イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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実際問題、ガルシルドによる謀殺未遂がなかったら、影山は真っ当に改心してたんですかね?
フィディオとルシェのお陰で、過去の呪縛から逃れられたのは確かなんだろうけど、刑務所勤めが終わったらフィフスセクター関係でめんどくさい事件起こしてそうだしなー……。ぶっちゃけ、改心しようがしてまいが、所詮は影山だしなぁ……っていう感想しか浮かばない気が……。


侵食と我欲と決戦と

雷冥「影山……零治……!」

 

影山「ご機嫌よう、稲魂雷冥。かつての我が宿敵……稲魂雷牙の血を受け継ぐ者よ」

 

 遂にその素顔を晒した“GF”ーーー否、イナズマイレブン永遠にして最大の宿敵・影山零治。

 時代を超え、時空超え結び付いた恐るべき因縁を前に、重苦しい静寂に支配された“玉座の間”には突き刺すような極限の緊張が走っていた。

 

雷冥「何故だ……!フィディオ・アルデナとの出会いを経て、貴様はもう、サッカーへの怨みは消えたのではなかったのか……!?」

 

影山「何を勘違いしている?『私はサッカーを心の底から愛している』……それは今も昔も変わっていない。だからこそ、私はサッカーの世界の“絶対”に押し上げようとしているのだから」

 

雷冥「……“愛情”と“憎悪”は表裏一体……という訳か……!」

 

影山「その通りだ。あの日のガルシルドによる謀殺……私は奇跡的に生き延びた。尤も……無傷とはいかなかったがね」

 

 80年前のFFIーーー日本代表『イナズマジャパン』対イタリア代表『オルフェウス』の激闘。

 オルフェウスの主将、フィディオ・アルデナが影山の父・影山東吾の最盛期のプレーをピッチ上で再現したことで、影山は長き呪縛から解き放たれ、己の内に眠る真のサッカー愛に目覚めた。

 そして持てる全ての力を注ぎイナズマジャパンと死力を尽くし、清々しい引き分けという結末を迎えた……筈だった。

 

 改心した影山は、過去の罪を清算すべく、鬼瓦刑事率いる国際警察へと連行される道中ーーー数十年間に渡り影山を傀儡として利用してきた真の黒幕、ガルシルド・ベイハンは、己の悪行が露見する事を恐れ、護送車事故に見せかけて影山の口封じを図ったのだ。

 

 ……だが、殺害工作は不完全に終わった。

 影山は現代医療では修復不可能な凄絶な重傷を負う事となってしまったが、生き延びたのだ。

 それこそがーーー1人の人間『影山零治』が死に絶え、狂気の神『GF(グランドファーザー)』が産声を上げた絶望の原点でもあった。

 

影山「絶え間ない激痛が幾度となく全身を苛む中、薄れゆく意識の底で……私の脳裏にただ一つ浮かび上がったのは、『もう一度サッカーがしたい』というあまりにも、純粋で無垢な願いだった……」

 

ーー皮肉という他投げかける言葉がない。

 もしもあの時、ガルシルドの臆病なまでに過剰な介入さえなければ、影山は過去の罪を受け入れ、そのまま真っ当な贖罪の道を歩んでいたはずだった。

 だが、不完全に生き延びてしまったことで芽生えた『サッカーへの純粋な愛の自覚』ーーーそれこそが、彼を二度と抜け出せぬ狂気の沼へと引きずり込んだ絶望の引き金だったのだ。

 

影山「滑稽だとは思わんかね? あれほどサッカーを憎み抜いていたこの私が、今際の際に渇望した事こそが……サッカーそのものであったのだからッ! ……同時に私は理解した。サッカーこそ私から“全て”を奪い去った元凶であり……今日(こんにち)まで私を生かし続けた“希望”であったのだ、と……!」

 

 雷冥は悟る。

 影山の言う通り、彼の本質はかつてと何一つとして変わっていない。……ただ、絶望の果てに決定的に歪んでしまっただけなのだ。

 

 サッカーへの“愛”が。サッカーへの“渇望”が。サッカーへの“狂おしい想い”が。

 『影山零治』という人間の魂の根底に存在していた純粋な衝動が、幾重にも捻れ曲がった終着点ーーーそれこそが、『世界の概念を書き換え、サッカーの“神”として君臨する』という常軌を逸した野望なのだ、と。

 

雷冥「そんな誇大妄想同然の野望を抱いてタダで済むと思っているのか……!?既に時空管理局は、貴様が並行世界に介入した重大な時空犯罪者と認定している筈だ……!!組織は全ての技術を集結させて、必ずや貴様を討つぞ……!!!」

 

影山「たかが一組織の都合など、私には一切関係無い。間もなく……私の故郷も、時空管理局も……全時空が私という“神”の支配下に置かれるのだからな」

 

雷冥「グッ……!?ガァァァァァァァァーーーーッッッ!!!!????」

 

 刹那ーーー『時空の歪み』の深淵より、雷冥を繋ぐ鎖を伝って禍々しい薄紅色の稲妻が全身を駆け抜けた。

 並大抵の拷問など意にも介さぬ訓練を積んできた雷冥の強靭な精神と肉体を以てしても、到底耐え切れぬ激痛がその身体を容赦なく引き裂いていく。

 

バード「マスターーーーッ!!!」

 

 苦痛に悶え狂う雷冥を救おうと、仲間たちは必死に駆け寄ろうとする。しかしーーー影山が放つ圧倒的なサイコパワーに阻まれ、指一本動かす事すら叶わない。

 このままでは雷冥は“マインドイーター”を現世へ降臨させる生贄として利用し尽くされ、その魂ごと存在を消滅させられてしまうだろう。

 

雷冥「ガッ……!誇り高き“稲魂”の名に賭けて……!!悪に屈して……なる……ものかァァァァァッッ!!!!!」

 

 救援すら望めぬ絶対絶命の状況下。雷冥は必死に歯を食いしばり、消えゆく自我を繋ぎ止めようと抗い続ける。

 だが、肉体のみならず魂の深層そのものが、まったく異質の存在へと強制上書き(リローデッド)されていくような、恐ろしい感覚が、容赦なく雷冥を呑み込んでいく。

 

影山「フハハハッ!!!いくら耐えようが無駄だッ!!!感じるぞ……!貴様の精神が侵食される度に、“其”から絶大なパワーが私に齎されていく感覚をッ!!」

 

雷冥「グゥ……ッ!!!ヌオォォォォォ!!!!!」

 

 だが……如何に“器”として優れていようと、所詮は人間の範疇を出ないはずの雷冥がここまで耐え抜くとは、影山にとっても完全な計算外であった。

 その驚異的な精神の強靭さに、影山は一瞬だけ不快そうに口元を歪めると、やがて冷ややかな蔑みの笑みを深めた。

 

影山「ほう、予想以上に粘るものだ。“マインドイーター”の絶大なる侵食に抗い続けるその精神力……。それは幼き日に死んだ母親の影響か?」

 

雷冥「ーーーッ!!! 黙れ……ッ!!!貴様如きに……!私の何が解る……!?」

 

影山「知っているとも。私はこの日の為に、あらゆる時空から優秀なサッカー選手(プレイヤー)のデータを集めていた。無論……その中には貴様の過去(データ)もある」

 

 すると影山は、胸甲の腕部に備えられた電子パネルを冷淡に操作した。空間に青白いホログラムの資料が展開されると、その内容を雷冥の魂ごと嘲笑うかのように読み上げ始める。

 

影山「“稲魂獣牙”ーーー“雷撃の怪物(サッカーモンスター)”・稲魂雷牙の孫娘であり、一族特有の優れた身体能力から将来を期待されていたが……サッカーの道を自ら放棄し、世界各国を放浪した末に、警察官の道を選んだ落第者……」

 

雷冥「ママ上が……落第者だと……?取り消せ……!その言葉だけは取り消せェ!!!影山ァァァァァ!!!!!」

 

 自身の“誇り”そのものである母を汚された怒りから、雷冥の全身から凄絶な蒼き炎が噴出し、拘束の鎖を揺らしながら影山へ猛然と接近しようとする。

 

 だが……。

 

影山「そう焦るな。話はまだ終わっていない」

 

 影山は毛ほども意に介する事なく、雷冥が最も触れられたくないであろう“過去(トラウマ)”の記録を淡々と読み進める。

 

影山「おお……これだな。元ヒビキ提督一派の過激派が引き起こした大事件……後に“8・22事件”と呼ばれる未曾有のテロ……」

 

雷冥「!!!!」

 

影山「これは実に興味深い。偶然にも幼い息子(貴様)と共に事件現場に居合わせた稲魂獣牙は、市民の救助へ向かった際に建物の崩壊に巻き込まれ殉職ーーか」

 

 影山は激しく動揺する“生贄”を見下ろし、最上級の悪意を込めて鼻で笑う。

 

影山「祖父と同じく実に愚かな女性だったようだな、貴様の母親は。少なくとも……警察官の使命とやらを放棄して、貴様を連れて真っ先に逃げ出していれば、今も生きていられたろうに。稲魂雷冥、貴様もそうは思わんかね?」

 

雷冥「黙れッッッ!!!!!それ以上……それ以上、ママ上を侮辱する事は……!息子である私が絶対に許さんぞォォォォォッッ!!!!!」

 

 最愛の母への侮辱に激高する雷冥。しかしーーー冷静さを失い、感情を剥き出しにした時点で、彼は既に影山の術中に落ちていた。

 計画の成就を9割9分確信した影山は、決定的となったその揺らぎを見逃さず、息の根を止める“最後の一押し”として更なる絶望の言葉を紡ぎ出す。

 

影山「何故そこまで憤る?稲魂雷冥よ。少なくとも……私が知る稲魂雷牙、そして忌々しい“あやつ”ならば……一言一句同じ台詞を吐いていただろう」

 

雷冥「何だと……!?そんな筈が……あるかァァァァァッ!!!」

 

影山「まさか……貴様の一族は常に“正しい精神”を以て“正義”を実行していたと、本気で信じているのかね?」

 

 影山零治にとって、稲魂ーーー厳密にはあの“怪物”の血を受け継ぐ者達とは、浅からぬ凄惨な因縁によって結ばれていた。

 故に、彼は知っていたのだ。“怪物”の血がこの現世に引き起こした、栄光の裏側にある、惨痛な“罪”の歴史を。

 

影山「タイムエージェントである貴様が知らん筈がなかろうッッッ!!!貴様の一族が生み出した……最低最悪の“汚点(マッドサイエンティスト)”ーーー明星帝牙(あけぼしていが)の名をッッッ!!!!!」

 

雷冥「グッ……!グオォォォォォッ!!!???」

 

 ここにきて、最悪の一手を完璧なタイミングで繰り出された雷冥は、遂に抵抗の歩みを止めてしまう。

 

 『明星帝牙』ーーーそれは、かつて歴史の暗部に存在した狂気の科学者・“雷帝”の本名であり……稲魂雷牙の実父の名。

 あらゆる天才を容易く置き去りにする卓越した異能の頭脳ーーーその全てを、最強の“怪物(サッカーモンスター)”を生み出すという狂気の一点のみに捧げた男でもある。

 彼が行った人道を踏み躙る非道な人体実験によって、命を散らしていった者は数知れないーーーまさに、稲魂一族が抱える禁忌(タブー)の中の禁忌(タブー)であった。

 

影山「何が“稲魂の正義”だ?何が“誇り高き一族”だ?時代が幾度移り変わろうとも、過去に刻まれた血の“罪”が潰えることなどないッ!!貴様らが誇らしく掲げる正義など……所詮は、あの男が遺した“罪”の尻拭いに過ぎんのだよッッッ!!!」

 

雷冥「稲魂の一族は……罪人の、一族……」

 

 これまで決して直視できずにいた血脈の“闇”ーーーその最悪の傷口を抉られた雷冥は、己の魂を支え続けていた絶対の支柱を失い、力なく膝から崩れ落ちていく。

 

ーーー失われていく自我。

 

 これまでギリギリの抗いで保たれていたサファイアの如き青き瞳は、意志の光を失い……“破壊の神(マインドイーター)”の傀儡たる証ーー禍々しい薄紅色へと染まっていく……。

 

バード「マス、ター……!」

 

キャット「諦めちゃ……ダメ……!」

 

 消えかけていく主人の意思の光を前に、眷属(ペット)達は必死に雷冥を救おうと声を上げる。……だが、どんなに頭を働かせようとも、絶望を打ち破る決定的な言葉を紡ぎ出す事ができない。

 

 彼らのデータベースにもまた、“雷帝”の凄惨な記録が明確に刻み込まれているからだ。

 いくら主人を慰めようと、自身に記録された「歴史の真実」を知るアンドロイドに、稲魂の一族が背負う罪そのものを否定する事など不可能なのだからーーー。

 

 ……そう、彼(・)ら(・)に(・)は(・)。

 

イダテン「なに、諦めかけてんだよ……!ライ、メイ……っ!!」

 

 たしかに、過去の真実(データ)を知る兄妹には、主人の心を絶望からすくい上げることなど不可能なのかもしれない。

 ……だが、この場に居るのは眷属達だけではない。

 

 誰よりも真っ直ぐな瞳で、“稲魂の一族”という血脈としてではなくーー“稲魂雷冥”という一人の男の背中を、ずっと追い続けてきた最高の仲間がここに居るのだから。

 

雷冥「イダ、テン……?」

 

イダテン「なにが“罪人の一族”だよ……っ!ライメイが罪人なら……生きるために物を盗んだり、金持ちからお金をスったりしてきたおれは……超が突くほどの極悪人だろ……っ!!!」

 

影山「……少しサイコパワーの出力をシンフォニー達に向け過ぎていたか。余計なネズミが紛れ込んだようだな」

 

 影山はイナズマイレブンとの激闘を経て誰よりも理解しているーーー諦めぬ強い執念こそが、時として0.01%にも満たぬ奇跡を手繰り寄せてしまう事を。

 故に、ほんの僅かな逆転の兆しすら摘み取るべく、影山は再びサイコパワーをイダテンへと指向し、その口を強制的に塞ごうとする。

 

 ……筈(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

イダテン「黙って……!やるもん……かぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

影山「何だとッ!?」

 

 驚愕すべき事に、イダテンは全身を押し潰されるような超能力による圧力に晒されながらも、血を吐くような凄まじい執念で抵抗し、言葉を紡ぎ続けたのだ。

 

 最強たる【サンダーゲート】ですらも身動き一つ取れなかった拘束を、取るに足らぬ一匹の小ネズミが自力で押し返しているーーーこの異常事態には、神を気取る影山ですらも驚愕を隠しきれない。

 

イダテン「ライメイっ!!!おれが知ってる『イナタマ・ライメイ』は……!罪人なんかじゃないっ!!!きみは……出会った時からずっと前を向いて……っ!ずっと“目標”に向かって羽ばたいてた……っ!!!そんな、おれにとってのきみは……っ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高で最強の“ヒーロー”なんだぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!!!!」

 

雷冥「私が……ヒーロー……?」

 

 イダテンの叫びが鼓膜を揺らした直後ーーー雷冥の視界は、光一筋さえ届かない虚無の暗闇へと塗り潰された。

 『遂に……“マインドイーター”に自我を乗っ取られたのか?』ーーー最悪の嫌悪と焦燥の思考が脳裏を過る。……だが、こうして“思考する己”が依然として存在する以上、完全な屈服でない事だけは確かだった。

 

 だとするならば、一体何が起きているというのか。

 まるで無重力のような闇の中で混乱が渦巻く……その時だったーーー。

 

???『問おう。何故、貴方は歴史の守護者(タイムエージェント)として戦ってきたのですか?』

 

 あまりにも聞き覚えのある……否、己の魂の根底に刻まれた声が、無音の暗闇に響き渡る。

 吸い寄せられるように視線を前方に向けた雷冥は、思わず息を呑んでしまう。何せ、そこに立っていたのはーーー。

 

ーー私……なのか……?

 

 自分と寸分違わぬ姿をした、“稲魂雷冥”その人であった。

 

雷冥?『もう一度問いましょう。何故、貴方は今まで“歴史の守護者(タイムエージェント)”として戦ってきたのですか?』

 

ーー何の為に戦ってきたか、だと?そんな事は決まっている。歴史を脅かす悪人共を裁き、自らの正義を実行する為だ。

 

雷冥?『……違いますね。それは貴方の本心ではない。単に正義を実行するだけならば、タイムエージェントでなくとも、他に方法など幾らでもあったでしょうに』

 

ーー……ならば、偉大なる先人達の為だ。私は常に、歴史に名を刻んだ英雄達を心の底から尊敬(リスペクト)している。そんな私が、歴史の守護者たるタイムエージェントを志すのは当然の摂理だろう?

 

雷冥?『……ならば、貴方が最初に尊敬の念を抱いた偉人は誰なのでしょう?』

 

ーーそんな事、端から決まっている。その命を犠牲にしてでも大勢の市民の命を救った、我がマーーー

 

 そこまで言いかけた瞬間、雷冥はハッと息を呑み、言葉を詰まらせた。

気づいてしまったのだ。

 建前や理屈の奥底に眠っていた、己の魂の……真の“原点(オリジン)”に。

 

雷冥?『ようやく自身の本当の“原点(オリジン)を思い出せたようですね。……では、最後に問いましょう。何故、貴方は“歴史の守護者(タイムエージェント)”として戦ってきたのですか?』

 

ーー……そうだ……。私はただ、証(・)明(・)し(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)。もう私は……“あの日”のように『弱い私』ではない、と……!

 

 最愛の母・獣牙が命を散らした“あの日”から——雷冥の心には、永久に埋まることのない“虚空”が刻み込まれていた。

 内に穿たれたその洞穴を埋め立てるかのように、幼き日の雷冥は狂気的な鍛錬に没頭した。武術、学問、ありとあらゆる競技……常人の精神が摩耗するほどの過酷なオーバーワークを重ね、彼は全分野で高い功績を刻んだ。

 

 だがーーーどれほど他者から賞賛され、天才と崇められようとも、彼の心の虚空が満たされることなど一度たりともなかった。

 ……そう、あの運命の“あの日”を迎えるまではーーー。

 

雷冥?『二年目のFFを終えた直後……貴方は、何気なくママ上の遺品を整理している最中に、“アレ”を見つけてしまいました……。そう、貴方の父親……“稲魂天冥”のエージェント証を……』

 

 後から判明したことだが、当時雷冥が目にしたのは、父が“NoS(ナンバーズ)”に昇進する前に所持していた古いライセンスであった。

 母が何故、どのような想いを込めてその遺品を遺していたのかーーーその真意までは分からない。

 

 だがーーーその瞬間、当時の雷冥の全身を激しい衝撃が貫いた。

 父が背負い、母が大切に護り抜いた『時空管理局』という場所こそが……己の心に穿たれた“虚空”を埋めてくれる唯一の居場所であると、不思議な確信が脳裏を駆け巡ったのだ。

 

 そこからの行動は、まさに疾風の勢いであった。

 即座に雷門イレブンのキャプテンを退いた雷冥は、稲魂一族のあらゆる手づるを駆使して『時空管理局』の情報を収集ーーー。

 僅か半年後には、現代と管理局を繋ぐ秘密のパイプラインを持つ重要人物の元へと辿り着き、選考倍率一万人に一人とも囁かれる狭き門を、見事突破してみせた。

 

 雷冥の確信に狂いはなく、タイムエージェントとして破竹の活躍を重ねるにつれ、胸に穿たれていた“虚空”はこれまでの苦悩が嘘のように満たされていった。

 ……だが、皮肉にもその“虚空”が埋まるのと引き換えに、雷冥は己の真の“原点(オリジン)”を見失っていき、いつしか飾られた大義名分と盲目的な一族信仰という幻想に縋り付きながら戦い続けていたのだ。

 

雷冥?『……もうお分かりでしょう?貴方が長年、純粋に信じていた“稲魂の一族”は決して善人の集まりなどではない……』

 

 もちろん、ただの悪人の集まりという訳でもない。彼らにも彼らなりの“正義”という物は存在する。

 だが、己の肉体を流れる“稲魂の一族”の血脈に刻まれた『本質』ーーーそれは、世の言う「善人」などとは程遠い場所にあるものだった。

 

ーー……結局、我ら一族は何処まで行っても、“我儘者(エゴイスト)”でしかないのだな……。

 

 “稲魂の一族”の根底に蠢く真の『本質』ーーーそれは常に自らの欲動と信念のみに従い切る、どこまでも傲岸不遜な“我儘者(エゴイスト)”であるという事。

 

 確かに、長年信じ込んできた幻想に裏切られた衝撃は小さくない。……だが、己の内に眠る凄絶な『本質』を自覚した今の雷冥にとって、その冷酷な真実はむしろ、この上なく心地よく胸に馴染んでいた。

 

雷冥?『……もう時間のようですね。恐らく、貴方に与えられた起死回生のチャンスはたった一度っきりでしょう……』

 

 もう一人の自分は満足そうに頷き、静かに手を差し伸ばす。雷冥は迷うことなく、その手を力強く握り返した。すると……。

 

雷冥?『もう一人の私よ……。今や全時空の希望は貴方……いや、貴方達に託されたと言っても過言ではありません。目の前の窮地を脱せたとしても、依然として“GF”は手強い相手となるでしょう……』

 

 雷冥がその手を掴んだ瞬間、もう一人の自分の肉体は眩い純白の光の粒子へと崩壊し、雷冥自身の魂の輪郭へと吸い込まれるように溶け合っていく。

 

雷冥『……ですが、大丈夫です。本当の『自分』を取り戻した貴方なら絶対に勝てると……!』

 

 その肉体が完全に光の彼方へ消滅する直前ーーーもう一人の自分の面影が、最も古い記憶に刻まれた、あの愛おしい亡き母の笑顔と一瞬だけ重なった。

 

???『期待してる!』

 

 次の瞬間、精神世界の一切が眩惑の光に包み込まれた。ーーーそして雷冥は、底なしの暗闇を力強く突き破り、現世へと帰還する……!

 

……………

…………

………

……

…

雷冥「ウオォォォォォォッッッ!!!!!!」

 

影山「な、何……ッ!!??」

 

 天を穿つ“魔王”の凄絶な咆哮ーーー。

 あまりの事態に、“神”の玉座を前にした勝者として君臨していた影山すら目を見開き、愕然と息を呑む。

 それも無理はない。先程まで完膚なきまで精神を打ち砕かれ、傀儡へと堕ちかけていた“魔王”が驚異的な威圧感(プレッシャー)を纏って立ち上がったのだから。

 

雷冥「そうだ……ッ!貴様の言う通り……稲魂の一族の『本質』は“正義”などではない……ッ!!!」

 

影山「馬鹿な……ッ!?“マインドイーター”の憑依を……!自らの意志で振り払い掛けているだと……ッ!!??」

 

雷冥「明星帝牙を誰よりも近くで見てきた貴様が知らん筈がなかろう……ッ!!!稲魂の一族の本質はァ……!果てなき“夢”を追い求める、究極の“ 我欲(エゴ)”にありィ!!!“正義”と“悪”の区別など、初めから存在せんわァァァァァーーーーッッッ!!!!!!」

 

 “魔王”が放出した“熱気”により空間そのものが歪む。

 それに呼応するかのように……傀儡たる薄紅色へと染まっていた雷冥の瞳が、己の意志(エゴ)を取り戻し、一族の象徴たる“蒼き瞳”へと鮮烈に上書き(リローデッド)されていく……!

 

シンフォニー「今だ……ッ!ミ(・)ス(・)テ(・)ィ(・)ー(・)プ(・)ゥゥゥゥーーーッ!!!!」

 

ミスティープ「ハァァァーーーッ!!!!!」

 

 刹那ーーー豪快な衝撃音とともに玉座の間の扉が蹴破られ、姿を現したのは、【サンダーゲート】の副隊長にして“魔王”の隠れ蓑となっていた筈の少年・ミスティープ……。

 

 その両手には、どこから調達してきたのかも不明な極太の黒筒(ロケットランチャー)が抱えられており、現れるなり一切の躊躇なく空の歪みへ向けて引き金を引く。

 

ズガァァァァァンッ!!!!!

 

 つんざくような轟音が鳴り響く。本来ならば、人類の兵器では擦り傷一つ負わせる事のできない“マインドイーター”の超肉体……しかし、ミスティープの目的は“破壊の神”の討伐などではなかった。

 

雷冥「カアァァァァァァァァーーーーッッッ!!!!!!」

 

 これこそがミスティープ、そして革命軍たちの狙いーーー。

 如何に無敵の上位存在であろうとも、完璧な不意を突かれた直撃弾には怯み、ほんの一瞬だけ力を緩めざるを得ない。

 

 その僅かに生じた隙を、“魔王”が見逃す筈もなかった。

 雷冥は全身の気を限界突破の極限まで一気に解放ーーー己を縛りつけていた忌々しい薄紅の鎖を、内側からの圧力で粉砕してみせた……!

 

影山「ミスティープ……ッ!貴様ァァァァァ!!!!!」

 

雷冥「余所見をしとる場合かァ!?まだ、私の反撃は終(・)わ(・)っ(・)と(・)ら(・)ん(・)ぞ(・)ォッ!!!!!」

 

 雷冥は間髪容れず、右手で床を砕かんばかりに叩き付けた。

 その拳を起点として、暗紅色の衝撃波が全方位へと爆風のように放出されると、次の瞬間、革命軍達の自由を奪い続けていた影山のサイコパワーが一瞬にして掻き消され、解放された仲間達が次々と立ち上がった。

 

バード「影山の拘束が解けた……!」

 

ジャック「しゃあッ!!!ようやく自由になれたぜェ!!!!!」

 

影山「まさか……ッ!?体内に残っていた“マインドイーター”の力の残穢を逆に利用し、私のサイコパワーを掻き消したというのか……ッ!!?」

 

 サイコパワーを掻き消した原理(ロジック)はまさにその通り。

 尤も……理論上は可能だとしても、一歩間違えれば精神が崩壊しかねない命がけの大博打であったが、今の雷冥には躊躇など一切ない。

 

バード「マスターッ!!!今こそ絶好のチャンスですッ!!“例のアレ”をッッッ!!!」

 

雷冥「言われずとも解っておるわッ!!!“オーダーツイカー”起動ッッッ!!!!!」

 

 この千載一遇の好機を、覚醒した“魔王”が見逃す筈もなかった。

 雷冥は、自身に残された最後の切り札であり、最後の一個(ストック)の“オーダーツイカー”を、硬い決意と共に床へと叩き付け起動させる。

 

 直後、崩壊寸前であった“玉座の間”の空間構造が激しく歪み、凄絶な光と共に再構築されていく。

 無機質な玉座は消し飛び、眼前には青々と広がるサッカーコートの領域が瞬く間に展開された。

 

影山「小癪な真似を……ッ!」

 

 そして何よりも……高みから冷徹に盤面を操り、常に第三者として見下し続けていた影山零治ーーー。

 その絶対神気取りの“人間”を初めて『対等な目線』のピッチ上へと強制的に引きずり降ろしたのだった。

 

影山「……如何にも、私の意表を突いてやったり……といった感じだが、残念だったな。私の計画に支障は無い」

 

 影山は口元に昏い狂気の笑みを浮かべると、その全身から“マインドイーター”と同質の、禍々しい薄紅のオーラを爆発的に溢れさせる。

 その異形のエネルギーは即座に十一個の影の塊へと分裂し、ピッチ上へと解き放たれた。

 

イダテン「待って……!あれって、ライメイと同じ……っ!!」

 

 十一個の禍々しい影は、蠢きながら徐々に形を変え、やがて異質な圧力を纏った二足歩行の虚像へと実体化していく。

 

雷冥「デュプリか……!」

 

影山「貴様の凡庸な技術と一緒にするな。不完全とはいえ“マインドイーター”の力を受け継いだ私が創造した傀儡達はただのデュプリではない……!」

 

 一部とはいえ“マインドイーター”と同質の異能を得た影山は、SSCすらも超越する規格外の力を持つデュプリ生成を可能としていたのだ。

 ……そして、その半数以上を占めるのはーーかつて影山零治という男の執念と野望に狂わされ、時には彼と死闘を繰り広げた“伝説のサッカー選手(プレイヤー)”達の姿であった。

 

影山「掛かってくるがいいッ!!!稲魂雷冥よッ!!!貴様を完膚なきまでに叩き潰し……!今度こそ、完全なる“マインドイーター”の力を手に入れるッッッ!!!!!」

 

雷冥「行(ゆ)くぞッ!!狂乱の神に抗いし、叛逆の使徒達よッ!!!我らが全ての世界を守護(まも)るのだッ!!!」

 

 “魔王”の号令とともに、一斉に蒼きユニフォームを身に纏う仲間達ーーー。それは、“天使”の気高き高潔さと“魔王”の圧倒的な覇気が融合した、世界最強の革命軍にして、最後の希望……。

 

 全時空の運命と未来を賭けた、正真正銘ーー最後の聖戦が、今ここに幕を開ける……!




次回から、影山が率いるラスボスチーム・【エンペラーシャドウズ】との最終決戦が始まります。
ラスボスチームの詳細設定などは、少し時間を空けてから次話に投稿する為、少々お待ちください。
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