虚空へ落ち始める。

 

鬼乃子「待ってよお兄ちゃん…!私は……!!まだアンタに伝えたいことがいっぱいあるのに……!!!」

 

雷牙「……んじゃあ、最後にお兄ちゃんから一つだけ…!!あんだけボロクソに言ったがよォ…!!オメーとの全人全霊のぶつかり合いは……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超楽しかったぜッ!!!!!」

 

プツン。

 

 この世界は雷牙の強い想いが齎した“奇跡の時間”。

 

 ここで体験した出来事は、兄妹には朧げにしか覚えていないだろう。

 

 最後の魂の対話が現実世界の彼らにどのような変化を齎したかは分からない。

 

 ただ確かなのは……

 

 血で繋がった因縁に……1つの終極(ピリオド)が打たれたのだ。




雷牙と鬼乃子の関係性は、優里の楽曲『カーテンコール』を意識して書いてます。作者はヒロアカをちょっとしか見てませんが。

決して和解できない関係性じゃないけど、色々めんどくさくて複雑な因縁のせいで簡単には手を取り合えない関係って感じですね。その因縁の名前は“雷帝”っていうんですけど。

てか、鬼乃子は初期構想よりもだいぶお労しいキャラになった気がする。
初期の頃は無邪気なサイコパスをイメージしてたけど、チームG戦を書いてるうちに思ったよりもまともになっていったとゆーか…、父への憎悪と兄への重い想いを無邪気な仮面で隠してるようなキャラ造形になったというか…。どちらにせよ、前半で描かれたダウナー気味な性格が彼女の素である事は確かです。

皮肉な事に作者が小説を書いてて、一番キャラが生きてると実感をしたのは鬼乃子でした。

イナMONに引き続き、ちょっとした作者の好奇心なんですけどオリキャラの中で誰が1番好感度が高いのかな〜って気になったんでアンケート取ってみまーす。別に結果によってこの後の展開が変わるとかはないので気楽に投票してください。

  • 稲魂雷牙
  • 稲魂雷斗
  • 明星鬼乃子
  • “雷帝”
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