イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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強化前の【サンダーゲート】でプロトコル・オメガ2.0くらいの強さなら、強化後は【チームギル】と同じくらいかな?


熱戦と激戦と超激戦と PARTⅠ

 整然とピッチの上に散らばり、それぞれの定位置(ポジション)へとつき終える両チームの面々。

 十一人+十一人…計二十二もの影が放つ濃密な殺気が、人工芝のピッチをジワジワと侵食していく。

 

 その緊迫した空間の中でも一際異彩を放っていたのは、共に『紅の腕章』を巻いた両隊長(キャプテン)の存在であった。

 

 凍てつくように冷徹な“悪魔”の圧迫感を漂わせる雷冥と、胸に燃える復讐心がそのまま形となったかのような煮えたぎる闘争心を剥き出しにするシンフォニー。対極の威圧が衝突し、空気が激しく爆ぜる。

 

雷冥「…改めて説明しよう。この試合では各々、敗北した際の罰(ペナルティ)を課す事が出来る。計画が大詰めに入っている状況なのだ、前回同様私の身体的自由の拘束を望むか?」

 

シンフォニー「そんな物など必要無い。どの道貴様は我々に敗れ、あのお方の供物として捧げられるのだからな」

 

雷冥「ホゥ?大した自信ではないか? 3日前に私一人に完膚なきまで叩きのめされた負け犬の言葉とは到底思えんな」

 

 謎の余裕を崩さないシンフォニーへ向け、雷冥は隠す気もない露骨な悪意を込めて挑発を叩きつける。

 これこそが、稲魂の一族に代々伝わる心理術。

 元祖たる雷冥の曽祖父・稲魂雷牙曰く、『試合はホイッスルが鳴る前からすでに始まっている。煽れる時は躊躇なく煽れ』との事だ。

 

シンフォニー「そうだな、確かに三日前の出来事だ。……貴(・)様(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)は(・)な(・)」

 

 ……だが、、雷冥の揺さぶりは一切通用しない。それどころか挑発を受けたシンフォニーの口元には、より一層深々とした不気味な笑みが刻まれている。

 

 その不遜な態度が、雷冥の胸中に芽生えていた形容し難い違和感を決定的な疑念へと変える。

 精神的な優位に立って試合を進めるはずだった彼の計略は、開始のホイッスルを前にして、あっけなく霧散してしまった。

 

雷冥「…まァ、良い。我が軍の覇道を邪魔する愚か者はただ滅するのみッ!!グリムよッ!試合開始の宣言(ホイッスル)を鳴らせッ!!!」

 

グリム『呼ばれて飛び出てジャンジャカジャ〜ン!!!今日も今日とて、審判兼実況を務めさせていただく、王魔雷帝のアイドル!グリムちゃんの登場で〜す☆ それでは早速〜!試合開始ーーッ☆』

 

ピィー!!!

 

 主人の威勢の良い号令と同時に、眷属が吹く甲高いホイッスルが空間に響き渡り、【王魔雷帝】のキックオフによって、因縁深き者たちの生き残りを懸けた決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 今回の【王魔雷帝】のスタメンは以下の通り。

 

FW:マルシファー、バッサタン

MF:クトゥルー、ニャルラ、ニックス、ヨル

DF:キュウコ、ダゴン、雷冥、トウテツ

GK:ムールム

 

 【王魔雷帝】が敷いたのは、一見すると防御を重視した4-4-2の陣形(フォーメーション)…。

 前線の攻撃はFWを務める姉妹に一任し、残る選手たちは徹底して彼女達の守備とサポートに専念する。そうして敵の意識がFW陣へと集中した隙を見計らい、リベロの位置につく雷冥自身が怒涛の奇襲を仕掛ける…。

 

 守勢と見せかけて死角から強烈な一撃を叩き込む……これこそが、【王魔雷帝】が真の威力を発揮する必勝の陣形(フォーメーション)であった。

 

 それに対し、【サンダーゲート】のスタメンは以下の通り。

 

FW:ソーショット、ヒカル、ランマーク

MF:スピタ、ドース、シンフォニー、サンシー

DF:カーグビー、ミスティープ、バンバ

GK:チャイード

 

 対する【サンダーゲート】の陣形(フォーメーション)は、前回と変わらず攻守の均衡を保った3-4-3。

 このバランス重視の陣形では、“魔王”の凄惨な進撃を止めることなど不可能……それは前回の敗北で既に証明されている筈であった。

 

 にも関わらず、彼らが再びこの陣形を選択した背景には、敗北を覆すだけの“絶対の勝算”が隠されているとでもいうのだろうか?

 

雷冥「フンッ!!必勝の秘策があるというのならば魅せてみるがいいッ!!code《シータ》ーー起動ッ!!!」

 

 code《シータ》ーーそれは『反撃を恐れずに果敢に攻めろ』という意。

 主人の命を受けた“堕天使”の名を冠する姉妹は、息の合った巧みな連携(コンビネーション)を解き放ち、疾風の如き速攻で敵陣へと切り込んでいく。

 

ソーショット「行かせるかよォ!!!“エアーバレットS”ッ!!!」

 

バッサタン「キャアッ!?」

 

 だが、ソーショットが放った旋風の弾丸は、姉妹の鉄壁の連携(コンビネーション)をも一瞬で打ち砕く。こぼれたボールは、無情にも【サンダーゲート】の元へと渡った。

 

ソーショット「シンフォニーッ!!」

 

 間髪入れずに繰り出されたパスの先に待ち構えていたのは、隊長(キャプテン)たるシンフォニー…。

 “調和の守り手(ディスコードハンター)”の異名を持ち、“楽園(エデン)”最強と謳われるその男は、底知らぬ殺意を宿した瞳で、遥か後方に鎮座する雷冥を真っ直ぐに見据える。

 

シンフォニー「お望み通り……地獄の鍛錬の成果を魅せてやる……!!」

 

 その言葉と同時に、シンフォニーの腕がまるでオーケストラの指揮者のように優雅に、そして力強く空気を切り裂いた。

 指先から解き放たれたのは、紅蓮に滾る無数の炎。その炎はまるで生き物のようにピッチ上を駆け巡り、幾重にも交差し、至高にして絶対の“協奏曲(パスコース)”を色鮮やかに描き出していく。

 

雷冥「このタクティクスは……!」

 

シンフォニー「これこそが鍛錬の末に更なる進化を果たした“神のタクト”……!!名付けるなら、そう…!“神のタクト FI(ファイヤイリュージョン)ッ”!!!」

 

 ピッチの上に刻まれた焔の軌跡……それは味方の能力や個々の癖だけでなく、相手の妨害行動(パターン)すらも完璧に計算し尽くされた絶対の“協奏曲(パスコース)”。

 完璧なる旋律(パス)の前には、どのようなディフェンスも意味をなさず、【王魔雷帝】はただただ翻弄され、防衛網を惨散に切り刻まれていくのみであった。

 

ランマーク「隙だらけだ……!!」

 

雷冥「グッ……!!」

 

グリム『ああーーっとッ!!マスターが抜かれるとは珍しい!! コレは雷門中サッカー部所属時代の、円堂カノンとの特訓以来の出来事ですッ!!!』

 

 防衛の要である雷冥さえ無力化してしまえば、あとは赤子の手を捻るようなもの。

 焔の軌跡をなぞる電光石火のパス回しに敵陣は完全に崩壊し、ボールは吸い寄せられるようにエースストライカーの元へーー

 

ソーショット「喰らいやがれェェェ!!!“ソニックショットSゥゥゥゥ”!!!!」

 

 轟音と共に放たれた一撃は、眩い新緑の光を纏う超音速の弾丸へと姿を変える。大気を切り裂く衝撃波を撒き散らしながら、その緑の暴風は【王魔雷帝】から先制点を奪うべく、ゴールへ向かって猛然と襲い掛かった。

 

雷冥「ムールムッ!!」

 

 以前とは桁違いの破壊力を誇る必殺シュートを前にし、流石の雷冥の顔にも決して少なくない焦りの色が浮かぶ。

 彼は前回の試合で使うまでもないと封印させていた必殺技の解禁を決断し、守護神(ゴールキーパー)・ムールムの右手に、黄金に輝く“神”を宿らせる。

 

ムールム「“ゴッドハンドEV(エヴォルブ)”ッ!!!」

 

 悪魔の右手に宿りし“神”は、黄金に輝く巨大な掌となり現世へと顕現する。

 背後に七色に輝く後光を背負った黄金の御手は、一切の絡み手を使う事なく真正面から“超音速の弾丸”を受け止める。

 

ズガァァァンッ!!!

 

 激烈な拮抗の末、弾丸を包み込んでいた新緑のオーラは一瞬で霧散。威力と回転を極限まで殺されたボールは、吸い込まれるようにムールムの右手に収まった。

 

グリム『止めたーーッ!!!この必殺技は伝説のGK・円堂守が友の暴走を止めるべく進化を果たした感動の“ゴッドハンド”の完全再現ッ!!まだ見たコトのない方は、H○luか○-NEXTあたりのサブスクで『脅威の侵略者編』の65話を要チェックですッ!!!』(超早口)

 

ソーショット「チィッ…!俺様の最強のシュートを止めやがるとは気に入らねェなァ…!!」

 

 一見すれば【王魔雷帝】が見事防ぎ切った攻防。だがその実態は、一歩間違えれば即失点に繋がっていた紙一重の氷上であった。

 もし雷冥の指示がほんの僅かでも遅れていれば、“ゴッドハンドEV”は完全な出力を発揮できず、そのままゴールネットを打ち破られていただろう。

 

 もはや、両者の実力差は、無きに等しい……。フィジカル面における【王魔雷帝】の優位は、完全に崩れ去っていた。

 

雷冥「………」

 

シンフォニー「らしくもない事を。貴様は止まって戦略を考えるタイプの司令塔(ゲームメイカー)ではない筈だろう?それとも何だ、無様に負けた際の辞世の句でも考えているのか?」

 

雷冥「……違うな。いくら試算を重ねても解せんだけだ。貴様らが、この短期間でココまでの急成長を遂げた、その理由をな」

 

 現時点での【サンダーゲート】のプレーには、禁断の薬物(ドーピング)に手を染めた者特有の『借り物の力』に酔いしれる慢心も、後付けの力ゆえに生じる不協和音のような歪みも、一切感じられない。

 

 それはすなわち、彼らの異常にしか見えない急成長が邪道によるものではなく、血の滲むような鍛錬の果てに掴み取った“本物の力”であるという事に他ならなかった。

 

 ……だが。いくら“魔王の理性”がその結論を導き出そうとも、彼の“人としての直感”は、それを真っ向から拒絶していた。

 

雷冥「断言しよう。天才・凡人問わず、それ程までの力を得るには過酷な鍛錬を何単位で積み重ねるか、人の道を外れた邪道(ドーピング)に手を染めるかの二択だ。……だが、時間の整合性を照らし合わせれば、前者の可能性はゼロだ」

 

シンフォニー「……フッ、つまり我らは貴様が嫌う邪道に手を染めている……そう言いたい訳か?」

 

雷冥「その通りだ。……しかし、同時に私の“理性”は貴様らがドーピングを行っているという確信を弾き出せずにいる。……謂わば、貴様らは不可解なパズルだ。提示されたあらゆる仮説(ピース)を繋ぎ合わせても、最後の1ピースだけが歪に噛み合わない……。私がそれが無性に腹立たしい」

 

 優れた知性を持つが故に、自身の理解が及ばない“不合理”を何よりも嫌う雷冥。目の前に突きつけられた歪な謎は、魔王の逆鱗に触れるには十分すぎる代物であった。

 

 だが、手元にある仮説(ピース)だけでは、その不合理の正体を暴く事など絶対に不可能なのだ。

 故に今の彼にできることといえば、眼前の敵を喰い殺さんばかりの圧で睨みつける事……それだけが関の山であった。

 

シンフォニー「クッ…クハハハッ!ハーッハッハッハッ!!!」

 

 憎き魔王の抵抗を見たシンフォニーは、腹の底から高笑いを絞り出し、ピッチ全体に重々しく木霊する。

 既に勝利を確信したかのような不敵な態度が余程癪に触ったのだろう。雷冥の眉間は深く寄せられ、その瞳に宿る殺意はより一層鋭く研ぎ澄まされていく。

 

シンフォニー「クハハハ…!そう睨むな!貴様の仮説はあながち間違っていない!!……だが、『時間とは全ての人間に平等に齎される』と思(・)い(・)込(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)貴(・)様(・)には一生掛かっても理解出来んだろうがなぁ…!!!」

 

雷冥「時間が平等に齎される、だと……?ーー!!! まさか…!!!」

 

 思考の海を光速で巡らせていた雷冥の脳裏に、突如として一筋の激震が走った。

 答えは至極単純であったのだ。彼が真実へ辿り着けなかった唯一の理由は、無意識のうちに『世界の常識』という枷に縛られていたからに他ならない。

 歪だった仮説(ピース)はその姿を変え、噛み合わなかった穴へ次々と完璧にはまり込んでいき、雷冥の頭脳を狂わせていた“謎”が、ついにその全貌を現したのだ。

 

雷冥「時間操作か……!!」

 

シンフォニー「その通りッ!!確かに私達が貴様に敗れてからは、まだ数日しか経っていないのだろうッ!!……しかし、私達にとっては、貴様の言う数日前は一(・)年(・)前(・)だ(・)ッ!!!」

 

 語られる絶望の年数ーー数日という現実の裏に隠された「1年」という空白。

 雷冥はその言葉の意味を重く噛み締め、奥歯を噛み鳴らす。その反応に満足したように、シンフォニーは語り口を落とし、冷ややかに、だが狂気を孕んだ声で回想を紡ぎ始めた。

 

シンフォニー「貴様に敗れた後、昏睡状態に陥った我らは、神の力によって翌日には目を覚ました…。……だがッ!!“楽園(エデン)”の戦士にとって『敗北』とは『死』と同義ッ!!目を覚ました我らに待っていたのは、神による裁きだった……!」

 

 語るシンフォニーの拳が、みしり……と音を立てて固く握りしめられる。

 圧倒的な力でピッチを支配する男の肩が、微かに、しかし確かな恐怖によって震えていた。

 

 それは死刑への恐怖などではない。最強を自負する己が敗北を喫したという、決して洗いきれぬ“屈辱”と、不甲斐ない自身に対するマグマのように煮えたぎる“怒り”の震えであった。

 

シンフォニー「当然、我らは【サンダーゲート】…そして神の名に泥を塗った事による死刑を言い渡される……そ(・)う(・)、覚(・)悟(・)し(・)て(・)い(・)た(・)……!!」

 

雷冥「………」

 

シンフォニー「しかしッ!慈悲深き“神”は、我らにチャンスを与えて下さったッ!!!そうして我らが送り込まれた場所こそが『至高の花園(ゴッドエデン)』と名付けられた特訓施設であった……!」

 

雷冥「ゴッドエデンだと……!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、雷冥はそれまでの沈黙を破り、明確な動揺を露わにした。

 

ーーゴッドエデン。

 

 それは、かつて日本のサッカー界を裏から支配していた組織“フィフスセクター”が孤島に創設した、最強の兵士『シード』を育成する為の地獄の訓練施設。

 

 伝説の禍根と同じ名を持つ施設の存在に、雷冥は驚愕を隠せない。

 だが、シンフォニーはそんな彼の動揺すら意に介さず、冷淡に地獄の記憶を語り継ぐ。

 

シンフォニー「我らが送り込まれた特訓施設は、内部の重力は地上の10倍……空気も四分の一程度しかなく、昼と夜の気温差に至っては90度にも及ぶ……!まさに生き地獄としか言いようのない最悪の空間だった……!!!」

 

雷冥「・・・やはり報告書の締切が近い日には、カンヅメカンが一番だな……」

 

シンフォニー「人の身では到底、生存すらままならない環境…!その過酷さあまり、何度生き続ける事を諦めかけた事か…!!だが…!!!」

 

 地獄の語り手たるシンフォニーの眼光が、血走った鋭さで雷冥を射抜く。

 それに呼応するように【サンダーゲート】全員が放つ怒気の圧力(プレッシャー)は更に跳ね上がり、ピッチ全域を狂気が支配していく。

 

シンフォニー「心が折れかける度に、我らは貴様に受けた屈辱を思い返す事で立ち上がってきたッ!!!そして遂に…!我らは1年にも及んだ鍛錬を終え、ここに立っているッ!!!」

 

 空間を押し潰さんばかりの威圧感が、雷冥の全身へと重く突き刺さる。

 

シンフォニー「あの地獄で得た、全ての苦痛…全ての屈辱を…ッ!今この場でッ!!イナタマ・ライメイッ!!余す事なく貴様に叩き付けるッ!!!」

 

 1年にも及んだ地獄の回想を終え、【サンダーゲート】全体の気迫が最高潮へと達したその瞬間……雷冥の全神経に、背筋を凍らせるような嫌な予感が走る。

 

雷冥「ムールムッ!私のボールを回せッ!!」

 

 生み出した眷属(デュプリ)では到底太刀打ちできないーーそう即座に判断した雷冥は、自ら攻め上がり何としてでも先制点を奪わんとするが……。

 

シンフォニー「見ていろイナタマ・ライメイィィィ!!!これが私のぉ…!!全身全霊(ゼンリョク)だぁぁぁぁ!!!!」

 

 その刹那、咆哮を上げるシンフォニーの背後から、空間を歪めるほどの膨大なオーラが吹き荒れる。

 

雷冥「なッ…!?この気迫…ッ!!貴様もまた…!?」

 

 それは、“奈落(アンダー)”を支配する幼き最強と全く同じ現象。

 神の御子の背から溢れ出すオーラは不気味に形を変え、やがて四本の腕を持つ荘厳なる指揮者の姿を現世へと立ち昇らせる。

 

 その名はーー

 

シンフォニー「“奏者 マエストロ”ッ!!!」

 

雷冥「“マエストロ”…!やはり貴様は……!!」

 

 シンフォニーが降臨させた化身の名、そしてその容姿。それらは雷冥の中にあった疑念を、即座に『確信』へと変えた。

 ……しかし、この熾烈な極限状態において、その『確信』に全意識を奪われたことこそが致命的な隙となった。

 

シンフォニー「何をボサってしているッ!?貴様の相手はこの私だろッ!!!」

 

雷冥「ヌオォォォォ!!!?」

 

 まるで巨大な発電所が如く暴れ狂う化身のエネルギー。そして、それを全身に上乗せした強烈無比なタックル……。

 シンフォニーにとっては、この勝負は真正面からぶつかり合う、正々堂々の競り合いであった。しかし、別の思考に意識を奪われていた雷冥にとっては、完全に不意を突かれる形となってしまう。

 

 反撃の体勢すら整えられぬまま、雷冥の身体は後方へと激しく吹き飛ばされた。

 

グリム『な、な、な、なんとォォォ!!? マスターが力負けしたァァァ!!? まさか、あの方が埃を付けられるとは…!長年マスターの試合を実況してきた、この私でも初めての光景ですッ!!!』

 

 悪魔(デュプリ)達の主人であり、【王魔雷帝】最強の存在ーー稲魂雷冥が力で捩伏せられる衝撃。それは魔王軍全体の崩壊を予感させるに十分であった。

 

 大きなダメージを受けながらも、雷冥はDF陣へテレパシーで緊急指示を送り、即座に防衛線を形成させようと抗う。しかし、化身の膨大なパワーを纏ったシンフォニーのスピードの前では、それすらも遅すぎた。

 

 その決定的な隙を逃すシンフォニーではない。間髪入れずにボールへと凄まじい圧力の水色のオーラを収束させ、渾身の脚でそれを叩き切る。

 

シンフォニー「“ハーモニクス”ッ!!!!!」

 

 絶対の指揮者によって奏でられた“調和の弾丸”。それは優美な旋律を響かせ、軌道上に光の軌跡を描きながら、苛烈なまでに美しくゴールへと突き進む。

 

ムールム「“ゴッドハンドTーーッ!?」

 

 敵が解き放った“最強”のシュートに対し、魔王軍の守護者もまた己の“最強”を以て迎え撃とうとする。

 しかし……“調和の弾丸”が誇る圧倒的な速度の前では、技を完成させる時間すら与えられなかった。

 結果、展開しかけた掌もろとも、ムールムの身体はゴールネットへと無残に叩き込まれた。

 

ピーッ!!!

 

 暴れ狂ったゴールネットが収まった直後、審判からのホイッスルが鳴り響く。

 

グリム『ゴーールッ!!!前回の失態はどこへいったのやらッ!? 先制点を獲得したのは、まさかまさかの【サンダーゲート】だァァァ!!!』

 

 実況席に座る仲間(グリム)が上げる歓声を背景に、ピッチ上に佇む悪魔(デュプリ)達の表情が僅かに陰る。

 

 デュプリには、グリムのような例外を除いて、自我は存在しない。彼らが稀に口を開く瞬間、そこに響くのはデュプリ自身の意志ではなく、本体である雷冥の心の声……あるいは深層心理から漏れ出た“弱音”に他ならないのだ。

 

 すなわち、彼らの顔に落ちた影は、今の1点があの“フィールドの魔王”・稲魂雷冥の心へ深刻な衝撃を与えたという何よりの証左であった。

 

シンフォニー「フハハハッ!!!どうだイナタマ・ライメイよッ!?これが私の力だッ!!いついかなる時も、貴様への復讐だけを考えて手に入れた、究極の力だッ!!!」

 

 圧倒的な化身の力により、数日前(1年前)の屈辱を見事晴らしてみせたシンフォニー。彼は歓喜と狂気に満ちた高笑いを、目の前で片膝を地面に突く雷冥へと浴びせかける。

 

 ……だが。

 

雷冥「……フッ」

 

 無様にも吹き飛ばされ、哀れにも先制点を奪われ、完膚なきまでに叩きのめされたはずの魔王は……その顔に不敵な笑みを浮かべ、緩然と立ち上がった。

 

シンフォニー「……何が可笑しい?敗北した事で気でも触れたか?」

 

雷冥「フン、その程度折れる程、私の魂は脆くない。どこぞの誰かと違ってな。……ただ、久しぶりの苦戦が喜(・)ば(・)し(・)い(・)だ(・)け(・)だ(・)」

 

シンフォニー「……何?」

 

 『苦戦が喜ばしい』ーー今、確かに雷冥はそう言い放った。

 だが、【サンダーゲート】の面々には、その言葉の意味が到底理解できなかった。

 たった一度の敗北すらも“死”へと直結する世界で生き抜いてきた彼らにとって、『苦戦を楽しむ』という思考そのものが、永遠に理解の及ばぬ領域だったからだ。

 

雷冥「認めてやろう。確かに貴様らは強くなった。私がコレまで対峙してきた叛逆者の中でも、5本指に入る実力である事は間違いないだろう」

 

 フッ、と雷冥が言葉を区切る。

 

雷冥「・・・だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)……!!!」

 

 刹那、雷冥から身の毛もよだつ程に禍々しい気迫が発せられる。

 先程まで勝利の確信に浸っていた【サンダーゲート】の選手達が、本能的な死の予感に呑まれ、無意識のうちに後退りする。

 

雷冥「私の『本気』を魅せてやろう……!!!」

 

 ピッチに渦巻く禍々しい気迫が最高潮へと達したその瞬間、“魔王”の全身から爆発的な“蒼き炎”が吹き荒れた……!

 フィールド全体を狂暴な熱量と圧力が支配する中、雷冥の鋭い眼光が敵陣を貫く。

 

雷冥「“獅風迅雷(しっぷうじんらい)”……!!!」

 

シンフォニー「シップウジンライ……?」

 

雷冥「10%…!20%…!30%…!」

 

 “獅風迅雷”なる謎の技術の出力を跳ね上げていくにつれ、雷冥の解き放つ存在感が爆発的に膨れ上がっていく。

 パーセンテージの数値が刻まれるたび、【サンダーゲート】の選手たちは、目前にそびえ立つ“魔王”の肉体が何倍にも巨大化していくかのような、強烈な錯覚と威圧感に呑み込まれていった。

 

雷冥「60%…!70%…!80%…!90%…!100%…!」

 

 遂に100%へと達した“獅風迅雷”。だが……限界点であるはずの数値に到達してなお、暴走する存在感の膨張は止まる気配すら見せない。

 

シンフォニー「馬鹿な……まだ跳ね上がるというのか……!?」

 

雷冥「私に限界など存在しないッッッ!!!そしてコレがァ…!!“限界突破(オーバーハンドレッド)”だァァァァァ!!!!!」

 

 “魔王”の肉体が限界を超越したその直後、ピッチ全域を目も眩む程の鮮烈な蒼き閃光が包み込む。

 視界を奪われた選手達が光の残像から意識を取り戻すのに、そう時間はかからなかった。数秒後、【サンダーゲート】の面々が目にしたものーーそれは……。

 

雷冥「“獅風迅雷(しっぷうじんらい)……限界突破(オーバーハンドレッド)”……!変身完了(コンプリート)…!!!」

 

 バーナーのように荒々しく立ち昇る蒼きオーラ、そして全身を鋭く駆け巡る金色の稲妻。

 それは、宣言通り『本気』を魅せた“魔王”の真なる姿であった。

 

雷冥「“獅風迅雷”……。コレが私の奥の手(ゼンリョク)だッ…!!!」

 

 遂に『本気』を解禁した“魔王”は、これまでとは比べ物にならない破格の重圧(プレッシャー)を放ち、目の前に立ち塞がる愚者たちを見下ろす。

 

シンフォニー「それでいい…!!そうこなくては面白くない……ッ!!!」

 

 【サンダーゲート】の選手たちが“魔王”の解き放った規格外の力に言葉を失う中、シンフォニーだけは額に冷や汗を伝わせながらも、歓喜の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 時は遡りーー雷冥が“GF”の居城へと突入した直後の事。

 

ワンダバード「まさか、No.777様とマスターにそんな過去があっただなんて……」

 

 ホログラム越しにNo.777の過去を聞かされたワンダバ、ワンダキャット、そしてイダテンとジャックの面々は、その内容に言葉を失っていた。

 

 No.777の語る通り、親子の間に生じた亀裂の原因は息子(雷冥)にあるわけではない。かといって、父親であるNo.777だけに非があるわけでもなかった……。

 

 親子の関係をここまで壊してしまったのは、たったひとつのボタンの掛け違い。それがいくつもの過酷な因果と絡み合い、もはや容易には解けないところまで拗れ切ってしまったのだ。

 

 どちらにも『悪意』が存在しなかったからこそ、その悲劇のやるせなさはあまりにも深く、一同の胸を締め付けた。

 

No.777『……少し長話が過ぎたな。私は一度、捜査に戻る。座標が特定出来た以上、後は時空転移を阻む妨害電波さえ何とか出来れば、救急班をそちらに送り込む事が出来る』

 

ワンダキャット「……そっちが来るまでに、マスターが生きていればね……」

 

No.777『……そういう事だ』

 

プツンッ!

 

 ワンダバードの両目から放たれていた青白い光が消え、同時にホログラムのNo.777の姿も消失する。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 重苦しい静寂が室内を包み込み、誰一人として言葉を発することができない。

 出来るならば、今すぐにでも雷冥のもとへ駆けつけたい。だが、あの時見せつけられた、あのあまりにも固い決意を知る者たちにとって、彼の覚悟を無下にして介入することは、どうしてもできなかった。

 

 ……た(・)っ(・)た(・)1(・)人(・)を(・)除(・)い(・)て(・)。

 

イダテン「……やっぱり、このままじゃ、ジーっとしているだけじゃ、ダメな気がする!」

 

 二人の悲哀に満ちた過去を聞いたからこそ、雷冥には生きて元の世界へ帰ってほしい。その一心から、イダテンは重苦しい沈黙を切り裂き、勢いよく立ち上がった。

 

ワンダバード「イダテン様……」

 

ジャック「……おいコラ、イダテンテメェ。オレの話を聞いてかァ? テメェも見ただろ?ライメイのあの覚悟に満ちた眼をよォ。アレ程までの覚悟を見せられて、助けに行くなんざ、アイツのプライドを裏切るようなモンだぞ!!」

 

イダテン「……悪いけど、これだけは絶対に譲るわけにはいかない。ライメイがどう思おうが、おれはライメイに生きてほしいんだ。おれと違って……ライメイにはまだ、帰る場所があるっ!!!」

 

ジャック「!!!!」

 

 その瞬間、ジャックは勇ましく叫ぶイダテンの瞳の中に、雷冥と同等……いや、それをすら凌駕する“覚悟”の光を見た。

 

ジャック「イダテン……テメェ……!!!」

 

イダテン「……そもそも、別に今さら裏切ったところで痛くもかゆくもないもん。元々、おれはアンダーマフィアの裏切り者だし」

 

 自身の望みがどこまでも身勝手なエゴだと自覚しているからこそ、イダテンは最後に自虐じみた軽口を添えてみせた。

 するとその瞬間、部屋中に張り詰めていた重苦しい空気が、嘘のように一気に霧散していく。

 

ジャック「ククク…!ハハハハハハハッッッ!!!!!」

 

 気が付けば、ジャックは大口を開け、腹を抱えて豪快に大笑いしていた。

 

イダテン「なにが可笑しいんだよーっ!!」

 

ジャック「ククク…!いやなァに……!!やっぱり、テメェは何処まで行ってもテメェでしかねェと思ってなァ…!!!あ〜…笑い過ぎて腹が痛てェ!」

 

イダテン「う〜〜!!!」

 

 自分をバカにされたと感じたイダテンは、両頬をプクッと膨らませて露骨に不満を露わにする。

 

ジャック「……だが、その変わらなさが、逆に気に入った!!」

 

イダテン「・・・えっ???」

 

 ぽかんとするイダテンを前に、ひとしきり笑い終えたジャックは軽快に立ち上がると、その背中をドンッと勢いよく叩いた。

 

ジャック「今回で2度目だよ、テメェに負けたのは。しかも今度は、精神的にときたッ!天下のジャック様がここまでコケにされるだなんて、これ以上の笑い話は無ェ!!……だからよォ、テメェの覚悟の果てを見届けさせろやッ!!!」

 

『ボ、ボスゥ!?』

 

イダテン「ってことは……!!」

 

ジャック「悪ィなッ!!ちぃ〜とばかし、気が変わったッ!!今から決戦場の下見に行っから、留守は頼んだぜ〜!」

 

 こうして雷冥救出班には、イダテンに加えてジャックが名乗りを上げた。だが、この場にはまだ欠かせない面々がいる。

 そう、誰よりも間近で“魔王”の背中を見続けてきた、二匹の眷属(ペット)達だ。

 

ジャック「オイ、ライメイんとこの珍妙な鳥と猫ォ!!!テメェらはどうなんだァ?大切なご主人様がムザムザと殺されるのを黙って見ておくだけでいいってのかよォ!?」

 

ワンダバード「……ダメに決まってるじゃないですか……!!!僕にとって、使えるべき主人はマスターしかいないんですッ!!!」

 

ワンダキャット「しょうがない。自分でもらしくないと思うけど、今回だけは特別に、マスターのために骨を折ってやろうかな」

 

 マスターの命令は絶対……。そうプログラミングされているはずのサポートアンドロイド達。だが、兄妹(彼ら)は今、主人が下した最後の絶対命令すらも拒絶し、己の意志で大切な主人を救い出すために立ち上がった。

 

イダテン「よーーしっ!!!それじゃあ、行こうっ!!!ライメイを助けにっ!!!」

 

 イダテンの叫びが、部屋の重苦しい空気を完全に吹き飛ばす。

 覚悟を背負った少年と、その覚悟に呼応し立ち上がった最高の好敵手にして幼馴染。そして、プログラムを超えた二匹の眷属(ペット)……。

 

 例え、この先に待ち受けるのが絶望であっても、歩みを止める者は誰1人として居ない。

 

 “魔王”が死闘を繰り広げる灼熱の戦場へ向けて、今、最高の仲間達が駆け出した。




描写し忘れてましたけど、【サンダーゲート】のユニフォームはイナGO時代の雷門と帝国を足して2で割ったようなデザインです。
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