イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

233 / 243
【天魔革命軍】の名前の由来は、どこぞの未来人のせいで本編での活躍が全カットされた不遇の裏ボスチーム・ダークエンジェルの『天魔のユニフォーム』(うろ覚え)からきてたり。
……当時、ストライカーズをプレイしてた作者が『てんま』という語感だけで、新生雷門のユニフォームを期待して交換した結果、変な羽が付いたユニフォームを手に入れた際の絶望は今でも許さんぞ。


決戦と聖戦と命運と PARTⅠ

グリム『さァさァ!みなさん、お立ち合いッ!!!コレより始まるのは、サッカーを以て全時空を支配せんと企む、悪の組織の首領ッ!“GF”改め影山零治が率いる【エンペラーシャドウズ】とォ……!』

 

影山「我が軍(チーム)にそのような陳腐な名など付けた覚えはないのだがな。……まあ、いいだろう」

 

グリム『ココまでくればもはやお約束ッ!言い換えれば王道中の王道ッ!!!『王魔雷帝』と『サンダーゲート』……主人公(ヒーロー)と悪役(ヴィラン)が互いに手を取り合った最強にして最凶の混成チーム・【天魔革命軍(てんまかくめいぐん)】との最終決戦だァァァーーッ!!!』

 

 全時空の命運を懸けた一戦でもなお、己の作風(ペース)を崩す事のないグリムによるハイテンションな実況が木霊する。

 

 キックオフ直前の5分間ーー両チームには作戦会議の時間が与えられている。

 尤も……影山零治を除く十名全てが自我を持たぬ文字通りの傀儡で占められた【エンペラーシャドウズ】にとって、そんなものは無用の長物でしかなかったが。

 

雷冥「よく聞け、皆の者。【エンペラーシャドウズ】を構成する選手の半数は、私の時代に後世まで名を遺した伝説のサッカー選手(プレイヤー)を模したデュプリが占めている」

 

バード「そして……影山零治と関係が深かった者たちでもあります……」

 

 鬼道、佐久間、不動、アフロディ、フィディオ……いずれも影山と浅からぬ因縁を持ち、彼によって人生を狂わされ、同時に彼の野望を覆してきた伝説の傑物達。

 

 特に……10番(エースナンバー)を背負う“鬼道有人”は、あの完璧主義者の影山をして『最高傑作』と賞賛せしめた、愛弟子の中の愛弟子であり、終生の宿敵でもあった男だ。

 

雷冥「恐らく、不完全とはいえ“マインドイーター”に与えられた力により、デュプリの精度は模造元(オリジナル)の全盛期と同等……いや、優に凌ぐ実力を得ている事だろう……。この言葉の重みが、貴様らには理解(わか)るか?」

 

 雷冥が放つ鉛のように重厚な覇気と緊迫感に、【天魔革命軍】のメンバー達は思わず息を呑んでしまう。

 あの傲岸不遜な“フィールドの魔王”・雷冥すら最大級の警戒を露わにしているのだ。この事実が、事情を知らぬ者達にも、これから挑む相手がどれほど絶望的な怪物どもかを瞬時に伝播させていた。

 

雷冥「残る半数は所詮、試合を成立させる為の数合わせ……と言いたいが、“強さ”に貪欲な影山(ヤツ)の事だ。差し詰め……私を攫う前に実験台として支配下に置いていた、超能力者(ミュータント)あたりを模した存在なのだろう」

 

シンフォニー「……そういえば、貴様が拉致される数ヶ月程前……正体不明の侵入者によって、居城が襲撃されるという事件があった……。もしかすると、それと関係しているのかもな……」

 

雷冥「……まァ、今はそんな事に触れている場合ではない」

 

 エージェントとしての直感が、その襲撃事件と影山の繰り出したデュプリが無関係ではないと告げてはいるが、それが判明したところで、目前に迫った決戦を突破する手助けになるかと問われれば、答えは『NO』だ。

 

 余計な思考を即座に削ぎ落とし、意識の全ベクトルを目の前の決戦へと向けると、雷冥は軍勢(チームメイト)を見渡し、最後の鼓舞を放つ。

 

雷冥「もう解っただろうッ!?ヤツらの戦力は圧倒的!そんな相手に生半可な小細工などは一切通用せんッ!!己の全身全霊(ゼンリョク)を以て……!全ての並行世界を守護(まも)るのだッ!!!」

 

『おおッ!!!』

 

 “魔王”が解き放った魂の鼓舞。それにより、出自も思想も、立場すらもバラバラであった革命軍の心は一つへと束ねられ、巨悪が鎮座する運命の戦場(ピッチ)へ足を踏み入れた。

 

 最終決戦の【天魔革命軍】のスタメンは以下の通り。

 

FW:キャット、ジャック、ソーショット

MF:イダテン、シンフォニー、バード

DF:カーグビー、バンバ、雷冥(キャプテン)、ミスティープ

GK:チャイード

 

 【天魔革命軍】を構成するのは、間違いなくこの世界における最高峰の強者達。

 だが、誰もが先程までの死闘による疲労を隠せず、とりわけ雷冥は“マインドイーター”の侵食に抗い抜いたことで精神も肉体も削り削られ、既に満身創痍であった。

 それでもなお、死に体に鞭を打って立ち上がるのは……己の使命(エゴ)、そしてタイムエージェントとして背負った不退転の覚悟があるからに他ならない。

 

 対する【エンペラーシャドウズ】の布陣は……

 

FW:Cアフロディ、Cフィディオ

MF:C鬼道、影山(キャプテン)、C不動


DF:C佐久間、Cハッシュ、Cスティン、Cベノム、Cハザード

GK:Cジャンク

 

 【エンペラーシャドウズ】が敷いたのは、5-3-2の『F(フォーメーション)-デスゾーン』と呼ばれる陣形。

 一見すれば強固な守備的陣形に見えるが、その真価は司令塔の戦術眼と支配力を極限まで増幅させる点にある。同時にかつて帝国イレブンを率いていた頃の影山零治が、最も好んで使用した布陣だ。

 それは……かつて雷門イレブンのキャプテンとしてピッチに立っていた雷冥に対する、影山からの“意趣返し”そのものでもあるのだろう。

 

雷冥「・・・時は来たッ!試合開始の宣言をせよッ!!グリムゥ!!!」

 

グリム「サーイエッサー!!!試合(デュエル)開始ィィィ!!!」

 

ピィィィィ!!!

 

 その瞬間、実況兼審判を務めるグリムの吹き鳴らした甲高いホイッスルが空間に響き渡る。

 遂に全時空の命運を賭けた、正真正銘の最終決戦(ラストバトル)が幕を開けたのだ。

 

 試合前のコイントスにより、先攻権を得たのは【天魔革命軍】。

 ボールをキープした切り込み隊長・ジャックは、凶暴な殺気を漲らせた荒々しいドリブルで、一直線に敵陣へと攻め上がる。

 

ジャック「オラオラオラァ!!!切り刻まれてェヤツは掛かってきなァ!!!全員、纏めて微塵切りにしてやっからよォ!!!!!」

 

 ジャックの繰り出すドリブルは、まさに研ぎ澄まされた“刃”そのもの。立ち塞がる障害の全てを触れた先から返り討ちにせんとする、圧倒的な威圧感がピッチを切り裂く

 

 しかしーー。

 

ジャック「な……ッ!!?」

 

影山「………」

 

グリム『おおっとォ!?一体、どうしたんだ【エンペラーシャドウ】ォ!?動(・)か(・)な(・)い(・)ッ!ジャック選手の攻撃を前にしても……ほんの1ミリたりとも動(・)か(・)な(・)い(・)ぞ(・)ォォォ!!?』

 

【エンペラーシャドウズ】は動かない。

 敢えて完全な静観に徹する事で、殺意に満ちた刀剣を振り回す叛逆者を深く、深く自陣の領域へと招き入れていた。

 

シンフォニー「待て、止まれジャックッ! “GF”は私の師だ! あの男が、何の罠(トラップ)も仕掛けずに無防備に招き入れる筈がないッ!!!」

 

雷冥「いや……! このまま突き進めッ!! 今の我らに、後退している猶予などないッ!! 攻めて、攻めて、攻め抜くのだッ!!!!!」

 

 影山が仕掛けた不穏すぎる静寂(タクティクス)の前に、【天魔革命軍】が誇る二人の司令塔の意見は見事なまでに二分してしまう。

 

影山「フン……。やはりな」

 

 この一連の動揺で確固たる敵の“弱(・)点(・)”を確信した影山は、口元の邪悪な笑みを更に深めると、そのままジャックを深く、また深くゴールへと誘い込んでいく。

 

ジャック「ああもうッ!!しゃら臭ェ!!!オレ様は昔から“考える”って行為が大っ嫌ェなんだッ!!!ここは、ライメイの言う通り“猪突猛進”を選んでやんぜェェェ!!!」

 

 シンフォニーの制止を振り切り、雷冥の命じた“強行突破”を選んだジャックは、俄然勢いを増し敵陣を爆進。

 だが、なおも【エンペラーシャドウズ】は一向に動く気配を見せず、ジャックはあっさりとペナルティエリア内へと侵入してしまった。

 

 ひたすら“沈黙”を守り続ける異様な敵軍に対し、暴走するジャックの背筋にも冷や汗が伝う。

 しかし、ここまで足を踏み入れてしまった以上、彼に“引き返す”という選択肢など端から存在しなかった。

 

ジャック「ハァァァ……!!!“剣聖 ランスロット”ォ!!!」

 

 己に渦巻く迷いを断ち切るように己の内に眠る最強の化身を召喚。

 咆哮と共に立ち昇る化身の気迫(プレッシャー)をボールへと収束させ、渾身の一閃を叩き込む……!

 

ジャック「喰らいやがれッ!!!“ロストエンジェル”ゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 本体による渾身のシュートが放たれた瞬間、その背に顕現する“ランスロット”もまた、右手に掲げた白銀の大剣を前方へ一直線に突きたてると、ブレードは瞬く間に禍々しい漆黒へと染まり上がり、激しい轟音とともに空間を破砕しながら剣先が伸張していく。

 

 その威力は文字通り、驕り高ぶる“偽りの神”すらも一刺しで討ち果たしかねない絶大な物。

 まさに今のジャックが放つ事の出来る、至高にして最高の一撃だった。

 

ジャック「どうだ“GF”ッ!? オレの剣(ジャックナイフ)は、テメェらのチンケな盾すらも切り裂くぜッ!!!兄さんが受けた苦しみは……100倍の“屈辱”で返させて貰うぜェェェェェ!!!!!」

 

 魂を削り出すかのような慟哭ーー。

 “GF(影山)”の陰謀によって踏み躙られた兄の“夢”と“無念”を果たす為だけに、ジャックは今日までを生き抜いてきた。

 叩きつけられた“ロストエンジェル”は、ただのシュートではない。彼の人生そのものを賭した、血の滲むような復讐の刃だった。

 

 ……だが。

 

影山「……くだらん」

 

 放たれた漆黒の一閃がゴールへと突き刺さるその直前、前方にて静かに腕を組む影山の口元から、氷のように冷ややかな言葉が漏れ出る。

 

影山「貴様が何者で、私に何の恨みを抱いているかは分からんが、無知である野鼠(キサマ)に教えてやろう……!貴様が受けた数年間の“絶望”など、神(ワタシ)の前では取るに足らん代物だったとなァ……!!」

 

ジャック「ッ……!!??」

 

 影山の全身から解き放たれた禍々しい覇気が、ジャックの肉体を容赦なく射抜く。

 直後、静観を続けていたGK・ジャンクの全身から、不気味な薄紅のオーラが爆発的に溢れ出した。

 

 それは、化身が顕現する序章曲(プレリュード)。構成するオーラの色こそ歪んだ薄紅に染まっているものの、その輪郭は確実に異形を形作っていく。

 

雷冥「ーー!!! 何……だと……!?あの化身は……ッ!」

 

 膨れ上がる光の中で全貌が露わになるにつれ、誰よりも早くその正体を察知した雷冥の顔が驚愕に染まる。

 

 ゴール前を制圧するように顕れたのは、“鬼”の如き神相と黄金に眩く輝く屈強な肉体。そして、その周囲に狂い咲く膨大な“稲妻”ーーー

 

 その姿は見間違う筈もなくーーー

 

Cジャンク「“魔神 グレイト”ッ!!!」

 

 伝説のGKであり……影山零治最大の宿敵でもあった男、円堂守がその身に宿した最強の化身ーー“魔神 グレイト”そのものであった。

 

 間髪入れず、ジャンクが力強く右手を前方へ突き出す。

 背後に立ち昇る黄金の“魔神”もまた、傀儡の動きと同調して巨大な掌を突き出し、迫り来る“漆黒の刃”を正面から真向勝負で受け止めた。

 

Cジャンク「“グレイト・ザ・ハンド”ッッッ!!!!」

 

 “魔神”から放たれた圧倒的な圧殺の波動が、必殺の弾道を完全に打ち砕き、一閃を覆っていた漆黒のオーラは瞬く間に霧散し、一瞬の拮抗すら許されぬまま、ボールは虚しくGKの右手に収まっていた。

 

ジャック「んだと……ッ!?」

 

イダテン「ジャックの化身シュートが……あんなにあっさりと止められた……!?」

 

 キックオフの笛から、まだ5分も経過していない。

 にも関わらず、“奈落(アンダー)””最強の戦士と謳われるジャックの“全力”が、影山の眼前では何の手応えすら残せず打ち砕かれたーーー。

 その残酷すぎる現実は、革命軍に底知れぬ動揺と衝撃を与えるにはあまりに十分過ぎた。

 

シンフォニー「ライメイ……貴様は、今の化身の正体を知っているのか……!?」

 

雷冥「ああ……。私の時代の伝説のGK……円堂守が宿していた化身だ……!」

 

 雷冥は激しく歯を噛み締め、隠しきれぬ動揺を露わにする。

 ……だがそれ以上に、彼の思考を強く支配していたのは『解せない』という強烈な違和感であった。

 

影山「稲魂雷冥……貴様が言いたい事は分かるぞ?『何故、誰よりも円堂の血筋を恨んでいた筈の影山(私)が、円堂守の力を模倣している?』……そんなところだろう?」

 

雷冥「……そうだ」

 

 実際のところ、雷冥はデュプリが化身を行使した事、そして伝説のサッカー選手(プレイヤー)達の必殺技を繰り出してきた事自体にはさほど驚いてはいなかった。

 

 一部の超能力者(ミュータント)にのみ生成可能な“ハイデュプリ”が化身を扱う事例は既に確認されており、前回の居城襲撃時に過去の選手データが存在していた時点で、そこまでの事態は折り込み済みだったからだ。

 

 …… しかし。骨の髄まで染みついていた筈の『円堂大介』ーーひいては『円堂一族』への怨念すらもあっさりと投げ捨てている点だけは、雷冥の計算を大きく超えた想定外の異常事態であった。

 

影山「何をそう動揺する事がある?ひたすらに勝利を齎す“絶対の強者”を求める私だ、最強のGKを創るにあたって、最大の宿敵である円堂大介そして円堂守を参考にするのは、至極当然の事だと思うが?」

 

雷冥「……だとしても、やはり解せん。私はどれだけ貴様が円堂の血を継ぐ者達を敵視し、強い恨みを抱いてきたかをこの眼で見てきた……!」

 

 影山零治という悪魔が、円堂一族を呪い続ける起源ーー。

 それはかつて、円堂大介が敬愛する実父・影山東吾から日本代表キャプテンの座を奪い盗った事から始まった。

 

 決して円堂大介が卑劣な裏工作を企てた訳ではない。協会幹部らによる不当な排斥でもない。

 ただ……影山東吾という選手が、加齢による肉体の衰えという逃れられぬ人の理に屈したに過ぎなかっただけだ。

 誰一人として悪意など抱いていなかった悲劇のすれ違いーーそれこそが、サッカー界を恐怖に陥れた一人の“復讐鬼”を生み出してしまったのだ。

 

雷冥「だからこそ断言出来るッ!貴様の遺伝子の奥深くまで刻まれた円堂一族への恨みは……そう簡単に消える物ではない……ッ!!

 

 理不尽な怨恨にも等しい復讐心に囚われ、無実の命すら平気で奪い去ってきた冷酷な鬼が、そう簡単に過去の執念を捨て去れる筈がない。

 

 ……例えかつて、一人の少年がたゆまぬ努力の果てに、実父から受け継いだ呪縛を乗り越えて光の世界へ歩み出したとしても。

 

影山「……ククク……ハハハハッ!確かに貴様の言う通りだ。包み隠さず言おう……私は今この瞬間も円堂大介を恨んでいる」

 

 影山は肩を揺らし、ピッチ全体を震わせるような腹底からの高笑いを漏らす。

 

影山「……だが、長い旅路の末に至ったのだ。円堂大介が何より愛したサッカー……これを侵略の兵器として利用する事こそが、私の悲願の成熟……!そしてこの上ない、奴への復讐になるとなァ!!!!!」

 

 狂気に身を震わせ、歓喜に満ちた笑みを浮かべて言い放つその姿に、もはやかつて宿敵達と激烈な死闘を繰り広げた、あの誇り高き“影の帝王”の面影はない。

 今目の前に居るのはただ、肥大化した怨念に脳を焼き尽くされた哀れな狂人(ピエロ)であった。

 

雷冥「……もう理解した。『猫に小判』、『馬の耳に念仏』、『サッカー狂いの神に説法』……もはや、貴様には何を言っても通用せん。だからこそ……実力行使で貴様を止める」

 

 雷冥は冷徹な眼光を取り戻すと、底知れぬ圧を纏って影山を睨み付ける。

 

影山「フン。貴様は大いに勘違いしている。私に通用する言語など、初めからただ一つ……サッカーのみだッ!!!」

 

 完全に戦闘体勢へと切り替わった影山は、テレパシーで傀儡(デュプリ)達へ指令を下す。

 創造主からの指令を受けたGK・ジャンクは、強靭な腕力を爆発させてボールを敵陣深くまで一気に遠投。

 

 その弾道の先に待ち構えていたのは、影山零治の最高傑作ーー鬼道有人を模したデュプリ。

 【天魔革命軍】のプレスをことごとく置き去りにしてボールを収めた鬼道の複製体は、即座に並走するアフロディの複製体と合流。その瞬間、二人の背後から、空間を歪める程膨大なオーラが吹き荒れる……!

 

C鬼道「“人工化身 プラズマシャドウ”ッ!」

 

Cアフロディ「“絶対神 デウス・エクス・マキナ”!」

 

 嵐が収まると同時に、ピッチ上には、漆黒(0)と真紅(1)の暴虐なオーラを纏う異形の電脳生命体と、古代ギリシャの神殿を思わせる荘厳なる神体が同時に姿を現す。

 

グリム『今度はフィールドプレイヤーによる化身の発動だーーッ!!……しかし、アフロディ選手はまだしも、鬼道選手が化身を使えたなどという情報(データ)は私にはありませんッ!コレはもしや、影山選手のオリジナルかーーッ!!?』

 

シンフォニー「クッ……!イダテンッ!私と共に上がれッ!!化身は化身でしか対抗出来ん!私の“マエストロ”と貴様の“ペガサス”で、何としてでもボールを奪い取るのだッ!!!」

 

イダテン「わかったっ!!はぁぁぁ……!!!」

 

 シンフォニーの叫びに呼応し、イダテンが全身の細胞を沸騰させて限界のオーラを解放する。再度、ピッチの中央に猛烈な旋風が吹き荒れ、二体の気高き化身が降り立つーーー

 

イダテン「“魔神 ペガサス”!!!」

 

シンフォニー「“奏者 マエストロ”ッ!!」

 

 完璧に化身を解き放った二人は、即座に標的を補足。

 “魔神”は“絶対神”へ、“奏者”は“人工化身”へと照準を絞り、ボールを奪取すべく一気に肉薄する。

 

イダテン&シンフォニー「「うおぉぉぉぉぉっ!!!!!」」

 

 未だ連戦の疲労から本調子には遠いものの、化身を纏った両者のフィジカルは圧巻の一言。

 片や“楽園”最強の頭脳、片や“奈落”最速の韋駄天。互いに己が誇る“最強”を刃とし、運命を切り拓くべく踏み出すがーーー

 

C鬼道「フハハハッ!!!いくらクズが少しばかり優れた力を得たところで……所詮はクズでしかないのだァァァ!!!」

 

Cアフロディ「君は確かに“楽園(エデン)”の守護者には相応しい人間なのだろう。……だが、その地の主たる神(ボク)には敵わないッ!!!」

 

イダテン&シンフォニー「「ぐわぁぁぁぁぁっ!!??」」

 

 偽りの複製体が放つ圧烈な覇気に呑まれ、二人は完膚なきまでに叩きのめさ、激しい衝撃音と共に、“魔神”と“奏者”が霧のように消滅してしまう。

 

シンフォニー「なんだ、この出力は……!?一体一体の化身のパワーが……私の化身を遥かに凌駕している……ッ!」

 

 二度に渡り雷冥と刃を交え、デュプリの特性を概ね把握していたシンフォニーは、自身が体験した光景に強い違和感を拭えずにいた。

 

 本来、通常のデュプリであっても100%使いこなすには並外れた努力と才能を要する。

 11人ものデュプリをリアルタイムで統率する高度な情報処理能力、そして戦局を鳥瞰する優れた戦術眼。

 それらの技能を備えて初めて、訓練された強化人間に比肩する手駒が得られる……筈だった。

 

 ……しかし、影山が従えるデュプリは明らかに人間の限界を超越している。

 化身を行使する特殊個体“ハイデュプリ”の存在を知らぬシンフォニーであっても、その異常さは直感的に理解できる程に。

 

影山「フハハハッ!素晴らしい力だ……。これぞ“マインドイーター”の恩恵を受け、私が創造した“ハイデュプリ”をも超える究極のデュプリ……!その名も“C(カオス)デュプリ”ッ!!!」

 

 ハイデュプリをも超える“C(カオス)デュプリ”の規格外なスペックに満足した影山は、テレパシーで更なる加速を指示。

 傀儡達は、強化された脚力を爆発させ、影山もまた目にも留まらぬ速度でゴール前へと侵攻する。

 

C鬼道「不動ッ!」

 

C不動「フィディオォ!!!」

 

Cフィディオ「アフロディ!」

 

 次々と繰り出される【エンペラーシャドウズ】の超高速パスワーク。

 しかし、【天魔革命軍】の選手たちはカットに入るどころか、ボールの軌道に反応することすらできない。

 夜空を切り裂く流星の如きそのパスは、速度・精度・軌道の全てにおいて【サンダーゲート】の水準(レベル)を遥かに凌駕していた。

 

雷冥(マズい……!完全にDF達が圧倒されている……!!このまま先制点を許してしまえば、一気に試合の主導権が敵側に傾きかねん……!!!)

 

 正確には、雷冥一人だけは辛うじてパスのスピードを目で捉える事が出来ていた。

 ……だが、見切る事と、傷ついた肉体が追いつくかは全くの別問題だ。

 

 激戦の連続で疲弊しきった今の雷冥にとって、流星の如き超高速パスへ割って入る事など、到底不可能な話であった。

 

雷冥(……だが!一度だけ……たった一度だけ、私の読みが正しければ……付けいる隙がある……!)

 

 一手ごとに細心の注意を払わねば、容易く崩壊してしまう程の満身創痍。

 当然、今の雷冥にとって、これはあまりにリスクの高すぎる博打であった。失敗すれば、間違いなくチームを完全な破滅へと導く失策となる。……だが、この先の展開を左右する先制点を防ぎ止めるには、もはやこの一手に賭ける以外に道はない。

 

雷冥(敬愛する我が母より授かったこの肉体よ……。どうか、今一度……私の我儘(エゴ)に耐えてくれ……ッ!!!)

 

 覚悟を決めた雷冥はそっと両目を閉じ、一つの直感に思考を研ぎ澄ます。

 暗闇に閉ざされた視界の外で、幾度となく鼓膜を揺らすボールの打球音ーー。

 

C鬼道「……ーーーッ!」

 

 数秒の静寂の後ーー“時は来た”とばかりに雷冥は鋭く目を見開く。

 限界を迎えた両脚へ蒼き炎を激しく燃え上がらせ、逆境を打開する一手……その名を叫ぶ。

 

雷冥「“獅風迅雷……!限界突破(オーバーハンドレッド)”ォォォ!!!」

 

 ほんの一瞬ーー“限界突破”の発動範囲を両脚のみに集中させる事で、崩壊寸前の肉体への負荷を最小限に抑えつつ、瞬間移動を思わせる爆発的な加速を実現させた。

 

 蒼炎の弾丸と化して空間を穿つ雷冥。

 その決死の跳躍が辿り着いた終着点ーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷冥「それが貴様だァ!!!影山零治ィィィィィ!!!!」

 

 張り巡らされた思考の果てに掴み取った山勘。

 そこは……敵軍の大将(キャプテン)たる影山零治の、目と鼻の先であった。

 

 プライドの高い影山ならば、敵の心を完全に折り砕く最後の一撃は、必ず自らの脚で叩き込んでくるーーそう睨んだ雷冥の読みは見事に的中したのだ。

 

ーーーそう、的(・)中(・)は(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 雷冥にとってあまりにも不幸であったのは……決死の覚悟すらも、影山零治という男の描いた『台本』通りに過ぎなかったという事だろう。

 

影山「ありがとう、稲魂雷冥よ。私が描いた『脚本(ストーリー)』の登場人物(ピエロ)になってくれて」

 

雷冥「な……ッ!!??」

 

 極限の集中によって引き伸ばされた脳内時間の中で、影山の冷徹な嘲笑が残酷に耳を穿つ。

 

影山「ここまで愚かにも私の掌の上で踊ってくれた特別謝礼(スペシャルサンクス)だ。貴様を華々しく散らせてやろう……ッ!!」

 

ピィィィィィーーーッ!!!!!

 

 その瞬間、領域全体を突き刺すような甲高い口笛が鳴り響いた。

 圧縮された時間の牢獄に囚われていた雷冥の意識は、その一音によって強制的に現実へと引き戻されるーーー。

 

 影山の全身から立ち昇る、身の毛もよだつほどの禍々しい気配ーー。

 その異変を察知した雷冥は、間髪入れず鋭いスライディングを繰り出し、影山の足元からボールを掻き出そうとする。 

 

ーーまさに、その一瞬の出来事であった。

 

 影山零治の右脚へ……何処からともなく現れた“紅のペンギン”達が、鋭い牙を研ぎ澄ませ喰らい付く。

 

雷冥「その技は……ッ!!!」

 

 影山の真の狙いを悟った雷冥は、即座にスライディングの体制を崩し、体を丸めて衝撃に備える防御姿勢へと切り替える。……しかし、時既に遅し。

 

 これこそ、“復讐鬼”・影山零治が数多の守護神を完膚なきまでに打ち砕くべく生み出した究極のシュート。

 そして……彼の狂気が形を成した、禁断の原点ーー。

 

影山「“皇帝ペンギン……1号”ッッッ!!!!!」

 

 影山の右脚から射出された狂気のペンギン達の嘴が、蒼き“魔王”の全身に突き刺さる。

 

雷冥「グワァァァァァァァーーーッ!!!???」

 

チャイード「何だとッ!?クソ……ッ!“極 無頼ーーーヌオォォォォォ!!!?」

 

 雷冥という肉の盾による必死のブロックすら、狂気の牙の前には何の意味も為さない。

 威力を減衰させるどころかスピードすら殺さぬまま、真紅の群れはチャイードに技の完成すら許さず、雷冥の身体ごと強烈にゴールネットへ叩き付けた。

  

ピィー!!!

 

グリム『ゴ…!ゴーールッ!!!一進一退の攻防戦の末に先制点を獲得したのは……!【エンペラーシャドウズ】の影山零治だーーッ!!!マスターの決死のディフェンスすらも意に返さないこの実力……!強い……ッ!強すぎるゥゥゥゥ!!!!』

 

イダテン「ライメイでも“GF”には手も足も出ないなんて……!」

 

ジャック「クソッタレ……!この……バケモンが……ッ!!」

 

 雷冥の懸念通り、先制点を許した【天魔革命軍】の士気は目に見えて削がれていく。

 そして……ダメージの深さに自力で立ち上がる事すらできず地面に伏す雷冥へ向かい、影山は冷淡な視線を投げ下ろした。

 

影山「感じたか、稲魂雷冥よ?これこそが、“人”と“神”の間に悠然と聳え立つ、決して乗り越える事の出来ない“壁”だ」

 

雷冥「クッ……!」

 

 自らを“神”と称する、あまりに傲慢な言葉。

 ……しかし、今の雷冥には、その傲慢さを跳ね返すだけの言葉も余力も、何かもが残されていなかった。




世界線を跨いだクソ雑魚ブロッコリーの呪縛……断ち切れず……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。