No side
鼻歌混じりに足音を立てながらある一室に入室する男性の姿が見える。男が入室すると全ての人間を見下せる程高い位置にある玉座に1人の男性が御している。彼は持ち前の低い声で男に話しかける。
「随分と遅かったではないか“雷帝”よ?
声色こそは普段と変わらないが、明らかに男は不機嫌なのが見て分かる。
「余計な手間をかけさせた事は謝罪しましょう影山さん。ですけどねぇ、親にとって
まさかの謝罪ではなく皮肉で返す“雷帝”。今の日本に影山に対してこのような態度を取る事が出来る人間は彼くらいだろう。
「まさか貴様の口から親の心得を聞く事になるとは夢にも思わなかったな。さんざん他人の子供を実験台にしておきながらそのような口を利けるとはな。」
「はっはっはっ!他人から見ればそう思えるかもしれませんねぇ。だが私に言わせてみれば彼らはWin-Winの関係なのですよ、壊れたココロを持つ子供に私の夢と言う接着剤を与える。するとあら不思議!彼らは私に認められようと自ら進んで実験に付き合ってくれるではありませんか!私は一言も実験台になってくれと頼んでいないにも関わらずね!私は彼らの努力にあった対応をしているに過ぎないのですよ!」
一般人には理解し難い思想をペラペラと話す“雷帝”。だが彼の目には影山を騙そうとする意志は一切感じられない、本気でそう信じている目だ。
「影山さん1つ質問をしましょう。親にとって最も屈辱的な悲劇はなんだと思います?」
「…くだらん。親などというくだらん生物の思考を考える暇は無い。」
「まぁそう言わずに、私が思う親にとって最も屈辱的な悲劇…それは『子供を愛せなくなる』ことですよ。人間は子を持った瞬間、人生という名の劇に於いて死ぬまで“親”の役を演じ続ける義務が課せられる。殆どの人間はその役を全うしようとし完遂するでしょう。だが不幸な事に一部の人間はその“役”に耐えきれず演じ続ける事を放棄する者もいる。貴方ならよくお分かりでしょう?」
その瞬間影山の脳裏には父の顔が浮かんでしまう。サッカーからも父親の役からも逃げ出し負け犬となった父の姿が。
だが、彼は父を憎む事は出来なかった。あれだけ優しかった父の姿が偽りのものではないと信じていたからだ。だから彼は父を狂わせた“サッカー”を憎む事を選んだ。世間は父が“負け続けた事”を責め父を奪った。
ならば自分がその望みを叶えてやろうではないか、貴様らが望んだ絶対に負けない選手、絶対に負けないチームを自分が作り上げてやる。父から受け継いだ自分の司令塔としての能力を目をかけた弟子に徹底的に叩き込み自分の“影”を作る。その“影”が率いるチームが連戦連勝を続けさせる。文字通りどんな手を使っても。そうするだけで世間が望んでいた願いを簡単に叶える事が出来る。
それこそが影山が辿り着いた“サッカー”への“復讐”であり、“父”への鎮魂歌であった。
「ククク…ハーハッハッハッ!『子供を愛せなくなる』ことが悲劇とは良い事を言うではないか!ならば貴様はとんでもない親不孝者だな!私と異なり
自身の地雷を踏んだ彼への怒りとも似た境遇を持つ者同士の哀れみともとれない影山の言葉に“雷帝”は凍りついたような笑みを浮かべたままであるが目はまるで笑っていない。
「おっと…そろそろ
「最後に一言。私が導き出した世宇子が雷門に勝つ確率は99.9%です。では、貴方達の活躍を楽しみにしておりますよ。」
珍しく総帥室を退室した影山の背中を見ながら“雷帝”は大きなモニターに映っている雷門の姿を見る。その中にいる1人の選手の顔を見た途端凍りつくような笑みを浮かべた。
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「んだよアレ…!あんな所が決勝の舞台だって言うのかよ…!」
「一体どのような原理で浮いているんですかあのスタジアムは⁉︎」
決勝戦がある筈のFFスタジアムの前に集合している雷門一同だが、彼らが見ている先は前ではなく空だ。
彼らの頭上にはまるで神殿のような装飾が施された巨大な要塞がFFスタジアムの真上に浮かんでいる。
その要塞はFFスタジアムの上に被さるように着陸し、新たなスタジアムへと姿を変える。
「こ、これが決勝の舞台…!世宇子スタジアム…!」
遂に顕現した神の聖地。これから始まるのは喜劇になるか悲劇になるか、それは誰にも分からない。
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世宇子スタジアムに入り、案内されたフィールドの先にいたのは彼らを見下す位置に立っている影山だった。
彼と大きな因縁がある円堂、豪炎寺、鬼道の3人は彼の姿を見たとたん怒りにより身体を小さく震わせる。だが、円堂は先日の白恋中との練習試合で取り戻した感情により憎しみを抑えつける。
「みんな聞いてくれ、俺は確かに影山が憎い。尊敬するじいちゃんの命を奪って、勝利の為に罪も無い人の命を簡単に奪う影山を俺は許さない。だけど、憎しみに囚われたままプレーはしたくない。サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクする。1つのボールにみんなが熱い気持ちをぶつける最高のスポーツなんだ…!だから、この試合も俺は…俺たちはいつもの雷門のサッカーをする!みんなと優勝を目指す!だってサッカーが好きだから!」
円堂の言葉に皆がうなずく中雷牙だけが少し納得のいかない表情をする。
「意義ありだ守。1つだけ間違えている事があるぜ〜。」
「間違えている事?何がだ?」
「俺はサッカーは好きじゃない。」
まさかの“好きじゃない”宣言に一同は騒つく。しかし、円堂は雷牙の言おうとする事を察し、彼が口を開くタイミングを計る。
「「超大好きさ(だろ?)!」」
「んだよ、せっかく雷牙さんがビシーっと決めてやろうと思ったのによ〜。」
「何年一緒にいるって思ってんだよ。雷牙の言いそうな事くらいもう分かってるって!」
ある程度緊張が和らいだ雷門イレブンはユニフォームに着替える為に控え室に行く。
影山が蒔いた憎しみの連鎖を断ち切った雷門イレブンの後ろ姿を見て響木は彼らの成長を静かに喜ぶ。
「(円堂…お前ならそう言うと信じていた。影山のように憎しみでサッカーを汚すのでは無く、サッカーを愛し心の底から楽しもうとするその姿勢。やはりお前は大介さんの孫だ…!)」
最後に響木は嘗てのチームメイトの顔を見るとフィールドを後にする。
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控え室に入りユニフォームに着替える雷門イレブン達。彼らの身体には誰一人として痣や擦り傷の痕の無い選手はいない。身体に残った傷痕の数々は彼らの努力の証だ。
円堂は祖父から受け継いだグローブを手にハメ、世宇子への勝利を誓う。
豪炎寺は妹の形見のペンダントを胸に当て、1年前に果たす事の出来なかった約束を今度こそ果たす事を誓う。
鬼道は帝国時代に使用していた赤色のマントをかけ、帝国の皆の無念を晴らす事を誓う。
雷牙は兄の形見である黄色のリストバンドを手首に装着し、死んでいった者達の分までサッカーをする事を誓う。
それぞれが異なる誓いを胸に込め、フィールドに再び立つ。そこには彼らを祝福するように囲む観客達の姿があった。そこには雷門イレブンと関わりが深い人物の姿も見られる。しかし、世宇子がいる筈のベンチに彼らの姿は無い。
「いよいよ始まるんだなFFの決勝が!!みんなと一緒にここまで来れて本当に嬉しいよ!俺、このメンバーでサッカーをやって来れて本当に良かった!みんなが俺の力なんだ!!!」
決勝まで来れた事に円堂はチームメイト全員に感謝をおくり円陣を組む。するといつの間にかベンチ入りをしていた世宇子中は彼らの関係者が運んで来たスポーツドリンクらしき液体が入ったグラスに手を伸ばす。
「僕たちの勝利に!」
『勝利に!』
勝利の美酒を飲むかのように液体を飲み干す世宇子イレブン達。露骨なまでに雷門を見下す行為を取るが雷門イレブンは悔しい気持ちをぐっと抑える。
遂に始まる雷門中対世宇子中の決勝戦。お互いのスタメンは以下の通りだ。
雷門
FW:染岡、豪炎寺
MF:一之瀬、鬼道、雷牙、松野
DF:風丸、土門、壁山、栗松
GK:円堂
世宇子
FW:デメテル
MF:アテナ、アフロディ、アルテミス、ヘラ、ヘルメス
DF:ヘパイス、アポロン、ディオ、アレス
GK:ポセイドン
互いのチームは整列し、顔を合わせる。両チームのキャプテン同士が握手をしアフロディは円堂に静かに話しかける。
「警告はしたよ。それでも君達は神に挑むと言うんだね。」
「サッカーから…大好きな物から逃げる訳にはいかない!俺たちの今の力を全てぶつけてお前たちに勝つ!!」
相変わらず傲慢とも言える態度を取るアフロディだったが円堂の言葉を聞くと不敵な笑みを浮かべる。
「フフ、君ならそう言うと思っていたよ…。」
そう一言だけ呟きアフロディはポジションに着く為に背中を向ける。円堂も本格的に闘志の炎を燃やし、ゴール前に立つ。
審判がホイッスルを鳴らし、世宇子中のキックオフから決勝戦が始まった。
早速、FWのデメテルはボールを受け取ると凄まじいスピードで攻め上がる。
「は、速い!」
「アフロディ以外の選手もここまでのスピードを持っているのか⁉︎」
吹雪兄弟にも匹敵するかもしれないスピードに混乱する雷門イレブンだが、一度彼らのスピードを体験した事のある鬼道には通用しなかった。
「狼狽えるな!白恋中との練習を思い出せ!冷静になれば捉えられない相手ではない!」
「そ、そうっス…!俺たちなら出来るっス!」
「雷門の底力を見せてやるでやんす!」
自身を抜き去ろうとするデメテルへの恐怖を頭から抜き出した栗松は冷静さを取り戻し遂にその姿を捉える。
「み、見えるでやんす…!そこでやんす!」
栗松はデメテルからボールを奪い、風丸にパスを出す。いつもならボールを受け取った風丸は持ち前の俊足を駆使し前線までボールを運ぶのだが今回の彼は動かなかった。
「これが俺の新たな可能性だ!!“北風の矢”!」
なんと風丸は自陣から超ロングシュートを放ち、ボールを一気に前線に送った。予想外の風丸のプレーに世宇子は一瞬固まってしまうがすぐに空中のボールを奪おうと飛翔する。彼らのジャンプ力は野生中を遥かに凌駕するものだったが、一足先に炎の旋風がボールを捉えた。
「“ファイアトルネード改”!」
進化した“ファイアトルネード”が世宇子中の正GKのポセイドンに襲いかかる。だが、彼は臆する事無く、その巨体に備え付けられた2本の腕を大きく振りかざす。
「“つなみウォール”!」
“海神”の名に相応しい必殺技が豪炎寺の炎を一瞬にして鎮火させてしまった。余程さっきのシュートは手応えが無かったのだろうか、彼はワザとボールを染岡に渡し、挑発を行う。
「ほらよ、せいぜい俺を楽しませてくれよ。」
「チッ!ボールを渡した事を後悔させてやるぜ!“ワイバーンクラッシュV2”!」
飛龍の咆哮が再度ゴールを襲いかかるが、今度はポセイドンの体が3倍程巨大化し、巨人の鉄槌が放たれる。
「その程度か?“ギガントウォール”!」
雷門中単体最強シュートすらも軽々と止めるポセイドン。期待して威力とは程遠いと感じたのか溜め息を吐き、雷牙にボールを渡す。
「はぁ〜もっと強いシュートを期待してたんだがな。今度は化身を使ってこいよ、そうじゃなきゃこの試合も楽しめそうにねぇ。」
「ハッ!誰がオメー如きに化身を使うかよ!!鬼道、豪炎寺!アレやるぞ!」
雷牙は化身を使わずに鬼道と豪炎寺を前に走らせ、ボールを上空に送る。黄色の稲妻を纏うボール目掛けて鬼道が飛翔し、指笛を吹く。すると、どこからか11匹のペンギンがボールに衝突し、トリプルシュートを放つ。
「“イナズマペンギン”!!」
「「“No.11”!」」
放たれたのは雷門最強の連携技である“イナズマペンギンNo.11”。黄色と紫の2色で構成された11匹のペンギン達がロケットを思わせるスピードで世宇子のゴールを奪おうとする。
「フン!まだまだだ!“アルカディア・ウォール”!」
今度は壁山の“ザ・ウォール”を思わせる体制で巨大な大陸を出現させる。その大陸は樹齢千年はあろう木々に囲まれ、まさしく楽園の地の名を冠するに相応しい必殺技である。
『と、止めたぁぁぁぁあ!!!雷門が誇る必殺技を軽々と止めて見せる世宇子のポセイドン!まさにその姿は“海神”に相応しい名だぁぁぁぁあ!!!』
「もう遊びは止めだアフロディ!!とっとと先制点を決めちまえ!!」
雷門の攻撃に興味を失ったポセイドンは凄まじい腕力でボールを投げると、一瞬で遥か先にいる筈のアフロディにボールが渡ってしまう。
それに気づいたDF陣は急いでアフロディの前に立ち塞がり、これ以上先には行かせないように必殺技の数々をお見舞いする。
「“キラースライド”!」
「“コイルターン”!」
「“ザ・ウォール”!」
並大抵の選手ならば過剰防衛にも思える対応であったが、残念な事に今彼らが対峙している相手は並大抵とは無縁の存在であった。
それを裏付けるかのように突然アフロディの姿が消えてしまう。すると彼らがいる地点から先日雷牙が体験したのと同じ旋風が発生しDFを吹き飛ばす。
「“ヘブンズタイム”。残念だがここからは僕の時間だ。」
その言葉通り、まるで時を止められたかのようなスピードで悠々と雷門のディフェンスを突破し、気がつけば円堂と1対1で対峙していた。
「こい!今度こそ本気のお前のシュートを止めてやる!!!」
「フフ、君は…天使の羽ばたきを聞いた事があるかい?」
するとアフロディの背中から美しい天使の羽が出現し、上空に飛び上がるとボールに純白のエネルギーがチャージされた。
「“ゴッドノウズ”!」
神のみが知る事を許される究極のシュートが円堂を襲う。だが、彼は怯む事無く身体を捻り心臓に気を溜め一気に放出する。
「“マジン・ザ・ハンド改”!!」
進化した事により迫力が遥かに増した魔神の右腕が天使の翼と対峙する。
だが、進化した“マジン・ザ・ハンド”を持ってしても簡単に“ゴッドノウズ”を止める事が出来ず、ゴールラインギリギリまで身体が押し込まれてしまう。
だが1点の差が勝敗を分けるサッカーにおいて序盤で先制点を与える訳にはいかない。円堂は再び闘志の炎を燃やす事で何とかシュートを止める事に成功した。
「ハァハァハァ…!どうだアフロディ…!お前のシュートを止めてみせたぞ…!!」
「へぇ、中々やるじゃないか。」
自分のシュートが止められたと言うのに焦りの表情を一切見せる事の無いアフロディ。まるで
先程のアフロディのプレーを見た雷牙は豪炎寺を呼び、ある提案をする。
「おい豪炎寺、はえーが力を出し惜しみしてる場合じゃなさそうだぜ。」
「出来れば後半までとっておきたかったが、仕方ない…!」
覚悟を決めた彼らはアフロディにボールが回るとすぐに彼をマークし、“マジン・ザ・ハンド”と同じように、身体中に流れる気を心臓に集中し一気に放出すると、魔神よりも遥かに大きくそれぞれの個性がよく出た戦士が出現する。
「“雷鳴の王 レグルス”!」
「“炎魔 ガザード”!」
現時点では雷門だけが使う事が可能な、未来から齎された未知の技術“化身”。体力の消費は通常の必殺技の比ではないが、早速切札を切らなければアフロディを止める事は困難であると2人は判断した。
予想は正しく、化身によって強化された2人にはアフロディの“ヘブンズタイム”が通用せず何とか静止した世界の中で動く事が可能となる。
「よし!動けるぞ!これなら行ける!」
「さっさとボールを渡して貰おうぜ!アフロ野郎!!」
化身の出力をフルパワーにしアフロディに襲いかかる雷牙と豪炎寺。だが、彼の様子はどこかおかしい。“ヘブンズタイム”と言う自分だけの時間に世宇子が最も嫌う下界の民が土足で侵入したのにも関わらずその美しい顔には笑みが浮かんでいる。その笑みはまるで愚かな事を続ける愚者を見るかのような表情であった。
「本当に君達は愚かだね…。ほんの少しだけ早く他人を凌駕する力を手に入れただけで“神”に勝てると思い込むなんてね…。」
アフロディから光り輝くオーラが溢れ出すと時代に紫色のオーラに変換され、次第に
「どうだい?この美しくも威厳溢れる神の姿は?君達のセンスに合わせて名付けるとするならば…“絶対神 デウス・エクス・マキナ”ってとこかな?」
遂に天使を媒介にし顕現した“絶対神”。力関係が逆転した雷牙達は静止した世界に再び送り返されてしまう。
神をその身に宿した少年は静かにそして美しく歩みを進めた。
はい、歴史の歪みの第三弾であるアフロディの超絶強化です。最初は“至高の女神 アフロディーテ”と“最高神 ゼウス”で悩みましたが、影山の操り人形となりながらも神を自称する彼の姿が機械神とマッチしていると思い、“デウス・エクス・マキナ”に決めました。ただ名前が長すぎるので次回から“マキナ”呼びで統一します。