イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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悪戯小僧と鳳凰

「やっぱり空気が重いわね…。」

 

高速道路を走行しているキャラバンの内は、奈良でジェミニストームに敗北した時以上の重い空気が漂っていた。

それもその筈、ようやくジェミニストームにリベンジ出来たと思ったら彼らより格上のチームのキャプテンの横槍が入り試合がうやむやになっただけでなく、再び力の差を見せつけられたのだ。こうなるのも無理はない。

 

「そ、そういえば次の目的地は京都の漫遊寺中でしたよね?その学校って確か或葉さんが前いた学校でしたよね!どんな学校なんですか?」

 

流石に暗い空気に耐えきれなくなった音無は次の目的地の話をして気分を和らげようとする。

今キャラバンが向かっているのは京都にある漫遊寺中。デザームが白恋中を去った翌日に彼が率いる“イプシロン”がそこに襲撃予告を仕掛けたのだ。

 

「そういえば或葉さんは漫遊寺中出身でしたね!いいなー俺、ずっとあの学校に憧れていたんですよ!!」

 

音無の話を聞いていた少林は目を輝かせながら或葉を見る。だが、或葉にとってはあそこにあまり良い思い出は無いようで、いつも以上に素っ気ない態度をとる。

 

「…求道者にとっては天国、凡人にとっては地獄…。とだけ言っておこう…。」

 

それから数日かけて目的地の京都に辿り着いた雷門イレブン。本来学校関係者以外は漫遊寺中に入る事は出来ないが、瞳子が事前にアポをとっていた為特別に入る事が出来た。

 

「あれ?どうしたの鳳凰院君?ボールを手に持って?」

 

「…入れば分かる。必ず()がいるだろうからな…。」

 

何かを警戒している或葉だがその理由はよく分からなかった。取り敢えず、案内されたグラウンドまで向かうと途中で彼らの下にあった筈の地面が突如として消失した。

 

「な、なんだ⁉︎もしかして落とし穴か⁉︎」

 

「こんなものがあるなんて聞いてないっス〜!」

 

「壁山!お前重いからさっさと退くでやんす!!」

 

ほとんどの部員が何故かあった落とし穴に引っかかるが、それを見越していた或葉は、近くの茂みが僅かに動いた事を確認するとそこを目掛けて全力のシュートを放つ。

 

「むぎゃ…!!!こ、このシュートはまさか…!!!」

 

「…まだ悪戯癖は治っておらぬようだな木暮よ。」

 

「あ、或葉…!!!どの面下げてここに戻って来たんだよ!!!」

 

木暮という少年に話しかける或葉だが、当の少年は或葉の顔を見るなり激昂している。すぐにでも或葉に殴りかかろうという雰囲気だ。

 

「こらーー木暮ーー!!!大切なお客様になんという真似を!!!」

 

「げっ!キャプテンじゃん!くそ!!今日は見逃してやる!でも今度会った時は承知しないぞ!!」

 

バンダナを巻いた長身の男が来たと分かるや木暮は凄いスピードで逃げ去ってしまった。

 

「申し訳ございませんでした雷門イレブンの皆さん…、うちの部員である木暮があのような事を…。」

 

「さっき或葉の事を知っているようだったけど知り合いか?」

 

「…奴の名は木暮夕弥。漫遊寺中サッカー部の補欠部員だ…。」

 

「おお!久しぶりだな或葉!お前の活躍は聞いているぞ!」

 

或葉がいる事に気づいた現漫遊寺イレブンのキャプテンの垣田は旧友との再会に喜ぶが或葉の顔はあまり優れない。

 

「久しいな垣田…。だが今はそれどころではない…。急いで漫遊寺イレブンを集めよ、俺から話がある…。」

 

或葉の顔を見た垣田は只事ではないと判断し、急いで雷門イレブンを校舎の一室に案内し、部員を集めた。

 

「ねぇねぇ或葉さん、木暮くんってどんな子なんですか?さっきの反応を見た限り“ザ・イタズラ小僧”って感じでしたけど?」

 

「…その通りだ。奴は昔、親に捨てられたらしい…、それ以降、奴は自分以外の人間は皆敵だと思い込み様々な施設で問題行為を行った結果、漫遊寺に無理矢理入学させられたらしい…。」

 

「そうですか…。でもさっきの或葉さんへのその…敵意は普通じゃありませんでしたね、まるで親の仇みたいな感じでした…。」

 

「親の仇か…。その表現はあながち間違っていないな…。ただし奴にとって俺は自分を捨てた親と同じ存在だがな…。」

 

悲しそうな顔をする或葉を見て音無は好奇心で質問した事を後悔する。すると集まった漫遊寺サッカー部員が整列し大きな声で或葉に向かってお辞儀する。

 

『お帰りなさい或葉さん!!そしてようこそ雷門イレブンの皆さん!!我ら漫遊寺一同皆さんを歓迎いたします!!!』

 

同い歳とは思えない礼儀正しさに思わず引いてしまう雷門イレブンだが、或葉はいつも通り涼しい顔をしている。

 

「な、なぁ或葉?元チームメイトにしては礼儀正しすぎないか…?お前ってそんなに凄い選手だったのか…?」

 

「…一応貴様なりの褒め言葉として受け取っておこう。それに奴らが俺に頭を下げているのも当然だ…、俺は漫遊寺サッカー部のキャプテンだったからな…。」

 

「へ〜、或葉が漫遊寺のキャプテン……ってええ⁉︎」

 

先ほどの漫遊寺イレブンの歓迎にも負けない声量で驚く円堂。以前音無から漫遊寺サッカー部にいたとは聞いていたがキャプテンだったとは一言も聞いていなかったのだ。

 

「…もう昔の話だ。今は白恋イレブンの鳳凰院或葉だ…、漫遊寺イレブンキャプテンの鳳凰院或葉ではない…。」

 

「して或葉。大事な話とは一体なんなのだ?」

 

「やはり知らなかったか…。お前達も聞いているだろう、エイリア学園と名乗るテロリストが日本全国を襲っていると…。その次の標的がここ、漫遊寺中という訳だ…。それを貴様らに忠告しに来たのだ…。」

 

「しかも次に来るのは今まで学校を襲っていた“ジェミニストーム”よりも遥かに強いチームなんだ!だから俺たちと一緒に戦ってくれ!!」

 

円堂は“イプシロン”に対抗する為に“FF裏の優勝校”と名高い漫遊寺イレブンの協力を得ようとする。だが、彼らの答えはNOだった。

 

「…或葉お前も知っているだろう。我々は如何なる相手でも戦うつもりは無い。サッカーは争う為では無い、心身を鍛える為の物。我々が誠意を持って争うつもりは無いと訴えれば必ずエイリア学園も分かってくれる筈だ。」

 

キャプテンの垣田は漫遊寺の総意を或葉に伝える。或葉も彼らが協力に応じないのは分かりきっていた。

 

「…確かに貴様らが誠意を持って話し合えば100%争いは回避出来るだろうな…。」

 

「分かっているじゃないか、では…」

 

「だが…!奴らは戦うと決めたならば101(・・)%戦争になる…!!あやつらの考えは我々の想像を遥かに超えているのだ…!!」

 

或葉の言葉はいつもより語気が強い。あまり思い入れが無かったとはいえ元チームメイト達が傷つくのは彼でも嫌なのであろう。

 

「お前の言いたい事はよく分かった…。だが、我々の答えは変わらない。邪念を捨てて彼らを説得するだけだ…。」

 

これ以上の話し合いは時間の無駄だと判断した漫遊寺イレブンは先に部屋から退室してしまう。気がつけば辺りは綺麗な夕日が照らしていた。

 

 

___________

 

今日はもう遅い為、明日から練習を再会する事となり夕食が出来るまで自由時間となる。或葉は久しぶりの漫遊寺の校舎を散策していた。

その途中、たまたま通りかかった校舎裏に着くと旧友との思い出が蘇る。

 

漫遊寺に転入したての頃、暇つぶしにここに来るといつも通り悪戯した木暮を追いかける漫遊寺イレブンの姿があった。

 

『おお或葉!木暮を見なかったか⁉︎』

 

『…奴ならあちらの方向に向かって走って行った…。』

 

『感謝する!待てーー木暮ーー!!!』

 

彼らの姿が見えなくなった事を確認すると、自分のすぐ側にある茂みに向けて静かに話しかける。

 

『…もう出て来て良いぞ。』

 

或葉の言葉を聞いた茂みはガサガサ音をたてると中から木暮が姿を現した。助けてもらったというのにどこか不服そうだ。

 

『…なんで俺を助けたんだよ、知ってるぜあんた最近サッカー部に入った天才MFだろ?そんな奴が落ちこぼれの俺を助ける理由なんて無いだろ…?」

 

『…別に貴様を助けたかった訳ではない。俺の気分を害されるのを嫌っただけだ…。』

 

これが木暮と或葉の最初の出会いだった。別に彼と出会ったからといって木暮の性格が劇的に変わったわけではない。

しかし、人生で初めて自分に味方してくれた或葉は木暮にとって自分を叱る奴らとは明らかに異なる人間だった。

 

『スゲェな或葉さん!転入して数ヶ月でキャプテンになるなんて!』

 

『…これは俺にとって始まりでしかない。俺の目標はこのサッカー部を変える事…、そしてFFに出場し憎き帝国を倒す事…!!』

 

『いいねそれ!!あんただったら絶対につまんねーサッカー部を変えてくれるよ!!そんでもってその時は俺をスタメンにしてくれよ!必ず活躍してやるからさ!』

 

周囲から反対され続けてきた自分の目標を否定せずに付いて来てくれた木暮に或葉も救われていた。

だが、彼らとの友情は呆気なく崩壊する事となる。

理由はただ一つ、或葉が白恋中に転校したからだ。それも木暮に一言も言わず…

 

「…やはり奴は俺の事を恨んでいたようだな。フッ…無理も無い。奴にとっては二度目となる裏切りだったからな…。」

 

或葉としても一度は木暮に話すべきだろうとは思っていた。だが当時の彼には帝国の復讐しか頭になく、木暮の事を考える余裕が無かったのだ。

そのまま当ても無く歩いていると前方に特徴的な髪型をした小柄な少年の姿が見えた。

 

「木暮!俺の話を聞いてくれ…!」

 

せめてあの時の事を謝ろうと或葉は木暮を追いかけるが、少年はひたすら彼から逃げる。

 

「待ってくれ…!ぬお⁉︎」

 

木暮を追いかけていると突如地面が消えるが、北海道で培った反射神経によりなんとか回避する。

再び前方を見ると少年は既に消えていた。

 

「…怒っているだろうな。無理も無い、俺は貴様にとって親と同じ裏切り者だ…。だがこれだけは言わせて欲しい‥、すまなかった…。許してくれとは言わない…、だがこの言葉だけはどうしてもお前に伝えたかった…。」

 

他の者から見れば或葉は独り言を言っているようにしか見えないだろう。だが、彼は分かっていた。木暮は消えたのではなく、この近くに隠れている事を。

本人が自分と話したくない以上、或葉はもう無理に会おうとするのを諦めた。もうそろそろ夕飯の時間だ、彼はキャラバンに帰る事にした。

 

「今さら遅いんだよ…。」

 

誰もいない筈の空間に誰かの独り言が静かに響いた。

 

___________

 

〜次の日〜

 

漫遊寺と共に戦う事は出来なかったが、彼らからお詫びに特訓に協力させて欲しいとの申し出がでた為、雷門イレブンは彼らと共に練習をしている。

流石は“FF裏の優勝校”と評されたサッカー部という事もあり、彼らの動きは今まで見たどの学校よりも洗練されている。

 

「なるほど、裏の優勝校の噂もあながち嘘ではなかったようだな。」

 

「あんなに激しい動きをしてるのに息が乱れてないなんてスゲーな!!!」

 

彼らの洗練された動きは白恋中での特訓と同様、雷門のパワーアップに役立ちそうだ。

 

「くそ!もう一度だ!」

 

「アーツヤ、もうそろそろ休憩しようよ。ずっとシュートを撃ちっぱなしじゃないか、休息も練習の1つだよ。」

 

熱也はデザームとの対決以降、ずっと焦っていた。自分のシュートがいとも簡単に止められたという事実は彼の中にあるプライドを大きく傷つけていた。

 

「兄貴には分かんねぇだろうな!!あんな簡単にシュートを止められた俺の気持ちが!!」

 

苛立つあまり、つい兄に八つ当たりをしてしまう熱也。しかし士郎は特に怒らずに彼を諌める。

 

「怒ってたって何も解決はしないよ。父さんも言ってたじゃないか、1人だけじゃ“完璧”にはなれないって。」

 

父からかつて言われた言葉を投げかけられた熱也は、ようやく怒りを収める。

 

「…わーたよ。だけど休憩が終わったら兄貴にも特訓を手伝ってもらうからな!!」

 

「うん、いいよ!一緒に風になろう!」

 

軽い休憩を入れた後、吹雪兄弟は共に打倒デザームの為の特訓を開始するのだった。

 

 

___________

 

「あれ?音無さんがいないわね?」

 

事務作業をしていた夏美は同じマネージャーの音無の姿が見当たらない事に気づいた。何故か音無は昨日の夕食から元気が無い。心配になった夏美は木野に聞くとトイレに行っているそうだ。

 

「う〜…、本当に漫遊寺中は広い…ここどこなの〜?」

 

肝心の音無は校舎内で迷子になっていた。京都の山奥にある歴史ある学校という事もあり、敷地内の広さは雷門中や白恋中の比ではない。

音無は今日何度目になる知らない部屋の扉を開けると、薄暗い部屋の中で人影が動いているのを見かける。

 

「すみませ〜ん…。迷っちゃったんですけど〜…。」

 

音無が影の主に話しかけると、予想外だったのかビクビクと身体を震わせる。

 

「あ、あれ…あなたって確か木暮くんだったよね?こんなところで何をし…!」

 

彼に近づくと部屋の天井の至る所に金属のタライがロープで吊り下げられている。よく見ると木暮の近くに水が張ってあるタライがある。

 

「ちょっと何してるの⁉︎」

 

「何をしてるって?決まってんだろ!奴らへの仕返しさ!!」

 

恐らく木暮が言う“奴ら”とは自分を練習に参加させずに雑用ばかりさせる漫遊寺イレブンの事だろう。だが昨日の落とし穴の件といい、今のタライといい明らかに悪戯の度がすぎている。

 

「だからってこんな事をしなくてもいいじゃない!!皆が木暮君に雑用をさせているのは木暮くんの事を思っているからこそ…!」

 

「信用ならないね!!どうせ、どいつもこいつも内心では俺の事を見下しているんだ!!だから簡単に俺の事を裏切る!!俺を捨てたあのクソ女や或葉みたいにな…!!」

 

木暮の言葉に一瞬言葉を失ってしまう音無だが、すぐに怒りが込み上げて来る。確かに木暮が過去に経験した事は同情すべきだろう、だが他人の話を聞かずに下手すれば怪我人が出るかもしれない行為をし続けるのは話が違う。

 

「いい加減にしなさいよ!!だからってやっていい事とダメな事があるでしょ⁉︎本当に漫遊寺中のみんなを見返してたいなら、こんな所でコソコソ隠れて嫌がらせをするんじゃなくて、行動で見返せばいいじゃない!!」

 

「何だと⁉︎お前みたいな奴が知った口をきくな!!」

 

「ふ〜ん…自信が無いんだ?」

 

「何⁉︎」

 

「だってそうでしょ?練習に参加して他のメンバーを見返せる自信が無いから、こんなしょ〜〜もない悪戯しか出来ないんでしょ?」

 

音無の言葉に木暮は何も言い返せなくなる。それでも必死に反論する言葉を探しているが、出てくる言葉は負け惜しみでしかない。

 

「お、俺だって本気を出しゃあんな奴らなんて相手じゃねぇ…!!」

 

「だったら私に証明して見せてよ!!あなたが本当に凄い人だって!」

 

_____________

 

「すみません古株さん…、私のわがままに付き合わせちゃって…。」

 

「気にする事無いさ!こっちもたまには体を動かさないと鈍るからね!」

 

今日の練習が終わり街灯が入る時間帯になった頃、音無はキャラバン運転手の古株に頼み木暮の練習相手を担当してもらう事になった。

 

「へっ!こんな爺さんが相手じゃ俺の本当の実力が出せないぜ!!」

 

相手が鈍そうな老人と知り調子に乗る木暮だが、彼は知らなかった。今から戦う相手は、何時間運転しても疲れを見せない集中力、365日毎朝誰よりも早く学校に行き夜遅くまで清掃作業を出来る持久力、雷門一の不良でも彼だけには頭が上がらない程の脅威の人格を持つスーパー用務員である事を。

 

「へへ、も〜らい!!」

 

「ほいっと!」

 

ボールを奪おうとする木暮だが古株はあっさりと避ける。目の前のお爺さんがこんな軽やかな動きをするとは思っていなかった木暮は体勢を崩して転んでしまう。

 

「もう一回だ!」

 

「ほ〜い!!」

 

「もう一回!!」

 

「甘いのう〜。」

 

「も、もう一回…!!」

 

あれだけ舐めていた古株から未だにボールを奪う事が出来ない木暮は何度も彼に挑み続ける。だが数時間経っても古株からボールを取れる気配が見えなかった。

 

「ふぅ、少し休憩じゃ。」

 

久しぶりに運動でくたびれた古株は休憩を取る。流石の彼でも数時間体を動かし続けるのは腰にくるのだろう。

 

「ありがとうございます古株さん!はい水です!」

 

「ありがとよ音無ちゃん。でもあの坊主は凄いな。」

 

「木暮くんが凄い…?」

 

「ああ、だって練習を始めてから少しも動きが鈍っていないんだよ。それにあの軽やかな動き、あそこまでアクロバティックに動ける選手は中々いないよ。」

 

そう言われて木暮の方を見ると、彼は休憩せずにリフティングを行っている。

 

「お〜い!!早く水を飲めよ〜!!早くしろ〜!!」

 

よほど暇のようで木暮は古株を急かす。十分に休息を取った古株は練習を再開するのだった。

 

「もらった!!」

 

「まだまだ甘いわい。…しまった!!」

 

あと一歩のところで木暮がボールを奪おうとした瞬間、つい古株の脚に力が入ってしまい、あらぬ方向にボールが飛んでいってしまう。

飛んでいったボールは近くの茂みに当たるが不思議な事に人にぶつかった(・・・・・・・)ような音を発してボールを跳ね返す。

 

「だ、誰かいるのか…?!」

 

「もしかしてエイリア学園なんじゃ…!!」

 

「お前さん達すぐに逃げろ!!ここは儂が時間を稼ぐ!!」

 

エイリア学園関係者だと思い込みパニックになる3人を見て、茂みの中にいた人物は思ったより大事になりそうだと察し、急いで正体を現す。

 

「待て…!俺だ。」

 

「あ、或葉さん…!!」

 

「或葉…!テメー!まさかずっと見てたのかよ⁉︎」

 

「…ああ、最初からな…。」

 

「はん!性格の悪さは昔から変わっていないみたいだな!!どーせ爺さんからボールを取れない俺を見て、影で笑っていたんだろ⁈」

 

木暮は或葉が自分を笑っていたと決めつけるが本人は必死に否定する。今にも喧嘩になりそうな雰囲気を察した古株は彼らの仲裁に入る。

 

「やめなさいお前さん達。喧嘩はよくないぞ。」

 

「どけよ爺さん!!こいつは俺を裏切ったんだ!!俺に何も言わずに北海道に行きやがって!!」

 

「何も言わずに白恋中に行ったって…、本当なんですか或葉さん…?」

 

「…ああ。事実だ…。」

 

静かに肯定する或葉だが、その表情はとても苦しそうなものだった。

 

「裏切り者と同じ空間には1秒たりともいたくないね!!エイリア学園が来たら、すぐに俺の前から消えろ!!」

 

一方的に或葉を突き放した木暮は猛ダッシュでその場を離れた。その際、彼のポケットから何か落ちたが、1秒でも早く或葉から離れたい木暮はそれに気づく事はなかった。

 

「待って木暮くん!!行っちゃった…。あれ?なんだろうコレ?」

 

音無が落ちたものを拾うと、それは神社で売っているような“必勝祈願”の文字が刺繍されたお守りだった。

 

「…コレは!奴め、まだこれを持っていたのか…。」

 

「何か知っているんですか或葉さん?木暮が持っていたお守りみたいですけど…。」

 

すると或葉は懐から木暮のお守りと全く同じデザインと文字が入ったボロボロのお守りを取り出した。

 

「…これはかつて木暮が俺にくれた“お守り”だ。漫遊寺のキャプテンに就任した際にな…。俺はいつも試合をする時、これをポケットに入れている…。」

 

「じゃあこれは?」

 

「それは後日、俺がお礼に送ったものだ…。奴に合う文字は残念ながら無かったからな…。だが、奴は喜んでくれた…人から物を貰うのが初めてだったのだろう…。」

 

木暮との思い出が蘇り、どこか懐かしい顔をする或葉を見た音無は彼が木暮の事を裏切ったとは到底思えなかった。

 

「聞かせてください或葉さん。なんであなたは木暮くんに何も言わずに漫遊寺を離れたんですか?そこまで木暮くんを大切に思っているならせめて彼に一言言うべきじゃありませんか⁈」

 

音無に問い詰められた或葉は仕方なく自身の過去を話す。

 

最初にいたサッカー部が帝国によって潰された事

 

漫遊寺に転入したのはFF決勝戦で帝国を破り優勝する事で奴らに復讐する為だった事

 

キャプテンになっても漫遊寺の考えを変える事は出来ず失意にくれていたある日サッカー協会の“轟伝次郎”から白恋中への転校を勧められた事

 

「…本当に愚かだったと思っている。だが、あの時の俺には帝国の復讐しか頭になかった…。だからその日中に北海道に向かったのだ、木暮に何も言わずに…。」

 

或葉の過去を聞いた音無は絶句してしまう。或葉が漫遊寺に入り後に白恋中に転入したのは、不思見中のサッカー部を帝国が潰した為、つまり影山の策略という事に他ならない。しかも、彼らの相手をしたのが一軍、つまり兄の鬼道だからだ。

あの時の鬼道は影山の操り人形となっていた。全ては必ず3年連続でFFを優勝して自分を鬼道家の養子に迎える為に。

 

「…昨日俺は木暮と再会して分かったのだ。“復讐”とは必ず他人にも伝播するものだと…。」

 

或葉はFF準決勝で帝国の復讐心を断ち切れたと思い込んでいた。だが実際には帝国が撒いた復讐心は自分に、自分が撒いた復讐心は今度は木暮に伝播している。これ以上復讐心を広げない為にはどうすればいいか或葉は分からなかったのだ。

 

「…違うんです或葉さん。兄は…鬼道有人が不思見中を潰したのは元を辿れば私のせいなんです…。お兄ちゃんは私を同じ家の養子に迎える為に絶対にFFを優勝しなくちゃならなかったから…。」

 

「…自分を責めるな音無よ。経緯がどうであれ、木暮の復讐心を植え付けたのは俺だ…。だから責任は俺が取らなくてはならない…。貴様が責任を感じる必要は無いのだ…。」

 

互いに責任を感じているが、“誰が悪い”のかという答えは一生見つけ出す事は出来ないだろう。取り敢えず、もう夜も遅いので古株は音無と或葉を明日に備えて寝るように促し今日は解散となった。

 

_____________

 

〜次の日〜

 

早速練習を開始しようとした瞬間、さっきまで晴れていた空が急に暗くなる。これは“奴ら”が現れる合図だ。

その予想通り漫遊寺のグラウンドにデザームと以前いなかった10人のメンバーが現れた。

 

「とうとう来やがったな“イプシロン”!!俺たちと勝負しやがれ!!」

 

「久しいな吹雪熱也よ。だが今の獲物は貴様ら雷門イレブンではない。貴様ら漫遊寺イレブンだ!!」

 

既に集まっていた漫遊寺のキャプテンの垣田は先日の宣言通り邪念を捨ててデザームと話し合う。

 

「何度言われても答えは同じです。我々は貴方達と戦う意志はありません。だからどうか暴力に訴えるのは止めてください!!」

 

垣田は一切の邪念を消して“イプシロン”との対話を試みた。だがデザームの前に立った垣田は自分達の考えがあまりにも甘すぎた事を後悔する。

デザームの瞳の奥には邪念が一切籠っていなかった。その代わりにあるのは強者との戦いを求める純粋な思いのみ。

そのような相手に対して話し合いなど出来る筈が無い。戦意無しと判断した“イプシロン”はすぐさま学校の破壊を始めた。

 

「おやめなさい!!何故そこまでして“サッカー”に拘るのですか⁉︎サッカーとは争う為の道具ではありません!!互いに切磋琢磨し心と身体を高める為にあるのです!!」

 

「くだらんなぁ…!!我々にとって“サッカー”とは“戦争”なのだ!!!フィールドという名の戦場を駆け抜け、対峙する敵兵を蹂躙する!!それが“サッカー”よ…!!」

 

或葉が言っていた“101%の闘争心”の言葉の意味をようやく理解した漫遊寺イレブン達は己の修行不足を恥じ、“イプシロン”との対決に臨む。

 

ピーィ!!!

 

「遠慮はいりません!!邪悪なる魂に天罰を下すのです!!!」

 

「ククク…!邪悪なる魂か…。私からしたら全ての生物が平等に持つ筈の“闘争心”を無理矢理抑え込む貴様らの方が邪悪なる魂だと思うがな…!」

 

悪行を重ねる“イプシロン”に天罰を下すべく試合に挑む漫遊寺イレブン。

しかし、彼らとの力の差は圧倒的であった…

“ジェミニストーム”以上のスピード、パワー、テクニックを持つイプシロン。それに加えてキャプテンのデザームによるメンバーの実力を100%引き出すゲームメイク。どれをとっても“ジェミニストーム”とは次元が違う実力に僅か5分で漫遊寺イレブンは動かなくなった。

 

「もう終わりか?つまらんなぁ…!!だがこれで天は認めたという事だ!真に邪悪な魂を持っていたのは我らではなく貴様らの方であった事をな!!!」

 

圧倒的な実力で漫遊寺を下したデザームは高らかに笑う。笑い終わったデザームは前菜を食し今度はメインディッシュの番だと言わんばかりに雷門イレブンの方を見る。

 

「さぁ雷門イレブンよ!!今度は貴様らの方だ!せいぜい私を失望させてくれるなよ!!!」

 

「望むところだ!そう簡単に俺たちを倒せるとは思うなよ!!!」

 

力の差を見せつけられても怖気ずに立ち向かう円堂を見たデザームは不敵に笑う。雷門イレブンはイプシロンに一矢報いる事は出来るのか…?




或葉の中学に入ってからのタイムスケジュール

不思見中に入学→FF予選前に帝国と試合しサッカー部が廃部(大体6〜7月くらい?)→帝国への復讐を誓い漫遊寺中に転入(8月)→転入早々木暮と出会う→2年に上がりキャプテンに就任する(4月)→帝国との試合から丁度1年経った時期にサッカー協会の轟から提案があり白恋中に転向(6〜7月)

大体こんな感じかな?数ヶ月しかいなかったのに不思見サッカー部の報復に囚われるのはおかしいって意見もあると思いますが、或葉はクールな性格とは裏腹に友情を大切にする男なのでそれだけ帝国を許せなかったと脳内補完してください。
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