No side
今回の雷門のスタメンは以下の通り。
FW:染岡、豪炎寺
MF:半田、少林、鬼道、宍戸
DF:風丸、土門、壁山、栗松
GK:円堂
千羽山戦で監督の指示を無視したことによってスタメンから下ろされてしまった雷牙。本人はベンチに胡座をかきながら座っている。
そんなこんなで遂に始まった雷門VS木戸川の因縁の対決。雷門キックオフから試合が開始するも豪炎寺は珍しく単独攻め込む。
「…珍しいっすよね監督。いつもなら染岡とのワンツーで突破する場面ですけど、1人で突っ込むなんて。」
「本人の古巣なんだ、ある程度は木戸川の攻め方が昔と違ってないか確認する意味もあるのだろう。…それでも1人で突っ走りすぎな気もするけどな。」
ベンチにいる雷牙と響木は豪炎寺の行方を静かに見守る。だが豪炎寺は見事なテクニックで木戸川のディフェンスを突破している。
「今度は俺が相手だ豪炎寺!」
一之瀬の幼馴染であり木戸川の守備の要の西垣が豪炎寺を止めようとする。その瞬間豪炎寺の足からボールが消滅する。
「ボールが消えた⁉︎どこだ⁉︎」
「西垣上だ!上を見ろ!」
豪炎寺はあまりに自然な動きでボールを上空に上げる事で西垣の目を欺き、悠々とディフェンスを突破する。
「まずは一点を貰う!“ファイアトルネード”!」
「さ、させないぞ!“タフネスブロック”!」
何とか“ファイアトルネード”を止めることに成功するGKの軟山。しかし1年前よりも成長している“ファイアトルネード”に大きく体力を削られる結果となった。
「豪炎寺のヤツ、あんなヒールリフトが出来ることを隠していたなんてなぁ。」
「…隠していたんじゃない。披露する機会に恵まれなかっただけだ。」
「披露する機会がなかっただけ?そうっすかねぇ?」
「木戸川清修は1人のエースにボールを回させることを徹底している。だが木戸川に在学中の豪炎寺は連携が崩された時に備えて1人でも突破できるように練習していたそうだ。その結果ヒールを中心としたテクニックを身につけたらしい。」
「…要するに木戸川は1人の主役とそれ以外の脇役で構成されたサッカーってところか…。確かにウチみたいな連携重視でガンガン攻めるチームだったら単独で突破する機会は俺以外無いか…。」
響木の解説に納得する雷牙であったが、響木としては少し嫌な予感を感じている。その原因はやはり豪炎寺だ。
数日前、本人からFFが終わったら父との約束を守るためにサッカーを辞めると言われた。その時は本人の強い意向で深くは詮索しなかったものの、その日の夕方に雷牙から響木宛の連絡があり、豪炎寺の意思は関係ない可能性があることを知った。
そこで響木は豪炎寺の父親の勤務先を雷牙から聞き本人の話を聞きに行ったのだ。
(…本人からの話ではサッカーを辞めるのはFFが終わってからの筈…。確かにこの試合に負ければそれで終了だが、それにしても必死すぎる。豪炎寺…お前は何をそんなに焦っているんだ…?)
響木の懸念は司令塔の鬼道にも感じていたのか、ボールがラインを割り試合が止まった際に注意を促す。
「豪炎寺、あまり1人で前に出過ぎるな。これからは常に染岡との連携を意識して攻め続けろ。染岡は“ワイバーンクラッシュ”を撃つ姿勢を整えておけ、おそらく“ドラゴントルネード”では木戸川のGKを破れないだろう。だがあっちも俺たちに対して有効打点がない、先制点を取れれば後が楽になる。」
「おう!」
「…分かった。」
相変わらず暗い表情をしながら返事をする豪炎寺。だが今度は指示をちゃんと聞いていたようで連携を意識しながらプレーが出来ている。なんとか木戸川のディフェンスを躱わし、染岡にボールが行き渡ると同時に飛龍を出現させる。
「“ワイバーンクラッシュV2”!」
雷門単体最強技である飛龍の咆哮がゴールに襲いかかる。あまりの威力に冷や汗をかく軟山だがすぐに覚悟を決めるとDF2人を自身の後ろに立たせ、踏ん張りを強化する。
「「「“トリプルディフェンス”!」」」
3人によるシンプルなキャッチ技であったがその威力は源田の“フルパワーシールド”にも劣らない。
染岡の“ワイバーンクラッシュ”は公式戦では初めてキーパーに止められてしまった。
「俺の“ワイバーンクラッシュ”も通用しないのかよ…!」
「染岡でさえ駄目となったら“トライペガサス”を使う事も考えないとな。…! おい豪炎寺!止まれ!1人で突っ込んだ所で無駄に体力を消耗するだけだぞ!」
リスクの大きい“トライペガサス”を使う事も考慮に入れなければならないと考えている鬼道の前を豪炎寺が走り去る。
「ボールを寄越せ!“バーニングカット”!」
炎の刃が木戸川選手を吹き飛ばしボールを確保するが、気がつくと他のDF3人に囲まれている。
「お前たち、豪炎寺の対策の為のあの技をを使うぞ!」
「「おう!」」
西垣はDFに指示を飛ばすと、豪炎寺の周りをトップスピードで走り出す。すると大きな竜巻が発生し、豪炎寺の視界は完全に遮断される。その光景に思わず隙を見せてしまうと木戸川DFは一斉に豪炎寺に向けて突撃しあっさりとボールを取り返されてしまう。
「「「“ハリケーンアロー”!」」」
「ぐぁぁぁぁぁあ!!!」
確保したボールは武方三兄弟に渡り、兄弟の武器である息のあった連携によりDF陣は翻弄されてしまう。
「DF!よくやったと褒めてあげましょう!」
「ここからは俺たちが決める!みたいな!」
「俺たちの連携を崩せる奴はいないっしょ!」
武方三兄弟は切り札の“トライアングルZ”を放つ。しかし、河川敷の決闘の際と変わらず“マジン・ザ・ハンド”によって防がれてしまう。
木戸川は中盤とFWの連携が次第に崩れ始めており、元々短期な努はMF達に苛立ちを見せる。
「くそ!お前ら!もっと俺にボールを寄越せ!」
「何言ってんだ努!監督から言われただろう!正面から雷門のキーパーを破るのは無理だから少しでも多くシュートを打って体力を消耗させろって!」
「だから俺たちの“トライアングルZ”であいつの最強技を使わせてやっているんだ!あんな技そう多くは使えない筈だからな!」
雷門の誰かのように監督の指示を無視している武方三兄弟。本人達はあくまで言い訳として最もらしい理論を並べてはいるが、円堂は帝国戦から幾度となく“マジン・ザ・ハンド”に慣れるための特訓を繰り返してきた。そのためそう簡単には息切れは起きない。
「なんか、アッチの三兄弟揉めてるっすね〜。」
「さっきも言ったが木戸川の真骨頂は徹底的にエースを輝かせる連携だ。だが今のFWは点を取ることに焦るあまり中盤との連携に隙が出来始めているんだ。」
「それじゃ、そこをつければ…!」
「ああ、鬼道は既に気づいているだろうしな。」
響木の読み通り、鬼道は中盤の連携が崩れていることに目をつけており後はディフェンスを打ち破る攻撃力が必要だと考える。
(染岡の“ワイバーンクラッシュ”が通じない以上、今雷門で点を取れるのは“トライペガサス”だけだろう。ならば俺がやる事はただ一つ!)
鬼道は持っていたボールを一之瀬にパスし、FW2人を前に上げる。その隙に土門と円堂にアイコンタクトを送る。木戸川は見事に鬼道の作戦に引っかかり2人にマークが行ってしまう。
「今だ!円堂、土門、一之瀬!」
『こ、これは雷門!大胆に円堂がゴールをガラ空きにし前線に上がって来たぞぉぉお!』
予想外の行動を取る雷門に対して、木戸川に動揺が走る。
一之瀬達は構わずにトップスピードで“*”のマークを描くように交差すると、交差点から蒼色のオーラと共にペガサスが現れる。
「あれは“トライペガサス”!一之瀬が言っていたことは本当だったのか⁉︎」
昨日一之瀬から聞いていたとはいえ本当に自分たち以外に“トライペガサス”を放てる選手がいたことに驚く西垣。急いで軟山の所に行こうとするがもう遅かった。
「「「“トライペガサス”!」」」
ペガサスは力強い足音を立てながらゴールに向かって突き進む。キーパー軟山も“タフネスブロック”で対抗するも持ち前のタフネスもペガサスの羽ばたきの前では通用しなかった。
『ゴーール!まさかのキーパーを前線に送るという奇策が大成功だぁぁぁあ!!雷門中が先制点を取った!木戸川は巻き返せるかぁぁあ⁉︎』
「…ナイスシュートだった円堂。」
「ああ!豪炎寺もナイスフェイント!」
ハイタッチしようと手を差し出す円堂に豪炎寺は一瞬遅れてハイタッチに答える。だがその顔はシュートを決めたのが自分ではないことに自分自身への怒りが僅かに出ていた。
「おい豪炎寺!俺たちがフェイントに引っかかったからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」
「次こそは“トライアングルZ”を決めて同点に持っていってあげますよ!」
「そして武方三兄弟は豪炎寺を超えたって証明してやるからよ!」
相変わらず豪炎寺への対抗心を燃やしている武方三兄弟。しかし豪炎寺の表情はそうだと言わんばかりだった。
「…今のプレーで分かった。もう既にお前たちは俺を超えているよ…。」
「は、はぁ⁉︎なんなんだよ!そんな、すんなりと認めて!」
「昔のあなただったら不敵に笑うところでしょう⁉︎」
「いつからそんなに不甲斐無い奴になったんだよ⁉︎」
あっさりと“武方三兄弟”が自分を超えていると認めたことに唖然とし、納得がいかないように抗議する三兄弟。だが豪炎寺は表情を変えずに努の言葉を肯定する。
「不甲斐無いか…本当にそうだ。俺は本当に不甲斐無い、点を取れない俺なんて存在価値は無いんだよ。」
「てめぇ!ふざけんじゃねぇぞ豪炎寺!お前はまだ本気を出しちゃいないだろ⁉︎あの相手を寄せ付けないパワーとスピード!圧倒的なテクニック!木戸川にいた頃のお前はこんなもんじゃなかった筈だ!」
「お前たちがどう思おうが俺はいつもと同じようにやっている。だが見ただろ?俺はまだ一点も取れちゃいない。お前らが思っているほど俺は凄い奴じゃなかったんだよ…。」
あまりに覇気を失っている豪炎寺を見た武方三兄弟はショックを受けたように後を去り、帰り際に言葉を溢す。
「俺たちはお前を超える事だけを考えて特訓をして来た。だけどお前にとって俺たちの存在は少し先に行かれたくらいで諦められる程度の存在だったのかよ…!」
長男勝の言葉に豪炎寺は何も答えずに自陣に戻る。
結局前半は雷門リードのまま終わってしまいハーフタイムに突入する。
皆が水分補給をする中雷牙は探し物をしており見つからなかったため、音無に居場所を聞く。
「な〜音無〜、水って今ある?ちょっと俺にくんない?」
「え、水ですか?ありますけどスポーツドリンクじゃなくていいんですか?」
「いいのいいの〜サンキューな〜」
渡されたスクイズボトルを受け取ると、ボトルの蓋を緩めながら歩き出す。その足が目的の場所に到着すると雷牙は
豪炎寺に水をかけるという暴挙に出た。
「ッ⁉︎何をするんだ稲魂!」
突然の暴挙に怒りを露わにする豪炎寺だが、雷牙の顔も霧隠に兄を侮辱された時と同じかそれ以上の怒りを見せている。
「何をしてんのかってコッチのセリフだコラ。オメー、人が不甲斐ないプレーをしてたら直ぐ“ファイアトルネード”をぶち込む癖に、自分の不甲斐ないプレーには無関心かい。なんだぁ、さっきのプレーは?いつもクールな豪炎寺君が何1人で突っ走ってんだ?それにさっきの言葉もなんだ?俺はいつも通りのプレーをしているだと?寝言は寝てから言ってくんねぇかなぁ?」
「…黙れ、俺は雷門の“エースナンバー”を背負っている男なんだ!チームの勝利に貢献できない俺に存在価値は...「いい加減にしやがれ豪炎寺!」
豪炎寺の言葉を遮ったのは同じFWの染岡だった。彼は持ち前の強面をさらに歪めながら大声で怒鳴りつける。
「何が俺に存在価値が無いだ!お前みたいなスゲェ選手に存在価値が無いんなら俺なんてどうなるんだよ!それともなんだ俺はお前の足元にも及ばない程度の奴だって言いてぇのか⁉︎」
「そんなわけないだろう!だが俺はあまりに無力なんだ!稲魂みたいに化身を出せるわけでもない、染岡ほど強力なシュートを打てる訳でもない!世間からは“天才ストライカー”だと持て囃されてはいたが所詮俺はほんの少し他人より早熟だっただけの凡人だったんだ!」
「……凡人で何が悪いんだ豪炎寺?」
見たこともないほど取り乱す豪炎寺の言葉に円堂は優しく返答する。
「確かに全国には鬼道や雷牙のように想像もつかないようなプレーをする選手がいるさ。でも、みんな必死に努力してここまでの実力をつけてきたことを俺は知ってる。豪炎寺だって最初からあんなに強かった訳じゃないだろ?スタートラインは誰だって同じなんだ、だから天才だとか才能だとかで自分の限界を判断するのはよせよ。俺はお前が天才だからサッカー部に誘った訳じゃない。“豪炎寺修也”だからサッカー部に誘ったんだぜ!」
ニカッと明るく笑う円堂を見て豪炎寺は久しくこのような顔をしていなかったことを思い出す。
いつからだろうな感情を胸の奥に秘めてサッカーをするようになったのは。
いつからだろうな心の奥底から笑えなくなったのは。
いつからだろうな父親の顔色を見ながらサッカーするようになったのは。
豪炎寺は周りを見渡す。ここにいるメンバーはいつも“自分”を見てくれていた。“天才ストライカー豪炎寺修也”ではなく“雷門イレブンの一員である豪炎寺修也”を見てくれていたのだ。
そんな大切なことに気がついていなかった自分に腹が立つ。だが同時にある感情も湧き上がってくる。
ある人はその感情をこう言う“楽しみ”と
また別の人はこう言うだろう“ワクワク”と。
今まで忘れていた感情に支配された豪炎寺は笑みを浮かべ雷門全員に感謝の意を伝える。
「やっと目が覚めたよ円堂。そしてすまなかった。俺は自身の不甲斐無さに支配されて大切な事を忘れていたんだな。」
「やっといつもの調子に戻ったようだねぇ豪炎寺〜。後半から取り返してくれよ〜?」
ようやく豪炎寺が本調子に戻ったことに湧き上がる雷門イレブン達。側で見ていた響木は溜め息を吐きながら雷牙に説教をする。
「25点だ稲魂。悩んでいる仲間に説教をするのは構わんが、水をかける所を審判に見られていたら下手をすればレッドカードものだぞ。」
「“ファイアトルネード”ぶち込んでも注意で済む世界で俺たちは戦っているんすよ。化身シュートをぶち込まなかっただけ寛大だと思って欲しいもんですけどねー。」
「はぁ、この問題児め…。だがお前の説教のお陰で豪炎寺が立ち直ったことに免じて後半は試合に出してやる。存分に暴れてこい。」
遂に“怪物”をフィールドに解き放った雷門。そして己の原点を取り戻した“伝説”。彼らが引き起こす化学反応はどのようなものになるのか?それは彼ら自身にも分からないだろう。
実際チームメイトに水をかけたらどうなるんでしょうね?“ファイアトルネード”を仲間にぶち込んでも退場にならないイナイレ世界だから大丈夫なんでしょ、多分。
ちなみに豪炎寺があっさり武方三兄弟の言葉を認めたのは自分のシュートが全て止められたことと“トライペガサス”に得点を決めたられたことで父から言われた言葉が正しいと思い始めてしまい心が折れかけたからです。