長く、鋭い笛の
「……あ」
誰かの口から、小さくそんな声が漏れた。
誰も動かない。動けない。
イナズマジャパンのベンチに座るメンバー達は、祈る為に握り締めた手を固まらせたまま、まるで信じられないものを見ているかのように“ある一点”を見つめている。それはあの久遠ですらも、例外では無い。
あまりにも過酷で、あまりにも遠かった、“世界の頂点”…。
サッカーを愛する者達が何よりも望んだ“夢”の幕切れは、脳の理解が追い付けない程に一瞬の事だった。
雷牙(……終わった…のか……?)
雷牙は、自身の荒く乱れた呼吸の音だけを耳の奥で聞きながら、静かにそしてゆっくりと視線を落とした。
両脚の感覚はもうほとんど無い。肺は焼けるように熱く、酷使次ぐ酷使により全身の細胞は悲鳴を上げている。
円堂「雷牙…あれ…!」
雷牙とほぼ同じ状態で、同じ位置に視線を移していた円堂は喉の奥から何とか声を絞り出し、“ある一点”を見るように促す。
その視線の先で雷牙の藍眼に映った光景は……
ロココ「やっ…ぱり…!世界は…デカいや…!!!」
顔に満面の笑みを浮かべ、仰向けになって大の字となり雲一つない青空を見上げたロココだった。
彼の後方には、ピッチの上に一つしか存在しないサッカーボールがネットに絡め取られ鎮座している。
雷牙「……てことはよォ…。俺らは…勝ったのか……?」
ロココが示すのは“敗北”の意。だが、雷牙には“勝利”の実感が無い。
それもそうだ。何せ、彼はラスト10秒の記憶が殆ど残っていないのだから。
無我夢中に走って、無我夢中に父との会話を回想して、無我夢中にシュートを撃った。
そして気が付けば、試合終了のホイッスルが鳴り響き、ロココは大の字で仰向けとなり、ボールはゴールラインを割っている…彼が混乱するのも当然だろう。
雷牙と円堂は恐る恐るスコアボードに視線を移す。そこに表示されていたのは、『1』と『0』の
円堂の記憶が正しければ、リトルギガントはこの試合では一度も得点出来ていない。
幾度となく危うく点を許しかけた場面こそあったが、その都度、仲間達のフォローによって
ならば……
この『1』の持ち主はたった1人……いや、
雷牙「俺達……か……?」
ようやく状況を理解し始めた雷牙が、かすれた声で小さく呟く。
その声に反応するように、円堂は自分の両手を見つめた。
糸がほつれ、傷だらけで、ただでさえボロボロなのにリトルギガントの猛攻を受けた事で更にボロボロとなってしまった、祖父から継承したキーパーグローブ…。
円堂はその両手を、ぎゅっと、力強く握り締めた。
円堂「……ああ…!」
円堂の顔に、じわじわと、いつもの、…いや、円堂守の人生で一番の笑顔が広がっていく。
円堂「うおおおおおおおおおおおーーーッ!!!!!」
手始めに円堂は叫んだ。肺が焼けているのも忘れて、その雷鳴の如し大きな声で。
円堂「俺たちが……!!!!世界一になったんだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!!!」
円堂の叫びは、稲妻となって仲間達へと伝播していく。
豪炎寺「俺達が…!世界一に…!!」
鬼道「遂に…なれたのか…?」
壁山「夢じゃ…ないっスよね…??」
今も現実と夢の境界線を彷徨っている壁山は、自身の両頬を力の限り強く引っ張る。刹那、彼の頬には引き裂かれるような痛みが走り、痛みのあまり両眼からは大粒の涙が流れてしまう。
壁山「痛い…!!!メチャクチャ痛いっス…!!!!ってことは…!!!」
壁山の言葉…それこそがイナズマジャパンの『歓喜』という爆弾に火を着けた。
『〜〜〜っ!!!!うおおおおおおおおおおおーーーーーッッッ!!!!!』
現実を自覚したイナズマジャパンは力の限り叫び、全身に満ち溢れる“喜び”を全力で表現する。
ベンチからは、目元を真っ赤に腫らしたマネージャー・控えの選手達がピッチへと飛び出した。
雷牙「クハハ…!俺達が……世界一かァ……」
現実を飲み込んだ雷牙はその場に片膝を付くと、感慨深そうに天を見上げる。
豪炎寺「夕香…!父さん…!やったぞ…!!日本が世界一になったんだ…!!!」
豪炎寺は肩を激しく振るわせながらも、海を超えた先の故郷に居る家族の元へと“勝利”の知らせを届ける。
鬼道「世界の頂上…。ここまで来るのは決して穏やかな道ではなかった…。…だが、いざ登り詰めると実感が湧かないな…!」
チームで最も聡明である筈の鬼道は、不思議な事に最も勝利の実感を感じるのが遅い。しかし、目尻に涙を浮かべる最愛の妹を目にした事で遂に彼も世界一に登り詰めた実感を得る。
彼らだけじゃない。世界の頂点に登り詰めたイナズマジャパンの選手達は、各々のやり方で勝利の“喜び”を深く噛み締めていた。
だが、一方で……
ロココ「クソッ…!!!あと一歩…!!!あと一歩で僕たちの“夢”が叶ったのに…!!!!!」
“光”ある所に“影”があるように…。“勝者”ある所には必ず“敗者”が居る。
“勝者”に齎されるのは『喜び』…。ならば、“敗者”に齎されるのは『哀しみ』だろう。
ゴーシュ「ロココ……」
ロココは力いっぱい地面を殴り付け己の不甲斐なさを悔やむ。
イナズマジャパンに敗北した事自体に“悔い”は無い。
自分達は力の限り戦った。そして、イナズマジャパンも全てを以て立ち向かってくれた。その上で敗北したのだ、その結果に“後悔”などある筈が無い。
だが……
“小さな巨人”と評された世界最強のGK、ロココ・ウルパもまた1人の『人間』なのだ。
理屈では分かっていても、理性はそう簡単に“敗北”を受け入れてくれない。
………
大介「クッソぉぉぉぉぉぉーーーッッッ!!!!悔しいぞぉぉぉぉぉぉーーーッッッ!!!!!」
ロココ「師匠……?」
リトルギガントの監督であり、彼らにサッカーのイロハを教えた師である円堂大介が、文字通り地団駄を踏み全力で“悔しがって”いた。
しかし、その姿に“悪意”は感じられない。相手に、教え子に、多大なる
大介「いいかぁ!!?今日の“悔しさ”を絶対に忘れるんじゃないぞ!!この感情を成長の糧にしろッッッ!!!そして……!!
『ッ!!!!』
師は教え子に言う。『今日の敗北を“
今日負けたからって、そこで“夢”は終わらない。少年達には“
この魂の炎が燃える限り、少年達は“夢”に向かって挑戦し続けるだけだ。
リトルギガント『はいッッッ!!!監督ッッッ!!!!』
リトルギガントの“夢”は……まだまだ始まったばかりだ。
円堂「…やっぱスゲェよな、じいちゃんは…。多分、この試合を誰よりも楽しんでたのは、じいちゃんじゃないか?」
日本のベンチから大介の激励を見ていた円堂は、改めて祖父の偉大さを実感し、まだまだ自分は彼には及ばないと痛感する。
雷牙「まっ、それは言えてんな。ドーピングなんぞに頼らねェ、綺麗な
今日はイナズマジャパンが“世界一”の称号を手に入れた。だが、“
きっと
だからこそ“怪物”は
虎丸「キャプテーーン!!!稲魂さーーん!!!もうみんな集まってますよーーっ!!!!」
円堂「分かったーーっ!!!今行くーーっ!!!……よし!行こうぜ!雷牙っ!!!」
雷牙「さてさてさーーて。厳しいで有名な我らが久遠監督はどんなお言葉をかけてくださるんでしょうね〜?」
虎丸の呼び掛けによって日本のベンチ前に集められた雷牙と円堂は、先に集まって皆に遅れた事を謝りながら久遠の前で整列する。
円堂「久遠監督…!俺たち…やりましたよ…!!!」
久遠「……私に言わせれば、お前達のサッカーはまだまだ欠陥だらけだ」
教え子達が世界一になっても、厳しいで有名な久遠は一切ブレる事なく今日も辛口だ。
久遠「……だが。お前達は今……世界で一番マシなプレーが出来るチームとなったッ!!!」
円堂「監督……!!!」
『世界一マシなプレーが出来るチーム』…。聞く者によって非情にも思われる言葉であるが、これまで彼を信じて付いて来た者達は皆分かっている。それこそが久遠道也にとって最上級の褒め言葉であると。
『ありがとうございましたッ!!!久遠監督ッッッ!!!!』
久遠「……本当によくやった」
教え子達を必ず世界一にするという自身の役目を果たした久遠は、憑き物が落ちたように初めて彼らの前で笑顔を見せた。
きっと…。彼もまたこの旅で大きく成長した人間の1人なのだろう。成長に年齢は関係無いのだから。
『ニーーポンッ!!!ニーーポンッ!!!ニーーポンッ!!!』
『コトアールッ!!!コトアールッ!!!コトアールッ!!!』
こうして各々のチームの会話がひと段落した時、まるでタイミングを見計らったかのようにスタジアム全域に“日本”と“コトアール”を讃える大歓声が鳴り響く。
雷牙「…なァ、守」
円堂「なんだ?雷牙?」
雷牙「…俺達、遂に本当の意味でなれたのかもな…。“イナズマイレブン”に…!!」
雷牙は友に問う。奇しくもその光景は日本一になった“あの日”とは真逆の光景だ。
友の問いを受けた円堂は、一瞬たりとも悩む事なく満面の笑みで答える。
円堂「ああ…!!!俺たちなれたのかもな!!!ずっっっと憧れてきた“イナズマイレブン”にっ!!!!」
雷牙「…ケッ!そカモなッ!!!!!」
かつて誓った“イナズマイレブン”になるという“夢”を叶えた2人は、力いっぱいのハイタッチを交わし、観客席に向かって互いに肩を組みながら大きく手を振る。
円堂「俺たちがーーーーっ!!!!」
雷牙「世界一だァァァァァァ!!!!!!」
“怪物”と“伝説”の後継者達が紡ぎ上げた新たな“イナズマ伝説”…。
その一つのピリオドが今日…打たれた。
♢♢♢
鬼瓦「よう、久しぶりだなぁ。随分見ねェ間に随分と酷い顔になったじゃねェか?」
少年サッカー界世界一が決まった大舞台の裏側。頂上決戦の舞台から数百キロ以上離れた場所で、煌びやかな大舞台とは真逆に位置するかのような薄暗い部屋の一室に“奴”は囚われていた。
???「フン、私としては二度と貴様の顔など見たくなかったがな…」
何も“奴”は無実の罪で牢獄に閉じ込められている訳ではない。彼は立派犯罪者だ。それも、
“奴”の名はガルシルド・ベイハン。その罪状をランク付けをするのなら最高ランクたる『S』…。いや、更に上の『UZ ++』だって付けられる超弩級の犯罪者だ。
鬼瓦「ケッ、相変わらず太々しい態度な事だ。
ガルシルド「……チッ」
鬼瓦の言葉に何か嫌な記憶が蘇ったのだろう。ポーカーフェイスを貫いてガルシルドの顔が僅かに歪む。
…明星親子の裏切りにより、彼は頸椎を現代医療ではどう頑張っても治せない程の損傷を負わされた。怨敵である大介程でないが、それなり以上に高齢である彼では、存命中に自力で歩く事は決して叶わないだろう。
ガルシルド「…それで?クソッタレの貴様がワザワザ私に会いに来たという事は、外の世界で“何か”が起こったのだろう?」
鬼瓦「…フン」
二度と歩けなくなっても流石は世界の経済を支配していた男。薄暗い室内でも鬼瓦の僅かな身振りで概ねの事情を察するその洞察力には、鬼瓦も内心では“恐れ”を感じてしまう。
だが、ここで引く訳には絶対にいかない。鬼瓦は何としてもガルシルドから情報を得なければならないのだから。
彼は鞄の中からある資料を取り出すと、分厚い鉄の扉の隙間からその資料をガルシルドに送る。
ガルシルド「コレは…!!」
その資料に書かれている内容の大半は専門用語で占められており、常人では一割程度も理解出来ないだろう。
だが、奴には理解出来た。それもまた腐っていても伊達に石油王をしていなかったという証明だ。
鬼瓦「…その資料は端的に言えば、貴様が持っていた財産、油断の権利、財団の運営権…要するにお前さんの権力の全てが
チームGが敗北し、雇用主であるガルシルドが逮捕されたあの日…。彼の財産を差し押さえるべく法的な手続きを行なっていた国際警察達は皆、自身の眼を疑った。
何せ、
鬼瓦「…その人物の名は“ヴィクター・フランケンシュタイン”…。単刀直入に聞く、お前はそいつを知っているだろう?」
ガルシルド「……」
鬼瓦は既にヴィクター・フランケンシュタインなる人物はガルシルドと深い関係のある人物であると確信していた。
…だが、ガルシルドは一向に答える気配がない。
鬼瓦「おいッ!!何黙りこくってやがるッッッ!!!!言っておくが、お前さんに黙秘権は無ェぜ!!知ってる事全てゲロってもらうおうかッ!!!」
ガルシルド「……
鬼瓦「あん…?」
ガルシルド「ハーハッハッハッ!!!!!!遂にやりおったなッ!!!あの若造めッッッ!!!!!」
ガルシルドは何故か笑う。その笑いは権力を失った“自暴自棄”による爆笑ではなく、ましてや鬼瓦に対する“負け惜しみ”の爆笑でもない。
まるで……さぞ可笑しい喜劇でも観ているかのような大爆笑だった。
鬼瓦「テメェ…!!何がそんなに可笑しい…!!?」
ガルシルド「クハハハッ!!!すまんね、まさか“奴”がそこまで先手を打っていた思いもしなかったのでねェ。年甲斐もなくつい大笑いしてしまったよ」
鬼瓦「チッ…!!!だが、今のテメェの反応で確信したぜッ!!!ヴィクター・フランケンシュタインはガルシルドの残党ッ!!それさえ分かれば十分だッ!!!」
ガルシルドの反応から自身の仮説が正しかったと確信した鬼瓦は、詳しい尋問は部下に任せ、日本に戻り調査を進めるべく刑務所を後にしようとする。
すると……
ガルシルド「一つ良い事を教えてやろう」
誰よりも鬼瓦を嫌っていた筈のガルシルドが、鬼瓦の歩みを止めさせる。
鬼瓦「良い事だと…?」
ガルシルド「ああそうさ…。コレはある意味“予言”でもある…」
鬼瓦「お前が予言だとぉ…?ケッ!!そいつは笑っちまうぜ!!犯罪者のあんたが何を予言してくれるってんだ?来月の株価予測か?それとも隠し財産の在り方かぁ?」
親友を死の一歩手前まで追い込み、長年自身の手を汚さずに邪魔だからという理由だけで多くの無実の人間の命を奪ったきたガルシルドをよく思わない鬼瓦は、感情を爆発させ強く煽る。
しかし、ガルシルドはまるで別人のように感情一つ動かされずに淡々と“予言”を言い放った。
ガルシルド「近い未来…。必ず貴様らは
鬼瓦「感謝だと…?」
ガルシルド「ああそうだッ!!!!“奴”は私という飼い主がいたからこそ、今まで大人しくしていたのだッッッ!!!!」
鬼瓦「ちょっと待て…!!話が見えてこねェ…!!!」
ガルシルド「既に犬小屋の鍵は開けられ、“奴”は私の支配下から逃れたッッッ!!!!分かるか!!?世界最高峰の知性を持つ獣が人間世界に降り立ったのだッッッ!!!!」
鬼瓦「だから、何を言ってやがる…!!?」
ガルシルド「実に楽しみだぞッッッ!!!“奴”がその気になれば明日にでも
鬼瓦「なら答えろッッッ!!!ヴィクター・フランケンシュタインとは一体誰なんだッッ!!!?そいつは…何を企んでやがるッッッ!!!!?」
証拠など無い。だが、長年の刑事としての勘が、ガルシルドの言う“奴”と鬼瓦が知る“ヴィクター・フランケンシュタイン”を結び付けた。
その後、予定を変更してまで鬼瓦自らガルシルドを尋問しようとも彼ははぐらかすばかりで“予言”の真の意味を理解する事は終ぞ出来なかった。
最後の最後でガルシルドが放った“予言”と狂気の高笑い…。その笑い声は鬼瓦の脳裏に強くこびり着き、老い先短い彼を大いに苦しめる事となる。
憎きイナズマジャパンとリトルギガントの決勝戦の裏側で文字通り全てを“雷帝”に奪われたガルシルド…。果たして二度と自力で歩く事が出来ず、終身刑ほぼ確である彼の運命は如何に?
次回!!イナズマイレブンHEROS!!! 第三部・世界への挑戦編!!感動の最ッ終ッ回ッッッ!!!
※ガルシルドの出番は1ミリもないヨ。
イナMONに引き続き、ちょっとした作者の好奇心なんですけどオリキャラの中で誰が1番好感度が高いのかな〜って気になったんでアンケート取ってみまーす。別に結果によってこの後の展開が変わるとかはないので気楽に投票してください。
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稲魂雷牙
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稲魂雷斗
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明星鬼乃子
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“雷帝”