「豪炎寺を雷門から辞めさせるって本気で言っているんですか監督⁉︎」
円堂の反応も当然である。何故なら瞳子は豪炎寺を雷門イレブンから追放させようとしているのだから。
今まで苦楽を共にしてきた仲間を追放しようとしている瞳子の横暴に今まで中立派であったメンバーすらも彼女に抗議する。
「私の使命は“地上最強チーム”を作る事。その為には豪炎寺君は必要無い、ただそれだけよ。」
「それだけじゃ説明になりません!……!おい待てよ豪炎寺!」
瞳子の抗議の途中で豪炎寺は自分はもう用済みと言わんばかりに無言で去る。
円堂は急いで彼を追いかけ、破壊された鹿のモニュメントで合流する。
「待てよ豪炎寺!お前…本当にチームを離れるのかよ⁉︎本当にこのまま行っちゃうのかよ⁉︎あいつらに負けたままで!悔しく無いのかよ⁉︎学校を滅茶苦茶にされて、雷牙も失って、何か答えろよ豪炎寺!!!」
豪炎寺は何も答えない。だが、円堂はそれでも問いかける。
豪炎寺はまだ生きているからだ、あの時と違って豪炎寺は立っている、目も開けている。
きっと何度も問いかければきっと答えてくれると円堂は信じていた。
数秒の沈黙のあと、豪炎寺は遂に口を開いた。
「すまない円堂…もうこれ以上は付き合う事は出来ない…。」
「豪炎寺…。」
気づけば円堂の頬を熱い水滴が触れていた。また1人大切な仲間を今失おうとしているのだ。
だが円堂は豪炎寺の苦しそうな顔を見て、これ以上説得する事は出来なかった。だから彼は叫んだ、涙を抑えて、彼の背中を押すように力強く。
「絶対……絶対に帰って来いよ!!!そんでもってまた一緒にサッカーをやろうぜ豪炎寺!!!」
円堂の言葉に豪炎寺は軽く振り返って僅かに笑みを溢す。
円堂は彼が見えなくなるまで手を振り続けた、いつの日か必ず再会出来ると信じて。
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遂に雷門イレブンを抜けた豪炎寺だが、その顔はどこか晴れやかだった。
「…これでいいんだ。今の俺がいたら必ずいつかあいつらに牙を剥く。やはり
公園から出た豪炎寺だったが、ここからどうするかまでは決めていなかった。幸い父から持たされた旅費は十分にある為、稲妻町に帰る事は可能である。だが今帰っても何も事態は変わらない。そう考えていると呼んでもいないタクシーが彼の横に止まった。
「あの…別に俺はタクシーを呼んでませんけど…。…!あなたは…!」
「長年これをやってると分かるんだよ。行く宛に困っている人間の歩き方くらいな。」
運転席にいたのはまさかのタクシードライバーに変装した鬼瓦だった。
わざわざ彼が変装してまで自分に会いに来たという事は何か重大な事があるのだと察した豪炎寺はタクシーに乗り込む。
「…わざわざ俺を迎えに来てくれた事はありがたいのですが、どうしてタクシードライバーに変装しているんですか…?」
「がっはっはっは!!中々、様になってんだろ?いやな、瞳子のねーちゃんに頼まれたのよ。お前の家族を保護するまで匿える場所を探せってな。」
「瞳子監督が…!」
まさかあの人が自分の事情を汲み取ってくれただけでなく、アフターフォローまでしてくれていた事に驚く豪炎寺。
「取り敢えずお前さんは沖縄に行け、そこに俺の知り合いがお前を匿う事を了承してくれた。だが1つ問題があってなぁ…。」
「問題?」
「いや、お前さんはエイリアに監視されてる身だろ?だからしばらくは“豪炎寺修也”という名前は使えない。それでも構わないか?」
問題と言われたからどんな事だろうと思ったが、今の豪炎寺には自分の名前が使えない事くらい安いものだ。
「構いません。そもそも俺は今日の試合で一度死んだ身です。いつか生き返れるのならその程度の事は問題ではありませんよ。」
「そうか…。だったら港に着くまでにまだ時間があるからここで偽名を考えてくれよ。自分が考えた偽名の方がボロが出難いだろう?」
豪炎寺にとっては偽名を考える事など人生で初めての経験であった為、かなり悩んだ。別にあくまでも偽名なのだからそこまでこったものでなくてもいいが、元々豪炎寺はささいな事でも手間をかけるタイプの人間なのだ。あまり自身を想像されないかつ、そこまで拒絶反応が起きないような名を考えるのは難しい。
悩む事数十分、遂に豪炎寺は自身が納得のいく偽名を思いついた。
「おっ?いい名前が浮かんだって目をしているな!俺が審査してやるよ、言ってみな!」
「そうですね……では
“イシドシュウジ”でお願いします。」
この時の鬼瓦はまだ知らなかった。本人が思いの外この名前を気に入り、生涯、偽名を使う場面では取り敢えずこの名前を多用する事に。
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奈良の高速道路を走っているイナズマキャラバンだが中の空気は最悪だった。当然である、特に説明も無しに無理矢理、豪炎寺をチームから追放した女が何食わぬ顔で同じバスに乗っているのだから。
「…まだ怒っているのか染岡?」
隣に座っている半田はずっと窓の外を見ている染岡に対し恐る恐る話しかける。だが同期の顔を見ずに静かに答える。
「怒ってるに決まってんだろ…。勝手に豪炎寺を追放した挙句にストライカーが足りないから今度は北海道まで行って白恋の吹雪兄弟をスカウトしに行くって言うような奴だぞ…!だがなぁ…それ以上に吹雪兄弟のスカウトに反対出来なかった自分に腹が立ってるんだよ…!もっと俺に実力があれば…ワントップでも点が取れるストライカーだったら、あの女のムカつく正論を真正面から叩き潰せたのによぉ…!」
短期な彼にしては静かに怒りを露わにする染岡、流石の彼でも怒りをぶつけても豪炎寺は戻って来ない事を理解しているのだろう。
「しっかし、奈良から日本最北端の北海道まで行くんだろ?一体何日かかるんだろうな〜?」
土門が呑気な事を言っていると塔子のスマホから着信が鳴る。
「もしもしスミス?…え?パパが解放された⁉︎」
塔子の発言を聞いた音無は急いでパソコンで確認するとネットニュースは確かに財前総理の釈放についてで持ちきりだった。
「良かったね塔子ちゃん!お父さんが戻って来て!」
「これでお父さんに会えますね!」
木野と音無は総理が戻った事を喜ぶが、娘である塔子はあまり喜んでいないようだ。
「確かに良かった…でも私は雷門に残る!あんな事をする奴らを私は許す事は出来ない!!」
実際にエイリア学園と会った事で、より奴らを野放しに出来ないと判断した塔子は雷門に残る意志を表明した。
「分かった!一緒に“地上最強チーム”になろうぜ塔子!」
「ああ!よろしく頼むよ円堂!」
お互い拳を合わせニヤリと笑う。キャラバンに漂っていた重い空気が彼らによってある程度浄化されていった。
北海道に向かう途中一旦稲妻町に寄ってから再び北海道を目指す雷門イレブン。その途中で特訓にちょうど良さそうな自然豊かなキャンプ場でキャラバンが停車した。
「今日はここで練習を行うわ。各自ユニフォームに着替えてちょうだい。」
瞳子は雷門イレブンにユニフォームに着替える事を指示するが、染岡を筆頭とした反対派の一部は彼女の指示に従おうとはしない。
「あれ?みんなは特訓しないのか?」
円堂の問いかけにも応じない姿を見た瞳子は持っていたトレーニングノートを近くにいた音無に預けるとこう提案した。
「いいわ、だったら自主トレをしてもらうわ、この山の自然を相手にね。」
「自主トレか、そりゃいいぜ!血も涙もねぇ監督のトレーニングをするよりかは遥かにマシだぜ!」
「よーーし!!山だ!自然だ!特訓だーーー!!!」
円堂の力強い言葉がキャラバンを超えて山奥に響き渡った。
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「行くぞ一之瀬!」
「ああ!いつでも来い!」
「えっほ、えっほ…」
「もっとペースを上げるでやんすよ壁山!!」
キャラバンから降りた雷門イレブンは各自自主トレーニングに挑んでいる。例えば、一之瀬と土門ペアは一之瀬が目隠しをし土門が放ったシュートを撃ち返す練習、1年勢は体力をつける為にいつも行っている山の登り降りを行っている。
「それにしても瞳子監督は冷たいっスよね〜あんな簡単に豪炎寺さんに出ていけだなんて言うっスから…」
「明日は我が身って感じでやんす…。」
「あんまり怖い事言うなよ栗松…。」
「でもあの監督ならやりかねないよね…。」
やはり1年勢にとって豪炎寺のリストラは衝撃だったようで練習の間も彼女の話で持ちきりである。
その頃キャラバンに残って作業をしているマネージャー達は…
「え、さっきのノートを見せろって……、な、なんでですか夏未さん…。」
「あら?何か見て困るような事でもあるの?もしかして
夏未の圧に分かりやすく目を逸らす音無の反応が答えと同義だ。夏未の予想通り、瞳子は最初から自身のトレーニングをさせる気は無かった。そもそも彼女は今雷門の大多数から反感を買っている状態なのだ、だからといって自主練をしろと言った所でもそう簡単に従う訳がないだろう。だからこそ敢えて自分が引いたフリをする事で彼ら自身が自主練を選ぶように仕向けたのだ。
「ふむふむなるほど〜中々に瞳子監督は策士ですね。」
「…さっきから気になっていたけど、なんであなたは練習に参加しないの目金くん?」
何故かマネージャー陣と共にキャラバンに残っている目金。本人曰く自分は雷門の頭脳だから練習に参加する必要は無いのだと言う。最もらしい事を言っているが先日までは文句を言いながら練習に参加していた為、恐らく自分ではもうエイリア相手に付いて行けないと察したのだろう。
「だったら私達の手伝いをして貰おうかしら?」
「…え?」
夏未達がキャラバンの後ろに移動すると、普通の車ならトランクに位置する箇所から大型のキッチンが現れた。
「おお!まさかキャラバンにこのような設備があるなんて!」
「いいでしょう?これならフレンチのフルコースだって作れるわ。」
料理が出来ないくせして何故か得意気にキッチンを自慢する夏美 未。その姿を木野と音無は冷や汗をかきながら見ている。その理由はただ一つ
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場面は再び自主練中の雷門イレブン達に移る。殆どのメンバーはペアで練習しているのに対し、風丸だけは1人で練習していた。だが彼はボールを蹴っておらず、切り株に座って雷牙が残したノートを凝視している。
「この前の試合で新たに獲得した“分身フェイント”…。もしかしたら何かを掴めるかもしれない…。」
実の所、風丸はFFの準決勝の白恋戦からずっと自分の新たな可能性を模索していた。世宇子戦で見せた“北風の矢”もその過程の1つである。
彼が可能性を模索し始めた理由は白恋の吹雪士郎の存在だった。同じDFでありながら前線まで上がってきても息切れしない体力、自分以上の圧倒的なスピード、FW顔負けのキック力、どれをとっても自分の完全上位互換としかいえない能力を持つ士郎の存在に正直、彼は嫉妬した。
少なくともこの世界で生きようと決意した以上、自分はずっと士郎と比較されながら生きていく事になるだろう。
だからこそ風丸は探しているのだ、風丸一郎太の風丸一郎太の為の、風丸一郎太にしか出来ないサッカーを。
「……駄目だな。いつまでも稲魂の力に頼ってちゃ、俺は成長出来ないだろうな。取り敢えず今日はスピードの強化と“分身フェイント”の発展を目標にトレーニングするか。」
切り株から腰を離し、風丸は練習しようと手にボールを持つ。するとどこからか円堂の聞いた事のないほどの情けない声が聞こえてきた。
「円堂⁉︎あいつ何をやってるんだ⁉︎」
「おっ風丸も来たか!あんたもやってみる?“マジン・ザ・ハンド”をもっと早く繰り出す為の特訓。」
近くにいた塔子曰く、今の“マジン・ザ・ハンド”や化身を繰り出すスピードではジェミニストームのシュートに対抗出来ない為、物理的に身体を回す事で心臓に気を溜めるスピードを高めようとしているらしい。だからといって木に垂らしたターザンロープを使って回転しながら飛ぶ意味はよく分からないが。
「あははは〜…、風丸もどうだ〜…、滅茶苦茶目が回るけど〜…、やってみる価値はあるぞ〜…、多分…。」
「いいね!次は私もやる!“ザ・タワー”にも活かせそうだし!」
そう言ってもう一本のターザンロープを手に取った塔子は円堂と共に猛スピードで回転しながら飛んで行った。
風丸は円堂に付き合う塔子の姿に雷牙の面影を見出していた。
『どうしたんだ風丸?オマエもやろうぜ!スプリガンレクイエムごっこ。もしかしたら回転しながら分身を飛ばすイカした必殺技が出来るかもよ!』
「悪いな稲魂。俺はお前みたいに馬鹿にはなれない、今の俺たちには時間が足りないからな…。」
『ふ〜ん、つまんねぇの。』
風丸はギョッとする。何故なら今の言葉はあくまで彼ならこう言ったであろう事への殆ど無意識に近い独り言だったからだ。だが、確かに彼の耳にはいない筈の雷牙の返答が聞こえてきたのだ。
「稲魂…?そこにいるのか…?」
風丸は辺りを見回すが友の姿は何処にもいない。
「幻聴か…。ははは、それもそうだよな…あいつは俺のせいで眠っちまったんだから…。」
今の言葉は幻聴だと結論付けた風丸は当初の予定通りの練習を行う為にその場を離れた。
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〜数時間後〜
「みんな〜お昼ご飯の時間よ〜!」
テーブルに並んでいるのはFF決勝前と同じく、大量のおにぎりだった。
最初こそ夏未は米を炊かせるだけだったが、あまりに本人が暇そうにしていた為仕方なくおにぎり作りに参加させたが今回は口を酸っぱくして塩を入れすぎないように注意させた為、なんとか爆弾が混ざる事はなかった。
皆がおにぎりを口一杯に頬張る中、今までいなかった瞳子が突如現れた。
「みんな自主トレで汗かいたでしょ。近くに温泉があるらしいから入ってきなさい。」
こんな所に温泉があるとは思っていなかった雷門イレブンは目を輝かせ、温泉に向かう。
「まさかこんな所に温泉があるとはな、まさに秘湯ってやつだな。」
「ああ、今日は汗でベトベトだよ。」
「そういや雷牙も温泉は好きだった言ってたな!いつかあいつにもここを紹介してやろうっと!」
「円堂一緒に入ろうぜ!!」
突然塔子が更衣室のドアを開けて円堂を入浴に誘ってきた。だが流石のフラグブレイカーの円堂でも女子と一緒に混浴する事は出来なかったようで仕方なく全員水着を着て入浴した。
それからは久しぶりに雷門イレブンに平穏が訪れた。中学生らしい笑い声が響く中、流石に練習の疲れが出た雷門イレブンは明日への疲れを残さない為にもう寝る事になった。
因みに男子はキャラバン内、女子は夏未が用意した高級テントの中だ。パッと見キャラバンで寝れる男子の方が良さそうに見えるが、実はキャラバン内で寝る都合上、そこそこ硬いシートの中で寝なければならない為結構窮屈らしい。
全員が寝床に着いた後、テントの中の女子陣は恋バナトークを咲かせていた。
「ねぇねぇ塔子さん!雷門に入ってから円堂さんにべったりですけどもしかして円堂さんの事が好きなんですか⁈」
「ん?好きだよ円堂の事は。でも男の子としてじゃない、友達として、サッカーをする仲間として大好きだよ。」
「ふふ、そういえば夏未さんも昔は稲魂君とよく喧嘩していたわね。」
「あれは大体あの人が悪いのよ。それに…誰かが近くで監視しないとあの人は必ず変な暴走するでしょ?断言するわ、稲魂君の将来は優れたサッカー選手になるか、世間を揺るがす大悪党になるかの2択ね。」
悲しい事に夏未の言葉に木野と音無は否定する事が出来ない。だがこの場にいる雷牙を知る者は誰1人彼が眠り続ける事を前提に話していない。これもある種の信頼の証なのであろう。
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皆が寝静まった頃、円堂は1人でキャラバンの上にいた彼にしては珍しく自主練の為ではなく滅多に見れない大自然の星空を見る為だ。
「隣いいか円堂?」
「あーやっぱ壁山のいびき?」
声の主は土門だった。壁山のいびきのうるささは前回の合宿で身をもって体験している。他のメンバーは疲れが聴覚をシャットダウンし寝れているが、土門は無理だったようだ。
「それにしてもキレーな星空だなー!稲妻町でも中々お目にかかれない星々のカーテンだぜ!」
「そうだよなー!なぁ知ってるか、今見えてる星の光って何百年とか前から来た光らしいぜ!」
「まさか円堂がそんな事を知ってるとはな…。もしかして稲魂の入れ知恵か?」
「ああ!雷牙ってああ見えて星座とかにすっげー詳しいんだ!たまに稲妻町のプラネタリウムを見に行くくらいには好きらしいぜ!」
「へえーアイツがそんなロマンチックな趣味をねー。やっぱ人って見かけによらないな。」
「あとこんな事も言ってたっけ、“星の光はずっと地球っていうゴールを目指してるんだ。考えられるか?俺たちに言わせれば光の速さでずっとドリブルをしてるんだぜ?”ってさ。」
「“地球というゴールに向かってドリブル”ねぇ…、ハハハ!アイツらしいや!」
「だよな!ハハハ!」
円堂と土門は今も稲妻町の病院で眠っているであろう雷牙に想いを馳せ、眠りにつく。いつの日か再び彼と一緒に走れる事を願いながら。
別にそんなつもりじゃなかったんですけど、雷牙の深掘りをする回になりました。本当いつまで眠っているんでしょうね彼は。