イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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苦痛と救済と和解と

イダテン「あっ……!サッカーコートが消えた……!」

 

 計75分にも及んだ『サッカー』という名の壮絶な死闘は、見事【王魔雷帝】の勝利によって幕を閉じた。

 その役目を終えた超次元領域は光の粒子となって霧散し、周囲の光景は【サンダーゲート】の襲撃によって崩壊した大広間へと姿を戻していく。

 

雷冥「フー……。流石の私も、今回ばかりは骨が折れましたよ……」

 

イダテン「あっ、ライメイも元に戻った」

 

 “魔王”の人格が引き下がり、元の穏やかな口調に戻った雷冥は、大理石の床に尻餅をついたまま肩で荒い息を吐いていた。

 その姿は、如何に雷冥程の実力者であっても、今回の死闘がどれ程死力を尽くした戦いであったかを雄弁に物語っていた。

 

ジャック「オイ、ライメイ。最後に使ったあの変化は何だったんだ?明らかに“ゾーン”ってヤツと似てはいるが、絶妙に違う形態だっただろ?」

 

雷冥「……私自身、アレの明確な正体は解りかねますが、一つだけ心当たりはあります。恐らくアレは“超限界突破(オーバーオーバーリミテッド)”をも超えて初めて到達する事が出来る領域……」

 

ジャック「あン……?“ 超限界突破(オーバーオーバーリミテッド)”とやらが、到達点じゃねェのかよ?」

 

雷冥「“獅風迅雷シリーズ”を編み出した私の曽祖父・稲魂雷牙は晩年にこう書き記しています。『人間には、限界を超えた限界を更に超えた先に広がる“地平線(ホライゾン)”が存在する』と……」

 

 偉大なる曽祖父すら辿り着けず、完成叶わなかったとされる伝説の領域・“地平線(ホライゾン)”……。

 あまりに規格外な習得難易度ゆえ、知識として現象の正体を理解してはいても、雷冥本人の“感触”としては未だ実感が湧いていない様子であった。

 

ーーーだが、静けさを取り戻しかけていた大広間に、突如として異変が訪れる。

 

シンフォニー「グ……!ガァァァァァァァァーーーッッッ!!!!!!」

 

ミスティープ「おいッ!しっかりしろッ!!シンフォニー……!シンフォニーッ!!!」

 

 突如として、崩壊した大広間に、シンフォニーの苦悶に満ちた凄惨な絶叫が鳴り響いたのだ。

 

ジャック「オイ! なんでサンダーゲートの連中が起きてやがる!? イダテンの話じゃ、負けた奴らにしばらく身動きを封じるペナルティを設定できるって話だったじゃねェか……!?」

 

雷冥「あー……抜かりました……。すっかり罰ゲームを設定するのを忘れてました……」

 

 確実にミッションを遂行するためには、ペナルティの設定は必須事項。……であったのだが、かつて部下たちを突き放してしまった罪悪感と、シンフォニーの放つ狂気的な熱量に圧された結果、雷冥は罰ゲームの指定を完全に失念していたのだ。

 

 しかし、【サンダーゲート】の面々にこちらへ復讐しようとする気配はない。

 それもその筈、今の彼らには、復讐を考える余裕など微塵も残されていなかった。

 

雷冥「ご安心ください。隊長と体力を欠いた雑兵10人VS満身創痍の私1人ならば、まだ私の方が強いです」

 

ジャック「・・・テメェの場合、あながち冗談に聞こえねェのがムカつくな……。もういっその事、勝負の内容はサッカーじゃなくて、リアルファイトに徹した方が効率いいんじゃねェかァ?」

 

雷冥「ご冗談を。如何なる悪人相手であろうとも、流血を伴う行為を選択する事は下策中の下策です。血を流さない手段が存在するのならば、私は躊躇なくそれを選びますよ」

 

ジャック「ホーン?“奈落(アンダー)”のオレらからすれば、理解出来ねェ思想だなァ。……まあ、今回ばかしは飲み込んでやっか」

 

 その間も、人間が出せる限界を超えた凄惨な絶叫が崩壊した大広間に響き渡っていた。

 あまりの苦悶に体を折り曲げ、悶え苦しむシンフォニーの姿は、敵である筈のこちらですらも不憫に感じてしまう程哀れで、凄惨であった。

 

イダテン「……少し不思議だな……。ライメイもシンフォニーも強さ的にはほぼ互角だった筈でしょ?それなのにどうして、シンフォニーの方が大きなダメージを受けてるの……?」

 

バード「……恐らく、未完成の化身アームドを使った副作用でしょうね……」

 

 イダテンの抱いた素朴な疑問に応えるべく、バードはシンフォニーの身に起きている異常について自らの仮説を口にする。

 

バード「元々、シンフォニーは化身アームドを発動した際に必要な、『気の制御』を不得手としている様子でした。多分、化身アームド自体、彼には体質的に相性の悪い技術だったんでしょう……」

 

イダテン「技術にも体質による相性の良し悪しがあるんだね……」

 

バード「はい。そんな相性の悪い技術を、『マスターに勝つ』……その一点の為だけに、身体に大きな負荷を掛けてまで強引に使ったーーー今、彼を襲っている反動は僕たちの想像を絶する痛みの筈です……」

 

 “化身アームド”とは、ただでさえ膨大な化身のエネルギーを無駄なく体内に凝縮・密閉する事と同義である。いくらシンフォニー程の天才といえど、ぶっつけ本番の土壇場で完璧にコントロール出来る代物ではなかったのだ。

 

雷冥「……キャット、コチラに来なさい」

 

キャット「ーー? 何、マスター?」

 

 苦悶にのたうち回るシンフォニーの姿を凝視していた雷冥は、突如として何かを決意したような顔つきになると、白猫の眷属(ペット)を呼び寄せた。

 

雷冥「・・・少々失礼」

 

キャット「ん?」

 

ズボッ!

 

 ・・・先に言っておこう。キャットは精神的にも肉体的にも『♀』に該当する性別である。

 元となった中学時代の稲魂銀牙に準拠しているため、精神・肉体ともに人間で言えばおよそ13歳ーーーそんな思春期真っ只中の少女に対し、雷冥は・・・敢えて明確な言葉にはしないが、彼女の『公序良俗に反する部位』へと躊躇なく右手を突っ込んだのだ。

 

キャット「ちょ……!マスター……!?そこはダメだって……!!二゛ャ゛ン゛ッ゛!?」

 

雷冥「動かないでくださいキャット。貴方が人間態になった影響で、隠(・)し(・)場(・)所(・)も(・)変(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)で(・)。動かれると捜索に支障が出ます」

 

 シンフォニーの悲壮な絶叫とは全く質の異なる、喘g……ゲフン!ゲフン! 悲惨な苦悶の悲鳴が周囲に木霊する。

 

イダテン「ねー、ジャックー。なんでおれの目を隠すのー?」

 

ジャック「・・・テメェの将来の為だ。お前がアレを見るのは、まだ10年早い」

 

雷冥「……ありました」

 

ヌポンッ!

 

 数十秒におよぶ容赦なき「捜索」の末、軽い音を立てて勢いよく右手が引き抜かれた。

 ほんのりと湿り気を帯びた雷冥の右手には、45分前にも目にした『GUTS CANDY』と印字された一粒の飴玉が握られている。

 

イダテン「それって……!さっきライメイを回復させたアメじゃん!バードの話じゃ、もうストックはなかったって……!」

 

雷冥「真の一流とは、宝クジの一等が当選するよりも低い確率の事象をも対策しておくモノですよ。万が一……いや、億が一に備えて、キャットの体内に隠しておいて正解でした」

 

キャット「フーッ!フーッ!」

 

バード「おー、よしよし……。怖かったねぇ、キャット。流石に今のはお兄ちゃんも同情するよ……」 

 

 死闘の代償として深手を負っている雷冥だが、これさえ口にすればミッションを問題なく続行できる程度には回復できるはずだ。

 これで、真の目的たる“GF”の計画阻止に向け、確かな光明が差し込んでくるーーー

 

 誰もが、そう確信した筈であった。

 

雷冥「……ミスティープ殿ッ!」

 

 あろうことか雷冥は、苦悶するシンフォニーを必死に介抱する副隊長(ミスティープ)へ向け、その『GUTS CANDY』を迷わず放り投げたのだ。

 

「「「「ハァッ!?!?!?」」」」

 

ミスティープ「こ、これは……!?」

 

雷冥「先程のハーフタイム中に私が食した回復薬と同じ製品です。どうにかして、それを飲み込ませればシンフォニー殿は助かる筈です」

 

 『敵に塩を送る』どころではない、最後の切り札すらも差し出すような行為。

 あまりの異常事態に、仲間達だけでなく、サンダーゲートの面々までもが困惑に包まれている。

 

ミスティープ「ふざけるな……!敵である貴様から施しなど受けるものか……!どうせ助けるフリをして、シンフォニーを毒殺するつもりだろう……!!」

 

雷冥「私を信じられないのならば、それで結構。……ですが、生半可な処置では、シンフォニー殿の命の灯火は医療機関へ届く前に消えてなくなりますよ」

 

ミスティープ「クッ……!」

 

 たとえ毒が仕込まれている可能性を拭いきれずともーーー今にも消えそうな隊長の命を、指をくわえて見過ごす事などミスティープには到底できなかった。

 震える手で包み紙を破り、取り出したキャンディをシンフォニーの口へとねじ込む。無理やり噛み砕かせ、力任せに喉奥へと飲み込ませた。

 

シンフォニー「グッ……!? ーーーッ!? ハッ……! こ、ここは……!? ミ、ミスティープ……!?」

 

ミスティープ「シンフォニー……!目を覚ましたんだな……!!」

 

 『GUTS CANDY』の効能は、即座にその凄まじい効果を発揮した。

 先程まで死の淵で悶絶していたのが嘘のように、シンフォニーは後遺症一つなく、確かな正気を取り戻したのだった。

 

 とはいえ、だ。根本的な問題は未だに解決していない。

 

バード「あ、あのー……マスター……?流石にまだキャンディーのストックはあるんですよね〜……?」

 

雷冥「いえ?正真正銘、今のが最後のストックです」

 

ジャック「イカれてんじゃねェか、テメェ……!あいつは……シンフォニーは敵なんだぞ……!? 何もヤツを助ける必要なんざ、なかったじゃねェか……!!」

 

 そもそも【サンダーゲート】とは、精鋭集団であると同時に“GF”を護る守護者達の総称である。

 その頭脳たる指揮官が機能不全に陥っている今こそが、“GF”暗殺の最大にして最高の好機であった筈なのだ。

 

 にも関わらず、その絶好のチャンスをみすみすドブに捨てるような真似をした雷冥の思考を、仲間たちは誰一人として理解出来ずにいた。

 

シンフォニー「私が……助けられた……?まさか……!貴様が私を救ったというのか……!?イナタマ・ライメイ……!!」

 

ジャック「ヌオッ!?」

 

 跳ね起きるように立ち上がったシンフォニーは、制止しようとしたジャックを力任せに押し退け、雷冥の胸ぐらを掴み上げる。

 返答次第ではこの場で殺しかねない鬼気迫る威圧感。およそ、命を救われた恩人に向ける態度ではなかった。

 

シンフォニー「答えろッ!!イナタマ・ライメイィィィ!!!何故……!何故、貴様が私を救ったッ!?」

 

雷冥「……貴方が言いたい事は解りますよ。敵である男に情けなどかけず、己を回復させて目的を果たす……それこそが最も“合理的”な判断であるーーーそう言いたいのでしょう?」

 

シンフォニー「ああ、そうだッ!!! 敵に情けを掛けられた屈辱もそうだが……それ以上に! 貴様が選択したその“不合理”が、反吐が出るほど腹立たしいッ!!!」

 

雷冥「……ならば、答えは一つです。『別に負けたからって、死ぬ事はない』……そう思っただけです」

 

シンフォニー「ッ……!?」

 

 雷冥の胸ぐらを掴むシンフォニーの指先から、すっと力が抜ける。だが、雷冥は穏やかな眼差しを崩さぬまま、静かに言葉を続けた。

 

雷冥「……かつて、私の世界に存在した伝説的なゲームメイカー……鬼道有人殿は、このような言葉を遺しています。『“敗北”こそが人の最大の学びである。“敗北”を知らぬ内は、まだまだ半人前。人は“敗北”を知って初めて一人前になれる』……と」

 

シンフォニー「“敗北”こそが……人の最大の学び……」

 

 見知らぬ世界の偉人が残した金言が、シンフォニーの頑なだった心を深く穿つ。

 鬼気迫る狂気を宿していた表情から一転、憑き物が落ちたように呆然と目を見開くと、その手は完全に雷冥の胸元から離れ落とされた。

 

雷冥「……聡明な貴方ならとっくの昔に気付いているのでは?この世界は狂っている。たった一度の敗北すら許されず、敗者はまともな人権すら与えられない……。このままでは……“GF”の計画が阻止されようとされまいと、いずれこの世界は自滅の道を辿ることになる、と」

 

シンフォニー「………」

 

 シンフォニーの返答は“否定”ではなく“沈黙”であった。

 だが、次の瞬間、まるで張っていた糸がぷつりと切れたかのように、彼は膝から崩れ落ちた。

 

シンフォニー「……私は、物心付いた時から【サンダーゲート】を率いる人材として育てられた……」

 

 床を見つめたまま、ポツリポツリと過去を語り始める。

 

シンフォニー「この国随一のエリートたちからありとあらゆる帝王学、戦略、戦技を叩き込まれ……そして、サッカーの技術だけは……“GF”自ら直々に手解きを受けた……」

 

 隊長であるシンフォニーが“GF”の直弟子であったという事実に、周りの【サンダーゲート】達は驚愕のあまり目を見開く。どうやらこれは、長年付き添った部下達にすら知らされていない極秘事項だったようだ。

 

シンフォニー「貴様の言う通りだ、イナタマ・ライメイ……。私はずっと昔から、この世界に蔓延する不条理な“歪み”に気づいていた。……だというのに、私はそれをただ見て見ぬフリをし続けてきたのだ……」

 

雷冥「………」

 

 “神”の命に従い、政権を脅かす叛逆者たちへ裁きを下し、時には命奪うことすら躊躇わなかった。だが、彼の心の奥底では、常に全身を無数の針で突き刺されるような苛烈な罪悪感が渦巻いていたのだ。

 

 それでも、シンフォニーは己の良心を押し殺し、虚飾の仮面を被り続けてきた。

 それこそが“神”であり、“師”であり……そして何より、自分にとって“親”も同然であるGFを失望させたくなかったから。

 

 そして何より……

 

シンフォニー「私は生涯、敗者(そちら)側に身を置く事などあり得ないと、高を括っていたのだからな……」

 

 勝ち星を重ねるごとに肥大化していった“最強”への自尊心。だが、積み上げてきた絶対の矜持は、何の前触れもなく呆気なく打ち砕かれることとなった。

 

 忘れもしないーーー城から脱走した脱獄囚・稲魂雷冥との初戦。

 底の知れぬ“実力差”という絶対的な絶壁の前に、これまで培ってきた栄光も、“最強”たる自負も、その全てが木端微塵に粉砕されたのだ。

 

シンフォニー「我が軍の科学力によって、想定よりも遥かに早く意識を取り戻した我らに待っていたのは、“GF”による裁きだった……」

 

 語るシンフォニーの身体が、記憶の恐れに小さく打ち震え始める。脳裏に過ぎるのは、玉座の間で平伏する自分達を見下ろす“GF”の威容ーーー。

 

 生まれてこのかた、鉄仮面の下にある素顔を目にしたことなど一度たりともなかった。しかし、その仮面の奥から注がれる視線は、間違いなく氷のように冷徹な「失望」そのものであったと確信するほどの重圧(プレッシャー)であった。

 

シンフォニー「だが……神が下した判決は、『死』ではなく『猶予』であった……。神は最初で最後の起死回生の機会を、我々に与えてくださったのだ……」

 

 それから先は、雷冥の知る通りであった。

 帝国が持つ科学技術の粋を結集して構築された、“地獄”と評される極限の訓練室。そこで怒濤の一年間を耐え抜いた【サンダーゲート】の面々は、以前の姿とは比較にならないほどの絶大な力を手に入れた。

 

 過酷を極める地獄の日々を生き残る事が出来たのは、全て『打倒、稲魂雷冥』という執念のスローガン故……。そして、溜めに溜め込んだ全ての“恨み”を、雷冥へ叩きつける筈であった……が。

 

シンフォニー「しかし……貴様と死力を尽くすにつれ、私の胸の奥に芽生えてしまったのは、恨みなどとは到底かけ離れた……“楽しい”という感情だった……」

 

 シンフォニーは、そんな己の心情が何よりも許せなかった。

 生きるか死ぬかの死闘において、“楽しい”などという甘烈な感情は害悪でしかない。“GF”の忠実なる神子たる己に、そのような“不合理”な弱さなど存在してはならないのだ。

 

 だからこそーーー彼は命を削り、肉体を破壊してまで、その芽生えた“不合理”を自ら否定しようとした。

 

 …… だが、叩きつけられた現実は、シンフォニーの完全なる敗北であった。

 

 同時にその“敗北”こそは、偽りの絶対に支配されたこの世界の限界を告げる、覆しようのない証拠に他ならなかった。

 

シンフォニー「分からない……!私はもう……分からない……!!今まで信じてきた“常識”が間違っていると気付いてしまった以上……私を何を信じて生きていけばいい……!?」

 

 シンフォニーは、血が滲む程の勢いで拳を強く床へ叩きつける。

 この敗北によって、彼はこれまで自身を支え続けていた存在理由の全てを喪失してしまった。故に今の彼は、出口のない深い孤独と喪失による虚無感に呑み込まれているのだろう。

 

雷冥「………」

 

 叩きつけられたシンフォニーの挫折を前に、雷冥はただ静かに沈黙を守る。

 決して言葉に詰まったわけではない。信念の崩壊という挫折は、他者が安易に答えを与えて解決できるような甘い難問ではないからだ。 その答えはどこまでも、自身が血を吐くような思いと努力によって手繰り寄せるしかない。

 ……だが。もしも暗闇の中で、次の一歩を踏み出す足場すら見失っているというのならーーーその闇に染まった足元を静かに照らす道標になる事くらいはできる。

 

雷冥「……私は私、貴方は貴方……。結局、人はどこまで行っても“他人”に成る事は出来ませんが、“自分”に成る事は出来ます。その時……自分を自分たらしめる要素は、結局の所、“ココ”……なのではありませんか?」

 

 雷冥は静かだが力強い動作で、自らの胸元ーーー心臓の上を親指でトントンと叩く。

 何の変哲もない単調な動作。……だが、その静かな示す先は、迷いの中にあるシンフォニーへ確かに“道”を指し示していた。

 

シンフォニー「……私は変われるのだろうか……?間違いを犯し続けたこの私が……。歪み切ったこの世界を……変える事が出来るのだろうか……?」

 

雷冥「さァ?変わったかどうかを決めるのは貴方自身ではなく、それを見届ける第三者です。……ですが、貴方が心の底から『変わりたい』と強く願ったのであれば……それは、間違いなく貴方自身が導き出した“正解(こたえ)”です」

 

シンフォニー「……そうか。ありがとう、ライメイ……。私は、腹を決めたぞ……!!!」

 

 暗闇の中に差し込んだ一筋の光を目印に、新たな一歩を踏み出したシンフォニーは、堂々とした立ち姿で勢いよく立ち上がる。

 その清々しい表情は、長年その肉体と魂を蝕み続けていた凄惨な呪縛から、遂に解き放たれたことを物語っていた。

 

シンフォニー「聞けェ!!“最強”の誇りを胸に秘めた天使達よッ!!!」

 

ミスティープ「シンフォニー……」

 

シンフォニー「私は異世界からの来訪者によって、ようやく気付かされた……!本当に歪んだいたのは、“我ら”……そしてこの世界の方であったのだとッ!!!」

 

 “神の威光”すら感じさせる隊長の堂々たる演説を前に、手足となって働いてきた部下たちは例外なく騒めき立つ。

 

シンフォニー「もう、私が言わんとしているか分かる筈だ。……私これより、我が神・“GF”へ……反旗を翻すッ!!!」

 

 『反旗』ーーーそれは紛れもなく、この世界の絶対神たる“GF”との全面戦争を意味していた。

 まさか自らの指揮官の口からそのような言葉が飛び出すとは夢にも思っておらず、部下達の動揺と混乱は最高潮へと達する。

 

シンフォニー「お前たちが困惑するのも当然だ……。“GF”への忠誠を全うしたいと願うならば、今この場で私と袂を分かち、神へ報告しに向かっても構わないッ!!……だが、もしも私と志を同じにする者が居れば……どうか私(・)達(・)に手を貸して欲しいッ!!!」

 

 魂を絞り出すような演説を終えた直後、シンフォニーは部下たちへ向け、深々と頭を下げる。

 だが、隊長としての威厳を捨てて差し出した懇願を以てしても、彼の側に立とうとする者は誰一人として現れない。

 

ミスティープ「……無理だよ、シンフォニー……。お前の言葉がいくら正しくても、“GF”の恐ろしさを知っていり限り、お前側に付く者は誰も居ないだろう……」

 

シンフォニー「……それは百も承知だ。私はお前達に参加を強要しないし、敵対しても怨みはしない」

 

ミスティープ「……そうか。それ程までに決意は硬いんだな……。ならば……」

 

ーーーその瞬間、副隊長であるミスティープの脚が静かに動いた。

 シンフォニーは宣言通り、例え袂を分かとうと部下を責めはしない。しかし、ミスティープが神への報告へ向け歩き出した以上、残された部下達の雪崩を打つような離反は決定づけられたも同然であった。

 

 誰もが、そう確信したその刹那ーーー。

 

ミスティープ「俺は、何処までもお前に付いて行く」

 

 神へ忠誠を誓い直すべく動き出したと思われたミスティープは、あろうことかシンフォニーの真隣へと並び立ったのだ。

 

雷冥「おや。コレは嬉しい想定外ですね」

 

シンフォニー「ミスティープ……!?本当にいいのか……?隊長である私が抜ければ、次期隊長の座はお前の物になるのだぞ……?」

 

ミスティープ「……そんな地位など、端から俺には必要ない。俺が【サンダーゲート】に身を置いていたのは、神に忠誠を誓っていたからじゃない……ッ! 隊長である“お前”に忠誠を誓っていたからだ!!」

 

シンフォニー「ミスティープ……!」

 

 副隊長の思わぬ覚悟に、シンフォニーは絶句する。

 衝撃に包まれたのはシンフォニーだけではない。背後に控えていた【サンダーゲート】の精鋭達にも、まるで落雷が落ちたかのような激震が走っていた。

 

ソーショット「正気かよ、副隊長……!相手はあの“GF”なんだぞ……!?」

 

チャイード「あの科学を超越した圧倒的な力を持つ“其”相手では、命が幾つあっても足りんぞ……!」

 

 動揺の悲鳴が混じる中、ミスティープは一切怯む事なく、部下たちに向かって毅然と振り返った。

 

ミスティープ「反逆への恐怖が無いと言えば嘘になる! だが……俺達を誰より正しく率いてくれたのは……“GF”じゃない! ここにいるシンフォニーだ!!」

 

 副隊長による魂を揺さぶる叫びが、静まり返る大広間に重く響き渡る。

 その言葉は、とうの昔に消し去られた筈の“意志”を激しく呼び覚ました。

 

バンバ「そうだド……!俺達が地獄のトレーニングを耐え抜けたのも……!」

 

ランマーク「……隊長が、誰よりも泥を被り、俺達の先頭を立ち続けてくれたからだ……!」

 

 真に使えるべき主人を思い出した精鋭達は、一人……また一人と震える足で地面を踏み出す。

 長年刷り込まれた“GF”への絶対的な恐怖に膝が笑っている。それでも彼らは、己の意志で一歩、また一歩と歩みを進め、シンフォニーの背後に並び立った。

 

ヒカル「ボクも行きます!隊長と一緒ならば……どんな敵が相手でも、絶対に勝てるような気がするんです!」

 

サンシー「チューカ、最近の“GF”は人使いが荒いにも程があったし?ここらが日頃の恨みを晴らす、いい機会っしょ!」

 

 堰を切ったように、次々と選手たちが駆け寄ってくる。

 十一に重なる足音。それはもう『神の意志の元に動く傀儡』の音色などではない。自らの意思でピッチを走り、自ら考えて行動する『一人の人間』としての確かな歩みであった。

 

雷冥「革命の時は来たれりーーーという事ですね」

 

 魂をぶつけ合った死闘により、身分も思想も超え、遂に心を通わせた【王魔雷帝】と【サンダーゲート】……。

 ここに“魔”も“光”も超越した、世界を侵食する大いなる歪みに立ち向かう為の連合軍ーーー【天魔革命軍】が結成されたのだった……!

 

シンフォニー「…… そうだ。貴様との勝負に負けた暁には、渡さなければならない物があったのだ」

 

雷冥「私にですか?」

 

シンフォニー「……厳密には、貴(・)様(・)宛(・)で(・)は(・)な(・)い(・)が(・)な(・)……。取り敢えず、受け取れ」

 

 そう言ってシンフォニーは懐に手を差し入れると、“ある物”を取り出して雷冥へと放り投げた。

 雷冥の右手に収まったのはーーーまるで中央から力任せに引き裂かれたかのような断裁痕が残る、異様な謎の物体であった。

 

雷冥「何ですかコレ?どこかで見た記憶があるような、ないような……?」

 

イダテン「ああーーーっっっ!!!!!!」

 

 二人のやり取りを傍らで見守っていたイダテンが、突風の如き大声を上げて雷冥へと迫り寄る。

 

雷冥「イ、イダテン殿……?どうしたのですか……?」

 

イダテン「そ、それ……!おれがずっと探してた、ペンダントの片割れだよ……っ!!!」

 

雷冥「何ですって……!?」

 

 雷冥は即座にシンフォニーから渡された品をイダテンへと差し出す。イダテンは震える手で肌身離さず持ち歩いていた自らのペンダントを取り出すと、二つの破片を静かに重ね合わせた。

 

 長年の経年劣化や衝撃による損壊のせいか、完全に隙間なく噛み合った訳ではない。だが、互いを引き寄せ合うような左右対称(シンメトリー)の意匠は、それらが元は紛れもなく『ひとつの存在』であったことを雄弁に物語っていた。

 

イダテン「ピッタリだ……!」

 

雷冥「……シンフォニー殿。貴方はコレを一体、何処で……?」

 

シンフォニー「以前、貴様が防衛兵によって捉えられた部屋があっただろう。そこの地下は、易々と処分することのできぬ『重要遺物』の保管庫となっていてな。貴様との交渉材料になりそうな物を探していた際、偶然発見したという訳だ」

 

 淡々と語るシンフォニー。だが、一見すればガラクタ同然にしか見えないペンダントの片割れが、今日(こんにち)に至るまで厳重な保管庫に安置されていたという事実。それが意味する答えは、一つしかなかった。

 

シンフォニー「どうやら……我が神にとって、貴様の両親は余程目障りな存在であったらしい……」

 

 それはすなわち、イダテンの両親がすでにこの世には居ないという冷酷な事実を意味していた。

 

イダテン「そんな……!」

 

雷冥「……もしくは、本当の脅威はイ(・)ダ(・)テ(・)ン(・)様(・)自(・)身(・)だ(・)っ(・)た(・)……か」

 

ジャック「ーー? 何か言ったか、ライメイ?」

 

雷冥「……いえ、何も」

 

 以前から抱いていた確信が、いよいよ言い逃れのできない段階へ達してしまった事に、雷冥は思わず独り言を漏らしてしまったが、何とかその場を誤魔化す。……この真実は、今明かすべき時ではないと判断したからだ。

 

イダテン「………」

 

 自身の真の名を知る唯一の手がかりであった両親が、すでにこの世にはいないという冷酷な事実。流石のイダテンもショックを隠し切れず、激しい落胆に膝を折りそうになる。

 

シンフォニー「……貴様が何に対してショックを受けているかは定かではないが、一つ教えてやる。そのペンダントには膨大な量のデータが内蔵されているとの分析結果が出ていた」

 

イダテン「ーーー!!!」

 

シンフォニー「全てのデータを解析するには片割れを取り戻す必要があったが、その懸念既に解決した。もしかしたら、貴様の追い求める“答え”はそこにあるかもしれんぞ?」

 

 潰えたかに思えた希望が再び芽吹いたことで、うなだれていたイダテンの瞳にみるみるうちに光が戻っていく。

 

バード「あの……もしよろしければ、僕がデータを復元しましょうか……?データだけの抽出なら、すぐに出来ますし……」

 

イダテン「……ありがとう、バード。でも、今はやめとく。おれが探し求めてた“答え”を見るのは……全(・)部(・)が(・)終(・)わ(・)っ(・)て(・)か(・)ら(・)に(・)す(・)る(・)!」

 

雷冥「以外ですね。てっきり、イダテン殿ならば、今すぐにでも確認すると思いましたが……」

 

イダテン「そりゃあ、おれも今すぐにでも確認したいさ。でも……」

 

雷冥「でも?」

 

 どこか含みのある言い方で一瞬だけうつむいたイダテン。だが彼は、すぐにいつものような眩しい笑顔を弾けさせた。

 

イダテン「・・・今だけは、過去に囚われずに、ライメイの同盟者(パートナー)で友達の……“イダテン”として戦いたいからさ!」

 

雷冥「……フッ、ならば……ますますこのミッションを失敗する訳にはいかなくなりましたね」

 

 イダテンの真っ直ぐな思いやりと覚悟を受け取った雷冥は、限界を迎えている肉体に鞭を打ち、再度気合を入れ直す。

 

ジャック「……うし、そろそろ休憩も終えらせて、カチコむとすっか!!!」

 

シンフォニー「……ライメイよ。本当に“GF”を討つのか?」

 

雷冥「当初はそのつもりでしたが……計画変更です。まずは拘束に徹し、計画の中止させる交渉を試みます。ヤツの命を奪うのは……あらゆる手段が潰えた時の、最終手段です」

 

 目的を“討伐”から“捕獲と交渉”へと切り替えた雷冥は、全員へ向けて作戦を速やかに共有する。

 この世界ーーーひいては全時空の命運を賭けた最終決戦(ミッション)の開始まで、残り数分。




これ決戦の舞台を“玉座の間”前の大広間にしたの失敗だったな……。絶対、シンフォニーの声デカ演説とか中でスタンバってる“GF”の耳に入ってそう……。
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