No side
「…あれ?稲魂先輩は今日は来てないんですか?」
いつもなら練習に参加している筈の雷牙がいないことに疑問の声を上げる音無。近くで練習を見ている夏未は嫌なことを思い出したのかため息を吐きながら返答する。
「あの人なら廊下をドリブルで駆け回って指導されているわよ。全く…いつになったら本当に反省するのかしら?」
サッカー部は成長しても副キャプテンの奇行癖は相変わらず直らないことに頭を抱える夏未。
そんな中グラウンドから少し離れて雷門の練習を見つめる人影がいた。
「“ワイバーンクラッシュV2”!」
「“マジン・ザ・ハンド”!」
染岡の“ワイバーンクラッシュ”と円堂の“マジン・ザ・ハンド”が衝突するが流石の“マジン・ザ・ハンド”でも進化した“ワイバーンクラッシュ”を完璧に止めきることが出来ずボールは大きく弾かれる。
弾かれたボールは丁度外から様子を見ていた少年の方に転がり円堂はボールをこっちに寄越すように頼む。
すると少年は不敵な笑みを浮かべてドリブルで駆け上がる。
まず初めに栗松と半田を抜き去ると円堂は目を輝かせる。
「あんなにあっさり栗松と半田を抜くなんてスッゲェ!よし来い!止めてやる!」
少年は爽やかな笑みを浮かべるとブレイクダンスのように片手で体を支え回転し始めると小さな竜巻が発生する。
「“スパイラルシュート”!」
「“ゴッドハンド”!」
少年のシュートに“ゴッドハンド”で対抗する円堂だったが、その威力は想像よりも遥かに高く身体がゴールラインギリギリまで押し込まれるがなんとか止めることに成功した。
「凄いね今の技。俺の負けだよ。」
「そっちこそスゲェな今のシュート!ペナルティエリアからシュートを打っていたら多分ゴールは決まっていたさ。」
「さっきの技といい君は本当に素晴らしい技を持っているね。アメリカの仲間にも見せてやりたいなぁ。」
アメリカの仲間という単語に円堂は目を輝かせる。
「君、アメリカでサッカーやってるの⁉︎凄いな!」
「この前アメリカのジュニアチームの代表候補にも選ばれたんだ。」
「聞いたことがある。将来アメリカ代表入りが確実だろうと評価されている天才日本人プレイヤーがいると。」
鬼道の補足に雷門は騒つく。何故そんなに凄いサッカー選手がここいるのか疑問の声が上がるがその答えはすぐに分かることになる。
「う〜ん一之瀬君どうしたのかな…?昨日夜確かに今日空港に着くって連絡があったのに…。」
「とりあえず連絡待とうぜ。」
後から遅れて来た木野と土門がグラウンドに人だかりが集まっていることに気づき近づく。少年は近づいてきた木野に気がつくと近づきハグをする。
「久しぶりだね秋…。俺だよ!」
「い、一之瀬君…!」
死んだと思っていた旧友との再会に思わず涙が溢れる木野と土門。それを察した雷門イレブンは3人の時間を作るために練習を再開する。
「それにしても何で生きてたのに死んだなんて嘘ついてたの?」
「…あの事故でもう二度とサッカーが出来ないって言われたんだ。その瞬間目の前が真っ暗になってね。こんな俺を見て欲しくないって思って父さんに頼んで死んだことにしてもらったんだ。…心配かけて本当にごめん!」
些かやることが極端な気もするが木野と土門は一之瀬がサッカーが大好きだったことをよく知っている。そんな彼が怪我でサッカーが出来ないと知るとどんな気持ちになるか想像に難くない。
「でも、今まで必死にリバビリを頑張ってきたんだ!それでこの前やっと病院の先生からサッカーをする許可を貰ってね!まず最初に秋達に会いたくなって日本まで来たんだ!」
「へっ!“フィールドの魔術師”と呼ばれた天才MF一之瀬一哉の完全復活ってところか!」
「そうだね。あともう1つコッチに来たのにも理由があって…」
「ボンジョルノ〜皆の衆〜、雷牙さんの完全復活だぜ〜」
ようやく生活指導の説教から解放された雷牙が呑気な顔をしてグラウンドに戻る。それを見た一之瀬は好戦的な笑みを浮かべて雷牙に近づく。
「あ〜誰かなアンタ?もしかして入部希望?だったら練習が終わって…」
「君がイタリアの“サッカーモンスター”稲魂雷牙だね?前にクラリオから聞いたことがあるんだ!俺一之瀬一哉、よろしく!」
クラリオという言葉に最初に反応したのは鬼道だった。
「クラリオだと?稲魂お前、まさか“バルセロナ・オーブ”のクラリオ・オーヴァンと知り合いなのか⁉︎」
「ん〜、イタリアにいた時一回だけ試合しただけよ。それにあの試合結構な大差で負けたし。」
少年サッカー界屈指の名プレイヤーが名前を覚えていると聞き、改めて雷牙は意外と凄い選手であることを実感する雷門一同。
その後、一之瀬は雷門の練習に混ざり雷牙と1対1をする。
「カモ〜ン一之瀬。」
「手加減はしないよ“サッカーモンスター”!」
全国でも屈指の突破力を誇る雷牙と互角に渡り合う一之瀬。その光景を見ている雷門メンバーはざわついている。
今の雷牙を1人で抑えるのは鬼道でも難しいにも関わらず一之瀬は中々雷牙を前に行かせようとはしない。
「へぇ、やるねぇ一之瀬。」
「(この体に刃物が突き刺さるようなプレッシャー…アメリカでもこれほどのプレッシャーを放つ選手はそうそういないな。テクニックはまだ難があるけど身体能力も他の雷門の選手とは段違いだ、クラリオが一目おいているのも納得がいくな…だが負ける気はしない!)」
何度もフェイントをかけて抜こうとするが0.1秒も隙を見せない圧倒的な集中力、それでいて全く狭まっていない視野。
自分がここまで突破に苦戦する選手は1年前のプロトコル・オメガ以来だった。
だが左から抜こうとした瞬間一之瀬は左脚を一瞬だけ庇うような動きを見せてしまい隙が生まれてしまった。雷牙はその隙を見逃すわけがなく遂に一之瀬を抜き去る。
「へっへ〜ん!どーよこの“サッカーモンスター”様の実力は!」
「油断した気はなかったんだけど、まさか抜かれちゃうとはね。」
「まっ、アンタが左脚を庇わなければ勝負は分からなかったさ。もしかして最近まで怪我でもしてたかい?」
雷牙との1対1を終え、今度は円堂がPKをしようと言い出し一之瀬はそれを了承し、お互い30戦15勝15敗で引き分けで終わる。練習がひと段落すると一之瀬は円堂を呼びある提案をする。
「円堂、仲良くなった記念に一緒にやりたいことがあるんだ。」
「やりたいこと?いいぜ!何をするんだ?」
「一之瀬、まさか!アレをやるのか⁉︎」
「そう!“トライペガサス”さ!」
“トライペガサス”は以前土門が言っていた一之瀬達をアメリカンリーグ優勝に導いた技である。だがその難易度は以前習得した“イナズマブレイク”とは比較にならない高さであった。難易度が高い理由は3人の息を100%合わせないといけない点。“イナズマブレイク”は良くも悪くも雷門のサッカーの特徴である個性のぶつかり合いの結晶であるためそこまで高いシンクロ率を求められない。だが“トライペガサス”は元はアメリカにいた幼馴染と共に生み出した技であるため言わば信頼の結晶である。それ故にシンクロ率100%にしなければ成功しないのだ。
その後も何度かペガサスのオーラを出すところまでは成功するもどうしても維持出来るレベルまで完成度を高めることが出来ず、気分転換に雷牙にやらせてみたが円堂以上に我が強い雷牙がやるとペガサスのオーラすら発生せず結局円堂が担当することになった。
「全国大会で使うわけでもないのにここまでやる必要ってあるんですかね…?」
「意味なんか関係無いのよ。円堂君達は一緒にこの技を完成させたいだけ、ただそれだけなのよ。」
「はぁ、男子が考えることは本当に分からないわね…。」
結局その日は“トライペガサス”は完成することなく解散となった。
雷牙 side
「どりゃゃゃあ!“イナビカリショット”!」
稲妻を纏ったシンプルなシュートがゴールネットを揺らす。ようやくモノにしたってところか。さすがに監督のような威力は出てねーがスピードはこれで十分だ。
「まだ練習していたのね。もうそろそろ休んだら?」
「みっちり指導を受けた分の時間がまだなんでね、そっちこそ親父さんの見舞いに行かなくていいのかい夏未?」
お嬢…夏未がまだ残っている俺に声をかけるがまだ指導されてた分の時間は経ってねぇからな。
「怒られたのはあなたの自業自得でしょう…、それにお父様の調子は良くなっているから大丈夫よ。」
口ではああ言ってるけど顔はそうでもないらしいな…。んー気持ちは分かるけど、なんかいつまでもあんな調子だと揶揄い甲斐がねぇなー…そうだ!
「なぁ夏未、ちょっくらツラ貸せよ。」
「私はそんな絵本のようなことはできないわよ⁉︎」
「物理的な意味じゃなくてついてきてくれってことだよ…。」
なんつーか、前々から思っていたけど夏美って天然ってよりかは根が真面目で頭がかなり硬いから世間知らずっぷりと相まって言葉通りの意味を捉えることがちょくちょくあるよな。まぁそれが夏未って感じがするけど。
俺が紹介したのは稲妻町の鉄塔だった。
「…綺麗ね。私も好きよこの場所。」
「んだよ、来たことがあるのかここに。でも夜はもっと綺麗なんだぜ!こっから見る星と夜景がギラギラーンって感じがしてさぁ〜、初めて来た時は感動したっけなぁ。」
「ふふ、出たわねズババーン語。相変わらず意味不明だけど。」
うっせ、稲魂家で生活したら嫌でもこうなるんだよ。まぁでもちょっとは元気でたっぽいしいいや。
「…なぁ夏未、何か悩んでいることがあったらいつでも俺たち雷門に言えよ。最初はあんまいいイメージ無かったけど今の夏未は雷門の一員なんだ、だから1人でなんでも悩む必要はねぇよ。」
「…本当に意外ね、アレだけ私を嫌っていたあなたがここまで私のことを心配するなんて。それだけ私の顔に出ていたってことかしら?ありがとう稲魂君。」
やっと笑ってくれたな夏未。ま、オマエにはいつもの自信たっぷりの態度がお似合いだな。
「アレ?雷牙と夏美じゃん!ここにいたんだな!今から雷門のみんな俺ん家に来るけど一緒にどうだ?」
鉄塔から降りた直後におそらく日課の特訓を終えた後の守とバッタリ会って守ん家に来ないかと誘われた。まぁ暇だし行こっかな、夏未も行くみたいだし。
その日の夜は一之瀬のアメリカのサッカーの話で盛り上がり俺もクラリオとの試合をみんなに話した。途中で差し出されたおにぎりを食べた壁山は何故か悶絶してたけどなんか変な味あったか?
〜次の日〜
一之瀬は今日の午後の飛行機でアメリカに帰るらしい。だからタイムリミットは今日の午前までってことだ。
流石に昨日の練習で慣れたのかある程度まではペガサスのオーラを維持することに成功するがどうしてもシュートまで保たない。刻々とタイムリミットは迫っているがどうしてもあと一歩届いてないって感じだ。すると木野が突然中心点の印の上に立った。
「思い出したの、ペガサスが飛び立つには乙女の祈りが必要だって!」
要するに木野が目印になるってことらしい。…正直危ない気がすっけどな、“トライペガサス”は3人がトップスピードで走り去る技だから誰かが失敗すればいくら木野でも確実に怪我をするだろうな…だけど木野の目は本気だ。あそこまでの覚悟を持っているヤツを止める権利は俺たちにはねぇな。
「チャンスは一度だけ…行くぞ!円堂、土門!」
「「おう!」」
失敗=木野の怪我となった“トライペガサス”の特訓。トップスピードで木野に迫る守たちを見て一年勢は心配そうにヒヤヒヤしているが木野の目は守たちを信頼している。
守達は見事木野にぶつかることなく交差することに成功する。…これはいったか…⁈
「「「“トライペガサス”」」」
今度は空中でオーラが飛散せずシュートを放つことに成功する。
これが“トライペガサス”か…“イナズマブレイク”に負けない威力だな。アレが全国大会で使えたならさぞかし強力な得点源になっただろうな、多分俺が一之瀬の代わりに入っても使えないだろうし。
「秋!このチームは最高だよ!」
「うん!」
“トライペガサス”が成功したことに一之瀬は満足して、俺たちに最大限の感謝を伝える。そして帰りの飛行機に乗るために空港へ出発して行った。
「あの飛行機かなー?一之瀬が乗っているの?」
「さあな、午後の飛行機しか言ってねぇから分かんねぇや。」
練習中に通った飛行機を見つけた守は感慨深そうに飛行機を見つめる。余程一之瀬との練習が楽しかったんだろうな。雷牙さんは嫉妬しちゃうぜ。
「一之瀬ーーー‼︎またサッカーやろうなーーー!!!」
「うん!やろう!」
「ハハハ、守ー聞こえるわけねぇだろー…え?」
聞こえる筈のない返答に思わず声の方向に身体ごと向けるとそこにいたのは帰国した筈の一之瀬一哉だった。
「い、一之瀬⁉︎なんでここにいるんだよ⁉︎」
「あんなに胸がワクワクしたのは初めてだ、だから帰るに帰れない!だからもう少し
一之瀬はそう言うと持っていたチケットをビリビリ破いて日本に残る意志を表明する。
「俺、1つのことに熱く燃えるみんなとサッカーがしたい!円堂たちと一緒にサッカーがしたいんだ!」
「それって雷門に来てくれるってことだよな!よろしくな!一之瀬!」
熱く握手を交わす守と一之瀬を少し離れた所から見ている俺。多分一之瀬の両親は了承してくれたんだろうけど、海外から日本に戻る時の手続きって多分面倒くさいんだよな…ヨネさんがひいひい言ってたの覚えてるし、まっ“トライペガサス”が全国で使えるようになったと思えばいいか
「これからよろしくね“サッカーモンスター”!」
「MFのスタメンは譲る気はねーぜ、“フィールドの魔術師”!」
俺と一之瀬が握手するといつのまにか集まっていた他のメンバーも次々手を上に被せる。すると音無が焦りながら走ってきた。
「皆さーーん!!つ、次の対戦相手が決定しました…!」
「どこだ⁈音無?」
「き…木戸川清修です…!」
昔のチームメイトと戦うことになった豪炎寺の顔は静かにだが、確かに暗く沈んでいた。
過去編書いたばっかなのに久しぶりに雷牙sideを書いた気がする。