イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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えー、最初に言っておきます。今回はかなり話の進みが早いです。そのせいで試合のペースがえらいことになってますが、何とか頑張って飲み込んでください。


未来と因縁と覚醒と PARTⅡ

ワンダバード「…どうやら軽く足を捻っただけのようですね…。幸い今のところ骨に異常は見当たりませんが、コレ以上の試合続行は厳しいかと…」

 

 現在、試合はハーフタイムの真っ最中。ジャックによる化身の攻撃を受け負傷した雷冥は、ペット達による治療を受けていた。

 

 ジャックの化身シュートによる得点以降、試合は拮抗状態に陥ってしまった。

 

 それその筈、現時点での各選手の力関係を簡単に表すと、

 

 雷冥>>>>(超えられない壁)ジャック>>>>>>【王魔雷帝】の選手達>【アンダーマフィアズ】の選手達>イダテン

 

 といったところだ。

 ジャックが頭一つ抜けているのは当然として、【アンダーマフィアズ】は決して弱くはないが、雷冥が不覚を取るような実力ではない。

 だが、らしくもない凡ミスによってチーム司令塔兼エースストライカー兼守備の要が負傷してしまった点はあまりに痛く、【王魔雷帝】は完全に攻め手を失ってしまっているのだ。

 

 かといって、化身はそう簡単に連発出来る技術でない事が味方し、死に物狂いで防御に徹した結果、何とか1-1で同点のまま前半戦を終える事が出来た。

 

 …しかし、依然として【王魔雷帝】側は劣勢に立たされていると言ってもいいだろう。

 

雷冥「…構わん。後半からは私をDFに下げ、空いた穴にクトゥルーを入れる」

 

ワンダバード「構わないじゃないでしょう!? 僕の話を聞いてましたか!?コレ以上、無茶をすれば例えこの試合に勝てたとしても、貴方の右脚は間違いなくおじゃん!!“GF”の居城に侵入することすらできなくなっちゃうんですよ!?」

 

 あくまで選手として残り続ける事に強い拘りを見せる雷冥だが、そもそもこの試合自体、アンダーマフィアのボスたるジャックの信頼を得るべく始まったものだ。

 

 最悪、敗北したとしても【サンダーゲート】とは異なり命の危険は(今の所は)無いだろう。といってただ勝つだけで好戦的な彼からの協力を得られるとは思えない。

 

イダテン「と、とりあえずライメイが試合にでるかウンヌンは後で決めるとして、まずはジャックの攻略法を考えないかなぁ?ホラ!とくにあのでっかい鎧のヤツのさ!!」

 

ワンダバード「あの魔人の正体は分かってます。アレは“化身”…。人の想いが形となって具現化された存在です」

 

イダテン「ケシン…」

 

 幼馴染が使った技術にも関わらず、イダテン自身は化身の『け』の字すらも知らなかったらしい。どうやら、この世界では“化身”という技術自体が知られていないようだ。

 

ワンダバード「化身によって発動者に齎されるパワーは絶大です。それこそ、よほどの実力差が無い限り化身は化身でしか対抗できない程にね」

 

イダテン「じゃ、じゃあライメイは!? ジャックが使った時にそこまで驚いていない感じだったし、きみも化身を使えるんだよね!?」

 

雷冥「…結論から言おう。私は化身を使える。そもそも、デュプリとは化身の力を十一分割した存在なのだからな」

 

イダテン「マジで!? ぃよしっ!!これで勝った!!!」

 

雷冥「……だが、()()()()使()()()()()()()

 

イダテン「・・・へ?」

 

 これまたらしくもない雷冥の弱音にイダテンは呆気に取られるものの、すぐに怪我原因かと結論付けるが…

 

雷冥「私を侮るなよ?この程度の怪我など関係無い。…しかし、デュプリと化身の併用は出来ん、そういう仕様なのだ」

 

イダテン「・・・マジ?」

 

雷冥「…マジマジの本気(マジ)だ。厳密には全く不可能というワケではないが、デュプリを維持したまま化身を発動するとなれば、最低でも5人のデュプリを解除しなければ使う事すら出来ん」

 

イダテン「そ、そんなぁ…」

 

 唯一対抗出来そうな雷冥は負傷によって戦力は大幅ダウンし、化身に対抗策も無い…。次々と自身に襲い掛かる残酷な“現実”を前にイダテンは遂に肩を落としてしまう。

 

 ……雷冥は敢えて説明を省いたが、厳密には化身とデュプリの併用は不可能という訳ではない。

 事実、SSCやその延長線上にあたる超能力者達は、デュプリを使用しながらも化身を発動している記録が確認されている。

 

 では何故、雷冥はそれが不可能なのか?

 答えは単純、彼はSSCの領域に近くとも辿り着いてはいないからである。

 

 デュプリとは化身の亜種であるが、人間には使いこなせる代物ではない。

 当然、雷冥とて例外ではない訳だが、彼は時空管理局を通して“とある人物”に指導を受ける事で、才能と努力でSSCよりも精度の劣るデュプリの習得に成功していた。

 

 それは雷冥(クラス)の才能と血の滲むような努力を積み重ねる事で初めて習得出来る技術であったが、そこまでしても彼が生み出したデュプリは、到底実戦で使える水準(レベル)には程遠かった。

 

 そこで雷冥は、『デュプリ発動中は化身を使わない』という制約を設ける事で、デュプリの性能をSSC相当にまで引き上げる事に成功したのだ。

 故に彼はデュプリと化身を併用する事が出来ず、現在のような状況では不利になってしまうという訳だ。

 

雷冥「…だが、幸いな事に我が『稲魂家』には、代々このような状況に陥った際の打開策が受け継がれている」

 

イダテン「ーー!!! 本当!? その作戦ってどんなやつ…!?」

 

 まだ浅い付き合いでも、イダテンは雷冥のどんな逆境を前にして決して諦めない熱いハートに全幅の信頼を置いていた。

 だからこそだろうか?少年は『きっと雷冥ならば、素晴らしい逆転の一手がある』と判断したのだろう。それを示すように、あれだけ落ち込んでいた表情は一転して希望に満ち溢れた顔付きになっている、……()

 

ガシッ!

 

イダテン「・・・ん?」

 

 突如として雷冥はイダテンの両方を強く掴むと、曽祖父を思わせるニヒルな笑みを浮かべる。

 

雷冥「偉大なる我が曽祖父・稲魂雷牙の教えその一…。『人は死ぬ気で頑張れば、大体の事は“何とかなる”』……」

 

イダテン「あの〜……ライメイさん……?なんか、顔がいつも以上に怖いんだけど…」

 

 まるでプログラムされた台詞しか喋る事の出来ないロボットのように、そう淡々と告げる雷冥に、イダテンは嫌な予感が止まらない。

 

雷冥「イダテンよ。私が貴様に授ける策は一つだけ……」

 

 その“嫌な予感”が最高潮に達した瞬間…。遂に『稲魂家』の教えがベールを脱ぐ……。

 

雷冥「()()()()()使()()()()()()()

 

♢♢♢

ジャック「あ〜ん? ライメイがDFに下がっただとォ?」

 

 ハーフタイムが終了し、対峙するチームのフォーメーションを見たジャックは訝しげな声を上げる。

 

 それもその筈。何せ、彼からしてみればお気に入りの玩具(おもちゃ)が手の届きにくい所へしまわれてしまったのだから。

 

ジャック「オイオイ!ライメイくんよォ!!!オレとの勝負をほっぽり出して自分(テメェ)だけ逃げるなんざ寂しいじゃねェか!!ちったァ、待ってやっから戻って来いよォ!!!」

 

雷冥「コレは“逃げ”などでは無い、戦略的撤退だ。後半戦からの貴様の相手は私ではなく、そこのイダテンだ」

 

ジャック「イダテンだと…?」

 

 あれだけ楽しみにしていた玩具との遊戯を避けられ、その代わりに憎たらしい“裏切り者”を当てがわれた事が余程嫌だったのだろう。

 ジャックは強い“憎しみ”が込められた眼でイダテンを睨み付ける。

 

イダテン「ぐっ……!!」

 

 とはいえイダテンとて負けちゃいない。“奈落(アンダー)”の頂点に立つ男の殺意を前にしても、一歩も引く事なく逆に睨み返すだけの胆力を発揮している。

 

 ……尤も、慣れていない事に加えて、元が童顔なせいでてんで怖くないが。

 

ジャック「ケッ、なるほど…。“今”の自分は“昔”の自分とは違う…と言いてェのかい?」

 

イダテン「…違うさ、ジャックの言うとおり、おれは“今”も“昔”も変わっちゃいない…。喧嘩別れしたあの日からね…」

 

ジャック「………」

 

イダテン「…けど!おれは今日、きみと仲直りするために戻って来た!!!この試合で“あの日”の決着をつけよう…!ジャック…!!」

 

ジャック「…チッ、弱虫で、泣き虫で、裏切り(モン)のテメェがよくそんな台詞を吐けたモンだなァ…!…だが、良いだろう…!!“奈落(アンダー)”のルールは常に『弱肉強食』ッ!!テメェがオレに勝てたら、“あの日”の失言はチャラにしてやるよォォォ!!!」

 

ゴオォォォン!!!

 

 ジャックの殺気が最高潮に高まった瞬間、再度大ドラが鳴らされ後半戦が開始する。

 まずは【王魔雷帝】からのキックオフ。先陣を切るのは魔王軍の切り込み隊長ことバッサタンだ。

 

ジャック「悪ィがこの試合はオレと裏切りモンだけのステージなんでなァ!!!部外者は引っ込んでなァ!!!」

 

 しかし、勢い付いたジャックには叶わず、一瞬にしてボールは奪われてしまい、早くも攻撃権は【アンダーマフィアズ】へと移る。

 

ジャック「フハハハッ!!!来やがれェ!!“剣聖 ランスロットォォォ”!!!」

 

イダテン「いきなり来た…!」

 

 試合再開から1分も経たないうちにフィールド上に顕現せしは、肉体も、獲物も、騎士道精神も……その全てが『白銀』によって構成された一体の“剣聖”。

 

 自らを『(ジャックナイフ)』と名乗る少年の“想い”の結晶は、その手に大剣を持ち、光り輝く剣先を躊躇せずにかつての友へ向ける。

 

イダテン(ビビるなイダテン…!この状況をポジティブに捉えるんだ…!そう…!!早くもチャンスが回ってきた……てね!!!)

 

 化身が発する圧倒的な気迫を前にイダテンの気持ちは負けそうになるが、何とか自身を鼓舞する事で負けかけた気持ちを回復させる。

 同時に少年の脳裏に浮かぶのは、後半戦前に機械のように無機質な顔をした雷冥から投げかけられた“あの言葉”……。

 

………

……

雷冥『よいか、イダテンよ。化身とは持ち主の“想い”の結晶…。言い換えれば『夢』その物でもある』

 

イダテン『ゆめ……』

 

雷冥『貴様の『夢』は“楽園(エデン)”へ向かい、自身の真名を取り戻す事だろう?その『夢』が本物ならば、必ず“化身”は応えてくれる筈だ』

 

イダテン『おれに…できるのかな…?』

 

雷冥『…出来る出来ないの話では無い。『夢』を叶える為には必ず幾つかの“試練”を突破せねばならん、貴様にとっての第二の試練は今、この瞬間である……ただそれだけだ』

……

………

 

 あの瞬間、イダテンが雷冥と交わした会話はたかが二言程度…。しかし、彼の言葉には確かに“重み”があった。

 

 きっと、雷冥も化身を、デュプリを習得する際に、“試練”と形容される程に並々ならぬ努力を重ねたのだろう。

 

 ならば、イダテンがするべき事はただ一つ……

 

イダテン(これがおれの“試練”だっていうのなら…!もう一回飛びこえてやる…!!!)

 

 目の前の理不尽がイダテンへ向けられた『試練』だと言うのなら、少年は怯む事なく立ち向かうだけだ。全ては己の“夢”を叶える為に。

 

イダテン「うおぉぉぉぉ!!!!」

 

 覚悟を決めたイダテンは、咆哮を上げ単身突撃を行うが……

 

ジャック「クハハハッ!!!相変わらず馬鹿だぜ、テメェはよォ!!!“ランスロット”を発動したオレに勝とうとするだなんて無駄なんだよォォォ!!!」

 

イダテン「ぐわぁぁぁあ!!!?」

 

 必殺技すら使えないイダテンと、化身を発動したジャックとの実力差は圧倒的であり、得意の俊足を用いてもなおその差を埋める事は叶わなかった。

 

雷冥「ヨルッ!!」

 

ヨル「任せなッ!!“オラオラメンチィ”!!!」

 

 端からイダテンの敗北を戦略に組み込んでいた雷冥は、伏兵としてヨルを忍び込ませ、獲物に狙いを定めた蛇の如き眼力の強さでジャックの動きを封じようとする、が……

 

ジャック「ウォリャァァァァァ!!!!!」

 

 勢いに乗るジャックには通用せず、白銀の大剣によって道を切り開かれてしまう。

 

「流石はボスだァ!!このまま追加点は頼みますぜェ!!!」

 

ジャック「任せなァ!!!今日もバンバン点を取ってやっからよォ!!!」

 

 ジャックのテンションは最高潮に跳ね上がり、ドリブルの荒々しさは更に増す。

 

 だが……

 

 その刹那、“剣聖”の前方より凍えるように冷たい北風が吹き荒れる。

 

雷冥「“アイスグラウンド”」

 

ジャック「ガッ…!?テ、テメェ…!!」

 

 突如としてグラウンド一帯が薄い氷に覆われると、ジャックの身体は厚い氷に覆われ、彼を拘束したのだ。

 

ワンダキャット「アレ?あんな派手なプレーをしていいの? マスターの足、壊れちゃうんじゃない?」

 

ワンダバード「違うよ。今の“アイスグラウンド”にマスターは左脚一本しか使ってない。“アイスグラウンド”は数少ない足一本で発動できる必殺技だからね、今のマスターにはピッタリな必殺技なんだよ」

 

ワンダキャット「はへー」

 

 補足するなら、現在の雷冥では単独で化身使いを止める事は難しい。

 しかし、一連の攻防に関してはジャックが化身を使()()()()()()()()()が大きく味方した。

 

 確かに化身は強力無比な技術であるが、化身のパワーは最大まで高めると、突破直後の数秒間、一時的に最低値まで下がってしまうという欠点がある。

 

 故に化身使いはパワーダウンを起こさないようにある程度パワーをセーブしながら立ち回るのが基本中の基本だが、ジャックはそのセオリーを知らない。

 

 要するに、ジャックは化身を使えても、使い熟せてはいないのだ。

 

ジャック「なるほどねェ…。どうやら化身(この力)も万能では無いって訳かい?」

 

雷冥「なるほど、単なる力任せの脳筋愚者(バカ)では無いというワケか」

 

 こうして負傷している身でありながら上手くジャックからボールを奪えた雷冥だが、これはあくまでジャックの慢心を突けた結果に過ぎない。

 

 ただ腕っぷしが強いだけならば、アンダーマフィアのトップは到底務まらない。寧ろ、ジャックの強みは弱点を看破された後の学習能力(リカバリー)の高さにあるのだ。

 

ジャック「警告しておくぜ、イナタマ・ライメイ。オレに同じ小細工は通用しねェ。次はそう簡単に守れるとは思うなよ?」

 

雷冥「ならば私も忠告してやろう。前だけ向き過ぎると、いつか思わぬ小粒に躓く事になるぞ?」

 

 互いを好敵手(ライバル)と認め合った両者は、バチバチに目線を合わせつつも、即座に試合に戻る。

 

 ある意味、本当の戦いはここから始まると言えるだろう。

 

♢♢♢

イダテン「ガッ…!!」

 

ジャック「もう諦めろ。テメェは一生掛かってもオレには勝てねェよ」

 

 それから20分…。イダテンは【サンダーゲート】との試合以上にボロボロとなっていた。

 

 旧友との決着を付ける為に奮闘するも、いくら奮起しようともジャックとの『差』を埋めるにはあまりに力不足であり、どんなに挑もうが肩に付いた埃を祓うかのように一蹴されるだけだった。

 

 雷冥達(それ以外)の頑張りにより辛うじて失点は免れているものの、片足を負傷している雷冥では本来の実力を発揮する事が出来ず、大苦戦を強いられていた。

 

イダテン「まだ…だ…!おれは……まだやれ……るぞ……!!!」

 

ジャック「鬱陶しいなァ!!テメェはよォ!!! “あの日”だってそうだッ!!!テメェが素直に意見を譲ってりゃア、裏切りモンスターズにならなくてよかったのによォ!!!」

 

 どんなに痛め付けても折れる事の無い諦めの悪さが余程癪に触ったのだろう。これまで粗暴ながらもどこか心の余裕を見せていたジャックは、初めてこの上なく声を荒げてイダテンを罵倒する。

 

ジャック「何故だ!?どうしてテメェは学ばねェ!? テメェにあるのは親に捨てられたっつー“事実”だけだッ!!んなのに…!今さら“楽園(エデン)”に戻ったところで、“夢”を叶えられると本気で思ってんのかよッ!?」

 

 かつてジャックはイダテンが“楽園(エデン)”に拘る理由を聞いた事がある。

 能天気で弱虫にも関わらず、夢を語る時だけは真面目な顔をする旧友の姿に呆れさえ覚えたものだ。

 

 …だからこそだろうか?ジャックは無性に腹を立てていた。

 

 いつまで経っても“夢”を諦めない裏切り者(イダテン)に。

 

 いつまで経っても変わらない裏切り者(イダテン)に。

 

 そして……

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

イダテン「叶うさ…!!!」

 

ジャック「・・・は?」

 

イダテン「夢は…!諦めなければ絶対に叶う…!!!だって…!!」

 

ジャック「ッ!!!!」

 

 刹那、ジャックはイダテンの姿に“ある人物”の影が重なる。

 

 それは、もう絶対に再会する事は叶わない大切な人……。

 

イダテン「人は…!!!」

 

ジャック「止めろ…!!!それ以上言うな…!!!」

 

 イダテンに重なった“大切な人”の影が濃くなる程、ジャックは強く狼狽え始める。

 

イダテン「止めない…!!!きっと…!!優しかった“あの人”は…!!きみが力に固執することなんか望んでなかった筈だから…!!!」

 

ジャック「黙れェェェ!!!」

 

 反則になってでもイダテンを黙らせようと、化身を発動するが背中から放出されたオーラは“剣聖”を形造る事なく、空中へ四散してしまう。

 

ジャック「馬鹿な…!?」

 

イダテン「ジャックゥゥゥ!!!」

 

ジャック「グッ…!?」

 

 ジャックの名を呼んだ瞬間、透明であった“大切な人”の影は遂にイダテンの肉体と同化し、その姿を現わにする。

 

 イダテンを媒介にジャックの前に現れたのは、ジャックとよく似た容姿を持つ青年…。

 

 ジャックはその青年はよく知っていた。何せ青年は……

 

ジャック「タガー……兄さん……!」

 

 ジャックの実の兄…()()()()()()()()()()

 

イダテン「人はぁぁぁ!!!夢を見る生き物なんだぁぁぁ!!!」

 

 イダテンは叫ぶ。大切な恩人が遺してくれた“教え”を。彼にとって、この“教え”こそが今の自分を作り上げた原点(オリジン)なのだから。

 

 その叫びは少年の“魂”その物。

 天に木霊した魂の叫びは少年の“夢”を叶える大いなる翼となる…!

 

イダテン「うおぉぉぉぉ!!!!」

 

ワンダバード「ーー!!! マスター!アレって…!!」

 

雷冥「フッ…遂に形にしたか。貴様の“夢”を…!」

 

 イダテンの背に出現した巨大な翼は、少年の胸に秘めた大いなる“夢”に呼応するように、徐々にその形を変化させる。

 

ジャック「馬鹿な…!?テメェ如きが…!オレと同じ場所にまで来ただと…!?」

 

イダテン「ジャックッ!!!おれは絶対に諦めないっ!!!おれの本当の名前を知るために、どんな試練が立ちはだかっても…!“夢”に向かって…!飛ぶっ!!!」

 

 覚悟を決めたイダテンの全身からは、巨大な気流が噴き出した。同時に青白い光が螺旋を描き、彼の背後に力強い翼と屈強な肉体を有した紅の魔神が姿を顕す。

 

イダテン「これがおれの…!おれだけの化身…!!“魔神 ペガサス”だぁぁぁ!!!」

 

 遂に降臨したイダテンの『夢』の結晶体…“魔神 ペガサス”。雄々しくも美しき翼を持つ『天馬』の名を冠した魔神は、その翼を羽ばたかせる事なく、ただ静かに“()()()”を待つ。

 

イダテン「…立てよ、ジャック。今ここで決めよう…!おれときみが大喧嘩をした“あの日”…!!果たしてどちらが正しかったのかを…!!!」

 

 イダテンはあくまでも文句の付けようの無い真剣勝負の末に、“あの日”の解答を導き出す事に拘る。

 

ジャック「…それはテメェ自身の思想かよ…?それとも…タガー兄さんの真似事(敵討ち)のつもりかァ…?」

 

イダテン「どっちもだ…!!!」

 

雷冥「………」

 

 後方にてディフェンスラインを形成をする雷冥は、静かに彼らの戦いを見守る。

 彼は『タガー』なる人物がどのような人間だったのかは何一つとして知らない。そもそも、『タガー』なる人名を聞いたのは今が初めてだ。

 

 それでも彼は同盟者の行く末を静かに見守る。きっと、『タガー』が遺したという教えと思想は、自身の母に勝るとも劣らない程素晴らしい物だと確信しているから。

 

ジャック「グゥ…!!!カァァァァァ!!!!!」

 

 イダテンの解答はジャックの心に響いたのだろう。おもむろに立ち上がった少年は咆哮を上げ気を高めると、再度、背から膨大な量のオーラが噴出し、その形を変え始める。

 初めこそ、先ほどのように危なげなく不定形に変形していたオーラであったが、徐々に人型へと姿を変え、遂には白銀に輝く騎士を形造った。

 

ジャック「“剣聖…!ランスロットォォォ”!!!」

 

 フィールドに顕現した“剣聖”は、右手に携えた大剣を目の前にて立ちはだかる“魔神”の心臓部へと向ける。

 

イダテン「さぁ…!始めようか…!!!はぁぁぁぁ!!!!」

 

 イダテンもまた、負けじと化身パワーを最大限まで高め、“魔神”の翼を大きく広げる。

 

ジャック「行くぞォォォ!!!イダテンーーーッ!!!」

 

イダテン「来ぉいッ!!!ジャックゥゥゥ!!!」

 

 “剣聖”は『(けん)』を、“魔神”は『(けん)』を抜き、コンマ1秒の誤差も無く、同時に衝突する。

 

 勝負は一瞬だった。互いに繰り出した攻撃は僅か一撃だけ…。そこに第三者が介入する余地など存在せず、実に原始的な意地と意地のぶつけ合いが繰り広げられた。

 

 たった一撃のみの応酬戦の末に、意地を貫き通したのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャック「ガッ…!ハッ…!?」

 

イダテン「知らなかったのか…!?おれの拳は……!剣をも砕く……!!!」

 

 その小さな肉体に大いなる“(ペガサス)”を宿した茶髪の少年であった。

 

「ボスが…!負けちまった…!?」

 

「おい、何ボサっとしてんだ!?早くチビを止めろッ!!!」

 

 絶対的な信頼を置いていたボスの敗北は、部下達に大きなショックを与えていた。

 ある者は目の前の現実を受け入れる事が出来ずに呆然とし、ある者はボスですら勝てない者に自分が勝てる訳が無いと怖気付いている。

 

イダテン「邪魔だぁぁぁ!!!おれに挑むつもりがないのなら…!道を開けろぉぉぉ!!!」

 

『ヒィィーーーッ!!!!』

 

 精神を恐怖心によって支配された選手達は、あれだけ大切にしていた維持も誇りも全て投げ捨て、我先に逃げ始める。

 …だが、誰にも彼らを責める権利は無い。何故なら、今のイダテンが持つ気迫はジャックはおろか、シンフォニーと同等…いや、それ以上の物なのだから。

 

雷冥「いいぞ、イダテンッ!!!貴様のその内に秘めた愚鈍なる力に抗う反逆の翼を…!今ココに羽ばたかせろォォォォ!!!!」

 

イダテン「ああっ!!!」

 

 もはや少年の前に立ち塞がる障害は一つだけ。震えながらゴールを護るキーパーだけだ。

 他の選手が悉く逃げ出す中、そこまで震えながらもゴールを護っているかは当人にしか分からないだろう。もしかしたらジャックへの忠誠心故かもしれないし、単純に脚が動かなくなってるだけかもしれない。

 

 ただ一つ確かなのは、どちらの理由であろうとも、今の勢いにノリに乗ったイダテンを止めるには役不足でしか無いという事だけだ。

 

イダテン「“リベリオン…!ウィングゥゥゥ”!!!」

 

 蒼白の弾丸と化した必殺シュートは、魔王を思わせる紺碧の羽を軌道上に舞い散らせ、ゴールへ向かう。

 

「グッ…!ウ、ウォォォォォ!!!!!」

 

 せめてもの意地か、それとも追い詰められた末の行動爆発か。

 巨漢のキーパーは、2本の腕で蒼白の弾丸を掴み取るが、どんなに足の踏ん張りを強めようが止まる気配がまるで無い。

 

「ヌオォォォ!!!?」

 

 最終的にキーパーは一矢報いる事すら許されず、その身ごとゴールネットに突き刺さり、【王魔雷帝】の二得点目を許す事となった。

 

ピーッ!!! ・・・ピッ! ピッ! ピッーーーッ!!!

 

 追加点を知らせる短いホイッスルが鳴った直後、今度は試合終了を知らせる長いホイッスルが鳴り響く。

 

イダテン「勝った…?おれが…シュートを決めたの…???」

 

 初めて化身を発動し、初めて必殺シュートを放ち、初めて点を決めた…。この数分間で三度も“初めて”を体験したイダテンは勝利という現実を受け止められずに、ポカンとした表情を浮かべている。

 

パチンッ!

 

イダテン「あ痛っ!?なにすんだよライメイ〜!!!急にデコピンするのは酷いだろ〜!?」

 

雷冥「フン、私のチームに居る以上、そんな間抜け面をする事は許さん。今回の勝利は紛れもなく貴様自身の力で掴み取ったモノなのだ。勝者に相応しい顔をせよ」

 

イダテン「そっか…やっぱりおれたちが勝ったのか…。・・・ぃ〜〜〜〜やったぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 デコピンと雷冥の言葉によって、ようやく理解が追い付いたイダテンは無邪気に大はしゃぎし、心の底から勝利を喜ぶ。

 

 こうして、“楽園(エデン)”到達への足掛かりを得る為の試合は、【王魔雷帝】の勝利で幕を閉じた。

 果たして、雷冥一向はアンダーマフィアの協力を得る事は出来るのか?




作者が書くオリキャラって全体的にバカみたいに強キャラばっかなところを見ると、雷牙っていい感じに強くて、いい感じに弱かったんだなぁって思ってしまう今日この頃。

〜オリキャラ紹介〜
■タガー
≪概要≫
ジャックの実の兄で、先代アンダーマフィアのボス。
粗暴で短気な人間の多い“奈落(アンダー)”の中では珍しく、思慮深く冷静に物事を判断できる人間であり、若輩ながら権力闘争の末に複数の組織に分裂していたアンダーマフィアを弁舌と交渉を以て統一する程の才人でもあった。

生粋の平和主義者であり、アンダーマフィアの権力を以て恵まれない子供や老人といった弱者を救済したり、“楽園(エデン)”では権力闘争の道具にしか使われていないサッカーを、人と人とのコミュニケーションとして使い、いつの日か“楽園”と“奈落”の人々が手を取り合える事を夢見ていたが、ある日を堺に行方不明となってしまった。

唯一の肉親である弟への愛情は深く。元々彼自身も名無しの孤児だったが、ある日を境に弟が『ジャックナイフ』と名乗り始めた事をきっかけに、弟にあやかって自身も『タガー』と名乗り始めたのだそう。

〜オリ技紹介〜
♦︎リベリオンウィング
属性:風
分類:シュート
使用者:イダテン
類似モーション:マッハウィンド
≪概要≫
爆発的なスピードで突風を生み出し、目にも止まらぬ速さでシュートを放つ。その紺碧の翼は自由を奪う愚鈍なる権力に風穴を開けるという。

最近、新章から台本形式をやめて普通の形式に戻そうかなーって考え始めたんで、参考がてらにアンケートを取ります。投票期間は現在連載中のスピンオフ完結までを予定してます。

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