イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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書いてる途中に死ぬほど思った事。……『コレってサッカーだよね?』


決戦と聖戦と命運と PARTⅤ

雷冥「もはや“人”である事すら捨てたか……!影山零治……ッ!!」

 

 分散していた“マインドイーター”の力を強引に集約し、異形の姿へと変貌を遂げた影山零治……いや、“影山零治で(・)あ(・)っ(・)た(・)モ(・)ノ(・)”。

 

 かつてあれほど愛していた筈のサッカーを、今や“殺戮”と言い放つまでに身も心も落ちぶれた影の帝王へ向け、雷冥は静かな“哀れみ”を込めた声で冷徹な罵倒を送る。

 

 だが……。

 

影山「何度も言ッてイるダロう……っ!!私ハ“人間”なドデはなイ……ッ!!“神”ダ……ッ!!!」

 

 底無しの狂気へと失墜した怪物には、魔王の糾弾すら届く事はなかった。

 

イダテン「ちょ、ちょっと待ってよ……!もう、【エンペラーシャドウズ】の選手たちは動けないんだよ!?それじゃあ、試合を続けることはムリだろ……っ!?」

 

雷牙1「……いんや、アイツにそれを指摘してみろ。100パーはアイツはこう言うだろうぜ?『そこの敗北者(ゴミ)共は倒れているのではない、全身を地面について待機させているだけだ』ってなァ」

 

イダテン「そんな……っ!」

 

雷牙1「要するに、だ。奴(やっこ)さんはやる気満々だってこった。……コレから行う、楽しい楽しい殺戮劇(ショー)をなァ……!」

 

 雷牙1の言葉を裏付けるように、影山はゆったりとセンターラインへと立ち、いつでも襲い掛かれる体勢へと移っていた。

 

雷牙2「……オイひ孫、オマエさんの権限でこの試合を中断させる事は可能か?」

 

雷冥「やろうと思えば出来る。……だが、実行しようものなら、領域が解けた瞬間に私以外の人間は、全員ヤツに殺されてしまうのがオチだがな」

 

シンフォニー「……という事は、どのみち“サッカー”で決着を付けなければ、我らに明日はないという訳か……」

 

 もはや引き返す道すら絶たれた革命軍。

 だが、絶望の淵に立ちながらも彼らの瞳から戦意の火が消える事はなかった。目の前の怪物へと立ち向かう覚悟を固め、革命軍の全員が鋭い視線を影山へと集める。

 

雷冥「……行くぞ!皆の者ッ!!コレが……!正真正銘、最後の決戦だッ!!!」

 

『おうッ!!!!!』

 

ピィーーッ!!!

 

 恐らく後半戦の終了を待つまでもなく、怪物が先に力尽きるか、叛逆者全員が惨殺されるかの二つに一つーー。

 それを確信した【天魔革命軍】の面々は、魔王(キャプテン)の号令に対して力強い雄叫びで応えた。

 

影山「むぅンッッッ!!!!!」

 

 正真正銘、最後のホイッスルがピッチに鳴り響いた瞬間、影山は渾身の力で大地を力強く踏みしめる。次の瞬間、フィールド全域を切り裂くような凄まじい突風が吹き荒れた。

 

影山「まズは、貴様カらだぁ……ッ!!!稲魂雷牙ァァぁァぁ!!!!!!」

 

 最初の復讐の標的(ターゲット)に選ばれたのは、己にこの上ない屈辱を刻みつけた宿敵・雷牙1であった。

 

 影山が放つ規格外の圧力を全身で受け止めながらも、雷牙1は冷や汗を拭い、不敵に引き攣った笑みを浮かべる。

 

雷牙1「流石にコイツは遊んでる場合じゃねェなァ……!」

 

雷冥「祖先殿ッ!!ココは一対一に拘っている状況ではないッ!!私に合わせろッ!!!」

 

雷牙1「ケッ!相っっっ変わらず、生意気なひ孫だぜッ!オメーが俺に合わせるんだよッ!!!」

 

 目前まで迫り来る“狂気”を前に、己が出し得る最高到達地点(ゼンリョク)を解放する覚悟を決めた“怪物”と“魔王”ーー。

 次の刹那、フィールドの中央に眩い黄金と蒼炎の巨大な気の柱が立ち昇った。

 

雷牙1&雷冥「「“獅風迅雷・超限界突破(オーバーオーバーリミテッド)”ォォォ!!!」」

 

 “至高の領域(ゾーン)”へと到達した二人は、卓越した動体視力をもって怪物の超絶的な初速を鮮明に捉える。……しかし、雷牙1の攻勢はこの程度では終わらなかった。

 

雷牙1「オマケにも一つ……!アームドォォォォォ!!!!!」

 

 圧倒的な光と共に、雷牙1の全身へと“覇王”の面影を宿した黄金の甲冑が装着されていく。

 

影山「ヌぅおおおオぉォ!!!!!」

 

雷牙1&雷冥「「チェストォォォォォ!!!!!」」

 

 影山の屈強な右脚と、稲魂の血を継ぐ者達が放つ二本の閃光がボールを介して激突したその瞬間、ピッチに無色の凄まじい衝撃波が撒き散らされた。

 

 ……だが、影山と対峙するのは人類の到達点たる“至高の領域”へ踏み込んだ二人ーーましてや片方は化身アームドまでをも併用している“規格外”である。

 

 それほどの力を以てしてもなお互角の拮抗にとどまるという事実は、今や影山が手にした力がどれほど絶対的な物であるかを雄弁に物語っていた。

 

雷牙1「チッ……!硬ェ……!!!」

 

影山「まダだ……ッ!!私ノ怒りハぁ……!!コの程度デは収マラんッ!!!!!」

 

雷牙1「ーー!!! しまっーーー」

 

ーーズガァァァァァン!!!!!

 

 予想を遥かに上回る追撃の速度に不意を突かれた雷牙1は、回避すら叶わず、まるで大爆発のような凄絶な音とともに鳩尾へシュートを直接叩き込まれてしまう。

 

雷牙1「ガハッ……!!??」

 

雷冥「祖先殿ッ!?」

 

 直撃を喰らってしまった雷牙1であったが、化身アームドによって肉体が強化されていた事が幸いし、致命傷だけは辛うじて免れる。

 

 ……しかし、シュートが直撃した胸甲は跡形もなく粉砕されており、今の一撃が如何に規格外の威力を秘めていたかを証明していた。

 

影山「稲魂……雷牙ァ……!!!」

 

 雷牙1を叩きのめしてもなお、ピッチには雷冥という脅威が残っている。……しかし、狂気に染まった影山の眼中に彼の姿は映っていない。

 影山はボールがピッチに沈み込むほどの力で踏み込むと、勝ち誇ったように雷牙1を見下ろした。

 

影山「本気ヲ出させデ欲しイ、と言ッたのはドこの誰か……?モう一度言っテみロ……!」

 

雷牙1「ゴホッ!ゲホッ!……ケケケ……!顔を真っ赤にして、怒っちゃってェ……。オマエさんって意外と根に持つタイプだったりすんのかァ……?」

 

影山「御託はイいっ!!!とットト答エろォ!!!!!」

 

 正気を呑み込む圧倒的な狂気の前に、常人であれば精神そのものが恐怖に耐えかねて崩壊を選択してしまうだろう。

 ……だが、目の前の男は違った。上からねじ伏せようとする絶対的な威圧を受けようとも、稲魂雷牙という男の“己(プライド)”が屈する事など未来永劫あり得ない。

 

雷牙1「上等だ……ッ!何度だって言ってやんよ……ッ!!オメーは弱ェ……。三流も三流……ド三流もいいとこだ……ッ!!!何せ、自分(テメェ)の愛(プライド)一つ守れねェ“負け犬”なんだからなァ!!!!」

 

影山「貴様ァ……ッ!!!!」

 

雷牙1「クハハッ!!期待の答え(レスポンス)が返ってこなくて残念だったかァ!?」

 

 どこまでも折れることのない雷牙1の魂を前に、影山は激昂のあまり、その容貌を極限まで醜く歪ませていく。

 

雷牙1「ハッ!!こりゃあ、傑作だぜッ!!!写メを連写して鬼道に見せてやりてェくらいにはなァ!!!ゲハハハッ!!!!!」

 

影山「貴様だケは……!たダデは殺さン……っ!!!コの世に生ヲ受けタ事を後悔さセテやる……ッ!!!!!」

 

雷冥「ーー!!! マ、マズイ……ッ!!!」

 

 殺意を最高潮にまで滾らせた影山は、ただ命を奪う以上の絶望を与えるべく、サッカー選手としての象徴でもある雷牙1の両脚を砕かんと、その巨脚を大きく振りかぶる。

 

 怪物の惨行に気づいた雷冥はすぐさま救援へと踏み出すが、“至高の領域”へ到達した己の速度を以てしても、影山の振り下ろす一撃の方が僅かに早い。

 

影山「底の見エん“絶望”ノ影に沈めェェェぇェ!!!!!稲魂雷牙ァァァァァ!!!!!」

 

 直前の直撃によるダメージは深く、迫り来る影山の一撃を避け切れるほどの体勢は残されていない。

 

 雷冥の救援すら間に合わない以上、雷牙1の選手生命はここで潰えてしまうのかーー。

 

ーー誰もが絶望を確信した、まさにその瞬間であった。

 

???「よくないねェ。正論を言われたからって、暴力に頼るのは」

 

 脚が打ち抜かれる直前、二(・)つ(・)の黄金の影が閃光となって割り込み、雷牙1を凄絶な脅威から救い出す。

 

影山「何……ッ!?」

 

 雷牙1を救い出した黄金の影の正体ーーそれは……

 

雷牙2「よく言ったッ!!過去の俺ッ!!!」

 

雷牙3「オメーの言う通りだッ!!!何人たりであろうとも、許されねェんだよ……!!“己(テメェ)の道”を捻じ曲げる事はなァ!!!」

 

 魂を同じくする者として、ある意味では必然の介入であったと言うべきか……未来の稲魂雷牙たる、雷牙2と雷牙3の二人である。

 

影山「目障リナ老耄共メぇ……!!ドこまデモ……ワタしの邪魔ヲシオってェ……!!!」

 

雷牙2「残念、俺ちゃんの実年齢はまだ24だ」

 

雷牙3「またまた残念、俺ちゃんの肉体年齢はまだ28歳だ」

 

 二人の“雷牙”もまた、過去の自分たる雷牙1と同様に、壮絶な狂気を爆発させる影山へ臆する様子を微塵も見せない。それどころか、不敵なジョークを口にするほどの底知れぬ余裕すら漂わせていた。

 

雷牙2「雷牙1、オメーは少し休んでろ」

 

雷牙1「今回ばかしはサンキュー……!」

 

 雷牙2は自身のアームドすら打ち砕かれた雷牙1をそっと地面へと下ろし、静かに休ませた。

 

影山「もうイい……ッ!!!稲魂雷牙(キさマ)ラが力を合ワせたとこロでェ……!わタシには勝テンぞぉ……!!!」

 

雷牙2「さァてねェ。んなモンは、やってみなくちゃわかんねェだろ?」

 

雷牙3「それによォ……別に俺らだけってワケでもねェし」

 

影山「何……?」

 

 その瞬間、影山の目の前から、突如として大気を揺るがす程の強烈な乱気流が吹き荒れた。

 

イダテン「“魔神 ペガサス”っ!!!」

 

ジャック「“剣聖 ランスロット”ォ!!!」

 

シンフォニー「“奏者 マエストロ”ッ!!!」

 

 フィールドに顕現したのは、狂気の神へ反旗を翻した叛逆者たちの胸に宿る三体の“英雄”ーー。

 この世界を苛む狂気の元凶たる絶対的支配者の治世を破滅させ、明日を切り開くべく、いまここに全霊の力を結集させる。

 

 そして……。

 

バード「僕たちを忘れてもらっちゃ困りますよッ!!!」

 

キャット「いっぺん、そのムカつく顔をブン殴らせてもらうから」

 

ミスティープ「俺達の未来は……!俺達自身の手で掴み取るッ!!!」

 

 化身という強大な力を持たぬ者たちもまた、己の魂を貫き通すべく、果敢に狂気の神の前へ立ちはだかった。

 

雷牙3「どうする影山?多勢に無勢ってヤツだぜ?降参すっかァ?」

 

影山「戯言を……ッ!!!イイだロウ……ッ!少年期ノ稲魂雷牙の前ニ……!まずハ貴様ラから嬲リ殺しニシテやル……ッ!!!」

 

雷牙2「ハッ!!上等ッ!!!けど、一つ訂正しといてやる。嬲り殺しにされるんのは、テメェの方だってなァ!!!!!」

 

 こうして始まった、8人の戦士による1体の狂気の神を討ち破るためのレイドバトル。

 

雷冥「クッ……!私も助太刀しなければ……!」

 

 数の不利すらも力づくでねじ伏せる影山の凄まじいフィジカルの前に仲間たちが苦戦を強いられる中、戦列から取り残された形となった雷冥もまた、救援に駆けつけようと踏み出す。

 

 だが……。

 

雷牙1「待て……!雷冥……ッ!」

 

 肩で息をする雷牙1が、前線へ跳び出そうとする雷冥の制止に回る。

 

雷冥「止めるな、祖先殿ッ!!私は行かなければならないのだッ!!!」

 

雷牙1「ああ……ッ!そいつは俺だってよーく分かってる……ッ!!けどよォ……オメーだって分かってんだろ?……今(・)の(・)ま(・)ま(・)で(・)は(・)影(・)山(・)に(・)は(・)勝(・)て(・)ね(・)ェ(・)っ(・)て(・)……」

 

雷冥「クッ……!」

 

 雷牙1の指摘通り、雷冥自身も痛感していた。

 今の自分では狂気によって暴走した影山に勝つ事など到底不可能ーーそれこそ、シンフォニーとの激闘のさなかに一時的に開花させた“あの力”を以てしても届かないという現実に。

 

雷冥「ならば、どうすればいいッ!?祖先殿ッ!!貴様は……仲間を黙って見殺しにしろとでも言うのかッ!!?」

 

雷牙1「雷牙さんにだってハートはある。そんな非情は真似はしねェっての……。俺が言いてェのは、むしろ……そ(・)の(・)逆(・)だ(・)」

 

雷冥「逆……だと……!?」

 

雷牙1「いいか、雷冥……!俺ちゃんがダウンしてる以上……影山に勝てる可能性があるのは、オマエさんしかいねェんだ……ッ!!!」

 

雷冥「私が……ッ!?」

 

 雷牙1は一息つくと、痛みをねじ伏せるように不敵な笑みをその口元へと取り戻す。

 

雷牙1「ああ、そうさ……!俺の知ってるオマエさんは……!“超限界突破(ゾーン)”を超えた領域……“地平線(ホライゾン)”へ辿り着いてた……ッ!!」

 

雷冥「伝説の領域……!“地平線(ホライゾン)”に……ッ!?」

 

雷牙1「雷冥ッ!!オメーが、地平線(ホライゾン)の領域を“極”めさえすれば、絶対ェ影山に匹敵する力を得られるッ!!!俺はそう確信しているッ!!!」

 

雷冥「つまり、貴様はこう言いたいのだな……ッ!今ココで……誰もが辿り着けなかった場所へ到達しろ、と……ッ!!!」

 

雷牙1「ああ、そうさ……ッ!!てか、もうそれしか方法がねェ……ッ!!!」

 

 若き曽祖父が提示した最後の秘策に、雷冥は一瞬だけ躊躇いを覚える。確かに自分はこの場所で、何としてでも影山を討ち果たさねばならない。

 

 だが、己の到達し得る極致だと思い定めていた“あの力”すら届かないと直感してしまうほど、今眼前に立ちはだかる怪物の存在感は圧倒的であった。

 そのような絶対的な強者に対し、自身が奴に匹敵するほどの潜在能力を秘めているとは、どうしても思い込めなかったのだ。

 

雷牙1「………」

 

 雷牙1は目の前のひ孫が抱く躊躇いを、痛いほどに理解していた。

 かつて自身もまた、全く同じ絶望的な状況に追い込まれ、自信を失いかけた過去があったからである。

 

雷牙1「……チッ、しゃあねェなァ……」

 

 では、当時の己はいかにしてその足踏みを乗り越えたのか。答えは極めて単純であった。ただ一言、言葉を投げかけられたのだ。

 誰よりもプライドが高く、負けん気の強い彼の魂ーーその“導火線”へ、容赦なく火を付ける刺すような一言を。

 

雷牙1「……無様だなァ」

 

雷冥「……何?」

 

 ならば、いま雷牙1の為すべき事はただ一つーー。かつて自分が受け取り、魂の導火線に火を付けた“あの言葉”を、今度はこの場でひ孫へと返(・)し(・)て(・)や(・)る(・)だ(・)け(・)だ(・)。

 

雷牙1「何でも、オマエさんは“フィールドの魔王”って異名を持ってるそうじゃねェか?だがァ?俺ちゃんの眼からすりゃあ、“魔王”じゃなくて“フィールドの赤ん坊”に見えちまうなァ」

 

雷冥「貴様……ッ!」

 

雷牙1「別にオマエさんがやりたくないってならいいんだぜ?俺だって、“条件”を満たしてるんだからなァ。むしろ、そっちの方がいいかもなァ!ダメージを負った今なら“地平線(ホライゾン)”に入れそうだッ!!!」

 

 曽祖父たる男と同じく不屈の誇りを抱く雷冥は、不意の煽りに対して激しい怒りを剥き出しにする。しかし、雷牙1の煽りがそこで止まることはなかった。

 

雷牙1(あと一押し、か……)

 

 ひ孫の鋭い反応を目の当たりにし、導火線が着火寸前である事を確信した雷牙1は、更に語気を強める。そして“魔王”の内に燻る爆弾へ向け、容赦なく最大の燃料を叩きつけた。

 

雷牙1「全時空の命運を懸けたサッカーに、テメェのような腑抜けは必要ねェよッ!!!コレ以上、醜態を晒したくねェなら、そこのベンチで指を咥えて見てたらどうだッ!?ゲハハハッ!!!!!」

 

雷冥「上等だ……ッ!!!」

 

 ひ孫の言葉が“魔王”の異名に相応しい冷徹で底暗い響きへと変わったその瞬間、雷牙1は自身の煽りが完璧に功を奏した事を確信する。

 

雷冥「貴様が終ぞ、極められなかった道など……私が土足で踏み込んでやるわァ!!!」

 

雷牙1「ケッ、手にかかるひ孫だっての。……だが、その心意気や良し(ベネ)ェ!!!」

 

 ようやくひ孫の覚悟を引き出した雷牙1は、懐から一枚の紙を取り出すと、そこに記された内容へと視線を落として抑圧のない声で読み上げ始める。

 

雷牙1「Lesson1ッ!“まずは目を閉じて、心を落ち着かせろ”!」

 

雷冥「こうかッ!?」

 

雷牙1「Lesson2ッ!“視界以外の感覚を最大限研ぎ澄ませろ”!」

 

雷冥「………」

 

 雷冥は曽祖父の指示に従い、視覚を閉ざしてそれ以外のあらゆる感覚を極限まで過敏にする。

 途端にその耳へと飛び込んできたのは、影山の圧倒的な暴力によって蹂躙される仲間たちの凄絶な苦悶の声であった。

 

雷冥「ッ……!」

 

 傷つき倒れる仲間の悲鳴を聴く度、静めようとした筈の感情が怒りによって再び激しく波立ちそうになる。

 

雷牙1「抑えろ、雷冥ッ!!!“地平線(ホライゾン)の境地”へ至る為の肝は……常に感情を抑制する事だッ!!!」

 

 荒狂う感情を力ずくで抑え込み、心の水面を波ひとつない鏡のように静めていく。

 

雷牙1「いいーーるん……だーー」

 

 すると、あれほど喧しかった曽祖父の咆哮すら次第に遠のき始め、その声量も微かな囁きへと落ちていく。

 彼だけではない。先ほどまで雷冥の胸を激しく揺さぶっていた仲間達の凄絶な苦痛の声すらも、もはや今の彼には届かない。

 

 やがて雷冥の意識は、凪いだ心の水面の更に奥深くへと、静かに沈降していったーー。

 

♢♢♢

 

雷冥「……ココ……は……?」

 

 ふっと深く落ちていた意識がゆっくりと浮上し、まぶたを開いた瞬間、身体を包み込んでいた激闘の重圧と過酷な喧騒が嘘のように霧散していた。

 そこには、ただ静寂と穏やかな風だけが静かに通り抜けていく世界が広がっている。

 

 彼の視界いっぱいに映し出されたのは、360度どこまでも広がる、朝焼けに染まった地平線(ホライゾン)であった。

 

雷冥「地平……線……!?」

 

 ようやく状況を理解した雷冥は、自身が地面ではなく天空に浮遊している事実に気づき、咄嗟に落下の衝撃を極限まで殺す体勢を取る。

 

 ……しかし、どれほど待とうとも、全身を打ちつける筈の自由落下の風圧が訪れる事はなかった。

 なぜならーー雷冥は最初から落(・)ち(・)て(・)な(・)ど(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)で(・)あ(・)る(・)。

 

雷冥「どういう事だ……?私は祖先殿の教授を受けーーー」

 

 その言葉を紡ぎかけたその途中で、雷冥はこの果てなき地平線が意味する真実に思い至る。

 

雷冥「いや、待て……!まさか……コ(・)コ(・)が(・)そ(・)う(・)な(・)の(・)か(・)……?」

 

 彼が確信を抱いたその瞬間、昇りゆく朝日の神々しい光が差し込み、雷冥の眼前に一筋の鮮烈な“道”を鮮やかに照らし出した。

 

ーータッタッタッ……

 

 その刹那、どこからともなく軽快な足音が雷冥の耳へと届く。

 

雷冥「なんだ……?この足音は……!しかも……その数は一つじゃない……!」

 

 静寂を塗り替えるように、無数の軽快な足音が鳴り響く。その音源は頭上や足元のみならず、左右の空間全体から立体的に重なり合っていた。

 

 雷冥は息を呑み、足音の聞こえる方角へと素早く視線を向ける。

 

雷冥「な……ッ!!?」

 

 視界に飛び込んできたその信じがたい光景に、雷冥は言葉を失い立ち尽くす。

 

 何故ならーーー

 

雷冥「走(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)……!?数多の人間が、“地平線(ホライゾン)”へ向かって走っている……!!??」

 

 果てなき地平線の彼方を目指し、無数に揺らめく光の残像ーー半透明の“誰か”達が、己の存在を懸けるように一心不乱に駆け抜けていたからだ。

 

 疾走する者たちの大半は、その顔立ちすら定かではなく名前も知らぬ存在であった。……しかし、そのごく一部に交じる“誰か”の面影に、雷冥は鮮烈な見覚えがあった。

 

雷冥「円堂守……豪炎寺修也……鬼道有人……!」

 

 彼らは、雷冥が歩んだサッカーの道を無(ゼロ)から切り拓き、形作ってきた偉大なる先人達であった。

 恐らく顔すら知らぬ無数の“誰か”もまた、同じ志を抱き走り続ける同類なのだろう。

 

 その真実に思い至った瞬間、ふわりと空(シアン)色に染まった柔らかな風が、静かに雷冥の頬をかすめて吹き抜ける。

 

雷冥「貴様は……!いや……!貴(・)方(・)は(・)……ッ!」

 

 その愛おしい後ろ姿を誰よりも熟知する雷冥は、思わず“彼女”を呼び止めようと手を伸ばす。

 ……しかし“彼女”は振り向きざまに優しく微笑むと、静かにその口を開いた

 

ーー『先に行ってる』

 

雷冥「・・・!!」

 

 それだけを言い残すと、その人物は更に速度を上げ、果てなき地平線(ホライゾン)の彼方へ向かって走り去っていく。

 

 雷冥は無我夢中で遠ざかる背中へーー既に点となった女性の後ろ姿へ向けて手を伸ばす。だが、すぐに我に返ると、切なさを押し殺すようにそっと手を下ろした。

 

雷冥「……なるほど、肉体は滅びてもなお……貴方は“そこ”に居るというのだな……」

 

 胸を締めつける切なさに満たされながらも、雷冥の口元には不思議と誇らしげな笑みが浮かんでいた。

 

雷冥「まったく……。どこまでも開拓精神(フロンティアスピリッツ)に溢れた人だ……。たとえこの世を去ろうとも、諦めずに新たな境地へ目掛けて走り続けるとは……」

 

 遠ざかる母の後ろ姿へ向け、雷冥は深く、深くお辞儀を捧げる。

 

雷冥「……ありがとうございます。……マ(・)マ(・)上(・)」

 

 やがてかすれて消えゆく後ろ姿を見届けた雷冥は……突如として、朝日が指し示していた平坦な“道”を惜しげもなく捨て、果てなき虚空へとその身を躍らせた。

 

雷冥「見つけたぞッ!祖先殿ッ!!!私だけの……“地平線(ホライゾン)”をッ!!!!!」

 

 全身を打ちつける凄まじい風圧とは裏腹に、雷冥の意識はまるで深海の底から引き上げられていくような不思議な浮遊感に包まれ、やがて優しく霧散していった。

 

♢♢♢

シンフォニー「ガ……ッ!」

 

影山「多少出来の良イ程度の作品にしテは、ヨく耐えタガ……。所詮、貴様は……“鬼道有人”ノ模造品でシカない……ッ!!!」

 

イダテン「シンフォニーっ!!!」

 

影山「ワタしの前カラ消えロ……!“負け犬”以下ノ……吐瀉物メが……ッ!!!」

 

 裏切り者を根絶やしにすべく、その命すら瞬時に刈り取らんとする惨烈な勢いで、凶悪な巨脚を振り上げた影山。

 

シンフォニー「クソ……ッ!ここまでか……!」

 

 しかしーーー

 

ーービシュンッ!!!

 

『ッ!?』

 

影山「何ダ……ッ!?こノ……圧力、は……ッ!!?」

 

 突如として全身を襲った、言語化すら拒む圧倒的な気迫。

 あれほど猛々しく振り上げられていた影山の巨脚は、叩きつけられる直前にその威勢を奪われ、見るも無残に弱々しく失速して振り下ろされた。

 

???「不思議なモノだな。人は……一つの壁を超えた瞬間に、コレだけ世界が小さく見える生き物だとは想像もしていなかった」

 

影山「貴様は……ッ!!」

 

雷牙1「ゲハハ……ッ!だから言っただろ……?オマエさんにゃあ、間違いなく“その資格”があるって……!!」

 

 “地平線”での奇跡的な再会を経て、新たな覚醒を遂げた魔王。

 その身に蒼炎と白(・)銀(・)の神々しいオーラを揺らめかせ、余計な言葉を挟む事なく、ただ己が到達した至高の領域の名を静かに口にする。

 

雷冥「“獅風迅雷……。究極極限界突破(ビヨンド・ザ・ホライゾン)”……!」

 

 覚醒した魔王から放たれる全能的な威光を前に、“神の力”を得たと豪語していた影山ですら、指一本動かす事すら出来ずに金縛られていた。

 

雷冥「コレが私の“最高到達地点(ゼンリョク)だ……。決着を付けるぞ……!影山零治……ッ!!!」

 

 遂に“至高の領域”を超えた“地平線(ホライゾン)”へ到達を果たした魔王。果てなき因縁に終止符を打つ、最後の刻は目前へと迫っている。




雷牙ーズを除いた影山と【天魔革命軍】の力関係は……

雷冥(No.666/今話ラスト)≧影山(フルパワー)≧影山(通常時)≧雷冥(No.66)>シンフォニー≧キャット>バード=ジャック>イダテン

ぐらいですかね?
正味、不十分とはいえガチモンの上位存在から直接力を与えられた割に、ギリ人間の範疇から逸脱していない雷冥と同レベルってのは、何ともいえない強さですが。
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