No side
どこにあるかも分からない巨大な設備のある一室。そこに膝をつく11人の少年達がいる。その正体は雷門の決勝相手である世宇子中のメンバーだ。世宇子…。その名はギリシャ神話の神であるゼウスを元とする高尚な名だ。そして自分達こそが絶対神の名の下にフィールドに立つのに相応しいと言わんばかりの出立をしている。
そんな彼らすらも従う人物とは誰なのだろうか?すると、世宇子の上空にある空間に1人の男が現れる。
その男を我々は知っている。内に秘めた狂気を隠す程の黒いレンズのサングラスをかけ、聞いたものを恐怖で支配する程の低い声。そう、元帝国学園の総帥兼監督であった影山零治である。
「総帥。お待ちしておりました。」
月桂冠を模したキャプテンマークを付けている少年、アフロディはチームを代表して影山に発言する。影山は特にその言葉に反応をせずに口を開く。
「FFを制する者は誰か?」
『もちろん、我ら世宇子中!』
「頂点に立つのは誰か?」
『もちろん、我ら世宇子中!』
まるで自分達が負ける事など一切考えていない目で世宇子中一同は答える。
「私は勝利しか望まない。だが、泥塗れの勝利など敗北も同然!完全なる勝利!圧倒的な勝利のみを欲している!」
いかに影山が勝利事しか考えていないかがよく分かる。普通の人間ならばこの演説を聞いただけで彼の前から逃げ出そうとするだろう。だが、彼らは違った。まるで神からのお告げを聞くかの如く真剣な表情で影山の演説を聞く世宇子中一同。彼らの目は影山に心酔していた頃の鬼道と全く同じものだった。
「その勝利を齎す者だけが!この“神のアクア”を口にするがいい!」
世宇子の前に置かれていた箱が突如白い煙を発しながら開く。その中には豪華な装飾が施されたグラスが入っている。
「さぁ!私に勝利を齎すのは誰か⁉︎」
グラスに注がれている液体を口にする世宇子一同。飲み終わったグラスを一斉に叩きつけ再び宣言する。
『もちろん、我々世宇子中!』
その言葉を聞いた影山は不気味な笑みを浮かべるのだった。
♢♢♢
今日も今日とて世宇子戦に向けて練習する雷門イレブン。そんな彼らを労うためにマネージャー達は彼らにおにぎりを作る事になった。
だがそこで問題が起きる、なんと用意していた新品の塩が作って数分もしないうちに全て無くなったのだ。
当然、木野と音無にはここまで塩を使った覚えが無く最後に残った夏未に問い詰める。
「確かに最後に塩を使ったのは私よ。でも男の人は塩分が多めの方が喜ぶって聞いた事があるわ。…少し塩を入れすぎたとは思ったけど。」
木野と音無は頭を抱える。こんな塩分の塊と化したおにぎりを食べようものなら、恐らく塩分過多で病院行きは確実だろう。だが、本人は見た事も無いほどキラキラとした目で完成したおにぎりを見ている。そのような目をされて無下に出来る訳がない。
彼女達が選んだ答えはまともに完成した2個だけを皿に置き雷門の誰かが食べない事を祈るだけであった。
「皆さーん!おにぎりが出来ましたよーー!!!」
音無のおにぎりという単語に部員全員が反応する。円堂は真っ先におにぎりを取ろうとするが、夏未の雷が落ちる。
「食べる前に手を洗いなさい!食べるのはそれから!」
『はーーい…』
その後、手を洗った事を確認した夏未はおにぎりを食べる事を許可し皆がっつく。
木野達は周りの反応を見るが今のところ爆弾を食べた人間はいないようだ。おにぎりが置かれた箱を見ると明らかに形と大きさがおかしいおにぎりが丁度2つ残っていた。
流石の食い意地が張った雷門イレブンも本能で命の危機を回避していたようだ。…しかし、約1名その本能が働かなかった者がいた。
「おっ!でっけーおにぎり発見!いたっだきー!」
“サッカーモンスター”こと稲魂雷牙である。普段本能だけで生きているような人間にも関わらず、彼の食欲は生存本能を上回っているらしい。
流石にまずいと思った木野と音無は青い顔をしながら、顔を合わせる。
「(まずいですよ木野さん!よりにもよって稲魂先輩が夏未さんのおにぎり食べちゃいましたよ!万が一病院行きになったら大変です!)」
「(落ち着いて音無さん!大量の水を飲ませれば多分大丈夫…と思うわ!だから急いで水を用意しましょう!)」
「目の付け所が良いわね稲魂君。それは私が握ったおにぎりよ、良く味わって食べなさい。」
おにぎりを口にする雷牙、その瞬間バリバリと普通のおにぎりを食べる際には聞く事が無い筈の音が聞こえてくる。まるで煎餅を食べているかのような咀嚼音が水を用意している木野達にも聞こえてくる。
「(どれだけ塩を入れていたんですか夏美さんは⁉︎あんな音がするおにぎりは見た事がありませんよ⁉︎)」
「(だ、大丈夫よ音無さん!最近の医療技術は凄いから稲魂君が病院に運ばれても命だけは助かる筈よ!)」
もはや雷牙無事でいる事を諦めている木野。もう彼女達が祈れるのはただ1つ、退院が決勝戦に間に合う事だけだ。
「バリバリゴックン。んッ!!!」
遂に塩の塊が喉を通り始める。同時に雷牙の身体中に稲妻が走り去る。
“間に合わなかった”夏未の爆弾を取り除く事が叶わなかった事への後悔が木野達を襲う。もう手遅れだと思うが取り敢えず水を与える為に雷牙に
「美味い!!!なぁ夏未、もう一個のおにぎりもオマエが作ったやつか⁉︎」
まさかの美味い宣言に驚愕する木野と音無。ここまでの衝撃を受けたのは木野は未来人と名乗る人間が現れた時、音無は数ヶ月前に変わり果てた兄と再会した時以来だった。
笑顔でバリバリ言わせながら最後の1つのおにぎりを頬張る雷牙、それを見ている夏未は満足そうな顔をしている。
「…木野さん、人体の神秘って本当に不思議ですね…。」
「そうね音無さん…、改めて稲魂君の強さの秘密が分かった気がするわ…」
もう深く考える事をやめた木野達は、雷牙と夏未を見つめる。その姿はまるで仲の良い母親と息子のようだった。
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場所は変わり再び世宇子のいるスタジアムに移る。決勝に向けて最終調整を行なっている彼らの前に影山ではない男が姿を現す。それに気づいたアフロディは一旦練習を中断させ、男の前に立つ。
「ご機嫌よう“雷帝”殿。総帥は今は出かけていますよ。」
「知ってるよ。影山さんも暇人だねぇ、40年前のチームメイトに嫌味を言うためだけに稲妻町まで行くなんてねぇ。それよりも、私の目的は君だよアフロディ君。」
「私に…?ああ、分かりました。
突然の“雷帝”の質問に思わずアフロディは固まってしまう。確かに自分達は神の如き力を手に入れた。それは目の前の男が作った“神のアクア”と呼ばれる薬の力によって。その制作者が“神を超える存在を知っているか?”と聞いてきたのだ、如何にアフロディといえど混乱するのは当然だろう。
「ははは、いきなりすぎて悪かったねぇ。今、君達はまさに神如きの力を持っている。間違いなく君達は日本の少年サッカー界No.1のチームだろう。今度の決勝戦でも雷門に勝利する確率は99.9%と言っても過言では無いだろうねぇ。」
“雷帝”の言葉にアフロディは表情を尖らせる。彼は今自分達が勝利する確率は99.9%と言った。普通の人間なら褒め言葉として受け取るであろうが、0.01%だけ負ける確率があると言われた事が彼には納得がいかないのだ。
「100%とは言わないのですね貴方は。ならば先ほどの質問の答えを答えましょう。僕にとって神を超える存在はあり得ません、神とは常に絶対的な存在。万が一その座を奪おうとする存在が現れたならば神の力を持って叩き潰すだけです。」
アフロディの答えは彼の思想そのものだった。神とは常に不変の存在、決して超えられない壁があるからこその神なのだ。だが“雷帝”はその思想を嘲笑うかのように一喝する。
「なるほどねぇ〜。どこぞの凡人よりかはいい線いっているが、あくまでも“神の座”に座り続ける事に固執するかい…。」
「僕の考えを否定したければ、貴方の考えを聞かせて下さい。
「“神を超える存在”…それはただ1つ、“怪物”さ。」
「ハハハ…ハーハッハッハ!何を言うかと思えば“怪物”こそが神を超える存在ですって⁈貴方もそのような冗談を言うとは思いませんでしたよ!“怪物”などと言う畜生如きが“神”を超える?そんな事は決してありえない!」
あまりの机上の空論としか言えない“雷帝”の言葉をアフロディは狂ったように笑い出し一喝する。その様子は普段の彼からは考えられないほど感情的であった。
「ほぅ?ならば何故神話には“神”すらも殺す“怪物”の存在が描かれているんだい?北欧神話の“フェンリル”に“ヨルムンガルド”。“神様”が絶対的な存在ならば人々はそのような存在を創作する筈が無いだろう?」
「…ッ!それは“神”を信じない愚かな人間が勝手に想像した...「それともう一つ。」くッ!」
「君達が生きるサッカー界には何人もの“神様”がいる。だが、歴代の偉大な先人達の中に“怪物”と評される事はあっても異名となる選手は1人を除いていない。それは何故か?“怪物”と呼び讃える事が倫理観に反するからか?違うねぇ、答えは実にシンプル。“サッカーモンスター”と謳われたステラ・オーロが亡くなってから現代に至るまで誰もその座に辿り着いた人物はいない。ただそれだけなのだよ。」
感情的になるアフロディとは対照的に“雷帝”は淡々と告げる。あれだけ彼の思想に反対していたアフロディも自然と彼の言葉を聞き入れ、反論する事が出来なくなっている。長い沈黙の後アフロディは何とか言葉を捻り出す。
「……ならば、ステラ・オーロが再誕すれば貴方の悲願は達成するとでも…?」
「ハハハ、ステラの再誕か!私がアイツを生き返らせてやれればこんな回りくどいやり方をしなくてもいいのだけどねぇ!流石の私もそこまでの領域には、まだ踏み込めていないのさ!」
アフロディの言葉を聞き高笑いをする“雷帝”。その瞳はどことなく昔を懐かしむように感じられる。
「…もういいです。貴方の妄想に付き合っている時間はないのです。練習に戻らせてもらいますよ。」
これ以上は時間の無駄だと断じ、グラウンドに戻ろうとするアフロディ。だが、“雷帝”は去って行くアフロディに向けて言葉を続ける。
「フフフ、妄想か…。だが雷門にその“怪物”が眠っているとしたらどうだい?」
「…! 雷門中に⁉︎フフ、信じられませんね。もしや“サッカーモンスター”の稲魂雷牙の事ですか?だとしたら期待外れもいい所ですね。彼など僕の敵では無い。」
「あくまで私が言ったのは“怪物”が眠っている事だけさ。信じるかどうか君次第だよ。邪魔したね、決勝戦を楽しみにしているよ。」
自身の目的を終わらせると“雷帝”は去って行く。彼との会話を終えたアフロディには“神”の力を手に入れてから感じた事の無い敗北感に満たされていた。
「お、おいアフロディ…。あんな狂人の言う事なんて気にするな!俺達は間違いなく神の力を手に入れたんだ、今は決勝に集中しろ!」
チーム最年長であるGKの歩星呑一ことポセイドンがアフロディのフォローをするが、本人の顔には明確に怒りの表情が浮かんでいる。
「…フフフ、そうだねポセイドン。だが“怪物”の存在も気になる所だ、明日の練習は君に任せる。僕は雷門中に行く。」
「わ、分かった。総帥には俺が言っておく…。」
完全にアフロディから出る気迫にポセイドンは数歩ほど後ろに下がってしまう。その後、グラウンドは先日以上の荒れ具合となっていた。
〜次の日〜
試合まで残り僅かに迫る今日。円堂は最終調整を行っていた。円堂の直線上に立っているのは染岡、豪炎寺、鬼道、雷牙と雷門が誇るストライカー達だ。
「止めるなら今の内だぜ円堂!」
「そんなわけないだろ、本気でこい!」
4人は一斉に走り出すと豪炎寺と染岡、雷牙と鬼道でペアを作りそれぞれの連携技を繰り出す。
「「“ドラゴントルネード”!」」
「「“ツインブースト
2つの強力なシュートが円堂に襲いかかる。円堂は“マジン・ザ・ハンド”で迎え討とうと構えを取る。
その瞬間1つの影が間に入る。なんとその影は2つのシュートを片手で止めてみせた。
「す、スッゲー!!!“ドラゴントルネード”と“ツインブースト”を片手で止めるなんて!お前凄いキーパーだな!」
突然割り込んできた謎の選手に円堂は賞賛の言葉をかける。だが、少年はそれを無視し足元を見ている。彼の足元には僅かに自分がずらされた跡が地面に残されている。その向きは“ツインブースト”を受け止めた手の位置と反対側である。
「…なるほど。確かに並の選手ではないようだね。」
少年は至近距離にいた円堂にも聞こえない声量でボソッと呟くと、右手のボールを足に移動させ、雷牙に目掛けてシュートを打った。
「んなッ!不意打ちなんて卑怯なヤローだ!蹴り返してやらぁ!」
雷牙は逃げずに打ち返す姿勢を取るものの少年から放たれたシュートはとてつもなく重く簡単に打ち返す事が出来ない。
「な、なんだよ…この威力は…!くッ、“雷鳴の王 レグルス”!」
化身を出す事によりようやくシュートの威力を相殺する事に成功した。だが、雷牙の体力は大きく削られ片膝をついてしまう。
「ハァハァ…誰だテメェは…!いきなりこんな真似をしやがって…!」
「奴は世宇子中のキャプテン、アフロディだ。」
雷牙の疑問に鬼道が答える。だがアフロディは気にも留めず冷たい目で雷牙を見下す。
「君は“サッカーモンスター”の稲魂雷牙だろ?あの人が“怪物”だと言うからわざわざ下界まで来てあげたというのにこの程度の実力じゃあつまらないな。」
「あの人と言うのは影山の事か!アフロディ!」
「フフフ、どうかな?だが総帥が我々の監督であるとだけ言っておこうか。」
「世宇子中が何をしに来やがった!まさか宣戦布告か!」
染岡の言葉にアフロディは嘲笑う、まるで愚者が的外れな事を言っていると言わんばかりに。
「宣戦布告…?ハハハ!宣戦布告とは戦う為にするものだろう?私は君達と戦うつもりは初めから無い。寧ろ逆さ、降伏を勧めに来たんだ。」
「降伏だと?何でそんな事を言えるんだよ⁈」
「何故だと?神と人間が戦っても勝敗は見えているだろう?これは神の慈悲なのだよ?従わない手はない筈だがね。」
あまりにアフロディの傲慢な言葉の数々に雷門イレブンの顰蹙を買う。円堂は彼らを代表してアフロディに反論する。
「そんなのやってみなくちゃ分からないだろ!」
「分かるさ。この世には覆しようの無い事柄が存在する。神と人間との戦いの勝敗もその一つなのだよ。そこにいる鬼道有人君は最も良く知っているだろう?」
遠回しに帝国を侮辱され思わず手が出そうになる鬼道だが、それを豪炎寺が静止する。
「まぁいい、降伏しないならばそれでいいさ。その代わりに無駄な練習を辞めたらどうだい?君たちのサッカー人生は次の試合で終わる。せめて残りの時間くらいは好きな事をする事を勧めるよ。」
雷門の努力を否定する言葉の数々を円堂に投げかける。遂に我慢の限界を迎えた円堂はアフロディに反論をする。
「練習が無駄だなんて誰にも言わせない!練習はおにぎりだ!俺たちの血となり肉となるんだ!」
円堂の必死の反論にアフロディは面白いジョークを聞いたかのように笑い出す。
「練習はおにぎりか…ハハハ!面白い事を言うね円堂君は!」
「笑うところじゃないぞ……!!!」
「ならば勝負をしようか。神との力の差を分からせてあげるよ。」
円堂と勝負をする為にボールを上空に上げ目にも止まらぬスピードで上空に移動するアフロディ。その時に金色の影が彼の前に現れ、ボールを奪った。
「…君の体力はもう限界の筈だろ稲魂君?」
「ヘッ…!そのヘロヘロのヤツにボールを奪われたのはどこのどいつだ?アフロくんよぉ!」
ボールを奪ったのは先ほどまで膝をついていた雷牙であった。
「おい雷牙!これは俺とアフロディの勝負だぞ!邪魔すんなよ!」
「邪魔したつもりはねぇーよ。だがなぁ、ヤツと俺の勝負はまだ着いちゃいねーんだよ…!勝負をするなら俺が先だ!」
「喧嘩は良くないなぁ。そうだ、いっその事同時にかかってきなよ。そっちの方が僕も楽だしね。」
危うく喧嘩する所であった雷牙と円堂であったが、それを止めたのは敵であるアフロディであった。まさかの2対1の勝負を申し込むアフロディに円堂達は面をくらいつつも直ぐに気持ちを1つにし提案を受け入れる。
「随分と余裕じゃねぇかよアフロくんよぉ!」
「そう簡単に俺たちを負かせると思うなよ!」
遂に始まったアフロディVS雷門が誇る最強コンビ。
アフロディが提案した勝負の内容はシンプル。アフロディがゴールまでドリブルをし一点取ったら勝ち。一度でも雷牙がボールを奪うか、円堂がシュートを止めれば雷門側の勝利と言う、圧倒的に雷門側が有利なルールだ。
「あのアフロディって人凄い自身ですね…!あの形式の勝負は稲魂さんの十八番ですよ!それに円堂さんもいるんですから守りは鉄壁ですよ!」
「私もそうは思うけどさっき見せたあのスピードはやはり脅威だわ…。恐らくアレをどう対処するかが勝負の鍵ね…。」
音無と夏未の会話に雷門一同に緊張が走る。木野のホイッスルにより勝負の火蓋が開けられた。だがアフロディはまるで散歩するように歩き出した。
「何を考えているんだアイツは⁉︎」
「あんなんじゃボールを取ってくださいって言っているようなもんっスよ!」
「ぶちかませ稲魂ぁ!」
対照的に雷牙はトップスピードでアフロディからボールを奪おうと走り出す。4m、3m、2m、対象のアフロディへの距離はどんどん近づいているが本人は走り出す気配が無い。あと1m、0.5m…遂にボールの目の前まで迫り白恋戦で習得した“ライトニングストーム”を発動しようとした…筈だった。
なんと雷牙の目の前からアフロディの姿が消えたのだ。決して油断した訳ではない、瞬きをしたつもりも無い、文字通り一瞬で姿が消えたのだ。その瞬間アフロディがいた地点から“ライトニングストーム”とは異なる竜巻が発生し雷牙を吹き飛ばす。
「ぐぁぁぁぁぁあ⁉︎」
「何が起こった…⁉︎奴が移動する瞬間は見えなかったぞ⁉︎」
「白恋の吹雪士郎も似たような事をしていたが奴のスピードはその比じゃない…!」
あまりの異常事態に混乱する雷門イレブン達。だがゴール前にはまだ彼がいる、雷門の守護神である円堂守が。
「こい!絶対に止めてやる!」
気合いを入れアフロディと対峙する円堂。だが彼は不敵な笑みを浮かべる。
「絶対に止めるね…。そんな無駄口を叩いている暇はあるのかい?」
「何⁈ …!ぼ、ボールが無い…!一体どこに…?」
その瞬間円堂の顔の横に風が吹く。嫌な予感がした円堂は後ろを見ると先ほどまでアフロディが持っていた筈のボールがゴールラインを割っていた。
これらが意味するのは雷門側の敗北。雷門が誇る最強コンビは自分達の努力を嘲笑った相手に完膚なきまで叩きのめされたのだ。
「まだだ…!テメェはまだ本気を出してねぇだろ!もう一度俺と勝負をしろ!」
「はぁ、総帥から聞いていたが雷門が諦めが悪いと言うのは本当だったようだね。いいだろう、もう一度相手をしてあげるよ。」
2回戦が始まろうとした直後、一台の黒い高級車が雷門のグラウンドに入ってきた。それに真っ先に反応したのは鬼道だった。
「あの車…!まさか…!」
「少々ヤンチャがすぎるぞアフロディ。」
嫌と言うほど聞き覚えのある低い声。車の中から出てきたのは影山零治だった。
「影山…!」
「久しいな鬼道。しかし、少し見ない間に随分と落ちぶれたじゃないか。あれだけ見下していた雷門なぞの一員となるとはな。」
ワザとらしく鬼道を煽る影山、鬼道は必死に耐える。
「帰るぞアフロディ。こんな所で油を売る暇は無いだろう。」
「申し訳ございません総帥。」
「ちょっと待った影山零治!少し署まで来てもらうぞ!」
まさかの鬼瓦率いる警察が影山の前に立つ。だが影山は待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべている。
「ほぅ、先日の帝国での一件ならば証拠不十分で釈放されただろう?それとも何が他に私が関与した事件の証拠でも出たのかね?」
「…貴様!まさか我々が尾行しているのを知っていてワザと隙を見せたのか⁉︎」
話についていけず混乱する雷門イレブン。鬼瓦もいつもの勢いが存在せず、何かを言い出せずにいるようだ。機は熟したと判断した影山は鬼瓦が言い出せない言葉を自分の口から発する。
「まさかと思うが
「だ、大介さんの…殺害だと…!」
「爺ちゃんが影山に…⁈」
尊敬する監督と祖父を殺害したと言う特大のカミングアウトに思わず固まってしまう響木と円堂。
「お、お前は自分の犯行を認めると言うのか…!」
「認める?何度も言うが私が円堂大介を殺害したと言う証拠は無いだろう?証拠が無ければただの噂話だろう?もっとも、円堂大介が死んだ悪い気はしなかったがね…!」
死者を冒涜する言葉を吐く影山の姿を見た雷牙は遂に堪忍袋の緒が切れる。
「取り消せ……!その言葉だけは取り消せぇぇぇぇぇえ!!!影山ぁぁぁぁあ!!!」
無意識の内に化身を発動する程にブチ切れる雷牙。返答次第では今にも蹴りかかりそうな勢いだ。しかし、影山は表情を一切変える事なく淡々と雷牙を話しかける。
「ああそうか、確か貴様も両親を亡くしているのだったな。だが何を取り消すと言うのかね?君は円堂大介とは何も関係が無いだろう?」
「もう我慢できねぇ!!!テメェの顔面に蹴りを入れてやらぁ!!!!」
「暴力はいかん!!稲魂の坊主!」
「落ち着け稲魂!!!」
鬼瓦達の静止も虚しく雷牙は化身を発動したままシュートを撃つ。その威力は直撃すれば大怪我は間違いない筈だった。しかし影山は無傷だった、その理由は……
「何やってんだよ守!!?コイツは…影山はオマエの爺さんを殺した男なんだぞ⁉︎」
影山の前にいるのは同じく化身を出した状態で雷牙のシュートを受け止めた円堂だった。
尊敬する祖父を殺し、その死すらも侮辱した憎むべき男を庇う行動に出た円堂に雷牙は困惑する。
だが、円堂は答えずに目線を下に向けている。
「なんとか言えよ守!!!答える気が無いならそこをどけ!今度こそヤツをぶっ飛ばす!」
「…それは俺も同じ気持ちだよ雷牙…。俺も絶対に影山をぶっ飛ばす…!」
雷牙に顔を見せた円堂の目からは大粒の涙が溢れ出ている。
「…だけどこいつは…!じいちゃんが好きだったサッカーでぶっ飛ばす…!!!」
円堂の瞳の奥には硬い決意がみなぎっていた。
ラストのやぶてん版の展開を入れたくてわざわざ影山を雷門まで呼びました。けど、原作だったら本人は意地でも雷門の敷地をまたがないんやろうなぁ…。