『君が雷牙君だね?』
人間の最古の記憶ってさぁ、結構個人差あるらしんだよな。人によっては1歳の記憶がかすかに残っている場合もあるらしいし覚えてないヤツは全部抜け落ちてる。
でも俺にとって最古の記憶は間違いなくこのシーンだなぁ。見ろよこのおっさんの顔。知らん外国人が突然家に入ってきて流暢な日本語で俺の名前を呼ぶなんて嫌でも記憶に残るっつーの。
『…おじさんだれ?パパはどこいったの?きのうからパパがかえってこないんだ…。』
『あーゴメン…。俺の名前はステラ、稲魂ステラ!君のお父さんとは昔からの親友でね。…凄く言いにくいことなんだけどハッキリ言わせて貰うよ。君のお父さんは死んだ。』
死んだ…。当時の俺には死なんて概念があったかも分からない。だが彼の表情を見てもう二度と父さんと会えないことは理解できた。
もうあんま記憶が残ってないけど俺と実の父さんとの中は決して悪いものではなかったと思う。だから失踪とかじゃなくて本当になんらかの事故に巻き込まれて死んだのは確定だろうな。
『しんだってなに?パパはどこにいるの?こんどサッカーをおしえてくれるってやくそくしたんだよ!ねぇパパはどこにいるの!』
必死に父さんの行方をステラさんに聞く俺だけど彼は辛そうな顔をして黙っている。すると俺を抱き抱えてこう言った。
『…ゴメン。君のお父さんはもう何処にもいないんだ…。だから俺が君の新しいお父さんだ、絶対に不幸な思いはさせない。だからついてきてくれないかい?』
当時の俺には父さんの他に身寄りが無かったからこの人について行く以外の道は無かった。それから父さんの葬式が終わって家の遺品を整理した後俺はステラさん…親父が一家の稲魂家の養子に迎えられることになった。
初めて見た時の親父の家は今まで見たことがないくらい広かったなぁ…。どちらかと言えば鬼道の家みたいな歴史ある屋敷って感じじゃなくて一代で財を築いた資産家が建てたスタイリッシュな家って感じ。
スポーツカーから降りた俺を出迎えてくれたお袋…稲魂
雷夏さんはもの凄い美人で今思えば夏未に少し似ていた気がする。
んで稲魂雷斗…ライトは俺と同い年だけど1ヶ月だけ早く産まれているから戸籍上では俺の義理の兄にあたる、ライトは男だけど最初見た時は女の子と見間違えるくらい中性的な容姿をしていた。多分成長してたら風丸みたいな感じになってたんじゃねぇかな?
そして、俺を引き取ってくれた親父こと稲魂ステラ。旧姓はステラ・オーロで名前の通りイタリア人なんだけどお袋が好きすぎるあまり婿入りして稲魂ステラになったそう。当時は日本のプロリーグで活躍していて世界でも屈指の名プレイヤーと評されその活躍ぶりから“彗星のサッカーモンスター”と呼ばれていたらしい。
『え、え〜と…こ、こんにちは!僕ライトっていうんだ!きみはらいがくんだよね!おとうさんからきいたよ!サッカーやってるんだよね!ぼくもサッカーだいすきなんだ!よろしくね!』
『ふふ、雷斗ったらあなたが家に来るって聞いた時からずっとサッカーをやっているか聞いていたのよ。私は雷夏よろしくね雷牙君。』
その日から●●●●雷牙ではなく稲魂雷牙としての生活が始まった。
これ以外の言葉でしか表現できないのが残念だけど稲魂家での生活は俺にとって本当に幸せな日々だった。
親父からサッカーを教えて貰いドリブルが上手いって褒められたこと…
ライトはドジで泣き虫だったけどGKとしての才能がずば抜けて高くて巷では最強のGKの異名を持っていたこと…
お袋は養子の俺をライトと同じくらい愛してくれたこと…
稲魂家の全ての日々が俺にとって宝石のような思い出となっていった。
…だけど俺の心の奥底にはいつも埋められない孤独感が存在していた。
『おい雷牙!なんでさっきの場面でパスを渡さなかったんだよ!』
もはや顔を覚えていないが小学生の頃に同じクラブチームだった上級生が俺に怒鳴る。俺とライトは同学年では勝負にならないため特別に高学年の所属するチームにスタメンとして所属していた。
『あん?あんたにパスを渡したところでシュートを止められるのがオチだろ?そんなんだったら俺がシュートを決めたほうが確実に決まってんだろーが。』
『なんだとお前はまだ2年だろ!俺達上級生に逆らうって言うのかよ!いつもポジションを守らずに自分勝手にプレーしやがって!生意気なんだよ!』
『やめろ!それ以上雷牙の悪口を言うなら僕が許さないぞ!『なんだと泣き虫ライト!』うわ〜ん!雷牙〜泣き虫って言われたよ〜!』
勇ましく俺を庇ったライトだが『泣き虫ライト』と呼ばれた瞬間その異名通りに俺の後ろに隠れて大粒の涙を流す。
『だったら俺と勝負しようぜ。俺がドリブルであんたらを抜くから一度でも止められたら俺の勝ち。そしたら俺がしたいようにプレーさせてもらうぜ。』
俺は好戦的な目をして勝負を持ちかけるが様子を見ていた監督がすぐに仲裁に入り俺だけを諌める。
『…はぁ、なあ雷牙どうしてオマエはなんでもかんでも1人でやろうとするんだ?サッカーはチームでプレーして初めて勝てるスポーツだっていつも言ってるだろう?』
俺には監督の言ってる意味の方が分からなかった。ただ俺が点を取ってライトがゴールを守る。それだけで俺は試合に勝てる、それだけで周囲は最強のコンビとして認めてくれる。寧ろ俺のプレーについてこれないヤツが悪い。
結局監督の説得は俺に響くことはなくその日は解散になった。
『なぁ父さん。なんでクラブのヤツらは俺のプレーを認めてくれないんだ?俺はただ父さんみたいなプレーをしているだけなのに。』
俺は親父をサッカー選手として尊敬していた。ポジションに収まらない巧みなサッカーセンス、縦横無尽にフィールドを駆け回っても息切れしないスタミナ、初めて親父の試合を見た時衝撃は今でも忘れられない。あの日から親父は俺の目標だった。親父のようになるのを目指してサッカーをしていたが1人で全てのポジションをこなす様子を見た連中は俺のことを“サッカーモンスター”とか“怪物”って呼ぶようになった。
『…難しい質問だな〜、でも父さんもお前の年の頃はそうだったなぁ〜。なんでも1人でやろうとしてたら、師匠から何発も拳骨喰らってさぁ…。その度に言われたんだよ。“サッカーは1人でやるスポーツじゃないぞ!その程度で勝っている内はいつまでも“一流”にはなれない”ってさ。俺もまだまだサッカーについて勉強中さ。雷牙だってこれから答えを見つけていけばいい。』 ただこれだけは覚えておいてくれ、何か壁にぶつかった時はまず最初にチームを頼るんだ。いいかい?』
チームを頼る…。あんなヤツらを…?理解できなかった俺は逃げるようにライトを探してPK戦を申し込んだ。
『くらえ!“キングレオーネ”!』
『ほいっと!また失敗だねー父さんの必殺技シュート。』
俺が使っている“キングレオーネ”は元々は親父のシュートだ。だがこの技は特殊な筋肉の使い方をマスターしないとまともに放つことができない高難易度の技である。
『くっそーー、あと少しで何か掴めそうなんだけどなぁ。なぁライト?何かコツみたいなのって聞いてないのか?』
『ん〜〜父さんが言うには、足の筋肉をフル回転させてグワーーッて吠えてズババーンって撃つと完成するらしいからねー。グワーの部分は完璧だけどズババーンの部分はまだ難しいんじゃないかな?』
また出たライト特有のズババーン語。会話6割が擬音で占められるこの言語を習得するのは本当に苦労した。
『…雷牙はまだ今日上級生から言われた言葉を気にしてるの?』
『…んなもん俺に対する嫉妬だろ。別に気にしてねーって…。』
嘘だ。俺は俺のプレーを理解してくれないチームメイトに腹が立っていた。そのことに気づいていたライトはお袋のような笑みを浮かべて俺を慰めた。
『気にしないでいいよ雷牙。僕さ!雷牙がこの家に来てからサッカーがもっと楽しくなったんだ!他のみんなが君を理解してなくても僕は雷牙の味方さ!だから安心してよ!』
…いつもドジで泣き虫な所があるけど、こういう時はマジでお兄ちゃんの顔をするよなライトって。俺は照れ臭くなりそっぽ向くがライトは眩しいくらいの笑顔を浮かべている。
『ねぇねぇ雷牙!今日星見に行かない?最近星がよく見えそうなスポット見つけたんだ!結構広いからサッカーも出来るよ!』
ライトの趣味は星を見ることだった。どれくらい好きだったかと言うと大会で優勝したご褒美にかなり本格的な天体望遠鏡を買ってもらう程度には好きだった。ちなみに俺のご褒美は美味い肉。
『星もいいけどよぉ。もうすぐワールドカップの時期だろー?父さん今回も選ばれるかなぁ?』
『絶対選ばれるに決まってるよ!なんたって父さんは“彗星のサッカーモンスター”なんだからね!』
ライトが見つけ出した場所というのは稲妻町の鉄塔だった。流石に子供1人で行くのは危険だからお袋が付き添いで行くことが多かったけど稲妻町一帯が見渡せるあの場所は非常に居心地が良かった。
『わぁー凄いわねぇ。こんな都会にも星を見渡せる場所があったなんて驚きだわ。いい所を見つけたわね雷斗。』
お袋がライトの頭を撫でて褒める。そして直ぐに俺の頭を撫でてくれるが俺は恥ずかしくなって顔を赤くしてしまう。
俺は恥ずかしくなって逃げてしまう。…これがライトとの最後の思い出だとは知らずに。
その後親父はイタリア代表のキャプテンとして選ばれ、稲魂一家は親父と一緒にイタリアに行くことになった。
……だが今思えばそれが俺達の運命の分岐点だった。
俺は出発前日に風邪を引いていけなくなってしまった。お袋とライトは看病のために残ると言っていたが俺はそれを強い意志で断った。元々俺はこの家の人間じゃないんだ。ならお袋とライトは親父の応援に行くのが当然のことだと思っていたからだ。根負けしたお袋は知り合いのヨネさんに看病を頼み飛行機でイタリアにまで行った。…いや行くはずだったんだ。
その日俺は夢を見た。今よりももっと小さい頃の俺は縦一列に並べられたコーンをかわしながらドリブルをしている。その光景を遠くで見ていた男が1人いる、その男はまるで“怪物”を見るかのような目でを見る。
『なんで…なんであなたもそんなめでおれをみるんだ?おれはなにかわるいことでもしたのか?ねぇこたえてよパパ…』
ひどく懐かしい夢を見た俺は最悪の気分の中テレビをつけた。今日は待ちに待った親父の試合の日だったからだ。今日もイタリアのフィールドに“キングレオーネ”が炸裂する。その光景を考えただけで俺は身体がブルブル震えた。
だけどいつまで経っても親父の姿は見えない。結局その日の試合は別の選手がキャプテンマークをつけて試合を行ったが親父からの連絡すらもないまま一日が終わった。
それからどれくらい経っただろう。風邪も完治した俺はヨネさんに家族はいつ帰ってくるのか聞いたけど何故かヨネさんは悲しそうな顔で『まだ分からないわ』としか言ってくれなかった。…そんなある日警察官が家を訪ねてきた。
『…君が稲魂雷牙君だね?』
警察の人が言ったこの言葉…それにこの光景。俺あの日のことがフラッシュバックしてしまう。
『残酷なことだけど…君達の家族は…』
やめろ。それ以上の言葉を言うな。そんなわけがない。
『亡くなったそうだ……。』
その瞬間俺の中から何かが切れた音がした。
実際に外国人が日本人の婿入りできるか作者は知らないのでイナイレの世界じゃできるってことにしといてください。
稲魂ステラ(ステラ・オーロ):雷牙の義理の父で28歳。雷牙の実父とは幼馴染であり一番の親友だった。現在の雷牙のプレーは彼の影響を受けている。サッカーでは完璧と言われた名選手だったが日常生活ではしょっちゅう忘れ物をしたり、方向音痴で迷子になるなど抜けている所が多かった。名前の由来はイタリア語でステラ=星、オーロ=金から。大切なものは家族全員。
稲魂雷夏:雷牙の義理の母で28歳。高校時代のステラが所属していたサッカークラブのマネージャーを務めており大学時代に付き合い始め、卒業後結婚し23歳の時に雷斗を産む。雷牙のことは実子と同じくらい愛しており雷牙がヤンチャなことをすると無言で圧をかけていた。
稲魂雷斗(ライト):ちょくちょく雷牙が言っていたアイツであり義理の兄弟。兄として雷牙を大切に思っていたが、本人はドジで泣き虫だったため雷牙からは手のかかる弟として扱われていた。だがサッカーの才能と情熱は本物でありGKとして雷牙と共にジュニアチームで活躍した。
稲魂雷牙:今作の主人公であり養子。小さい頃から割と図太い性格だったので稲魂家に1週間で馴染んだ。だが実の親がいないという事実は彼の中に孤独感を生み出し幼少期の彼に影響を与えた。