『君の家族は…亡くなったそうだ。』
俺の…家族が…亡くなった…?嘘だ、そんなことあるはずがない…!
『そ、そんなわけねーだろおっさん!父さんと母さんがライトが死んだなんて認めるもんか!なぁ黙ってないでなんとか言えよ!』
『やめなさい!雷牙君!』
ヨネさんが俺を必死に宥めてくれるが俺は目から出る大粒の涙を止めることが出来なかった。
落ち着いた後知ったことだが、稲魂家を襲った悲劇は鬼道と同じ飛行機事故。イタリアに向かっている途中でバードストライクが起こりエンジンが故障。飛行機の制御が出来なくなりパイロットの努力も虚しく墜落し生存者は0名。この事故は未だにバラエティで扱われるほど有名な飛行機事故として有名になった。
イタリアの至宝である“サッカーモンスター”の突然の死はサッカー界において大きな衝撃を与えた。
数日後に行われた葬儀にはテレビで見たことのあるサッカー選手やサッカー協会の重鎮、有名な実況者も出席していた。
遺影の前に置かれた棺には親父とお袋の死体の一部しか入っていなかった。ライトの死体は捜索されたが見つからず爆発の衝撃で吹き飛んだのだろうと警察は結論付けたらしい。
俺はヨネさんに連れられて葬儀に参加したが未だに立ち直れていなかった。
ここで初めて知ったが親父…ステラ・オーロはサッカーを続けるために実家との縁を切っていたらしく誰1人親族は葬式に参加していなかった。
葬儀が終わった後遺族達は俺の扱いについて話し合っていた。元々俺は親父が勝手に引き取った子供だ、誰も引き取る道理は無い。だが同情だけはしてくれていたのだろう。作り笑いを浮かべて俺にこれからどうしたいか聞いてきた。
俺は再びあの日の光景がフラッシュバックする。実の父親が死亡し稲魂家に引き取られあんな思いはもう二度としなくてすむと思っていた。だが現実はそう甘くないらしい。神様は俺にサッカーの才能をくれた代わりにありったけの不幸も与えてくれた。
俺はどうすればいいか分からなくなってその場から逃げ出した。
ーー気づいた時には俺は家に戻っていた。これは夢だ、悪い夢なんだ、ベッドに入ったらいつもの日常が戻ってくる筈だ…!そう思って俺は眠りに着いた。
…だが残念なことに夢じゃなかった。親父たちは本当にこの世からいなくなっていたのだ。
ヨネさんがある程度落ち着いてから答えを出せばいいと言ってくれたが今更施設に行っても馴染めるわけがない。
俺は逃げるようにボールを持って家を飛び出した。
ーーもう何時間歩いただろう?俺の足が選んだ先は最後にライトと星を見たあの鉄塔だった。
俺は目的もなく鉄塔周辺をぶらついていると木の枝にタイヤがロープでつられているのを発見した。
ただなんとなく俺はタイヤを蹴った。何度も何度も途中タイヤが一周して背中からぶつかったこともあったけど俺は蹴るのをやめなかった。
今の自分のハートを満たしていたのはドス黒い感情。どこにぶつければいいのか分からない憎悪と怒り。ただそれだけを同じ黒色のタイヤにひたすらぶつけた。
ーー何時間蹴り続けただろうな。もはや俺には生きる意味なんて何一つ無かった。この鉄塔は稲妻町の辺り一帯を見回せる程高度が高い。空を見上げればみんながいるあの世に手が届きそうな高さだ。でもそれだけじゃ届かない。みんなと会うためには一度下まで降りる必要がある。
俺はボールを持って申し訳程度の落下防止のための柵に手をかける。
待っててなみんな、俺もすぐにそっちに行くからな。
俺は柵を乗り越えようと足をかけた…だがその瞬間雷のような大きな声が辺り一帯に響く。
『ねぇねぇ君!もしかしてサッカーやってるの⁉︎おれ円堂守!よかったら俺といっしょに練習しようぜ!』
誰だコイツ?急に話しかけてきて練習しようぜだと?
『…いやだ。今の俺にはサッカーをする意味すらない。他をあたってくれ…』
もはや生きる意味すらなかった俺にとって練習の誘いは興味のないものだった。俺は威嚇するように円堂の顔を見るとそこにいたのは満面の笑みを浮かべた少年の姿だった。
あまり純粋すぎる笑顔、それは死んだライトを思い出させるには十分するぎるものだった。
『サッカーをする意味すらないってどう言うことだよ?』
『…しつこいぞオマエ。もうどうだっていいんだサッカーなんて』
『だったら何でサッカーボールを持ってるんだよ?本当にサッカーをする意味がなかったらサッカーボールを外に持ち歩かないはずだろ⁈』
円堂は割と人の心の奥にズカズカと入り込むタイプであるが超えてはいけないラインの把握は一応している。だがこの頃の円堂は良くも悪くも純粋だったためそこらへんの遠慮がなく無意識に俺の地雷を踏み抜いた。
『…黙れ!今あったばかりのオマエに俺の何がわかる!知ったような口を利くなぁぁぁぁあ!!!』
完全にブチ切れた俺は手に持っていたボールで円堂に向けてシュートを打っていた。円堂は咄嗟に止めようとしたが1秒も持ち堪えることができず吹き飛ばされた。
『スゲェ…!スゲェよ、いまのシュート!もう一回打ってくれよ!次は絶対に止めてみせる!』
『凄いキック力だよ雷牙!よしもう一度来い!次は絶対に止めてみせるからね!』
なんだよ…なんだよコイツは!まるでライトみたいに目をキラキラさせてこっちを見ないでくれ…!そんな目で俺を見るなぁぁぁぁあ!!!
ーーあれから何時間経っただろうな…。あれだけ明るかった空ももう真っ赤に染まっており俺も円堂も体力の限界を迎えている。
だが何故だろうな、さっきまであれだけ真っ黒に染まっていたハートがだんだん赤くなっているのを感じる。あと少し…あと少しで何かが掴めそうな気がするんだ…!
『いくぞ円堂!これで終わりだ!』
『こい!今度こそ止めてみせる!』
何百回ゴールを破られても闘志が落ちない円堂の姿を見ると、円堂がさっきよりも何倍にも大きく感じられた。
『うぉぉぉお!!!“ゴッドハンド”!』
そう円堂が叫ぶと一瞬だけ金色の小さな手が出現して俺のシュートが止められた。
勝敗は俺の何百勝一敗という結果だったが円堂はまるで自分が勝ったように純粋によろこんでいる。
はっきり言って羨ましかった。俺はクラブで一度もあそこまで純粋に喜んだことはない。寧ろ勝って当然、俺についていけないヤツは置いていくだけだった。だがコイツは違う、心からサッカーを楽しんでいる。それが負けている時でさえも。
…そうかそうだったんだな親父、ライト。俺とあんたらの違いは
ありがとう、そしてばいばい。俺みんなの分までサッカーするからな…!だから見ていてくれ、俺のサッカーを!
円堂と分かれた俺は急いで家に帰った。俺がいなくなったことに心配していまヨネさんに怒られたが、俺が立ち直っていることに気づくと僅かな笑みを浮かべてくれた。
『ごめんヨネさん。俺施設にも行かないしどっかの養子にも行かない!俺は稲魂雷牙なんだこれからもずっと。だからその…俺イタリアに行きたい!父さんが育ったイタリアでサッカーをしてみたい!お願いします!』
俺の無茶振りに首を横に振ることなくヨネさんは俺の願いを受け入れてくれた。留学費用は親父が残してくれた遺産で賄うことになり、翌週には俺は空港にいた。
船で行くことも考えたが俺はあえて飛行機で行くことを選んだ。なんとか無事にイタリアに到着し俺が1番にしたことは髪を金髪にしたことだった。
鏡に映った俺は家族みんなを思い浮かべて留学先のサッカーチームの扉を開ける。
見ててくれよ親父、お袋、ライト!俺の新たな伝説を!
No side
「…とまあこれが俺の過去だ。そっから小学校卒業してこっち来てから知っての通りってわけだ。」
想像以上に重い雷牙の過去に円堂と鬼道は黙り込むが本人は特に気にしていない。
「い、意外だったなぁ…あの日雷牙がそんなに思い詰めていたなんて…。」
「俺には分かる。実の両親がいなくなる気持ちが、俺は幸いにも春奈がいたが兄弟すらもいなくなったとなればショックは計り知れないだろうな。」
「まぁ何が言いたいかって言うと、誰にも挫折することはあるってことだよ。だから鬼道、サッカーを諦めないでくれないか?」
隠していた過去を話してまで自分とサッカーを繋ぎ止めようとする雷牙の姿を見て先ほどよりかは気持ちが落ちつくがやはりまだ決心がつかない。
「…もしオマエの決心がついたならここに電話をかけろ。じゃあな、帰るぞ守。」
「ちょっと待ってくれよ雷牙!あっじゃあな鬼道!」
雷牙に渡されたメモをジッと見つめる鬼道。ゴーグル越しに見える彼の目には薄っすらとだが闘志の炎が再燃していた。
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〜数日後〜
「次の対戦相手は千羽山中だ!」
2回戦の相手を発表する円堂。そして音無が補足をする。
「山奥で鍛えられた粘り強いサッカーが特徴のチームですね!防御力に関しては今大会No.1との呼び声が高いチームです!」
「負けたとはいえ帝国を抑えてNo.1か、こりゃうかうかしてられないなぁ。」
「でも田舎で鍛えられたって言われるとのんびりしてそうなイメージっスけどねぇ〜」
人の事を言えないくらい呑気なことを言う壁山だがさらなる音無の補足によってその考えが甘いことを知る。
「いえ、千羽山中はシュートには難がありますが、予選含めて失点無しで勝ち上がっています!特に“無限の壁”と呼ばれるキーパー技は数多の強力なシュートを技を受け止めて鉄壁の防御と言われています!」
全試合無失点で勝ち進んだことに僅かな動揺が走るが、雷牙は不敵な笑みを浮かべている。
「心配すんなって!こっちには豪炎寺と染岡とこの雷牙様がいるんだ!んな壁なんぞズババーンってぶち破ってやるよ!」
「そ、そうでやんすよ!雷牙さんの化身があれば攻略は可能でやんす!」
「いや、無理だな。」
栗松の言葉を遮り響木は重い腰を上げる。
「…どういうことっスか監督?俺の化身がヤツらに通用しないと?」
「おそらく通用はするだろうな、“無限の壁”を破れる選手が1人しかいないのが問題だ。稲魂、今1日で最高何回化身を出せるか言ってみろ。」
「…3回。」
「嘘をつくな。それは力を振り絞っての話だろう?今のお前じゃ2回が限度な筈だ。サッカーは2度シュートを打つだけで勝てるスポーツじゃない。前回の伊賀島戦で露呈しただろう、今の雷門には技のバリエーションが足りないことを。」
冷静に今の雷門の弱点を指摘する響木。事実今の雷門にはまだ雷牙と円堂に甘えている部分が多少存在している。
「確かにそうだ、今まで俺たちは稲魂の化身に頼りにりになっていた部分もある。今回は化身は保険として俺たち自身の力で得点をもぎ取るようにしなければならないだろう。」
「豪炎寺の言う通りだみんな!鉄壁は言わば鉄の壁!俺たちはそれを超えるダイアモンドの攻めをすればいいんだよ!」
相変わらず独特な感性のセリフを吐く円堂だがもはや誰も突っ込むことはせずにその言葉に同意する。
「“クンフーヘッド”!」
「“ローリングキック”!」
「“グレネードショット”!」
「“疾風ダッシュ”!」
ようやく練習の成果が出てきたのか次々と新必殺技を覚えていく雷門イレブン達。
雷牙、豪炎寺、染岡は化身に頼らない新必殺技の特訓に明け暮れていた。
「ハァハァ、中々上手くいかねぇな。」
「3人の連携技はそう簡単に上手くいくものじゃないさ地道に行こう。」
「いっそのこと守も攻めに入ってもらうのはどうだ?アイツのシュート力は俺にも劣らないレベルだし。」
しかし日を追うごとに何故か連携が上手くいかなくなり、最終的にはいつもできている筈の必殺技すらまとも発動できなくなっていった。
事態の深刻さに気づいた響木は雷門イレブンを呼び寄せて原因を話す。
「イナビカリ修練場のせいだ。」
『イナビカリ修練場が?』
自分達をここまで成長させてくれた修練場が不調の原因だと言われ皆頭に?マークを浮かべる中響木は淡々と理由を話す。
「イナビカリ修練場によって急激に向上した身体能力に脳が追いついていない、全員な。古い感覚でプレーしているせいで上手くタイミングを合わせることができないんだ。」
「じゃあどうしたらいいんですか?」
「本来なら地道に慣らしていくのがベストなんだが今は時間がない。しばらくは連携を意識する練習を中心にしていくしかないだろうな。」
仕方なく千羽山戦までは連携を中心とした特訓に切り替える雷門だがやはりそう簡単にタイミングを合わせることができず、不安だけが一本的に増幅していく。
「なぁ円堂?本当に千羽山のディフェンスを正面から打ち破る気か?」
「ああ!正面からズバーンとな!俺たちには“炎の風見鶏”も“ワイバーンクラッシュ”だってあるんだ!気合いがあればなんとかなるさ!」
「…決められればな。」
相変わらず根性論を押し通す円堂に呆れる豪炎寺。そこで話を聞いていた木野が近くにいた土門を呼びある提案をする。
「ねぇ土門君、“トライペガサス”を試してみたら?」
「ああ確かに!アレなら行けるかもな!」
土門が言うには“トライペガサス”はアメリカにいた頃に幼馴染達と編み出した3人技である。その技と“フィールドの魔術師”によってアメリカン少年リーグ優勝に導いた技だと伝えられると円堂はその選手は今どこにいるか土門に聞くと土門は指を天に指す。つい最近雷牙の過去を聞いた円堂はそれが何を指すか察し、やや湿っぽい空気になるが結局土門には“トライペガサス”を教えることができないと言われるとついずっとこける。
「残念だけどしょうがないや、…!そうだだったら俺と豪炎寺それと雷牙でシュートを打ってみないか?何が新しい必殺技のヒントが出るかも!」
とりあえず気分転換も兼ねて雷牙を起点に3人でシュートを打ってみると“イナズマ1号”以上の稲妻がボールを纏い3人は新しい必殺技の感覚を掴む。
「な、なんだったんだ今のは…!ボールから溢れた稲妻は“イナズマ1号”の比じゃねぇぞ!」
「これなら行けるかもしれないな!よし稲魂、円堂、今度は5歩先を意識してやるぞ!」
「よーーし待っていろよーーー!千羽山!!!」
新たな可能性を感じた3人はその後日が暮れるまで特訓し、なんとか形を物にすることに成功した。果たした新必殺技は千羽山に通用するのか?
円堂のとの会話シーンは「3年前の約束」と異なるシーンがありますが特に気にしないでください。