「いくぞ円堂!“炎魔 ガザード”!」
「負けないぞ豪炎寺!“魔神 グレイト”!」
イナビカリ修練場に激しい衝突音が響き渡る。決勝戦まであと数日にまで迫った雷門イレブンの練習は激しさを増していた。
「キャプテンも豪炎寺さんも気合いが入っているでやんすね!」
「俺たちも負けてられないっスよ栗松!」
キャプテンと豪炎寺の姿を見て奮起する部員の様子はFF開催前では考えられない様子である。それだけ彼らも成長してきた事の表れであろう。
「ビリビリきたぜぇーー!!!風丸!俺と1対1しようぜ!全国には白恋みてぇに見た事もねぇプレイヤーが大勢いるんだ、ここで立ち止まっちゃいられねぇぜ!」
先日の白恋との試合は雷牙にとっても良い刺激になったらしく、いつにも増して闘志の炎が燃えたぎっている。だが風丸の表情は暗いままだ。
「…本当に凄いよな稲魂は。俺は世宇子との試合で手一杯だと言うのに、もうお前はその先の事を見据えている…。俺もお前や円堂みたいになれたらな…」
「んな事ねぇって!風丸だってスゲェじゃねぇか!まだサッカーを初めて数ヶ月も経ってねぇのにドリブルのスピードは俺以上だぞ?そのスピードは羨ましいぜ!」
「そう言ってくれると心が楽になるな…。よし!練習再開だ!今日は俺が先行で行かせてもらうぞ。お前のブロックを抜いてやる!」
「ヘッ!手加減はしねぇぞ風丸!」
取り敢えず風丸も気合いを入れ直し雷牙と激しい攻防を繰り広げた。今日の練習が終わりイナビカリ修練場を出ると、既に日が落ちていた。
雷門イレブンは解散し、それぞれが帰路に着く。その中で雷牙は帰路とは逆の方向に向かって歩いて行った。
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「あら?あれは稲魂君…?」
最近ようやく目を覚ました父の見舞いの帰りの途中。夏未は車の中から歩いている雷牙の姿を発見する。
こんな夜遅くに人通りの少ない場所にいる事を不審に思った夏未は場寅に雷牙の後を追うように命令をする。
「ここは…墓地?」
雷牙が入って行った先はまさかの墓地。夏美としてはあまり他人のプライベートを詮索する気は無かったものの万が一の事を考え車から降りて後について行く。
夏美の目に入ったのは稲魂家の文字が彫られた墓であった。
「…!誰だ?まさか影山の残党か⁉︎」
「落ち着きなさい稲魂君。私よ。」
咄嗟に身構えていた雷牙であったが、正体が夏未と分かるやすぐに警戒を解く。
「んだよ夏未かよ。どったの?こんな所までわざわざ来るなんて。もしかしてオマエも墓参りか?」
「たまたま貴方を見かけたから気になってついてきただけよ…。ねぇ、失礼だとは思うけどそのお墓に入っているのって…」
「…お察しの通り俺の家族さ、数年前に事故であっちに逝っちゃってよ。残されたのは俺1人って訳。」
自分の予想が的中していた事実に思わず目を逸らしてしまう。自分も幼い頃に母を亡くしているのだ。大切な肉親を失う気持ちは痛い程理解している。
「ごめんなさい、嫌な事を思い出させちゃって。辛かったでしょうね…」
「まぁ最初知らされた時は絶望して死のうとしたけどさ、今はもう平気。それに生活も親父が大量に遺産を残してくれたから俺が成人するまではなんとか食いつなげるしな〜」
あっけらかんと凄い事を言う雷牙であったが、その目はどこか悲しげだ。その後、目的を果たした雷牙は夏未と共に今度こそ帰路に着き、お互い肉親を無くした身である事を知ると、夏未は母と雷牙は家族と過ごした日々の事を話し合った。
〜次の日〜
今日はそこまで追い込みをかけずに日が暮れる前に練習を終える雷門一同。雷牙は円堂達と共に雷雷軒に寄って行く事にした。
「監督〜俺、豚骨ラーメン大盛り〜。」
「俺醤油ラーメン!」
数分後、出されたラーメンを美味しそうに啜る雷牙達。すると、常連の鬼瓦が入店する。
「おっ、雷門の最強メンバーが勢揃いじゃないか。決勝進出おめでとさん。次の試合も期待しているぞ!」
40年前のイナズマイレブンの悲劇を知っている鬼瓦は感慨深そうに円堂達に祝福の言葉を送る。
「ありがとう鬼瓦さん!俺たちももっと特訓をして強くなるよ!そして全国優勝をするんだ!」
円堂の純粋な返事を聞いた鬼瓦は何か嫌な事を思い出したのか、少し表情を濁らせる。
「練習を頑張る事はいいが、あまりにも勝つ事への執念を燃やしすぎると影山みたいになるぞ…。」
『影山に?』
突然影山の名前を出した鬼瓦に疑問の声を浮かべる円堂達。それを聞いた鬼瓦は表情こそは変わらなかったが声のトーンを落とし円堂達に話をする。その内容は彼が調べ上げたの影山零治の過去だった。
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影山零治の父の名は“影山東吾”。50年前に存在した日本最強のMFと言われた男であった。
まるで神の視点から試合を見ているかのような空間把握能力、それを最大限に活かす完璧なゲームメイク能力、FW顔負けの圧倒的なキック力。
その凄まじい活躍は戦後の日本のサッカー界に革命をもたらし『第一次黄金期』と呼ばれる偉大な一時代を築き上げたまさに伝説的な選手だった。彼が出場した試合は全て勝利を収め、日本代表のキャプテンにも就任しいくつものメダルをもたらしてきた。
子宝にも恵まれ順風満帆な人生を送っていた東吾であったが、幸せは長くは続かなかった。
影山零治が誕生してから数年後の事、サッカー界に『第二次黄金期』と呼ばれる時代が訪れる。
その世代の中心にいたのは円堂の祖父である“伝説のGK”円堂大介、そして“フィールドの絶対王者”と呼ばれた獅天王寺雷晴であった。若さと才能に溢れる彼らの台頭により次第に東吾の活躍が難しくなっていった。
最強のMFの座は獅天王寺雷晴に奪われ、最後の誇りであった日本代表のキャプテンの座も円堂大介にとって代わられてしまった。
日本代表の座を奪われたのが決定的となり、その日を境に東吾のプレーはキレを失ってしまった。同時期に『第二次黄金期』へ突入した事により日本サッカー界の水準は大幅に上昇。
キレを無くした東吾はついていける筈もなく、彼が出場した試合は全て敗北するようになり、次第に世間は影山東吾の事を“落ちぶれた伝説”、“疫病神”とまで呼ぶようになっていった。やがて東吾はサッカー界を去り、荒んだ生活を送るようになった。
あれだけ優しかった父は、母親にも暴力を振るうようになっていった。母親は日頃の無理が祟って数年後には病死、その後父も子供達を置いてどこかに行ってしまった。
零治はサッカーを憎んだ。尊敬する父を壊したサッカーを、そして父が失踪前に唯一自分に残してくれた教えである“勝つ事が絶対。敗者に存在価値は無い”。この言葉だけを復讐の炎の燃料にし今まで生きてきたのだ。
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「サッカーに勝つ…ただその為にたくさんの人を苦しめている…。豪炎寺、お前もその1人だ。」
まさか妹を奪ったあの事故すらも影山の手によるものだったと知り、ショックを受ける豪炎寺。その横で雷牙は恐ろしい考えが頭に浮かび鬼瓦に質問する。
「…なぁ鬼瓦のおっさん。数年前の親父…ステラ・オーロが死んだ事故も影山が仕組んだ可能性はあるかい…?」
帝国との試合での出来事で薄々感じていた疑問を鬼瓦にぶつける雷牙。できればこの予想は外れていて欲しい、珍しく彼はそう神に祈る。
「ステラ・オーロの事件?すまんがその捜査には俺は関わっておらんから、詳しい事は知らん。だが影山が関わった事件の証拠にステラ・オーロに関する物は無かった。」
「…そっか、ならいいんだ…。」
あの事故に影山は関係無いと分かりホッとする雷牙。もしあの忌まわしい事故が影山の手によるものだったらおそらくもう一度影山の顔を見た瞬間彼を殺そうとしていただろう。一連の会話を聞いた円堂は影山への怒りに身体を震わせている。
「許せない…!どんな理由があってもサッカーを汚していい理由にはならない…!そんなの間違ってる!」
「でもよう守。もう影山は逮捕されたんだろ?獄中じゃ簡単に指示を出せねーしもう大丈夫なんじゃねーか?」
影山が予選決勝で逮捕された事を指摘するが、鬼瓦は首を横に振る。
「…いや、影山は少し前に釈放された。」
『何だって⁉︎』
アレだけの証拠が揃っていながらも、悪魔を再び外に出していた事実に全員驚きを隠せない。
「何故ですか鬼瓦刑事⁈鉄骨のボルトだけではなく、影山の指示を受けた人間も捕まえていた筈です!そこまで証拠が揃っていながら何故あの悪魔を釈放させたのですか⁉︎」
「その部下の連行中にトラックが車に衝突し、全員死亡した…。残ったボルトだけでは奴の反抗を証明出来ず証拠不十分で釈放せざるを得なくなったんだ…!」
後一歩の所でまたしても影山を逃してしまった事を思い出し、怒りが湧き上がる鬼瓦。鬼道もあの悪魔をこれ以上の自由にしてはならないと思い鬼瓦に質問をする。
「…影山は今どこにいるのですか刑事さん?」
「まだ行方は掴めていない…。だが、奴が釈放されたあの日警察署内で一台のスポーツカーに乗り込む影山の姿が確認された。だがそれ以降はどこの監視カメラにも奴が乗った車は映っていなかった…。」
「スポーツカー?部下に迎えに来させたにしては随分と派手なお出迎えっすね?」
若干視点がズレた事を指摘する雷牙であったが、その言葉を聞いた鬼道は何かを思い出したような反応をする。
「影山は公私問わず、移動にはシンプルな高級車を好んで使っていたのを覚えている…。もしかするとあのスポーツカーは部下に用意させたものではなく、第三者のものかもしれない。しかもその人物は影山とは対等な立場の人物の可能性がある。」
「…確かに妙だとは思ったが、あの影山と対等に接する事が出来る人間がいるとは思えないな。40年前の時も俺たちにも心を開かなかった奴だぞ?」
響木の脳裏に浮かぶのは、自分達がまだ“イナズマイレブン”と呼ばれる前の事、チームメイトだった影山はいつも強引なプレーばかりを行い大介によく叱られていた事を覚えている。だが、大介の言葉は終ぞ影山の心に響く事はなかった。
「なーんか、色々聞くと可哀想な人っすね〜影山って。」
「…稲魂、お前話を聞いていたのか?確かに父親の件は同情するが、奴のした事はもはや悪魔の所業なんだぞ?どこに可哀想と思う要素がある?」
雷牙の意外な哀れみに豪炎寺は思わずツッコミを入れる。
「だってさ〜豪炎寺。本当にサッカーが憎いんなら裏工作だけに集中するもんじゃね?でも、影山はそれだけに留まらず帝国の監督を兼任して40年間ずっとサッカー界に居続けてるんだせ?俺に言わせれば“憎む事でしかサッカーを愛せない男”って印象だけどなー。」
「“憎む事でしかサッカーを愛せない男”か…。その言葉は意外と核心をついているのかもな。」
とりあえず、今は影山の事を考えてもどうにもならないとなり解散する。だか、1人になった響木は再び思い悩んでいた。
「(サッカーを憎む事でしか愛せないか…、歴史にたらればはありえないが、もしお前がサッカーを心の底から愛する事が出来たのなら俺達の関係も変わっていたかもな影山…。)」
あったかもしれないIFの世界を思い浮かべながら、響木は店の暖簾を片付け、電気を消した。
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「え〜と、獅天王寺雷晴っと。」
『木枯らし荘』に帰って来た雷牙は自分の部屋で先ほど話題に出た“獅天王寺雷晴”についてスマホで調べていた。
円堂大介の凄さは孫から耳にタコが出来るほど聞いていたため特に興味が湧かなかったが、“フィールドの絶対王者”と言われた男の名は初耳だった。
「あったあった、へ〜こんな顔だったんだ〜。こりゃ染岡以上に悪い人相だな。……アレ?この顔前にどっかで見た事あるような…?」
スマホに映ったのはまるで獅子の如く鋭い目をした強面の男性。一般人であれば睨みつけられただけで足がすくんでしまいそうだ。
だが、雷牙にはこの顔に見覚えがある。実際に会った事は無いが、それなりの頻度で顔を見た事があるような既視感が雷牙を襲う。そして彼はその正体を思い出した。
「……!そうだ、確か親父のアルバムに…!」
彼は急いで部屋にしまってある父の遺品のアルバムを開き20年近く前の写真を発見する。そこに映っていたのは兄のライトとそっくりな顔をした中学生の時の父と、その強面に似つかわしくない満面の笑みを浮かべた獅天王寺雷晴その人であった。その写真も一枚だけではない。雷牙が開いているアルバム一杯に獅天王寺雷晴との生活を写した写真が貼り付けられていた。その内の数十枚かは雷晴の妻と息子と思わしき人物も映っている。
まるで家族写真のような光景を見た雷牙は一つの結論に辿り着く。
「親父の言ってた師匠が…獅天王寺雷晴だと……⁉︎」
雷牙の独り言に返事をしてくれる人間はもうこの世にいない。雷牙はモヤモヤとした気持ちのままベッドに足を運んだ。
東吾の過去は若干盛ってます。あと、アニメだと影山が円堂大介を恨む根拠が少し弱かった気がしたので日本代表のキャプテンの座を奪われた事に改変してます。
〜オリキャラ紹介〜
獅天王寺雷晴:円堂大介と同時期に活躍した伝説的サッカー選手。染岡以上の強面だが性格は非常に陽気で豪快。ファンサービスも旺盛だった為人気も高かった。現役引退後にイタリアに渡った際にステラ・オーロと出会い彼を弟子にする。ステラも師のことは尊敬しており、実の息子の名前である雷斗も彼の名前の雷晴から『雷』の名前を貰い名付けた。