No side
「神を神たらしめる定義をキミは知っているかい?」
珍しく地下の研究室ではなくどこかの屋内練習場に座している“雷帝”。
彼はすぐ目の前で無邪気にボールを蹴っている少女に向けて意味深な質問を投げかける。フィールドにはちょうど11人の少年少女がボロボロで横たわっており、側にあったスコアボードは45対0となっている。
「んー知らなーい。てか神ってイマドキ古くなーい?私的には“フィールドの皇帝”とかの方がバッチグーって感じだけどー?」
「バッチグーの方が古いと思うけどねぇ?まぁいいか、私が思うに神とは人ならざる者、言い換えると人間の理解を超えた存在を指す言葉だと思っている。だからこそ古代の日本に住んでいた人間は理解が及ばない現象が起きる度に神を作り出した結果、多神教の文化が生まれた。」
ペラペラと言葉を続ける“雷帝”だが、少女は興味がないのかリフティングを始める。
「……だからこそ私は人間でも凡人の理解を超えたその瞬間から神と見做しても問題と思っている。それこそが神を神たらしめる定義であり存在意義そのものであると…聞いているのかい?」
「アー、ウン。キイテル、キイテル、スゴイヨネーカミサマッテ。」
常日頃から自分への態度はあまりよろしくないが今日はいつにも増して反抗的な態度を取り続ける少女の姿を見て“雷帝”は自身の脳内データベースを軽く閲覧すると1つの結論に辿り着き軽いため息を吐く。
「…もしかして怒っているのかい?君の計画が“プロジェクトZ”に先を越されたことに?」
「ツーーン!プイ!」
可愛らしい擬音を自分の口から出し分かりやすくそっぽを向くが、これは“雷帝”への答えと同義だ。
「だってさーーーー!!!私が
ぎゃあぎゃあと文句垂れる少女を見て普段影山と共にいる時には見せない表情を見せる“雷帝”。再びため息を吐くと何かを思い出しタブレットを取り出し操作する。
「ちょうど良かった。コレを見たまえ『帝国』対『プロジェクトZ』との試合だ、もう終わりかけだがねぇ。」
そこに映っているのは前半僅か15分しか経っていないのにも関わらず、10対0のスコアボードが映っている。だがその10点は帝国の点ではなく対戦相手である『世宇子中』の点である。
ゴール前にはあまりのシュート威力により地面がえぐれており、フィールドにも大怪我を負って倒れ伏す帝国メンバー達。まるで今まで影山に命令されてやってきたことへの因果応報とも言える光景であった。
そこに倒れ伏す帝国メンバー達を見下す影が1つ。影の主は背中から天使の如く純白の羽を出現させ、まるで自身が神のように振る舞うその姿はFFスタジアムに集まった観客の視線を釘付けにする。
「うーーわ、帝国ボッロボロにやられてんじゃーん。もう“フィールドの皇帝”なんて古いねー、やっぱ時代は“サッカーモンスター”っしょ!」
「肩書きなんぞどうだっていいだろう?それよりもコレを見てどう思った?」
「んーーー。やっぱ私がやったほうがよかったんじゃない?私のチームなら同じ時間で30点は取れてたよ。あーあーFF出たかったなーー。」
あれだけの惨劇を見ても狼狽える所か寧ろ自分なら倍の点数を取れると変わらない口調で豪語する少女の姿を見て満足したような笑みを浮かべる“雷帝”。
「そもそも計画が延期になったのは君の身体能力がカンストしすぎて“神のアクア”が
「本当⁉︎うわーーー!!!何かなー!もしかして新しいユースチーム買収してくれたとか⁉︎今度はもっと強いチームがいいなー!」
いい話があると聞き無邪気な態度でやたら物騒なことを話す少女だがその夢は呆気なく砕け散ることになる。
「ロシアに行けだってさ。」
「…は?」
まるで散歩行くと見せかけて病院に連れて行かれたペットの犬のようにテンションを下げる少女。
「何が悲しくてあんな寒いだけの国に行かなきゃならないんですかーー?贅沢言わないからせめてスペイン辺りにしてくださーーい。バルセロナ・オーブと試合したいでーーす。」
「なんでもロシアにあるオリオン財団の計画がスポンサーの計画とだだ被りだそうだ。あっちもサッカーによる世界征服を目標にしているらしいから買収の為に育成されているスパイごと潰してこいだとさ。良かったねぇサッカーできて。」
さっき以上に少女がぶつぶつ文句を言うが“雷帝”は気にせず、スケジュール帳を閲覧し始める。もう何を言っても無駄な事を察した少女はせめてもの抵抗に“雷帝”に向けてあっかんべーをしてある要求をする。
「べ〜〜!もういいですよーだ!どーせ今回も長丁場になるだろうから私の口座に2000万振り込んどいてよね!
「分かったから早く準備してきなさい。FF決勝戦前には日本を出るぞ。」
ぎゃーぎゃーいいながら服を着替えに控え室に戻る娘の背中を見て“雷帝”は親の顔から科学者の顔に戻る。
「…オリオン財団ねぇ。あっちが行っているオリオンの使徒とやらの技術も気になるし
タブレットで映っている帝国と世宇子の試合は帝国の棄権で幕を閉じていた。
そして現地には何台もの担架で運ばれていく帝国メンバーをただ見ているしかなかった
雷牙 side
「帝国が…負けた…?」
伊賀島との試合を終えて2回戦に向けて調整を行っていた俺たちに音無が告げたのは帝国が敗北したとの知らせだった。
「お、おい何かの間違えだろ…。あの帝国がそんな大差で負けるはずがねぇだろ…!」
「そ、そうだ!帝国には“皇帝ペンギンOG”だってあるんだ!1点も取ることが出来ないのは流石におかしいだろ!」
「…お兄ちゃん今日試合に出なかったらしいんです。帝国のマネージャー曰く“皇帝ペンギンOG”を撃つのにかかった負担が予想以上に大きかったらしくて、ノーマークの学校でも嫌な予感がするから出るって言っても反対されて、仕方なく大事をとって今日の試合はスタメンじゃなかったって…。でも世宇子中は見たことの無い必殺技を使って開始15分で全員負傷して監督が棄権を出したそうです…。」
あの帝国が手も足も出せずに負けただと…!そんなことあり得る訳がねぇ…!アイツらは日本でもトップクラスの実力を持ったチームだぞ!それが開始15分で棄権だと…!
「俺!ちょっと帝国に行ってくる!」
「キャ、キャプテン!」
「今から帝国に行ったって鬼道がいるとは限らねぇだろ…!おい稲魂!円堂を止めてこ…っていねぇ!」
〜数分後〜
「ハァハァハァ、そ、そういえば帝国って電車でも20分くらいかかるくらい遠いんだった…。」
「んなことだろうと思ったぜ守。」
河川敷辺りで帝国が遠いことに気づくんだとなんとなく予想していた俺は先回りして準備しておいた。
「ほらよ守。ヘルメットだ。」
「へ、ヘルメット?ってことはまさか…!」
そう今まで黙っていたが俺はチャリ通だ。割といいチャリだから40分くらいあれば多分帝国に着くだろうな。
「ヘルメットはしたか守!」
「おう!」
「しっかり捕まっていろよ!ズババーンと安全にとばすぜぇぇえ!」
俺は数十分間チャリを漕ぎ、2〜3個先の隣町にある帝国にようやく到着した。
世宇子に負けたせいなのかあれだけ大勢いた帝国のマネージャーやコーチも1人もおらずすんなりと帝国スタジアムに入ることができた。そしてスタジアムのフィールドには私服姿で佇む鬼道がいた。
「…よう円堂、稲魂。笑いに来たのか?仲間が傷ついているのに何も出来なかったこの俺を。」
そこにいたのは王者としての誇りに満ちた帝国のキャプテンでは無く、仲間の危機に対して何も出来なかった無力な自分に打ちひしがれるただの人間だった。
鬼道から漂う敗北者としての惨めさに思わず俺と守はあれだけ考えていた慰めの言葉を失ってしまった。だが守は首を振りなんとか声を出す。
「んなわけねぇーだろー!…鬼道!」
守は軽く鬼道にパスを出す。だが鬼道はその場から動こうとはしない。そのままボールが鬼道にぶつかり鬼道はその場に倒れ込む。
「何でだよ…鬼道!蹴り返せよ…。いつものように強烈なシュートを俺に打ち込んでこいよ…!」
守も必死の訴えも虚しく鬼道はボールを投げ返すだけだ。
「…40年間無敗だった帝国学園の歴史。俺達はそれを終わらせたんだ…。帝国に入学してからただひたすら勝つことだけを考えてきた。それがボールが触れる前に試合が終わってたんだ。」
もはやこっちに目を合わせずに淡々と話す鬼道。
「俺は寝ても覚めてもずっとサッカーのことばかり考えてきた。それがこんな形で終わるなんてな…俺のサッカーは終わったんだ…何もかもな…。」
『俺のサッカーが終わった』だと…。鬼道、オマエは…テメェは…!
「ふざっけんじゃねぇぞ鬼道!お前は練習試合の時言ったよな!人を傷つけるのが帝国…いや影山のサッカーだって!だがオマエらは影山に逆らった!それはオマエらが純粋に勝利を求める本当のサッカーをしたかったからだろ!それを、その気持ちをたった一度の敗北で認めていいのかよ!」
「…いいわけがないだろ!!!だがな俺は、俺達は実際に負けたんだよ!影山の手から離れてようやく俺達のサッカーができると思った瞬間に!ははは…哀れだよな、帝国が40年間無敗だったのは全て影山が裏で工作したからにすぎなかったにも関わらず『絶対王者』としての偽りのプライドでサッカーをしていたなんてな…とんだ道化だよ俺は…。」
もはや鬼道にはサッカーにかける情熱は微塵も感じられない。思えばそうだ、実力で積み上げてきたと思っていた『絶対王者』の看板が実は影山の裏工作によって作り上げられた偽物の看板であったことに大きなショックを受けてようやく自分達の実力で挑戦できると思った途端に世宇子にボロ負けしたんだ。鬼道の中でギリギリ繋がって何かが切れちまったんだろう。
…だがそれでも俺は鬼道にサッカーを諦めてほしくねぇ。何か方法はないのか…?
「鬼道ぉぉぉお!!!!」
そう思っていると守は再びボールを鬼道の方に投げる。再び動かなくなるかと思った瞬間鬼道の体は反応して強烈なシュートを打ち返した。
「な、何故俺はボールを打ち返した…?」
「心は完全に折れていても身体はまだ諦めてねぇようだな。」
俺の言葉にほんの少しだけ憑き物が落ちたような笑みを浮かべると突然鬼道は自分の家に俺たちを招待した。
「うわぁ〜〜〜!!!でっけぇ〜〜家だなぁ!…アレ?雷牙はそこまで驚かないんだな?」
別に〜?俺も昔はこんぐらいの家に住んでたし?あと守そんなに部屋を歩き回るなよなんかそこにある照明割と高い奴だからな。
「…あん?なんかヤケに古いサッカー雑誌があるじゃねぇか?」
「まぁな。これは俺にとってのサッカーの原点だ。円堂にとって爺さんのノートみたいにな。」
それから鬼道は語る。実の両親は海外勤務が多く日頃から音無と2人きりになることが多かったそうだ。だが小さい頃に飛行機事故で亡くなり残った遺品があのサッカー雑誌だけだったという。家族の写真一枚残っておらず両親との記憶もない中、唯一残った雑誌が両親とたった1つの繋がりだったこと。最初は親との繋がりが欲しくて始めたサッカーが影山の目に止まり鬼道家を紹介してもらい帝国に入学したが影山は勝つことだけを求めるサッカーを鬼道に強いたこと。
…俺には鬼道の気持ちが痛いほどよく分かる。突然誰かとの繋がりが切れるなんて嫌だもんな。
「…ステラ・オーロ。」
「ステラ・オーロ?確かちょっと前に死んじゃったイタリアのスゲェサッカー選手だろ?…あ!ほら見ろよ!この雑誌に載ってるぞ!」
もう鬼道は俺の正体に気づいているんだろうな。まぁいいか鬼道が自分の事を話してくれたんだ。俺も話すべきだからな。
「…そのサッカー選手俺の親父なんだよ。」
「へぇ〜ステラ・オーロが雷牙の父さんかぁー…ってえぇぇぇぇえ!!!!?」
「ふっ、やはりな。前に貴様の情報を調べた時、稲魂雷牙という人間は戸籍上存在しないと言われたからな。もしやと思って調べてみたらステラ・オーロに辿り着いた時から何かあると思っていたんだ。」
突然のカミングアウトに頭がパンクしている守としれっとプライバシーを覗かれていたことをバラす鬼道。
「…でもさ実は俺、ステラ・オーロの息子じゃなくてさ鬼道と同じ養子なんだよ。」
「…!それは初耳だ、ということはまさかお前は…!」
「あぁそうさ。実の両親と育ててくれた両親を2度無くしてる。」
「それは…すまなかったな。てっきり同じ金髪なものだから実子だと思っていた。」
「あぁこの髪?これは染めてんだよ。俺元は茶髪だし。」
「あっ!そーだよな!雷牙って茶髪だったよな!思い出すよなーー!鉄塔で初めて会った時のこと!確か3年生の時だったよな!あの時のシュー…あれ?」
流石の守でも気づいたかあの時なんで俺がアソコにいたのか。
「なぁ鬼道今度は俺の話を聞いてくれないか?俺のサッカーの原点の話を。」
「…好きにしろ。」
許可も貰ったことだしどこから話そうかなぁ〜?やっぱアレか?いやアレでもいいな?じゃあまずはここから話そう。
アレは俺が5歳だった頃のことだ…
本当は雷牙の過去回想世宇子戦の前に挟む予定でしたが今挟んだ方が自然だったので次回から過去編に突入します。