イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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激戦と覚悟と天秤と PARTⅠ

 上空を覆うのは“偽り”の快晴。

 周囲を囲むのは“偽り”の観客席。

 彼らが脚を踏み締めるのは“偽り”の大地。

 全てが“偽り”で構成された領域(サッカーコート)内にて、睨み合うのは11人の黒衣の天使と、11人+1人と2匹による魔王と悪魔。

 

シンフォニー「サッカー…だと…?」

 

 これから行われるのは、我々がよく知る“サッカー”に基づいた生存競争…。

 

雷冥「That's right(その通り)。そして追加情報が一つ。この試合の敗者となったチームには“罰ゲーム”が課せられます」

 

 勝者には“生”が与えられ、敗者には“罰”が与えられる闇のゲームでもある。

 

ミスティープ「勝手に変な空間に送られた挙句、正体不明の罰ゲームまで課せられるだと…!?ふざけるのも大概にしろ…!!!」

 

雷冥「ハァ…どの口が言っているんだか。貴方達が置かれている状況は、私にやってきた所業と大差無いのでは?」

 

ミスティープ「クッ…!」

 

 あれだけ怒り心頭だったミスティープは、雷冥の鋭い指摘の前に何も言い返せなくなってしまう。どうやら、彼ら自身にも自らの行いが“理不尽”だという自覚はあったようだ。

 

雷冥「…そう焦らないでください。何も命を取るワケではありません。そうですね…貴方達が勝てば『稲魂雷冥は1週間の間、一切の行動を禁ずる』…。私が勝てば『“GF”についての情報を開示した上で3日間昏睡状態となる』…というのはどうです?」

 

 この罰ゲームは単なる口約束などではない。

 どちらかの敗北が確定すると同時に、領域による裁きが実行され敗者は実際に“罰”を受ける事となる。

 

 雷冥ならば筋肉が硬直し一切の抵抗が不可能となり、昏睡状態に陥る。

 “サンダーゲート”ならば喋る気は毛頭も無くとも自動的に自身が知り得る“GF”に関する全ての情報が資料としてまとめられ、強制的に3日間の昏睡状態に陥る。

 

 どちらにとっても負ければ明日(あす)の命は保証されない最悪の罰ゲームだ。

 

シンフォニー「…もしも我らが勝負を受けなかった場合はどうなる?」

 

雷冥「特に何も。罵倒が飛び交う不毛極まりない時間が流れるだけです。ただ…時間の流れは外と同じなので、その間に救援信号をキャッチした本部によってこの世界の座標が特定されるかもしれませんがね」

 

 雷冥からすれば、勝負を受けて貰わない方が遥かにありがたい。

 巧妙にこの世界の座標を隠しているようだが、本部の技術力ならば1週間もあれば確実に正確な座標を割り出せる筈だ。

 そうなれば後はこっちのもの。下手なリスクを背負わずに元の時代に帰れる最も理想的な脱出法だ。

 

 とはいえ……

 

シンフォニー「フン。そんな訳がないだろう?我々の答えは…当然、『YES』だ!!」

 

 プライドの高い天使達が、そう易々と引き下がる訳がない。

 

シンフォニー「逆に問おうイナタマ・ライメイ。貴様は我々(サンダーゲート)を…そして、この世界に於いて最も価値を持つ存在を知っているのか?」

 

雷冥「ええ勿論。でなければ正体がバレるリスク覚悟で情報収集に励んだりしませんよ」

 

 実は拠点を探してる間に雷冥は情報収集を行い、この世界の構造をある程度把握していた。尤も…この情報収集自体が“サンダーゲート”の構成員達を自身の元へ呼び寄せる為の撒き餌でもあったが。

 

雷冥「…“楽園(エデン)”最強のサッカーチーム」

 

 この世界を一言で表すならば、“()()()()()()()()()()”…それしか形容のしようが無い。

 

 この世界にとって支配者である“GF”が定めたサッカーという法こそが絶対であり、抗争も、裁判も、選挙も…全てが“サッカー”での勝敗によって左右される。

 どんなに真っ黒な有罪判決ですらも勝者となれば“白”に裏返り、あからさまな冤罪すらも敗者となれば“黒”の烙印を押される。

 

 常に“勝者”でなければ人間として扱われない反理想郷(ディストピア)の中でも、支配者たる“GF(グランドファーザー)”の眼に適った上澄み中の上澄み…それこそが“サンダーゲート”なのだ。

 

シンフォニー「ホゥ?そこまで理解していながら、あくまでもサッカーで活路を切り開こうというのか?」

 

雷冥「生憎、私が誇れるモノなどサッカーしか無いのでね」

 

シンフォニー「ククク…!面白い…!!全隊員ッ!!配置に着けェ!!!」

 

『ハッッッ!!!』

 

 隊長の号令を受け、全ての構成員がマントを脱ぎ捨てると、機械のように規律の取れた動作で、1ミリの狂いも無く指定のポジションへ着任する。

 ポジション配置に要した時間は僅か1秒…。その速度は脱ぎ捨てたマントが地面に着地するよりも速い。

 

雷冥「………」

 

 あとは雷冥と彼の悪魔(デュプリ)で構成された“王魔雷帝(おうまらいてい)”がピッチに入れば試合が開始する。

 

 だが……

 

ワンダバード「…? どうしましたマスター?既に“サンダーゲート”の準備は完了していますよ?」

 

 何故か雷冥は()()()()。それどころか、彼はまだ()()()()()()()()()()()()()()()姿()()

 

雷冥「…イダテン様」

 

 主人に心配の眼差しを向けるペットを他所に、雷冥の視線を未だに状況をイマイチ飲み込めていないイダテンの方へ向けられる。

 

イダテン「・・・え?おれ…??」

 

雷冥「貴方はどうしても“楽園(エデン)”に行きたいのですね?そして、それには私の助力が必須……その認識でよろしいですか?」

 

イダテン「う、うん!!! ライメイがおれに手を貸してくれれば、必ず“楽園(エデン)”に行けるはずさ…!」

 

雷冥「そうですか。()()()……」

 

 刹那、雷冥の手元に悪魔達と同じユニフォームが生成される。

 しかし、そのサイズは明らかに長身かつ筋肉質である雷冥には合っていない。精々……()()1()4()0()c()m()()()()()()()()()()()

 

ワンダバード「ーー!!! まさかマスター…!!貴方は…!!!」

 

 ワンダバードの勘は大抵当たる。特に“嫌な予感”である時は超高確率で。

 バードの電子回路に“嫌な予感”が走った直後、彼の主人はその答え合わせをするように、ユニフォームを()()()()()()()()()()()()()()

 

イダテン「え・・・?」

 

ワンダバード「ゲッ・・・!?」

 

ワンダキャット「zzz…。zzz…」

 

 ユニフォームに着替えない→最後のユニフォームを投げ渡す→渡した途端ベンチに座り込む。

 “サンダーゲート”に勝るとも劣らない速度で行われた一連の動作が示す“意味”はただ一つ……

 

雷冥「この試合で、その“想い”の強さを私に証明してください」

 

 “稲魂雷冥は試合に出場()たくない”…。ただそれだけだ。

 

イダテン&バード「「えええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜!?!?!?!?!?」」

 

 驚きのあまり顎が外れんばかりに口を大きく開けるイダテンとバード…。

 少年の絶叫を聞き入れて遅れて気付く天使(サンダーゲート)…。

 数々の混乱が領域内を包み込もうとも、稲魂雷冥の“決意”は揺るがない。彼の“決意”は金剛石(ダイヤモンド)よりも硬いのだから。

 

♢♢♢

グリム『さァさァ!!今日も今日とて第四世界から我々を見ているエブリバディ!!!今回はどこかで見たコトのある人ばっかの強豪“サンダーゲート”と我らが“王魔雷帝”との試合だーー!!実況兼審判を担当するのは、“王魔雷帝”のアイドル!!グリムでーーす!!!』

 

 試合開始まで1分前に迫る中、雷冥が創り出したデュプリの中で唯一、明確な自我が与えられた少女型のデュプリ・グリムの元気いっぱいな実況が鳴り響く。

 

 1人を除いて、正気を感じられない能面のような表情を浮かべてピッチの上に立つ悪魔達…。“王魔雷帝”のフォーメーションは以下の通り。

 

FW:マルシファー、クトゥルー、バッサタン

MF:ニャルラ、イダテン、ヨル、ニックス

DF:キュウコ、ダゴン、トウテツ

GK:ムールム

 

 やはり目に付くのは、その背に『8番』を背負ったイダテンの存在だろう。

 冷や汗をダラダラ流しながら不安そうにキョロキョロと周囲を見回すその姿は、見ていてとても頼りない。

 

 そんな魔王不在の魔王軍に対し、神を守護する天使こと“サンダーゲート”のフォーメーションは以下の通り。

 

FW:ソーショット、ヒカル、ランマーク

MF:スピタ、ドース、シンフォニー、サンシー

DF:カーグビー、ミスティープ、バンバ

GK:チャイード

 

 “楽園(エデン)”最強のサッカーチームと名高い天使兵団のフォーメーションは、奇しくも魔王軍と共に同じ構え(フォーメーション)だ。

 

ワンダバード「どうなっちゃうんだろうこの試合…」

 

 共に試合前の準備を完璧に終わらせた中、“王魔雷帝”の監督であるバードは、猛烈な不安に駆られている様子だ。

 それもその筈。結局、あの後バードがどんなに説得しても主人がベンチから立ち上がる事は無かった。

 本来キャプテンマークを巻くべき人物がピッチの外で鎮座し、素性も実力も未知数の人物がピッチに立つ…如何にチームを率いる監督であろうとも、どうしようもない不安を感じるのも当然だろう。

 

雷冥「………」

 

 そんな眷属の不安すらも、唯我独尊を行く“魔王”にとっては、体表に軽く触れる一枚の羽毛と同じだ。

 ただ腰を深く下し、淡い光を放つ瞳で茶髪の少年の姿を捉えていた。

 

グリム『試合開始まで残り30秒!…と申したいところですが、最後の最後で特別ルールを説明しますッ!!』

 

シンフォニー「この期に及んで後出しルールだと?小癪な奴め…」

 

グリム『そう難しいコトではございやせん!!この試合に限り、“コールドゲーム制”が採用されているだけでーーす!!』

 

イダテン「“こーるどげーむ”…? 何それ??」

 

グリム『簡潔に言えば一定の点差が付くとその時点で試合が打ち切られる方式ですね〜。この試合の場合ですと、10点の点差が付いた時点で勝敗が確定しまーす!!』

 

シンフォニー(…イナタマ・ライメイは馬鹿なのか…?どうしてここまで自身を不利にさせるルールを追加する必要がある…?)

 

 最強のサッカーチームに対し、最高戦力たる自身の代わりにイダテンを出場させ、挙句の果てにはコールド制を採用する…そんな支離滅裂な行動を繰り返すに雷冥に対し、シンフォニーは明らかな“目的”を感じ取っていた。

 

 かといって、そこに“罠”や“策略”といった姑息な知性の匂いはしない。

 “ただの自意識過剰な馬鹿”……それがシンフォニーの脳裏に浮かんだ、雷冥のイメージだ。

 

シンフォニー(…まあいい。奴がどんな小細工を弄しようが関係無い。我々は偉大なる“GF(グランドファーザー)”の名の元に、徹底的に叩き潰すだけだ)

 

 この世界の神たる“GF”を守護する天使(ガーディアン)であり、神の意のままに動く道具でしかない彼らに“勝利”以外に向ける思考のベクトルは必要無い。

 

 心が折れるまで痛め付け、時には命さえ奪う…。いつだって、彼らはそうして愚かな反逆者を始末してきた。今回も機械のように淡々と粛清を実行するだけだ。

 

雷冥「・・・時は満ちた…。試合開始の宣言をしなさいッ!!グリムッ!!」

 

グリム「ガッテン!!試合(デュエル)開始ーーッ!!!」

 

ピーッ!!!

 

 審判兼実況を務めるグリムのホイッスルが“偽り”の領域全域に鳴り響き、遂に“王魔雷帝”と“サンダーゲート”の明日を賭けた生存競争(サッカー)の幕が上がる。

 

 コイントスの結果、先行権(キックオフ)を獲得したのは、青髪の悪魔ひしめく“王魔雷帝”だ。

 

バッサタン「行くよ!姉貴!!」

 

マルシファー「正面突破と行きましょう!!」

 

 先陣を切るのは、穏やかに見えて脳筋な姉と破天荒に見えて優等生な妹…という設定を演じる双子の姉妹(デュプリ)

 

ソーショット「チッ…!思った以上に速いぞ…!!」

 

 姉妹特有の息の合った連携も去る事ながら、予想を上回るスピードに目が慣れていない“サンダーゲート”の前線は一瞬にして突破されてしまう。

 

グリム『速い速い速ーーい!!!流石は“王魔雷帝”が誇るエースストライカー姉妹!!青髪をなびかせピッチを駆けるその姿はまさに“電光石火”の速技だーーッ!!!』

 

イダテン「これがサッカー…!これが雷冥のチーム…!なんてハイレベルなんだ…!!」

 

 1人1人がプロにも匹敵する実力を持つ“王魔雷帝”のサッカーは、今日初めて試合を行う初心者であるイダテンにとっては、吹き荒れる嵐の真っ只中に身を置くにも等しい光景であった。

 

イダテン「けど…!!」

 

 マジマジと見せつけられる実力の壁を前に己の力不足を実感しながらも、少年は口角を大きく上げて笑う。

 

イダテン「おれは絶対に“楽園(エデン)”に行くんだぁぁぁぁ!!!!」

 

雷冥「ホォ?」

 

ワンダバード「は、速い…!!」

 

 なんと、魔王軍の中で誰よりも貧相な肉体である筈のイダテンが、電光石火のスピードを誇る姉妹に追い付いてみせた。

 容易く電光石火のFW姉妹に追従してみせるその健脚…。“韋駄天”の名は伊達ではない。

 

雷冥「…面白い。早速、第一の試練です」

 

 予想を遥かに超えるイダテンのスピードに、可能性の一端を見出した雷冥は、堕天使姉妹に向けて強く念じる。

 

雷冥『マルシファー、バッサタン。code《クローシス》、開始』

 

 稲魂雷冥の持つ“魔皇”の力を十一分割にして生み出されたデュプリ達は、強烈な個性と設定を与えられながらも、その本質は創造主の意のままに従う“人形”…。故に両者に間には言葉など必要無い。

 

 このまま行けばシュートチャンス確定ながらも、創造主の命に従ったマルシファーは、バックパスを行いイダテンへボールを回す。

 

イダテン「ーー!!! 早速おれの出番か!!よーーし!!行っくぞーーっ!!!」

 

 遂に“覚悟”を示すチャンスが訪れたイダテンは、体力の温存など知らんとはがりに更に加速する。その姿はまさに……

 

グリム『“そよ風”です!!イダテン選手の優しくも力強いドリブルは、まるで草原に吹く“そよ風”を想起させるぅぅぅぅ!!!!』

 

雷冥「“そよ風”…ですか」

 

ワンダキャット「…そういや、あのチビちょっとだけ似てるかも」

 

 “そよ風”と形容される軽やかドリブルでフィールドを駆ける少年のその姿には、宇宙の危機すらも救ってみせた“伝説の英雄”の面影が確かにあった。

 

イダテン「よく分かんないけど、いい感じに進めてるやっ!!この調子でドンドン攻めちゃうもんねー!!」

 

 瞬く間に中盤へと到達し、そのあまりの呆気なさから調子に乗ってしまうイダテンだったが、そこに1人の選手が立ちはだかる。

 

シンフォニー「……」

 

 彼こそは弱冠14歳にして“サンダーゲート”を率いる隊長(キャプテン)に任命され、軍の事実上の総司令官(トップ)も兼任する希代の大天才・シンフォニーである。

  

イダテン「え〜と…シフォン…だっけ?怪我したくないなら避けた方がいいよー。今のおれは誰にも止められないからさぁ!!!」

 

シンフォニー「…調子に乗るなよ?“奈落(アンダー)”の(ネズミ)風情が」

 

 雷冥は知っていた、彼らは最初から()()()()()()()()を。

 

 そして……

 

 これからイダテンに無慈悲に襲い掛かる“現実”を。

 

シンフォニー「“アインザッツ”!!」

 

イダテン「ぐわぁぁぁ!!?」

 

 七色に輝く演奏が、実態を持つ凶器となりイダテンへと襲い掛かる。

 初めて体験するサッカーに、初めて実物を目にする“必殺技”…。圧倒的な経験不足が早くも如実に現れる。

 

グリム『ああっとーーッ!!シンフォニーにブロック技“アインザッツ”が炸裂だーーッ!!コレにより攻撃権がサンダーゲートへ渡ってしまったぞーーッ!コレは万事休すかーー!?』

 

イダテン「ガッ…!」

 

 技の威力自体はそこまで高くないものの、イダテンの貧相な肉体に大きなダメージを与えるには十分過ぎる威力だった。

 あまりと痛みを前にイダテンは立ち上がれない様子だ。…だが、悲しいかな。これほどのダメージを負ってもなお、今の攻防はこれから始まる蹂躙劇(オーケストラ)の序章曲でしかない。

 

ソーショット「フハハハッ!!少し様子を見てやっただけで調子に乗るとは、如何にも負け犬の“奈落(アンダー)”らしい浅慮な考えだ!!」

 

イダテン「カハッ…!ちくしょう…!!」

 

シンフォニー「…無駄話はよせソーショット。こんな雑魚、何人潰したところで何の意味も無い。狙うのはただ一つ…ゴールのみだ…!!」

 

 おおよその強さを把握した天使達は、サービスタイムは終了と言わんばかりに反撃の体制へ移る。同時にシンフォニーはおもむろに両手に天に掲げると、指揮棒(タクト)の如く軽やかに振る。

 

ワンダバード「あのタクティクスは…!?」

 

 その動作を見たバードは驚愕する。彼の脳裏(データベース)に浮かぶのは、“革命のイナズマ世代”を代表する天才ゲームメイカーが尤も得意としていた必殺タクティクス、その名も……

 

シンフォニー「“神のタクト”!!」

 

 “神のタクト”…。発動者が瞬時にフィールドの空きスペースと相手の動きを予測する事で味方に最適なパスコースを導く、まさにサッカーの神に愛された天才の中の天才にしか使う事を許されない“神業”の如きタクティクスだ。

 

雷冥「………」

 

ワンダバード「どうしてあの選手が伝説のタクティクスを…!?」

 

 しかし、今はその“混乱”は完全に時間の無駄でしかない。“王魔雷帝”が為すべき事は、“サンダーゲート”からボールを奪い返す策を練る事だけだ。

 

雷冥『…ニャルラ、ヨル、ニックス 。code《ドロマー》です』

 

 雷冥も眷属達に指令を送り、何としてでもゴール前に辿り着かせまいとするが……

 

ヒカル「ランマークさん!」

 

ランマーク「…ソーショット」

 

ソーショット「クハハハッ!!!邪魔だ邪魔だ邪魔だァァァ!!!」

 

 奮闘虚しく、必殺技すらも使わない巧みなパス回しにより、容易く中盤が突破される。

 

イダテン「あ、あれがパスだって…!?あんなの…ほとんどシュートじゃないか…!?」

 

ソーショット「ホゥ?テメェにはそう見えるかァ…。クハハハッ!!!負け犬集団の“奈落(アンダー)”のクズにはなァ!!!」

 

 高笑いと共に落第者であるイダテンを愚弄したソーショットは間髪入れずに天高くパスを上げる。

 ボールは宙で綺麗な円弧を描きながら、後衛を護る悪魔達の頭上を通り過ぎ、“ある人物”の元へと向かう。

 

 その人物とは……

 

ソーショット「決めろォ!!シンフォニーッ!!!」

 

 あれだけの存在感がありながらも、雷冥の戦略眼を欺きゴール前へと到達していたシンフォニーであった。

 

ワンダバード「ランマークでも、ヒカルでもない…!?」

 

 MFには大きく分けて2つのタイプがある。

 1つは、稲魂雷牙や松風天馬のような攻守共に優れたバランス型。

 そしてもう1つは、鬼道有人や神童拓人のような司令塔(ゲームメイカー)とストライカーを兼任する攻撃型。

 

 シンフォニーはまさに後者に属するMF。チーム最強の選手に送られる筈の“10番(エースナンバー)”を、彼が背負っている事実が、その実力の高さを雄弁に物語っている。

 

シンフォニー「最速最短で終わらせるか…」

 

 ボールを受け取ったシンフォニーは、右手で小さな“輪”を作ると、一切の躊躇なく口に軽く加え、息を強く吹き込んだ。

 

ピィーーーッ!!!!!

 

 フィールドに鳴り響くのは甲高い指笛による音色。

 それは、“(GF)”の『象徴』を現世に呼び寄せる鎮魂歌でもある。

 

シンフォニー「格の違いというものを思い知らせてやろう…!!」

 

 指揮者によって奏でられた鎮魂歌は、七色の楽譜となりボールを包み込むと、次第に姿形を変化させる。

 

 その姿はまさしく……

 

イダテン「なんだあれ…?と、()……!?」

 

 七色の楽譜の成れの果ては、同色に輝く鋭い(くちばし)を持った巨大な鳥類…。だが、その鳥は空を飛ぶ為の必需品である“羽”を持っておらず、どちらかといえば人に近い雰囲気をイダテンは感じ取る。

 

シンフォニー「光栄に思うが良いッ!!これこそが我が神により授けられた究極にして…最強の必殺技だッ!!!」

 

 愚かにも“神”に歯向かう愚者へ己の力の差を知らしめるべく、シンフォニーは強烈なシュートを叩き込み、銃声を思わせる破裂音を奏でる。

 

シンフォニー「“皇帝ペンギンR(レクイエム)”!!!」

 

 “鎮魂歌(レクイエム)”の名を冠した七色に輝くペンギンは、その嘴にボールを加え、圧倒的な速度でゴールに襲い掛かる。その姿はまさにミサイルだ。

 

グリム『シンフォニーが放った必殺シュートは、まさかまさかの“皇帝ペンギンシリーズ”の新作だァァァ!!!どことなく“ペンギン・ザ・パレード”を思わせるモーションながらも、その威力は比較にもならないィィィ!!!』

 

ワンダバード「序盤(ココ)での1点は非常にマズい…!!マスター!!ムールムに強力な必殺技を使わせてください!!」

 

雷冥「………」

 

 気は弱くとも優れた知力を持つバードの助言(アドバイス)を受けた雷冥は、無言のままGKを務める金髪の美女ことムールムに念を送る。

 

ワンダバード(クッ…!ああは言ったけど、“()()()()()”を使わせたところで“皇帝ペンギンR”を止められるか…!?…ダメだダメだ!!なに弱気になってるんだサポートアンドロイド1号!!)

 

 シンフォニーが繰り出した“皇帝ペンギンR”は、そこいらの必殺技とは一線を画す威力だ。雷冥の故郷の時代でも同等の完成度を持つ必殺技は片手で数えられる程度だろう。

 

ムールム「ハッ!!」

 

 創造主の司令を受け取った眷属(ムールム)は、勢いよく地面を踏み締め一歩を踏み出す。

 

ワンダバード「よしッ!!」

 

ワンダキャット「……いや、()()

 

 必殺技の炸裂を確信する兄とは対照的に、いつのまにやら目を覚ましていた妹は、()()()()()()()()()()()

 

 それは……

 

ムールム「ハァァァ!!!」

 

 ムールムは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ワンダバード「なッ…!?」

 

 つまり、だ。雷冥が指示したのは『必殺技の発動』ではなく『ノーマルキャッチによるセーブ』である事に他ならない。

 一点が勝敗を分けるサッカー…ましてや己の“命”が懸かっているこの状況でだ。

 

ムールム「!!!!」

 

ズババーンッ!!!

 

 ムールムが繰り出せる最高の技ですら止められるか怪しいシュート相手に、ノーマルキャッチで止められる程の余裕がある筈がない。

 ペンギンの嘴は、ムールムを大きく吹き飛ばし、ゴールネットへと突き刺さる。

 

ピッー!!

 

グリム『ゴォーールッ!!!試合開始から僅か5分ッ!!先制点を奪ったのは“サンダーゲート”だァァァ!!! 一体、どーした我がマスター!?お腹の調子でも悪いのかーーッ!?』

 

 大きなモニターに表示された“サンダーゲート”陣営のスコアボードに『1』の数字が刻まれる。

 これが示すのは、得点の確定…。“サンダーゲート”の先制点の獲得だ。

 

雷冥「…さて、貴方はどう出ます?」

 

 先制点を奪われるという致命的な迷采配を行ってしまったにも関わらず、雷冥の表情には“焦り”がない。

 …寧ろ、()()()()。彼は“この展開(シチュエーション)を意図的に展開した”と言わんばかりの微笑を浮かべている。

 

 彼の視線の先にあるのは、側でピーチクパーチク猛抗議する眷属(ペット)でも、劣勢を告げるスコアボードでもない。

 

イダテン「強い…!おれよりも何十倍も…!……でも…!この程度で諦めるもんか…!!」

 

 ボロボロになりながらも立ち上がり、より一層、闘志の炎を燃やす茶髪の少年ただ1人だけであった。

 

雷冥「…どうやら、第一試練は“合格”のようですね…」

 

 誰にも聞こえない声量でそう呟いた雷冥は、次のプレーに思考のベクトルを向ける。

 

 開始から僅か5分で先制点を奪われ、劣勢となった“王魔雷帝”…。果たして彼らは“明日”を掴めるのか?




で、出たーー!!!イナイレお決まりの『意図は分かるけど時と場合を考えろ』的なクソムーブだーー!!!
・・・とまぁ、冗談は置いといて、雷冥のイダテンへの対応が、雷牙やカノンと比べるとヤケに冷たいのには、ちゃんとした理由があります。

①今作の雷冥は王牙編よりも前の時系列である為、精神的に未熟。
②“GF”によって拉致された影響で、普段より気を張り詰め過ぎている。
③極力、自身の問題に無関係の民間人を巻き込みたくない。

特に③の割合が大きく、加えて雷冥自身もかなり不器用なんで、イダテンを巻き込まない為に冷たい態度を取らざるを得なくなっちゃってるんですよね。
一見完璧超人に見えようが、所詮は雷牙の子孫なんで素の性格は警戒心が強く、相手がある程度の気概と覚悟を見せないと心を開かないとかいう大分めんどくさい性格をしてます。

〜オリ技紹介〜
♦︎皇帝ペンギンR(レクイエム)
属性:林
分類:シュート
使用者:シンフォニー
進化系統:改→真→爆→超
≪概要≫
楽園(エデン)”最強のサッカー選手・シンフォニーが得意とする必殺シュート。
神の啓示を受けた指揮者によって奏でられる鎮魂歌が、ペンギンの形となって叛逆者へ牙を剥く。
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