??? side
『ゴーール!豪炎寺修也またしてもハットトリック達成です!1年生とは思えない圧倒的なプレーに相手はなすすべもありません!今年度のFFは帝国ではなく木戸川清修が制するのかぁぁぁあ!!?』
ここは…懐かしいな…俺が木戸川清修にいた頃の試合だ。ふっ、次の試合相手が古巣だと聞かされて記憶が蘇ったのかもな。
試合が終わり控え室で着替えをしている俺に同じ顔をした3人組が話しかけてくる。
『豪炎寺!今日のシュートは凄かったな!やっぱりお前は俺たち1年の誇りだぜ!みたいな?』
『決勝の帝国でも期待していますよ。』
『今度俺たちにも“ファイアトルネード”のやり方教えろよー!』
彼らは武方三兄弟。日本でも珍しい三子のサッカー選手だ、そして俺にとっても仲の良い友人でもあった。
そして場面は切り替わり夕香が事故にあった日…FF決勝戦当日になる。
俺はFFスタジアムにはおらず病院の手術室の目の前にいた。
『…豪炎寺さんの息子さんですね。安心してください手術は無事に成功しました。しかし、残念なお知らせがあります。夕香さんは二度と目を覚まさない可能性があります。』
命だけは助かったと聞いた俺は安堵と共に二度と目を覚まさなくなった夕香への深い絶望を味わった。そしてサッカーを諦めることを決めた俺は監督に連絡しサッカー部を退部。
次の日学校で再会した武方三兄弟に言われた言葉は『裏切り者』、それだけだった。
夕香を失った絶望とサッカー部の仲間を裏切った罪悪感から俺は父さんにある条件を守る代わりにサッカー部が存在しないと聞いていた雷門中に転校させてもらった。…実際にはサッカー部は細々と活動していたが。
ピリリリリ…
スマホのアラームの音で俺は目を覚ます。リビングに移動するとちょうど父さんは朝ご飯を食べていた。
「起きたか修也。聞いたぞ次の対戦校は木戸川清修だそうじゃないか。大丈夫なのか?」
「…分からない。だが俺は俺のサッカーをするだけだよ。」
「俺のサッカーか…。またお前の口からそんな言葉が出るようになるとはな。雷門中に転入するための
「ッ!それは…!」
…俺が雷門に転入する際に約束した条件。それは医学の道を進むことに集中することだった。当時の俺は完全にサッカーを諦めていた。だからそのような条件は安いモノだとさえ思っていた。帝国と雷門の練習試合を見るまでは…。
結局俺はサッカーを諦めることなんて出来なかった。
「私はお前がサッカーを辞めて医学の道に進むと言った時本当に嬉しかった。だからお前の我儘を聞いてやったのだ、だが今のお前はどうだ?辞めた筈のサッカーを再開し勉強の方は疎かにになっているではないか。私は修也を約束が守れない人間に育てた覚えは無い!」
「確かに最近医学の勉強が疎かになっていたのは謝るよ。だけど転入の条件にサッカーをしないとは無かった筈だろ。それに今は全国大会中なんだ、俺がいないと皆んなが困るんだ。「…本当にそうか?」え?」
「木戸川にいた頃のお前は確かに絶対的なエースだった、それは認めよう。だが雷門に入ってからはどうだ?確かに点は取っているが、肝心な場面ではキーパーに止められているではないか。寧ろ稲魂雷牙君だったか?あの少年の方が雷門の絶対的なエースとして君臨しているように感じるがな。」
「…つまり俺は今の雷門に必要ないって言いたいのか…?」
「そこまでは言わん。だがお前が抜けても問題は無いように見えるとだけ言っておこう。」
…嘘だ。父さんは嘘をつく時は少しだけ目線をずらして話す癖がある。多分父さんは是が非でも俺に医学の道に進ませたいのだろう、だが俺は父さんの言葉を強く否定できないのも事実だ。
今の雷門には俺より強いシュートを打てる選手が大勢いる。今回のFFで“ファイアトルネード”が決まったことは何度あった?決まらなかった回数を数える方が早い筈だ。
「…だが私も鬼では無い。今回のFFが終わるまでは待ってやる、だがそれが終わった後はサッカーは辞めろ。これは命令だ。分かったな?修也。」
言いたいことだけ言い父さんは家を出る。俺は父さんの正論をただ聞いているだけしか無かった。その事実に自分の不甲斐なさへ静かな怒りを沸かせた。
No side
「「「“トライペガサス”!」」」
天翔けるペガサスがゴールネットを激しく揺らす。
「やっと“トライペガサス”を完全にモノにしたようだなー。」
「俺としてはGKが積極的に前に出るのは反対なんだがな。」
ほぼ100%の確率で“トライペガサス”を決められるようになったが鬼道としては本来ゴールを守る筈の存在である円堂が積極的に前に出ることは帝国時代ではあり得ないことであるため反対ではあるが本人の強い希望の前にはNOと言うことはできなかった。
「もう慣れろよ鬼道、時には常識にハマらないサッカーをする。これが雷門サッカーだぜ?」
「別に円堂がシュートを打つことに反対しているわけではない。シュートを打つ円堂がGKであることが問題なのだ。…前々から思っていたが雷門にはサブGKはいないのか?」
「一応俺がサブ。でも守に比べたらセーブ率は遥かに落ちるぜ?」
雷牙がサブGKであると聞き少しだけ考え込む鬼道。一瞬円堂をDFにでも置いて雷牙をGKにする作戦を思いつきはしたが、円堂と雷牙は根っこが同じモノ同士、どうせゴールにいてもシュートを打ちにくるに決まっている。それならGKとして強い拘りを持つ円堂にシュートを打たせたほうがマシと判断し作戦を没にした。
そこに“トライペガサス”とは異なる爆音が響いた。
「“ファイアトルネード”!」
「ひぇ〜!いつにも増して凄い威力ですね〜豪炎寺さんの“ファイアトルネード”!」
「きっと、木戸川清修に向けて燃えているんスよ!何たって前回の準優勝校っスからね!」
いつにも増して気合いを入れて練習に励んでいる豪炎寺。しかしその表情は何処か焦っているようにも感じられる。
「精が出るな豪炎寺。久しぶりに連携技の特訓でもやらねーか?俺の“ワイバーンクラッシュ”と“ファイアトルネード”を組み合わせればもっとスゲェシュートが出来る気がするんだよ。」
「…分かった。とりあえず“ドラゴントルネード”の要領で染岡が起点になってくれ。」
染岡の提案で“ドラゴントルネード”を超える必殺技を作る練習を開始する2人。しかし…
「“ワイバーン”!」
「“トルネード”!」
“ドラゴントルネード”の要領でシュートを撃ってもどうしても“ファイアトルネード”が“ワイバーンクラッシュ”の威力に負けてしまい上手く調和せず、ただの加速した“ワイバーンクラッシュ”にしかならない。その光景を見て豪炎寺は今朝言われた父の言葉を思い出す。
『お前が抜けても問題は無いように見える。』
「…ッ!すまない染岡。俺のシュートでは“ワイバーンクラッシュ”との連携技を作るのに力不足みたいだ。また別の機会にしよう。」
「お、おお分かった。でも珍しいな豪炎寺がそんなこと言うなんてよ。」
必殺技の失敗は父の言葉を肯定するのと同義に思えてしまう。本当に自分は今の雷門に必要なのか。仲間の1人である染岡の本心を聞きたくなった豪炎寺は1つの質問をする。
「…なぁ染岡。お前は俺が入部した時は敵対心を露わにしていたが今はどうだ?」
「ウグ!嫌な所突いてくるな…まぁでも昔みたいに豪炎寺が嫌いってわけじゃねぇよ。寧ろ今は最高の相棒だとさえ思ってるぜ。」
“相棒”…。本来ならばチームメイトとして喜ぶべき言葉なのだろうが、今の豪炎寺にはどうしても染岡と釣り合う“相棒”になれているとは思えない。
「だったらもし俺がチームを抜けたらお前は1人でもやっていけるか?」
「んだよその質問…、だが答えは分からねぇな。俺って頑固だからよ。抜けた分の穴は稲魂が入るかもしれねぇが別の奴が入ったとなったら多分そう簡単に受け入れられねぇと思うぜ。」
“簡単には受け入れられない”か、それだけ染岡は自分のことを買ってくれているのだろう。その言葉に嬉しく感じるが同時に追いつけていない自分に腹が立つ。するとマネージャーの音無からミーティングを始めるために部員全員を部室に集合しろとの号令が耳に入る。とりあえずこの思考は一旦打ち切ることに決めた。…筈だった。
「木戸川清修はオフェンスに特化した攻撃力の高いチームだ。だから今回はDFがどう動くかが勝利の鍵になる。」
「ならばこちらの攻撃はカウンター重視になるだろうな。豪炎寺、攻守の切り替えのタイミングに注意してくれ。」
「あぁ…。」
鬼道の指示にどこ吹く風といった雰囲気の豪炎寺、それを見ていた円堂は心配をするが、豪炎寺は少しだけ疲労が溜まっているだけと言い練習を早退する。
「本当に珍しいでやんすねぇ、豪炎寺さんが疲労を溜めるなんて。」
「もしかして古巣の木戸川清修と試合することになにか罪悪感を感じてるんじゃない?噂によると去年のFF決勝戦出ていないみたいだし。」
松野が豪炎寺の心境を心配するものの、それを考慮しても調子がおかしすぎる。円堂は何か豪炎寺の身によくないことが起こったのではないかと不安になり少し尾行することにした。
「本当に真っ直ぐ帰るみたいだな。夕香ちゃんが入院している病院とは違う方向にいるし。」
「だけどあそこまで思い詰めた表情するかぁ?まるで死刑宣告を受けたような顔だったぞ。」
「何故俺まで連れてこられたんだ?尾行するなら人数が少ない方がいいだろう。それになんだ稲魂その恰好は?」
巻き込まれたことにぶつぶつ文句を言う鬼道だが、恰好に関しては“ヨーロッパのシャーロック・ホームズ”スタイルを纏った雷牙とどっこいどっこいである。そもそも人のことを言える立場ではない。
すると豪炎寺の前に全く同じ顔をした三人組が現れる。
「よぉ、偶然だなぁ〜“天才ストライカー”君。みたいな?」
「本当に偶然会うとは思いませんでしたよ“裏切り者”さん。」
「未だにサッカーをしているなんて思わなかったよ“腰抜け野郎”!」
会っていきなり罵声を浴びせる三人組に遠くから見ていた円堂は怒りの声を上げる。
「なんなんだよあの三人組は!会っていきなり豪炎寺の悪口を言うなんて!」
「そいつらは確か木戸川清修のスリートップだ。去年豪炎寺の代わりに試合に出場していたのを覚えている。」
「なんか○まごっちにいるよな、あんなキャラ。」
1人だけ場違いな感想を漏らしているが鬼道はガン無視して話を続ける。
「だが実力はおそらく豪炎寺とは天と地ほどの差があるだろうがな。大した奴らじゃない。」
「なぁ鬼道。やっぱ、た○ごっちにいるよな!あんなキャラ!」
「じゃあ豪炎寺の元チームメイトってことか…!だったら何であんな酷いことが言えるんだよ!」
「思い出したぜ!○ちぱっちだ!」
「さっきからごっちごっちうるさいぞ!稲魂!」
空気を読まない雷牙にキレた鬼道が思わず大声を出してしまい尾行していたことがバレてしまう。
「んん〜?アレってもしかしてお前のいるチームのキャプテンか?笑っちゃうぜ陰からお前を見ていたなんてな!もしかして今のチームでも仲間を裏切って信頼を無くしているのか?みたいな!」
「二度あることは三度あると言いますからねぇ。大方肝心の試合から逃げ出したのでしょうね。“あの時”みたいに!」
「いい加減にしろよお前ら!さっきから豪炎寺のことを“裏切り者”とか“負け犬”とか好き勝手言いやがって!俺たちの仲間を馬鹿にするのは俺が許さないぞ!」
「…いいんだ円堂。俺はあいつらの期待を裏切ったんだ。それは変えようのない事実なんだよ。」
「フン、大方同じ一年でレギュラーの座を獲得していた豪炎寺が去年のFF決勝に出ずに負けたことへの恨みってとこだろうな。己の力の無さを他人のせいにするような選手だから帝国に完膚なきまでに負けるんだよ。」
「「「なんだと鬼道!!!」」」
鬼道の分かりやすい挑発にあっさり引っ掛かる武方三兄弟。
「だったらこのシュートを打ち返してみろよ豪炎寺!!!」
モヒカンヘアーの長男である武方勝が豪炎寺目掛けてシュートを打つが豪炎寺は全く動かずすんでの所で円堂がパンチングで跳ね返す。
「もう我慢できない!PKで勝負だ!俺がお前らのシュートを全部止めてやる!」
「何言ってるのか意味が分からない。みたいな?」
「時代遅れの熱血君って感じですねぇ。」
「お前如きが俺たちに勝てるわけないんだよ!」
3人揃って円堂を馬鹿にするが、そこに鬼道が介入する。
「お前らにとっても悪くはないと思うがな。こちらはFW力を、そっちはGK力を見ることが出来る。どちらにとっても五分の利益が発生すると思うが。」
鬼道は五分の利益が出ると言ったがそれは嘘である。確かに情報が出る数自体は同じだがFW側は木戸川のエースストライカーなのである。そのエースストライカーの情報はGKの情報よりも遥かに大きいものであるため、
あえて鬼道は公平な勝負のように話したのだ。
「やるのかやらないのかどっちだ!」
「へっ!いいぜ、“卑怯者”の豪炎寺と違って受けてやる。みたいな?」
お互いの了承を得られたため河川敷に移動する一同だが彼らは気づいていなかった。建物の影に一部始終を見ていたものがいることに。
「た、大変だ…!キャプテンと木戸川清修が喧嘩するなんて…!急いでみんなに知らせないと!」
_______________________
〜10分後〜
「本当に馬鹿だよなぁ雷門のキャプテンは。俺らに決闘を申し込むとはな!」
「「「それなら無敵の“武方三兄弟”の力を思い知らせてあげましょうかぁ!」」」
三人同時にドリブルをすると長男の勝が見たことのあるモーションをしながら飛び上がる。
「これは豪炎寺の“ファイアトルネード”⁉︎」
「いや、回転が違う!」
「○ちぱっちが…飛んだ…?」
「これが豪炎寺を超える必殺技!“バックトルネード”!」
青色の炎を纏いながらゴールに襲いかかる“バックトルネード”。円堂は怯むことなく右手にエネルギーを集中させ黄金の右手を発生させる。
「“ゴッドハンド”!」
「ん…おい鬼道、アレ見ろ!」
雷牙の目線の先には勝と同様に“バックトルネード”を放とうとしている友と努の姿だった。
「くそ!小賢しい真似を!」
「く○ぱっちを汚すんじゃねぇぇぇえ!」
すんでの所でシュートブロックに間に合ったものの真剣勝負をしなかった武方三兄弟に円堂は抗議する。
「なんで他の2人もシュートを打ってるんだよ!1対1の勝負じゃなかったのかよ⁉︎」
「誰が1対1の勝負を受けるっていいましたか〜?そもそも3人でドリブルをした時点でおかしいと思わなかったのが悪いんだよ!みたいな?」
「試合じゃボールは1個だけだろ!ボールを3つ使うなんてそんなのサッカーじゃない!」
「じゃあ1本なら止められるわけだな?へへへ、」
何かを思いついたのか悪い顔をしながらシュートの体制に移る三兄弟。その時聞き覚えのある声が響く。
「やめろお前ら!試合前に喧嘩なんてするんじゃない!」
「え?喧嘩?」
「違うのか?俺は決闘だって聞いてたけど?」
「誰が言ったんだよそんなこと?」
何故か情報が大きく誤解されていることに円堂は疑問の声を上げるがそこに宍戸がまじまじしながら声を上げる。
「だ、だって帰ってくるのが遅いから様子を見に行ってみたらなんか、勝負だ!とか決闘を受けてやる!みたいなことを言っていたじゃないですか!」
「サッカーの勝負だよ〜サッカーの!」
珍しく円堂が呆れながら宍戸の方を見る。そこに車で来ていた夏未がやってくる。
「まぁ、雷門屈指のトラブルメーカーが近くにいればそう勘違いするのも仕方ないわね?それに木戸川清修の皆さん?あなた達もトラブルを起こして試合が出来なくなるのも嫌でしょ?ここは引き下がってもらえないかしら?」
「僕たちは豪炎寺君に挨拶に来ただけですよ。勝負を挑んできたのはそちらのキャプテンでしょう?それにギャラリーも増えてきましたからね。」
「「「見せてやるぜ!武方三兄弟の必殺技を!」
3人同時に走り出すと勝が起点となりシュートを努に向けて打ち、努がそのシュートを空中に蹴り上げる。勝を踏み台として友が高く飛翔しシュートを決める。
「「「“トライアングルZ”!」」」
最後に独特なポーズを決めながら技名を叫ぶ三兄弟。しかし円堂は臆することなく体を捻り気を胸に集める。
「“マジン・ザ・ハンド”!」
無敵の筈の武方三兄弟の必殺技シュートはあっさりとマジンの右手に収まる。
「なっ!」
「ぼ、僕たちの!」
「最強シュートが…!」
「「「あんなにあっさりと止められただと⁉︎」」」
3人の綺麗な三連単が決まり唖然とする武方三兄弟。そして勝ち誇る円堂。
「どーだ!俺の勝ちだな!これで豪炎寺の悪口を取り消せ!」
「ふ、ふん!俺たちが負けじゃないと認めなければ勝負負けたことにならないし!みたいな!」
あまりに幼稚な理論で負けを認めようとしない三兄弟だがそこに大人の怒声が響く。
「こらーー‼︎お前達!サッカー選手ならば試合で正々堂々と勝負をつけろ!」
「「「わ、分かりました…監督。」」」
「あのおっさんどっかで見たことがあるような…。」
武方三兄弟を叱っている監督と呼ばれている男に強烈な既視感を感じている雷牙。男は豪炎寺との再会を喜んだ後雷牙の視線に気づくと目を大きく開く。
「き、君!もしかして雷牙君かい⁉︎大きくなったなー!」
「あのーすみませんけどどちら様っすか?」
「お前二階堂修吾を知らないのか?木戸川清修の監督で元日本代表選手だぞ。」
「最後に会ったのも小さい頃だったし仕方ないか。私はプロ時代にステラと一緒のチームに所属していたことがあってね。ステラはいつも君とお兄さんのことを話していたよ。こんなに立派に成長しているとはね。」
「…二階堂さんでしたっけ?親父は俺のことなんて言ってました?」
「自慢の息子達だって言っていたよ。彼が亡くなったと聞いた時は本当にショックだったな…。本当に惜しい選手を亡くしたよ、アレほどの選手は未だ現れていないしね多分これからも…「なりますよ。」…!」
「俺が親父の後を継いで新たな“サッカーモンスター”になりますよ!」
大口を叩く雷牙の姿を見た二階堂は彼に死んだ友人の面影が見え、満足したように微笑む。
「頼もしいな君は、でも不思議と不可能には思えないオーラを感じるよ。今度試合は楽しみにしている!行くぞ西垣…?」
三兄弟を見つけるという目的を果たしたため西垣と共に帰ろうとする二階堂だが西垣もアメリカ時代の旧友との再会を楽しんでいたため無粋な真似をしないようにそっと河川敷を離れようとする。その時豪炎寺が二階堂を呼び止めた。
「…監督。少しだけ質問させてください。」
「いいぞ、俺が答えられることならなんでも聞こう。」
「俺が木戸川にいた時のプレーは監督にとってどのような印象でしたか…?」
豪炎寺の質問に二階堂は少しだけ面を食らう。
「…そうだな。率直に言わせてもらうと1年前の君のプレーは“ギラついていた”。それだけ言わせてもらおうかな。」
かつての監督の言葉に豪炎寺はどこか納得したような顔をする。それを見た二階堂は次の試合に何かが起こる予感を感じとり帰路に着く。
暫く悩んでいた豪炎寺はある決意を決め、同様に帰路に着いた。
〜数日後〜
遂に木戸川清修との試合前日になった今日。雷牙は何故が豪炎寺に呼び出され河川敷に来ていた。
「なぁ豪炎寺〜、用って何よ?もしかして愛の告白かい?だとしたら答えはNOだぜ〜」
「…告白か、ある意味そうかもな。」
冗談言った言葉を何故か肯定する豪炎寺の姿を見て思わず、身構えてしまう雷牙。まあ豪炎寺もそっちのケは無いが…。
「今日お前を呼んだのはただ1つ。お前に覚えてもらいたい技があるからだ。」
「お、覚えてもらいたい技…!もしかして新しい必殺技か⁉︎」
「いや、“ファイアトルネード”だ。」
「“ファイアトルネード”かよ!でもなんで急に?別に今度でもいいだろ?」
「…駄目だ。稲魂には今日中に覚えてもらう。響木監督には許可をとってある。」
雷牙の拒否権は一切存在せず、ひたすらに“ファイアトルネード”の練習をさせられる。元々恵まれた身体能力のお陰でフォームはすぐにマスターするもののどうしても気を炎に変換することができず。ただのシュートにしかならない。
「もっと自身が炎を出すイメージをするんだ!炎が出ていないのはイメージが足りてない証拠だ!」
「なんで一方的に巻き込まれただけの俺がこんなに怒られるないといけないんだ…?あーーもう!やってやんよ!“ファイアトルネード”をマスターしてやらぁ!」
何度も挑戦するものの一向に炎が出る気配すらない。ちょくちょく本人から実物を見せてもらいはするもののどうしても自分から炎が出てくるイメージが沸かない。
「ハァハァ…なぁ豪炎寺。オマエはいつも気を炎に変える時はどんなイメージをしているんだ?」
「…特にイメージはしていない。強いて言うなら感情を心臓から血脈を通って外に放出するイメージだ。逆に聞くが稲魂は“イナビカリショット”を出す時どんなイメージをしているんだ?」
「ん〜〜〜、体に溜まっている気をドロドロからビリビリに変えて、ある程度変換させ終わったらズババーンっと放出イメージだな〜。…まてよ豪炎寺、雷って落ちたら炎が発生するよな?」
「確かにそうだが…何か掴めたか?」
「次はイケるかもしれねぇ!よし!やるぞ豪炎寺!」
雷牙はボールを空中に上げ豪炎寺とは逆の左回転をしながら上昇していく。その際雷牙は頭の中で“イナビカリショット”を撃つ時と同じイメージを浮かべる。だが身体中にある気全てをビリビリに変えるのではなくある程度ドロドロの部分を残しておく。そのドロドロに電流を流し込むイメージをするとそこから炎が燃え出している感覚を掴む。次第に雷牙の体からも炎が発生しシュートを叩き込む。
「“ファイヤートルネード”!」
これこそ豪炎寺直伝の“ファイアトルネード”である。
「…“ファイヤ”じゃない。“ファイア”だ稲魂。フッ、だが遂に完成させたか…!」
「んでコレを覚えてどうすんの?なんか新しい必殺技を考えたとか?」
改めて雷牙が理由を尋ねても豪炎寺は『ただなんとなくだ』としか答えない。だが帰り際に豪炎寺は雷牙に質問をする。
「なぁ稲魂、もし俺が雷門を離れてもお前はFWになってくれるか?」
「あん?んだよ豪炎寺、そんなこと言ったって別に俺はFWに拘ってるわけでもねーしなー。まぁでもオマエの意思はある程度継いでやんよ。ズババーンと任しときな!!!」
「…その言葉が聞けただけで十分だ。じゃあな稲魂、明日は遅刻するなよ。」
「おい、豪炎寺!…んだよ今日はいつにも増して強引な事ばかりしやがって…。」
河川敷で1人になった雷牙はもう少し練習しようと考えたが明日に疲れを残していたらマズいと考えたので『木枯らし荘』に帰ろうとする。しかし、ここ数日で感じ取った豪炎寺の違和感がどうしても頭から離れない。
「なーんか最近の豪炎寺ってずっと真面目な顔してサッカーしてるよなー、千羽山まではある程度笑みを浮かべながらサッカーしてたのに…いや待てよ…確かあの時…」
その瞬間ある記憶が脳内に駆け巡る。それは帝国との練習試合を終えた後に身体の検査の為に病院に行った日の記憶だ。
『……。今は君と同い年だが、私と同じ医者の道を進むと約束していてね。最近はドイツ留学に向けてドイツ語の勉強に励んでいるよ。』
あの時は特に気にしていなかったが、豪炎寺は父親に医者の道に進むと約束していた。ここで頭を掠めるのは『豪炎寺は父親からサッカーを続けることを反対されているのではないか?』ということだった。
行動派の雷牙は居ても立っても居られずある人物に電話をかけた後、急いで豪炎寺を追いかけた。数分走ると辺りは暗いが白髪にトゲトゲの髪型というどう見ても豪炎寺にしか見えない人影を見つけたため声をかける。
「おい豪炎寺!ちょっと待て!」
「いきなりどうした稲魂⁉︎早く帰れと言っただろう。」
「やっと分かったぜオマエの不調の原因がな…!」
「…なんのことだ。別に俺は不調じゃな“異議あり!”…いきなり大声を出すな…」
「はん!オメーは必死に隠し通そうとしてるみてーだが、この“日本のフェニックス・ライト”には通用しねーぜ!俺は少し前に豪炎寺の親父さんに聞いたんだよ、オマエが今医者になる為に勉強してるって。大方親父さんにサッカーを続けることを反対されてんだろ?」
まさか父が自分のことを喋っていたことに動揺する豪炎寺。その反応をYESと見なした雷牙は言葉を続ける。
「…なぁ豪炎寺こんな時間になったけどちょっとツラ貸せよ。ちょっと話そうぜ。」
仕方なく豪炎寺は近くのカフェにより今自分が置かれている状況を話す。
昔は父は自分がサッカーすることを認めておりたまに練習に付き合ってくれたこと。
幼い頃に母が亡くなってから父は医学の道を進むように言ってくるようになったこと。
サッカーを諦めていた時に医者の道に進む代わりに雷門中に転入することを約束したこと。
「まぁざっとこんな所だ。笑ってしまうよな、雷門で活躍できていないことを強く否定できないなんてな。俺だって努力はしてきたつもりだ、点だって取ってきた。だけど父さんの心に響くサッカーは出来ていなかったらしい。」
雷牙は頼んだチョコレートパフェを食べながら真剣に話を聞く。
「…分からないんだ。今俺が感じている感情は“サッカーを俺から引き離そうとしている父への怒り”なのか“父にあのような事を言わせるプレーしかしていない自分への怒り”なのかが…。」
豪炎寺はサッカーに対しては何よりも真剣に取り組んでいたつもりだった。それは1年前も今も変わらない。だが父には雷門での試合は心に響いていないかったという事実。それもサッカーを続ける事の反対と同じくらい悔しいものだった。
「誘っておいてなんだけどよ。俺にはどっちが正解なのか分かんねぇよ。たださ“いつもの”豪炎寺修也だったら言葉で語るよりも先にサッカーで語ってんじゃねぇか?」
「サッカーで語るか…フッ、そうだな稲魂、お陰で少しだけ気が楽になった。礼を言う、もう遅いし今日はここで解散だ。明日の試合は遅刻するなよ。」
豪炎寺は最後に一度だけ父と向き合う覚悟を決めた。おそらく自分が何を言っても父は話を聞かないだろう。それは言葉を介した対話だからだ。だが自分にはもう一つ、言葉を用いない対話を行うことが出来る。最後の賭けだがコレに賭けるしかない。豪炎寺はそう決意し父のいる我が家に帰る。
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〜数時間後〜
夜10時を回った頃、今日の業務を終えた豪炎寺の父の勝也が病院を出ると1人の大柄な男性が前に立つ。
「…どちら様だろうか。」
「夜分遅くに申し訳ありません。私は雷門サッカー部の監督をさせていただいている響木正剛と申します。豪炎寺修也のお父さんですね?少しだけお話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
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「父さん、明日の試合を見に来てくれないか。」
深夜零時を回ったというのに起きていた息子の第一声に少しだけ驚きを見せる父勝也。
「…何故だ。私がサッカーを嫌いだと分かっているだろう。」
「そんな筈はないだろう!父さんは小さい頃はサッカーの練習に付き合ってくれたし忙しい中試合を見に来てくれた!今も嫌いだって言いながら俺の試合の動画を見てくれているじゃないか!」
「…息子の活躍を見るのは親としての義務だからだ。それだけでは私がサッカーが好きだという理由にはならない。それとも何だ?実際に試合を見る事で考えを変えると思っているのか?」
「…ああそうだ!俺は明日の試合で証明してみせる!俺は雷門の“エースナンバー”を背負う男であることを!もし、父さんの心に響かなければその試合でサッカーを諦める!」
息子が億に一つも無いであろう可能性に命を賭けると言わんばかりの表情に一瞬亡き妻の面影を見てしまう勝也。
ここで行かないという選択肢を取る事も可能である。息子の夢を奪おうとする障壁であると同時に1人の子の親なのである。これほどの覚悟を決めている息子の顔を見て断ることなど出来る筈が無かった。
「……いいだろう。だが私が考えを改めて無かった場合は有無を言わさずサッカーを辞めドイツ留学に行って貰う。今引き返せば決勝戦までサッカーを出来るが本当にいいのか?」
「ああ、それでいい!……ありがとう父さん。」
父親が試合を見に来てくれると約束してもらい明日に備える豪炎寺。1人になった勝也は亡くなった妻の仏壇の前に座り込み、聞こえる筈が無い質問を妻に対して問いかける。
「聞いていたか?修也は明日の試合にサッカー人生を賭けるらしい。もっと慎重な考えをする子だと思っていたが子供は親の思い通りに育たないとはよく言うな。…私はどちら選べばいいんだろうな?お前の夢と修也の夢を…」
仏壇に立てかけられた遺影は何も答えずにただ沈黙だけが豪炎寺家を包み込む。亡き妻と話していた勝也の表情は“医者”としての顔ではなく“父親”としての顔でもない。ただ1人の人間である“豪炎寺勝也”としての顔であった。
_____________________
〜次の日〜
遂に迎えた試合当日。控え室に向かう途中、またしても豪炎寺に武方三兄弟が難癖をつけに来たが今度は二階堂が先回りをしていたため特に大きなトラブルは起きずに済む。
「今回のスターティングメンバーだ、確認しておけ。」
いつも通りスターティングメンバーが書かれたボードが部員の前に置かれるがそこに雷牙の文字が入っていない。
「え〜と監督〜?雷牙さんの名前がボードに載ってないんですけど〜?」
「お前は前回俺の指示を無視したからな。罰として今回はスタメンから外す。」
殆ど自業自得とはいえスタメンから外されたことにショックを受け膝から崩れ落ちる雷牙。実際アレだけ念を押されたのにも関わらず前半に化身を使い、慣れていない体でシュートを打った結果ゴールを外したあげく、危うく負けそうになったプレーをしたならば、当然と言えば当然であろう。
「あはは…、スタメンは外されちゃったけど気は抜かないでくれよ雷牙!意外とすぐに出番は来るかもしれないからな!」
「それはそれで問題だと思うけどなぁ…。」
お灸を据える意味も込められた今試合限りのスタメン剥奪のためおそらく後半になるまで雷牙の出番はないと思うがとりあえずフォローはする円堂。そんな中豪炎寺はいつも以上に気合いを入れていた。
「今日はいつにも増して気合いが入っているな豪炎寺!バンバン点を取ろーぜ!」
「ああ、絶対にな…!」
豪炎寺の瞳には約束通り来てくれた父の姿が映っている。遂に始まる木戸川清修との因縁の対決、豪炎寺は内に秘めた闘志を最大限に燃やし開始の合図をただ静かに待っていた。
かなり早い展開ですが、やりたい展開があったので豪炎寺と父親の確執をここで消化します。多分次回は半分以上がオリジナルストーリーになると思うんで少し更新が遅れます。