イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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影山が雷冥を生贄要因として選んだのは、単にSSCを除くと彼くらいしか適任がおらず、それが偶然雷牙のひ孫だっただけで、影山本人に雷牙に復讐するといった意図はないです。
そもそも影山自身は、雷牙に対して円堂一族レベルの復讐心も無ければ、因縁も無いので(尤も“雷帝”の息子で鬼乃子の兄なので、嫌悪感を感じるクソガキくらいには思ってますが)。


決戦と聖戦と命運と PARTⅡ

チャイード「大丈夫か、ライメイッ!?立てるか……!?」

 

雷冥「是非も……無し……ッ!*1」

 

 差し出されたチャイードの手を振り払うようにして、自力で弱々しく立ち上がる雷冥。

 だが、それが強がりである事は誰の目にも明白だった。

 

 間一髪で防御姿勢をとったとはいえ、直撃したのは影山零治の狂気の一つの終着点ーーあの“皇帝ペンギン1号”だ。

 ただでさえ、消耗した肉体が受けたその負荷は、到底計り知れる物ではない。

 

イダテン「“皇帝ペンギン1号”……!あのライメイが手も足も出ないなんて、なんて威力のシュートなんだ……!」

 

バード「で、でも……!コレはチャンスでもあります……ッ!!“皇帝ペンギン1号”は諸刃の剣……使用者である影山もただではーーー」

 

 “皇帝ペンギン1号”ーー数ある“皇帝ペンギンシリーズ”の原点にして、群を抜いた破壊力を誇る最凶の必殺技。

 だが、その強大な破壊力と引き換えに使用者へ掛かる負荷はあまりにも大きく、三度撃てば自らの身体を破壊する“禁断の技”として歴史に名を刻んでいた。

 

 いくら影山でも、老齢となった彼が放てば一度の使用でも相応の代償を支払っているはずだーーそうバードは一縷の希望を抱いていた。

 

 ……しかし、その甘い期待は無惨にも打ち砕かれる。

 

影山「愚問中の愚問だな。この神(ワタシ)がそのようなつまらん失策(ミス)を犯すと思うかね?」

 

 冷淡に言い捨てて自陣へと戻る影山。その肉体にも、表情の端々にすら何一つ疲弊の影は見られなかったのだから。

 

バード「何……!?」

 

影山「何を驚く必要がある?“1号”の欠点……それは佐久間次郎のような、ただの“人間”が使った場合の話だろう?“神”の力を得た私には、何一つ関係の無い領域なのだから」

 

 “マインドイーター”が影山零治へもたらした恩寵ーーそれは、単なる超能力(マジック)の付与だけにとどまらなかった。

 百年以上の歳月によって衰微していた老躯を再構成し、全盛期どころか……遥か未来のSSCすらも足元に及ばない、強靭にして無敵の肉体へと再構築させていたのだ。

 

影山「それよりも敵の心配をしている余裕はあるのかね?貴様が最も案じるべきは、背後の主人だろう?」

 

バード「ーー!!! マ、マスター……ッ!!!」

 

 影山の言葉に促され、後方へと視線を走らせたバードの両眼(アイカメラ)が捉えた光景……。

 それは、どうにか立ち上がったものの荒い息を吐き出し、すぐさま吐血するかのように片膝を突く主人の痛々しい姿であった。

 

影山「哀れな男だ。隠し持っていた回復薬をくたばり損ないの負け犬などに与えずに、自身に使っていれば、もう少しマシな試合が出来ていただろうに」

 

バード「黙れ……ッ!!!マスターはオマエのような暴君の“魔王”とは違う……ッ!!!敵であろうと、傷ついた者を労われる優しさを持った……最高最善の“魔王”なんだッ!!!」

 

影山「ホウ?ならば……まともに動けない役立たずの“魔王”はさっさとベンチに引っ込んでおくのが、道理という物ではないか?」

 

バード「クッ……!」

 

 影山の冷徹な正論に、バードは言葉を詰まらせる。

 確かに、これまでのギリギリのやりくりとは異なり、今の【天魔革命軍】にはベンチに控えの選手が居る。

 

 ……しかし、控えの選手と雷冥との実力差は天と地程に開いているのが現実だ。オマケにベンチにいるのは全員【サンダーゲート】所属の選手ーー彼らのデータや能力は、既に影山の掌上で完全に把握されている筈であった。

 

 サッカーのルール上、一度ベンチへ退いた選手が再びピッチへ戻ることは許されない。

 故に、雷冥を下げればチームは精神的支柱を失って“烏合の衆”と化し、かといって雷冥を残せば、実質的に10人で戦うに等しいハンデを背負い続ける事になるのだ。

 

影山「尤も……貴様らがどんな選択をしようが、私には関係の無い話だがな。……もう、私(・)が(・)手(・)を(・)下(・)す(・)ま(・)で(・)も(・)な(・)い(・)」

 

 そう吐き捨てるように言い捨てると、影山は背を向け、今度こそ自陣へと戻っていく。

 結局、バードは起死回生の一手を見出す事すらできず、主人の奇跡的な爆発力に一縷の望みを託し、実質『−1』の重すぎるハンデを背負ったまま、試合は再開されるのだった。

 

ピィー!!!

 

 主軸である雷冥が機能不全に陥り、早くも後がない【天魔革命軍】。焦燥に駆られるイレブンは何としても同点に追いつこうとするが……。

 

イダテン「ライメイの頑張りをムダにしない為にも、ガンガン攻めるんだ……っ!!!」

 

ソーショット「って……!おい、茶髪ネズミッ!!周りを見rーーーグオッ!?」

 

 先を焦るイダテンの気迫は見事なまでに空回りし、味方であるソーショットとの衝突事故が発生。こぼれ玉は不運にもC不動の足元へと転がり落ちてしまう。

 

ミスティープ「させるかぁぁぁ!!!“ディープミストS”ッ!!!」

 

 ミスティープの咄嗟のブロック技で致命的な失点こそ回避し、すぐさまシンフォニーの“神のタクト”が展開され、ピッチ上に最適なパスコースが可視化された。

 

 ……しかし。

 

シンフォニー「ーー!!! 何をやってるんだジャックッ!?お前は中間地点であって、フィニッシャーではないッ!!ソーショットへパスを出せッ!!!」

 

ジャック「あ゛ぁ゛ッ!?誰がテメェみてーな、甘ちゃん坊ちゃんの日和った指示を聞けるかよッ!!!“楽園(エデン)”の甘ちゃんよか、オレの方がずっと強ェに決まってるッ!!!オレはオレがやりてェようにやるだけだァァァ!!!」

 

 ジャックは司令塔(ゲームメイカー)たるシンフォニーの指示を真っ向から突っぱね、たった一人での敵陣への突撃を試みる。

 

 死に物狂いでボールを奪い取っても、誰かが普段なら考えられないような軽率なミスを犯すーーー。

 シンフォニーの描く戦術とチームのプレーは恐ろしい程に噛み合わず、ピッチ上の足並みはもはや見る影もなく瓦解していた。

 

グリム『コレはどうした事だ、【天魔革命軍】ーーッ!!?? 先程のプレーもお世辞にも素晴らしいとは言えなかったが、今回に至ってはそれよりも酷いィィィ!!!まるで素人集団の初戦を見ているようですッ!!!』

 

影山「フッ……この実況は、本体の制御外か?それとも奴の心の声か?どちらにせよ……『素人集団』の評は当(・)た(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)」

 

 影山の言葉は決して嫌味でも過言でもない。……紛れもない『事実』であった。

 【天魔革命軍】を構成する選手達が、この世界でも指折りの実力者であることは間違いない。では何故、彼らは初心者同然の初歩的な連携ミスを連発しているのか?

 

 答えは至極単純。ーーー皆(・)が(・)こ(・)の(・)状(・)況(・)に(・)慣(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)だ(・)。

 

 【天魔革命軍】は雷冥がデュプリを発動できない事情から、、【サンダーゲート】+αの形で構成されている。

 【サンダーゲート】の真価は、絶対的な司令塔・シンフォニーの戦術を寸分狂わず実行し、ミリ単位の精度で盤面を制圧する完璧な組織力にある。

 

 ……対する【王魔雷帝】は、稲魂雷冥(キャプテン)という絶対的支配者を軸に置きつつも、各々が戦況に応じて臨機応変にスタイルを変貌させる圧倒的な個の対応力が最大の武器。

 

 謂わば、【サンダーゲート】のサッカーが『足し算』であるとするならば、【王魔雷帝】のサッカーは『掛け算』。

 

 当然、チームの優劣が『足し算』か『掛け算』かだけで決まるわけではない。

 単純な数値の大きさでは『掛け算』に分があるように思えるが、「1+1=2」と「1×1=1」のように、条件次第では『足し算』の方が大きな解を導き出す事もある。両者にはそれぞれ確固たる強みと利点が存在するのだ。

 どちらのスタイルであるかは、あくまで各チームが持つ『傾向』の違いに過ぎない。

 

 ただ……『足し算』と『掛け算』の融合が、常に正しい解を導き出すとは限らない。

 時に、まさに今このピッチ上で起きている現象のようにーーー導き出される全ての値が“負の数”へと反転してしまう、最悪の計算式と化す事だってあるのだ。

 

影山(シンフォニーよ。私が貴様に叩き込ませたのは、従順な兵隊を効率よく統率する術のみ……。泥に塗れ、まともな教養すら持たぬ野良犬どもを調教(しつけ)る方法までは教えておらんのだよ)

 

 これこそが、稀代の策士・影山零治が試合開始早々に見抜いた【天魔革命軍】の致命的な“弱点”。

 目の前の叛逆者達は、志こそ同じくしようとも、所詮は数時間前まで敵として牙を剥き合っていた者達による即席部隊(インスタントチーム)に過ぎない。

 

 試合序盤、雷冥とシンフォニーの間で采配が二分されたその瞬間から……チームが瓦解する事は、既に時間の問題でしかなかったのだ。

 

影山(賢い貴様ならば、すぐに要因に気付く事は出来るだろう。……だが、気(・)付(・)け(・)る(・)だ(・)け(・)だ(・)。貴様では、根本的な原因を取り除く事は絶対に出来ん)

 

 シンフォニーは“GF”……影山零治の弟子であり、実質的な養子でもあった。

 まだ物心つく前にその才能の片鱗を見出され、影山の手によって強制的に親元から引き離されて以降、帝国の居城の一室で徹底的な英才教育を叩き込まれてきた過去を持つ。

 

 しかし、影山がシンフォニー自身に自主的な判断を下す機会を与えた事は、ただの一度としてもなかった。文字通り、一度たりとも。

 その歪んだ偏執は、影山の過去ーーかつて自身が“最高傑作”とまで称えた愛弟子・鬼道有人の離反というトラウマに起因していた。

 

 二度と同じ過ちを繰り返さぬ為、影山は鬼道離反の引き金となった『自由意思と自己判断』を徹底的に否定した。

 隊長としての職務は細部に至るまで自身の命令を遵守させ、司令塔(ゲームメイカー)としての能力は、脳裏に叩き込ませた数千に及ぶ戦術(タクティクス)の中から状況に応じた最適解を反射的に選択させるだけの戦闘機械(マシーン)へと仕立て上げたのだ。

 

ーーー“神”の命令にのみ従っていれば、絶対に敗北する事はない。

 

 シンフォニーという兵士は、まさに影山零治という男の狂気と傲慢なエゴが結実した、歪な教育の産物であった。

 

影山「所詮、私の傀儡でしかない貴様らに、創造主を討つ事など出来んッ!!!貴様らは愚かな“魔王”によって、偽りの“夢”を見させられているに過ぎんのだッ!!!!!」

 

シンフォニー「それ違う……ッ!貴方との対峙を選んだのは……間違いなく私、そして私達自身の“意志”だッ!!!貴方の歪んだ“狂気”には……もう惑わされないッ!!!」

 

影山「そうか。もう一度、私に忠誠を誓ったならば命だけは助けてやろうと思っていたが……“神”の慈悲すら拒絶する愚か者には、裁きを与えなければなるまいッ!!!!!」

 

 弟子にすら完全に拒絶された影山は、剥き出しの殺意を込めてジャックからボールを強奪。冷酷なパスをC不動へと送る。

 

バンバ「行かせないド!!」

 

ミスティープ「ライメイが動けない今、俺たちが踏ん張るしかないんだッ!!!」

 

 目にも止まらぬスピードで【天魔革命軍】の最終ラインへと到達したC不動。その前に立ちはだかったのは、チーム誇る最強のDFコンビ、バンバとミスティープだった。

 

 手始めにバンバがその巨体を壁とし、C不動の進路を完璧に塞ぎにかかるーーが。

 

C不動「邪魔だ、ゴミ共ォォォ!!!」

 

 邪悪な笑みで口元を歪ませたC不動は、容赦なくバンバの鳩尾へ強烈な一撃を叩き込む……!

 

C不動「“ジャッジスルー2”ッ!!!」

 

 ボール越しに叩き込まれる、まるで機関銃(マシンガン)の如き苛烈な連続キック。チーム屈指のタフネスを誇るバンバすらも絶叫と共に悶絶し、防衛線の片翼が呆気なく粉砕される。

 

ミスティープ「バンバッ!」

 

C不動「余所見してる場合かァ?次はテメェの番だよッ!!!」

 

ミスティープ「クッ……!“ディープミストS”!!!」

 

 C不動による鬼畜のラフプレーは致命的であったが、その程度で怯むミスティープではない。彼を起点として発生した濃厚な霧がC不動の周囲を呑み込み、今度こそ逃げ場のない視界の檻へと閉じ込める。

 

 ……筈だった。

 

C鬼道&C佐久間「「“ダブルサイクロン”ッ!!!」」

 

ミスティープ「何だと……ッ!!? ウワァァァァ!!!!」

 

 ミスティープが“ディープミスト”を展開したのは、この試合で僅か一度のみ。だが、たった一度の観察で、『外部からの衝撃ーーとりわけ強烈な突風に脆い』という弱点を看破していたC鬼道。

 相棒であるC佐久間と共に放つ旋風によって、C不動を閉じ込めていた濃霧の監獄は瞬く間に吹き飛ばされてしまう。

 

C鬼道「偉大なる総帥に歯向かう叛逆者共よッ!!!」

 

C佐久間「真なる“神”の使徒たる我らが、“神”より与えられし力を以て…!」

 

C不動「現実の見えねェ馬鹿共を、まとめて裁いてやっからよォォォ!!!」

 

 最終ラインをあっけなく突破した3名が、極限のトップスピードに乗ったまま躍動する。

 

ピィィィィィッ!!!!!

 

 寸分の狂いもない息の合った跳躍から、C鬼道による指笛が鳴り響くと、次元の歪みから5羽の禍々しい紫色のペンギン群が飛来した。

 

雷冥「あの技だけは……マズい……!!」

 

 これから訪れるであろう最悪の結末を察知した雷冥は、発射を阻止すべく必死に地を蹴ろうとする。

 ……だが、満足に走る事すら叶わないほど傷付いた肉体では、空中で交錯するペンギン達の元へ届く筈もなかった。

 

 まるで、動けない雷冥を嘲笑うように、上空を泳ぎ回る紫のペンギン達が巨大なエネルギーの渦を生成し、そのエネルギーが中央のボールへと収束していく。

 ボールに気が極限までチャージされた瞬間、3人のストライカーによる重厚な踵落としがボールを撃ち抜き、邪悪なる“皇帝”がピッチへと解き放たれる……!

 

「「「“皇帝ペンギン3号”ッッッ!!!!!」」」

 

 上空で溜め込まれた強大なエネルギーを背負い、紫のペンギン群が凶悪な軌道を描いて一斉に射出される。漆黒の衝撃波を纏った“皇帝”は、ピッチの空気を削り取りながら一直線にゴールへと牙を剥いた。

 

チャイード「止めるッ!!!“極 無頼ハンド”ォォォォ!!!!」

 

 すさみ立つ暴風の中、チャイードが展開した極限のオーラの掌が、迫り来る紫の猛威を真正面から捉える。

 ……しかし、激突した瞬間にチャイードの腕を襲ったのは、“1号”を超える凄まじい破壊圧だった。

 

 必死の抵抗も虚しく、無情にも必殺の防壁をメキメキと削り取っていく5羽の“皇帝(ペンギン)”は、圧倒的な質量となり真紅の御手を崩壊させていく。

 

チャイード「………グッ……!ガァァァァァァ!!!!!」

 

 遂に耐えきれなくなったオーラが弾け飛んだと同時に、紫の衝撃波はチャイードの胸元を直接撃ち抜いた。

 

ピィー!!!

 

 鼓膜を揺らす爆破音と共に、チャイードの身体はボールごとゴール奥のネットへと容赦なく叩きつけられる。

 無慈悲にも激しく揺れる白網と、ピッチに響き渡る無慈悲な笛の音。

 土煙が晴れた後に残されていたのは、倒れ伏す守護神の姿と、スコアボードに刻まれた絶望的な追加点であった。

 

グリム『ゴオォォォルッ!!!【天魔革命軍】必死の抵抗も虚しく、二度目のホイッスルが鳴り響いたのは、【エンペラーシャドウズ】の追加点ーーッ!!!コレは絶望的にも程がある展開だァァァ!!!』

 

 これで【エンペラーシャドウズ】は2得点目。

 ただでさえ遠かった点差はさらに引き離され、唯一影山に対抗し得る雷冥は再起不能も同然……。

 “逆境”などという生易しい言葉では括れない絶望を前に、底なしの暗雲がチーム全体を呑み込んでいく。

 

シンフォニー(分からない……!“GF”は、常に私の戦略の遥か上を行く……ッ!!どうすればいいのだ……!?私は……一体、どうすれば“GF”に勝てる……ッ!?)

 

 最後の司令塔としての責務を果たすべく、持ち得る全ての頭脳を振り絞って策を巡らせるシンフォニー。……だが、どの手を選択しようとも、影山を超えられる未来が何一つとして視えてこない。

 

 それどころか、思考を巡らせれば巡らせる程、脳裏に浮かぶ戦術の全てが“GF”の張った罠にさえ見えてしまう。

 極限状態にまで追い込まれたシンフォニーは、己の思考そのものが常に影山の掌の上で踊らされているという底の見えない疑念に駆られていた。

 

 ……その時だった。

 

ガシッ!

 

シンフォニー「ーーッ!? だ、誰だッ!!??」

 

 突如として、何者かがシンフォニーの両肩を力任せに掴む。

 一瞬、影山の冷酷な顔が脳裏をよぎったが……肩に置かれたその手は、180センチを超える巨躯を持つ影山にしては小さ過ぎた。

 加えて、掴む力こそ強烈だったが、それは激痛や恐怖を与える為ではなく、極度の疲労故に力加減すらままならなくなった不器用な力強さだ。

 

 このピッチ上で、その手に該当する人物など一人しか存在しない。

 

シンフォニー「イナタマ……ライメイ……ッ!?」

 

 そう、肩を掴んだその手の主は息も絶え絶えになりながら、辛うじて立ち上がった稲魂雷冥であった。

 

雷冥「ーーんぞ……!」

 

 辛うじて絞り出されたその声に、かつて“魔王”と恐れられた威厳と凄みは残っていなかった。あまりにも弱々しい呟きに、シンフォニーは息を呑み、必死に耳を澄ませる。

 

雷冥「もう……私には長々喋る気力が……残っとらん……。だから……!一度だけしか言わんぞ……ッ!!」

 

シンフォニー「一度だけ……?何をだ……?」

 

 未だ状況を飲み込めずに困惑するシンフォニー。だが雷冥には、余計な問いかけに答える余力すら残されていないと言わんばかりに、絶え絶えの声を繋ぐ。

 

雷冥「……『65・200・43』、『150・81・60』、『75・138・100』、『160・180・130』……ッ!!!」

 

 荒い息と共に雷冥の口から絞り出されたのは、意味不明の数字の羅列。

 

シンフォニー「何だ、その数字は……ッ!?一体……それに何の意味があるというのだ……!!??」

 

雷冥「悪いが……コレは、私の口から“答え”を教える事は出来ん……!貴様が……“理性”ではなく……“魂”でこの数字を理解出来た時……!貴様の“神のタクト”は……更なる飛躍を遂げる筈……だ……ッ!!!」

 

 言葉を吐き捨てるごとに全身の血の気が引いていくかのように、雷冥は苦痛に顔を歪め、遂に片膝をピッチへと突く。

 …… それでもなお、“魔王”と呼ばれた男は威厳と執念を振り絞り、最後の言葉を託す。

 

雷冥「シンフォニー……。貴様ならば……!必ず、“GF”を超える事が出来る……ッ!!!」

 

シンフォニー「ッ!!!!」

 

 刹那、シンフォニーの全身に、まるで真芯を撃ち抜く落雷のような衝撃が走り抜ける。

 その感覚が何を齎す存在なのか、今の彼にはまだ分からない。ただーー身体の奥底から込み上げる震えと共に“魂”が理解したのは、自らの背に託された“期待”と“使命”の果てしない重みだった。

 

 かつて“神”の傀儡に過ぎなかった少年は、今、自らの意思で指揮棒を握り直す。

 果たしてシンフォニーは、師であり、父でもあった男ーー“GF”を超える事が出来るのか……?

*1:
問題無いの意




影山率いる【エンペラーシャドウズ】の圧倒的な実力により、蹂躙されていくだけの前半戦中盤……。そんな絶望的な状況の中……次回、イナヒロ史上トップクラスにどえらい事が起こります。こうご期待!!!
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