イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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今回から雷牙の口調を意図的に変えています。理由は今までの雷牙の口調と熱也の口調がほとんど同じである事に今更気づいたからです。


“怪物”の帰還

「稲…魂…?」

 

“自縛猫鈴”だった者の素顔は病院で寝ている筈の稲魂雷牙であった事に先ほどとは違う意味で衝撃を受ける雷門イレブン。

 

「とりま説明は後だ!!!さぁ、宇宙人退治と行こうぜ!“ジグザグライトニング”!!!」

 

雷牙の体から眩い光が発せられると目にも止まらぬ速度で駆け出す。その様子はまさに閃光(ライトニング)の名に相応しい姿だ。

 

「くっ、お前達!“ジェネシス”の名にかけて絶対に奴を止めろ!!」

 

予想以上の雷牙のスピードに焦ったウルビダは指示を出す。しかし一向に雷牙を止められる気配がない。

 

「はッ!この程度で雷牙さまを止められると思ったら大間違いなんだよ!!!」

 

ゴール前に到達した雷牙はボールを上空に上げると瞬間移動をしたと錯覚させるスピードで別方向に蹴る。ボールの軌跡は次第に巨大な球体を作り上げ、その中から巨大な獅子が姿を現した。

 

「これが俺ちゃんの新必殺技!!!“カイザーレオーネ”だぁぁぁぁあ!!!」

 

“王”を超えた“皇帝”の名を冠した新たな“獅子(レオーネ)”がフィールドを駆け回る。

 

「“プロキオンネット”!!」

 

“オルトロスブリザード”以上の危機感を感じたネロは躊躇せずに必殺技を放つ。だが“カイザーレオーネ”の威力は一向に落ちる気配がない。

 

「その程度の網如きで“獅子の皇帝”を捕らえる事が出来ると思ってんのか?だとしたらオメー…相当な馬鹿だぜ?」

 

勝負はまだ着いていないにも関わらず雷牙は背を向けて自陣に戻る。その姿を見たネロは屈辱に怒りの表情を浮かべるが、彼との実力差は歴然であった。

 

「くそ…!ぐぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

『ご、ゴーール!!!負傷した吹雪士郎と交代した自縛猫鈴改め稲魂雷牙が新必殺技によりジェネシスから一点をもぎ取ったぁぁぁぁぁあ!!!もしやジェミニストーム戦で見せたあの怒涛の追い上げを再び我々に見せてくれるのかぁぁぁぁあ⁉︎』

 

自分達が束になっても敵わなかったジェネシスをたった1人で圧倒する雷牙を見た雷門イレブンは無意識に冷や汗をかいてしまう。

 

「凄い!あれが“サッカーモンスター”の異名を持つ稲魂雷牙の実力か…!」

 

「イプシロン以上のバケモン共を圧倒するなんて…。あいつ…本当に人間か…?」

 

塔子や木暮のように雷牙と関わりが浅い助っと組は彼の圧倒的な実力に唖然とする一方だが、古参メンバーはこれが稲魂雷牙だと言わんばかりの表情で彼を見ている。

 

「雷牙…!本当に帰ってきてくれたんだな…!!!」

 

特に親友である円堂は涙ぐみながら駆け寄る。いや円堂だけではない、雷牙と関わりが深いメンバーは皆円堂と同じ表情をしている。

 

「へいへいへ〜い、何辛気臭ェ顔をしてんだよオメーら!こっからバンバン追い上げて行くぞ!伝説の超地球人の底力をストレッチ星からの来訪者に見せつけてやろうぜ!!」

 

『おお!』

 

雷牙が一点をもぎ取った事で消え掛かっていた雷門の闘志に再び火が着く。そんな中、今まで死んだ目をしていた風丸は涙を浮かべながら雷牙に謝罪しようとする。

 

「稲魂…俺はお前にずっと…!」

 

「ノンだぜ風丸。今は試合に集中してくれ、謝罪なんざオメーのプレーで返してくれればいい。」

 

「ああ‥!」

 

雷牙の復活で沸き立つ雷門とは対照的に点を許したジェネシス…特にウルビダは苛立ちのあまりネロを叱責する。

 

「なんたる様だネロ!貴様ともあろう者が点を許すとは情けない!」

 

「その辺にしときなよウルビダ。今のは稲魂雷牙の実力を見誤った俺達にも非がある。次は油断しないようにすればいいさ。」

 

グランはキャプテンとして冷静に彼の実力を分析し、次こそは彼に付け入る隙を与えないように警戒する。すると彼の“父”であるエイリア皇帝からの指示が入った。

 

『お前達命令です。稲魂雷牙を再び病院送りにしなさい。彼は間違いなく我々の脅威になる人材です。手段は問いません、徹底的に奴を痛めつけるのです。』

 

「はっ!“お父様”の意思のままに!」

 

「…分かりました父さん。」

 

“父さん”からの命令を受けたジェネシスはキックオフ早々ゴール前まで突破する。彼らに唯一付いてこれる雷牙はDFとしてディフェンスに参加するが、ジェネシスのスピードは先ほどまでの比ではない。

 

「まだこれ程までの力を隠していたのか…!」

 

遊びを捨てたジェネシスは雷牙を潰す為に次々と彼に対してラフプレーを仕掛け始めた。

 

「おい!今のはファウルだろ!!」

 

「いや…!ギリギリセーフだ…。まさか計算して…やっているのか⁉︎」

 

どうやらギリギリ反則にならない範囲のプレーを行っているジェネシスのようだが、そもそも審判役の古株は彼らのスピードに追いつけていない。そんな状態ではまともな審判を下す事も出来る筈がなく、このままでは雷牙が潰れるのは時間の問題である。

 

「待ってろ稲魂…!今度こそ俺がお前を助けに行くぞ…!」

 

風丸は雷牙の助けに入る為に歩き出そうとする。だがどんなに足を前にだそうとしても身体がそれを拒んでしまう…。

 

「どうしてだ…⁉︎動け…!動いてくれよ俺の足…!」

 

『ココロは誤魔化せても身体は正直なようだなぁ…!』

 

「また“お前”か…!」

 

『本当はもう気づいてるんだろ?“お前”じゃあ稲魂の二の舞になるだけだって?』

 

「違う…!俺は助けたいだけなんだ…、これ以上何も出来ないのはもう嫌なんだ…!」

 

風丸は恐怖で震える脚を必死に動かし雷牙を助けに行こうとする。

しかし雷牙はあえて風丸に止まれのジェスチャーを送った。

 

「いい加減倒れろ…!貴様はもう粛清対象なのだ!これ以上意地を張っても無駄に苦しむだけだ!!」

 

いつまでも倒れる気配のない雷牙に苛立ったウルビダは今度こそ奴を潰す為に全力でシュートを放つ。だがそれでも彼は倒れるどころか腹でボールを受け止めてしまった。

 

「何だと…⁉︎またしても私のシュートが止められるだと…⁉︎有り得ない…!私は最強の“ジェネシス”の称号を授かった戦士なんだぞ…!」

 

「ふ〜ん…単純に俺の方が強いだけなんじゃねーの?自慢じゃねーが、オメーらをぶっ倒す為に軽く10回以上は三途の川の向こうにいる親父とお袋と再会してたし。」

 

「ふざけるな!たかが人間如きに私達が舐められてたまるか!」

 

雷牙の挑発にあっさり引っかかったウルビダはボールを奪い返そうと襲いかかる。しかし雷牙は不敵な笑みを浮かべるとバックパスをし円堂にボールを渡した。

 

「よっしゃ!こっからカウンターd‥「ちょい待てよ守。」何だよ雷牙?その為に俺にボールを渡したんじゃないのか?」

 

「なぁーに、こんなに素敵なプレゼントをくれたエイリア学園の皆さんにお返しがしたくてなぁ…。暫しボールを持っててくれよ。」

 

円堂にボールをキープさせ、試合を一時中断させた雷牙はおもむろに目を閉じると気を大量に放出させ始めた。

 

「ぬおぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

彼が雄叫びを挙げると先ほどまで降り注いでいた雨が突如止み、雲に覆われた空から晴れ間が見え始める。

 

「“獅風迅雷”…!10%…20%…30%…」

 

身体全体に凄まじい力を込めているのだろう。雷牙の顔は真っ赤に染まり、ところどころに青筋が立っている。

 

「60%…70%…80%…90%…100%…!」

 

更に倍率を上げ遂に100%にまで到達しする。しかしまだ雷牙の変化は終わる気配がない。

 

「ぐぎぎぎぎ…!そしてこれが限界突破(オーバーハンドレッド)だぁぁぁぁあ!!!」

 

すると今まで軽く溢れるだけだった金色のオーラが突如激しく放出され、雷牙の身体を包み込む。あまりの眩しさに雷門だけでなくジェネシスすらも目が眩んでしまう。

 

「くっ!小癪な真似を…!我々が目をくらませた隙に攻めるとは卑怯な奴だ… な、何だと⁉︎」

 

視界が回復したウルビダの目の前にいるのは、まるでバーナーの炎のように立ち昇る金色の気を煌めかせながら不敵な笑みを浮かべている雷牙の姿であった。

 

「待たせて悪かったなぁ…、まだこれを実戦で使うのは初めてなんだ…。だが、この姿の俺はちぃーとばかし強ェぜ?」

 

「もうあいつの方が宇宙人なんちゃう…?」

 

あまりに常人離れした進化を遂げた雷牙に思わず突っ込んでしまう新参のリカ。それを聞いた雷門イレブンは口にこそ出さなかったがこう思った

 

『それはそう』と…。

 

「最初に言っておくぜ?俺は守と違って甘くは無ェ、立向居達が受けた苦しみを200%で返させてもらうぜ…?」

 

「消えた⁉︎」

 

さっきまで自分達が囲んでいた筈の雷牙の姿が消えてしまう。その瞬間、彼が立っていた地点から凄まじい突風が発生した。

 

『ぐぁぁぁぁぁあ⁉︎』

 

“獅風迅雷”によって強化された雷牙の身体能力は人間の限界を遥かに超えていた。そしてそのスピードは化身によって強化されたアフロディのように移動するだけで跡地から旋風が発生する程にまで高まっていた。

 

「オラオラ!雷牙様のお通りじゃ〜い!俺っちにかかってくる度胸がある奴だけ前に出やがれ!!!」

 

先ほどまで雷牙を痛めつけていたジェネシスのメンバーはそのお返しと言わんばかりに吹き飛ばす。最強格のウルビダ以外のメンバーはただ蹂躙させるだけだったが、何故かグランとアケボシは彼の様子を見ているだけだった。

 

「アケボシ、君は彼についてどう思う?俺からすればこの程度(・・・・)の実力なら負ける気はしないけど?」

 

「…君に任せるさ。」

 

ジェネシスのディフェンスを突破し終わった雷牙は標的をアケボシに切り替える。わざわざ彼に喧嘩を売りに行くあたり、余程彼に恨みでもあるようだ。

 

「久しぶりだなぁ鉄仮面野郎、この前はなす術もなく首の骨を折られちまったが今度はそうはいかねぇぜ?」

 

「……。」

 

本人からすれば身に覚えのない事なのだが、アケボシはいつも通り無言を貫き通し雷牙を素通りさせる。

 

「んだよ…、つまんねーの。だったら見ときな!俺様の修行の成果をなぁ!」

 

アケボシからネロに標的を変えた雷牙は金色のオーラを更に激しく放出しながら忠告を行う。

 

「おい“宇宙城ドラキュラ”!警告しといてやんよ…俺のシュートは死ぬほど痺れるぜ!逃げるんだったら今のうちになぁ!!!来やがれ“雷鳴の覇王 レグルス・マキシマム”!!!」

 

彼の背中から降臨したのは稲魂雷牙の化身“レグルス”だ。しかし、雷牙を媒介として現れた“レグルス”から溢れ出るオーラは荒々しさを残しながらも以前よりも遥かに洗練されており、より力強さを増している。

 

「天まで轟けぇぇぇえ!!!“マキシマム・オブ・レグルス”!!!」

 

“レグルス”は自身の持つ巨大な斧を振り翳し強大なエネルギーを放出する。その威力はグランの“流星ブレード”すらも遥かに超えている。

 

「くっ!“時空の壁”!!!」

 

ネロは最強必殺技である“時間の壁”を発動する。時間の流れが異なる特殊な空間を作り出す事で、ボールに込められたエネルギーを消滅させる技であるが、どうやら“覇王”の前では時空など関係ないようだ。

 

「と、止められない…!ぐわぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

『ゴーール!!!唐突に叫び出した思えば先ほどとは比較にならないパフォーマンスを我々に見せつけた稲魂!もはや復活した“怪物”を止められるものはいないのかぁぁぁぁぁあ!?』

 

あっさりと2点目を奪い更に勢い乗る雷門だが、今まで雷牙の様子を見ていたグランは不満げな表情で彼に近づく。

 

「…理解出来ないね。君は本当にここから逆転出来るとは思っていないだろ?その形態も長くは維持出来ない筈だ。それなのにどうして勝負を諦めない?」

 

グランの質問に雷牙は驚いたのか目を大きく見開いたが、すぐに呆れた表情へと変化し彼の質問に答える。

 

「はッ!負ける前から勝つ事以外を考えるバカがいるか?もしオメーがそのバカなら一生雷門イレブン(俺たち)の事を理解できねーだろうなぁ。」

 

「…そっか、ようやく分かったよ。君はまさに雷門イレブンのサッカーという概念なんだね。1%…いや0.1%でも勝利の可能性があればひたすらにそこへ向かって走って行く…。だからこそ雷門イレブン(君達)は今まで立ち上がってきたんだね。」

 

「んだよ分かってんじゃねーか。だったらこれ以上口を挟まねぇこったな。」

 

「言われなくてももう口は挟むつもりはないよ。口はね…。」

 

何やら含みのある台詞を吐いてグランはキックオフの準備の為に自陣に戻る。何やら碌でも無い事を考えている予感がした雷牙は気を引き締めるが、自分の考えが甘かった事にすぐに気付かされる事になる。

 

「アケボシ行くよ。」

 

「……。」

 

キックオフ早々、グランはアケボシと共に雷牙へ突撃する。自身の予想が的中した事を察した雷牙は気を大きく上げて対抗する…が強化された彼の動体視力を持ってしても2人の姿を捉える事が出来なかった。

 

「んだと⁉︎ぐが…!!」

 

「嘘だろ…⁉︎パワーアップした雷牙でも歯が立たないのかよ…!」

 

「…悪く思わないでくれ稲魂君。流石に君を見逃す事は出来ないんだ。」

 

グランは陽花戸イレブンと試合した時とは異なり冷徹な目で彼を見ていた。

グランは既に雷牙の事を“自分達を食い殺しかねない害獣”と判断し徹底的に潰す事を決めたようだ。

本気を出したグランはアケボシの呼吸の合った連携で雷牙を痛めつける。

あれだけ煌めいていた金色のオーラも徐々に消えていく。自分のすぐ側でまた恩人が傷つけられている光景を見た風丸はあの時のトラウマが蘇る。

 

「駄目だ…!今度こそ俺が…稲魂を助けるんだ…!」

 

今度こそあの時の過ちを繰り返さない為に風丸は震える脚を何とか動かしてながら雷牙に近づく。その時、再び“もう1人の自分”が姿を現した。

 

『今の“お前”の姿を理解しているか?そんな産まれたての子鹿のような脚で稲魂を助けられるとでも思っているのか?だとしたら“お前”はかなりの馬鹿だなぁ!』

 

「黙ってろ…!これ以上その口を動かし続けるなら力づくで塞いでやるぞ…!」

 

『ハハハ!その姿じゃ説得力が無いなぁ!だったら俺に証明してみせろよ!

 

“もう1人の風丸”は指を鳴らすと目の前の背景が陽花戸中から雷門中へと変化する。

 

「ここは…雷門中か…。」

 

『厳密には“俺達”の精神世界だがな。ここは“俺”が産まれた場所であり、死んだ場所(・・・・・)でもある。“俺達”との勝負の場にはピッタリだろう?』

 

「ああ…、それで?勝負は何をする?」

 

「何をするだと?決まっているだろう!“俺”との勝負はサッカーのみ!それ以外は全て無価値だ!!!」

 

“もう1人の風丸”…“闇丸”はどこからかサッカーボールを出現させると風丸に向かって走り出す。風丸は“自分”を止める為に3人に分身する。

 

「“分身ディフェンス”!!!」

 

『弱いなぁ!“分身フェイントV4”!!!』

 

「くそ!」

 

『ハハハ!!!哀れな“俺”にプレゼントだ!“ジャッジスルー3”!!!」

 

風丸以上の連携力で“分身ディフェンス”すらも突破する“闇丸”。それだけに留まらず分身の1人が“イリュージョンボール”を使いボールを3つに分裂させると本体が漆黒のオーラをボールに纏わせながら風丸にぶつける。

 

「ぐあぁぁぁぁあ!!!」

 

『おいおい、まさかこの程度も避けられないとはなぁ!その程度の実力しかないから稲魂が…仲間が傷つくんだよ!!!』

 

「まだだ…!まだやれるぞ…!!!」

 

『ほぅ?だったら何度でも壊してやるまでだ!!!』

 

そこからは見るのも憚れる程の凄惨な光景だった。闇丸の容赦のないプレーにより何度も地面に倒れ伏す風丸。ここはあくまで彼の精神世界である為出血を伴う怪我はしていないが、現実ならば大怪我は確定のプレーの数々に風丸はなす術もなかった。

 

『“分身フェイントV4”!!! …もうそろそろ諦めたらどうだ?“お前”は俺には絶対に勝てない、それほどまでに俺と“お前”には実力差があるんだよ。』

 

「まだやれるぞ…!』

 

『…“お前”を見ていると昔の“俺”を思い出すよ…。昔の“俺”もそうだった…周りに雷門の仲間達がいて…、ボールを蹴るのが楽しくて…、強くなるのが嬉しくて…“俺”はサッカーが大好きだった…。だけどな、ある日気づいたんだ…凡人には強さに限界があるって事をな。お前だってそうだろ?エイリア学園を倒す為にキャラバンに乗り込んだが終わりの見えない戦いに心をすり減らしている!パワーアップした稲魂でさえも歯が立たない奴らの底知れなさに恐怖を抱いている!いい加減に認めろ!!“お前は俺”で“俺はお前”だ!この勝負は初めから勝ち負けなんてないんだよ!!!』

 

『自分が弱い』…。そんな事はとっくの昔に気づいている。だが自分は諦めるわけにはいかなかった…。全ては

 

 

 

『今のおミャーには“自分”が無いニャ。誰かの為にやるサッカーには強さに限界があるニャ。俺っちはおミャーに“自分”を取り戻した欲しいんだニャ。』

 

昨日“自縛猫鈴”…いや鈴に扮した雷牙に言われた言葉が頭をよぎる。彼が取り戻せと言ったその“自分”こそが他ならぬ目の前に立っている“もう1人の自分”なのだから。

 

「“お前”は言ったな…、“俺はお前”で“お前は俺”だと…!」

 

『あぁ言ったさ…。それがどうした?』

 

「そうか…ようやく確信したよ…。“お前”は俺の弱さだ…!だからこそ俺の恐怖はお前の勇気であり、“お前”の恐怖は俺にとっての勇気である…。“お前”は怖いんだろ?俺が“お前”とは違う道を進む事が…、だからこそ手段を選ばずに俺の心を折ろうとした…違うか?」

 

『違う!!!“お前”は俺に身を委ねていればいいんだよ!それが俺にとれる唯一の道だったんだ!!!』

 

風丸の指摘が図星だったのか、先ほどまであった余裕が一瞬にして崩れ去った”闇丸”。自分の考えが正しかった事を確信した風丸は再度立ち上がり力強く宣言する。

 

「俺は弱いよ…今だって前に進むのが怖くて足が震えてる…。でもな…“お前”が強さを追い求めた先にある姿なのならば…俺は“弱さ”を抱えたまま強くなってやる…!!!」

 

『ほざけぇぇぇぇぇぇえ!!!!』

 

怒り狂った“闇丸”は今度こそ風丸にとどめを刺す為に走り出す。もう満身創痍である筈の風丸は何故か笑みさえ浮かべている。

 

「俺は…”俺”を超えてみせる!!そしてその先にある本当の“強さ”を手に入れてみせるんだぁぁぁぁあ!!!“スピニングフェンス”!!!」

 

『何だと⁉︎ぐあぁぁぁぁぁあ!!!!』

 

遂に“闇丸”に埃をつけた風丸はゴールに向かって走り去って行く。すると今まで確かにあったこの世界は蜃気楼のように朧げになっていきその先に自分がいた陽花戸中が見えてくる。

崩壊していく世界に取り残された“闇丸”…いや“風丸だった者”はさっきまで浮かべていた悪意に満ちた表情ではなく、何か憑き物が落ちたように晴れ晴れとした顔つきで笑う。

 

『ハハハ…、それが“この世界の俺”の決断か…。本当に羨ましいよ…俺も“お前”と同じ選択をあの時出来たならな…。』

 

恐怖に打ち勝ち自身の“弱さ”を受け入れた自分を見た“風丸”は満足そうに笑みを浮かべ消えていく。光の粒子となっていった“風丸”は現実世界に戻って行く彼を祝福するかのように包み込んだ。

 

現実世界に戻ってきた風丸の脚の震えは既に止まっていた。それだけじゃない、自分の身体の中から今まで感じた事のない力が溢れてくる。何故だか分からないが、彼にはその力が“もう1人の自分”がくれた祝福である事を理解出来た。そして彼はその祝福に応えるように高らかに叫ぶ。

 

「“魔帝 ダークエンペラー”!!!」

 

風丸の背から顕現した“魔帝”は漆黒に染まった鎧に本体と同じ蒼い長髪だ。その姿はどことなく“あり得たかもしれない歴史”における彼とそっくりだった。

 

「風丸が“化身”に覚醒した…⁉︎」

 

「今度こそ俺が稲魂を守るんだぁぁぁぁぁあ!!!」

 

化身に覚醒した風丸はガムシャラにグランに突っ込んでいく。軽くあしらおうとするグランだったが予想外の風丸のパワーに次第に押されていく。

 

「少ししつこいよ君…!それ以上邪魔をするのなら容赦はしないよ…!」

 

「やってみろ!たとえお前が俺の足を折ろうとも何度だって立ち上がってやる!!どんなに傷付けられようとも絶対に諦めない…!それが俺が辿り着いた“強さ(答え)”だぁぁぁぁぁあ!!!」

 

遂に風丸はグランからボールを奪う事に成功する。しかし、既に彼の周りには大量のマークが付けられており、単独での突破は難しい判断する。一瞬周囲を確認した風丸は笑みを浮かべると僅かなディフェンスの隙間を突き、シュートと見間違う程のキラーパスを放った。

 

「フハハハ!!!なれない化身を使い判断が鈍ったか風丸一郎太!そこに貴様の味方は誰1人いないぞ!!」

 

彼が放ったのはパスミスだと決めつけ嘲笑するウルビダだが、風丸は確信していた…必ずあいつ(・・・)のスピードなら追いつく事が出来ると…。

 

そして風丸の想いは果たされる事となる。

 

「兄貴の仇だ…!!!」

 

兄を傷つけられ怒りに燃える熱也は限界を超えたスピードによりギリギリのところで風丸のパスを受け取る事に成功したのだ。

だが、キーパーのネロはボールを受け取ったのが雷牙ではないと知り、熱也を鼻で笑う。

 

「フン!1人ではデザームすらも突破出来ない駄犬が俺からゴールを奪えると思うな!!!」

 

熱也は分かっていた。自分では絶対にネロを破る事は出来ない事を。だからこそ、風丸がしたように自分も託す(・・)事にした…“性格の悪い悪戯好きな怪物”に兄の仇を任せる事を…。

 

その時グランの真後ろからこの世の者とは思えない凄まじいプレッシャーが放たれる…。

まるで巨大な“怪物”が自分を頭から食い殺さんと言わんばかりの殺気に襲われたグランは反射的に後ろを振り向く。

するとそこにはさっきまで倒れていた筈の“金色の怪物”は姿を消していた…。

 

「何だと⁉︎まさか…!」

 

「だから言っただろ?“俺は負ける前から勝つ事以外は考えない”ってよぉ。」

 

限界突破(オーバーハンドレッド)”を超えた瞬発力によって1秒もたたずに熱也の元に辿り着いた“怪物”は彼に代わって氷塊を撃ち込む。

強烈な冷気に荒々しい雷が加えられた事により、“エターナルブリザード”は更なる進化を遂げた。

 

「「“ザ・テンペスト”!!!」」

 

竜巻(ハリケーン)”すらも超え、“暴風(テンペスト)”と化したシュートの前にはネロでも反応する事が出来ずに必殺技を使う隙も与えられずにゴールを奪われてしまった。

 

ピッピー!

 

『ゴーール!と同時に前半戦終了ーー!!!圧倒的な力の差を見せつけられましたが、稲魂雷牙が復帰した事で後半はどうなるのかぁぁぁぁあ⁉︎』

 

前半終了ギリギリのところでハットトリックを達成した雷牙。彼の姿に勝機を見出した雷門イレブンは後半に向けて更に士気を高める。だがジェネシスはもう戦うつもりはなかった。

 

『撤退ですグランよ、稲魂雷牙には新たな利用価値が産まれました。今は体制を整えなさい。』

 

あっさりと雷牙の粛正を取り消しジェネシスに帰還命令を送る“エイリア皇帝”。ウルビダを筆頭に何人かのメンバーは後半も続けるつもりであったが、親愛なる“父”の命令では断れる筈がない。

 

「分かりました父さん…。ジェネシス!“エイリア皇帝陛下”からの命令だ!撤退するぞ!」

 

『ラジャー!』

「…了解だ。」

 

グランの指示により次々と消えるジェネシス。その中でアケボシだけは雷牙をジッと見つめていた。彼の視線に気づいた雷牙はいい機会と言わんばかりにアケボシに問い詰める。

 

「おい鉄仮面野郎…。オメーは一体何者なんだ?何故親父と俺しか使えねぇ筈の“キングレオーネ”を使える?とっと質問に答えてねぇなら力づくで聞き出すぜ?」

 

「……。」

 

一気に質問攻めをする雷牙だが、結局アケボシは質問に何一つ答える事はなく姿を消した。

 

「んな⁉︎あんだけ意味ありげに俺を見てたくせにシカトかよ⁉︎おいこら〜!!!逃げねぇで俺の質問に答えてやがれ〜!!!」

 

納得のいかない雷牙は烏すらも飛んでいない青空に向かって文句を言うが、稲妻のようにうるさい彼の声が木霊するだけだった。頭が冷えた雷牙は後ろを振り返ると既に雷門メンバー全員は彼の下に集まっていた。アケボシのように無言で自分を見つめる彼らを見て、雷牙は照れくさそうに顔を赤らめながら口を開く。

 

「あ〜…まぁ色々言いてェ事はあっけどよぉ、とりあえずこれだけ言わせてくれ……“ただいま”…!」

 

『おかえり!!!』

 

雷門イレブンは帰ってきた雷牙を祝福する為に胴上げを行う。その様子をベンチから見ていた瞳子も無意識のうちに笑みが溢れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

______________

 

「しっかし本当に驚いたな〜!まさか“自縛猫鈴”の正体が雷牙だったなんてな〜!」

 

「俺は練習試合の時点で気づいていたがな。演技は上手かったが、流石にお前のプレースタイルまでは偽る事が出来なかったようだな。」

 

その日の夜、夕食のカレーを食べている雷門イレブンは雷牙が正体を隠して“自縛猫鈴”に扮していた事で話が盛り上がっている。

 

「でも強くなりすぎじゃないっスか?俺たちもかなりハードな特訓をしてたけどまだイプシロンと引き分ける程度の実力しかないっスよ…。」

 

「ん〜…、まぁ俺はオマエらと別行動とっている間に誇張抜きで何度も三途の川に渡りかけた程ハードな特訓をしてたからな〜。その差じゃね?」

 

「もしかして首にかけている青い宝石みたいな首飾りもその時に手に入れた奴か?」

 

「そうそう!これはあっちで会った友達に貰ったんだよ、本人曰く“お守り”ってさ!」

 

「なぁ雷牙!ついでに聞かせてくれよ、お前が俺たちと別行動とっている間にどんな特訓をしてたかをさ!」

 

「なっはっは!ニャらば語ってしんぜよう!あれはそう…オメーらが白恋中でジェミニストームをぶっ倒した時の事…」

 

これから雷牙が話すのは歴史の歪みが生み出した本来交わる事のなかった交差の物語…。そして現世を彷徨い続ける亡霊との出会いと別れの物語でもある…。




ジグザグライトニング:山属性のドリブル技。元ネタはアレスにて吉良ヒロトが使っていた“ジグザグストライク”。pixi○百科事典曰くシュート技らしいが作者の記憶が正しければこの技で雷門を突破した後“ザ・エクスプロージョン”に繋いでいた気がするのでドリブル技に設定した。

カイザーレオーネ:雷牙が厳しい修行の果てに”オーバーサイクロン”、“イナビカリブレイカー”に続いて習得した山属性シュート技。モーションはアレスの“ザ・エクスプロージョン”と同じ。ちなみに“オーバーサイクロン”はスピード、“イナビカリブレイカー”は突破力、“カイザーレオーネ”は純粋な威力といった風にそれぞれのステータスに特化した技となっている。

ザ・テンペスト:土壇場で編み出した熱也との連携技。名前から察するように世界編で登場した“ザ・ハリケーン”の上位技。余談だが“ザ・ハリケーン”は真・帝国戦で使う予定だったのだが急遽展開を変更した為、没になった。(士郎をFWに上がらせたのはその名残。)

獅風迅雷:雷牙が修行により編み出した強化形態。脳にかかっている“リミッター”を無理矢理外す事により、人がピンチの時に発動する“火事場の馬鹿力”を強制的に発動させる“裏技”ともいうべき形態。当然体力の消費が激しいものの本人曰くまだ先の“領域”があるとの事だが…?

闇丸:真・帝国戦から現れた“あったかもしれない歴史”の風丸と瓜二つの幻。その正体は風丸の心の弱さがエイリア石と共鳴し生み出されたある意味“化身”と同格の存在。ジェネシス戦でアケボシが持っていたエイリア石と共鳴し再び出現し、あの手この手で風丸を自分と同じ道に進ませようとするが最終的に自身の“弱さ”を受け入れた本体に敗北。闇丸自身も風丸の強さを認め消滅していった。

魔帝 ダークエンペラー:風丸が自身の心の影を打ち破った事で覚醒した化身。容姿はどことなく“あったかもしれない歴史”の風丸を彷彿とさせるものとなっており、いつも悲しげな顔をしている。余談だがこの化身の名前を考える際に“風”に因んだ名前にしようとしていたが、風丸の心情を書いているうちにこれしかないと思い変更した。そのせいで“頭痛が痛い”みたいな名前になっているが海のように広い心で受け止めよう!

やるか分かんないけどエイリア編が終わったら番外編をやってみようと考えているので参考までにアンケートをとります。

  • オーガ襲来
  • 究極の絆グリフォン(チームゼロ戦のみ)
  • 正史版DE戦
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