雷牙「さァてと……。第二ラウンド始めっかッ!!!」
円堂の血と汗が染み付いた形見のバンダナを、まるでマフラーのように首元へとかけた雷牙が、堂々とピッチへと足を踏み入れる。
その姿は……まさに“怪物”と“伝説”の合流。まるで雷牙の肉体に円堂の魂が憑いているかのようだ。
風丸「ハハ……。稲魂の奴、相変わらず粋な演出家……だな」
圧倒的な威圧感を放ちながら戦場へと降り立った雷牙は、不敵な笑みを浮かべたまま、対戦相手たる【劇団・天魔】の面々へと真っ直ぐ人差し指を突きつける。
雷牙「オイ、ヘンテコなメイクをしたピエロ共ッ!!この試合に勝って……絶対ェ守を返してもらうぜッ!!!」
デスタ「ああン?やってみろよッ!やれるんもんならなァ!!!」
セイン「野蛮で知性のカケラも無い畜生如きが、我らと対等に渡り合えると思うなッ!!!」
立て続けに浴びせられる愚弄に次ぐ愚弄ーーだが、“雷撃の
鬼道「……雷冥、少しこちらへ来てくれ」
雷冥「……貴方が言いたい事は、概ね察してますよ」
鬼道「そうか……。ならば、単刀直入に聞く。俺達はこの島での特訓で以前よりも遥かに力を増した。豪炎寺達“化身使い”ももう一段上の進化ーー“化身アームド”に開眼もした……」
確かに、これまでの過酷な特訓の成果は如実に表れてはいる。……しかし、それをもってしても、現在の【イナズマフューチャー】はピンチに陥っていた。
鬼道の卓越した戦略眼を以てしてもーー【劇団・天魔】の地力強化こそ想定内であったが、背後に控えるSSCの介入、そして『ゴーストミキシマックス』という文字通りのイレギュラーによる急激な戦力増強は、完全に計算の外だったのだ。
鬼道「悔しいが……ハッキリ言って、今の【劇団・天魔】の実力は連携や戦術で穴埋め出来る次元じゃない。俺達が確実に勝つ為には……この逆境をひっくり返せるだけの『追い風』が必要だ」
雷冥「ええ、貴方の考えはよく分かっています。試合の戦況はキャットを通して把握しておりましたから」
鬼道「ならばーーこの3日間、お前が鍛え上げた稲魂とライトに……この逆境をひっくり返すだけの『追い風』を生み出せる自信はあるか?」
雷冥「イナズマ世代一の知将と謳われた貴方らしくもない愚問ですね。貴方様は……コレまで共に戦ってきた戦友の底力をご存知でなくて?」
鬼道「フッ。その人を小馬鹿にしたような笑みは……やはりお前は稲魂の子孫だな」
雷冥の不敵な物言いに僅かに口元を緩ませたのも束の間。鬼道の瞳の色が、一瞬にして冷徹で鋭い『勝負師』のものへと切り替わる。
ピッチ全体を見据え、ベンチ前へと一歩踏み出した彼は、再び迷いのない絶対的な声音でチームメイトたちへ檄を飛ばした。
鬼道「皆、聞いてくれ!次のプレーからは稲魂を中心に攻めるッ!稲魂にボールを集めつつも、豪炎寺とヒロトはサブとして常にシュートチャンスを見計らってくれッ!!」
一同『分かったッ!!!』
鬼道の鋭い号令の下、迷いを断ち切った【イナズマフューチャー】の面々は一丸となり、心機一転して再びピッチへと意識を集中させる。
そう、雷牙の言葉を借りるならば……ここからが『第二ラウンド』だ。
するとーーー
鬼道「……稲魂、最後に……お前には“これ”を渡しておく」
雷牙「あン?ーーどわァ!?何急に投げてんだーーって、コレは……」
不意を突くように鬼道から放り投げられ、慌てて両手で受け止めたそれ。
それは先ほどまで鬼道自身の左腕にしっかりと巻きつけられていた、鮮烈な赤色に輝く『キャプテンマーク』ーーチームの命運と総てを背負う者の証だ。
鬼道「【イナズマフューチャー】のキャプテンは……俺ではなく、お前だ。稲魂」
雷牙「ハァ!?いや〜〜……俺はキャプテンって柄じゃあねェし、キャプテンとしてなら俺ちゃんよりも、鬼道やヒロトの方が適任だろーが」
かつてのエイリア学園マスターランクチームとの総力戦の際もそうだったが……基本的に雷牙は、チームの矢面に立つ「キャプテン」という大役を面倒くさがる傾向にある。端的に言えばーー彼の数多くある『悪癖』の一つだ。
無論、口先だけでなく『自分は組織を引っ張る器ではない』と冷静に判断しての事ではあるのだがーー鬼道の固い決意は、そんな言い訳など一蹴するほど揺るぎないものだった。
鬼道「まだ分からないのか?円堂は封印される直前、お前に向かってそのバンダナと共に『後は任せた』と言った……。ならば、チームの
雷牙「………」
鬼道「それに……お前に最初から拒否権など無い。円堂から“想い”を託された以上、これはお前自身の『使命』だ。そのバンダナを首にかける以上……使命から目を逸らす事は俺が絶対に許さん」
豪炎寺「それに……何も、俺達はお前にキャプテンとしての責任ーー引いては円堂らしさを期待している訳じゃない」
風丸「円堂が出来ない事は稲魂が……。稲魂に出来ない事は豪炎寺が……。そして次は鬼道がーー俺達は今までそうやって支え合ってきただろ?」
雷牙「……ハッ!それもそうだなッ!!!」
仲間達の温かくも力強い言葉に、その背負うべき『使命』の本当の意味を自覚した雷牙は、ニィッと不敵な笑みを浮かべながら、その右腕に鮮烈な赤いキャプテンマークをガッチリと巻きつける……!
雷牙「しゃあッ!!!そんじゃ……
一同『応ッッッ!!!!!』
“怪物”達の合流により、遂に完全体となった【イナズマフューチャー】の反撃はここから始まる。
交代後の【イナズマフューチャー】のフォーメーションは以下の通り。
FW:豪炎寺、熱也、ヒロト
MF:ライト、鬼道、雷牙(キャプテン)
DF:風丸、壁山、雷冥、吹雪
GK:立向居
フィールド全体の基本陣形こそ変わらないもののーー雷牙、ライト、雷冥の加入によって、GKである立向居を除くフィールドプレイヤー全員が自前のシュート技を誇るという、前代未聞の超攻撃的布陣へと変貌を遂げていた。
ーーピーーッ!!!
ヒロト「雷牙君ッ!!」
鋭く響き渡る試合再開のホイッスルと同時に、ヒロトから放たれた正確無比なバックパスが、ピッチの中央に陣取る雷牙の足元へと吸い込まれていく。
雷牙「………」
先ほどまでの侮蔑の色は消え失せ、それなり以上に雷牙を警戒していたデスタとセインは、確実かつ迅速に芽を摘み取るべく、怒濤のスピードを以て一斉に襲い掛かる。
圧倒的なプレッシャーと殺気を放つ二人が目の前に迫るというのに……雷牙の表情に焦りの色は微塵もない。寧ろ、その口元には不敵な笑みすら浮かんでいた。
雷牙「さ〜てと、そんじゃマズは……」
……だが、足元にボールを受け取ったというのに、雷牙は
それどころかーーー
雷牙「ん〜〜……!!」
おもむろに、右脚を天に向かってまっすぐと上げ始める。
しかも、だ。常人の可動域がせいぜい90度程度であるというのにーー試合に集中する敵味方の前で、引き上げられた右脚は文字通りジャスト180度の直線を描き出す。
それは筋肉の柔らかさの範疇をとうに超越しており、まるで足一本が胴体へと完全に密着しているかのような、常軌を逸した驚異的な柔軟性だった。
染岡「おお、スゲェ……!・・・ってッ!!試合中だってのに、何やってんだ稲魂ァ!!?」
デスタ「ハハハッ!!!REON様より頭が悪いとは話に聞いてたが、想像以上の馬鹿だぜッ!!!」
セイン「そのボール貰ったァァァァ!!!!」
驚異的な柔軟性を見せつけて周囲を凍りつかせたかと思えば、肝心の試合中にも関わらず突如始まった意味不明な奇行。
ある意味、日常茶飯事といえばそうだが……その隙を突き、天魔の精鋭による鋭利な刃の如きスライディングが雷牙の足元へと容赦なく炸裂する。
……だが、その刹那ーーー
雷牙「ホイッ!」
垂直に掲げられた右脚は、常人の動体視力を完全に置き去りにする目にも留まらぬスピードで、鋭く真下へと振り下ろされる。
重力と凄まじい脚力を纏った踵は、正確無比なミートでボールを捉えーーあろう事か、正面から迫る敵の意表を完全に突く
立向居「ッ!!??」
そう。文字通りの『真後ろ』なのである。
サッカーとは、常に
立向居「“ゴ、ゴッドハンド”ッ!!!」
反射的に叫んだその瞬間、立向居の右腕から巨大な蒼い神の御手が出現し、猛烈な勢いで迫るボールを直撃する。
だが、相手のシュートを阻むのとは異なり、御手とボールが拮抗勝負を繰り広げる事もなく、白煙を軽く立ち昇らせながらあっさりと立向居の右手へと収まった。
立向居「あ……危なかった……っ!」
間に合ったから良かったものの……今のは、ほんの少しでもタイミングが遅れていたら
雷牙が突飛な奇行に走るなど日常茶飯事ではあるが、流石に今回は度が過ぎる蛮行だ。
ピッチの上も、ベンチの前も、味方達の間に一気に動揺の騒めきが走る。
染岡「おい、稲魂ァ!!!テメェ、何やってんだァ!!!!危うく、オウンゴールになるとこだったじゃねェかッ!!ふざけるにしても、時と場合を考えろっていつも言ってんだろうがッ!!!」
雷牙「カカカッ!そう怒鳴りなんさなって、染岡さんよォ!ただ……ちょっち、目の前の
デスタ「レクチャー……だァ?」
雷牙「そっ!そんじゃあ、最初に……ッ!!フンッ!!!」
ーーブワァ!!!!
刹那ーー雷牙が体内に眠る膨大な
雷牙「コレが俺がこの島で習得した
ヒロト「おいおい……。そのムーブは、まさか……」
自陣のキーパーへわざわざボールを預け、意気揚々と黄金のオーラを立ち昇らせるその異様な姿に、一部の者たちは強烈な
雷牙「そしてコイツが……ッ!!!」
ーーバシュウッ!!!
体内の闘気を更に極限まで膨れ上がらせたその瞬間ーー猛る黄金の気の柱へと、深淵なる紺碧の
雷牙「“獅風迅雷・
セイン「見た目こそは派手だが……所詮は、人間の技術。我らの美的感覚には汚らわしく映るな」
雷牙「ハッ!!言ってろッ!!んでもって、お次がァ……ッ!!!」
その瞬間、全身の皮膚を焦がすようなバーナーの如き荒々しい闘気は嘘のように消え失せ、代わりに周囲の空気までも穏やかに従える、緩やかな清流の如き洗練された流動性へと変貌を遂げる。
雷牙「“獅風迅雷・
またの名を“
サッカーの楽園に住まう、奇妙な河童達との摩訶不思議な体験の果てにようやく掴み取ったーー人類の、いや、サッカープレイヤーの最高到達点だ。
雷牙「厳密にゃあ……“
デスタ「……だが、それがどうした?今見せた、三つの形態は全てREON様から与えられた情報に含まれていた物ばかりだ。その程度のチンケな小細工で我らとの差を埋められると思うなよッ!!!」
雷牙「そうか……。んなら、
セイン&デスタ「「ッ!!??」」
その刹那ーー雷牙の全身から解き放たれたのは、“天使”と“悪魔”という超越的な存在の末裔達を以てしても、これまで一度たりとも感じた事のない、理性を焼き切るような凄まじいプレッシャーだった。
だが、そんな息が詰まるような異様な圧力を前にしても、仲間である【イナズマフューチャー】の面々だけは、微動だにせず鋭い瞳を輝かせる。
そう、彼らはこの底知れぬプレッシャーの正体に、痛いほど深い「覚え」があるのだ。
雷牙「スー……。ハァァァ……ッ!!!」
深く吸い込み、短く吐き捨てる……たった一呼吸の静寂を置いたその瞬間。
先程までの澄み渡るような清流の気配は嘘のように霧散し、全身を包み込んでいたオーラは総てを飲み込む凶暴な『嵐』へとその姿を豹変させ、雷牙の肉体を禍々しく、そして眩く覆い尽くした。
熱也「グ……ッ!」
豪炎寺「この風は……ッ!この変化は……ッ!」
雷牙「ハァァァ……ッ!!!!」
耳を劈く程の暴風を伴っていた筈の嵐は、ある時を堺に急速にその勢いを内側へと巻き戻していく。
ーーポチャン……
それは“怪物”の心境に存在する水面。そこに一滴の水滴が落ちたかのような小さな音が響くとーーその瞬間を皮切りに世界から一切の音が消え失せた。
無限の深淵から湧き上がるが如き圧倒的な重力が、ピッチを歪ませる。
荒れ狂う嵐の中心で、雷牙の纏うオーラが音もなく収縮し、極限まで圧縮されていく。
全ての闘気を呑み込んだ“怪物”がゆっくりと眼光を開いた刹那……“それ”は圧倒的な実体感を以て視界の前へ現れた。
雷牙「カァァァーーーッッッ!!!!!」
『機は熟した』ーーそう言わんばかりに“雷撃の怪物”が天を突く咆哮を上げた瞬間、世界を白く染め上げる眩い白銀の閃光がピッチ全域を一瞬で飲み込む。
あまりの強烈な光量に、敵味方問わず誰もが思わず目を背け、視界を奪われていく。
やがて、荒れ狂う光の奔流がすうっと消え失せ、静寂が戻ったその先に、“怪物”が辿り着いた新たなる神域が姿を現すーーー
雷牙「時間を喰っちまってすまなかったなァ。まだこの変身にゃあ慣れてねェんだわ……。コイツが“
その変化はーーこれまでの派手な変身形態と比べれば、あまりにも“地味”だった。
“至高の領域”の時と比べても気の流れは更に洗練され、外部へと漏れ出す荒々しさは一切ない。
外見上の変化といえば、精々、彼の自慢の蒼眼が
だが……。その静謐な佇まいから放たれるプレッシャーは、これまでの如何なる形態をも凌駕し、次元の違う恐怖としてピッチの空気を支配していた。
デスタ「何だこのプレッシャーは……!? この俺が……震えている、だと……ッ!!?」
セイン「あり得ん……ッ!!我々は……究極の“魔王”となった筈……ッ!!」
雷牙「んじゃあ……。試してみろよ」
不敵な笑みを崩さぬまま、雷牙は自陣で構える立向居へと鋭い視線を一閃させる。
そのアイコンタクトに込められた意図を瞬時に察した立向居は、微塵の迷いもなく右脚を振るい、雷牙へとふわりとしたロングパスを蹴り上げる。
“兆《ビフォアー》”へと覚醒した雷牙の足元へと、天魔の誰もが手出しできない聖域の如き軌道を描いて、ボールが正確無比に渡った。
雷牙「Hey、エンジェル君とデビル君!俺は一人だぜ?カモ〜ンヌ?」
デスタ「舐めやがって……ッ!!!」
“雷撃の怪物”から放たれる余裕の笑みとふざけた煽りは、誇り高き天魔達の逆鱗を一瞬で完全に踏み抜いた。
怒号と共に、セインとデスタの背後から常軌を逸した膨大なオーラが爆発的に噴き出し、狂気を孕んだ“混沌王”と威風堂々たる“聖龍”の巨大な影を形作る。
そしてーーー
デスタ&セイン「「アームドッッッ!!!!!」」
魂の叫びと共に、その強大な化身の力が二人を包み込み、眩い光の奔流となって漆黒と純白のーー最強の『鎧』へと完全に変異した。
ヒロト「一人で行けるか……雷牙君……」
豪炎寺「……信じよう、俺達の仲間を……。そして、俺達のキャプテンを」
デスタ&セイン「「ハァァァァァ!!!!!」」
天使と悪魔の力を身に纏った二人が、大地を抉るほどの踏み込みと共に突撃する。
漆黒の
だがーーー
雷牙「………」
どれほど苛烈な一撃を繰り出そうとも、雷牙は表情一つ変えない。
踏み荒らされる嵐の中心で、彼はただ身体の重心を微かに傾けるだけ。まるで激流のなかに浮かぶ木の葉のように、あるいは悠然と舞う蝶のように、天魔の圧倒的な一撃を紙一重の差ですり抜けていく
風圧すら彼の衣服を揺らす事はなく、触れる事すら許されない絶対的な『間隙』がそこにはあった。
セイン「馬鹿な……ッ!!?貴様のフィジカルは我々はおろか、化身アームドを発動した豪炎寺以下の筈ッ!?にも関わらず……何故、我々の攻撃が当たらんッ!!??」
雷牙「……確かにオマエさんらは、豪炎寺達には勝ったんだろうなァ。……だが、それはオメーら自身の力じゃねェんだよ」
デスタ「何だとォ!!!」
図星を突かれ激昂したデスタは、さらに怒涛の如く攻撃を激化させるーーが、どれほど殺意と怒りを込めた猛攻を繰り出そうとも、一向に雷牙はおろか、ボールを捉える気配すらない。
雷牙「ガルシャアってヤローから特盛の力を与えられた事で、フィジカルは豪炎寺達よりも上だが……肝心の『使い方』がなっちゃいねェ。恐らく、アイツらがもう2〜3日特訓できてりゃあ、力関係は完全に逆転してただろうなァ」
セイン「私達が…… たかが矮小な人間如きに劣るというのか……ッ!?」
雷牙「ハッ!!“たかが”他人から力を与えられたくれーでイキる魔王サマ如きにゃあ、その程度の存在でしかねェって話だよッ!!!」
目の前の天魔達が抱える底の浅さを見抜いた“怪物”は、矮小な魔王に相応しい完全なる敗北を叩き込むべく、纏った黄金と白銀のオーラを更に荒々しく逆巻かせる。
デスタ「な、何だ……このオーラは……ッ!?」
セイン「私の次元が……時間が……いや、生物としての全ての感覚がーー狂わされ、る……ッ!!?」
金銀の閃光をその身に浴びた瞬間、天魔達は己の心身に訪れた不可解な変調に戦慄するーーだが、その閃光に相手の体力を奪うような呪いや、動きを封じるデバフの効力など一切ない。
寧ろ……
デスタ「だが……ッ!!不思議な感覚だ……ッ!!力が……
鬼道「ーー!!! これは……ッ!!?」
ベンチの前で戦況を見守っていた鬼道は、敵の身に起きたその『
しかし……鬼道がその驚愕の事実を仲間に告げようと口を開きかけた瞬間、ピッチの真ん中に立つ雷牙は、ふっと口元に笑みを浮かべ、唇の前に人差し指を立てて「シーーッ」とジェスチャーを作ってみせた。
ーーまだだ、種明かしはこれからだと言わんばかりに。
デスタ「やはり大馬鹿だぜ、こいつはァ!!!どんな意図があるかは知らねェが、敵に塩を送るような必殺技を発動するとはなァ!!!」
セイン「そうだ……! この極限まで研ぎ澄まされた力ならばいける……ッ!! もう、貴様のいいようにはさせんぞォォォォ!!!!」
かつてないほどに全身へ漲る暴虐なエネルギーを、そのまま悪魔的な瞬発力へと変換し、二人の魔王が“雷撃の怪物”へと一斉に肉薄する。
その速度は、“
逃げ場を完全に断たれてしまった強烈な
セイン&デスタ「「な……ッ!!??」」
確かに……天使の悪魔の力を極限まで高めた二人の一撃は、完璧に雷牙の足元を捉えていたーーその筈だった。
だが、現実は違う。彼らの両脚がボールと衝突した瞬間ーー驚くべき事に
……いや、この表現も正しくないか。正確にはーー『二人の肉体が擦り抜けた』と言った方が正しいか。
雷牙『意味が分からない……といった顔をしてんだろ?お・二・人・さ・ん?』
呆然と立ち尽くすセインとデスタの心境を完全に読み透かすかのようにーーその耳元へ、雷牙の小馬鹿にしたような声が直接響き渡る。
しかし――その声の質感は、明らかに普通ではなかった。
すぐ近くにいる筈の少年から発せられているというのに、まるで遥か彼方の異次元からーーあるいは、過去や未来の空間を越えて遠隔から語りかけられているかのように、奇怪なエコーと歪みを伴って彼らの脳髄を揺らした。
雷牙『まァ、言葉で説明するよりも……実際に見てもらった方が早ェか。そんじゃ、後ろにごちゅーもーく!!』
余裕の笑みを浮かべる雷牙に促され、背筋に寒気を感じながらも後ろを振り向いた瞬間ーー二人はあまりの光景に、驚愕のあまり眼球が裂けんばかりに両目を大きく見開いた。
何せ、そこに居たのは他ならぬーーー
セイン「わ、私……ッ!!?」
己自身である筈のデスタとセインその人だったからだ。
雷牙『話すと長くなるモンだから、所々端折って説明するが……今、思考しているのは“精神”なんだよ。俺の闘気によって、感覚だけ暴走させられたなァ』
デスタ「俺達が精神体だ、と……ッ!?」
雷牙『オマエさんらはパワーアップした勘違いしていたが、そりゃ間違いだ。俺の闘気に晒されて感覚が過敏になったせいで、精神だけが暴走して肉体に追いつかなくなっちまったんだよ。その結果ーー』
ーーパチンッ!!!
雷牙「こんな風に、隙だらけの無防備になるってこった」
セイン&デスタ「「グァァァァァーーーッ!?!?!?」」
静寂を切り裂くような軽い指鳴りが木霊した瞬間、異常に引き上げられていたセインとデスタの感覚が強制的に正常へと引き戻される。
だが、それこそが地獄の始まりだった。
「正常」を取り戻したその瞬間に、先ほどまで肉体が置き去りにしていた膨大な負荷と衝撃の全貌が、
想像を絶する激痛に顔を歪めながら、二人の強大な魔王はたまらず絶叫し、ピッチを激しく転がりながら吹き飛ばされていった。
雷牙「コレが俺ちゃんの新ワザ、“
飄々とした調子でそう言い放ちながら、雷牙は最強の先鋒であるデスタとセインを置き去りにして、そのままピッチをゆったりと歩く。
……だが、その進路上にいる残りの【劇団・天魔】の選手達はーーもはや誰一人として、雷牙の前に立ち塞がる勇気を持てなかった。
普段なら人間を矮小な存在として見下し、冷笑していた彼らであっても、もう本能で理解しているのだ。ーーどんなに強大な力を与えられようが、目の前の“怪物”には絶対に指一本触れる事すら叶わないという、絶対的な力の格差を。
ガルシャア「……フンッ。所詮は、下等種族より多少マシ程度の『準』下等種族でしかない、か……」
雷牙「なんだァ?だ〜れも、俺ちゃんとバトってくれねェってのかよ?んなら……ちゃっちゃと決めてやるとすっかッ!!!」
悠々と中盤を置き去りにし、敵陣深くへと到達した雷牙は、退屈そうな溜め息を吐き捨てると同時にーー人間の視覚認識を完全に置き去りにする神速で、ボールを遥か空中へと蹴り上げた。
そして、ボールの軌道を追う間すらない。雷牙自身もまた、それと同等、あるいは凌駕するスピードを以て、一気に天空へと飛翔する。
染岡「おおッ!この技は……ッ!!!」
眩い金色のオーラが爆発的に広がり、その背に神々しい翼を生やした巨大なる『黄金の獅子』が、青空にその威風堂々たる勇姿を現した。
雷牙「“ゴッドレグルス
神獣の如き気高き“
放たれたボールは、眩い黄金の爆炎と咆哮する紺碧の稲妻を纏い、時空の法則すら置き去りにし、全てを粉砕する最強の必殺撃となって、敵のゴールへと牙を剥いた。
アスタロス「クソ……ッ!“魔王ーーー」
圧倒的な格の違い、そして勝負の決定的敗北を理解しながらも、恐怖に背を向けず最後まで立ち向かったその意地だけは讃えるべきだろう。
だがーー“
纏った強大な魔力すらも空間ごとねじ伏せられ、“魔王”の化身を完全顕現させる隙すら一瞬たりとも与えない。
アスタロス「グワァァァァーーーーッ!!!???」
黄金の爆炎と紺碧の稲妻が、アスタロスの肉体を容赦なく呑み込み、絶叫と共に彼を吹き飛ばした。
ーーピィィィィィ!!!!!
ネットを突き破らんばかりの威力を秘めたシュートが突き刺さり、審判の甲高い笛の音がピッチに激しく響き渡る。
スコアボードの数字が書き換わり、雷門陣営から爆発的な歓声が上がった。
一同『いよっしゃァァァァァ!!!!!』
ベンチから飛び出す仲間達、そしてピッチ上の選手たちが一斉に拳を突き上げる。
あの絶対的な絶望を放っていた【劇団・天魔】を相手に、試合を引っくり返す怒涛の逆転ゴール……!
ーータッ!
雷牙「フゥ……!」
着地した雷牙は、静かに黄金と白銀のオーラを収めながら、蒼眼に宿る煌めきをフッと和らげる。
倒れ伏すアスタロスや、呆然と立ち尽くすデスタとセインを見下ろし、ニシシと悪戯っぽく口角を上げた。
雷牙「オット。ちょっとやり過ぎちまったかなァ?」
新たな力を得た“怪物”達の参戦により、逆境は見事ひっくり返され、前半戦も残り10分を切った。
ピッチの支配権は完全に握られ、試合のペースは圧倒的に【イナズマフューチャー】の有利……。
悲願である『円堂守の救出』が、もはや現実的な手の届くところまで迫っている。
……
ーードスンッ!!!
重く湿った鈍い音が
先ほどまで屈辱に震えていた【劇団・天魔】の面々の表情が、一瞬にして絶望の色で蒼白に染まり上がる。
何故ならーーー
ガルシャア「ガルルル……ッ!!!」
デスタ「ガルシャア様が……ッ!!」
セイン「遂にお立ちになられた……ッ!?」
部下達の醜態、そして雷門の圧倒的な輝きに耐えかねたのだろう。絶対的な支配者として君臨していた男が、怒りに震える巨体を立ち上がらせたのだから。
セイン達が冷や汗を流し、恐怖に喉を鳴らしたのは、もはや雷牙の力に対してではない。
ガルシャア「オイ、審判の小娘……。
身の毛がよだつような圧倒的な低音と共に、観戦席から舞い降りた無慈悲なる“狩人”が、音もなく
その一歩を踏み出すごとに、芝生が凍りつき、ピッチ全体の温度が数度も急降下するような錯覚に陥る。
先程までの熱狂と歓声が嘘のようにかき消され、コート全体が恐怖の静寂へと沈み込んでいく。
豪炎寺「なんて凄まじい闘気なんだ……!この威圧感は……REONすらも遥かに凌駕する……ッ!!」
鬼道「奴の“非力”という言葉……あながち嘘ではなかったようだな……ッ!」
雷牙「気合いを入れろよォ、オメーら……。コッからが“本命”だぜ……ッ!!」
遂に出陣を果たした、戦闘の
【イナズマフューチャー】がこの島で培った全てはーー果たしてガルシャアに通用するのか?
はい、結局【劇団・天魔】は雷門イレブンの噛ませ役PARTⅡ及び、ガルシャアの前座でした。
いや……言い訳すると、本当は彼らにも良い見せ場を作ってあげようとはしてたんですよ。実は洗脳されてなくてSSCの力を我が物するべく暗躍するデスタとか、色々やる予定ではあったんです。
ただ……そうすると、この試合がラスボス戦並みに長くなってしまうんで、止むを得ず没にしたんですよ。【ダークエンジェル】ファンの方にはマジで申し訳ないです。
【オリ技紹介】
■
属性:山
分類:ドリブル
使用者:雷牙
進化系統:GB/GoB
《概要》
“
雷牙から発せられる神秘的な覇気により、喰らった相手は五感・平衡感覚・体感時間……etc、全ての感覚が狂わされた結果、精神が暴走。
結果、数秒前の自分自身の虚像を見てしまうような不可思議な錯覚へと陥り、発動者はその隙に悠々と突破する。
……ぶっちゃけ、作者でさえも細かい描写はあやふやですが、確かなのは全ての必殺技がフィジカルでゴリ押すタイプの雷牙にしては珍しい“ヘブンズタイム”系統のスピリチュアルな必殺技という事です。
多分、次回以降からスゲェスピードで敵を抜き去る技みたいな描写になります。
元ネタは、ジョジョ5部の序盤でジョルノが使って、知らん間に設定ごと消えたアレ。