イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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あんまり深い意味は無いですけど、イダテン・ジャック・シンフォニーのCVは、
イダテン=寺崎裕香
ジャック=大原崇
シンフォニー=斎賀みつき
を想定してます。
本当に深い意味は無いんですけどネ〜(すっとぼけ)。


潜入と狂気と決意と

ワンダバード『マイクテステス…。聞こえてますか、マスター?』

 

雷冥「聴覚OK…。感度良好…。良し(ベネ)、作戦通り案内(ナビ)をお願いします」

 

ワンダバード「ラジャー!!!」

 

 インカムから聴こえる眷属(ペット)の声を羽虫のように小さな小声で受け流しながら、雷冥は静寂に包まれた居城内を滑るように進んで行く。

 

ワンダバード『マスター!現在の警備配置データを更新しました! 左のルートはセンサーが配置されている為、右の第3連絡通路へ迂回してください!』

 

雷冥「了解です。……珍しく貴方が頼もしいサポートロイドに見えますよ、バード」

 

ワンダバード『えへへ〜/// それほどでも〜/// ・・・アレ?今、シレっとディスられた?』

 

 ここは“楽園(エデン)”の中心地ーー“GF”の居城…。

 その地に忍び込んだ侵入者こと稲魂雷冥は、日光すらも吸収する無機質な黒を基調としつつも、差し色として紫を取り入れた事でサイバーチックなデザインを兼ね備えた廊下を静かに、そして素早く駆ける。

 

コン…

 

 その道中、微かに響いた足音を雷冥は聞き逃さなかった。

 即座に道の影に身体を潜め、小さく顔を出す。そこに居たのは巡回中の警備兵…。鴨がネギを背負ってやって来るとはまさにこの事だ。

 

「フンフ〜ン♪」

 

雷冥「左から失礼」

 

「ガッ……!?」

 

 声をあげる隙すら与えない、首魁の頸動脈へ的確に叩き込まれた手刀一閃。崩れ落ちる兵士を静かに抱きとめると、雷冥は迅速かつ無駄のない動作でその衣装を剥ぎ取り、偽装を行った。

 

雷冥「悪いですが、しばらくは素っ裸のままでお眠りください。なに、程なくして手元に戻りますよ」

 

 哀れ、身ぐるみを剥がされた兵士は、監視カメラの死角に放置されると、もう用済みだと言わんばかりに雷冥から視線を逸らされる。

 

雷冥「バード、警備レベルの変化は?」

 

ワンダバード『大丈夫です…!監視カメラにも映っていません…!』

 

 とりあえず、これによってより一層侵入がバレ辛くなった。ならばこのまま目標に向かって、突っ走るだけだ。

 

 改めておさらいしておこう。雷冥が居城内に侵入した目的は大きく分けて2つ。

 

 1つは、この城の何処かにあるであろう時空転移装置の強奪。正直な話、これさえ達成してしまえば残りの1つは存在意義を無くす。

 

 そのもう1つとは、ズバリ“GF”への接触だ。

 確かに“GF”との接触は、あまりにリスクが大き過ぎる。そもそも、“GF”の目的自体が雷冥自身なのだから。

 

 “GF”からしてみれば、こうしてコソコソと侵入している自分は文字通り“飛んで火に入る虫”でしかないのだろう。

 

 それでも、雷冥は相応のリスクを負ってでも“GF”と接触しなければならない。

 何とか彼に近付きさえすれば、“オーダーツイカー”を使う事で強制的に彼が持つであろう時空転移装置を賭けたサッカーバトルに持ち込めるのだから。

 

「おい、お前!!こんな所で何をしている!?末端の兵士は第4区画の点検の為に招集が掛かっている筈だろう!!」

 

 …とはいえ、だ。変装したからといって潜入捜査の難易度が下がる訳ではない。

 普段ならば本部から支給されるエージェント専用の七不思議小道具を用いる事で姿や声、記憶までもコピーする事が可能だが、生憎今の雷冥にはそんな便利な物は無い。

 

 ある意味、ここからがコードナンバー持ちのエージェントとしての腕の見せ所だ。

 

雷冥「ハッ!小生、本日配属された新人でありますが、あまりにも居城内が広過ぎる為、迷子となっておりました!!、」

 

「迷子って…。そんな誇らしそうに言うんじゃない…。ハァ…第4区画はそこの道を曲がって道なりに進めば着く、早く行って来い…」

 

雷冥「ハッ!!申し訳ありませんでした!!!」

 

 何とかその場を誤魔化す事ができた雷冥は、そそくさと立ち去り、別ルートからの捜索を再開する。

 

ワンダバード『ところで…目的の品物は一体、どこに保管されているのでしょうね…?』

 

雷冥「私の経験則からすれば…タイムマシン然り、時空転移装置然り、限られた人間しか使う事が許されない道具は技術漏洩を防ぐ為に、秘密裏に隠された研究所…のような所に保管されている筈です」

 

ワンダバード『だったら適当な所で科学職員の身ぐるみを剥がなければなりませんね…』

 

雷冥「そういう事です!」

 

 その後も潜入捜査は続いた。道中幾度となくハラハラさせる場面がありつつも、その場その場のアドリブとハッタリを用いる事で巧みに切り抜け、遂にお目当ての場所へと辿り着いた。

 

「グェ…」

 

バタンッ!

 

雷冥「悪く思わないでください。コチラも生き残る為に必死なのでね」

 

 運良く手頃な研究職員を気絶させ、変装を終えた雷冥は、厳重なセキュリティロックを端末捜査とワンダバードによるハッキングで解除し、研究所内へ入る。

 

雷冥「…おかしい…」

 

 不思議な事に、研究所内部に職員らしき人間は1人も居ない。

 もしや罠か?そんな思考が脳裏を過ぎるが、かといって警備兵が隠れている気配も無い。

 

雷冥「…いや、違う。ココは研究所ではない…。ココは…データベースでしょうか…?」

 

 部屋中に設置された数々のコンピューターの存在が、この場所が研究室である錯覚させたが、よく見るとこれらのコンピューターは研究用ではなく、記録用に使われる物ばかりだ。

 

 目の前に広がる光景を一言で表すならば、『電脳博物館』…といったところだろうか?

 

雷冥「目当ての部屋ではなかった事は悔やまれますが、コレはコレで大変興味深い代物ではありますね。どれ、一つ交渉時に使えそうな情報(データ)でもコピーしておきましょうか」

 

 懐から一本のUSBメモリを取り出し、接続部に挿入しようとするが、差し込み口と端子の形状が合わない。

 すると端子はガシャガシャと小さな機械音を立てて変形し、差し込み口にピッタリな形状となりハマる。

 差し込まれた瞬間、メモリによって強制的にパスワードが解除されてしまった。

 

 これぞエージェント七不思議道具の一つ『GAIAメモリ』。

 これ一本でウイルスの除去・パスワードの強制解除・消えたデータの復元…etc、電子機器関係ならばどんな事も解決してくれる超万能器具だ。

 

『ピーッ。セキュリティレベル5ヲ確認シマシタ。ロックヲ解除シマス』

 

雷冥「さてさて…何か耳寄りな情報を得られれば良いのですが…」

 

 ロックが解除されると同時に部屋の中央に浮かび上がるのは、青白いホログラムモニター。

 雷冥の時代には既に実用化され、広く流通しているタイプと同じホログラムだ。

 

雷冥「……何……?」

 

 交渉と捜索を有利に進めるべく、意気揚々とホログラムのキーボードを操作していた雷冥であったが、突如としてその指が止まる。

 モニターに映し出されていたのは、膨大な個人データと生体記録…。だが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

雷冥「()()()に…()()()()…!何故、過去のサッカー選手達の生体記録がこの世界にあるのですか…!?」

 

 モニターに表示されていたのは、雷冥が故郷の歴史における“80年前の英雄達”ーー伝説のサッカー選手(プレイヤー)・円堂守と彼の曽祖父・稲魂雷牙をはじめとするレジェンドプレイヤー達のデータ…。

 

雷冥「ひいお祖父様達だけじゃない…!!松風天馬…!サリュー・エヴァン…!ビットウェイ・オズロック…!より未来のSSCや地球外生命体のデータまで入っている…!!」

 

 経験豊富なタイムエージェントである雷冥だが、目の前の異常事態を簡単には受け止め切る事が出来ずに、大量の冷や汗を流しながら強く狼狽える。

 

 病的なまでに排他的な並行世界でありながら、このようなデータが存在するという“事実”……それは雷冥を混乱の渦に引き込むには十分過ぎた。

 

雷冥「どういう事だ…?何故、ヤツがコレらのデータを持っている…!? “GF”……ヤツは一体何者なのだ…!?」

 

 “GF”に対する不気味な戦慄は、冷たい汗となって背筋を伝う。

 並行世界の人間のデータが揃っている事自体異常ではあるが、それ以上に雷冥の戦慄を誘うのは、データの緻密さ…。

 

 一つ一つのデータには年代ごとの身体能力・習得した必殺技の記録のみならず、対象が産まれてから死を迎えるまでの事柄が事細かに記載されている。

 

 その情報量はまさに“狂気”…。記録対象がサッカー選手(プレイヤー)のみに絞られている事も狂気性を増加させる。

 

???『どうかね?私が心血注いで手に入れた、最高のデータ達は?』

 

 狂気を前にし雷冥の身体が無意識に震える最中、突如としてモニターがハッキングし返され、膨大なデータ群は消失し、別の画面へと切り替わる。

 

 そこに映っていたのは、()()()()……

 

雷冥「グランド……ファーザー……!!」

 

 この世界における絶対君主にして唯一神たる仮面の男であった。

 

“GF”『久しいな、稲魂雷冥よ。随分と手間を掛けさせてくれたではないか?まあ、貴様が我が城へ戻って来る事は最初から分かりきっていたがね』

 

 その瞬間、ロックされていた分厚い鉄の扉はゴゴゴと鈍い音を立て開く。

 同時に最新式の銃火器を持った屈強な兵士達が室内に雪崩れ込み、全ての銃口を雷冥へ向けた。

 

雷冥「…泳がされていたのは、私の方だった…というワケですか…」

 

“GF”『そういう事だ。組織の力を借りず、自力での脱出に拘っていたようだが、無駄な徒労だったな』

 

♢♢♢

 兵士たちに連行された先ーーそこは重苦しい静寂が満ちる城の最深部『玉座の間』であった。

 玉座に鎮座する“GF”を見上げる雷冥の身体を、突如として不可視の圧力が襲う。

 

雷冥「ガッ…!?」

 

“GF”「ククク……その反抗心だけは買ってやるが、無駄な足掻きはやめておけ。私の前では物理的な抵抗など何一つとして意味をなさないのだから」

 

 “GF”が持ち得た謎の超常的な力によって、四肢は不可視の鎖で縫い付けられたかのように空間へと固定され、雷冥は指一本動かすことすら封じられた。

 自由を奪われた雷冥に対し、“GF”は愉快そうに仮面の奥の瞳を細める。

 

雷冥(コレは…!SSCの力か…!? だが…!ヤツらは力の代償に二十歳(はたち)まで生きられない筈…!)

 

“GF”「この力が不思議かね?いいだろう、冥土の土産に教えてやる。この力は実験対象(モルモット)にしていたSSCの力を再現した物だ」

 

雷冥「なん……だと……!?」

 

“GF”「厳密にはSSCから枝分かれした超能力者(ミュータント)だ。本来ならば、ヤツらを()()()使()()()()()()()、先日現れた襲撃者による脱走を許してしまってな。そこで代替え案として貴様が選ばれた訳だよ。稲魂雷冥」

 

雷冥「生贄……?襲撃者……? 一体、何の事ですか……?」

 

“GF”「ククク…!まだ理解出来ないのかね? いいだろう、一度は私の目を欺いた褒美に見せてやろう…!私の“祭壇”を!!!」

 

 “GF”が優雅に指を鳴らした瞬間、重厚な玉座の間の天井が、地鳴りのような咆哮を上げて左右へと開き始める。

 

雷冥「なッ……!!?」

 

 遮るもののなくなった頭上に広がっていたのは――城の内部とは思えぬほど狂った光景だった。

 天井の奥に隠されていた“それ”を目にした瞬間、雷冥は驚愕のあまり息を呑み、瞳孔を極限まで見開く。

 

 そこにあったのは、渦を巻き、禍々しく拍動する巨大な空間の裂け目――。

 

雷冥「アレは……!! 時空の歪み……!?」

 

 タイムエージェントとして潜修してきた雷冥にとって、“時空の歪み”など嫌というほど見慣れた現象だ。

 だが——いま頭上に蠢く“それ”は、これまで潜り抜けてきた修羅場のどれとも異なっていた。

 

 圧倒的な禍々しさを放つ歪みを目にした瞬間、雷冥の全身の毛穴が収縮し、止めどない冷や汗が背筋を吹き抜ける。

 

雷冥(いや違う…!!アレは……“歪み”ではない……!!!)

 

 それは単なる時空の亀裂などではなかった。

 まるで歪みの奥底に、人知を超越した邪悪な意思——いや、“生命”という概念すら生ぬるい“ナニカ”が潜み、こちらをじっと見下ろしているかのような、背筋の凍る錯覚に襲われた。

 

“GF”「エージェントである貴様は知らん筈はなかろう?世界という概念が飽和し尽くし、低次元へ堕ちた時…!不必要となった世界を断罪すべく顕現する、高次元に住まう“神”の存在を…!!!」

 

 狂気に満ちた高笑いが、重厚な玉座の間を激しく振動させる。

 その言葉を聞いた瞬間、雷冥の脳裏を最悪の仮説が駆け巡り、全身の血が凍りついた。

 

雷冥「貴様……!まさか…“マインドイーター”を顕現させようというのかッ!!?」

 

 “マインドイーター”ーーそれは高次元に座す、概念そのものを喰らい尽くす神の如き“絶滅の意志”。

 無数の並行世界が存在する中にあってもその全貌を知る者は皆無であり、ただ一つ確かなのは、低次元の生命体では絶対に抗い得ない『天災』そのものであるという事実だけだ。

 

雷冥「狂ってる…!貴様は完全に狂っているッ!!! ヤツは時空管理局の全戦力を以てしても干渉すら叶わない上位存在なのだぞッ!?それを貴様のようなイカれた独裁者が制御出来る筈が無いッ!!!!!」

 

 雷冥とて、“マインドイーター”の実物を目にしたことはない。だが、ヤツによって『消去』された並行世界の無惨な記録は嫌というほど閲覧してきた。

 雷冥の時代より遥かに高度な文明と科学力を誇った世界ですら、“マインドイーター”の裁きの前には擦り傷一つ負わせることもできず、一瞬にして世界の痕跡ごと消滅させられたのだ。

 

 そのような化け物を解き放ち、なおかつ利用しようなどーー待っている結末は自滅どころの騒ぎではない。

 怒りに狂い咲いた“マインドイーター”の爪牙は、この世界だけに留まらず、あらゆる並行世界を巡回して連鎖的な崩壊を引き起こす恐れすらあるのだから。

 

“GF”「貴様は何の根拠を持って、不可能だと断言しているのだ?その忠告の基準となっているのは負け犬共の歴史の話だろう?(ワタシ)御前(まえ)で敗者の話を持ち出すな」

 

雷冥「まだ理解(わか)らないのか……ッ!? “マインドイーター”は人類の理解を超えた存在なのだッ!!! 人間に地震を制御出来るかッ!?人間に津波を制御出来るかッ!? “マインドイーター”とは天災(ソレ)と同類…謂わば悪意無き“理不尽”なのだッ!!!!」

 

“GF”「では何故、『其』は私の招待に応じた?目の前に広がるこの光景こそが、私が貴様の知る負け犬共とは違うという何よりの証左だろう?」

 

雷冥「ッ…!!!」

 

 氷のように冷ややかな“GF”の一言に、雷冥は喉を詰まらせ、二の句が継げなくなる。

 

 『絶滅』の概念そのものと言える“マインドイーター”に手を出そうとすれば、触れた瞬間に存在ごと消滅させられるーーそれがタイムエージェントとして積んできた知識と理論の全てだった。

 

 だが、頭上に広がる凄惨な現実が、雷冥のロジックを無慈悲に粉砕する。

 狂乱の波動を撒き散らしながらも、“マインドイーター”は今なお時空の裂け目で留まり、静かに降臨の刻を待っている。

 

 それは他でもないーー『其』が“GF”という男の呼びかけを拒絶せず、ひとつの『招待』として応じてしまったという、恐るべき現実の証明に他ならなかった。

 

“GF”「ククク…!だが、貴様の言っている事は的を得ている。確かに“マインドイーター”を利用しようとすれば、瞬時に消滅させられるだろう。…そう、()()()()()()()()()()

 

雷冥「何が言いたい……!!?」

 

“GF”「教えてやろう。私と『其』はあくまでも対等な同盟関係。故に天災を制御する必要など初めからないのだよ。『其』が求めるのは現世に介入する為の『完璧な依代(ラジコン)』のみ……!そうすれば、 私へ『全能の力』を分け与えるーーそう!その依代(ラジコン)こそが、貴様なのだよッ!!」

 

雷冥「それが貴様の真の狙いか……!!!」

 

 思考の海を埋めていた無数の謎が、いま一本の線となって残酷な真実へと繋がってしまう。

 

ーーなぜ、圧倒的な武力と科学技術を持ちながらも、“楽園(エデン)”と“奈落(アンダー)”で住民を分けたのか。

 

ーーなぜ、勝者のみが人間と認められる世界を作ったのか。

 

ーーなぜ、時空の歪みを超えて自分という存在がピンポイントでこの異世界へ招集されたのか。

 

 その答えはあまりにもシンプルで、それ故に不気味な狂気に満ちていた。

 百年に渡ってこの世界で引き起こされた数々の悲劇と犠牲は、全て『其』を顕現させる為の儀式に過ぎなかったのだ。

 

“GF”「無駄話はこれで終わりだ。光栄に思うがいい、稲魂雷冥よ。貴様のその強靭な魂と肉体が、私が真の神となる為の偉大なる肥やしとなるのだからな」

 

 “GF”が両腕を広げると、頭上の時空の歪みが凄絶な鳴動を始めた。

 禍々しい紫黒の波動が歪みの奥底から溢れ出し、不可視の鎖で拘束された雷冥の全身へと雪崩れ込んでいく。

 

雷冥「ぐあぁぁぁぁぁッ……!!!???」

 

 脳を直接焼かれるような激痛。精神の輪郭が泥のように溶かされ、自我が他者の巨大な意思によって上書きされていく絶望感。

 肉体がミシリと悲鳴を上げ、全身の皮膚から青白い光の粒子が噴き出し始める。

 

“GF”「さあ、顕現せよッ!“マインドイーター”ッ!!!そして、この私に究極の力を授けるのだッ!!!」

 

 勝利を確信し、高らかに歓喜の声を上げる“GF”。

 頭上の歪みから溢れ出した漆黒の波動が雪崩を打ち、拘束された雷冥の全身を容赦なく飲み込んでいく。

 

 ()()……

 

雷冥「フフフ…!」

 

 漆黒の渦の中で、雷冥は突如として()()()()()を浮かべた。

 

“GF”「何がおかしい?存在が消える恐怖で気が狂ったか?」

 

雷冥「……“GF”よ。おかしいと思わなかったのか?私が眷属(ペット)を引き連れず単身で乗り込んだ事に」

 

“GF”「……何……?」

 

雷冥「愚か者(バカ)め。貴様が『媒介』を手中に納めたと()()()()()()()()()は……ただの空箱だ、最初からな」

 

ポンッ!

 

 そう言い終えた瞬間、まるで空気が弾けるような無機質な音が、重厚な玉座の間に虚しく響き渡る。

 不可視の鎖によって拘束され、激動の波動に飲み込まれていたはずの雷冥の身体が、一瞬にして幾何学的な光の粒子へと分解され、霧のように霧散したのだ。

 

“GF”「自滅…!?いや違う…!この粒子は……まさか……!!」

 

 周囲に舞い散る特殊な粒子を目にした瞬間、“GF”の仮面の奥の瞳が驚愕で大きく見開かれる。

 

 居城へと鮮やかに侵入し、兵士を襲い、データベースを暴き、そしてこの玉座の間で自分と言葉を交わしていた“稲魂雷冥”ーーその正体に思い至った時には、全てが手遅れであった。

 

 圧倒的な優位を誇っていたはずの絶対君主は、最初から完璧に欺かれていたのだ。

『魔王』という名の、高貴なるペテン師の手によって……。

 

♢♢♢

雷冥「・・・ハッ!!!」

 

ワンダバード「うっわぁ!!?? ビ、ビックリさせないでくださいよ!マスター!!!」

 

ワンダキャット「お兄の方がうるさいっての…」

 

 場面は変わり“楽園(エデン)”の中心部から離れた、アンダーマフィアが秘密裏に作り出した雑多で無骨な隠れ家…。

 

 冷たいパイプラインが剥き出しになった室内で、二匹の眷属(ペット)とアンダーマフィア達によって護衛され眠っていた雷冥は、荒い息と共にガバッと身体を起こした。

 

雷冥「あ、危なかった…!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!!」

 

ジャック「オイ、ライメイッ!!目的のブツはあったってのかよ!?」

 

 肉体には傷一つ無いにも関わらず、強烈な精神的生体ノイズを受けてしまった雷冥の全身は、汗をびっしょりと嫌な汗に塗れ、荒い呼吸が止まらない。

 

 種明かしをしよう。雷冥は初めから()()()()()()()()()()()()()()()

 答えは至極単純。雷冥が自身の能力で生み出し、このアジトから遠隔操作していた影武者(デュプリ)である。

 

 “GF”の居城に侵入するのはリスクが大き過ぎると判断した雷冥は、自分と瓜二つの容姿を持つデュプリを生み出し、遠隔操作を行う事でリスクを減らし時空転移装置を奪おうとした。

 

 結局、お目当ての品を手に入れる事は叶わなかったが、その代わりに『死』の体験と引き換えに“GF”の目的を聞き出す事が出来た。

 それだけで、成果としては上々と言える結果だろう。

 

 しかし……

 

雷冥「最悪だ……!事はあまりにも大き過ぎる……!!」

 

 デュプリが消滅する直前に持ち帰った五感の記憶ーー“GF”の真の目的。

 自身、そしてこの世界を生贄に“マインドイーター”を降臨させ、究極の力を得るという狂気の契約。

 

 何故“GF”が『其』の力を得ようとしているかまでは聞き出せなかったが、こんなディストピアを生み出すような独裁者がまともな事に使うとは到底思えない。

 

 十中八九、“GF”が別世界の人間である以上、タイムエージェントとして見過ごす訳にはいかない。

 だが、いまだに本部と連絡が付かず、まともな装備も無い以上、こちらが圧倒的に不利である事には変わらない。

 

ワンダバード「マスター…?・・・ヒッ!?」

 

 それがどうした?

 どんなに逆境を前にしても、彼が尊敬し見守ってきた偉人達は諦める理由にはしなかった。

 

 圧倒的に不利な状況でも、何度だって立ち上がり続け、血の一滴が尽きるまで全てを出し尽くす…。そうやって彼らは“栄光の道”を作り上げてきた筈だ。

 

 覚悟を決めた雷冥の瞳に、冷酷で苛烈な『魔王』の冷気が宿る。

 

雷冥「…ジャック殿、今用意できる中で最高の武器を私にお貸しください」

 

イダテン「ライメイっ!?」

 

ジャック「…そいつは少しおだやかじゃねェ頼みだなァ。一体、人形越しに何を見た?」

 

雷冥「……貴方達に理解(わか)るように言えば……“GF”はこの世界全てを生贄にして絶大なパワーを得るつもりです」

 

 雷冥は敢えて“マインドイーター”の件を隠し、デュプリ越しに見聞きした“GF”の目的とその結末を皆に話す。

 ジャックは雷冥が何か隠している事に気付いていたが、同時に自身の理解が及ばない事柄であると理解していたようで、詮索する事はなかった。

 

ワンダバード「ちょっと待ってください!! つまりマスターは…!“GF”を暗殺するってことですか…!?」

 

雷冥「…噛み砕いて言えばそうなりますね…」

 

イダテン「嘘だろ…!?」

 

 『暗殺』という単語(ワード)を聞いたイダテンは唖然とする。

 アンダーマフィアにとっては『死』とは常に自分達の隣に寄り添う友人のような存在だが、イダテンにとっては違う。

 

 100歩譲って“GF”を暗殺する事は良い。だが、例え暗殺に成功したとしても、生きて帰れる筈がない。

 つまり、雷冥の言う『暗殺』とは、相討ちと同義なのだ。

 

ワンダバード「僕は反対です…!例え運良く生還できたとしても、マスターの行動は1エージェントがしていい範疇を超えていますっ!!そんなことすれば……マスターは時空犯罪者として処罰されるのですよ…!?」

 

雷冥「関係ありません。私の命一つでこの世界……そして、コレから失われるであろう命を救えるのならば、惜しくはありませんよ」

 

ワンダバード「そんな…!」

 

 これは伊達や粋狂ではない。稲魂雷冥という一人の男が導き出した、揺るぎない“決意”だ。

 だが、二匹の眷属ペット、そしてこの異世界で出会った友が、目の前の『魔王』による命懸けの暴走を受け入れられるはずもなかった。

 

イダテン「ダメだよ、ライメイっ!!! もっと他にいい方法が必ずある筈だろっ!?おれもできる限り手伝うから…!」

 

雷冥「…駄目なのです、イダテン殿…。私を使わずとも、この世界…つまりは貴方達を生贄にするだけでも、“GF”はある程度のパワーを与えられるでしょう…。ならば、今ココでヤツを殺すしか無いのです…!!!」

 

イダテン「だからって…!」

 

 友がどれほど言葉を尽くして引き留めようとも、セメントのように固まった雷冥の決意を揺るがすには、あまりにも無力でしかなかった。

 

 部下と友の静止を振り解いた雷冥は、出口へ続く扉のドアノブに手を掛ける。

 

 すると……

 

雷冥「…何の真似ですか?……()()()()……」

 

 突如として、ドアノブを捻ろうとした雷冥の手がぴたりと止まる。

 背後から伸びた小さな影ーー二本の尾を持つ白い子猫の鋭い爪が、主人の喉元へすんでのところで突きつけられていた。

 

ワンダキャット「…今回ばかりはアタシもお兄も同じ意見。マスターが死にに行くのを黙って見てらんない」

 

ワンダバード「キャット…!」

 

雷冥「…珍しい事もあるモンです…」

 

 サポートロイド2号機・ワンダキャット。1号機である兄のワンダバードとは対照的に、普段の彼女は感情の起伏というものが極めて薄い。

 極度のマイペースで、任務中であっても隙さえあれば眠りこけているため、主である雷冥でさえ何を考えているのか把握しきれない曲者であった。

 

 そんな彼女が初めて——目の前の出来事を『面倒くさい』の一言で片付けることなく、剥き出しの意志を主人へと突きつけている。

 それは雷冥にとっても、そしてワンダキャット自身にとっても、初めての『拒絶』であった。

 

雷冥「…解せませんね。頭脳面はまだしも、貴方は戦闘力では非常に優秀なサポートロイドです。バード同様、私との契約が切れても転職先は幾らでもあるでしょうに」

 

ワンダキャット「確かにアタシは超優秀。転職先だって、いっぱいある筈…。・・・けど、アタシはマスターがマスターじゃなきゃダメなの。お兄がマスターをサポートして、アタシがお兄をサポートする…。3人一緒で初めてアタシはサポートロイドである意味が生まれるの…!」

 

ワンダバード「キャット…!オマエの口からそんな熱いセリフが聞けるなんて……お兄ちゃん、感激だよ……!!!」

 

 感激のあまり滝のように涙を流すワンダバードと、喉元に爪を突き立てたまま一歩も退かないワンダキャット。二匹の切実な瞳を前にしてもなお、雷冥は静かに目を伏せ、小さく首を横に振った。

 

雷冥「……過分なお言葉ですね。ですが……言葉の説得で私を止められないことくらい、貴方が一番よく理解しているはずです」

 

ワンダキャット「……ッ!」

 

 雷冥の覚悟を揺るがすには力及ばず、ほんのわずかに肩を揺らした瞬間、俊敏な身のこなしで爪の死角を切り抜け、ワンダキャットの手首を軽やかに押し返す。

 

ワンダキャット「ニ゛ャ゛ン゛ッ゛!?」

 

雷冥「…すみません。キャット…」

 

 そのまま躊躇うことなくドアノブを回し、冷たい金属の扉を押し開けようとしたーーまさにその時。

 

???『……頭に血が昇ると手が付けられるなく性格は相変わらずのようだな、No.66(ダブルシックス)

 

「「「……え……!?」」」

 

 緊張の糸が張り詰めていた室内に、あまりにも不似合いな、重厚でどこかくたびれた印象を与える低い声が響き渡る。

 

雷冥「まさか……!!」

 

 誰よりも雷冥が早くその声の正体を察した直後、突如としてワンダバードの両目から青白い光が発せられると、部屋の中央へ照射され光の束が、青いホログラムとなって収束していく。

 

???『……ようやく見つけたぞ、No.66(ダブルシックス)……』

 

雷冥「……ええ、お久しぶりですね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.777(スリーセブン)……」

 

 ホログラムの光の中に浮かび上がっていたのは、厳格でありながらもどこか哀愁を帯びた眼光を携えた男の姿。

 彼こそは時空管理局のトップであり、稲魂雷冥の実の父にあたる存在ーー

 

 『稲魂天冥(コードNo.777)』であった。




“マインドイーター”に関してはだいぶ作者の独自設定が入ってます。
文字起こしするとやたら長くなるんで、世界がディストピアになった際に滅ぼしにやってくる意思を持つ天災だと思って貰えれば結構です。

最近、新章から台本形式をやめて普通の形式に戻そうかなーって考え始めたんで、参考がてらにアンケートを取ります。投票期間は現在連載中のスピンオフ完結までを予定してます。

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