「でりゃぁぁぁあ!!!“正義の鉄拳”!!!」
陽花戸イレブンとの合同練習も終わり自由時間になっている中、円堂は日課のタイヤを用いた自主練を行っている。自分達よりも圧倒的に格上の選手である自縛猫鈴の存在が彼の中に燃えている炎にさらなる火を着けたのだ。その途中円堂の側に音も立てずに近づく影があった。
「やぁ円堂君。奇遇だね君も福岡にいるなんて。」
「ひ、ヒロト⁉︎お前も福岡に来ていたのか⁉︎」
その正体は漫遊寺中で会った謎の少年基山ヒロトだ。まさかヒロトも福岡にいた事に驚く円堂だが、彼の表情はどこか暗い。
「何か嫌な事でもあったのか?前よりも少し表情が暗いけど?」
「…やっぱり凄いね君は。チームの皆でも気づく事が出来なかったのに少し会っただけで気づくなんてね。」
自分が悩んでいる事を見抜かれた事に驚きつつも、円堂ならばそれも可能だろうと思い直したヒロトは笑みを浮かべている。
「実はさ友達関係に悩んでいるんだ…。」
「友達関係?なら俺に相談してくれよ!解決は出来ないかもしれないけど話を聞くだけなら出来るからさ!」
円堂はニカッと太陽のような笑みを浮かべながらヒロトの相談に乗る。
「…俺にはね、大切な人がいるんだ。俺はその人の願いの為ならどんな事でもしてあげたい。でも親友はそれを否定するんだ『本当に大切な人なら間違っている時はちゃんと言うべきだ』って。」
「え〜と…ヒロトの言う“大切な人”って何か悪い事をしてるのか?」
「…さあね、少なくとも俺は正しい事だって思っている。その親友だって
ヒロトは空を見上げて悲しそうな顔をする。円堂はヒロトの言っている事を理解する事は出来なかったが、彼の悲しみだけは理解出来た。
「…何かあったのか?」
「俺にも分からない…。前触れらしいものも無かった…、でもある日親友は突然倒れたんだ…。そして目を覚ますと彼の主張は変わっていた…それ以降かな、親友との間に小さな溝を感じるようになったのは…。」
ヒロトの話を聞き終わり、円堂は彼の抱えている問題は自分の予想よりも大きい事を察する。思えば円堂は雷門のメンバーとは大きな衝突を起こした事はない。理由は至極単純、ボールを蹴っているうちにいつの間にか蟠りが治っているからだ。
「…! そうだ!なぁヒロト、その親友もお前と一緒のチームに入っているんだろ?だったら答えは1つ!そいつと一緒にサッカーをするんだよ!」
「サッカーを…?」
「ああ!
円堂の力説に若干引きつつも不思議と否定する気にはなれないヒロト。
「…そうだね。確かにここ最近彼とは気持ちをぶつけ合った事はなかったかもしれない…。ありがとう円堂君、君のおかげで少し心が晴れたよ。」
「へへ、ならよかったよ!今度俺にもその友達を紹介してくれよな!そんで一緒にサッカーやろうぜ!」
「ああ約束するよ…。 そして近い内にその約束を果たす事も…。」
最後の部分だけは円堂に聞こえないように呟きその場から立ち去ったヒロト。再び1人になった彼は練習を再開するのだった。
_______________
円堂が自主練をしていると同時刻、風丸も1人で自主練を行なっていた。既に何時間も走り込みを続けているらしく彼のユニフォームは汗でびっしょりである。
『俺はお前みたいになりたかったんだ!!!お前だけじゃない、円堂、豪炎寺、鬼道…、今そこに立っているお前らのような“英雄”に!!!だから俺は奴の誘いに乗った!そして手に入れたんだ!“本当の強さ”をなぁ!!!おかげで今は最高の気分だ!!!』
帝国との試合で見た幻が頭から離れない。風丸は心の何処かで確信しているのかもしれない、あれは幻ではなく“これから起きるであろう歴史”の記憶である事を…
「まだだ…この程度じゃ足りない…!今の俺じゃ、イプシロンにも吹雪にも…自縛猫にも追いつけない…!」
あのイプシロンをも超えるチーム“ジェネシス”の存在、自縛猫鈴という自身と同じポジションでありながらも圧倒的な実力見せた謎の選手の登場は風丸の心を更に追い込んでいた。
すると近くの草むらががさがさと音を立て、その中から何かが飛び出す。
「まったまた猫又、登っ場っニャ〜!」
現れたのは今日の合同練習中にも姿を見せなかった“化け猫”だった。焦っている風丸とは対照的に何も考えていないような鈴の姿を見て風丸は思わず顔を背ける。
「…何しに来たんだ。悪いが俺は忙しいんだ、遊びたいなら他を当たってくれ…。」
風丸は冷たく鈴を突き放す。いつもの彼ならば一緒に練習しようと言う筈だが、どうしても今はその気になれなかった。
「ふ〜ん…、だったらこれがどうなってもいいニャ?」
そう言って鈴が見せたのは保管していた筈の雷牙の必殺技ノートであった。
「返せ…!それは俺の大切な仲間のノートなんだ!もしそれを傷付けてみろ、その時はただじゃおかないぞ…!!!」
仲間を人質に取るに等しい鈴の行動に風丸はいつものクールさを捨て、怒りを露わにする。そんな彼の姿を見た鈴はどこか悲しそうに風丸に忠告する。
「…おミャーの為に忠告してやるニャ。
「何故そう断言出来る…!これは俺の大切な仲間が残してくれたノートなんだ!俺はあの日誓ったんだ…俺はあいつの意志を継ぐ為にこの戦いに参加するって…!お前のその発言は稲魂雷牙を侮辱するのと同じだと理解しているのか…⁉︎」
「だったらもっと断言してやるニャ。今のおミャーには“自分”が無いニャ。昨日の試合のだってそうニャ、目先ばかりに気を取られておミャー本来の動きが出来ていないように感じたニャ。」
「黙れ!!!」
鈴の言葉を必死に否定する風丸だが、鈴は言葉を止める事はない。
「だったら勝負してみるニャ?俺っちが攻撃、おミャーが守備の1対1で。」
「望むところだ!俺が勝って証明してやる…、お前の考えが間違っている事に…!」
鈴は早速ドリブルを開始し風丸を抜き去ろうとする。風丸は手始めに“分身ディフェンス”を発動し彼の動きを見極めようにした。
「その程度じゃ俺っちからボールは奪えないニャ〜。」
だが鈴にはそれも通用せずにボールを奪える気配は見えない。このままでは先日の二の舞になると判断した風丸はまだ習得途中の技を試すことにした。
「くそ!だったらこれでどうだ⁉︎」
分身2人に鈴の相手を任せた風丸はボール1個分の大きさの気の塊を作り出す。
「くらえ!“エアーバレット”!!!」
気の塊は鈴と分身目掛けて襲い掛かるが、なんと鈴は分身を押し退けると“エアーバレット”に向かって駆け出した。
「何だと⁉︎勝負を捨てる気か自縛猫⁉︎」
「まぁ見てニャって。」
本人の自信とは裏腹に“エアーバレット”が直撃する。“エアーバレット”も雷牙が遺したブロック技である。気のボールに当たればたちまち突風が発生し相手を吹き飛ばすシンプルな必殺技だ。
だが直撃した気の塊は爆発するどころか鈴の身体を沿うように通り過ぎ、少し離れた場所で爆発した。
「馬鹿な⁉︎」
「ニャハハ!これぞ自縛猫流体術“球滑り”ニャ〜!!」
あまりに馬鹿げた現象を目の当たりにして唖然とする風丸。その隙に鈴は彼を突破しゴールにボールを叩き込む。
「くそ!!!何故だ…!どうして俺はこんなにも弱いんだ…!!」
鈴に完敗した風丸は膝を地面に突いて自身の弱さを嘆く。そんな彼を憐れむように鈴は淡々と理由を伝える。
「おミャーが俺っちに勝てない理由は3つ。1つ“まだ借り物の技を100%使いこなせていないこと”、2つ“自分よりも強い選手の動きを真似するあまり中途半端な動きしか出来ていないこと”、3つ…はまぁいつか分かるニャ。」
「っ……!」
「1つ問おうか風丸。おミャーにとってサッカーはそんなに苦しそうにやるものだったのかニャ?」
自分のサッカーが苦しそう…?確かにエイリアとの戦いに入ってからはサッカーをする事は義務へと変わっていった。だがそれは自分に代わって犠牲になってくれた稲魂への弔いの意味も込められていた。
「もしサッカーをする理由が稲魂雷牙への為ニャら、今すぐにキャラバンから降りるべきニャ。誰かの為にやるサッカーには限界があるニャ、“自分”を見失っているおミャーには明日の試合には勝つ事は絶対に出来ニャいニャ…。それに、稲魂雷牙だっておミャーを追い込む為に犠牲になった訳じゃないニャ、もし今のおミャーは奴が見たら何て言うのかニャ?」
そんな事はとっくの昔に分かっている。自分は稲魂のようにはなれない事…、気付いた時には既に“自分のサッカー”を見失っていた事…。だがもう風丸は止まる訳にはいかなかったのだ。
そんな自分の姿を恩人が見たら何と言うだろうか?
『しけた顔してんねぇ風丸く〜ん?こんな強ェ奴相手に楽しまねぇなんて人生の損だぜ〜?やる気が無ェなら俺も代わってくれよ!雷牙さんがズババ〜ンとアイツをぶっ倒してやるからよぉ!』
「ハハ…そうだよな…稲魂…。うぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!」
笑ったと思えば突然叫び出した風丸。常人ならばそんな彼の姿を見て狂ったのかと思うだろうが、鈴は彼の姿を満足そうに見つめていた。
「もう一度だ自縛猫!今度こそ本当の俺を見せてやる!!!」
「いいねぇ〜そうこなくっちゃ面白くニャいニャ!!!」
再戦を受け入れた鈴はすぐさまドリブルを開始し風丸を抜き去ろうとする。だが吹っ切れた風丸は鈴の動きについて行けている。それでも鈴との実力差を埋めるにはまだ何かが足りていなかった。
「(まだ足りない…!なら発想を逆転させるんだ…1人で無理なら複数で守ればいい…!)」
すると風丸は再び分身をした。しかし“分身ディフェンス”とは異なり分身の人数は3人から5人に増えており、しかもそれぞれ疾風のオーラを纏っている。
「ニャに⁉︎」
風丸達は一斉に回転し5つの竜巻と化し、鈴の進行方向を完全に塞ぐ事に成功する。流石の彼も吹き荒れる突風には耐える事は出来ずに派手に吹き飛ばされる。
「ハァハァ…、やった…、俺の勝ちだ…!!!」
新たな必殺技を編み出し勝利の余韻に浸る風丸とは対照的に鈴は地面に背をつけたまま弱々しく笑う。
「ニャハハハ…、やれば出来るじゃん…やっぱオメーは強ェよ風丸…。」
風丸本来の実力を見た“自縛猫鈴”は自分のキャラすらも忘れて素の口調に戻っていた。
「ありがとう自縛猫…、俺は大切な事を忘れていたみたいだな…。 …あれ?自縛猫?何処に行ったんだ…?」
風丸が振り向いた時には鈴の姿は無かった。
_______________
「う〜んトイレ…。」
ヒロトと再会した数日後、遂に明日はジェネシスとの決戦日だ。明日に備えて早めに眠りについた雷門イレブン達であったが、円堂は尿意を催した為キャラバンから降りトイレに向かう。
「ふぃ〜すっきりしたぁ〜!…あれ?誰か練習しているのか?」
トイレから帰る途中ボールを蹴る音がした為、気になった円堂は音がする方向に向かった。
「…! 誰だ⁉︎…って円堂か。驚かせんなよ…。」
練習をしていたのは同じ2年の半田だった。彼は円堂が陰で自分の練習を覗き見していた事に少し不満のようだ。
「ああごめん、でも珍しいな半田がこんな時間まで練習しているって。」
「まぁな…。なぁ円堂、少し相談に乗ってくれないか…?」
その場に座り込んだ半田は満天の星空を見上げながら円堂に自分の想いを告げる。
「俺さ…少し後悔しているんだ…。」
「後悔?もしかしてエイリアとの戦いに参加した事か?」
「違うさ…、FFが始まるまでサッカーへの情熱を無くしていた事だよ。」
何故かFF予選直前までサッカーへの情熱を無くしていた事を後悔する半田。だがそれは彼に限った事ではなかった筈だ。あの時の雷門は皆雷牙と円堂に甘えていた。それは否定しようの無い事実だ。
「覚えてるか?2年に上がって初めて深見中と練習試合した日の事。」
「ああ、覚えてるさ!あの時の雷牙は凄かったよな〜、ここら辺じゃ有名な深見中相手にバンバン点を取って、雷門イレブンの初勝利に導いてくれてさ!あの時俺は改めて確信したんだ、あいつとなら必ずFFで優勝出来るって!」
「…そっか。でも俺にとっては間違いなくあの日が分岐点だったんだろうな…。」
「分岐点?」
「あの日…、染岡は稲魂の活躍を見てから更に特訓に打ち込み始めた。その努力は報われて今では豪炎寺や熱也に肩を並べる程凄いFWに成長した…。でも俺はさ…、あの日の稲魂の活躍を見て思ったんだ…『俺はこいつには絶対に勝てない』って。本当に凄いよ稲魂は…何をしても中途半端な俺と違って全てのポジションで活躍出来る…まさに俺の完全上位互換だ。」
どうやら半田は自分が同期に置いて行かれている事に焦りを感じ始めているようだ。
「そんな事はない!半田だってちゃんと努力してきたじゃないか!現に今だってみんなが寝ている中で自主練をしてたじゃないか⁈」
「こうでもしないとみんなに追いつけないからさ…。ぶっちゃけ俺はベンチに残れただけでも奇跡みたいなもんだと思ってる。」
常人以上の努力を重ねているのにいつまでも自分に自信を持たない半田を見た円堂はある決断をする。
「分かった!だったらこれからは毎日俺がお前の自主練に付き合ってやる!」
「いや、いいよ…お前は雷門唯一のGKなんだぜ?そんなお前が俺の練習に付き合って体調を壊したらみんなに申し訳ないって…。」
「いーんだよ!これは俺が自分で決めた事なんだ。それに陽花戸中の校長先生も言ってたんだよ、爺ちゃんも校長先生と一緒に特訓をしてたんだって…、だから俺も半田と一緒に特訓をする!そうと決まれば今から練習だ!」
「ちょ、ちょっと待てよ円堂⁉︎ああもう!一度決めたら即断即決なのは昔変わってないな!!」
ぶつぶつ文句を言いながら円堂の跡を追いかける半田。その時の彼の表情は先ほどと比べるとどこか晴れやかなものだった。
_______________
〜次の日〜
時計が正午を示した時間に奴らは光と共に現れた。だが何故か
「ほぅ?てっきり雷門に我々の相手を任せると思っていたが、まさか自分達で戦うつもりとはな…。」
ジェネシスのリーダー格らしき青髪の少女は高圧的な態度で話す。明らかに陽花戸イレブンの事を見下しているようだ。
「お前がチーム“ジェネシス”のキャプテンか!」
「違うな。私はチーム“ジェネシス”の副キャプテンのウルビダ。このチームのキャプテンはこいつだ。」
そう言ってウルビダは横に移動すると、髪を逆立てた少年が姿を現した。その少年を見た円堂は身体を震わせる。何故なら髪を逆立ててはいるものの顔つきは間違いなくヒロト本人だったからだ。
「ひ、ヒロト…?何でお前がジェネシスにいるんだよ…⁉︎」
流石の円堂も彼がエイリアの者だったと知り動揺を隠せない。ヒロト…いや、グランは少しだけ気まずそうにしながらも円堂に告げる。
「奈良で初めて会った時に言っただろ。俺と君は近い内に試合をするって…それが今なんだよ。」
友人だと思っていたヒロトが敵であった事に悲しみにくれる円堂だったが、それでも彼らと戦う覚悟を決める。その時、戸田が口を挟んだ。
「待ってください!どうやらそちらのチームは1人足りないようですがよろしいのですか?!」
「それがどうした?たかが1人足りない所で貴様ら相手では何のハンデにもならん。私達の心配をするくらいなら自分達の心配をするべきではないか?」
戸田の質問に高圧的に答えるウルビダだが、雷門はむしろチャンスだと思っていた。何故なら陽花戸イレブンにはあの自縛猫鈴がいるのだ、彼ならきっと未知の実力のジェネシスでも一矢報いる事が出来ると思っていたからだ。
だがその期待は無惨にも打ち砕かれる事となる。
「何だと⁉︎」
「どうしてあいつがベンチにいるんだ…⁉︎」
全員ポジションに着き終わった陽花戸イレブンだったが、グラウンドには自縛猫鈴の姿は無く、彼はベンチに座っている。それが示すのは彼はスタメンでは無いという事だ。
流石にこの判断に納得する事が出来なかった鬼道は鈴に問い詰める。
「まさか
鬼道は鈴に試合に出場するように説得するが、彼は昨日までとは別人のように黙り込んでいる。薄々、鈴の正体を察している鬼道は彼が試合に出ない筈がないと思っての説得だが、それでも彼は動かない。
「そうか…動く気が無いのならこれ以上は言わない。だが断言しておくぞ、この試合は10分で以内で決着する。試合に出るつもりがないのなら、いつでも棄権出来る準備をしておく事だな。」
ピッピー!
遂に始まったエイリア学園最強チームである“ジェネシス”の初陣。その実力は雷門の予想を遥かに超えていた…。
「とろいっポ〜!」
バキ!
「ズズッ…!」
「遅すぎる…と言っています。」
ドカ!
「そ、そんな…俺たちの力が通用しないなんて…!」
まるで消えたように錯覚させるジェネシスのスピードにより陽花戸イレブンは1人また1人倒れていく。気づけばグラウンドに立っているのGKの立向居1人になっていた。
「こ、こい…!俺がお前のシュートを止めてみせる…!」
氷のように冷たい目をするウルビダに立向居は無意識に震えている。
「ふん!大した奴だ、ここまでの実力差を見ていながら虚勢を張る勇気があるとはな。」
ウルビダは立向居を鼻で笑うと彼にノーマルシュートを放った。たかがノーマルシュートだが人間を超えたエイリアの手にかかれば、必殺技と大差のない威力となる。立向居の反応速度を超えたウルビダのシュートは彼の切り札を出させる間もなくゴールネットを激しく揺らした。
『ご、ゴーール…!!!まだ前半10分も経っていないとうのに早くも30点目を奪ったチームジェネシス!もはや陽花戸イレブンには立っていられる選手はおりません!!!』
「まさかここまで力の差があるなんて…。」
圧倒的な実力を誇るジェネシスに雷門イレブンは唖然としている。だが、そんな状況であっても諦めない者がいた。
「まだだ…!まだ試合は終わっちゃいないぞ…エイリア学園…!」
最後に立ち上がったのは立向居勇気だった。既に圧倒的な実力差を見せつけられながらも彼は立った。全ては倒れた仲間の為…そしてチーム全員で誓った
自分のシュートを受けても立ち上がってくる立向居の姿に苛立ちを覚えたウルビダは今度こそ彼を仕留めようとシュートの体制に入った…がグランがウルビダからボールを奪いシュートを中断させる。
「やめろウルビダ。もう目的は果たした、これ以上彼らを苦しめる理由は無いだろ。」
「今更怖気付いたかグラン。貴様は“お父様”に教えられた事を忘れたのか?『エイリア学園に背く者は誰であろうとも容赦はするな。』奴を潰す理由はそれで十分だ。」
これ以上無駄な犠牲を必要としないグランと“お父様”の教えを徹底的に実行しようとするウルビダとの間で摩擦が生じる。その時彼らの脳内に“エイリア皇帝”の言葉が響き渡った。
『ウルビダの言う通りですグラン。そこにいる雷門への見せしめとしてあのキーパーを潰しなさい。』
「ですが“父さん”、もう俺達の使命は果たしました…。これ以上の犠牲は何のメリットもありません…!」
「甘ったれるなグラン!我々は“お父様”に仕える戦士なのだ!くだらん情に流される未熟者には、そのキャプテンマークは相応しくない!!私が手本を見せてやる!!!」
偉大なる“エイリア皇帝”の命令に背こうとするグランに苛立ったウルビダは強引に彼からボールを奪い返すと先ほどよりも強力なシュートを放つ。
「(み、見えない…!でも俺は逃げるわけにはいかないんだ…!陽花戸のみんなとの約束を守る為に…!)」
約束を思い出し奮起した立向居は“ゴッドハンド”を使おうとするが現実は残酷である。脳が身体に命令を送った時にはもう既にボールは立向居の顔の前にあった。
「立向居ーー!!!!」
立向居に衝突したボールは凄まじい衝撃波を起こしゴールすらも包み込んだ。円堂は思わず立向居の名を叫んでいた。
だが数秒後、砂煙が晴れた場所にいたのは
立向居の代わりにウルビダのシュートを止めた自縛猫鈴だった。
「何だと…!」
本気ではないとはいえ、まさか自分のシュートが止められるとは夢にも思っていなかったウルビダは動揺している。それに対しグランは冷静に試合中にも関わらず鈴が横槍を入れた事を咎める。
「どういうつもりだい君?まだ試合続いている筈だろ?ベンチの君にはグラウンドに入る権利は無いと思うけど?」
「どういうつもりかはこっちのセリフニャ…。審判を見るニャ、とっくに陽花戸の棄権を知らせているニャ。だから俺っちは止めに入ったんだニャ…。」
見ると確かに審判はジェネシスに陽花戸イレブンの棄権を知らせていた。
彼らの棄権によりジェネシスの勝利が確定したものの、自分のシュートを止められた事にウルビダは整った顔に青筋を立てながら鈴を睨みつけている。彼は彼女の視線を無視し、雷門イレブンと協力して怪我を負った陽花戸イレブンをグラウンドの外に移動させた。
「立てるかニャ立向居?」
「ごめんなさい鈴さん…。俺…何も出来ませんでした…。」
陽花戸イレブンの中で唯一軽症だった立向居は、自分の無力さを痛感し大粒の涙を流す。それを見た鈴は彼を優しく慰める。
「それ以上
鈴と立向居は瞳子が呼んだ救急車に大怪我をした陽花戸イレブンを乗せた。鈴は立向居も病院に送る事を提案したが本人の強い希望で雷門の試合を見る為に残る事になった。
しかし、鈴は陽花戸中の方へ戻らずにどこかへ歩き始めた。
「待ちなさい自縛猫君。あなたに話があるわ。」
陰で彼の様子を見ていた夏未は立ち去ろうとする鈴を呼び止め問い詰める。
「何故さっきの試合に出なかったのかしら?あなたほどの実力者なら勝てないまでも一矢報いる事は出来る筈よね?」
夏未の質問に鈴は顔を見せず黙り込んでいる。どうやら彼女の質問に答えるつもりないようだ。
「言っておくけどあなたに黙秘権は無いわよ。お父様に頼んであなたについて調べさせてもらったわ…。『自縛猫鈴』そんな人間は戸籍上に登録されていないわ、分かったのはここ最近陽花戸イレブンに混じって練習試合に参加した記録があるだけ…、影山でさえもう少し情報が出たというのにここまで謎だらけなのは流石におかしいわ…。あなたは一体何者なの?」
「…人にはどうしても言えない秘密があるものニャ…。それは俺っちでも例外はニャいニャ…。だけどこれだけは言っておくニャ、俺っちは必ず戻って来るニャ…それまでなんとか耐えていて欲しいニャ…。」
夏未の質問に一度も答えずに立ち去ろうとする鈴を彼女は引き止めようと手を掴んだが何らかの液体が掌に付着していたせいで取り逃してしまった。夏未の手には彼の手から出たであろう赤い液体がべっとり付着していた。
「 これは…血?でもどうして…?」
本来、試合に出場していない鈴が出血するのはあり得ない事である…。なんらかの理由で
_____________
「さぁ雷門イレブンよ!前座は終わった、貴様らが戦う意志を見せなければこの学校を破壊するぞ!」
「望むところだ!陽花戸イレブンの仇は
ようやく鈴がいない事に気づいた円堂だが、周囲を見渡しても彼の姿はない。
すると突如空からエイリアが使うボールが落下し、そこから1人の人影が現れた。
「な、なんだこいつは⁉︎」
「不気味な仮面をつけた奴だ…、そもそも生物なのか…⁉︎」
突然現れた人物は形こそは人形であるものの、“ジェネシス”とは微妙に異なるデザインのユニフォームを身に包み、顔に当たる部位には獅子を模した鉄仮面を装着している。
「フフ、紹介するよ円堂君。彼の名前はアケボシ、俺の親友さ。」
「……。」
とうとう雷門の前に現れた謎の選手“アケボシ”。イプシロン以上の実力を見せるジェネシス…、突如行方不明になった自縛猫鈴…、そして彼と入れ替わるように現れた“アケボシ”…。様々な謎が渦巻く中、雷門イレブンは彼らとの戦いに挑む。
半田の描写は入れるか悩みましたが次回の展開にどうしても必要だと判断した為、無理矢理ねじ込みました。あとグランの性格はゲーム寄りにしています。