分からない人の為に解説しとくと、やぶてん版の鬼道は口癖で『クズ』で雷門に合流してからも普通に性格が悪いんですよね。しかも月刊誌の関係で音無の存在が完全に消滅してるから、シスコン要素も無しっていうね。
シンフォニー(ライメイ……。さっきの言葉は、一体どういう意味なのだ……?)
更に目まぐるし展開が変化し続ける中でも、シンフォニーは未だに“答え”を見い出せないでいた。
“GF”により、自立的な判断力を徹底的に削ぎ落とされたシンフォニーであっても、あの三つ刻みの数字が『何らかの意味を持つ』羅列である事くらいは察しがつく。
だが、今の彼が辿り着けるのは“
バード「キャットッ!」
シンフォニーが思考の底無し沼に沈んでいようとも、ピッチ上の時間は容赦なく過ぎ去っていく。
【王魔雷帝】と【サンダーゲート】の選手たちが噛み合わず自滅していく中、兄妹ならではの阿吽の呼吸を確立しているバードとキャットだけは、辛うじて“まともなサッカー”を成立させていた。
Cスティン「させるかッ!!“スピニングカット”ッ!!!」
キャット「それはコッチの台詞。そんなチンケな技で、アタシを止められると本気で思ってんの?」
予期せぬ粘りを見せる白金の少女を止めるべく、Cスティンの必殺ブロックが炸裂する。……だが、キャットは立ちはだかる蒼炎の衝撃波を、持ち前のフィジカルだけを武器に強引に突き破ってみせた。
グリム『サッカーとはパワーだと言わんばかりの超絶脳筋プレェェェ!!!流石は“
影山「……ほう」
Cスティンを置き去りにしたキャットは、そのままペナルティエリアへと侵入。
間髪入れずに確実な1点をもぎ取るべく、人工筋肉の限界を解き放つ。その身に宿るのは、白金色に煌めく気高き獅子の魂だ。
キャット「“プラチナレオーネ”」
領域全体を震わせる獅子の咆哮。キャットの両脚から解き放たれた白金の弾丸が、一直線にゴールへと襲い掛かる。
影山「流石は稲魂雷牙の娘・稲魂銀牙だ。私が見てきた選手の中でも、間違いなく十本指に入る実力者ではあるだろう。だが……所詮は過去の投影。一挙手一投全てが、私の想定の範囲内でしかない」
影山が
ジャック「何だァ?オレのシュートは軽々と止めた癖に、ネコ野郎のシュートは背を向けて逃げるなんてよォ……舐めてんのか、テメェ!!!」
短慮なジャックがそう誤解してしまうのも無理はない。襲いかかる強烈なシュートに対し、背を向けるなど本来なら愚策の極みでしかないからだ。
…… だが、その真価は全く別の場所にあった。
この歪な構えによって全身に点在する“気”は心臓の一点へと極限まで集中。心臓を強力なポンプとして作用させ、何十倍にも増幅されたエネルギーが右腕へと一気に流れていく。
限界まで充填された気を一気に天へと掲げると、Cジャンクの背後から圧倒的な稲妻を伴いし、黄金の“魔神”が降臨する……!
Cジャンク「“マジン・ザ・ハンド”ッ!!!」
突き出された巨大な“魔神”の右腕が、容赦なく白金のオーラを掻き消す。
獅子の牙は黄金の右腕に傷跡を残す事すら叶わず、ボールは呆気なくGKの掌の中へと収められた。
またしても【エンペラーシャドウズ】は無失点を死守。いくら攻め立てようと決して揺るがない鉄壁の防御を前に、【天魔革命軍】を覆う絶望の暗雲はより濃く、重く広がっていく。
……しかし、この男だけは違った。
シンフォニー(あの白猫……見てくれこそは、私よりも歳下の少女と何ら変わりないが、その肉体に秘められたフィジカル・テクニック共にライメイに次ぐ実力者だ……)
今やシンフォニーの思考のベクトルは、雷冥が遺した“謎”へとすべて向けられていた。
今の自分に足りない決定的なピースーーそれが他人に委ねてきた『自己判断力』であると自覚しているからこその没頭だ。
シンフォニー(奴がまともに動けない今、白猫を中心に攻めるべきーー)
ーーその瞬間。
組み立てかけた戦術の途中で、雷冥の声が脳裏を過ぎり思考が止まる。
その脳裏に浮かぶのは、やはりあの数字の羅列。その中の一つに『160・180・130』という組み合わせがあった。
シンフォニー(待て……今思えば、あの羅列は明らかに“異質”だ……)
提示された四つの羅列。そのうち三つは、いずれか一つの数値だけが100を超えているに過ぎない。
だが、この羅列だけは全てが100を大きく突破しているーー馬鹿でも少し考えれば分かる程、一つだけ明確な“異常値”なのだ。
シンフォニー(ーー!!! まさか……ッ!?)
青天の霹靂とも言える閃きが、暗闇に閉ざされていた思考の迷宮に一筋の光明を射し込む。
……だが、まだ確信へと至るための最後のピースが足りない。
ならば、
迷いを振り払った彼の瞳に、かつての怯えは無かった。答えは……既に決まっているのだから。
シンフォニー「指示を聞けッ!!これよりイダテン・ジャック・バード・キャットを中心に攻め立てるッ!!我々はディフェンスとフォローに徹するのだッ!!!」
ミスティープ「な……ッ!?正気か、シンフォニーッ!!?10人が一丸となってもゴールを破れないのに、たった4人でどうにかなる訳がないだろ……!?」
シンフォニー「それは分かっている……!それでも頼むッ!!どうか私の命令に従ってくれ……ッ!!」
シンフォニーは真意を明かす事が出来ない。
今は試合の真っ只中ーーサッカーに
ミスティープ「……分かった。お前がそこまで言うんだ、きっとこの作戦にも何らかの意味があるに違いない。俺達は……何処までもお前に付いて行くだけだッ!!!」
ジャック「・・・ヘッ、どうやら“
シンフォニーの指示を受け入れたチームは、宣言通りイダテン、ジャック、バード、キャットの4人へボールを集め始める。
不協和音の原因であった不慣れな連携を絞り込む事で、これまで噛み合わなかったギアが噛み合い、ようやくチームという一つの生命体が循環し始めた。
とはいえ、だ……。
影山(……何か突破の糸口を見つけたか。……だが、まだまだ甘い。まともな
『チームとして形になる事』が、そのまま勝利に直結する程サッカーは甘くはない。
確かにシンフォニーの決断によって暴走は収まり、チームは正しく回り始めた。……しかし、それはあくまで『マイナスがゼロになった』に過ぎない。
今の采配では、【サンダーゲート】と【王魔雷帝】が本来持つ個の利点を、何一つとして引き出せてはいなかったのだ。
だが……。
シンフォニー(……と、“GF”は思っているのだろう?)
影山がそう思考することなど、シンフォニーには百も承知であった。
確かにこの程度の
……しかし。シンフォニーが展開したこの采配の真意はーー
ソーショット「イダテン!」
イダテン「ほい来たっ!!行っくぞぉぉぉぉ!!!!」
パスを受け取ったイダテンが、爆発的な加速と共に疾風と化してフィールドを駆け上がる。
その姿はまさに俊足の代名詞・韋駄天。圧倒的な初速は、【エンペラーシャドウズ】の並のディフェンスなど意にも介さない。
影山「“
C鬼道「ハッ!!全ては総帥の為にッ!!!」
圧倒的な優位を保っているにも関わらず、負け犬と見下していた一人の少年に傀儡達が翻弄されているーーその事実に、影山は初めて顔を不快そうに歪めた。
僅かな苛立ちと共に、“神”は叛逆者を踏み潰すべく、愛弟子を模した傀儡へ冷酷に命じる。
命令を受けたC鬼道は、背後に漆黒の化身をおどろおどろしく顕現させると、イダテンの眼前に逃れられぬ絶対の壁として立ち塞がった。
イダテン(くっ……!パスコースは……)
単身での突破は不可能と瞬時に判断したイダテンは、素早く周囲へ視線を走らせる。
……だが、パスコースは影山の緻密な指示によって完全に途絶されており、孤立無援のまま、退路すら絶たれた絶望的な局面へ追い込まれる。
イダテン「やっばー……」
C鬼道「フハハハッ!!!万策尽きたようだなクズめッ!!!ゴミ溜めに生きるクズは、クズらしく……惨めに朽ち果てるがいいッ!!!」
イダテン「くっ……!」
その侮蔑に満ちた口調には腹が立つものの、C鬼道が突きつけた現実は否定しようのない事実だった。
イダテンの誇る最大の武器は、他を寄せ付けない圧倒的な“逃げ足の速さ”のみ……。前へ突き進む事だけが未来を掴み取る“
ーーもうダメか……。
そんな思考がイダテンの脳裏を過った、まさにその時……
バード「諦めちゃダメです、バード様ッ!!!」
イダテン「ーー!!! バード……!?」
後方から響いた、漆黒の小鳥の切実な声が鼓膜を強く揺らす。
バード「貴方のスピードは、誰にも負けない天性の物です……!それこそ、化身に匹敵するほどの……!!」
イダテン「で、でも……!」
バード「確かに“正面突破”なら化身のパワーには勝てない……!なら……そのスピードを“別方向”に利用するんですッ!!!」
イダテン「“別方向”……。ーー!!! そ、そうか……っ!!」
C鬼道「何をゴチャゴチャ呟いているッ!?クズ如きが、今更策を講じたところで遅いわァァァァ!!!!」
痺れを切らしたC鬼道が化身を突き動かし、“プラズマシャドウ”の凶拳がイダテンを目掛けて叩きつけられる。
迫り来る漆黒の拳に手加減というブレーキなど一切存在しない。直撃してしまえば無事では済まない殺意の一撃が、イダテンただ一人に対して容赦なく迫る。
イダテン「……へへ……っ!」
直撃すれば骨すら砕け散る死の鉄拳。ーーだが、迫り来る“破滅”を前にしようが、イダテンの口元に浮かんだのは怯えの表情ではなく、ニヤリと刻まれた
C鬼道「恐怖で気が触れたかッ!!?ならば……死ねェェェッ!!!」
轟音と共に振り下ろされた“プラズマシャドウ”の拳が、確実にイダテンの肉体を捉え、打ち砕くーー
……
C鬼道「な……ッ!?」
しかし、C鬼道の全身を襲ったのは、手応えどころか手首を脱臼しそうな程の
まるで、眼前の少年の身体が“幻影”となってすり抜けたかのような異様な感覚。
C鬼道「馬鹿な……ッ!?俺は確かに、クズの肉体を捉えた筈……ッ!!」
確かに一秒前まで、そのゴーグルの奥の瞳は叛逆者の姿を鮮明に捕らえていた。
……だが、驚愕に目を見開くC鬼道の視界から、既にイダテンの姿は消え去っている。
イダテン「どうしたんだい?おれはちゃーーんと、ここに居るよ〜!」
C鬼道「んな……ッ!?」
混乱に陥るC鬼道の耳元へ、消えたはずの叛逆者の声が、先程の意趣返しの如く真横から届く。
バード「やりましたね……!イダテン様ッ!!!」
バードの助言によって自身の誇る長所の“新たな真価”に目覚めたイダテンは、殺意の拳が直撃する直前、一瞬にしてトップスピードへと到達していた。
そこまでならば普段のプレーと変わらず、C鬼道の巨大な化身を突破することなど絶対に不可能だっただろう。
だからこそーーイダテンは加速の“
彼が切り開いた進路は、C鬼道の真横。……化身の巨拳と本体の視界が交差する、僅かな死角の一点。
その隙間へ突っ込むと同時に繰り出された、急激な減速と“そよ風”を思わせる鋭角なターンの軌跡。
これこそがC鬼道の観察眼を見事なまでに欺いてみせたトリック。ただ直線にしか走れなかった韋駄天は、風そのものとなってピッチを自在に舞ってみせたのだ。
そして、驚愕と怒りのあまりに頬を強く引き攣らせるC鬼道に対し、イダテンはいたずらっぽくウインクする事で、一世一代の大手品は幕を閉じる事となる。
イダテン「これがおれの新必殺技……!その名も〜……!“そよ風ステップ”っ!!!」
グリム『抜いたァァァァ!!!!イダテン選手がC鬼道選手を突破だァァァ!!!コレにより、【エンペラーシャドウズ】のディフェンスはガラッガラ!!!コレは最大のチャンスだーーッ!!!』
イダテン如きにC鬼道が破られる筈もないと高を括り、大半の枚数を他の選手へのマークに割いていたことが、ここにきて致命的な裏目となる。
ゴール前に残された防衛線は、守護神であるCジャンクただ一人……。
だが、影山の表情に“焦り”の色は微塵もなかった。
影山(……確かに鬼道が抜かれたのは想定外だ。だが、所詮は“
そんな影山の不気味な笑みに気づく事もなく、イダテンは更なる加速を行う。
そのスピードが最高潮に達した瞬間、全身の筋力を絞り出すように深く地面を蹴り込み、全体重を乗せた渾身の一脚をボールへ叩き込む……!
イダテン「“リベリオンウィング”ゥゥゥゥゥ!!!!!」
ピッチを切り裂くのは、愚尊なる支配に抗う叛逆の翼。
イダテンの右脚から放たれた必殺の一撃は、鮮烈な蒼の軌跡を描きながらゴールネットへ一直線に突き進む。
影山「やはりなッ!その程度のシュート如き……必殺技を使うまでも無いわッ!!!」
影山の予言通り、イダテンが放った渾身のシュートは化身は元より、“マジン・ザ・ハンド”すら繰り出される事なく、あまりに呆気なくCジャンクの両手の中へ収まってしまう。
またしても絶好の決定打を潰された【天魔革命軍】。ピッチを重苦しい空気が支配する。
ーーーだが。
シンフォニー「分かった……!分かったぞ、ライメイィィィィィ!!!!!」
静まり返るピッチに、突如として歓喜に震えるシンフォニーの絶叫が木霊した。
そう、これこそがシンフォニーの真の狙い。彼は端から“得点”など期待していなかったのだ。
今、チームに必要なのは、鉄壁のGKを粉砕する圧倒的なパワーでも、あるいは“魔王”の復活でもない。
絶対なる“神”の計算を超え、チームを勝利に導く究極の知将……“
影山「貴様如きが理解したところで、戦況は何一つとして変わらんッ!!!貴様らに待ち受ける運命はただ一つ……“破滅”あるのみッ!!!」
シンフォニーが血の滲む思考の果てに導き出した“答え”すら、取るに足らぬ戯言と断じる影山。
覚醒の兆しすら踏みにじり、点差を決定的に突き放すべく、【エンペラーシャドウズ】へ冷酷な総攻撃の命を下す。
【天魔革命軍】も死力を尽くして迎え撃つが、事実上十人で戦う彼らでは、防波堤としての機能を果たし得ない。
無数の光線が交錯する宇宙戦争の如き猛攻の前に、彼らは為す術もなく散らされ、ゴールへの活路を最短ルートで切り開かれてしまった。
グリム『マズいッ!!コレはマズいッ!!!今試合におけるキーパー・チャイードのセーブ率はまさかまさかの0%ッ!!!オマケに相手は初代ラスボスのCアフロディ!まさに絶対絶命だーーッ!!!』
チャイード「クッ……!来ォいッッッ!!!」
無礼にも程がある実況を背に受け、勇ましく威勢を張るチャイード。……だが、その立ち姿はどこまでも痛々しく頼りない。
確かに彼の胸中で燃える闘志は消えていないのだろう。しかし、額を伝う冷や汗と僅かな身体の震えは、彼自身が敵の威圧感に呑まれている何よりの証拠であった。
チャイード(確かに俺と奴らの実力差は圧倒的だ……。この俺に……奴らを止められるのか……?)
どれほど表面を取り繕おうとも、彼自身の脳内に『止められる未来』が欠片すら描けていないのであれば、挑戦する権利すら与えられないのだ。
Cアフロディ「フフフ……。君は“神の祝福”を受けた事があるかい?」
守護神の見せかけの“勇気”を嘲笑うかのように、Cアフロディは荘厳なる化身を顕現させ、天空へと優雅に飛翔する。
刹那、“絶対神”の身に宿る不気味なほど夥しい砲門が一斉に開き、その全ての照準がチャイードただ一人へと絞られた。
Cアフロディ「上位存在としての最後の慈悲を与えよう。負け犬らしく、無様に逃げるのならば今のうちだよ?」
チャイード「……俺は……チームのGKなんだ……!!守護神として、逃げて……たまるかぁぁぁ!!!」
Cアフロディ「そうか……。ならばお望み通り、肉片一つ残さず貴様を消し去ってやろうッ!神の慈悲を無碍にした罪……その命を以て償うが良いッ!!!」
慈悲を拒んだ重罪人を塵へと還すべく、Cアフロディは天界からの裁きの如き渾身の一撃を叩き込む……!
Cアフロディ「“ゴッドブレッシング”!!!」
純美の一閃ーーシュートが放たれた瞬間、“絶対神”の全身に並ぶ無数の砲門から凄まじい密度の光弾が一斉に解き放たれ、光の雨霰となってチャイードへ襲い掛かる。
その光景はもはやサッカーの域を遙かに逸脱した、文字通りの“殲滅戦”。直撃すれば一人の少年の命すら易々と奪いかねない、破壊の嵐だった。
チャイード「グゥ……!ウオォォォォーーーッ!!!」
視界を埋め尽くす猛烈な光の大嵐。死線そのものが眼前に迫ってもなお、チャイードは己の誇りを貫くべく、両手に真紅の御手を現出させる。
だが、“神の怒り”は、人類の最後の抵抗すら許さない。光弾から放たれる凄まじい衝撃波により、真紅の御手はガラスのように脆く破砕され、必殺技は発動すら叶わず掻き消された。
チャイード(俺は……ここで死ぬ……のか……?)
圧倒的な滅びの威圧を前に、脳裏を駆け巡る無数の光景ーー所謂、走馬灯。
劣等感に打ちひしがれた日々、過酷な訓練、そして今日までの苦難の記憶が雪崩のように溢れ出す。
チャイード(俺はずっと……シンフォニーによって奪われた“隊長”の座を奪い返す為だけを思って生きてきた……。……だが、本当は分かってたんだ。俺では……シンフォニーの足元にすら及ばない存在だと……)
チャイードという人間を突き動かし続けていた“劣等感”。だが、死の淵で解き放たれた記憶の洪水の前には、それすらも過去の遺物と化していく。
極限まで引き延ばされた時間の中で、静かに過去を振り返るチャイード。その濁流のような記憶の底で、彼の瞳が一人の男の姿を捉えた。
チャイード(何で……だろうなぁ……?俺はあれだけ、お前を恨んでいたってのに……どうして、最後の最後でお前を見てしまったんだ……?なぁ……シンフォニー……)
その男こそ、ピッチの中央、混沌の渦中に佇む司令塔ーーシンフォニーだ。
チャイード(おい待てよ……!なんで……!?どうして……!?お前は……お前だけは……!俺をそんな眼で見る……ッ!!??)
全員が失点を確信し、絶望に染まるピッチの上で、その双眸だけは違っていた。
諦めも、冷ややかな失望の色も一切ない。ゴーグルの奥の瞳はただ真っ直ぐに、ゴールを守る『守護神』としてのチャイードを、揺るぎない確信と共に見つめていた。
チャイード(もしや……あんたはこの状況でも……俺を
その瞬間、溢れ出ていたあらゆる走馬灯を押し退け、自身が泥に塗れながらも前を向き続けてくれた司令塔の背中が、鮮烈に脳裏を駆け抜ける。
チャイード(……今、分かった気がする……。どうして、俺がシンフォニーに及ばなかったか……)
戦闘能力、実戦経験、そして求心力……。どれを取ってもシンフォニーに遅れをとったことなどないーーそう思い込み続けてきたこれまでの人生。
だが、現実には自分とシンフォニーの間には絶望的なまでの“格の差”が存在していた。
仲間の能力を限界まで引き出し、土壇場の土壇場まで部下を信じ抜く“大将としての器”。
それこそが、自分には決定的に欠けており、シンフォニーだけが背負っていた『隊長』としての証明だったのだ。
シンフォニー『チャイード……』
チャイード「ーー!? これは……シンフォニーの声……?」
突如として脳内に直接響いた司令塔の声に、チャイードは驚愕する。
一瞬、影山による幻聴を疑う。だが、脳髄を貫くその声は、確証はなくとも本人のものだと断言できる程、力強く、凛とした芯の通った声だった。
シンフォニー『……私は、お前を
チャイード「ッ!!!!」
そこでシンフォニーの声は、弾けるように脳内から消失した。
今の声が本物か幻聴かなど、もはやどうでもいい。
チャイードにとって唯一無二の“真実”は……隊長の瞳に映る光は本物だという確信だけだ。
チャイード(そうだ……!何怖気付いてやがる……ッ!!)
魂の奥底で燻っていた“恐怖”が、燃え盛る“勇気”へと姿を変え、全身の血を激しく滾らせる。
チャイード(俺は……俺は……ッ!)
膝を突き掛けていた脚に力を込め、眼前の破滅へ向かって力強く踏み出す。
チャイード「“
セーブ率0%? 実力差? そんなデータなど、今の“
背中を預けてくれた司令塔がいる。自分を信じてくれる仲間がいる。ならばーーここで背を向ける理由がどこにある?
チャイード「シンフォニーだけじゃない……ッ!!ライメイもまた……俺に教えてくれたッ!!!最後の1秒まで諦めない……折れない心こそ……!真の戦士の“誇り”なのだとッ!!!!!」
死線すらをも凌駕するその咆哮に応えるように、彼の背後から圧倒的な圧力を伴った漆黒のオーラが吹き荒れた。
歪な波導を描くオーラは、解き放たれた咆哮とともにその性質を変え、鋭利な鱗と鋭角な棘に覆われた異形の巨躯を形成していく。
Cアフロディ「何だと……ッ!?貴様も……化身を……ッ!!?」
チャイード「これが俺のぉ……!!“龍神 コロガオン”だぁぁぁぁぁ!!!!!」
チャイードの覚悟に応えるようにピッチへ轟然と顕現したのは、龍の威容を模した鎧を纏う“真紅の騎士”。
顕現せし騎士は巨腕を掲げると、両手から渦巻く紅蓮の炎を爆発させ、ゴール前全域へ真紅の結界を展開する……!
チャイード「“クリムゾン……ッ!スフィア”ァァァァァァ!!!!!!」
ゴールを死守するように張り巡らされた紅蓮の領域。
絶望を齎す筈だった無数の光弾は、その圧倒的な熱量の前に悉く灼き尽くされ、霧散していく。
そして、威力を完全に削ぎ落とされたボールだけが弱々しく結界を通り抜け、チャイードの固く握られた両手の中へとしがみつくように収まった。
影山「何……ッ!?」
グリム『止めたァァァ!!!絶対的に不利だと思われていたチャイード選手が……!この土壇場で化身に覚醒し、Cアフロディ選手の化身シュートを見事止めて見せたぞォォォ!!!もはや彼のセーブ率は0%などではないィィィ!!!』
誰もが予期せぬチャイードの覚醒に、敵味方の区別なくピッチ全体が騒然となる。
その驚愕の渦中……静かに笑みを浮かべたシンフォニーは、噛み締めるように小さくガッツポーズを作り、万感の想いを込めて呟いた。
シンフォニー「やったな……!チャイード……!!」
チャイードが命懸けで掴み取った決死のセーブにより、遂に【天魔革命軍】へ千載一遇の
現時点で前半戦の残り時間は、既に5分を切っていた……。この一波で何としてでも一点を奪い取り、後半戦への望みを繋がなければならない。
チャイード「後は任せたぞぉぉぉぉぉ!!!!!シンフォニーぃぃぃぃぃ!!!!!」
魂を込めて解き放たれたチャイードのオーバースローは、鮮やかな軌跡を描いて瞬く間にシンフォニーの足元へ収まる。
ここに【天魔革命軍】、最後の
シンフォニー「スー……絶対に決めるぞッ!!!」
『おおッッッ!!!!!』
司令塔の一声に、再び心を一つにした革命軍達が烈火の如く敵陣へ攻め上がる。
その先陣を切るは、当然シンフォニー。まるで天からピッチ全体を見下ろしているかのような彼の両眼には、既に勝利へと至る“常勝の
シンフォニー( 一見すると意味不明に見えたあの数字の羅列は、4人の身体能力を数値化した物……!ならば……チームに生じていた不協和音を調律するのは容易い……ッ!!)
キャットとイダテンが命懸けで繋いだプレーにより、雷冥が提示した数字の意味を、理屈を超えた“魂”で理解したシンフォニー。
彼はピッチの中央で両手を優雅に掲げると、まるで透明な指揮棒で旋律を奏でるかのように、滑らかにその腕を振るう。
シンフォニー「“神のタクト”!!!」
ピッチ上に鮮烈に描き出されたのは、この世界の“未来”そのものを託されたボールを繋ぐ、幾条もの光の
影山「それがどうした?貴様の戦略とドブ鼠共との相性が悪い事は既に証明されているだろう?まさかこの期に及んで、小細工が私に通用すると思っているかね?」
シンフォニー「……それはどうかな?」
影山「何……?」
不敵な笑みを浮かべて言い返したものの、シンフォニーはそれ以上言葉を重ねようとはしなかった。
影山は胸の奥を突き刺す形容し難い不快感に眉を顰めつつも、全力を以て迎え撃とうと身構える。
しかし……眼前に迫る【天魔革命軍】のプレースタイルは、一見すると何一つ変わっていなかった。
戦術も、個々の技術も、その全てが。かつて自らが、
影山(フン……やはりハッタリか。所詮は、鬼道の複製品……。貴様がいくらもがこうが、私の想定を超える事は絶対にあり得んのだよ……!)
現在はどちらも一歩も引かぬ互角の攻防を繰り広げているが、経験・支配力の双方において、司令塔としての腕は影山が一枚も二枚も上。
手の内をすべて把握されている以上、いずれどこかのタイミングでシンフォニーの采配に致命的な綻びが生じるのは自明の理だった。
影山(次のパス……恐らく奴は2歩下がってバードへパスを回すだろう……。その瞬間こそが好奇……ッ!!)
シンフォニー「……バードッ!!!」
影山の予測通り、シンフォニーは2歩下がった刹那、バードへとパスを供給する。
あまりにも容易く先を読めてしまう采配に、思わず冷酷な笑みが込み上げる影山。彼は余裕すら漂わせ、パスカットへと踏み出そうとする。
……筈だった。
影山「な……ッ!?」
ジャック「ハッ!随分と無様なマヌケ顔じゃねェか、“GF”サマよォ?コレが試合中なのが残念だぜ。そのマヌケ面を連写して、兄さんの墓に添えてェからよォ!!!」
影山がパスをカットしようと足を踏み出したその瞬間ーー彼の眼前に走ったのは、一筋の漆黒の閃光であった。
その光の正体は、本来前線に位置するはずのFW・ジャック。ありとあらゆるブラフと可能性を網羅していたはずの影山だったが、何故かジャックのこの位置取りだけは完全に思考の外側に弾き出されていたのだ。
影山(何故だ……!?私はあらゆる可能性を考慮していた筈……ッ!!それなのに……何故、ネズミの奇襲を読めなかった……!?)
ジャック「シンフォニーッ!!」
影山「クッ……!鬼道ッ!!佐久間ッ!!」
シンフォニーが弄した小細工のカラクリを解き明かしたいところだが、今の影山にそんな猶予はない。
最強クラスの実力を持つC鬼道とCアフロディを素早く防衛へと回し、自身がポジションを立て直すまでの時間を稼がせようとするーーーが。
イダテン「あらよっと!も〜らいっと!!!」
影山「何だとッ!?」
ジャックの放ったパスはシンフォニーへと渡る直前、疾風のごとく割り込んだイダテンによって奪い取られ、またしても影山の完璧である筈の読みは無残に砕け散る。
影山「あり得ん……ッ!!私に創られた存在が……!創造主の想定を上回るだと……ッ!!?」
立て続けに突きつけられる“想定外”の現実に、影山は初めて激しく狼狽する。
シンフォニー「……残念だが、私は既に貴方の作品などではない」
影山「……貴様もか……ッ!貴様も“アヤツ”と同じ妄言を吐くか……ッ!!かつての我が愛弟子……“鬼道有人”と……ッ!!!」
シンフォニー「・・・私はその“キドウ・ユウト”とやらが、どのような人間なのかまでは知らない。……ただ、そこに居る彼をモチーフにしたであろう
シンフォニーは、またしてもイダテンの縦横無尽なステップに翻弄されているC鬼道へ、冷徹な視線を投じる。
シンフォニー「常に確固たる“己”を持ち、貴方からの度重なる誘惑に晒されようとも、終ぞ泥の道へ引き返すことのなかった男……意志を持たぬその傀儡とは、到底似ても似つかぬ高潔な人物であったろうとな」
丹精込めて創り上げた作品が、またしても自らの支配を逃れ、その手を離れてしまったーーーその現実を突きつけられた影山は、激しい屈辱に歯をギリと噛み締める。
シンフォニー「もう私は貴方には惑わされない。私は私自身の意志で貴方を超えてみせるッ!!」
影山「本気で可能だと思っているのか?私の“作品”でしかない貴様如きに……ッ!!」
シンフォニー「出来るッ!!私は一人ではない……ッ!私には仲間が居るッ!!仲間達と共に力を合わせれば……どんな強大な敵でも乗り越えられるッ!!!その集大成こそが、私が初めて生み出した
刹那、イダテンはバードとの息の合ったワンツーリターンでC鬼道を置き去りにする。
そのまま前線へ抜け出していくのは、“魔王”の意志を継ぐバードとキャットの兄妹。
バード「行くよ、キャットッ!!!」
キャット「そんなに暑苦しい台詞を吐かなくても、アタシはちゃんと居る」
疾走するバードの右脚に漆黒の怪鳥が纏い、隣り合うキャットの左脚には白金の怪獣が宿るーー。
互いの呼吸を完璧に調和させた二人は、交差する閃光とともに渾身のツインシュートを撃ち抜いた……!
バード&キャット「「“ザ・グリフォン”!!!」」
ピッチ全体を振動させる、
しかし、放たれた漆黒と白金の閃光が目指す終着点は、
グリム『おおっとーーッ!?コレはシュートなどではな〜〜いッ!パスだァァァ!!!敵の意図を完全に打ち砕く、超超至近距離からのラストパスだぁぁぁッ!!!』
大砲を思わせる勢いで貫かれたパスライン、その軌道上に待ち受けていたのはエースストライカーたるジャック。
そしてーーー!
シンフォニー「見ていろ“GF”ッ!!私は今……貴方を超えた事をここで証明するッ!!!」
かつての“創造主”を完全に越える進化の旋律を奏でる為、シンフォニーはジャックの差し出した足元へ向けて、空へ高く跳躍した……!
ジャック「ヘッ!!オレの足引っ張んじゃねェぞッ!!“
シンフォニー「ぬかせッ!!誰に物を言っている!?」
空中にて威勢よく軽口を叩き合いながらも、ジャックとシンフォニーは完璧にタイミングを合わせ、ボールへ全体重を乗せた渾身のダブル踵落としを叩き込む。
シンフォニー&ジャック「「デェリャァァァァ!!!!」」
だが……その着地点もまた、ゴールではない。垂直に落ちたボールは“ある人物”を捉える。
その終着点に待ち受けていたのはーーー
ジャック「テメェがフィニッシャーだァ!!!イダテンッ!!!」
イダテン「うんっ!!!」
トップスピードで弾丸のごとく駆け上がるイダテンだ。
急浮上するボールの軌道へと躍り出た彼は、翼を広げるような跳躍から、右脚に全てのエネルギーを注ぎ込む……!
イダテン「ハァァァ……!!!“リベリオンウィング”ッ!!!」
ジャックとシンフォニーの放った叛逆の波動、そしてイダテンの放つ叛逆の翼ーーー三つの意志が完璧に交差し、一つに重なり合った瞬間、ピッチ全体を巨大な光の旋風が呑み込んでいく。
イダテン&ジャック&シンフォニー「「「“エボリューション”ッ!!!!!」」」
“
影山(クッ……!稲魂の倅達と、叛逆者共による連携シュート……!……だが、この程度のシュートチェインならば化身で止められる範疇ーーー)
???「おっと……。私を忘れてもらっちゃ困るぞ?」
影山「な……ッ!?」
これまでのデータに基づく観測から、己を安心させようとした影山の耳へ、まさにこの瞬間、最も聞き集めたくなかった絶望の声が届く。
守護神が化身を顕現させ、その右手をボールへ伸ばす直前ーー影山の視界を力任せに遮ったのは、天を突く紺碧の気柱と、強烈に爆ぜる黄金の稲妻を纏った一つの“影”であった。
その影の正体は、当然……
影山「稲魂……!雷冥……ッ!!!!!」
まともに動くことすら不可能なほど消耗し、もはや牙を折られた獅子も同然だと判断していた筈の男ーー稲魂雷冥。
この土壇場で復活を果たした“魔王”は、最後の仕上げと言わんばかりに、
雷冥「“エンペラーディアボロス……
超至近距離から解き放たれた、限界を遥かに突破した“悪魔”の咆哮ーー。
突き立てられた悪魔の巨大な牙は、守護神が背負う“魔神”の右腕を易々と粉砕……どころか、その全身をも一瞬で打ち砕き、ゴールネットを引きちぎらんばかりに激しく揺らし抜いた。
ピィーーッ!!! ピッ!ピィィィィ!!!
得点を告げる短い笛の直後、スタジアム全体に前半終了を告げるホイッスルが甲高く響き渡る。
【天魔革命軍】のスコアボードに刻まれたのは、“神”の想定打ち砕いた証たるーー『1』。
グリム『ゴールッ!ゴールッ!!ゴォォォルッ!!!起死回生のトリプルシュートチェインにより、遂に念願の1点をもぎ取ったァァァ!!!そして同時に前半戦も終了だァァァ!!!』
大いなる『一点』を前にピッチが歓喜の渦へと包み込まれる中ーーーしかし、一部の者だけは“
シンフォニー(確かに前半戦のうちに1点を返せたのは大きな成果だ……。だが……ッ!)
バード(マスターの身体は……もう……!)
バタンッ!!!
その“最悪の予感”を追認するかのように、重く鈍い衝撃音がピッチ全体へ不穏に木霊する。
歓声が途切れ、誰もが音のした方向へ視線を向けた先にあったのはーーー大の字で地面へ倒れ伏す“魔王”の姿であった。
イダテン「ライメイっ!!! しっかりしてよっ!!ライメイってば!!!!!」
前半戦終了間際の、あの一撃ーー。
彼は確実に一点をもぎ取るため、自らの身体が壊れる事すら承知の上で“獅風迅雷・限界突破”を発動していたのだ。
無茶に無茶を重ね続けたその肉体は、もはや崩壊の寸前。今の彼には、指一本動かす力すら残されていなかった。
雷冥(ク、ソッタレ、が……。流石……に……無茶し過ぎた、か……。視界が紅い……意識も……だんだん、薄れてき、た……)
超えてはならない一線まで超えてしまった雷冥の心臓は、刻一刻と脈拍を弱め、静かにその鼓動を止めようとしていた。
如何に規格外の強さを誇る“魔王”といえど、心臓が止まってしまえば命を繋ぐ事は出来ない。
取り乱す仲間たちは必死に呼びかけ、死の深淵へ落ちゆく雷冥を繋ぎ止めようとする。しかし、容赦なき“死神”は冷たく彼の魂をむさぼり、冥界の闇へと引きずり込んでいく。
雷冥(すま、ない……皆の者……。私、は……約束を守る事が……出来なかっ、た……)
意識が、完全に漆黒の闇へと沈み落ちる。
“魔王”の最後の胸に残ったのは約束を果たせなかった事への“後悔”。
孤高の魔王ーーー稲魂雷冥の物語は、ここで幕を閉じたのだ。
ーーーその直前だった。
???『聞こ……か……6……?』
消えかける意識の底で、右耳のインカムから途切れ途切れの通信音を拾う。
ノイズ混じりのその声色はーー紛れもなく、実の父であり、忌み嫌う存在でもあるNo.777そのものであった。
雷冥(最悪、だ……。よりにもよって……最期に聞く、事になる声……が……。憎き、父親……の声だなんてな……)
朦朧とする意識の中、正常な思考を失いつつある雷冥は、脳裏に響くその声を死の間際に見せた惨めな幻聴だと切り捨て、静かに死を受け入れようとする。
だが……。
No.777『……もう一度言う、聞こえるかNo.66?私だ、No.777だ』
二度も同じ幻聴が、これほど鮮明に鼓膜を揺らすはずがない。
……つまり、だ。今自分の耳へ届いているのは、紛れもない本物のNo.777の声なのだ。
No.777『……お前が私の声を聞きたくないのなら、それでいい……。……だが、一度だけ上司として命令する。・・・『
雷冥(う……え……?)
消えかける命の灯火の中、雷冥は残された最後の力を振り絞り、朦朧とする視界の焦点をどうにか空へと合わせた。
刹那、静寂に包まれた上空の空間が激しく歪み、一筋の閃光と共に一つの影が舞い降りる。
ーードガァァァァン!!!!!
“偽り”の太陽光を背に受け、重力を無視したかのような軽やかさでピッチへ着地する影。爆風と巻き上がる粉塵の向こうから、聞き覚えのある不敵な声が響き渡った。
???「まだ諦めるには、ちィーとばかし早いんじゃねェかァ?」
轟音と共に現れた影の全貌は、何と雷冥と瓜二つの顔立つと声を持つ、
キャット「嘘でしょ……?」
バード「貴方は……!い、いや……!!
大半の者が突如現れた金髪の少年へ困惑の視線を向ける中、バードとキャットだけは刮目し、身震いとともにその場へ平伏しかけていた。
そして……あの冷徹な影山でさえ、少年の素顔を視界に捉えた瞬間、明らかに瞳を激動させている。
それもその筈。黄金の
影山「稲魂……雷牙……!」
雷牙「よォ、久しぶりだなァ影山さんよ。ガルシルドに殺されたって聞いてたが、思ったより元気そうじゃねェかァ?」
彼こそが、“雷撃の
影山「何故……ッ!?貴様がこの世界に居る……ッ!!?」
雷牙「んなモン、シンプルな話だよ。時空なんちゃらのNo.2ってヤローから、雷冥がヤバいから助けてくれって頼まれてよォ」
バード「No.02って……確か、No.777子飼いの部下の筈じゃ……」
キャット「じゃあ、目の前の稲魂雷牙はマスターのパピーが呼んだ助っ人……ってコト?」
雷牙「イエ〜ス!YES YES!!んthat's right!!!まっ、別世界とはいえ過去の俺ちゃんもひ孫の世話になったんでなァ。その恩返しに一言返事でOKを出してやったってワケ」
因縁の宿敵の中でもトップクラスに厄介な存在ーー稲魂雷牙の登場に苦々しく顔を歪ませていた影山だったが、すぐさま凍てつくような冷徹さを取り戻す。
影山「……フン。如何にも形成逆転と言いたげな雰囲気だが、それがどうした?雑魚一匹が増えた程度では私に勝つ事など、到底不可ーーー 「ああ〜ン?誰が
雷牙「せっかくの助っ人だってのに、一人だけじゃ味気ねェだろう?てなワケで…… カモンッ!!No.2ッ!No.3ッ!!」
パチンッ!!!
雷牙がド派手に指を鳴らした瞬間、再び上空の空間が激しく歪み、一筋の閃光とともに二つの影がピッチへ舞い降りる。
先程、雷牙が登場した時と全く同じ……いや、それ以上の密度を誇る空間の亀裂。巻き上がる強風の向こうに現れた影は、なんと二つ。
雷牙「驚きのあまり、気絶すんじゃねェーぞ!?この俺ちゃんでさえ、目ん玉飛び出るレベルの超豪華キャストだからよォ!!!」
バード「なんか……スッゴく不安になってきた……。さっきから嫌な予感が止まらないんだけど……」
キャット「……大丈夫。アタシもだから」
ーードガァァァァン!!!!!
豪快な落雷とともにピッチへ降り立った、二つの影。
煙の向こうに佇む“彼ら”は、狂気と野心に染まった影山零治の姿を捉えるやいなや、呆れと哀れみの混じった溜め息を吐き出す。
???「……アレが未来の影山か……。話には聞いていたが、俺の想像以上にだいぶイカれちまったみてェだなァ」
???「久しぶりだなァ。アースイレブンでの出来事の後……鬼道が必死こいて探してってのに、まさか別世界でこんな事をやってたなんよォ。影山……いや、黒岩流星サンよォ!!!」
イダテン「・・・ん?なんか……
砂煙が晴れたピッチに姿を現したのはーー最初に着地した雷牙と全く同じ金髪をなびかせる、一人の青年と、渋みを増した中年男性の姿であった。
ご丁寧に特徴的な蒼い瞳、そして獅子を思わせる鋭い目元も完全なる同一……。
ただ…… 彼ら三人を隔てている唯一の差異。それは間違いなく、積み重ねてきた“年齢”そのものであろう。
影山「馬鹿な……ッ!?稲魂雷牙が……!3人……だ、と……ッ!!?」
異なる時代を生きる筈の“稲魂雷牙”が、三者同時に同じピッチへ集結するーーー。
その超次元にも程がある目の前の現実を前に、さしもの影山もかつてない動揺を隠し切れず、その冷徹な顔を激しく歪ませていた。
雷牙「紹介するぜ、影山ッ!!この若干くたびれた様子の無職が約10年後の稲魂雷牙……その名も『雷牙2』!!!」
雷牙2「だ〜か〜ら〜!無職じゃねェっての!ちゃんと、クソ高ェ家賃を払えるくらいには金持ってるし!今はフィフスセクターのゴタゴタに巻き込まれて干されてるだけだっての!!」
雷牙「あ〜、無視無視。んでんで〜?隣の筋肉モリモリマッチョマンのイケおじが〜!25年後の俺ちゃん、その名前も『雷牙3』!!!」
雷牙3「そーゆーこった。オッス!雷紋、銀牙!まさかオメーらも呼ばれてなんて奇遇だな〜」
バード「あっ…!え〜っと…僕たちは雷紋様と銀牙様じゃなくて〜…」
キャット「……多分、稲魂雷牙なりのジョークだから真に受けなくていい」
雷牙「そしてそして〜?最後の紹介するのはこの俺ッ!!!全ての“稲魂雷牙”のオリジンにしてオリジナルッ!!!その名も〜〜『雷牙1』!!!」
『・・・』
緊迫したシリアスな空気を台無しにする雷牙1の突き抜けたハイテンションに、誰もが言葉を失い静まり返る。
各々ツッコミたいところは山程あるだろうが、今はそんな事に取り合っている場合ではなかった。
この時代を超えた三人の雷牙こそが、No.777の送り込んだ“希望”そのものである事に変わりはないのだから。
雷牙1「おっと、忘れてた。雷冥ッ!!オマエさんの親父からの差し入れだ!!」
そう叫ぶと、雷牙1は転送前にNo.777から託されていた一粒の飴玉を、バードへ向けて豪快に投げ渡す。
バード「ーー!!! コレって……!!」
受け取った包み紙に刻印されていたのはーー『GUTS CANDY』……ではなく『SUPER GUTS CANDY』の文字列。
バードは迷わず包み紙を破ると、死の淵を彷徨うマスターの口へ、その飴玉を滑り込ませた。
雷冥「ーー!!! ハァァァッッッ!!!!!」
その瞬間、消えかけていた命の灯火が爆ぜ、雷冥は弾かれたように跳ね起きると、全身から眩い蒼炎のオーラを噴き出させた。
これまでの激戦で砕け散る寸前だった肉体から、刻まれたあらゆる傷と疲労がみるみるうちに消失していく。
まるで巻き戻される
雷冥「先祖殿……」
雷牙1「皆まで言う必要はねェよ。俺ちゃんは、オメーさんに借りた恩を返しただけだ」
雷冥「ああ……。そうだなッ!!!」
雷冥には、曽祖父の言う『恩』が何を指すのかまでは分からない。だが、彼が“別世界の自分”と確かな絆を結んでいた事だけは、言葉を交わさずとも魂で理解できた。
……それだけで、背中を預けるには十分過ぎる理由だ。
雷牙1「しゃあッ!!コレで役者は揃ったんだッ!!!さァ!!!第二ラウンド……始めっかッ!!!」
雷冥「覚悟しろよ?影山零治。完璧な復活を遂げた私は……もう以前のようには優しくないぞ?“稲魂”の誇りをしかと味わうがいいッ!!!」
絶対の“理不尽”に対抗するべく、世界も時代も超えて集結した“奇跡”。
世界の命運を懸けた、本当の勝負はここから始まる……!
次回、イナズマイレブン アクロス・ザ・雷牙バース……
〜助っ人紹介〜
■稲魂雷牙(15)/雷牙1
「なんつーか…。俺の人生には色んな“変な事”が立て続けに起きるモンだが、今回ばかしは格別だな…。だって、俺ちゃんが計3人も居るんだし」
【概要】
息子のピンチを前にNo.777が過去から呼び寄せた助っ人その1にして、本編雷牙と同一人物。しかし、年齢から分かる通り、FFI終了後〜卒業試合の時系列から連れて来られた為、厳密には我々の知る雷牙ではない。
プロトコル・オメガが介入した歴史改変によるインフレが進みに進んだ世界線の住人である為、実力的には下記二人と比べても遜色ないのだが、歳若いせいで恒例の煽リスト発言をする度に未来の自分達から生温かい目で見られるのが超絶不満。
■稲魂雷牙(24)/雷牙2
「ウーム…。俺ちゃんの中学時代は、顔ヨシ・声ヨシ・性格ヨシの好少年だった記憶しかねェが…。もしかしなくても、プロトコル・オメガが介入したせいで、歴史が狂ったか?」
【概要】
息子のピンチを前にNo.777が過去から呼び寄せた助っ人その2にして、イナGO時代の雷牙。
高校卒業後にプロの世界へと飛び込み、所属チームに数多の勝利と栄光を齎してきた伝説的なサッカー
サッカーへの情熱は失っていない為、毎日のトレーニングを怠ってはいないが、側から見れば遊び呆けているようにしか見えないくらいには無職をエンジョイしている為、若干試合の勘が鈍ってる。
最近の趣味は、旅先の道の駅に寄った際に買うドラゴン型のキーホルダー集め。
■稲魂雷牙(39)/雷牙3
「こちとら、カミさんからオリーブオイルを買って帰るように命じられてるんでな。面倒な事は瞬殺してパッパと終わらせるとすっか」
【概要】
息子のピンチを前にNo.777が過去から呼び寄せた助っ人その3にして、ヴィクロ時代の雷牙。
結婚し、真面目で不器用な長男と、マイペースでヤンチャ盛りな長女の二児の父親となった事もあり、血の気が多く、癖の強い雷牙ーズの中では比較的落ち着いた性格となっており、助っ人組のまとめ役になっている。
“イナズマ世代”を含む多くの同期が引退してもなお、加齢?何それ?と言わんばかりに第一線を戦い続けるバリバリの現役選手だが、最近、大好きな油っこい料理を食べた後の胃もたれが酷いらしい。
余談ですが、雷牙はイナギャラでの事件の際に、紆余曲折ありアースイレブンのコーチとして宇宙まで同行していた為、無印組の中では特に黒岩と関わりが深いです。
最近、新章から台本形式をやめて普通の形式に戻そうかなーって考え始めたんで、参考がてらにアンケートを取ります。投票期間は現在連載中のスピンオフ完結までを予定してます。
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戻せ
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戻すな