イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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当初は10話前後を予定していたアナザーワールド篇も気付けば18話目…。ぶっちゃけ、作者的にはイナMONの話数を超えてしまったという事実に驚いてます。

正直言って、ここまで長丁場にさせるつもりじゃなかったんですけど、20話近く話数を割いてしまった理由が作者でも分かんないんですよね〜。話の道筋自体は超シンプルなのに。

まあ、終盤も終盤である事には変わりないんで、もう少しだけお付き合いください。


熱戦と激戦と超激戦と PARTⅢ

シンフォニー「形成逆転……と如何にも言いたげな雰囲気だが、生憎だったなぁ。雑魚がいくら群れようが、“最強”たる我ら(サンダーゲート)には勝てんぞ?」

 

雷冥「それはどうかな?結果はやってみなければ、解らんぞ?」

 

 仲間達との絆によりピッチへ舞い戻った“魔王”は、内に秘めた闘志を極限まで燃やし上げ、勝利を疑わないシンフォニーを鋭く見据える。

 

 後半戦からの【王魔雷帝】のフォーメーションは以下の通り。

 

FW:キャット、ジャック

MF:クトゥルー、イダテン、バード、ヨル

DF:キュウコ、ダゴン、雷冥、トウテツ

GK:ムールム

 

 本体の体力の限界によって消滅したデュプリたちの穴が埋まり、土壇場でチームとしての体を成した【王魔雷帝】。

 

 しかし、イダテンはともかく、人間態を得た眷属(ペット)達の実戦投入は今回(これ)が完全に初めてであり、おまけに、唯我独尊を貫く最凶のエゴイストたるジャックまでもがピッチに立っている。

 

 彼らを一言で言い表すならば、『噛み合うかどうかも分からない歪なピース達』……このぶっつけ本番で彼らがチームに勝利を齎すのか、それとも破滅をもたらすのかは……雷冥にすら全くの未知数であった。

 

雷冥「……だが、未知数だからこそ人生は……サッカーは面白い……そうであろう?ママ上……」

 

 それでも、先の見えない暗闇を前にしてもなお、雷冥の顔には不敵な笑みが刻まれていた。

 きっと、かつての彼ならば、どう転ぶか分からない時限爆弾のようなジャックの投入など、土壇場まで固く封印していたはずだ。

 

 にも関わらず、今の雷冥は一切の躊躇なくジャックをスタメンに抜擢し、あまつさえその不確定要素を楽しむ余裕すら見せている……。

 その佇まいは、明らかに前半戦の彼とは“何か”が決定的に異なる……。ピッチ上に漂うその底知れぬ異彩は、【サンダーゲート】、そして最大の好敵手(ライバル)であるシンフォニーの胸中に、拭いがたい警戒心を植え付けていた。

 

ピィーーーッ!!!!!

 

シンフォニー「“奈落(アンダー)”の住人如きが我々に叶う筈がないッ!!!“攻撃は最大の防御”だッ!!怯む事なく攻め続けろッ!!」

 

ソーショット「りょーかいッ!キャップッ!!!」

 

 【サンダーゲート】のキックオフからボールを受けたソーショットが、意気揚々と前線へ疾走する。

 

 だが……

 

ソーショット「なッ……!?」

 

 なんと第一波の守備であるはずのジャックとキャットは、一切のディフェンスに参加する事なくソーショットを素通りさせた。

 

ソーショット「テメェら…!俺を舐めてんのかァ!?」

 

ジャック「ハッ!!脇役(モブ)のテメェには、これっぽっちも興味が湧かねェよッ!!オレの獲物はただ1人……シンフォニーッ!テメェだけだッ!!!」

 

キャット「単純(シンプル)にディフェンスにリソースを割くのがダルいだけ。マスター、お兄。あとは任せた〜」

 

 清々しいまでに己の欲望に正直な“我儘(エゴ)”が炸裂。あっさりと守備を放棄した一人と一匹は、図々しくも前線に留まり、ジッと『その時』を待ち構える。

 

 その清々しいまでの勝手ぶりに、敵陣営の者は唖然とし、味方陣営の者は深い溜息をつく。

 

バード「クッソ……!人間の姿になっても、相変わらずマイペースだなァ……!!ももいいさッ!ココまで自分勝手にしといて、しょうもないミスしたら……承知しないからねッ!!!」

 

 チームで数少ない妹の圧倒的マイペースに慣れきった兄・バードは、その尻拭いをするべく急加速。自陣へ侵入した敵へ向かって全速力で肉迫すると、その全身に漆黒の旋風を纏わせた。

 

バード「“スパイラルドロー”ッ!!!」

 

ソーショット「ヌオォォォォォ!!!?」

 

 バードのオリジナルである『稲魂雷紋』が、偉大なる師から受け継ぎ得意としていたブロック技が鮮やかに炸裂し、ボールの所有権は一瞬にして【王魔雷帝】へと移り変わる。

 

バード「イダテン様ッ!」

 

イダテン「ナイスパスっ!!」

 

 パスを受けたイダテンは、その異名に違わぬ圧倒的な初速で爆走。

 次々と立ち塞がる敵陣の刺客達を、影すら踏ませぬスピードで巧みに置き去りにしていく。

 

グリム『速い速い速ーーいッ!!! 【サンダーゲート】のインフレが進んでもなお、イダテン選手のスピードは未だに一級品だーーッ!!!果たしてイダテン選手は、【王魔雷帝】のいい打点(イイダテン)になれるのかーーッ!?』

 

ランマーク「馬鹿な……!?進化した我らを以てしても、このスピード……我が軍最速であるスピタを凌いでいる……!」

 

イダテン「へへっ!おれのスピードは“奈落(アンダー)”ナンバー1っ!誰にも負ける気はしないよっ!!!」

 

シンフォニー「・・・面白い」

 

 『ナンバーワン』という響きに、そのプライドを強く刺激されたのだろう。

 怨敵である雷冥以外には一瞥もくれない筈だったシンフォニーがその重い腰を上げ、不敵な笑みを刻みながらイダテンの進路を遮った。

 

イダテン「早速お出ましか……!シンフォニーっ!!」

 

シンフォニー「フハハハッ!!! 光栄に思いが良いッ!! 貴様らのような下等存在に、この私が直々に相手をしてやるのだからなぁ!!!」

 

 シンフォニーの全身から溢れ出した膨大なオーラが実体化し、内に秘めた“英雄”たる化身がピッチに顕現する。

 

シンフォニー「“奏者 マエストロ零式”ッ!!!」

 

イダテン「これがシンフォニーの化身……! ジャックの時もすごかったけど……段違いだ……!!」

 

 絶対の“奏者”により奏でられるのは、雷冥にも引けを取らない強烈な圧迫感(オーケストラ)

 見る者全てを屈服させる圧倒的な威容を前に、イダテンの直感が「単身では絶対に勝てない」と警鐘を鳴らす。

 

ーーそう、単身(ひとり)では。

 

ジャック「誰がコイツより弱いって?」

 

 だが、今のイダテンは決して孤独ではない。

 数々の激突と葛藤を乗り越え、固い絆で結ばれた最高の仲間達が隣に居るのだ。

 

イダテン「へへっ!そんなこと言ってないさ!ただ……おれたちが力を合わせれば、どんな敵が相手でも負ける筈がないって言ったんだっ!!!」

 

ジャック「ケッ!臭い台詞吐きやがるッ!!!」

 

 絶対の“最強”に抗う反逆者達は、各々呼応するように胸中の闘志を爆発させる。二人の背後に広がるオーラが激しく練り上げられ、内に秘めし“英雄”たちがピッチ上へ同時に形を成す……!

 

イダテン「“魔神 ペガサス”ッ!!!」

ジャック「“剣聖 ランスロット”ォォォ!!!」

 

 少年を“夢”の果てへと誘う大翼を広げた『魔神』と、少年の力への渇望に応える身の丈を超えた巨大な大剣を携えた白銀の『剣聖』。

 二体の巨大な威容がピッチへ降り立ち、荘厳な旋律を奏でる『奏者』へ向けて、静かに(けん)(けん)を突き付けた。

 

シンフォニー「馬鹿な……ッ!?“奈落(アンダー)”の鼠如きが……私と同じ領域(ステージ)に登り詰めているだと……!?」

 

ジャック「生憎、オレ達は他の奴ら違って、誰よりも“力”に貪欲なんでなァ!!!既に化身は楽園(テメェ)らの専売特許じゃねェのさッ!!!」

 

シンフォニー「フンッ!!それがどうした……!同じ化身使いでも、格の違いがある事を思い知らせてやるッ!!!」

 

イダテン「格が下なのは……!そっちの方だぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 “魔神”と“剣聖”のタッグは、それぞれの武器を構え、呼吸の揃った渾身の一撃を“奏者”へ向けて放つ。

 だが“奏者”はタクトを振るうビートを一切乱す事なく、眼前に強固なバリアを展開し、二人の攻撃を真っ向から受け止めた。

 

ジャック「もっと気合いだしやがれェ……イダテン……ッ!!!」

 

イダテン「わかってるさ……っ!!!うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 いくら数で勝っていようと、相手はあの雷冥に本気を出させた屈指の猛者。地力に決定的な差がある以上、本来ならイダテンとジャックが手を組んだところで突破できる道理など存在しない。

 

ーーーその筈だった。

 

シンフォニー「グッ……!? な、何だ……!? 一撃一撃の重さが……加速度的に増していく……!?」

 

 打ち込まれる“拳”と“剣”の衝撃は前評判をあざ笑うかのように跳ね上がり、“奏者”の展開した障壁にメキメキと亀裂を刻んでいく。

 想定外の事態にシンフォニーの顔から余裕が消失し、即座に化身の出力を極限まで引き上げるも、一度傾いた劣勢を押し戻す事ができない。

 

シンフォニー(何だこの“重さ”は……!?ライメイの時とは明らかに違うに……!物理的な重さではなく、何か“別の力”に引っ張られているかのような感覚……!!)

 

イダテン&ジャック「「ダァリャァァァァァ!!!!!」」

 

シンフォニー「クッ……!させるかぁ!!!!!」

 

 完全敗北寸前まで追い詰められたシンフォニーだったが、土壇場で“最強”の執念を発揮。バリアを打ち砕こうとする“拳”と“剣”を、らしくもない力技で抑え込む事で、辛うじて『引き分け』へ持ち込む事に成功する。

 

 だが、互いの化身は激突の衝撃で消滅し、弾かれたボールだけが虚しく宙を舞う……。

 天よりも高いプライドを抱くシンフォニーにとって、格下二人を相手にした相殺など、敗北と同義であった。

 

シンフォニー「あり得ない……!最強である私が、こんなクズ共と引き分けるなど……!!もしや……化身の乱用による体力の低下か……?」

 

 自分が苦戦を強いられた理由を『コンディションの低下』だと断定し、綻び掛けた自尊心を保とうとするシンフォニーは、汚名返上の反撃へ向け思考を切り替えようとしたその瞬間ーーー

 

???「やれやれ……人が不調真っ只中だというのに、相変わらず世話を焼かせる救世主達だ」

 

 静かに響いたその声が、彼の浅はかな現実逃避を完膚なきまでに打ち砕く。

 

雷冥「やはりフィニッシュを決めるのは、私のようだなッ!!!!!」

 

 シンフォニーの隙が生じる瞬間を虎視眈々と狙っていた雷冥は、この勝機を決して逃さなかった。

 宙に舞うボールを誰よりも早く抑え込むと、圧倒的な気迫を纏って一気に敵陣ゴールへ猛進する。

 

グリム『ココで我がマスターだァァァ!!!贅沢にも化身使い2人を囮にし、一番美味しいところだけを持って行ったーーッ!!!我が創造主ながら、セコいッ!!実にセコいぞォォォ!!!』

 

雷冥「人聞きの悪い言い草だな。コレは歴とした“戦略”だ」

 

シンフォニー「しまった……!ディフェンスッ!!私が戻るまでイナタマ・ライメイを足止めしろォォォ!!!」

 

 度重なる化身の発動で体力を削られていたシンフォニーは、覚醒した雷冥の疾走に追いつく事ができず、最も危険な戦士への対応を部下たちへ丸投げせざるを得なくなる。

 

ミスティープ「確かに速い……。だが、明らかに前半よりも動きが鈍い!一気に畳み掛けるぞッ!!!」

 

『おおッ!!!』

 

 副隊長であるミスティープを筆頭に、“魔王”の覇道を阻むべく群がり立ち塞がる【サンダーゲート】の選手達だが……

 

雷冥「・・・ならば、貴様らに魅せてやろう。私が奏でる“旋律”を……!!!」

 

 その瞬間、雷冥は細長い指揮棒(タクト)を握るかのように両手を構えると、あたかも大勢の演奏者を従えた指揮者の如く、優雅かつ苛烈に両腕を振りかざした。

 

シンフォニー「ーー!!! その動作は……!」

 

雷冥「おっと。先に言っておくが、コレは貴様の模倣(パク)りではないぞ?我が道を形造った、偉大なる先人達への……敬意(オマージュ)だッ!!!」

 

 強烈な既視感を伴って振るわれる両手に応え、ピッチの上に幾重もの蒼い軌跡が鮮やかに描かれていく。

 無数の光のラインがフィールドを埋め尽くしたその瞬間ーー“魔王”は静かにその指揮の名を紡いだ。

 

雷冥「“魔王のタクト”」

 

 刹那、雷冥から放たれた電撃の如き鋭いパスが、視界を埋め尽くす肉壁の僅かな隙間を鮮貫く。ボールは寸分の狂いもなく、前線を走るヨルへと正確に収まった。

 

『なッ……!?』

 

雷冥「特別に助言(アドバイス)提言(くれ)てやろう。貴様らは少しばかり個人主義が過ぎる。この一年間(三日間)で連携力も鍛えておくべきだったな」

 

 それは助言の皮を被った、辛辣な嘲笑であった。

 事実、雷冥ただ一人に意識を奪われた隙を突かれ、彼らの守備網は完全に崩壊。タクトが描いた蒼い軌跡に導かれるように、魔王軍のパスが流れるように繋がっていく。

 

 かつて歴史に名を刻んだ伝説の選手ーーー円堂大介は、サッカーをこう評した。

 

ーー『サッカーとは11人による調和(ハーモニー)である』と。

 

 確かに【サンダーゲート】一人ひとりの個の能力は極めて高い。もしも、この場にヒビキ提督が居たならば、間違いなく王牙学園を見捨て彼らを懐柔しようとしていただろう。

 ……しかし、彼らのプレイはどこまで行こうと、ただ一人で演奏する“独奏曲(ソロ)”の域を出ないのだ。

 

 個の力に甘んじ、チームという概念を軽視する【サンダーゲート】は、一流であればあり得ない守備の連携ミスを連発していく。

 サッカーという競技の本質を根本から履き違えている彼らの無様な姿は、一流たる雷冥の目には、実に惨めで滑稽な茶番劇にしか映らなかった。

 

ミスティープ「我々のサッカーが……!通用しないだと……!?」

 

雷冥「……違うな。『“貴様ら”のサッカー』が通用しないのではない。この世界に渦巻く狂気の元凶……『“GF”のサッカー』が私には通用しないのだ」

 

 この世界の根幹をなす“サッカー”は、サッカーであってサッカーではない。

 雷冥の知るサッカーとは、敵も味方も全力を尽くして己をぶつけ合い、互いの技量を高め、時には魂を通わせる……まさに心の『対話』とも呼べる競技だ。

 

 しかし、この世界におけるサッカーとは、立身出世と支配のための『道具』に過ぎない。

 全ての価値がサッカーによる勝敗のみで決定され、一度の敗北すら許されない世界ーーーその恐怖政治の歪みが、人間としての純粋な成長を阻害し、限界を著しく狭めてしまっている。

 

 皮肉にも、敗北を糧に成長してみせた今の【サンダーゲート】こそが、この世界の歪みの間違いを証明する何よりの証拠。

 勝利の呪縛に囚われ、その真理に気づけぬ彼らが、“魔王”のサッカーに敗れ去るのは、必然の摂理であった。

 

ミスティープ「黙れ……!我らの否定は、偉大なる“GF”の否定と同義……!!これ以上、我らの神を侮辱する事は許さんぞ……!!!」

 

雷冥「そうか。それならそれで良い。私としても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コレ以上、厄介極まりない猛獣共を押さえつける必要が無くなるからな」

 

ミスティープ「何……ッ!?」

 

パチンッ!

 

 雷冥とミスティープのみを包み込んだ静寂の隙を突くように、“魔王”が放った右手のスナップが小さく木霊する。

 そのスナップ音は羽虫の羽ばたき程に小さく、ピッチの喧騒にかき消される程度の微かな音色……。それはおよそ人間の聴覚で捉えられるものではないだろう。

 

……そう、()()()()

 

バード「来たよ、キャットッ!マスターからの合図だ!」

 

キャット「フワ〜……待ちくたびれた……。気を抜かないでよ?お兄。アタシの足引っ張ったら……解体(コロ)すから」

 

バード「ピエッ!?」

 

 その演奏(スナップ)は、悪魔(デュプリ)を引き連れ前線を駆ける、兄妹(二匹)眷属(ペット)への解放の合図。

 

 解き放たれるのはーーーかつて世界を揺るがした“怪鳥”と“怪獣”(MONSTERS)だ。

 

バード「と、とにかく……!先陣を切るのは僕!今回ばかりは、ちゃんと息を合わせてよねッ!!」

 

 妹の物騒な脅しに怯えながらも、必死で気力を立て直すバード。

 キャットが気怠げに宙へと跳躍した瞬間、その軌道を追うようにボールへ強烈な一撃を叩き込む!

 

バード「“ブラックウィンド”ッ!!!」

 

 漆黒の羽を舞い散らせる一撃が同色の軌跡を描いて少女へ迫ると、キャットは人工筋肉で構築された肉体に、白金(プラチナ)に輝く百獣の王の魂を宿した。

 

キャット「“プラチナレオーネ”」

 

 その身に“怪物”の魂を宿したキャットは、兄とは真逆の地上へ向かって渾身のシュートを放つと、宙を切り裂く漆黒と、大地を砕く白金ーーー二つの奔流が互いに渦を巻き、巨大な双色の弾丸となって空中で停滞する。

 

 そして、重力に反抗して飛翔した(バード)と、重力に従って落下の加速を乗せた(キャット)

 弾丸の前方で交差した二人は、完全に呼吸を一つにして極大の衝撃を撃ち抜いた!

 

バード&キャット「「“ザ・グリフォン”ッ!!!」」

 

 その瞬間、鷲の翼と獅子の躯体を模した超巨大な幻獣がピッチ上に顕現し、咆哮一閃。

 兄妹の絆が重ね合わされた事で解き放たれた球体は、空間そのものを歪める程の衝撃波を巻き起こしながら、一直線に敵陣のゴールネットへと襲い掛かる。

 

 既に守護神の間に入り込む選手はおらず、ゴールを守るのはキーパーたるチャイードただ一人……。

 チャイードの視界を塗りつぶすのは、物理法則すら無視した圧倒的な威圧感。怪物的な威力を前に冷や汗を流しながらも、彼は己のプライドとキーパーとしての本能を爆発させ、全身のオーラを両腕に滾らせた。

 

チャイード「今度こそ点はやらんッ!!!“極 無頼ハンド”ッ!!!!!」

 

 天を突く巨大な鬼手が展開され、迫り来る鷲獅子の咆哮を受け止めんと正面から衝突する。

 ピッチ全体を激震させる凄まじい衝撃音が轟き、双方のエネルギーが拮抗ーーーしたかに見えた、次の瞬間。

 

チャイード「グッ……!!!!」

 

 突如、弾丸の回転数が跳ね上がったのだ。

 

 重力に抗う飛翔のベクトルと、落下の加速度を完璧に融合させた二人のエネルギーは、ただの力押しではない。

 完璧に重なり合った二つの運動能力が、チャイードの“極 無頼ハンド”の威力を内側から強引に食い破り、その鬼手をメキメキと粉砕していく。

 

チャイード「グ、オォォォォォッ!?? 俺の“無頼ハンド”が……食い破られ……る……!!?」

 

 その瞬間、食い尽くされるという未知の感覚と共に鬼手は完膚なきまでに打ち砕かれ、溢れ出した閃光と旋風がチャイードの巨体を容赦なく吹き飛ばす。

 留まる事を知らぬ双色の流星は、防具ごとゴールネットを激しく突き破り、スタジアムの天井を揺るがすほどの炸裂音と共に突き刺さった。

 

ピィーーーッ!!!

 

グリム『ゴーールッ!!!かつて存在した伝説の兄妹の必殺技・“ザ・グリフォン”!鷲の頭と獅子の肉体を持つ伝説の神獣が、見事【王魔雷帝】の追加点に貢献したーーッ!!!』

 

バード「ぃよっし!!!やったね、キャット!!!」

 

キャット「・・・ん」

 

パシッ!

 

 追加点を奪い取り、【王魔雷帝】にリードを齎した機械仕掛けの兄妹。

 各々の表情に浮かぶ温度差こそ対照的ながらも、二人は得点の歓喜を分かち合うように、勢いよくハイタッチを交わした。

 

 歓喜に湧くのは彼らだけではない。雷冥、イダテン、そしてジャックの三名もまた、内に秘めた悦びを各々の形で露わにしている。

 

……その光景を横目にーーー

 

シンフォニー(何なのだ、これは……!? 【王魔雷帝】のプレースタイルが前半戦とはまるで違う……!!奴らの動きが……攻撃の糸口が、全く読めん……!!)

 

 肉体的・精神的な疲労から、たまらず地面に片膝を突くシンフォニー。肩で荒く息を吐きながら、屈辱と混乱でその全身をワナワナと震わせていた。

 

 助っ人達が合流して以降の【王魔雷帝】は、もはや完全に「別のチーム」へと変貌を遂げていた。

 

 前半戦の彼らが、絶対的な司令塔である雷冥の計算に基づいた『直線的かつ画一的なプレイ』を徹底するチームーー謂わば“秩序”であったとするならば……。

 後半戦の【王魔雷帝】は、これまでの型を綺麗にドブへ捨て去った、型破りで縦横無尽な“混沌”だ。

 

 いくら完璧な計算と秩序でピッチを統制してきたシンフォニーの頭脳であっても、僅か数十分で180度塗り替えられた【王魔雷帝】の変幻自在なサッカーには、もはや何一つ対応できなくなっていた。

 

 すると呆然と立ち尽くすシンフォニーへ、雷冥が静かに歩み寄る。

 

雷冥「どうした、シンフォニーよ?まだ試合時間は15分も残っているのだぞ?まさか、既に勝利を諦めたのではあるまいな?」

 

シンフォニー「フン……ッ!そんな訳なかろう……!点を取られたのならば、取り返してやればいいだけだ……!!」

 

雷冥「・・・そうか。ならば、覚悟しておけ。生まれ変わった我が軍は、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 鋭い指摘に息を飲んだシンフォニーだったが、相手があの雷冥であることを思い出し、すぐに冷静さを取り戻す。

 

シンフォニー「ッ……!!気付いていたのか……!」

 

雷冥「たわけが。私の観察眼を侮るなよ?貴様程の逸材が、1年もの修行の結果が化身の習得だけではあるまい」

 

シンフォニー「………」

 

雷冥「その反応から察するに……既に貴様はその一端を掴んでいるのだろう?化身の極致たる……“あの領域”への片道切符を」

 

シンフォニー「……片道切符は所詮、片道切符……。生憎、“あの技術”はまだ未完成でな。力の制御が難しく、とても実戦で使える代物ではない」

 

雷冥「それがどうした?未完成でも勝利への確率が0.1%でも上がるのならば、躊躇なく使うべきであろう?・・・尤も、どこぞの愚か者のように、痛い目に遭いたくないのならば話は別だがな」

 

 口元にやや歪んだ挑発の笑みを浮かべる雷冥。

 しかしその双眸に宿るのは、冷徹な戦士(エージェント)としての冷たさではなく、強者との死闘を心から熱望する選手(アスリート)としての熱量であった。

 

 “不条理”と“未知数”を愛せるようになった今の雷冥は、この試合を、この混沌を魂の底から楽しんでいる。

 そして……彼は勝ちたいのだ。数少ない好敵手(ライバル)である、全ての力を解放したシンフォニーに。

 

シンフォニー「……少し見ない間に、随分と変わったじゃないか……。一年前に貴様と初めて戦った時は、精神を極限まで張り詰めていた印象であったが、今の貴様は違う……」

 

雷冥「突然拉致された上に命まで狙われているのだ、気を張り詰めるのも当然であろう。……だが、この三日の間で私の心境に変化があった事は肯定しよう」

 

シンフォニー「フッ……!それは、そこの小粒と出会った影響か……?」

 

 シンフォニーが視線を向けた先には、未だ追加点の余韻に浸りながら仲間達と笑い合う茶髪の少年(イダテン)の姿。

 雷冥は静かに首を縦に振り、否定することなくその指摘を受け入れた。

 

雷冥「私はずっと、合理や根拠に基づかない“不合理”が何より忌むべき存在であった。……それもそうだ、その“不合理”によって、私は母親を亡くしているのだから」

 

シンフォニー「………」

 

雷冥「・・・だが、イダテン達の行動を目にしてようやく気付いた。この世は“合理”だけで構成されている訳ではない。寧ろ、“不合理”の方が圧倒的に多数派なのだ、と」

 

 今にして思えば、かつての己が抱いていた疑問の答えは最初から目の前にあったのだ。

 もしも世界が合理だけで回っているのならば、計算の外側にいる「歪んだ存在」など生まれ得る筈がないのだから。

 

雷冥「そして、同時に理解もした。“不合理”を受容しなければ辿り着けぬ境地もある……とな」

 

シンフォニー「……そうか、それが貴様が出した答えか……!……いいだろう、ならば私も魅せてやる……!私の……“不合理”をなぁッ……!!!」

 

 雷冥の言葉に魂を揺さぶられ、迷いを吹き切ったシンフォニーが天に向かって咆哮を上げる。

 解き放たれた膨大なオーラが再びピッチ上に集結し、巨体たる“奏者”の影を形作ろうとするーーーだが、その直後。“奏者”の輪郭が崩壊し、高密度の奔流となって暴走を始めた。

 

バード「ちょっと待って……!アレって……!!」

 

 一見すれば、スタミナの枯渇による化身の自壊。

 しかし、砕け散ったオーラは霧散することなく、狂おしいほどの暴風となってシンフォニーの肉体へと急速に収束していく。

 

シンフォニー「ウオォォォォォォ!!!!!!」

 

 激しい閃光がピッチ全体を包み込み、不定形のオーラがシンフォニーの全身を力づくで侵食・再構築していく。

 眩い光が弾け飛んだ直後に現れたのはーーー“奏者 マエストロ”の意匠を宿した、荘厳かつ苛烈なる『鎧』を纏いし姿であった。

 

イダテン「シンフォニーが……!化身を身にまとった……!?

 

バード「アレは“化身”の更に上の技術……“化身アームド”です……!」

 

 『化身アームド』ーーー雷冥らの時代から約120年後のプレイヤーたちが使用する、化身の極致と謳われる超高等技術。

 人の強い想いが形となった化身を『鎧』として再構築し、直接その身に纏うことで、化身が持つ絶大なエネルギーを余す事なくプレイヤー自身の肉体へと還元する。

 

 しかし、その習得難易度は途方もなく高く、マスターできる者はほんの一握り……。それ程の超技能を、シンフォニーはこの土壇場で完成させたのだ。

 

雷冥「それが貴様の全力か……」

 

シンフォニー「ああ、そうだ……!!だが、やはりまだ完成には程遠い……!!ほんの少しでも気を抜けば、すぐにでも強制解除され気を失ってしまいそうだ……!!!」

 

雷冥「ホゥ?ならば、降参するか?」

 

シンフォニー「つまらんジョークだ……!!!安心しろ……!我が誇りに賭けて……この15分は、何が何でも持たせてみせる……!!!」

 

雷冥「……そうか、()()()……」

 

ーーーバシュウッ!!!!!

 

 刹那、雷冥の全身から凄まじい蒼の炎が吹き荒れた。

 

雷冥「私も貴様が提示した“不合理”に応えるとしよう」

 

 一見すれば、前半戦に見せた“獅風迅雷・限界突破”の再展開……。

 しかし、全身から立ち上る蒼焔は、まるで波立たない水面のように静かで、陽炎の如く穏やかに揺らめいていた。

 

イダテン「これがライメイの本気……!?初めて見る技だけど……気の流れが、とっても静かで……穏やかだ……!」

 

ジャック「……だが、決して軟弱な流れじゃねェ……。寧ろ、その逆。ライメイの内側に全ての存在感が収束してやがる……!」

 

キャット「・・・ねェ、お兄。アレってやっぱり……」

 

バード「……うん。マスターは、成功させたんだよ……!“至高の領域(ゾーン)”の到達に……!!」

 

 好敵手の命懸けの極致に応えるべく、ついに“至高の領域”へと完全到達した雷冥。

 その蒼く輝く双眸は、淡い光を放ちながら澄み渡り、静かな透明感を湛えてシンフォニーと向き合う。

 

シンフォニー「クハハハ……ッ!!!それが正真正銘の貴様の本気か……!いいぞ……昂る……!私の魂が際限なく昂るぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

雷冥「・・・生憎だが、私は真逆だ。今の私の心は……この上なく、澄み切っている」

 

 “不合理”を受け入れたことで、己の限界を突き破ってみせた両雄。

 決着の時は……もうすぐそこまで迫っている。




案の定、今話で終わりませんでした。次回、【強化サンダーゲート】戦決着です。
それと活動報告にも載せてますが、現在新章以降の執筆形式に関するアンケートを取っている為、投票のご協力お願いします。

〜オリ技紹介〜
♦︎ザ・グリフォン
属性:火(バード起点時)/風(キャット起点時)
分類:シュート(オーバーライド)
使用者:バード&キャット/???&???
オーバーライド元:ブラックウィンド+プラチナレオーネ
進化系統:究極奥義
≪概要≫
鷲の翼で空を穿ち、獅子の脚で大地を喰らう!
兄妹の絆により呼び覚まされた、伝説の幻獣がピッチを蹂躙する合体シュート!

最近、新章から台本形式をやめて普通の形式に戻そうかなーって考え始めたんで、参考がてらにアンケートを取ります。投票期間は現在連載中のスピンオフ完結までを予定してます。

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