No side
『さぁ!遂にやってきた今大会最大のダークホース校同士の対決!決勝に駒を進め、“王者”帝国を完膚なきまで叩きのめした世宇子中と戦うのはどちらのチームになるのかぁぁぁぁあ!!!』
角馬王将の熱い実況と共に歓声に沸くFFスタジアム。まだ準決勝ではあるもののお互い、無名ながらも凄まじい実績を残したダークホース校同士の対決という事で世間から大きな注目を集めている。
「凄い歓声だな…。観客の人数だけならおそらく去年の決勝よりも遥かに上だぞ。」
「それだけ雷門と白恋の試合が注目されているのだろうな。」
「俺トイレに行きたくなってきたっス…。」
今までの比ではない観客に壁山はプレッシャーを感じ始め腹を痛める。
それを見ていた円堂は気合いを入れ直しチームを鼓舞する。
「よし!この試合に勝って必ず決勝に行くぞ!そして世宇子に挑戦するんだ!」
『おう!』
「へぇ、アレが“サッカーモンスター”ねぇ。テレビで見るよりもずっと強そうだ。」
「珍しいね、熱也がそこまで他の選手を評価するなんて。或葉君はどうだい?」
「……俺の目には
お互いのチームのウォーミングアップが終了し、両チームは整列する。
「俺は雷門のキャプテン円堂守!今日はいい試合にしような!」
「うん!いい試合にしよう!僕は吹雪士郎。よろしくね。」
その後お互いのキャプテンが先行後行を決め、チームメンバーは各自、自分のポジションに着いた。
今回の雷門のスタメンは以下の通り。
FW:染岡、豪炎寺
MF:一之瀬、雷牙、鬼道、松野
DF:風丸、土門、壁山、栗松
GK:円堂
それに対し白恋中のスタメンは以下の通り。
FW:喜多海、熱也
MF:居屋、或葉、空野
DF:目深、士郎、荒谷、推矢、雪野
GK:函田
「白恋中のDFは5人ですか…!これは突破が難しそうですね!」
「特にあの吹雪士郎というDFは厄介だ。どれだけ速攻仕掛けられるが勝負の鍵だろうな。」
審判が開始のホイッスルを鳴らし、遂に準決勝が開始する。先攻は白恋中であり、ボールを受け取った熱也はさっそくトップスピードとなり雷門に攻め込む。
「オラオラ!熱也様のお通りだ!どきやがれ!」
「は、早い!このスピードは風丸以上だ…!」
実際に見てみると予想を超えるスピードに豪炎寺は抜かれてしまう。すかさず雷牙がブロックに回り熱也と対峙する。
「あんたが“サッカーモンスター”の稲魂雷牙か。俺は“熊殺しの熱也”。あんたに恨みはねぇが狩らせて貰うぜ!」
まさかの熱也の方から1対1を仕掛けてきたことに多少驚きつつも雷牙はすぐに好戦的な目になり不敵な笑みを浮かべる。
「ほ〜ん、いいぜ遊んでやんよ“コマ回し”の熱也くんよぉ!」
「“熊殺し”だ!」
“サッカーモンスター”VS“熊殺し”の攻防。雷門屈指の対面性能を誇る雷牙であっても熱也のドリブルを防ぐのは簡単ではない。
だが、雷牙はまだ全国にここまでの選手がいた事に喜びを覚える。
「(こいつはスゲェや、伊賀島以上のスピードもさることながら俺と互角レベルの反射速度と足腰の強さ。コイツこれでまだ1年なんだろ?俺と同い年だったらもっとスゲェ選手だったんだろうな、へっ!ビリビリ来たぜ!)だがなぁ、勝つのは俺たちだ!“ハンティングセンス改”!」
「それがお前の狩りの仕方か?すっトロいぜ!そんなんじゃ眠っている兎も狩れねぇよ!」
圧倒的なスピードで雷牙の狩りすらも突破する熱也。さらに加速し雷門のディフェンスを次々突破する。
「は、早すぎる!」
「壁山、土門!そっちに行ったぞ!」
「「まかせろ(るっス)!」」
雷門の2大DFである壁山と土門が行手を阻む。
「“キラースライド”!」
「“ザ・ウォール”!」
さすがの熱也でも彼ら相手に力押しで突破するのは無理だと悟り不敵な笑みを浮かべると、突然バックパスを繰り出す。
「いい判断だ熱也。」
「しっかり俺についてこいよ?兄貴?」
パスを受け取ったのは上がってきていた兄の士郎であった。
吹雪兄弟は木戸川戦で見せた雷牙と豪炎寺と同じようにシュートと見間違うスピードでパス回しを行い壁山達を突破する。
「ここから先へは行かせないぞ!」
「いいスピードだね君。でもまだ風になりきれていないな。」
そう一言だけ言うと士郎は風丸のディフェンスをものともせずにあっさりと突破する。
そしてゴール前に到着した士郎は、辺りを見回すが熱也は壁山と栗松のマークが付き白恋中唯一のパスコースを塞がれている。
「はぁ…熱也。いつまで遊んでいるんだい?もうそろそろ本気を出しなよ。」
「へいへい、わーったよ兄貴。そこをどきやがれ!ヘボDFども!」
遂に本気を出した熱也は一瞬で壁山達のマークを脱出すると兄からパスを受け取りと同時に両足でボールを回転させる。すると氷雪の嵐がボールを包み込み、巨大な氷塊へと姿を変える。
「これが“熊殺し”の必殺技だ!吹き荒れろ!“エターナルブリザァァァド”!」
熱也が放った必殺技である“エターナルブリザード”は通った地面を凍らせながら円堂目掛けて襲いかかる。
「勝負だ熱也!“ゴッドハンドD”!」
両手のエネルギーを重ねがけした巨大な右手が“エターナルブリザード”を押さえ込もうとするが、逆に凍らされてしまい、数秒後には完全に粉砕されてしまう。
『ゴーール!先制点を奪ったのは白恋中の吹雪熱也だぁぁぁあ!!!あの帝国の“皇帝ペンギン2号”すらも止めた“ゴッドハンドD”を最も容易く粉砕したぁぁぁぁあ!!!』
「なんだ?噂の雷門中ってのはその程度か?ショボい奴らだな!俺と兄貴の前じゃ敵じゃねぇよ!」
あまりの呆気なさに熱也は聞いていた雷門の実力が自分には及ばないと確信するが、兄はそれを諌める。
「慢心は良くないよ熱也。それに僕が前に出てなきゃDFの必殺技を突破するのは難しかっただろう?」
「へいへい、わーってるって。」
背中を向けて自陣に戻って行く熱也を見ながら円堂は仲間達の手を借りて立ち上がる。
「大丈夫か円堂⁉︎あの“ゴッドハンドD”でも止められないなんて、恐ろしいシュートだな…。」
「ごめんみんな、少し油断した。でも次は“マジン・ザ・ハンド”で必ず止めてみせる。だから安心して攻めてくれ!」
先ほどの“エターナルブリザード”の威力に驚きながらも円堂は不敵な笑みを浮かべる。まさか全国に1人であそこまでの威力を持つストライカーが染岡以外にも存在していた事に喜びを感じているのだ。
闘志に燃えている円堂は対照的に先ほど士郎に抜かれた風丸は暗い顔をしている。
「(さっきの白恋のキャプテンのスピード…、俺よりもずっと早かった…俺だって必死に努力してきたのにあいつはその先を行っているのか…)」
「風丸?なんか暗い顔しているけど大丈夫か?」
「あ、ああ悪い円堂。大丈夫だ、次は抜かれないように気をつける。」
円堂に声をかけられ我に返る風丸。しかし、風丸の心には感じた事の無い劣等感がずっとこびりついているように感じられた。
「次は俺たちの番だな。」
「ああ、あの熱也って野郎に雷門の強さを見せつけてやろうぜ豪炎寺!」
アレだけのプレーをした熱也に染岡は火が着きキックオフで試合を再開させる。ボールを受け取った豪炎寺は攻め上がるが要注意人物の熱也と鳳凰院は豪炎寺に興味が無いように動かない。対照的に彼ら以外の選手は必死に豪炎寺からボールを取ろうとするも、まるで歯が立たない。
「(…なんだこの違和感は?監督から事前に白恋中は吹雪兄弟と鳳凰院以外の選手は技能に難があると聞いていたが、話以上の手応えのなさだ。一瞬白恋の作戦かと疑ったが、選手の表情を見る限り手を抜いている訳でもなさそうだ…。何が目的なんだ?)」
練習中に見た映像よりも、手応えがなさすぎる事に違和感を感じる豪炎寺だが今はそんな事を考えていても仕方ないと一旦思考を打ち切り染岡にパスを回す。
「うわ!こ、これがパスなのか⁉︎もはやシュートじゃないか!」
「今まで戦った中学も凄かったけど、雷門中の実力は段違いだべ!」
「なんだぁこいつら?この程度のパスで驚くって、本当に実力で準決勝まで勝ち進んできたのか?ならこいつを見て失神するなよ!“真ドラゴンクラッシュ”!」
染岡の十八番の“ドラゴンクラッシュ”が白恋ゴールに向けて襲いかかる。キーパーの函田はあまりのシュートの威力に完全に怖気付いている。
その様子を見た染岡は自身のシュートが決まったと確信するもキーパーの前で風が吹くと同時に青龍のオーラが消え去ってしまう。
「うん、いい技だ。君の強面のような強力なシュートだったよ。」
染岡のシュートを止めたのはキーパーではなくDFの吹雪士郎だった。今の染岡は間違いなくFFに参加した殆どのチームのエースストライカーを超えるキック力を持っている。彼から放たれるシュートを必殺技無しで止めるのは至難の業だ。
しかし士郎はまるでパスを受け取るように止めてみせた。それだけで彼が染岡以上のキック力を持っている事の証明となる。
「俺の顔は関係無ぇだろ!だがなんてキック力だ…!なんでそんな奴がDFをしてるんだ⁈」
「なんでって…、別にキック力が凄いからってFWだけをしなくちゃならないルールは無いだろ?それに僕がDFにいる理由はね…」
その瞬間染岡の目の前から士郎の姿が消えてしまう。染岡は急いで左右と上空を確認するが士郎の姿は見えない。すると後ろから探していた声が聞こえてくる。
「風を長く感じれるからさ。」
『な、なんとーー⁉︎DFの吹雪士郎!一瞬で染岡を抜き去ったぁぁぁあ!!!あまりにも速すぎて私の目にも映りませんでしたーー!!!』
まるで一瞬消えたように感じるスピードで染岡を抜き去る士郎。彼はさらに加速し一気にトップスピードに到達する。
本来のポジションである筈のDFの仕事を放棄しているのにも関わらず知った事かと言わんばかりに攻め上がる士郎。
その前を雷牙が道を塞ぐ。
「(…なるほどねぇ、吹雪(兄)の方は攻撃にも参加するDFつまり“リベロ”か…。俺のプレースタイルと少し似てるなぁ。)」
「何か考え事かい?惜しいなぁ君もそんなに難しい事を考えずにただひたすら風になればいいのに。」
「そうかい、だったらなってやるよ!“風”を超えた“嵐”そのものにな!」
そう啖呵を切ると雷牙を覆いこむように周辺に雷を纏った嵐が発生し士郎目掛けて突っ込んで来る。
流石の士郎のスピードでも突然の新技に対応する事は難しく嵐に飲み込まれてしまう。
「しゃあ!!土壇場だったが成功だぜ!名付けるとするなら“ライトニングストーム”ってとこかな…。」
「また僕の仕事を取られた…。」
雷牙は基本自分で技名をその場でつける為今回も目金の出番が無くなりベンチで本人が小さく愚痴る。
何はともあれ1番の障害だった士郎を突破した事は大きく、実力差から考えてゴールはガラ空きになったも同然である。しかし雷牙は吹雪士郎の力を見誤っていた事をすぐに知る事になる。
「いきなりで悪いけどそのボールは返してもらうよ。」
「早!もう戻ってきたのかよ⁉︎」
抜いたと思っていた士郎のリカバリー力の高さを完全に舐めていた雷牙は今度は“イナビカリステップ”を発動しようとするが僅かに士郎の技の発生速度が上回った。
「“アイスグランド”。」
「何⁉︎くそ!」
身体を凍らされてしまい身動きが取れなくなった隙にボールを奪われてしまう。そして先ほどと同じように加速しながら雷門陣地に突っ走る。士郎は合流した熱也と共に激しいワンツーで雷門のディフェンスを突破し、またも円堂の前に立つ。
「今度は僕の相手をしてもらうよ。“エターナルブリザード”。」
「お前もそれを使えるんだな!俺だって今度は負けないぞ!“マジン・ザ・ハンド”!」
さっきのリベンジと言わんばかりに円堂は激しく身体を捻り心臓に気を溜め一気に放出する。雷の如き咆哮をあげながら魔神は氷塊となったボールを右手で受け取める。士郎が放った“エターナルブリザード”は次第に勢いを失い円堂の右手に収まってしまう。
『キーパー円堂、今度こそ完璧に“エターナルブリザード”を防いだぁぁぁあ!!何度見ても凄まじい威力です!果たして白恋中には鉄壁の“マジン・ザ・ハンド”を破れるシュートはあるのでしょうか⁈』
「へぇ、アレが生の“マジン・ザ・ハンド”か…映像で見るよりもずっと迫力があるね。」
「まっ俺がシュートを打ってたら結果は分からなかったけどな。」
前半も半分過ぎた頃だが、試合は相変わらず白恋有利に進んでいる。鬼道は初めこそは白恋はかつての雷門のようにエースストライカーの熱也と守護神の士郎に引っ張られるだけのチームだと思っていたが、ここまでの展開で自分の考えが誤りだった事を実感する。
「(本来この手のチームは核となる選手を丸め込めば連携がガタガタになるものだが白恋は違う。吹雪兄弟の実力はそれぞれ1チームに匹敵するものと思わなければならない…!2対11のサッカーならば勝つのは簡単だが、31対11のサッカーとなればいくらそれ以外の選手の力が大した事がなくても十分に脅威となる!)」
そして今鬼道の目線の先にいる選手は試合中にも関わらず開始地点から一切動いていない鳳凰院或葉だ。
「(もう一つ気がかりなのは、鳳凰院が未だに目立った動きを見せていない点だ…。奴が前いた学校はあの漫遊寺中…、何が起こるか俺にも分からないな…。)」
京都にある仏教校“漫遊寺”。そこにあるサッカー部は代々“スポーツは優劣をつけるものではなく心身を鍛えるもの”という教えに従いFFに出場した記録は無く、あるのは学校内で行われる練習試合の記録のみ。しかし、漫遊寺の心・技・体の全てが洗練されたサッカーを見た人々は帝国がFFの“表の優勝校”ならば漫遊寺中は“裏の優勝校”と評するものであった。
その評価が本当か確かめる為に過去に影山は何度も接触を試みたが珍しく失敗。そのため帝国ですらも“漫遊寺”の正当な実力は計り知れていなかった。
全ての実力が謎に包まれた鳳凰院或葉。彼は静かに白恋メンバー達をを見回すと静かに指示を出す。
「……奴らの癖は大体分かった。次のプレーから動くぞ。」
鳳凰の眼に宿った闘志の炎は静かに、そして力強く揺れている。
なんか“裏の優勝校”とかいういかにも裏ボスみたいな設定を付けられているのに特にその設定が活かされる事の無かった悲しき学校“漫遊寺”。なんかその設定活かしたいなーって思って或葉を元“漫遊寺イレブン”に変更しました。次回から彼が動き出します。
〜オリジナル技紹介〜
♦︎ライトニングストーム
属性:風
分類:ブロック
使用者:雷牙
進化系統:V2→V3→V4→S
≪概要≫
モーションと威力は天馬の“スパイラルドロー”と一緒。最近“ハンティングセンス”の通りが悪い事を気にしていた本人が決勝までに完成すればいいなくらいの気持ちで密かに練習していた技。そこに士郎の挑発が加えられた事で完成した。